説明

サーミスタ兼電熱ヒータ及び処理器並びにサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法

【課題】拡散現象は、加熱時間が長かったり、加熱が繰り返されたりすると、より生じやすい。拡散現象が進行すると、その電気抵抗率が高くなるから、電熱層の電気抵抗率と温度との関係が経時変化することになる。特に、高温になるとその経時変化が顕著に生じやすい。従って、ヒータをサーミスタとして用いる場合、使用するごとに、その温度測定精度が低下してしまい、使用するごとに温度・電気抵抗率の補償をしなければならい。温度・電気抵抗率の特性の経時変化を起こりにくくするとともに、温度測定精度の低下を抑えるようにする。
【解決手段】サーミスタ兼電熱ヒータ1は、絶縁性の基材2の上に直接形成され、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層3と、下地層3の上に直接形成され、金を含む電熱層4と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタ兼電熱ヒータ及び処理器並びにサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法に関し、特に金を電熱層に用いたサーミスタ兼電熱ヒータ及び処理器並びにサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロリアクタの研究・開発が盛んに行われている。マイクロリアクタが携帯電子機器に応用されはじめ、例えば、携帯電子機器の電源である燃料電池システムに用いられる。燃料電池システムにおいては、燃料電池が水素を用いて発電するため、その水素を生成するための改質器等にマイクロリアクタが用いられる。
【0003】
マイクロリアクタの内部には微小の流路が形成されており、その流路の壁面に触媒が担持されている。流路に反応物を供給すると、反応物が流路を流れて、触媒の作用により反応物が反応する。また、流路内において化学反応を進行させるために、マイクロリアクタには流路内の反応物を加熱する電熱ヒータが設けられたものがある(特許文献1参照)。
【0004】
電熱ヒータは様々なものが開発されている。例えば、特許文献2では、下地層としてのTaが基材上に、拡散防止層としてのWが下地層上に、発熱層としてのAuが拡散防止層上にそれぞれ直接形成されている。また、特許文献3では、発熱層としてのPtが下地層としてのTiの上に直接形成されている。また、Ptの電気抵抗率と温度との関係には線形性があることを利用して、このヒータをサーミスタとして利用することも行われている。
【特許文献1】特開平7−159215号公報
【特許文献2】特開2005−108557号公報
【特許文献3】特開平11−354302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、Ti、W、Ta又はCrの下地層を形成し、その下地層の上にPtの電熱層を形成し、所定温度で30分間アニール処理をして、アニール処理の前後でシート抵抗がどのように変化するかを調査した。同様に、基材上にTaの下地層を形成し、その下地層の上にWの拡散防止層を形成し、その拡散防止層の上にAuの電熱層を形成したものについても調査した。その結果を図17及び図18に示す。図17から明らかなように、アニール処理をすると、シート抵抗が低下する傾向にあり、100〜300℃の範囲ではアニール温度を上昇させるにつれて単調にシート抵抗が低下する。ところが、アニール温度が300℃を超えると、シート抵抗が上昇することが確認された。また、図18から明らかなように、アニール温度が600℃を超えると、シート抵抗が上昇することが確認された。これは、下地層のTi等と電熱層のPt、Au等との間で原子の相互拡散が生じたためであると解する。即ち、下地層のTi等がPtやAu等からなる電熱層に拡散すれば、拡散した原子が不純物となるので、電熱層の電気抵抗率が高くなってしまうと解する。
【0006】
このような拡散現象は、加熱時間が長かったり、加熱が繰り返されたりすると、より生じやすい。拡散現象が進行すると、その電気抵抗率が高くなるから、電熱層の電気抵抗率と温度との関係が経時変化することになる。特に、高温になるとその経時変化が顕著に生じやすい。従って、ヒータをサーミスタとして用いる場合、使用するごとに、その温度測定精度が低下してしまい、使用するごとに温度・電気抵抗率の補償をしなければならい。
そこで、本発明の課題は、電熱層の電気抵抗率と温度との関係が経時的に変化したり、繰り返し使用することによって変化することを抑制し、電熱層による温度の測定精度が低下することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、
表面が絶縁性を有する基材の前記表面上に直接形成され、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項2に係る発明によれば、
前記基材が石英ガラス製又はサファイア製であることを特徴とする請求項1に記載のサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項3に係る発明によれば、
前記基材は、絶縁体又は半導体であることを特徴とする請求項1に記載のサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項4に係る発明によれば、
基材の上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に直接形成され、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項5に係る発明によれば、
前記絶縁膜が酸化イットリウムの膜、酸化アルミニウムの膜、シリコン酸化物の膜又はタンタル及びシリコンの酸化物の膜であることを特徴とする請求項4に記載のサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項6に係る発明によれば、
石英ガラス製又はサファイア製である基材の上に直接形成され、金属モリブデンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項7に係る発明によれば、
石英ガラス製又はサファイア製である基材の上に直接形成され、金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項8に係る発明によれば、
表面に絶縁膜が形成された基材の該絶縁膜上に直接形成され、金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項9に係る発明によれば、
前記絶縁膜は酸化イットリウムの膜、酸化アルミニウムの膜、シリコン酸化物の膜又はタンタル及びシリコンの酸化物の膜であることを特徴とする請求項8に記載のサーミスタ兼電熱ヒータが提供される。
請求項10に係る発明によれば、
請求項1〜9のいずれか一項に記載のサーミスタ兼電熱ヒータと、
前記基材であり、その内部において処理物を反応させるか又は状態変化させる処理器本体と、を備えることを特徴とする処理器が提供される。
請求項11に係る発明によれば、
表面が絶縁性を有する基材を準備する工程と、
次いで、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層を前記基材の上に直接形成する工程と、
次いで、金を含む電熱層を前記下地層の上に直接形成する工程と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法が提供される。
請求項12に係る発明によれば、
基材を準備する工程と、
前記基材の表面に絶縁膜を成膜する工程と、
次いで、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層を前記絶縁膜の上に直接形成する工程と、
次いで、金を含む電熱層を前記下地層の上に直接形成する工程と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法が提供される。
請求項13に係る発明によれば、
前記電熱層を形成する工程の後に、前記電熱層及び前記下地層をアニール処理する工程を更に備えることを特徴とする請求項11又は12に記載のサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法が提供される。
請求項14に係る発明によれば、
前記アニール処理を前記サーミスタ兼電熱ヒータの使用温度以上の温度で行うことを特徴とする請求項13に記載のサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法が提供される。
請求項15に係る発明によれば、
その内部において処理物を反応させるか又は状態変化させる処理器本体が前記基材によって形成され、
前記アニールする工程の前に、前記基材に前記反応を行うための触媒を搭載する工程を備え、
前記アニール処理を前記触媒による反応温度以上の温度であって前記触媒のシンタリングが起こる温度未満で行うことを特徴とする請求項13又は14に記載のサーミス兼電熱ヒータの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属モリブデン又は金属タングステンの下地層が絶縁膜、絶縁性基材又は絶縁の処理器本体の上に直接形成され、金の電熱層が金属モリブデン又は金属タングステンの下地層の上に直接形成されているから、電熱層の電気抵抗率と温度との関係が経時的に変化したり、繰り返し使用することによって変化することを抑制し、電熱層を備えるサーミスタ兼電熱ヒータによる温度の測定精度が低下することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータの作製方法について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態に限定するものではない。
【0010】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明を適用した第1実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータ1を基材2とともに示した概略断面図である。
【0011】
図1に示すように、サーミスタ兼電熱ヒータ1は、基材2の上に直接形成された下地層3と、下地層3の上に直接形成された電熱層4と、を有する。
【0012】
基材2は、絶縁性を有する基材(絶縁体)である。そのため、基材2の表面2aが絶縁性を有する。基材2は、石英ガラス製又はサファイア製であることが好ましい。例えば、基材2は、石英ガラス基板、サファイア基板、石英ガラス製処理器本体又はサファイア製処理器本体である。処理器本体とは、その内部に流路が形成されたものであって、その流路を流れる処理物を反応させるか又は状態変化させるものである。例えば、処理器本体は、液体を気化する気化器の本体、燃料と水を反応させて水素等を生成する改質器の本体、水素、一酸化炭素及び酸素等を含むガス中の一酸化炭素を優先して酸化させる一酸化炭素除去器の本体、水素と酸素を電気化学反応させて発電する燃料電池の本体、水素及び酸素等を含むガス中の水素を酸化させる触媒燃焼器の本体その他の反応又は状態変化を起こさせる機器本体である。処理器本体が導電性、絶縁性それぞれを部分的に有している場合、下地層3はその絶縁性の部分の表面に直接形成されている。
【0013】
下地層3は、金属モリブデン(Mo)又は金属タングステン(W)からなる。下地層3は、スパッタリング法その他の気相成長法により形成されたものである。下地層3は、所定形状(例えば、葛折り状)にパターニングされたものである。
なお、下地層3は、金属モリブデン又は金属タングステンを主成分として、他の成分を含むものであってもよい。但し、下地層3の金属モリブデン又は金属タングステンの純度は高純度であることが好ましく、不純物が下地層3に含まれないことが更に好ましい。
【0014】
電熱層4は、金(Au)からなる。そのため、電熱層4の電気抵抗は下地層3の電気抵抗よりも低い。そのため、下地層3よりも電熱層4において電熱現象が発生しやすく、電熱層4に電圧が印加されると、電熱層4に電流が流れ、電熱層4が発熱する。電熱層4は、スパッタリング法その他の気相成長法により形成されたものである。電熱層4は、所定形状(例えば、葛折り状)にパターニングされたものである。
なお、電熱層4は、金を主成分として、他の成分を含むものであってもよい。但し、電熱層4の金純度は高純度であることが好ましく、不純物が電熱層4に含まれないことが好ましい。
【0015】
金は基材2に対して密着性が低い。そのため、基材2に対する密着性が金よりも高い金属モリブデン又は金属タングステンの下地層3が基材2の上に直接形成され、金の電熱層4が下地層3の上に直接形成されている。金の電熱層4と下地層3の密着性は、金と基材2の密着性よりも高い。また、電熱層4は金であるため電気により発熱し、電熱層4の温度はその電気抵抗率に依存し、所定の温度領域では電熱層4の温度の変位とその電気抵抗率の変位が比例の関係にある。
【0016】
ここで、図2は、金属の温度と電気抵抗率の関係を示したグラフである。一般に金属の電気抵抗率は、不純物、格子欠陥及び結晶粒界における電子の散乱に起因する成分のR0と、原子の熱振動等に起因する成分のRpとからなる。R0は温度変化に影響をうけない。一方、Rpは温度上昇に伴って上昇し、高温領域では電気抵抗率と温度の関係には線形性がある。この高温領域では、金属の電気抵抗率R(T)と温度Tの関係を次式で表すことができ、電気抵抗率R(T)の変位と温度Tの変位は比例の関係にある。
R(T)=R(0)+αT ・・・(1)
【0017】
αは、金属固有の比例係数であって、温度変化に伴う電気抵抗率の変化率である。そのため、金の電熱層4について予めαとR(0)を求めておくと、電熱層4の電気抵抗率R(T)から温度Tを求めることができる。この時、変化率αが大きく、R(0)が小さくなるほど温度変化に対する電気抵抗率の変化率が大きくなり、温度センサーとして用いたときの誤差が小さくなり、測定精度が向上する。
【0018】
サーミスタ兼電熱ヒータ1の製造方法について説明する。図3は、本実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータ11の製造方法を示したフローチャートである。
基材2を準備し、基材2の表面を化学研磨・物理研磨により研磨することで平坦化させる(ステップS11)。
次に、下地層3を基材2の表面に直接形成する(ステップS12)。具体的には、金属モリブデン又は金属タングステンからなるインゴットをターゲットとしてスパッタリング法を行うことで、下地層3を基材2の表面に直接形成する。下地層3を形成するに際して、所定の形状の開口を有するマスクを基材2の表面に施した上でスパッタリング法を行うと、所定形状の下地層3をパターニングすることができる。
なお、ターゲットは金属モリブデン又は金属タングステンを主成分として、他の成分を含むものであってもよいが、金属モリブデンまた金属タングステンの純度は高純度であることが好ましく、不純物がターゲットに含まれないことが更に好ましい。また、スパッタリング法によらず、その他の気相成長法によって下地層3を形成してもよい。
【0019】
次に、下地層3の上に電熱層4を直接形成する(ステップS13)。具体的には、金からなるインゴットをターゲットとしてスパッタリング法を行うことで、電熱層4を下地層3の上に直接形成する。電熱層4を形成するに際しては、所定の形状の開口を有するマスクを基材2の表面に施した上でスパッタリング法を行うと、所定形状の電熱層4をパターニングすることができる。また、下地層3が所定形状にパターニングされている場合には、電熱層4も下地層3と同じ形状にパターニングするとよい。
【0020】
次に、下地層3及び電熱層4のアニール処理を行う(ステップS14)。アニール温度は、下地層3と電熱層4との間での原子の相互拡散が生じない範囲で、高温であることが好ましく、また、サーミスタ兼電熱ヒータ1を使用する環境温度を超えることがより好ましい。金は、R(0)が小さく、変化率αの大きいため、電熱層4の材料として望ましい材料である。加えて、抵抗体薄膜を使用する温度よりも高温でアニールすることによって結晶子サイズを増大させ、R(0)を小さくすることができる。
【0021】
ここで、アニール処理を行わない場合、サーミスタ兼電熱ヒータ1を高温で長時間使用したり、繰り返し温度を昇降したりすることによって、電熱層4に含まれるPtやAuの結晶子サイズが大きくなり、それに伴って電熱層の抵抗が小さくなるため、温度センサーとして不安定となってしまうおそれがある。また、アニール処理を行わない場合、アニール処理を行った場合に比べてR(0)が大きくなるため、温度計としての測定精度が下がってしまうおそれがある。アニール処理を行うことによって、使用状況に応じて温度センサーとして不安定となったり、温度計としての測定精度が下がったりすることを、アニール処理を行わない場合と比べてより抑制することができる。
【0022】
本実施形態によれば、金属モリブデン又は金属タングステンの下地層3が絶縁性の基材2の上に直接形成され、金の電熱層4が下地層3の上に直接形成されているから、電熱層4の電気抵抗率と温度との関係が経時的に変化したり、繰り返し使用することによって変化したりすることを抑制することができる。それゆえ、電熱層4を備えるサーミスタ兼電熱ヒータ1による温度の測定精度が低下することを抑制することができる。
【0023】
<第2の実施の形態>
図4は、第2実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータ11を基材12とともに示した概略断面図である。
【0024】
図4に示すように、サーミスタ兼電熱ヒータ11は、基材12の表面に成膜された絶縁膜15と、絶縁膜15の上に直接形成された下地層13と、下地層13の上に直接形成された電熱層14と、を有する。
【0025】
基材12は、導電性基材であってもよいし、絶縁性基材(例えば、サファイア製又は石英ガラス製のもの)であってもよいし、半導体基材であってもよい。基材12は、基板であってもよいし、処理器本体であってもよい。
【0026】
絶縁膜15は、酸化イットリウム(Y23)の膜、酸化アルミニウム(Al23)の膜、シリコン酸化物(SiO2)の膜又はタンタル及びシリコンの酸化物(Ta−Si−O)の膜である。絶縁膜15は、これらの積層膜であってもよい。絶縁膜15がこのような材料からなるので、絶縁膜15の表面15aが絶縁性を有する。なお、絶縁膜15は下地層13に対して基材である。
【0027】
下地層13は第1実施形態における下地層3と同一であり、電熱層14は第1実施形態における電熱層14と同一である。
【0028】
サーミスタ兼電熱ヒータ11の製造方法について説明する。図5は、本実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータ11の製造方法を示したフローチャートである。
基材2を準備し、基材2の表面を化学研磨・物理研磨により研磨することで平坦化させる(ステップS21)。
基材12の表面に絶縁膜15を成膜する(ステップS22)。絶縁膜15の成膜には、蒸着法、CVD法、PVD法、スパッタリング法その他の気相成長法を利用する。
次に、金属モリブデン又は金属タングステンの下地層13を絶縁膜15の上に直接形成する(ステップS23)。下地層13の形成方法は、第1実施形態における下地層3の形成方法と同一である。
次に、金の電熱層14を下地層13の上に直接形成する(ステップS24)。電熱層14の形成方法は、第1実施形態における電熱層4の形成方法と同一である。
次に、下地層13及び電熱層14のアニール処理を行う(ステップS25)。アニール温度は、下地層3と電熱層4との間での原子の相互拡散が生じない範囲で、高温であることが好ましく、また、サーミスタ兼電熱ヒータ1を使用する環境温度を超えることがより好ましい。
【0029】
本実施形態によれば、金属モリブデン又は金属タングステンの下地層13が絶縁膜15の上に直接形成され、金の電熱層14が下地層13の上に直接形成されているから、電熱層14の電気抵抗率と温度との関係が経時的に変化したり、繰り返し使用することによって変化したりことを抑制することができる。それゆえ、電熱層14を備えるサーミスタ兼電熱ヒータ11による温度測定精度が低下することを抑制することができる。
【0030】
<第3の実施の形態>
図6は、第3実施形態における処理器20を示した概略断面図である。
処理器20は、内部に流路28が形成された処理器本体22と、処理器本体22の表面に直接形成された下地層23と、下地層23の上に直接形成された電熱層24と、流路28の壁面に担持された触媒29と、を備える。
【0031】
処理器本体22は基板26,27を接合してなる。基板26,27には、その接合面に関して面対称な溝が凹設され、基板26の溝と基板27の溝が重なり合って流路28となる。基板26,27は絶縁基板であり、具体的には石英ガラス基板又はサファイア基板である。そのため、処理器本体22が絶縁性となっており、処理器本体22の表面22aも絶縁性となっている。尚、溝は、必ずしも面対称である必要はなく、例えば、一方の基板だけに溝が形成されていてもよい。
【0032】
触媒29は、処理器20の用途に応じたものである。処理器20が水蒸気改質器である場合には、触媒29が水蒸気改質用触媒(例えばCu/ZnO系触媒、Pd/ZnO系触媒)である。処理器20が選択酸化反応器(一酸化炭素除去器)である場合には、触媒29が選択酸化用触媒(例えばPt触媒)である。処理器20が触媒燃焼器である場合には、触媒29が燃焼用触媒(例えばPt触媒)である。
【0033】
下地層23、電熱層24は第1実施形態における下地層3、電熱層4と同一である。従って、下地層23、電熱層24の積層体がサーミスタ兼電熱ヒータ21となる。
【0034】
この処理器20においては、電熱層24が電気により発熱すると、処理器本体22及び触媒29が加熱される。そして、処理物がポンプ等によって流路28を流れると、処理物が触媒29に接触する。処理物が触媒29及び熱の作用を受けて反応する。
【0035】
触媒29が水蒸気改質用触媒であり、処理物が気体状の燃料(例えば、メタノール)及び水の混合気である場合には、処理物から水素等が生成される。
また、触媒29が選択酸化用触媒であり、処理物が水素、一酸化炭素及び酸素等の混合気である場合には、一酸化炭素が優先して酸化されるので、処理物から一酸化炭素が除去される。
また、触媒29が燃焼用触媒であり、処理物が水素、酸素及び二酸化炭素等の混合気である場合には、処理物中の水素が酸化により燃焼する。
【0036】
触媒29が無くてもよい。触媒29が無い場合には、流路28を流れる処理物が電熱層24の熱を受けて状態変化する。例えば、処理器20が気化器である場合、液体状の処理物が流路28を流れて、処理物が気化される。
【0037】
処理器本体22の表面に下地層23、電熱層24を順に形成する方法は、第1実施形態の場合と同様である。下地層23、電熱層24の形成は、処理器本体22を組み立てた後でもよいし、処理器本体22を組み立てる前であってもよい。
【0038】
なお、下地層23、電熱層24が処理器本体22の表面のうち外面に形成されているが、処理器本体22の表面のうち内面に形成されてもよい。例えば、流路28の壁面に直接下地層23が形成され、その下地層23の上に電熱層24が直接形成されてもよい。この場合、触媒29は、下地層23、電熱層24を被覆するように形成されている。また、触媒29は、流路の壁面のうち、下地層23、電熱層24が形成されない領域のみに形成されてもよい。
【0039】
本実施形態の処理器本体22は、触媒29が搭載された基板26、27を重ねて接合することによって作成されたものであるが、各種部材を組み立てることによって、内部に流路を有する処理器本体を作成してもよい。
【0040】
ここで、触媒29を搭載した後にアニール処理をする場合、触媒29を用いて触媒反応を行う反応温度を大幅に超える高温で行うと、触媒29のシンタリング等が起こり触媒29の性能が劣化するおそれがある。このため、触媒搭載後にアニール処理する場合、反応温度以上の温度であって触媒29のシンタリングが起こらない程度の温度で、アニール処理をすることが望ましい。また、触媒29を搭載する位置と、サーミスタ兼電熱ヒータ21が形成される位置が近く、両者の温度差が無視できるほど小さいときは、触媒29による反応温度とサーミスタ兼電熱ヒータ21の使用温度は同じである。従って、この場合、触媒29を用いたときの反応温度以上の温度でアニール処理をすることにより、サーミスタ兼電熱ヒータ21を使用する温度以上の温度でアニール処理を行うことができる。また、サーミスタ兼電熱ヒータ21が、その使用状況に応じて温度センサーとして不安定となったり、温度計としての測定精度が下がってしまうことを抑制することができる。
【0041】
<第4の実施の形態>
図7は、第4実施形態における処理器30を示した概略断面図である。
処理器30は、内部に流路38が形成された処理器本体32と、処理器本体32の表面に形成された絶縁膜35と、絶縁膜35の上に直接形成された下地層33と、下地層33の上に直接形成された電熱層34と、流路38の壁面に担持された触媒39と、を備える。
【0042】
処理器本体32は、原則的に、第3実施形態における処理器本体22と同一である。但し、第3実施形態では処理器本体22が絶縁性であったが、処理器本体32は導電性であってもよいし、半導体であってもよい。つまり、基板36,37は、石英ガラス基板、サファイア基板に限るものではない。
【0043】
触媒39は第3実施形態における触媒29と同一である。触媒39は無くてもよい。
【0044】
電熱層34、下地層33及び絶縁膜35は、第2実施形態における電熱層14、下地層13及び絶縁膜15とそれぞれ同一である。そのため、絶縁膜35、下地層33及び電熱層34の積層体がサーミスタ兼電熱ヒータ31となる。
【0045】
<第5の実施の形態>
図8は、第5実施形態における処理器40を示した概略断面図である。
この処理器40は燃料電池である。つまり、処理器40は、処理器本体42、処理器本体42の表面に直接形成された下地層43と、下地層43の上に直接形成された電熱層44と、を備える。
【0046】
処理器本体42は燃料電池本体であって、電解質膜51、アノード52、カソード53、流路部材54及び流路部材55を有する。アノード52は電解質膜51の一方の面に形成され、図示しない触媒が担持されている。カソード53は電解質膜51の他方の面に形成され、図示しない触媒が担持されている。電解質膜51、アノード52及びカソード53の積層体が流路部材54,55に挟まれている。流路部材54の一方の面(アノード52側の面)に流路56が凹設され、流路56がアノード52によって覆われている。流路部材55の一方の面(カソード53側の面)に流路57が凹設され、流路57がカソード53によって覆われている。
【0047】
流路部材54は絶縁性を有し、例えば石英ガラス製又はサファイア製である。流路部材54の表面も絶縁性を有する。また、流路部材54上における、後述するサーミスタ兼電熱ヒータ41が形成された主面以外の領域が、図示しない導電性の薄膜が形成されることにより、アノード52との導電性が確保される。下地層43は流路部材54の表面54aに直接形成され、電熱層44がその下地層43の上に直接形成されている。下地層43は第1実施形態における下地層3と同一であり、電熱層44は第1実施形態における電熱層4と同一である。そのため、下地層43及び電熱層44の積層体がサーミスタ兼電熱ヒータ41となる。なお、流路部材55が絶縁性であり、流路部材55の表面に下地層、電熱層が順に積層されていてもよい。
【0048】
この処理器40においては、流路56を流れる燃料(例えば、水素、メタノール)と流路57を流れる酸化剤(例えば、酸素)との電気化学反応により発電する。そのため、燃料や酸化剤が処理物である。
【0049】
<第6の実施の形態>
図9は、第6実施形態における処理器60を示した概略断面図である。
この処理器60は燃料電池である。つまり、処理器60は、処理器本体62、処理器本体62の表面に形成された絶縁膜65と、絶縁膜65の上に直接形成された下地層63と、下地層63の上に直接形成された電熱層64と、を備える。
【0050】
処理器本体62は、原則的に、第5実施形態における処理器本体42と同一である。但し、第5実施形態では処理器本体42の流路部材64,65が絶縁性であったが、処理器本体62の流路部材74,75は導電性であってもよいし、半導体であってもよい。流路部材74,75が導電性である場合、流路部材74,75が集電材として機能する。
【0051】
電解質膜71、アノード72、カソード73は第5実施形態における電解質膜51、アノード52、カソード53とそれぞれ同一である。アノード72、カソード73には、それぞれ図示しない触媒が担持されている。
【0052】
電熱層64、下地層63及び絶縁膜65は、第2実施形態における電熱層14、下地層13及び絶縁膜15とそれぞれ同一である。そのため、絶縁膜65、下地層63及び電熱層64の積層体がサーミスタ兼電熱ヒータ61となる。
【0053】
<第1の応用例>
サーミスタ兼電熱ヒータの用途について説明する。
図10は、サーミスタ兼電熱ヒータ1が用いられる燃料電池システム100を示した概略ブロック図である。
この燃料電池システム100は電子機器に備え付けられ、燃料電池システム100により電気エネルギーが電子機器本体に供給され、電子機器本体が動作する。
【0054】
この燃料電池システム100は、燃料カートリッジ101、ポンプ102、気化器本体103、改質器本体104、選択酸化反応器本体105、燃料電池106、触媒燃焼器本体107及びエアポンプ108等を有する。
【0055】
気化器本体103、改質器本体104、選択酸化反応器本体105及び触媒燃焼器本体107の表面には、サーミスタ兼電熱ヒータ1が設けられている。即ち、気化器本体103、改質器本体104、選択酸化反応器本体105及び触媒燃焼器本体107の表面が絶縁性であるので、これらの表面にサーミスタ兼電熱ヒータ1の下地層3が直接形成されている。なお、気化器本体103、改質器本体104、選択酸化反応器本体105及び触媒燃焼器本体107が導電性を有し、その表面に、第2実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータ11の絶縁膜15が形成された上で、その絶縁膜15の上に下地層13、電熱層14が順に積層されていてもよい。
【0056】
気化器本体103、改質器本体104、選択酸化反応器本体105及び触媒燃焼器本体107がサーミスタ兼電熱ヒータ1によってそれぞれ加熱され、気化器本体103、改質器本体104、選択酸化反応器本体105及び触媒燃焼器本体107の温度がサーミスタ兼電熱ヒータ1によってそれぞれ検知される。
【0057】
燃料カートリッジ101には、燃料(例えば、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル)と水が液体の状態で貯留されている。
ポンプ102は、燃料カートリッジ101内の燃料と水の混合液を吸引し、気化器本体103へ送液する。
【0058】
気化器本体103内においては、燃料と水が気化される。その燃料と水の混合気が改質器本体104へ送出される。
改質器本体104内においては、燃料と水が水蒸気改質用触媒により改質反応を起こし、水素ガスが生成されるとともに僅かながら一酸化炭素ガスも生成される(燃料がメタノールの場合には、下記化学式(2)、(3)を参照。)。改質器本体104で生成された水素ガス等は選択酸化反応器本体105に送られ、更に外部の空気がエアポンプ108によって選択酸化反応器本体105に送られる。選択酸化反応器本体105においては、一酸化炭素ガスが選択酸化用触媒により優先的に酸化し、一酸化炭素ガスが除去される(下記化学式(4)を参照)。
CH3OH+H2O→3H2+CO2 ・・・(2)
2+CO2→H2O+CO ・・・(3)
2CO+O2→2CO2 ・・・(4)
【0059】
選択酸化反応器本体105を経た水素ガス等は燃料電池106の燃料極(アノード)に送られ、エアポンプ108によって空気が燃料電池106の酸素極(カソード)に送られる。燃料電池106の電解質膜が固体高分子型電解質膜である。そのため、燃料極では(5)のような反応が起き、酸素極では(6)のような反応が起き、このような電気化学反応により発電する。
2→2H++2e- …(5)
2H++1/2O2+2e-→H2O …(6)
【0060】
ここで、燃料電池106の燃料極に供給された水素ガスの全てが反応するわけではなく、未反応の水素ガスは他の生成物とともに触媒燃焼器本体107に供給される。一方、空気がエアポンプ108によって触媒燃焼器本体107に供給され、触媒燃焼器本体107内において水素ガスが触媒により酸化され、燃焼熱が発生する。触媒燃焼器本体107で発生した熱によって改質器本体104が加熱される。
【0061】
<第2の応用例>
図11は、サーミスタ兼電熱ヒータ1が用いられる燃料電池システム200を示した概略ブロック図である。
【0062】
この燃料電池システム200は、燃料カートリッジ201、ポンプ202、気化器本体203、改質器本体204、燃料電池本体206、触媒燃焼器本体207及びエアポンプ208等を有する。
【0063】
図10の燃料電池システム100においては、燃料電池106が固体高分子型燃料電池であったのに対し、図11の燃料電池システム200の燃料電池システム200においては燃料電池本体206の電解質膜が固体酸化物電解質膜である。燃料電池本体206の表面には、第1実施形態のサーミスタ兼電熱ヒータ1が設けられている。なお、第2実施形態のサーミスタ兼電熱ヒータ11が燃料電池本体206の表面に設けられていてもよい。
【0064】
また、この燃料電池システム200には、選択酸化反応器が無く、改質器本体204で生成された水素等は燃料電池本体206の燃料極に送られる。燃料電池本体206の酸素極には、エアポンプ208によって空気が送られ、次のような反応が酸素極において起こる。
2+4e-→2O2- …(7)
一方、燃料極では、電解質膜を透過した酸素イオンと酸素により次のような反応が起こる。
2+O2-→H2O+2e- …(8)
【0065】
以上により、燃料電池本体206において発電が起こる。このような電気化学反応は非常に高温(例えば、600〜800℃)で生じやすいので、燃料電池本体206はサーミスタ兼電熱ヒータ1の電熱や触媒燃焼器本体207における燃焼熱により加熱される。
【0066】
以上のことを除いて、燃料電池システム200は、燃料電池システム100と同様に設けられている。尚、燃料電池システム200では、触媒燃焼器本体207にはエアポンプ208によって空気が供給されなくてもよい。
【実施例1】
【0067】
図1に示されたサーミスタ兼電熱ヒータ1について、金属モリブデンからなる下地層3の厚さを50nmとし、金からなる電熱層4の厚さを200nmとした。基材2は、石英ガラス基板である。下地層3、電熱層4はスパッタリング法により形成した。そのスパッタリングの条件は、チャンバーにはアルゴン(Ar)ガスを流量40sccmで導入し、スパッタ圧力を0.67Paとした。
【0068】
それをアニール処理する前に室温で電熱層4のシート抵抗を測定し、所定温度で30分間アニール処理をし、アニール処理後に室温で電熱層4のシート抵抗を測定した。その結果を図12に示す。図12は、アニール温度と、アニール前に対するアニール後のシート抵抗の変化率との関係を表したグラフである。
【0069】
図12から明らかなように、シート抵抗の変化率はアニール温度の上昇に伴って減少した。これは、アニール処理により電熱層4中の金の結晶子サイズが大きくなるので、電熱層4の電気抵抗率の成分R(0)が小さくなっているためである。
このように、アニール処理によってシート抵抗が低下し、成分R(0)が小さくなるから、サーミスタ兼電熱ヒータ1の温度センサとしての測定精度が向上する。つまり、サーミスタ兼電熱ヒータ1を用いて温度を測定する場合、温度/電気抵抗率の比を用いるが、R(0)が小さいため、分子の温度について測定精度が向上する。
【0070】
また、図12から明らかなように、アニール温度が100〜800℃の範囲では、シート抵抗の変化率が上昇する現象が現れず、シート抵抗の変化率はアニール温度の上昇に伴って単調に減少した。これは、アニール処理を行っても金の電熱層4への下地層3のモリブデンが拡散していないことを表している。仮にアニール処理によりモリブデンが電熱層4に拡散すると、電熱層4中のモリブデン原子が不純物となるので、成分R(0)が大きくなり電熱層4のシート抵抗が上昇してしまうためである。
このように、100〜800℃の範囲で拡散現象が生じないので、アニール温度以下でサーミスタ兼電熱ヒータ1を繰り返し使ったり長期間使ったりしても、電気抵抗率と温度との関係が変化することを抑制することができる。特に、アニール温度以下での繰り返しの温度上昇に対して極めて安定である。
【実施例2】
【0071】
石英ガラス基板の基材2、金属モリブデンからなる厚さ50nmの下地層3、金からなる厚さ200nmの電熱層4について、800℃で30分間アニール処理した後、電熱層4の温度と電気抵抗率の関係を測定実験により調べた。その結果を図13に示す。
図13から明らかなように、温度と電気抵抗率との関係には線形性があり、式(1)に従っていることがわかる。図13から、R(0)=2.45 × 10-8 Ωm、α=8.96 × 10-11 Ωm/Kであった。図13には、Auのバルク材について温度と電気抵抗率の関係も示す。Auのバルク材の場合、R(0)=2.05 × 10-8 Ωmであり、サーミスタ兼電熱ヒータ1とAuのバルク材とはR(0)の値が近い。従って、サーミスタ兼電熱ヒータ1は、サーミスタとして実用上十分な精度を有する電熱ヒータであることがわかる。
【実施例3】
【0072】
図1に示されたサーミスタ兼電熱ヒータ1について、金属タングステンからなる下地層3の厚さを50nmとし、金からなる電熱層4の厚さを200nmとした。基材2は、石英ガラス基板又はサファイア基板である。下地層3、電熱層4はスパッタリング法により形成した。
【0073】
それをアニール処理する前に室温で電熱層4のシート抵抗を測定し、所定温度で30分間アニール処理をし、アニール処理後に室温で電熱層4のシート抵抗を測定した。その結果を図14に示す。図14は、アニール温度と、アニール前に対する後のシート抵抗の変化率との関係を表したグラフである。
図14から明らかなように、アニール温度が100〜800℃の範囲では、シート抵抗の変化率が上昇する現象が現れず、シート抵抗の変化率はアニール温度の上昇に伴って単調に減少した。よって、下地層3が金属タングステンからなる場合でも、測定精度が高く、特性の変化も生じにくいことがわかる。
なお、800℃でアニール処理したものについて、電熱層4を走査型電子顕微鏡で観察したところ、電気抵抗に影響しない程度の1μm以下のピンホールが発生していることがわかった。
【実施例4】
【0074】
図4に示されたサーミスタ兼電熱ヒータ11について、金属タングステンからなる下地層13の厚さを50nmとし、金からなる電熱層14の厚さを200nmとした。絶縁膜15はY23又はAl23とし、その厚さは100nmとした。基材2は、石英ガラス基板又はサファイア基板である。下地層3、電熱層4はスパッタリング法により形成した。
それをアニール処理する前に室温で電熱層14のシート抵抗を測定し、所定温度で30分間アニール処理をし、アニール処理後に室温で電熱層14のシート抵抗を測定した。その結果を図15に示す。図15は、アニール温度と、アニール前に対するアニール後のシート抵抗の変化率との関係を表したグラフである。
図15から明らかなように、アニール温度が100〜800℃の範囲では、シート抵抗の変化率が上昇する現象が現れず、シート抵抗の変化率はアニール温度の上昇に伴って単調に減少した。よって、下地層13が金属タングステンからなり、絶縁膜15がY23又はAl23である場合でも、測定精度が高く、特性の変化も生じにくいことがわかる。
【実施例5】
【0075】
石英ガラス基板の基材2、金属タングステンからなる厚さ50nmの下地層3、金からなる厚さ200nmの電熱層4について、800℃で30分間アニール処理した後、電熱層4の温度と電気抵抗率の関係を測定実験により調べた。その結果を図16に示す。
図16から明らかなように、温度と電気抵抗率との関係には線形性があり、式(1)に従っていることがわかる。図16から、R(0)=2.44 × 10-8 Ωm、α=9.11 × 10-11 Ωm/Kであった。図16には、Auのバルク材について温度と電気抵抗率の関係も示す。Auのバルク材の場合、R(0)=2.05 × 10-8 Ωmであり、サーミスタ兼電熱ヒータ1とAuのバルク材とはR(0)の値が近い。従って、サーミスタ兼電熱ヒータ1は、サーミスタとして実用上十分な精度を有する電熱ヒータであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータを示した概略断面図である。
【図2】一般的な金属の温度と電気抵抗率の関係を示したグラフである。
【図3】第1実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法を示したフローチャートである。
【図4】第2実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータを示した概略断面図である。
【図5】第2実施形態におけるサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法を示したフローチャートである。
【図6】第3実施形態における処理器を示した概略断面図である。
【図7】第4実施形態における処理器を示した概略断面図である。
【図8】第5実施形態における処理器を示した概略断面図である。
【図9】第6実施形態における処理器を示した概略断面図である。
【図10】燃料電池システムを示した概略ブロック図である。
【図11】燃料電池システムを示した概略ブロック図である。
【図12】アニール温度とシート抵抗の変化率を示したグラフである。
【図13】温度と電気抵抗率の関係を示したグラフである。
【図14】アニール温度とシート抵抗の変化率を示したグラフである。
【図15】アニール温度とシート抵抗の変化率を示したグラフである。
【図16】温度と電気抵抗率の関係を示したグラフである。
【図17】アニール温度とシート抵抗の変化率を示したグラフである。
【図18】アニール温度とシート抵抗の変化率を示したグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1、11、21、31、41、61 サーミスタ兼電熱ヒータ
2、12 基材
3、13、23、33、43、63 下地層
4、14、24、34、44、64 電熱層
15、35、65 絶縁膜
20、30、40、60 処理器
22、32、42、62 処理器本体
103、203 気化器本体
104、204 改質器本体
105 選択酸化反応器本体
107、207 触媒燃焼器本体
206 燃料電池本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が絶縁性を有する基材の前記表面上に直接形成され、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項2】
前記基材が石英ガラス製又はサファイア製であることを特徴とする請求項1に記載のサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項3】
前記基材は、絶縁体又は半導体であることを特徴とする請求項1に記載のサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項4】
基材の上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に直接形成され、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項5】
前記絶縁膜が酸化イットリウムの膜、酸化アルミニウムの膜、シリコン酸化物の膜又はタンタル及びシリコンの酸化物の膜であることを特徴とする請求項4に記載のサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項6】
石英ガラス製又はサファイア製である基材の上に直接形成され、金属モリブデンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項7】
石英ガラス製又はサファイア製である基材の上に直接形成され、金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項8】
表面に絶縁膜が形成された基材の該絶縁膜上に直接形成され、金属タングステンを含む下地層と、
前記下地層の上に直接形成され、金を含む電熱層と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項9】
前記絶縁膜は酸化イットリウムの膜、酸化アルミニウムの膜、シリコン酸化物の膜又はタンタル及びシリコンの酸化物の膜であることを特徴とする請求項8に記載のサーミスタ兼電熱ヒータ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のサーミスタ兼電熱ヒータと、
前記基材であり、その内部において処理物を反応させるか又は状態変化させる処理器本体と、を備えることを特徴とする処理器。
【請求項11】
表面が絶縁性を有する基材を準備する工程と、
次いで、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層を前記基材の上に直接形成する工程と、
次いで、金を含む電熱層を前記下地層の上に直接形成する工程と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法。
【請求項12】
基材を準備する工程と、
前記基材の表面に絶縁膜を成膜する工程と、
次いで、金属モリブデン又は金属タングステンを含む下地層を前記絶縁膜の上に直接形成する工程と、
次いで、金を含む電熱層を前記下地層の上に直接形成する工程と、を備えることを特徴とするサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法。
【請求項13】
前記電熱層を形成する工程の後に、前記電熱層及び前記下地層をアニール処理する工程を更に備えることを特徴とする請求項11又は12に記載のサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法。
【請求項14】
前記アニール処理を前記サーミスタ兼電熱ヒータの使用温度以上の温度で行うことを特徴とする請求項13に記載のサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法。
【請求項15】
その内部において処理物を反応させるか又は状態変化させる処理器本体が前記基材によって形成され、
前記アニールする工程の前に、前記基材に前記反応を行うための触媒を搭載する工程を備え、
前記アニール処理を前記触媒による反応温度以上の温度であって前記触媒のシンタリングが起こる温度未満で行うことを特徴とする請求項13又は14に記載のサーミスタ兼電熱ヒータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−44936(P2010−44936A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207665(P2008−207665)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】