説明

システム同定装置

【課題】可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦同定ができるようにし、一定トルク外乱が存在する場合にも高精度のクーロン摩擦同定ができるシステム同定装置を提供する。
【解決手段】位置を入力し速度を出力する微分器101と、指令を入力し指令周期を出力する周期検出器103と、前記速度と前記指令周期を入力し複数の積分区間を出力する積分区間検出器102と、前記複数の積分区間と前記指令からフィードバック信号を減算した摩擦慣性トルクを入力し複数のトルク積分値を出力する定積分器104と、前記複数のトルク積分値を入力しクーロン摩擦同定値を出力する演算器105を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータなどを駆動するシステムの定数を同定する装置に関し、特にモータのクーロン摩擦を同定するシステム同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシステム同定装置は、常に同一符号の速度指令を、比例積分制御された制御対象に入力してPI制御系指令トルクから等価IP制御系指令トルクを減算した信号を積分した信号の定常値を比例積分制御の積分時間で除算することによりクーロン摩擦を同定していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図12は、従来技術を示すシステム同定装置のブロック図である。
図12において、701は第1混合器、702は比例増幅器、703は積分器、704は第2混合器、705は制御対象、706は制御対象クーロン摩擦、707は1次遅れフィルタ、708は1階積分である。
以下、図12を用いて従来技術のシステム同定装置の構成について説明する。
第1混合器701は、速度指令から実際の速度を減算した信号を出力する。比例増幅器702は、第1混合器701からの出力信号を入力し、その入力信号にゲインを乗算した信号を出力する。積分器703は、比例増幅器702からの出力信号を入力し、その入力信号を1階積分してゲインを乗算した信号に、さらにその入力信号を加算して求めたPI制御系指令トルクを出力する。第2混合器704は、前記PI制御系指令トルクに制御対象クーロン摩擦706の出力を加算した信号を出力する。制御対象705は、第2混合器704の出力を入力することにより前記速度を出力する。制御対象クーロン摩擦706は、前記速度を入力し、その入力信号の符号を反転した絶対値一定の信号を出力する。1次遅れフィルタ707は、前記PI制御系指令トルクを入力し等価IP制御系指令トルクを出力する。1階積分708は、前記PI制御系指令トルクから前記等価IP制御系指令トルクを減算した信号を入力し、その入力信号を1階積分した信号を出力する。
【0004】
上記構成において、従来のシステム同定装置は、常に同一符号である速度指令に対する1階積分708の出力の定常値を積分器703の積分時間で除算することによりクーロン摩擦を同定していた。
【0005】
このように、従来のシステム同定装置は、常に同一符号である速度指令に対するPI制御系指令トルクから等価IP制御系指令トルクを減算し1階積分した信号の定常値を積分器の積分時間で除算することによりクーロン摩擦を同定するものであった。
【特許文献1】特開平7−333084号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術のシステム同定装置は、常に同一符号の速度指令を用いなければならないので、可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦を同定することができないという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦を同定することを可能とするとともに、一定トルク外乱の影響をなくし、高精度のクーロン摩擦同定を可能とするシステム同定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
【0009】
請求項1記載の発明は、指令を発生し出力する指令発生器と、前記指令からフィードバック信号を減算して生成したトルク指令を入力してモータへの電流を算出して出力するトルク制御器と、前記モータの位置を入力して前記フィードバック信号を生成して出力するフィードバック制御器と、を備えたシステム同定装置において、前記位置、前記指令、および前記フィードバック信号に基づいてクーロン摩擦同定値を算出して出力するクーロン摩擦同定装置を備え、前記クーロン摩擦同定装置は、前記位置を微分して速度を算出して出力する微分器と、前記指令に基づいて指令周期を検出する周期検出器と、前記速度と前記指令周期に基づいて複数の積分区間を検出して出力する積分区間検出器と、前記指令から前記フィードバック信号を減算して求めた摩擦慣性トルクと前記複数の積分区間から複数のトルク積分値を算出して出力する定積分器と、前記複数のトルク積分値に基づいて前記クーロン摩擦同定値を算出して出力する演算器と、から構成されたものであることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、指令を発生し出力する指令発生器と、前記指令からモータの位置を減算した追従偏差に基づいてフィードバック信号を算出して出力する第1のフィードバック制御器と、前記フィードバック信号を入力して前記モータへの電流を算出して出力するトルク制御器と、を備えたシステム同定装置において、前記位置、前記指令、および前記フィードバック信号に基づいてクーロン摩擦同定値を算出して出力するクーロン摩擦同定装置を備え、前記クーロン摩擦同定装置は、前記位置を微分して速度を算出して出力する微分器と、前記指令に基づいて指令周期を検出して出力する周期検出器と、前記速度と前記指令周期に基づいて複数の積分区間を検出して出力する積分区間検出器と、前記指令に基づいて指令修正信号を出力する第2のフィードバック制御器と、前記指令修正信号から前記フィードバック信号を減算して算出した摩擦慣性トルクと前記複数の積分区間に基づいて複数のトルク積分値を算出して出力する定積分器と、前記複数のトルク積分値に基づいて前記クーロン摩擦同定値を算出して出力する演算器と、から構成されたものであることを特徴としている。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載のシステム同定装置において、前記指令発生器は、2つの正負対称な信号である第1指令、第2指令を出力するものであり、前記積分区間検出器は、前記第1指令、前記第2指令に基づいて、前記第1指令に対する前記モータの速度が定常状態においてその方向が正であり同じ速度値である2点間を第1積分区間として検出し、前記第2指令に対する前記モータの速度が定常状態においてその方向が正であり同じ速度値であり前記第1積分区間における位置の変化量に等しくなるような2点間を第2積分区間として検出し、前記第1指令に対する前記モ−タの速度が定常状態においてその方向が負であり同じ速度値である2点間を第3積分区間として検出し、前記第2指令に対する前記モータの速度が定常状態においてその方向が負であり同じ速度値であり前記第3積分区間における位置の変化量に等しくなるような2点間を第4積分区間として検出して前記定積分器に出力するものであり、前記定積分器は、前記第1積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第1トルク積分値を出力する第1定積分器と、前記第2積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第2トルク積分値を出力する第2定積分器と、 前記第3積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第3トルク積分値を出力する第3定積分器と、前記第4積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第4トルク積分値を出力する第4定積分器とを備えたものであることを特徴としている。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、請求項3に記載のシステム同定装置において、前記指令発生器は、前記第1指令および前記第2指令を、異なる振幅と周期を持つ正弦波で出力するものとし、前記積分区間検出器は、前記2つの異なる振幅と周期を持つ正弦波である第1指令および第2指令に基づいて、前記第1指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が正である半周期を前記第1積分区間として検出し、前記第2指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が正である半周期を前記第2積分区間として検出し、前記第1指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が負である半周期を前記第3積分区間として検出し、前記第2指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が負である半周期を前記第4積分区間として検出して前記定積分器に出力するものであることを特徴としている。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項3に記載のシステム同定装置において、前記指令発生器が発生して出力する前記2つの正負対称な信号である第1指令および第2指令を、異なる振幅と周期を持つ台形波としたことを特徴としている。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項1または2に記載のシステム同定装置において、前記フィードバック制御器を比例微分制御としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1および2記載の発明によると、可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦を同定することができる。
【0016】
また、請求項3、4および5記載の発明によると、可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦を同定することができ、一定トルク外乱が存在する場合にも高精度のクーロン摩擦同定をすることができる。
【0017】
また、請求項6記載の発明によると、短時間に定常状態としクーロン摩擦同定を開始でき、可動範囲の限定された負荷の付いた前記モータのクーロン摩擦を同定することができ、一定トルク外乱が存在する場合にも高精度のクーロン摩擦同定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0019】
図2は、本発明の第1実施例を示すシステム同定装置のブロック図である。
図2において、201は指令発生器、202はトルク制御器、203はモータ、204は位置検出器、205Aは比例微分制御のフィードバック制御器、206はクーロン摩擦同定装置である。
以下、図2を参照して本実施例のシステム同定装置の構成について説明する。
トルク制御器202は、指令発生器201が出力する指令からフィードバック信号を減算したトルク指令を入力し電流をモータ203に出力する。フィードバック制御器205Aは、位置検出器204により検出され出力されたモータ203の位置を入力し前記フィードバック信号を出力する。クーロン摩擦同定装置206は、前記指令、前記フィードバック信号および前記位置を入力しクーロン摩擦同定値を出力する。
また、図1は、本発明の第1実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の内部ブロック図である。
図1において、101は微分器、102は積分区間検出器、103は周期検出器、104は定積分器、105は演算器である。
本発明が、従来技術である特許文献1で開示されているシステム同定装置と異なる点は以下のとおりである。
すなわち、本発明のシステム同定装置は、モータ203の速度と指令周期を入力して複数の積分区間を出力する積分区間検出器102と、指令からフィードバック信号を減算して算出した摩擦慣性トルクと前記複数の積分区間を入力して複数のトルク積分値を算出して出力する定積分器104と、定積分器104から出力された前記複数のトルク積分値を入力しクーロン摩擦同定値を出力する演算器105を備えるようにしている点である。
【0020】
以下、図1に基づいて本実施例のシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置206の内部構成について説明する。
微分器101は、位置を入力し、その入力信号を1階微分して速度を出力する。周期検出器103は、指令を入力し指令周期を検出して出力する。積分区間検出器102は、微分器101で算出した前記速度と、周期検出器103で検出した前記指令周期を入力して複数の積分区間を検出して出力する。定積分器104は、積分区間検出器102で検出した前記複数の積分区間と、前記指令からフィードバック信号を減算して求めた摩擦慣性トルクに基づいて、複数のトルク積分値を算出して出力する。演算器105は、定積分器104で算出した前記複数のトルク積分値に基づいてクーロン摩擦同定値を算出して出力する。
【0021】
図3は、本発明の第1実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の詳細ブロック図である。なお、図3の構成要素が図1と同じものについてはその説明を省略し、異なる点のみ説明する。
図3において、104Aは第1定積分器、104Bは第2定積分器、104Cは第3定積分器、104Dは第4定積分器である。
以下、図3を用いて、第1実施例のシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の構成について説明する。
クーロン摩擦同定装置206は、図1に示す複数の積分区間を4つの積分区間とし、複数のトルク積分値を4つのトルク積分値としたものである。
微分器101は、位置を入力しその入力信号を1階微分した速度を出力する。周期検出器103は指令を入力し指令周期を出力する。積分区間検出器102は前記速度と前記指令周期を入力し第1積分区間、第2積分区間、第3積分区間、および第4積分区間を出力する。第1定積分器104Aは、前記第1積分区間と、前記指令からフィードバック信号を減算した摩擦慣性トルクを入力し、第1トルク積分値S1を出力する。第2定積分器104Bは、前記第2積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し、第2トルク積分値S2を出力する。第3定積分器104Cは、前記第3積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し、第3トルク積分値S3を出力する。第4定積分器104Dは、前記第4積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し、第4トルク積分値S4を出力する。演算器105は、第1トルク積分値S1、第2トルク積分値S2、第3トルク積分値S3、および第4トルク積分値S4を入力し、クーロン摩擦同定値を出力する。
【0022】
以下、図2、3を参照して、本実施例のシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定方法について説明する。
先ず、摩擦慣性トルクの導出について説明する。
モータ203のイナーシャをJ 、モータ203の粘性係数をD 、モータ203のクーロン摩擦をTc 、フィードバック制御器205Aの比例制御ゲインをKp 、フィードバック制御器205Aの微分制御ゲインをKd 、位置をθ、指令をu 、一定トルク外乱をw とすると、トルク制御器202、モータ203、位置検出器204、およびフィードバック制御器205Aを含む閉ループ系の運動方程式は式(1)のようになる。
【数1】

従って、摩擦慣性トルクTdjは式(1)より、式(2)のように表わすことができる。
【数2】

【0023】
図4は、本発明の第1実施例を示す定常状態の速度が正の積分区間の説明図であり、(a)、(b)はそれぞれ、指令発生器201が出力する指令を正弦波とし、その正弦波の振幅がu1 、周波数がω1 である第1指令と、その正弦波の振幅がu2 、周波数がω2である第2指令に対する定常状態における速度を示している。尚、図4において、クーロン摩擦は、フィードバック信号に対して十分に小さいと仮定している。
以下、図4を用いて、本実施例における第1積分区間および第2積分区間について説明する。
図4(a)において、時間tがt11以上でt12以下の部分は、積分区間検出器102により検出された前記第1積分区間である。前記第1積分区間は、前記第1指令に対する前記速度の方向が正である半周期を示している。また、図4(b)において、時間tがt21以上でt22以下の部分は、前記第2積分区間である。前記第2積分区間は、前記第2指令に対する前記速度の方向が正である半周期を示している。図4(a)において、A1は前記第1積分区間における前記第1指令に対する位置の変化量である。また、図4(b)において、A2は前記第2積分区間における前記第2指令に対する前記位置の変化量である。なお、トルク制御器202、モータ203、位置検出器204、およびフィードバック制御器205Aを含む閉ループ系は線形で近似できるため、図4(a)の前記第1指令に対する前記速度の周波数は近似的にω1であり、図4(b)の前記第2指令に対する前記速度の周波数は近似的にω2である。
【0024】
図5は、本発明の第1実施例を示す定常状態の速度が負の積分区間の説明図であり、(a)、(b)はそれぞれ、指令発生器201が出力する指令を正弦波とし、その正弦波の振幅がu1 、周波数がω1 である第1指令と、その正弦波の振幅がu2 、周波数がω2である第2指令に対する定常状態における速度を示している。
以下、図5を用いて本実施例における第3積分区間および第4積分区間について説明する。
式(2)において、一定トルク外乱wを消去するため、積分区間検出器102は、図5(a)および図5(b)に示されるように前記第1指令に対する前記速度が負である時間tがt11´以上でt12´以下の半周期を前記第3積分区間として検出し、前記第2指令に対する前記速度が負である時間tがt21´以上でt22´以下の半周期を前記第4積分区間として検出する。
【0025】
次に、粘性摩擦トルクを消去するために必要な指令の条件について、すなわち、指令発生器201が出力する正弦波指令の振幅u1 、周波数ω1である第1指令と、正弦波の振幅u2 、周波数ω2である第2指令の関係について説明する。
モータ203の粘性摩擦トルクを消去するために、図4(a)と図4(b)における位置の変化量A1 と位置の変化量A2 が等しくなるように前記第1指令の振幅u1と周波数ω1、および前記第2指令の振幅u2と周波数ω2を設定する。前記位置の変化量A1 と前記位置の変化量A2 が等しい場合、前記第1指令に対する前記速度の振幅a1と周波数ω1および前記第2指令に対する前記速度の振幅a2と周波数ω2の間に式(3)の関係が成り立つ。
【数3】

モータ203の機械的負担を軽減するために、前記第1指令の周波数ω1および前記第2指令の周波数ω2を固定し、トルク制御器202、モータ203、位置検出器204、およびフィードバック制御器205Aを含む閉ループ系の共振周波数がω1、ω2の両方から十分に離れているようにフィードバック制御器205Aの比例制御ゲインKpを設定すると、前記第1指令の振幅u1と前記第2指令の振幅u2 と前記第1指令に対する前記速度の振幅a1 と前記第2指令に対する前記速度の振幅a2に式(4)の関係が成り立つ。
【数4】

したがって、演算器105によるクーロン摩擦同定値の算出において、モータ203の粘性摩擦トルクを消去するためには、前記第1指令の振幅u1 と周波数ω1および前記第2指令の振幅u2と周波数ω2の関係を次式(5)のように設定すればよい。
【数5】

【0026】
次に、第1トルク積分値S1 および第2トルク積分値S2の算出方法について説明する。
第1トルク積分値S1 および第2トルク積分値S2は、前述の式(2)に示される摩擦慣性トルクを用いて第1定積分器104Aと第2定積分器104Bにより式(6)と式(7)のように算出される。
【数6】

【数7】

式(6)と式(7)をクーロン摩擦Tcについて解くと式(8)となる。
【数8】

【0027】
同様に、第3積分区間および第4積分区間のトルク積分値からクーロン摩擦Tcを導く方法について説明する。
第3定積分器104Cおよび第4定積分器104Dにより第3トルク積分値S1´と第4トルク積分値S2´は、式(6)と式(7)と同様に算出される。第3トルク積分値S1´と第4トルク積分値S2´の式をクーロン摩擦Tcについて解くと式(9)となる。
【数9】

式(8)と式(9)から、演算器105はクーロン摩擦同定値を式(10)により算出する。
【数10】

式(10)は一定トルク外乱wを含んでいない。したがって、演算器105により算出されたクーロン摩擦同定値は一定トルク外乱の影響を受けない。
【0028】
図6は、本発明の第1実施例を示すシステム同定装置によるクーロン摩擦同定のシミュレーション結果の説明図である。尚、本シミュレーションでは次の数値を用いた。
【数11】

ただし、Jはモータ203のイナーシャであり、Dはモータ203の粘性係数であり、Tc*はクーロン摩擦の真値であり、Kpはフィードバック制御器205Aの比例制御ゲインであり、Kdはフィードバック制御器205Aの微分制御ゲインであり、ω1は第1指令の周波数であり、u1は第1指令の振幅であり、ω2は第2指令の周波数であり、u2は第2指令の振幅である。
【0029】
図6に示すクーロン摩擦同定誤差eは、クーロン摩擦の真値Tc*とクーロン摩擦同定値Tcを用いて式(12)により算出したものである。
【数12】

図6に示すように、一定トルク外乱を0から0.006N・mの範囲で変化した場合、本発明によるクーロン摩擦同定誤差eは常に0.5%以下である。
【0030】
以上述べたように、本実施例に係るシステム同定装置は、モータの速度の符号が変化するような指令に対してクーロン摩擦を同定することができ、可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦同定にも応用でき、一定トルク外乱の影響のない高精度のクーロン摩擦同定ができることが示された。
【実施例2】
【0031】
図7は、本発明の第2実施例を示す定常状態の速度が正の積分区間の説明図である。また、図8は、本発明の第2実施例を示す定常状態の速度が負の積分区間の説明図である。本実施例と第1実施例の相違する点は、指令発生器201が出力する指令の形態であり、構成は第1実施例と同じであるので構成要素およびその動作の説明は省略する。
図7では、指令発生器201が出力する第1指令(a)および第2指令(b)として、異なる振幅と周期を持つ台形波を用いた場合の速度が正である積分区間を示している。図7に示す台形波を指令とした場合にも、第1実施例である正弦波指令の場合と同様に前記第1指令に対する位置の変化量A1と前記第2指令に対する位置の変化量A2が等しくなるように第1積分区間、第2積分区間を設定し、前記第1指令の振幅u1と周波数ω1および前記第2指令の振幅u2と周波数ω2は、正弦波指令の場合と同様に式(5)の関係に設定する。
さらに、図8に示すように、第1実施例である正弦波指令の場合と同様に第1指令(a)に対する位置の変化量−A1 と第2指令(b)に対する位置の変化量−A2 が等しくなるような第3積分区間、第4積分区間を検出する積分区間検出器102を設けることにより、台形波の場合であっても、正弦波指令と同様に式(10)を用いてクーロン摩擦同定値を得ることができる。
【実施例3】
【0032】
図9は、本発明の第3実施例を示すシステム同定装置のブロック図である。
また、図10は、本発明の第3実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の内部ブロック図である。なお、構成要素が第1実施例と同じものについてはその説明を省略する。
図9および10において、205B、205Cは205Aと全く同じ比例微分制御のフィードバック制御器である。フィードバック制御器205Bは指令発生器201とトルク制御器202の間に設けられ、フィードバック制御器205Cはクーロン摩擦同定装置206の内部に備えられている。
本実施例が第1実施例と異なる点は以下のとおりである。
すなわち、第1実施例において、トルク制御器202は指令からフィードバック信号を減算したトルク指令を入力し、フィードバック制御器205Aは位置を入力し、定積分器104は前記指令から前記フィードバック信号を減算した摩擦慣性トルクを入力する構成としているのに対し、本実施例では、トルク制御器202はフィードバック信号を入力し、フィードバック制御器205Bは指令から位置を減算した追従偏差を入力し、さらに前記指令を入力し指令修正信号を出力する第2のフィードバック制御器205Cを備え、定積分器104は前記指令修正信号から前記フィードバック信号を減算した摩擦慣性トルクを入力する構成としている点である。
【0033】
以下、図9、10を用いて本実施例のシステム同定装置の構成を説明する。
比例微分制御のフィードバック制御器205Bは、指令発生器201が出力する指令から実際の位置を減算した追従偏差に基づいてフィードバック信号を出力する。トルク制御器202は前記フィードバック信号に基づいて電流を算出して出力する。モータ203は前記電流により駆動され、その位置は位置検出器204により検出され出力される。クーロン摩擦同定装置206は、前記指令、前記フィードバック信号、および前記位置に基づいてクーロン摩擦同定値を算出して出力する。微分器101は、前記位置を入力しその入力信号を1階微分した速度を出力する。周期検出器103は、指令発生器201が出力する前記指令を入力して指令周期を検出し出力する。積分区間検出器102は、前記速度と前記指令周期に基づいて複数の積分区間を出力する。フィードバック制御器205Cは、指令発生器201が出力する前記指令を入力し指令修正信号を出力する。定積分器104は、前記複数の積分区間と前記指令修正信号から前記フィードバック信号を減算した摩擦慣性トルクに基づいて複数のトルク積分値を算出して出力する。演算器105は、前記複数のトルク積分値からクーロン摩擦同定値を算出して出力する。
【0034】
図11は、本発明の第3実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の詳細ブロック図である。なお、図11の構成要素が第1、第2実施例と同じものについてはその説明を省略する。
以下、図11を用いて、本実施例のクーロン摩擦同定装置の詳細構成を説明する。
図11のクーロン摩擦同定装置206は、複数の積分区間を具体的に4つの積分区間とし、複数のトルク積分値を4つのトルク積分値としたものである。
微分器101は、実際の位置を入力し、その入力信号を1階微分することにより速度を出力する。周期検出器103は、指令発生器201が出力する指令を入力して指令周期を検出して出力する。積分区間検出器102は、微分器101の出力である前記速度と周期検出器103が検出した前記指令周期に基づいて第1積分区間と第2積分区間と第3積分区間と第4積分区間を算出して出力する。フィードバック制御器205Cは、指令発生器201が出力した前記指令に基づいて指令修正信号を出力する。第1定積分器104Aは、前記1積分区間と、前記指令修正信号からフィードバック信号を減算した摩擦慣性トルクに基づいて、第1トルク積分値を算出して出力する。第2定積分器104Bは、前記第2積分区間と前記摩擦慣性トルクに基づいて第2トルク積分値を算出して出力する。第3定積分器104Cは、前記第3積分区間と前記摩擦慣性トルクに基づいて第3トルク積分値を算出して出力する。第4定積分器104Dは、前記第4積分区間と前記摩擦慣性トルクに基づいて第4トルク積分値を算出して出力する。演算器105は、前記第1トルク積分値、前記第2トルク積分値、前記第3トルク積分値、および前記第4トルク積分値よりクーロン摩擦同定値を算出して出力する。
【0035】
以下、本実施例のシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定方法について説明する。
先ず、摩擦慣性トルクの導出について説明する。
図9においてモータ203のイナーシャをJ 、モータ203の粘性係数をD 、モータ203のクーロン摩擦をTc 、フィードバック制御器205Bの比例制御ゲインをKp 、フィードバック制御器205Bの微分制御ゲインをKd 、位置をθ、指令をu 、一定トルク外乱をwとすると、トルク制御器202とモータ203と位置検出器204とフィードバック制御器205Bを含む閉ループ系の運動方程式は次式のようになる。
【数13】

従って、摩擦慣性トルクは式(13)により、式(14)に示すように式(2)と同様に表わすことができる。
【数14】

【0036】
次に、指令発生器201が出力する正弦波指令の振幅がu1 、周波数がω1 である第1指令と、その正弦波の振幅がu2 、周波数がω2である第2指令を用いた場合のu1、ω1、u2、およびω2の関係について説明する。
モータ203の速度は、第1実施例と同じく図4、5に示すような正弦波になる。前記第1指令、および前記第2指令を入力した場合にモータ203の機械的負担を軽減するために、トルク制御器202、モータ203、位置検出器204、およびフィードバック制御器205Bを含む閉ループ系の共振周波数が前記第1指令および前記第2指令の周波数よりも十分小さくなるようにフィードバック制御器205Bの比例制御ゲインKpを設定する。演算器105によるクーロン摩擦同定値の算出において、モータ203の粘性摩擦トルクを消去するためには、前記第1指令に対する速度が正である第1積分区間における位置の変化量A1と前記第2指令に対する前記速度が正である第2積分区間における前記位置の変化量A2を等しくすれば良く、前記第1指令の振幅u1と周波数ω1および前記第2指令の振幅u2と周波数ω2を、式(15)の関係に設定すればよい。すなわち、第1実施例の式(5)と同じである。
【数15】

【0037】
なお、第1指令および第2指令として、第2実施例の図7および図8に示すような異なる振幅と周期を持つ台形波を用いる場合においても、正弦波の場合と同様に、前記第1指令に対する位置の変化量A1と前記第2指令に対する前記位置の変化量A2が等しくなるように第1積分区間、第2積分区間を設定し、前記第1指令の振幅u1と周波数ω1および前記第2指令の振幅u2と周波数ω2を式(15)の関係に設定すれば良い。
【0038】
次に、クーロン摩擦同定値Tcの算出について説明する。
図10、11に示す演算器105により、クーロン摩擦同定値Tcは第1実施例と同様に算出でき、式(16)により求められる。
【数16】

【0039】
以上述べたように、本発明の第1〜3実施例に係るシステム同定装置は、モータの速度の符号が変わるような指令に対してクーロン摩擦を同定することができ、可動範囲の限定された負荷の付いたモータのクーロン摩擦同定にも応用でき、一定トルク外乱の影響のない高精度のクーロン摩擦同定ができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、産業機械などを駆動するモータの制御装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の内部ブロック図
【図2】本発明の第1実施例を示すシステム同定装置のブロック図
【図3】本発明の第1実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の詳細ブロック図
【図4】本発明の第1実施例を示す定常状態の速度が正の積分区間の説明図
【図5】本発明の第1実施例を示す定常状態の速度が負の積分区間の説明図
【図6】本発明の第1実施例を示すシステム同定装置によるクーロン摩擦同定のシミュレーション結果の説明図
【図7】本発明の第2実施例を示す定常状態の速度が正の積分区間の説明図
【図8】本発明の第2実施例を示す定常状態の速度が負の積分区間の説明図
【図9】本発明の第3実施例を示すシステム同定装置のブロック図
【図10】本発明の第3実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の内部ブロック図
【図11】本発明の第3実施例を示すシステム同定装置におけるクーロン摩擦同定装置の詳細ブロック図
【図12】従来技術を示すシステム同定装置のブロック図
【符号の説明】
【0042】
101 微分器
102 積分区間検出器
103 周期検出器
104 定積分器
104A 第1定積分器
104B 第2定積分器
104C 第3定積分器
104D 第4定積分器
105 演算器
201 指令発生器
202 トルク制御器
203 モータ
204 位置検出器
205A、205B、205C フィードバック制御器
206 クーロン摩擦同定装置
701 第1混合器
702 比例増幅器
703 積分器
704 第2混合器
705 制御対象
706 制御対象クーロン摩擦
707 1次遅れフィルタ
708 1階積分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令を発生し出力する指令発生器(201)と、
前記指令からフィードバック信号を減算して生成したトルク指令を入力してモータへの電流を算出して出力するトルク制御器(202)と、
前記モータの位置を入力して前記フィードバック信号を生成して出力するフィードバック制御器(205A)と、を備えたシステム同定装置において、
前記位置、前記指令、および前記フィードバック信号に基づいてクーロン摩擦同定値を算出して出力するクーロン摩擦同定装置(206)を備え、
前記クーロン摩擦同定装置(206)は、
前記位置を微分して速度を算出して出力する微分器(101)と、
前記指令に基づいて指令周期を検出する周期検出器(103)と、
前記速度と前記指令周期に基づいて複数の積分区間を検出して出力する積分区間検出器(102)と、
前記指令から前記フィードバック信号を減算して求めた摩擦慣性トルクと前記複数の積分区間から複数のトルク積分値を算出して出力する定積分器(104)と、
前記複数のトルク積分値に基づいて前記クーロン摩擦同定値を算出して出力する演算器(105)と、から構成されたものであることを特徴とするシステム同定装置。
【請求項2】
指令を発生し出力する指令発生器(201)と、
前記指令からモータの位置を減算した追従偏差に基づいてフィードバック信号を算出して出力する第1のフィードバック制御器(205B)と、
前記フィードバック信号を入力して電流を算出して出力するトルク制御器(202)と、を備えたシステム同定装置において、
前記位置、前記指令、および前記フィードバック信号に基づいてクーロン摩擦同定値を算出して出力するクーロン摩擦同定装置(206)を備え、
前記クーロン摩擦同定装置(206)は、
前記位置を微分して速度を算出して出力する微分器(101)と、
前記指令に基づいて指令周期を検出して出力する周期検出器(103)と、
前記速度と前記指令周期に基づいて複数の積分区間を検出して出力する積分区間検出器(102)と、
前記指令に基づいて指令修正信号を出力する第2のフィードバック制御器(205C)と、
前記指令修正信号から前記フィードバック信号を減算して算出した摩擦慣性トルクと前記複数の積分区間に基づいて複数のトルク積分値を算出して出力する定積分器(104)と、
前記複数のトルク積分値に基づいて前記クーロン摩擦同定値を算出して出力する演算器(105)と、から構成されたものであることを特徴とするシステム同定装置。
【請求項3】
前記指令発生器(201)は、2つの正負対称な信号である第1指令、第2指令を出力するものであり、
前記積分区間検出器(102)は、前記第1指令、前記第2指令に基づいて、
前記第1指令に対する前記モータの速度が定常状態においてその方向が正であり同じ速度値である2点間を第1積分区間として検出し、
前記第2指令に対する前記モータの速度が定常状態においてその方向が正であり同じ速度値であり前記第1積分区間における位置の変化量に等しくなるような2点間を第2積分区間として検出し、
前記第1指令に対する前記モ−タの速度が定常状態においてその方向が負であり同じ速度値である2点間を第3積分区間として検出し、
前記第2指令に対する前記モータの速度が定常状態においてその方向が負であり同じ速度値であり前記第3積分区間における位置の変化量に等しくなるような2点間を第4積分区間として検出して前記定積分器(104)に出力するものであり、
前記定積分器(104)は、
前記第1積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第1トルク積分値を出力する第1定積分器(104A)と、
前記第2積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第2トルク積分値を出力する第2定積分器(104B)と、
前記第3積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第3トルク積分値を出力する第3定積分器(104C)と、
前記第4積分区間と前記摩擦慣性トルクを入力し第4トルク積分値を出力する第4定積分器(104D)とを備えたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のシステム同定装置。
【請求項4】
前記指令発生器(201)は、前記第1指令および前記第2指令を、異なる振幅と周期を持つ正弦波で出力するものとし、
前記積分区間検出器(102)は、前記2つの異なる振幅と周期を持つ正弦波である第1指令および第2指令に基づいて、
前記第1指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が正である半周期を前記第1積分区間として検出し、
前記第2指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が正である半周期を前記第2積分区間として検出し、
前記第1指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が負である半周期を前記第3積分区間として検出し、
前記第2指令に対する前記速度が定常状態においてその方向が負である半周期を前記第4積分区間として検出して前記定積分器(104)に出力するものであることを特徴とする請求項3に記載のシステム同定装置。
【請求項5】
前記指令発生器(201)が発生して出力する前記2つの正負対称な信号である第1指令および第2指令を、異なる振幅と周期を持つ台形波としたことを特徴とする請求項3に記載のシステム同定装置。
【請求項6】
前記フィードバック制御器(205A、205B、205C)を比例微分制御としたことを特徴とする請求項1または2に記載のシステム同定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−191720(P2006−191720A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353(P2005−353)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】