説明

シフトレンジ切替装置

【課題】 電動機制御手段が認識する「ロータ角」と、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」とにズレが生じると、電動機制御手段および電動アクチュエータによって、シフトレンジ切替機構を高い精度で制御できなくなる。
【解決手段】 電動アクチュエータとシフトレンジ切替機構との間に生じる機械的なガタツキを利用して、ロータ角変化に対する出力軸角変化の「小さい箇所X」を求め、その出力軸角変化の「小さい箇所X」からシフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求めることで、電動機制御手段が認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させる。これにより、上記のズレを補正することができ、電動アクチュエータの制御によってシフトレンジ切替機構を高い精度で切替制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の自動変速機において、実シフトレンジを保持するディテント機構を備えたシフトレンジ切替機構を、電動アクチュエータの出力によって切り替えるシフトレンジ切替装置に関する。
なお、本明細書において、
「実シフトレンジ」はシフトレンジ切替機構のシフトレンジ位置であり、
「出力シフトレンジ」は電動アクチュエータのシフトレンジ位置であり、
「認識シフトレンジ」は電動機制御手段が認識しているシフトレンジ位置であり、
「設定シフトレンジ」は電動機制御手段に与えられるシフトレンジ指令値である。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
例えば、電動モータと減速機を組み合わせた電動アクチュエータの出力軸の回転によって、自動変速機に搭載されたシフトレンジ切替機構のコントロールロッドを回転駆動して、シフトレンジ切替機構における「実シフトレンジ」の切り替えを行う電動式のシフトレンジ切替装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
電動アクチュエータの電動モータは、電動機制御手段によって回転が制御されるものであり、電動機制御手段が電動モータを回転制御することで、出力軸→コントロールロッドが回動して「実シフトレンジ」が切り替えられる。
そして、電動機制御手段は、シフトレンジ設定手段(例えば、マニュアル設定手段)から設定シフトレンジが与えられると、電動機制御手段が認識する認識シフトレンジが設定シフトレンジと一致するように電動モータを制御して、出力軸→コントロールロッドを駆動して「実シフトレンジ」の切り替えを行う。
【0004】
(従来技術の問題点)
電動式のシフトレンジ切替装置の場合、シフトレンジ設定手段とシフトレンジ切替機構に機械的な連結がなく、電動アクチュエータとシフトレンジ切替機構とが対応していることが前提となっている。
具体的な例を示すと、(1)電動機制御手段が認識する電動モータの「ロータ角」と「実シフトレンジ」が対応している、(2)あるいは、電動機制御手段が認識する「出力軸角」と「実シフトレンジ」が対応していることが前提となっている。
【0005】
しかし、電動アクチュエータも、シフトレンジ切替機構も、ともに機械構造物であるため、製造誤差等の機械的な誤差により、電動機制御手段が認識する電動モータの「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)と、「実シフトレンジ」の設定位置とが完全一致せずにズレる可能性がある。
電動機制御手段が認識する電動モータの「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)と、「実シフトレンジ」の設定位置とにズレが生じると、電動アクチュエータによってシフトレンジ切替機構を高い精度で制御できなくなる。
【特許文献1】特開2002−310294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動アクチュエータおよびシフトレンジ切替機構に機械的なズレが生じ、電動機制御手段が認識する電動モータの「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)と、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」とにズレが生じても、電動アクチュエータによってシフトレンジ切替機構を高い精度で切替制御可能なシフトレンジ切替装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[請求項1の手段]
請求項1の手段を採用するシフトレンジ切替装置における電動機制御手段は、ロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所」(あるいは、出力軸角変化に対してロータ角変化の「大きい箇所」)に基づいて、電動機制御手段の認識する「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の設定する「実シフトレンジ」に対応させる認識位置補正手段を備える。
具体的に、請求項1の手段を採用するシフトレンジ切替装置は、シフトレンジ切替機構が「実シフトレンジ」を保持するためのディテント機構を備え、且つ、電動アクチュエータ、あるいは電動アクチュエータの出力軸からシフトレンジ切替機構のコントロールロッドに至る動力伝達経路に機械的なガタツキが生じることを利用して、出力軸角変化の「小さい箇所」(あるいは、ロータ角変化の「大きい箇所」)を求め、その出力軸角変化の「小さい箇所」(あるいは、ロータ角変化の「大きい箇所」)に基づいて、電動機制御手段が認識する「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させるものである。
【0008】
この結果、電動アクチュエータおよびシフトレンジ切替機構の機械的なズレによって、電動機制御手段の認識する「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)と、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」とにズレが生じても、電動機制御手段の認識する「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応(補正)させることができ、電動アクチュエータによってシフトレンジ切替機構を高い精度で切替制御することが可能になる。
【0009】
[請求項2の手段]
請求項2の手段を採用するシフトレンジ切替装置における認識位置補正手段は、ガタツキ量算出手段によって出力軸角変化の「小さい箇所」(あるいは、ロータ角変化の「大きい箇所」)における「ロータ角の範囲」に基づいて、ロータからコントロールロッドに至る機械的なガタツキ量を求める。そして、ガタツキ量考慮手段によって、ガタツキ量に基づいて、電動機制御手段の認識する「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させるものである。
【0010】
[請求項3の手段]
請求項3の手段を採用するシフトレンジ切替装置におけるガタツキ量考慮手段は、出力軸角変化の「小さい箇所」におけるガタツキ量の平均値、あるいはロータ角変化の「大きい箇所」におけるガタツキ量の平均値における「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させるものである。
【0011】
[請求項4の手段]
請求項4の手段を採用するシフトレンジ切替装置におけるガタツキ量考慮手段は、出力軸角変化の「小さい箇所」におけるガタツキ量の所定割合の値、あるいはロータ角変化の「大きい箇所」におけるガタツキ量の所定割合の「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させるものである。
【0012】
[請求項5の手段]
請求項5の手段を採用するシフトレンジ切替装置における電動機制御手段は、ガタツキ量算出手段で求めたガタツキ量が、予め設定された規定量より大きくなった場合に、故障の旨を乗員に表示させる故障表示機能を備えるものである。
このように設けられることにより、摩耗等によってガタツキ量が規定量より増加した場合や、ロータからコントロールロッドに至る動力伝達経路に予期せぬ異常が生じた場合に、乗員に故障の旨を表示することができる。
【0013】
[請求項6の手段]
請求項6の手段を採用するシフトレンジ切替装置における認識位置補正手段は、ロータ角変化に対する出力軸角変化の「上限値による連続線」と「下限値による連続線」との平均連続線によって、「ロータ角」(あるいは「出力軸角」)を、シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させるガタツキ量考慮手段を備えるものである。
【0014】
[請求項7の手段]
請求項7の手段を採用するシフトレンジ切替装置は、認識位置補正手段による対応結果を、電動機制御手段の内部に設けられ、当該電動機制御手段の通電が停止されても対応結果を記憶可能なEEPROM、あるいは電動機制御手段の通電の停止後、微少な電流を供給することで対応結果の記憶を保持できるSRAMに記憶させるものである。
これによって、車両の駐車中における電動機制御手段の電力消費を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
最良の形態1のシフトレンジ切替装置は、コントロールロッドの回転角度に応じた「実シフトレンジ」の設定を行うシフトレンジ切替機構に設けられ、バネ力を利用した嵌まり合い構造によって「実シフトレンジ」を機械的に保持するディテント機構と、出力軸を直接、あるいは減速機を介して回転駆動する電動モータを備え、出力軸によってコントロールロッドを回転駆動する電動アクチュエータと、電動モータを制御することで、シフトレンジ切替機構における「実シフトレンジ」の切り替えを行う電動機制御手段とを具備する。
この電動機制御手段は、電動モータにおけるロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所」、あるいは、出力軸角変化に対してロータ角変化の「大きい箇所」に基づいて、電動機制御手段の認識する「ロータ角」あるいは「出力軸角」を、シフトレンジ切替機構の設定する「実シフトレンジ」に対応させる認識位置補正手段を備え、この認識位置補正手段による対応結果に基づいて電動モータの制御を行うものである。
【実施例1】
【0016】
この実施例1では、先ずシフトレンジ切替装置の主要な構成を図2〜図4を参照して説明し、その後、実施例1の特徴を図1、図5を参照して説明する。
(シフトレンジ切替装置の説明)
シフトレンジ切替装置は、電動アクチュエータ1の出力によって自動変速機2(図2参照)に搭載されたシフトレンジ切替機構3(パーキング切替機構4を含む:図4参照)の「実シフトレンジ」の切り替えを行うものである。
【0017】
電動アクチュエータ1は、シフトレンジ切替機構3を駆動するサーボ機構であり、同期型の電動モータ5と、この電動モータ5の回転出力を減速してシフトレンジ切替機構3を駆動する減速機6と、電動モータ5の「ロータ角」(具体的には、後述するロータ11の回転角度)を検出するロータ角検出手段7と、減速機6の「出力軸角」(実シフトレンジに対応した角度)を検出する出力軸角検出手段8とを備え、減速機6を介してシフトレンジ切替機構3を駆動する電動モータ5は電動機制御手段9によって回転(回転方向、回転速度、回転量、回転角度)が制御される。
即ち、シフトレンジ切替装置は、電動機制御手段9によって電動モータ5の回転方向、回転速度、回転量、回転角度を制御することで、減速機6を介して駆動されるシフトレンジ切替機構3およびパーキング機構4を切替制御して、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ」の切り替えおよびパーキング(自動変速機2の出力軸ロック機構)の切り替えを行うものである。
【0018】
以下では、図3の右側をフロント(あるいは前)、左側をリヤ(あるいは後)としてこの実施例1を説明する。
(電動モータ5の説明)
この実施例1の電動モータ5は、永久磁石を用いないブラシレスのSRモータ(スイッチド・リラクタンス・モータ)であり、回転自在に支持されるロータ11と、このロータ11の回転中心と同軸上に配置されたステータ12とで構成される。
【0019】
ロータ11は、ロータ軸13とロータコア14で構成されるものであり、ロータ軸13は前端と後端に配置された転がり軸受(フロント転がり軸受15、リヤ転がり軸受16)によって回転自在に支持される。
なお、フロント転がり軸受15は、減速機6の出力軸17の内周に嵌合固定されたものであり、減速機6の出力軸17はフロントハウジング18の内周に配置されたメタルベアリング19によって回転自在に支持されている。つまり、ロータ軸13の前端は、フロントハウジング18に設けられたメタルベアリング19→出力軸17→フロント転がり軸受15を介して回転自在に支持される。
一方、リヤ転がり軸受16は、ロータ軸13の後端外周に圧入固定され、リヤハウジング20によって支持されるものである。
なお、フロントハウジング18とリヤハウジング20により、電動アクチュエータ1のハウジング、即ち電動機ハウジングが構成される。
【0020】
ステータ12は、固定されたステータコア21および通電により磁力を発生する複数相の励磁コイル22から構成される。
ステータコア21は、薄板を多数積層して形成されたものであり、リヤハウジング20に固定されている。このステータコア21には、内側のロータコア14に向けて30度毎に突設されたステータティース23(内向突極)が設けられており、各ステータティース23のそれぞれには各ステータティース23毎に磁力を発生させる各相の励磁コイル22が巻回されている。
【0021】
ロータコア14は、薄板を多数積層して形成されたものであり、ロータ軸13に圧入固定されている。このロータコア14には、外周のステータコア21に向けて45度毎に突設されたロータティース(外向突極)が設けられている。
そして、各相の励磁コイル22の通電位置および通電方向を順次切り替えることで、ロータティースを磁気吸引するステータティース23を順次切り替えて、ロータ11を一方または他方へ回転する構成になっている。
【0022】
(減速機6の説明)
この実施例1の減速機6は、内接噛合遊星歯車減速機(サイクロイド減速機)であり、ロータ軸13に設けられた偏心部25を介してロータ軸13に対して偏心回転可能な状態で取り付けられたサンギヤ26(インナーギヤ:外歯歯車)と、このサンギヤ26が内接噛合するリングギヤ27(アウターギヤ:内歯歯車)と、サンギヤ26の自転成分のみを出力軸17に伝達する伝達手段28とを備える。
【0023】
偏心部25は、ロータ軸13の回転中心に対して偏心回転してサンギヤ26を揺動回転させる軸であり、偏心部25の外周に配置されたサンギヤ軸受31を介してサンギヤ26を回転自在に支持するものである。
サンギヤ26は、上述したように、サンギヤ軸受31を介してロータ軸13の偏心部25に対して回転自在に支持されるものであり、偏心部25の回転によってリングギヤ27に押しつけられた状態で回転するように構成されている。
リングギヤ27は、フロントハウジング18に固定されるものである。
【0024】
(シフトレンジ切替機構3の説明)
シフトレンジ切替機構3およびパーキング切替機構4を、図4を参照して説明する。
シフトレンジ切替機構3は、上述した減速機6の出力軸17によって駆動されて、自動変速機2の「実シフトレンジ」の切り替えを行うものである。
自動変速機2における各シフトレンジ(例えば、P、R、N、Dレンジ)の切り替えは、油圧コントローラ41に設けられたマニュアルスプール弁42を適切な位置にスライド変位させ、自動変速機2の図示しない油圧クラッチへの油圧供給路を切り替え、油圧クラッチの係合状態をコントロールすることによって行われる。
【0025】
一方、パーキング切替機構4は、シフトレンジ切替機構3に連動し、「実シフトレンジ」がパーキングレンジ(P)に設定されることで自動変速機2の出力軸を機械的にロックするものである。パーキング切替機構4による自動変速機2の出力軸のロックとアンロックの切り替えは、パークギヤ43の凹部43aとパークポール44の凸部44aの係脱によって行われる。なお、パークギヤ43は、図示しないドライブシャフトや図示しないディファレンシャルギヤ等を介して自動変速機2の出力軸に連結されたものであり、パークギヤ43の回転を規制することで自動変速機2の出力軸側(車両の駆動輪側)をロックして、車両のパーキングのロック状態を達成するものである。
【0026】
減速機6によって駆動されるコントロールロッド45には、略扇形状を呈したディテントプレート46が図示しないスプリングピン等を打ち込むことにより固定されている。
ディテントプレート46は、半径方向の先端(略扇形状の円弧部)に複数のディテント溝46aが設けられており、油圧コントローラ41に固定されたディテントバネ47の先端の係合部47aがディテント溝46aに嵌まり合うことで、切り替えられたシフトレンジが保持されるようになっている。
【0027】
ディテントプレート46には、マニュアルスプール弁42を駆動するためのピン48が取り付けられている。
ピン48は、マニュアルスプール弁42の端部に設けられた溝49に係合しており、ディテントプレート46がコントロールロッド45によって回動操作されると、ピン48が円弧駆動されて、ピン48に係合するマニュアルスプール弁42が油圧コントローラ41の内部で直線運動を行う。
【0028】
コントロールロッド45を図4中矢印A方向から見て時計回り方向に回転させると、ディテントプレート46を介してピン48がマニュアルスプール弁42を油圧コントローラ41の内部に押し込み、油圧コントローラ41内の油路がD→N→R→Pレンジの順に切り替えられる。つまり、自動変速機2のシフトレンジがD→N→R→Pレンジの順に切り替えられる。
逆方向にコントロールロッド45を回転させると、ピン48がマニュアルスプール弁42を油圧コントローラ41から引き出し、油圧コントローラ41内の油路がP→R→N→Dレンジの順に切り替えられる。つまり、自動変速機2のシフトレンジがP→R→N→Dレンジの順に切り替えられる。
【0029】
一方、ディテントプレート46には、パークポール44を駆動するためのパークロッド51が取り付けられている。このパークロッド51の先端には円錐部52が設けられている。
この円錐部52は、自動変速機2のハウジングの突出部53とパークポール44の間に介在されるものであり、コントロールロッド45を図4中矢印A方向から見て時計回り方向に回転させると(具体的には、R→Pレンジ)、ディテントプレート46を介してパークロッド51が図4中矢印B方向へ変位して円錐部52がパークポール44を押し上げる。すると、パークポール44が軸44bを中心に図4中矢印C方向に回転し、パークポール44の凸部44aがパークギヤ43の凹部43aに係合し、パーキング切替機構4のロック状態が達成される。
【0030】
逆方向へコントロールロッド45を回転させると(具体的には、P→Rレンジ)、パークロッド51が図4中矢印B方向とは反対方向に引き戻され、パークポール44を押し上げる力が無くなる。パークポール44は、図示しないバネにより、図4中矢印C方向とは反対方向に常に付勢されているため、パークポール44の凸部44aがパークギヤ43の凹部43aから外れ、パークギヤ43がフリーになり、パーキング切替機構4がアンロック状態になる。
【0031】
(ロータ角検出手段7の説明)
上述した電動アクチュエータ1には、そのハウジング(フロントハウジング18+リヤハウジング20)内に、ロータ11の回転角度を検出するロータ角検出手段7が搭載されている。このロータ角検出手段7によってロータ角を検出して励磁コイル22への通電を切替制御することにより、電動モータ5を脱調させることなく高速運転することができる。
【0032】
この実施例1のロータ角検出手段7は、インクリメンタル型であり、ロータ11と一体に回転する磁石61と、リヤハウジング20内に配置される磁気検出用のホールIC62(具体的には、複数搭載されている)とを備え、このホールIC62は、リヤハウジング20内に配置される基板63に支持される。
磁石61は、略リング円板形状を呈し、ロータ軸13と同芯上に配置されるものであり、ロータコア14の軸方向の端面(後面)に接合される。この磁石61は、ホールIC62と対向する面(後面)に、回転角度検出用の着磁が施され、磁石61の軸方向に磁力を発生する。
これにより、ロータ11が回転すると、磁石61の着磁位置が回転することにより、磁石61に対向するホールIC62の受ける磁束密度が変化して、ホールIC62がロータの回転に応じた出力波形を発生する。
【0033】
(出力軸角検出手段8の説明)
電動アクチュエータ1は、出力軸17の回転角度を検出する出力軸角検出手段8を備え、電動機制御手段9は出力軸角検出手段8の検出する出力軸角から、シフトレンジ切替機構3が現実に設定している「実シフトレンジ(P、N、R、Dレンジ)」を検出する。
この実施例1の出力軸角検出手段8は、出力軸角を連続量として検出するものであり、出力軸17と一体に回転する磁石71と、フロントハウジング18に固定されたリニア出力ホールIC72とで構成される。
磁石71は、例えば、軸方向から見て略三日月形状を呈するものであり、リニア出力ホールIC72に対して磁束が直交するように着磁され、出力軸17の回転範囲において、磁石71とリニア出力ホールIC72との距離が変化することで、リニア出力ホールIC72を通過する磁束量が変化するように設けられ、リニア出力ホールIC72を通過する磁束量に基づいて出力軸角を検出するものである。
【0034】
(電動機制御手段9の説明)
電動機制御手段9を図2を参照して説明する。
電動モータ5の通電制御を行う電動機制御手段9は、制御処理、演算処理を行うCPU、各種プログラムおよびデータを保存する記憶手段(ROM、EEPROMまたはSRAM、RAM等のメモリ)81、入力回路、出力回路、電源回路等で構成された周知構造のマイクロコンピュータである。
なお、EEPROMは、通電を完全に停止した状態でも記憶したデータを保存できるメモリであり、SRAMは、微少な電流を供給することで記憶したデータを保持できるメモリである。
【0035】
ここで、図2中における符号82は起動スイッチ(車両のイグニッションスイッチ、アクセサリースイッチ等)、符号83は車載バッテリ、符号84はシフトレンジおよび電動アクチュエータ1の状態等を示す表示・警告手段(通常運転時の視覚表示、警告灯、警告音声等)、符号85は車速センサ、符号86は乗員が操作するシフトレンジ設定手段の設定スイッチ(あるいは検出センサ)、車輪に制動力を与える車両ブレーキ装置がかけられているか否かを検出するブレーキスイッチ(ブレーキ検出手段)など、その他の車両状態を検出するセンサ類を示す。
そして、電動機制御手段9は起動スイッチ82がONされると車載バッテリ83による通電が開始され、各種の演算制御を実施し、起動スイッチ82がOFFされると電源OFF処理を行った後に車載バッテリ83による通電が停止されるものである。即ち、起動スイッチ82のONで通電が開始され、起動スイッチ82のOFFで通電が停止されるものである。
【0036】
電動機制御手段9には、ロータ角検出手段7の出力からロータ11の回転方向、回転速度、回転量、回転角度を把握する「ロータ角読取手段」、出力軸角検出手段8の出力から出力軸角を読み取る「出力軸角読取手段」、シフトレンジ設定手段によって設定された設定シフトレンジ(シフトレンジ指令値)と電動機制御手段9が認識する「実シフトレンジ」とが一致するように電動モータ5を制御する「通常制御手段」など、種々の制御プログラムが搭載されている。
【0037】
通常制御手段は、シフトレンジ設定手段によって設定された「設定シフトレンジ」と、電動機制御手段9自身が認識する「認識シフトレンジ」とに差がある場合に、設定シフトレンジと認識シフトレンジとのシフトレンジの差に基づいて、電動モータ5の回転方向、回転速度、回転量、回転角度の決定を行い、その決定に基づいて複数相よりなる各励磁コイル22を通電制御して、電動モータ5の回転方向、回転速度、回転量、回転角度の制御を行って、シフトレンジ設定手段によって設定された「設定シフトレンジ」と電動機制御手段9が認識する「認識シフトレンジ」とを一致させて電動モータ5の通電を停止させる制御プログラムである。
【0038】
[実施例1の背景]
先ず、シフトレンジ切替機構3に設けられて、シフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ」を保持するディテント機構40を、図5を参照して説明する。
この実施例のディテント機構40は、各シフトレンジに応じた複数のディテント溝46aが形成されたディテントプレート46と、ディテント溝46aのいずれかに嵌まり合う係合部(ローラ)47aが先端に設けられた板バネ製のディテントバネ47とで構成され、このディテントバネ47は油圧コントローラ41(固定部材)に固定される。
ここで、複数のディテント溝46aは、ディテントプレート46の半径方向外側先端(略扇形状の円弧部)に設けられる凹凸の凹部であり、ディテントバネ47の先端の係合部47aが複数のディテント溝46aのいずれかに嵌まり合うことで、切り替えられたシフトレンジが保持されるようになっている。
【0039】
各ディテント溝46aを構成する凹凸形状は、ディテントプレート46を回転方向に駆動することで、ディテント機構40の嵌まり合いの解除が可能な曲線によって設けられている。一方、ディテントバネ47の係合部47aは、ディテントバネ47の付勢力によってディテント溝46aの底部の方向(ディテントプレート46の回動中心方向)に押し付けられる構造であるため、係合部47aがディテント溝46aの最底部からズレた状態では、係合部47aがディテント溝46aの最底部に向かうようにディテントプレート46に機械的な力が発生する。
【0040】
具体的な例を図5を参照して説明する。
図5(a)に示すように、係合部47aとディテント溝46aの当接位置が、ディテント溝46aの最底部からDレンジ側(図中右側)にズレた状態では、ディテントバネ47のバネ力によって、ディテントプレート46を図中、時計回転方向に回動させる機械的な力が発生する。
逆に、図5(b)に示すように、係合部47aとディテント溝46aの当接位置が、ディテント溝46aの最底部からPレンジ側(図中左側)にズレた状態では、ディテントバネ47のバネ力によって、ディテントプレート46を図中、反時計回転方向に回動させる機械的な力が発生する。
【0041】
従って、電動機制御手段9は、シフトレンジの切り替えが終了して電動アクチュエータ1における電動モータ5の通電を停止した後に、ディテントプレート46の位置が変化しないようにするために、シフトレンジの切替制御が終了して電動アクチュエータ1の通電を停止する「駆動制御停止位置」と、ディテント機構40が安定して静止する「ディテント安定位置」とが、完全に一致していなければならない。
即ち、ディテントプレート46の回動を制御する電動機制御手段9には、高精度で電動モータ5の回転量および回転角度を制御することが求められる。
【0042】
ここで、通常制御手段は、上述したように、シフトレンジ設定手段によって設定された「設定シフトレンジ」と電動機制御手段9が認識する「認識シフトレンジ」とを一致させるように電動モータ5を通電制御する制御プログラムである。
具体的な制御の一例(P→Rレンジの切り替え)を図1を参照して説明する。
シフトレンジ設定手段によって「設定シフトレンジ」がPレンジから、Rレンジに切り替えられた場合、電動機制御手段9自身が認識する「認識シフトレンジ」は、Pレンジに相当する「ロータ角=0:この数字はロータ角検出手段7におけるホールIC62のカウント量、出力軸角=0.5V:この数字は出力軸角検出手段8におけるリニア出力ホールIC72の出力電圧」であるのに、「設定シフトレンジ」はRレンジに相当する「出力軸角=2.5V」である。
【0043】
このため、電動機制御手段9は、自身が認識する「ロータ角=0、出力軸角=0.5V」を、Rレンジに相当する「ロータ角=325、出力軸角=2.5V」とするべく、電動モータ5を制御する。そして、「ロータ角=325、出力軸角=2.5V」になると、電動モータ5の通電を停止する。
上記で説明したように、電動機制御手段9は「実シフトレンジ」をPレンジからRレンジに切り替える際、電動機制御手段9の認識するロータ角が0→325となるように、電動モータ5を制御する。
【0044】
ここで、電動式のシフトレンジ切替装置の場合、電動アクチュエータ1とシフトレンジ切替機構3とが対応していることが前提となっている。即ち、(1)電動機制御手段9の認識する「ロータ角」と「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」が対応している、(2)あるいは、電動機制御手段9の認識する「出力軸角」と「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」が対応していることが前提となっている。
しかし、電動アクチュエータ1も、シフトレンジ切替機構3も、ともに機械構造物であるため、製造誤差等の機械的な誤差により、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」と、「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」とが完全一致せずに、ズレる可能性がある。
そして、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」と、「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」とが完全一致せずにズレると、電動モータ5の通電停止後に、ディテントプレート46が揺動する可能性がある。
【0045】
具体的な一例(Rレンジ)を図1を参照して説明する。
(ズレが無い場合)
電動アクチュエータ1およびシフトレンジ切替機構3に機械的な誤差がなく、Rレンジの「ディテント安定位置」が設計通り、図1のRレンジであり、且つ、電動機制御手段9の「認識シフトレンジ(Rレンジ)」も設計通り、「ロータ角=325、出力軸角=2.5V」の場合、シフトレンジの切替制御が終了して電動アクチュエータ1の通電を停止する「駆動制御停止位置」と、ディテント機構40が安定して静止する「ディテント安定位置」とが完全に一致する。この結果、電動モータ5の通電停止後に、ディテントプレート46は揺動しない。
【0046】
(ズレが有る場合)
しかし、電動アクチュエータ1またはシフトレンジ切替機構3に機械的な誤差が有り、Rレンジにおいてディテント機構40が安定して静止する「ディテント安定位置」が、図1のR’レンジの場合、電動機制御手段9の「認識シフトレンジ(Rレンジ)」が設計通り、「ロータ角=325、出力軸角=2.5V」であると、「駆動制御停止位置」と「ディテント安定位置」とが一致しない。この場合は、電動モータ5の通電停止後に、ディテントプレート46が揺動してしまう。
【0047】
[実施例1の特徴]
実施例1のシフトレンジ切替装置は、電動アクチュエータ1および/またはシフトレンジ切替機構3の機械的な誤差により、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」と、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」にズレがある場合、電動アクチュエータ1、あるいは出力軸17からコントロールロッド45に至る動力伝達経路に生じる機械的なガタツキを利用して、ズレを自己補正するようにしたものである。
電動機制御手段9の認識する「ロータ角」と、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」にズレがある場合、そのズレを自己補正する技術を以下に説明する。
【0048】
先ず、電動アクチュエータ1、あるいは出力軸17からコントロールロッド45に至る動力伝達経路に生じるガタツキが、ディテント機構40によって「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応して生じることを説明する。
出力軸17(図3参照)からディテントプレート46(図4参照)に至る動力伝達経路には、機械的なガタツキがある。具体的には、出力軸17とディテントプレート46との間には、作動中に機械的なこじり等の不具合を回避する目的と、シフトレンジ切替機構3に電動アクチュエータ1をスムーズに組付る目的で、適宜ガタツキ量が設けられている。このガタツキが発生する箇所を具体的に説明する。電動アクチュエータ1の出力軸17と、シフトレンジ切替機構3のコントロールロッド45とは、軸方向に伸びるスプライン溝の嵌め合わせで結合されるものであり、出力軸17とコントロールロッド45の嵌め合い部分に回転方向のガタツキが生じる。
また、減速機6にも、バックラッシュ等によるガタツキが生じる。
【0049】
一方、ディテント機構40におけるディテントバネ47の係合部47aは、ディテントバネ47の付勢力によってディテント溝46aの底部の方向に押し付けられる構造であるため、上記のガタツキ量は、係合部47aがディテント溝46aの底部に嵌まりあった状態の前後に現れる。
具体的には、係合部47aがディテント溝46aの底部に嵌まりあった状態において、ロータ11を正逆に動かしても、ディテント機構40がディテントプレート46を保持することで、ディテントプレート46が移動せずに、ロータ11が回転することでガタツキ量が現れる。即ち、ロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」の範囲内に実シフトレンジに応じた「ディテント安定位置」があることが解る。
そして、ロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」における「ロータ角の範囲」に基づいて、ロータ11からコントロールロッド45およびディテントプレート46に至る機械的なガタツキ量を求めることができる。
【0050】
実施例1の電動機制御手段9は、ロータ11からコントロールロッド45およびディテントプレート46に至る機械的なガタツキ量を求め、そのガタツキ量から各実シフトレンジに応じた「ディテント安定位置」を求める技術である。
実施例1のシフトレンジ切替装置は、上記「実施例1の背景」で述べた不具合を回避するために、次の手段を採用している。
【0051】
電動機制御手段9は、電動モータ5のロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」に基づいて、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させる認識位置補正手段を備え、認識位置補正手段による対応結果(ディテント安定位置に対応させたロータ角:電動機制御手段9の認識するディテント安定位置)に基づいて電動モータ5の制御を行う。
【0052】
認識位置補正手段を説明する。
認識位置補正手段は、ロータ角検出手段7の検出するロータ角変化に対して、出力軸角検出手段8の検出する出力軸角変化の「小さい箇所X」のロータ角の範囲に基づいて、ロータ11からディテントプレート46に至る機械的なガタツキ量を求める「ガタツキ量算出手段」と、この「ガタツキ量算出手段」で求めたガタツキ量に基づいて、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させる「ガタツキ量考慮手段」とを備える。
【0053】
ガタツキ量算出手段を説明する。
図5(a)に示すように、係合部47aとディテント溝46aの当接位置が、ディテント溝46aの最底部からDレンジ側(図中右側)にズレた状態では、ディテントバネ47のバネ力によって、ディテントプレート46を図中、時計回転方向に回動させる機械的な力が発生するため、ガタツキ範囲の一方で、出力軸17とディテントプレート46が係合した状態になる(ガタツキが正側に詰まる状態)。
逆に、図5(b)に示すように、係合部47aとディテント溝46aの当接位置が、ディテント溝46aの最底部からPレンジ側(図中左側)にズレた状態では、ディテントバネ47のバネ力によって、ディテントプレート46を図中、反時計回転方向に回動させる機械的な力が発生するため、ガタツキ範囲の他方で、出力軸17とディテントプレート46が係合した状態になる(ガタツキが逆側に詰まる状態)。
【0054】
このように、ディテントバネ47の係合部47aがディテント溝46aの最底部に嵌まり合う力により、係合部47aがディテント溝46aの最底部に嵌まり合う位置でディテントプレート46を停止させるように作用する。このため、ディテントプレート46が停止している状態でも、ガタツキ量だけ、出力軸17が回動できる。
即ち、係合部47aがディテント溝46aの最底部に嵌まり合う位置では、図1に示すように、出力軸角検出手段8の検出する「出力軸角」が変化しなくても、ガタツキ量だけ、ロータ角検出手段7の検出する「ロータ角」が変動する。
【0055】
ガタツキ量算出手段は、上記の特性を利用してガタツキ量を求めるものである。
具体的に、ガタツキ量算出手段は、ロータ角検出手段7の検出する「ロータ角」の増減に対する出力軸角検出手段8の出力ゲインの比率が所定値以下(出力軸角変化の小さい箇所X)となるロータ角の範囲をガタツキ量として求めるものである。即ち、ガタツキ量=「出力軸角変化の小さい箇所Xのロータ角の範囲」とする例を示す。なお、出力軸17とディテントプレート46の間のガタツキ量を求める場合は、ガタツキ量=「出力軸角変化の小さい箇所Xのロータ角の範囲」×「減速機6の減速比K」で求めることができる。
ここで、ガタツキ量算出手段によってガタツキ量を求める時期、即ち電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させる時期は、(1)記憶手段81にガタツキ量(あるいは対応結果)が記憶されていない場合、(2)予め設定した時期に達した場合(例えば、車両走行距離が1万kmに達する毎等)、(3)電動機制御手段9の作動毎など、適宜設定可能なものである。
【0056】
ガタツキ量考慮手段を説明する。
ガタツキ量考慮手段は、(1)出力軸角変化の「小さい箇所X」におけるガタツキ量(ロータ角の範囲)の平均値をシフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」と認識したり、(2)出力軸角変化の「小さい箇所X」におけるガタツキ量(ロータ角の範囲)の所定割合の値をシフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」と認識するものである。
【0057】
ここで、電動機制御手段9には、ガタツキ量算出手段で求めたガタツキ量が、予め設定された規定量より大きくなった場合に、表示・警告手段84によって、故障が生じた旨を乗員に表示する「故障表示機能」が設けられている。
これによって、摩耗によってガタツキ量が規定量より増加した場合や、ロータ11からディテントプレート46に至る動力伝達経路に予期せぬ異常が生じた場合に、乗員に故障の旨を表示することができ、故障時の初期対応を乗員に促すことができる。
【0058】
(認識位置補正手段の変形例)
なお、この実施例1では、上述したように、ガタツキ量を求め、そのガタツキ量からシフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求める例を示したが、認識位置補正手段の他の例として、次の手段を採用しても良い。
認識位置補正手段は、ロータ角検出手段7の検出するロータ角変化に対する出力軸角検出手段8の検出する出力軸角変化の「上限値による連続線」と、ロータ角検出手段7の検出するロータ角変化に対する出力軸角検出手段8の検出する出力軸角変化の「下限値による連続線」との平均連続線によって、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させても良い。
【0059】
即ち、電動機制御手段9の認識する「ロータ角(設計値)」に対して、シフトレンジ切替機構3の設定する「ディテント安定位置」がズレた場合、そのズレた場合の平均連続線(実値)は、予め設計された平均連続線(設計値)に対するズレ量に応じている。
そこで、平均連続線(設計値)に対する平均連続線(実値)のズレ量に基づいて、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を補正して、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させても良い。
【0060】
(対応結果の保存実行手段)
電動機制御手段9には、認識位置補正手段が「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させた「ロータ角」を求めると、その「ロータ角」を記憶手段81に記憶させる保存実行手段が設けられる。なお、記憶手段81に記憶される「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させた「ロータ角」は、更新されるものであっても、周知の学習技術により平均化されるものであっても良い。
【0061】
「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させた「ロータ角」が記憶される記憶手段81は、上述したように、電動機制御手段9の内部に設けられるものであり、電動機制御手段9の通電が停止されてもガタツキ量を記憶可能なEEPROM、あるいは電動機制御手段9の通電の停止後、微少な電流を供給することでガタツキ量の記憶を保持できるSRAMである。
このように、対応結果を記憶する手段としてEEPROMを用いる場合、駐車中に電動機制御手段9の通電を完全に停止することができる。また、SRAMを用いる場合、駐車中に電動機制御手段9へ対応結果の記憶を保持するための微小電流を供給する。これによって、車両の駐車中における電動機制御手段9の電力消費を抑えることができる。
【0062】
(対応結果を用いた電動機制御手段9による電動モータ5の制御)
電動機制御手段9は、電動モータ5の回転を制御してシフトレンジの切り替えを行う際に、記憶手段81に記憶された対応結果に基づいて電動モータ5の回転を制御するものである。
具体的な一例を図1を参照して説明する。
機械的な誤差により、電動機制御手段9自身が認識するRレンジの「ロータ角」=325と、「実シフトレンジ(ディテント安定位置=R’)」とがズレた場合、上述した技術によって、電動機制御手段9自身が認識するRレンジの「ロータ角」が275(一例)に補正され、その対応結果(Rレンジのディテント安定位置における「ロータ角」は275)が記憶装置81に記憶される。
この結果、シフトレンジ設定手段による設定シフトレンジがRレンジに切り替えられると、電動機制御手段9は「ロータ角」が275になるように電動モータ5を制御する。これにより、「実シフトレンジ(ディテント安定位置=R’)」と「ロータ角」が275で完全に一致するため、電動モータ5の通電停止後に、ディテントプレート46は揺動しない。
【0063】
(実施例1の効果)
実施例1のシフトレンジ切替装置は、上述したように、電動アクチュエータ1、あるいは電動アクチュエータ1の出力軸17からシフトレンジ切替機構3のコントロールロッド45に至る動力伝達経路に生じる機械的なガタツキを利用して、出力軸角変化の「小さい箇所X」を求め、その出力軸角変化の「小さい箇所X」に基づいて、電動機制御手段9が認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させるものである。
これによって、電動アクチュエータ1およびシフトレンジ切替機構3の機械的なズレによって、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」と、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」とにズレが生じたとしても、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応(補正)することができるため、電動アクチュエータ1によってシフトレンジ切替機構3を高い精度で切替制御することができる。
【実施例2】
【0064】
実施例2を説明する。なお、以下において実施例1と同一符号は同一機能物を示すものである。
上記実施例1では、認識位置補正手段の一例として、電動モータ5におけるロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」に基づいて、電動機制御手段9の認識する「ロータ角」を、シフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させる例を示した。
これに対し、この実施例2の認識位置補正手段は、電動モータ5におけるロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」に基づいて、電動機制御手段9の認識する「出力軸角」を、シフトレンジ切替機構3の設定する「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応させるものである。
【0065】
これによって、電動アクチュエータ1およびシフトレンジ切替機構3の機械的なズレによって、電動機制御手段9の認識する「出力軸角」と、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」とにズレが生じても、電動機制御手段9の認識する「出力軸角」を、シフトレンジ切替機構3の「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」に対応(補正)することができ、「出力軸角」によって検出される「実シフトレンジ」の検出精度を高めることができる。
即ち、(1)磁石71の着磁精度、(2)温度変化に対する磁石71の磁力変化、(3)磁石71に対して加えられた温度サイクルによる減磁、(4)組付け精度など、各精度悪化要因の積み上げにより出力軸角検出手段8のアナログ出力の特性が変化していても、出力軸角検出手段8によって検出される「出力軸角」の検出精度を高め、信頼性を高めることができる。
【実施例3】
【0066】
実施例3を図6、図7を参照して説明する。
この実施例3は、実施例1で示したディテント機構40とは異なる仕様を示すものである。
この実施例3のディテント機構40は、実施例1と同じ構成のディテントプレート46と、バネ力を利用した嵌まり合い構造によってディテント溝46aに嵌まり合う係合手段とで構成される。
【0067】
この係合手段は、ディテント溝46aのいずれかに嵌まり合う係合部(ローラ)47aが先端に設けられ、油圧コントローラ41のハウジングに形成されたシリンダ41a内で、ディテントプレート46の回動中心に向かう直線方向に沿って摺動自在に支持されるピストン47bと、このピストン47bをディテントプレート46の回動中心方向に押し付け、係合部47aをディテント溝46aの底部に向けて付勢する圧縮コイルバネ47cとで構成される。
実施例3に示すディテント機構40であっても、図6、図7に示すように、実施例1と同様の作動を奏する。
【0068】
〔変形例〕
上記の実施例では、図1に示すように、ロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」に基づいて、ガタツキ量を求め、そのガタツキ量に基づいて「ロータ角」あるいは「出力軸角」に応じた「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求める例を示した。
これに対し、図8に示すように、出力軸角変化に対してロータ角変化の「大きい箇所X’」に基づいて、ガタツキ量を求め、そのガタツキ量に基づいて「ロータ角」あるいは「出力軸角」に応じた「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求めても良い。
または、図1に示すように、ロータ角変化に対して出力軸角変化の「大きい箇所Y(ディテントプレート46の山頂部46bを乗り越える際にガタツキにより生じる変化)」に基づいて、ガタツキ量を求め、そのガタツキ量に基づいて「実シフトレンジ」に応じた「ロータ角」あるいは「出力軸角」を求めても良い。
あるいは、図8に示すように、出力軸角変化に対してロータ角変化の「小さい箇所Y’(ディテントプレート46の山頂部46bを乗り越える際にガタツキにより生じる変化)」に基づいてガタツキ量を求め、そのガタツキ量に基づいて「実シフトレンジ」に応じた「ロータ角」あるいは「出力軸角」を求めても良い。
【0069】
上記の実施例では、ロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」からガタツキ量を求め、そのガタツキ量に基づいて「ロータ角」あるいは「出力軸角」に応じた「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求める例を示したが、(1)ロータ角変化に対して出力軸角変化の「大きい箇所Y」からガタツキ量を求めて、そのガタツキ量に基づいて「ロータ角」あるいは「出力軸角」に応じた「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求めても良いし、(2)ロータ角変化に対して出力軸角変化の「小さい箇所X」と「大きい箇所Y」の両方からガタツキ量を求めて、その両者のガタツキ量に基づいて「ロータ角」あるいは「出力軸角」に応じた「実シフトレンジ(ディテント安定位置)」を求めても良い。
【0070】
上記の実施例では、ロータ角検出手段7を用いる例を示したが、ロータ角検出手段7を廃止して、各励磁コイル22の通電回数をカウントして電動機制御手段9が「ロータ角」を把握するようにしても良い。
上記の実施例では、電動モータ5の一例としてSRモータを用いる例を示したが、シンクロナス・リラクタンス・モータなど他のリラクタンスモータや、表面磁石構造型シンクロナスモータ(SPM)、埋込磁石構造型シンクロナスモータ(IPM)などの永久磁石型同期モータなど、他のモータを用いても良い。
【0071】
上記の実施例では、減速機6の一例として内接噛合遊星歯車減速機(サイクロイド減速機)を用いる例を示したが、ロータ軸13によって駆動されるサンギヤ26、このサンギヤ26の周囲に等間隔に複数配置されたプラネタリピニオン、このプラネタリピニオンの周辺に噛み合うリングギヤ等により構成されたタイプの遊星歯車減速装置を用いても良い。
上記の実施例では、減速機6の一例として遊星歯車減速機を用いる例を示したが、ロータ軸13によって駆動される複数のギヤの噛み合わせ等により構成される遊星歯車減速機以外の減速装置を用いても良い。
上記の実施例では、電動モータ5と減速機6を組み合わせた例を示したが、電動モータ5の出力で直接的に出力軸17を駆動するようにしても良い。
上記の実施例では、出力軸角検出手段8を電動アクチュエータ1に内蔵する例を示したが、自動変速機2の内部または外部に取り付けられる電動アクチュエータ1から独立してコントロールロッド45の回転角度を検出する手段であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ロータ角検出手段によって検出されるロータ角に対する出力軸角検出手段によって検出される出力軸角の関係を示すグラフである(実施例1)。
【図2】シフトレンジ切替装置のシステム構成図である(実施例1)。
【図3】電動アクチュエータの断面図である(実施例1)。
【図4】パーキング切替機構を含むシフトレンジ切替機構の斜視図である(実施例1)。
【図5】ディテント機構の説明図である(実施例1)。
【図6】ディテント機構の説明図である(実施例3)。
【図7】ディテント機構の説明図である(実施例3)。
【図8】出力軸角検出手段によって検出される出力軸角に対するロータ角検出手段によって検出されるロータ角の関係を示すグラフである(変形例)。
【符号の説明】
【0073】
1 電動アクチュエータ
3 シフトレンジ切替機構
5 電動モータ
6 減速機
9 電動機制御手段(認識位置補正手段、ガタツキ量算出手段、ガタツキ量考慮手段、故障表示機能を備える)
11 ロータ
17 出力軸
40 ディテント機構
45 コントロールロッド
81 記憶手段(EEPROMあるいはSRAMを備える)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロールロッドの回転角度に応じた「実シフトレンジ」の設定を行うシフトレンジ切替機構に設けられ、バネ力を利用した嵌まり合い構造によって「実シフトレンジ」を機械的に保持するディテント機構と、
出力軸を直接、あるいは減速機を介して回転駆動する電動モータを備え、前記出力軸によって前記コントロールロッドを回転駆動する電動アクチュエータと、
前記電動モータを制御することで、前記シフトレンジ切替機構における「実シフトレンジ」の切り替えを行う電動機制御手段と、
を具備するシフトレンジ切替装置において、
前記電動機制御手段は、
前記電動モータにおけるロータの回転角度(以下、ロータ角と称す)変化に対して前記出力軸の回転角度(以下、出力軸角と称す)変化の「小さい箇所」、あるいは、出力軸角変化に対してロータ角変化の「大きい箇所」に基づいて、
前記電動機制御手段の認識する「ロータ角」あるいは「出力軸角」を、前記シフトレンジ切替機構の設定する「実シフトレンジ」に対応させる認識位置補正手段を備え、
この認識位置補正手段による対応結果に基づいて前記電動モータの制御を行うことを特徴とするシフトレンジ切替装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシフトレンジ切替装置において、
前記認識位置補正手段は、
出力軸角変化の「小さい箇所」、あるいは、ロータ角変化の「大きい箇所」における「ロータ角の範囲」に基づいて、前記ロータから前記コントロールロッドに至る機械的なガタツキ量を求めるガタツキ量算出手段と、
このガタツキ量算出手段で求めたガタツキ量に基づいて、前記電動機制御手段の認識する「ロータ角」あるいは「出力軸角」を、前記シフトレンジ切替機構の設定する「実シフトレンジ」に対応させるガタツキ量考慮手段とを備えることを特徴とするシフトレンジ切替装置。
【請求項3】
請求項2に記載のシフトレンジ切替装置において、
前記ガタツキ量考慮手段は、
出力軸角変化の「小さい箇所」におけるガタツキ量の平均値、あるいはロータ角変化の「大きい箇所」におけるガタツキ量の平均値における「ロータ角」あるいは「出力軸角」を、前記シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させることを特徴とするシフトレンジ切替装置。
【請求項4】
請求項2に記載のシフトレンジ切替装置において、
前記ガタツキ量考慮手段は、
出力軸角変化の「小さい箇所」におけるガタツキ量の所定割合の値、あるいはロータ角変化の「大きい箇所」におけるガタツキ量の所定割合の「ロータ角」あるいは「出力軸角」を、前記シフトレンジ切替機構の「実シフトレンジ」に対応させることを特徴とするシフトレンジ切替装置。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれかに記載のシフトレンジ切替装置において、
前記電動機制御手段は、
前記ガタツキ量算出手段で求めたガタツキ量が、予め設定された規定量より大きくなった場合に、故障の旨を乗員に表示させる故障表示機能を備えることを特徴とするシフトレンジ切替装置。
【請求項6】
請求項1に記載のシフトレンジ切替装置において、
前記認識位置補正手段は、
ロータ角変化に対する出力軸角変化の「上限値による連続線」と、
ロータ角変化に対する出力軸角変化の「下限値による連続線」との平均連続線によって、
前記電動機制御手段の認識する「ロータ角」あるいは「出力軸角」を、前記シフトレンジ切替機構の設定する「実シフトレンジ」に対応させるガタツキ量考慮手段を備えることを特徴とするシフトレンジ切替装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6に記載のシフトレンジ切替装置において、
前記認識位置補正手段による対応結果は、
前記電動機制御手段の内部に設けられ、当該電動機制御手段の通電が停止されても対応結果を記憶可能なEEPROM、あるいは前記電動機制御手段の通電の停止後、微少な電流を供給することで対応結果の記憶を保持できるSRAMに記憶されることを特徴とするシフトレンジ切替装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−56960(P2007−56960A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241727(P2005−241727)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】