説明

シリコンの表面粗化方法

【課題】シリコンの表面を、凹凸がナノオーダーになる程度に粗化する方法を提供する。
【解決手段】CFとArとHOを含むフッ素系原料ガスを大気圧近傍下のプラズマ空間13に導入して、HFを含むフッ素系反応ガスを生成する。このフッ素系反応ガスと、Oを含む酸化性反応ガスと、プラズマ空間13を経ないN等の希釈用不活性ガスとを混合して処理ガスを得、この処理ガスをシリコン基板9からなる被処理物に接触させる。フッ素系反応ガスと希釈用不活性ガスの流量比を、(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:3〜2:12とし、好ましくは2:5〜2:8にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンの表面を粗化する方法に関し、特に太陽電池用のシリコン基板に適した粗化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板からなる太陽電池は周知である。入射光がシリコン基板に吸収されることによって電力が出力される。したがって、高発電効率を得るには、入射光に対するシリコン基板の反射率が低く、吸収率が高いことが好ましい。
特許文献1には、銀塩を添加したフッ化水素酸と過酸化水素の混合溶液にシリコン基板を浸してウェットエッチングする方法が記載されている。これによって、シリコン基板の表層を多孔質にし、反射率を低下させている。
特許文献2には、シリコン基板の表面に無電解メッキにより銀微粒子を析出させ、その後、フッ化水素酸と過酸化水素の混合溶液にシリコン基板を浸してウェットエッチングすることが記載されている。これによって、シリコン基板の表面に微細な凹凸を形成し、反射率を低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−183505号公報
【特許文献2】特開2007−194485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上掲特許文献1、2のようなウェットエッチング方法では、シリコン基板の表面に例えば電極が形成されていると、該電極が損傷するおそれがある。また、シリコン基板の裏面の平滑度が低下するおそれがある。さらに、シリコン基板の厚さによっては対応するのが困難になる。
本発明は、上記事情に鑑み、シリコンの表面をウェットエッチング以外の方法で十分に粗化できるようにすることを目的とする。特に、シリコン基板を太陽電池に適用した場合には反射率を十分に低くできる粗化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、シリコンからなる被処理物の表面を粗化する方法であって、
フッ素系原料ガスを大気圧近傍下のプラズマ空間に導入してフッ素系反応ガスを生成し、
前記フッ素系反応ガスと、酸化性反応ガスと、前記プラズマ空間を経ない希釈用不活性ガスとを含む処理ガスを前記被処理物に接触させ、
前記フッ素系反応ガスと前記希釈用不活性ガスの流量比を、(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:3〜2:12とすることを特徴とする。
これによって、シリコンの表面にナノオーダーの凹凸を形成でき、十分に表面粗化できる。太陽電池に適用した場合、光の反射率を17%以下にすることができ、十分な発電効率を得ることができる。
【0006】
前記フッ素系反応ガスと前記希釈用不活性ガスの流量比を、(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:5〜2:8とすることが好ましい。
これによって、シリコンの表面を一層確実に粗化できる。太陽電池に適用した場合、光の反射率を12%以下にすることができ、発電効率をより高めることができる。
【0007】
前記被処理物の各位置おける前記処理ガスの接触時間を、24秒〜48秒にすることが好ましい。
接触時間を24秒以上にすることで、必要かつ十分な表面粗化量を確保できる。接触時間を48秒以下にすることで、必要以上に処理するのを回避止でき、処理ガスの消費を抑制でき、処理時間の長期化を防止できる。
【0008】
フッ素系原料ガスは、少なくともフッ素系原料成分を含み、好ましくはキャリア成分を更に含み、より好ましくは、水素を含有する添加成分を更に含む。
フッ素系原料成分としては、CF、C、C、C等のパーフルオロカーボン(PFC)、CHF、C、CHF等のハイドロフルオロカーボン(HFC)、SF、NF、XeF等が挙げられる。
キャリア成分としては、Ar、He、Ne等の希ガス、N等の希ガス以外の不活性ガスが挙げられる。
水素含有添加成分として、水(HO)、過酸化水素(H)、アルコール(OH基含有化合物)が挙げられる。
水素含有添加成分として、好ましくは水を用いる。これによって、HF等のフッ素系反応成分を確実に生成できる。
前記処理ガスの単位流量あたり2g/m〜9.6g/mの水を前記フッ素系原料ガスに添加したうえで、前記フッ素系原料ガスを前記プラズマ空間に導入することが好ましい。この単位処理ガス流量あたりの水添加量(2g/m〜9.6g/m)は、一般的なシリコンエッチング(例えば液晶ディスプレイ用シリコン基板のエッチング)の場合より十分に小さい。
【0009】
大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
フッ素系反応ガスのフッ素系反応成分としては、HF、COF、F等が挙げられる。
酸化性反応ガスは、シリコンに対し酸化作用を有する酸化性反応成分を含む。酸化性反応成分として、オゾン(O)、酸素ラジカル、酸素(O)、NO、NO、NO等が挙げられる。酸化性反応成分はオゾンであることが好ましい。
希釈用不活性ガスは、フッ素系反応ガス及び酸化性反応ガスを含む処理ガスを希釈するものである。希釈用不活性ガスとして、窒素(N)、空気等が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリコン基板の表面にナノオーダーの凹凸を形成でき、十分な表面粗化を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面粗化装置を解説的に示す正面図である。
【図2】実施例1の結果を示し、大気圧プラズマエッチングのスキャン回数に対する波長550nmの光の反射率のグラフである。
【図3】実施例1の結果を示し、入射光の波長に対する反射率のグラフである。
【図4】実施例1における大気圧プラズマエッチングのスキャン回数を40回としたサンプルの表面を電子顕微鏡で撮影した写真であり、(a)は処理前、(b)は処理後である。
【図5】実施例2における希釈用不活性ガスの流量に対する反射率の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例2における希釈用不活性ガスの流量とフッ素系原料ガス中の水分量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
本実施形態の被処理物は、太陽電池用のシリコン基板である。シリコン基板は、多結晶シリコンでもよく、単結晶シリコンでもよく、アモルファスシリコンでもよい。
【0013】
図1に示すように、表面粗化装置は、大気圧プラズマエッチング装置1にて構成されている。大気圧プラズマエッチング装置1は、ステージ7(被処理物支持手段)と、3つのガス供給源4,5,6と、処理ヘッド2を備えている。処理すべきシリコン基板9がステージ7上に載置される。ステージ7に移動手段8が接続されている。移動手段8は、ステージ7を左右に一定の速度で往復移動させる。移動手段8は、直動機構やエアシリンダ等にて構成できる。
【0014】
フッ素系原料ガス供給源4は、フッ素系原料ガスを生成する。フッ素系原料ガスは、フッ素系原料供給部4aからのフッ素系原料と、キャリアガス供給部4bからのキャリアガスを含む。この実施形態では、フッ素系原料として、CFが用いられている。キャリアガスとしてArが用いられている。CF及びArの流量及び互いの流量比は、マスフローコントローラや流量制御弁等の流量調節手段(図示省略)にて調節される。
【0015】
さらに、フッ素系原料ガス供給源4には加湿器4cが設けられている。加湿器4cは、CFとArの混合ガスからなるフッ素系原料ガスに水素含有添加成分として水(HO)を添加する。例えば、供給部4a,4bからの原料ガス(CF+Ar)の一部又は全部が、加湿器4cの水面より上側の空間に導入される。これにより、上記加湿器4cの上側空間の飽和水蒸気が原料ガスに混合される。原料ガスを加湿器4c内の液相の水中にバブリングすることにしてもよい。加湿器4cを加熱して水の蒸発を促進してもよい。供給部4a,4bからの原料ガスのうち、加湿器4cに通すガスと加湿器4cを通さないガスとの比率を調節することで、水の添加量を調節できる。
【0016】
フッ素系原料として、CFに代えてC、C、C等の他のPFCを用いてもよく、CHF、C、CHF等のHFCを用いてもよく、その他、SF、NF、XeF等を用いてもよい。
キャリアガス(Ar)は、フッ素系原料をキャリアする役目に加え、後記放電空間13において安定的なプラズマを生成する役目をも有している。キャリアガスとして、Arに代えて、He、N等の他の不活性ガスを用いてもよい。
水素含有添加成分として、水に代えて、過酸化水素水を用いてもよく、アルコール等のOH基含有化合物を用いてもよい。
【0017】
酸化性反応ガス供給源5は、酸素供給部5aと、オゾナイザー5bを含む。オゾナイザー5bは、酸素供給部5aからの酸素(O)を原料にしてオゾン(O)を生成し、オゾンと酸素の混合ガスからなる酸化性反応ガスを出力する。酸素供給部5aに付設されたマスフローコントローラや流量制御弁等の流量調節手段(図示省略)によって酸素ガス流量を調節することで、オゾナイザー5bからの酸化性反応ガス流量を調節できる。
【0018】
希釈用不活性ガス供給源6は、希釈用不活性ガスとして窒素(N)を蓄えている。窒素ガス流量は、供給源6に付設されたマスフローコントローラや流量制御弁等の流量調節手段(図示省略)にて調節される。
【0019】
処理ヘッド2は、ステージ7の上方に離れて、図示しない架台によって支持されている。処理ヘッド2は、上側のプラズマソース10(フッ素系反応ガス生成部)と、下側のノズル20を有している。プラズマソース10は、互いに対向する一対の電極11,11を含む。電極11の対向面には固体誘電体層(図示省略)が形成されている。一方の電極11が電源3に接続されている。他方の電極11が電気的に接地されている。電源3は、例えばパルス波状の電圧を電極11,11間に印加する。印加電圧は、パルス波に限られず、連続波でもよい。電源3からの電圧供給によって、一対の電極11,11どうしの間の空間が略大気圧のプラズマ空間13になる。フッ素系原料ガス供給源4から延び出たガス供給路4dが、プラズマ空間13の上流端(上端部)に接続されている。プラズマ空間13内で、フッ素系原料ガスがプラズマ化され、フッ素系反応ガスが生成される。フッ素系反応ガスは、HF、COF等のフッ素系反応成分を含む。
【0020】
ノズル20の内部には、三系統のガス吹出し路21,22,23が形成されている。フッ素系反応ガス吹出し路21は、ガス流方向を上下に向け、ノズル20の中央部に配置されている。フッ素系反応ガス吹出し路21の上端部は、プラズマ空間13の下流端に連なっている。フッ素系反応ガス吹出し路21の下端部は、ノズル20の下面に達し、吹出し口24を形成している。吹出し口24は、図1の紙面と直交する方向に延びるスリット状になっている。
【0021】
酸化性反応ガス吹出し路22の上流端は、酸化性反応ガス供給路5cを介して酸化性反応ガス供給源5に接続されている。
希釈用不活性ガス吹出し路23の上流端は、希釈用不活性ガス供給路6aを介して希釈用不活性ガス供給源6に接続されている。
酸化性反応ガス吹出し路22及び希釈用不活性ガス吹出し路23が、フッ素系反応ガス吹出し路21に合流している。これら3つの路21,22,23の合流部において、各路21,22,23からのガスが互いに混合され、処理ガスが生成される。この処理ガスが、吹出し口24から吹き出される。
なお、図示は省略するが、ノズル20の内部には各路21,22,23を通るガスを図1の紙面と直交する方向に均質化する整流部が設けられている。整流部は、チャンバー、スリット、複数の小孔の列等のガスコンダクタンスを増減させる要素を含む。
【0022】
ノズル20の下面の吹出し口24を挟んで左右の両側に、一対の吸引口25,25が形成されている。各吸引口25は、図1の紙面と直交する方向に延びるスリット状になっている。ノズル20内には、各吸引口25から延びる排気路26が形成されている。排気路26は、排気手段(図示省略)に連なっている。
【0023】
上記構成の大気圧プラズマエッチング装置1を用いて、シリコン基板9の表面を粗化する方法を説明する。
シリコン基板9をステージ7上に載置する。移動手段8によって、ステージ7ひいてはシリコン基板9を左右に往復移動(スキャン)させる。往復移動の範囲の左端は、シリコン基板9の全体が左側の吸引口25より左方にずれた位置とし、往復移動の範囲の右端は、シリコン基板9の全体がノズル20の右側の吸引口25より右方にずれた位置とする。これにより、シリコン基板9の表面の各ポイントが、片道移動ごとにノズル20の左右の吸引口25,25間の処理領域の全体を通過する。
移動速度は、1m/min〜6m/min程度が好ましい。
ノズル20の下面とシリコン基板9の上面との間の距離は、0.5mm〜5mm程度が好ましい。
【0024】
フッ素系原料ガス供給源4において、CFとArの混合ガスからなるフッ素系原料ガスを生成する。CFとArの流量比は、CF:Ar=1:59〜1:19程度が好ましい。
上記フッ素系原料ガス(CF+Ar)に水を添加する。水の添加量は、水添加後のフッ素系原料ガスの露点が12℃〜24℃程度になるように設定するのが好ましい。吹出し口24からの処理ガスの吹出し流量に対する水添加量は、処理ガスの単位流量あたり、2g/m〜9.6g/m程度であることが好ましい。
【0025】
水添加後のフッ素系原料ガス(CF+Ar+HO)を、フッ素系原料ガス供給路4dを経て、プラズマソース10の電極間空間13に導入する。併行して、電源3からの電圧供給によって、電極11,11間に電界を印加して大気圧放電を形成する。これによって、原料ガスを放電空間13でプラズマ化して、HF等のフッ素系反応成分を含むフッ素系反応ガスを生成できる。このフッ素系反応ガスをノズル20の吹出し路21へ導出する。
【0026】
また、酸素供給部5aからの酸素をオゾナイザー5bにてオゾン化し、酸化性反応ガス(O+O)を生成する。酸化性反応ガス中のオゾン濃度は、例えば約8vol%程度である。この酸化性反応ガスを、供給路5cを経て酸化性反応ガス吹出し路22へ導出する。フッ素系反応ガスと酸化性反応ガスの流量比は、(フッ素系反応ガス):(酸化性反応ガス)=2:1〜2:6とするのが好ましく、(フッ素系反応ガス):(酸化性反応ガス)=2:1.2程度がより好ましい。
なお、フッ素系反応ガスの流量は、フッ素系原料ガス(CF+Ar+HO)の流量と略等しく、更には水添加前のフッ素系原料ガス(CF+Ar)の流量と略等しい。
【0027】
さらに、希釈用不活性ガス供給源6からの窒素ガス(N)を、供給路6aを通して(プラズマ空間13を経ずに)希釈用不活性ガス吹出し路23へ送る。希釈用不活性ガス供給源6からの窒素ガス流量は、フッ素系反応ガスとの流量比が(フッ素系反応ガス):(窒素ガス)=2:3〜2:12になるよう設定する。好ましくは、(フッ素系反応ガス):(窒素ガス)=2:5〜2:8とする。
【0028】
ノズル20内においてフッ素系反応ガス吹出し路21のフッ素系反応ガスと、酸化性反応ガス吹出し路22の酸化性反応ガスと、希釈用不活性ガス吹出し路23の窒素ガスとを、互いに合流させて混合し、処理ガスを生成する。この処理ガスを、吹出し口24から噴き出し、シリコン基板9に接触させる。 処理ガスの供給流量は、吹出し口24の図1の紙面と直交する方向の単位長さ(1m)あたり、6slm〜24slm程度が好ましい。
【0029】
これによって、基板9の表面のシリコンが処理ガス中のオゾンと反応して酸化される。このシリコン酸化物とHF等のフッ素系反応成分とが反応し、SiF等の揮発成分が生成される。こうして、基板9の表面のシリコンがエッチングされる。しかも、処理ガスが窒素ガス(N)にて十分に希釈されているため、緩やかにエッチングできる。これにより、シリコン基板9の表面にナノオーダーの凹凸を形成でき、シリコン基板9の表面を粗化できる。よって、シリコン基板9の反射率を低くすることができる。例えば、フッ素系反応ガスと窒素の流量比を(フッ素系反応ガス):(窒素ガス)=2:3〜2:12に設定することで、シリコン基板9の反射率を17%以下にすることができる。フッ素系反応ガスと窒素の流量比を(フッ素系反応ガス):(窒素ガス)=2:5〜2:8に設定することで、シリコン基板9の反射率を12%以下にすることができる(実施例2参照)。
この結果、太陽電池の光吸収率を十分に高めることができ、ひいては発電効率を高めることができる。
【0030】
図1において、矢印付き太線gにて示すように、処理ガスは、吹出し口24の直下のシリコン基板9上で左右二手に分かれ、左右の吸引口25の下方まで流れた後、各吸引口25に吸い込まれる。したがって、シリコン基板9の表面上の各ポイントは、左側の吸引口25の直下と右側の吸引口25の直下との間に在る期間中、処理ガスと接触して処理される。左右の吸引口25,25間の距離をLとし、シリコン基板9の移動速度をVとし、シリコン基板9のスキャン回数をnとすると、シリコン基板9の表面上の各ポイントの累積の処理時間(処理ガスとの接触時間)Tは、
T=n×L/V …(式1)
になる。ここで、1スキャンは、シリコン基板9の片道分の移動を言う。したがって、シリコン基板9が一往復すると、n=2である。
【0031】
1つのシリコン基板9に対し、処理時間Tが、T=24秒〜48秒程度になるようにスキャン回数nを設定する。処理時間Tを24秒以上にすることで、必要な処理量を確保でき、シリコン基板9の反射率を十分に低くすることができる。処理時間Tを48秒以下にすることで、必要以上に処理するのを回避でき、処理ガスを無駄に消費したり処理時間が長期化したりするのを防止できる。
【0032】
上記の大気圧プラズマエッチングによる表面粗化方法によれば、ウェットエッチングによる表面粗化方法の問題点を解消又は緩和できる。すなわち、シリコン基板9の表面上に電極が形成されていたとしても、マスクをしておけば電極の損傷を防止できる。また、シリコン基板9の裏面には処理ガスが当たりにくく、該裏面の平滑度が低下するのを容易に防止できる。さらに、シリコン基板9の厚さにかかわらず確実に処理できる。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その要旨の範囲内において種々の態様を採用できる。
例えば、希釈用不活性ガス供給源6からの窒素等の不活性ガスが、ノズル20内でフッ素系反応ガス及び酸化性反応ガスと混合されることなくノズル20から吹き出され、ノズル20とシリコン基板9との間の空間でフッ素系反応ガス及び酸化性反応ガスと混合されるようにしてもよい。
酸化性反応ガス供給源5からの酸化性反応ガスが、ノズル20内でフッ素系反応ガスと混合されることなくノズル20から吹き出され、ノズル20とシリコン基板9との間の空間でフッ素系反応ガスと混合されるようにしてもよい。
移動手段8が処理ヘッド2に接続され、処理ヘッド2が往復移動されるようになっていてもよい。処理ヘッド2とシリコン基板9の相対位置が固定された状態で、表面処理を行なうことにしてもよい。
【0034】
大気圧プラズマエッチングの前に、シリコン基板9をフッ酸、過酸化水素水等でウェットエッチングすることにしてもよい。ウェットエッチングにより、シリコン基板9の表面にミクロンオーダーの凹凸を形成できる。その後、大気圧プラズマエッチングによって上記ミクロンオーダーの凹凸の表面に更にナノオーダーの凹凸を形成できる。この結果、シリコン基板9の反射率を確実に低くすることができる。
上記の大気圧プラズマエッチングの後、シリコン基板9をNaOH等のアルカリ水溶液でウェットエッチングすることにしてもよい。アルカリ濃度は1wt%程度でよい。浸漬時間は10秒程度でよい。これにより、シリコン基板9の表面を一層粗化でき、反射率を一層確実に低くすることができる。 本発明は、表面粗化すべきシリコン基板であれば、太陽電池用に限られず、他の用途のシリコン基板の処理にも適用できる。
【実施例1】
【0035】
実施例を説明する。本発明が当該実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
シリコンインゴットからスライスした多結晶シリコンウェハを複数枚用意した。表面粗化装置として、図1に示す装置1と実質的に同じ構造の大気圧プラズマエッチング装置を用いた。
CF 0.15slmとAr 2.85slmを混合し、3slmのフッ素系原料ガスを得た。このフッ素系原料ガス(CF+Ar)に水(HO)を露点が20℃になる量だけ添加した。水添加後のフッ素系原料ガス(CF+Ar+HO)をプラズマソース10の大気圧の放電空間13に導入してプラズマ化し、HF等を含むフッ素系反応ガス 3slmを生成した。プラズマソース10への投入電力は、3.5kWとした。
オゾナイザー5bにてオゾン濃度8vol%の酸化性反応ガス(O+O)を生成した。この酸化性反応ガス 1.8slmを、ノズル20に供給した。
さらに、希釈用不活性ガス供給源6から窒素ガス 9slmを、ノズル20に供給した。
ノズル20内でフッ素系反応ガス 3slm、酸化性反応ガス 1.8slm、希釈用窒素ガス 9slmを混合し、処理ガス 13.8slmを得た。処理ガス中のフッ素系反応ガスと希釈用窒素ガス(N)の流量比は、(フッ素系反応ガス):(窒素ガス)=1:3であった。この処理ガスを吹出し口24から吹出し、シリコンウェハ9に接触させ、大気圧プラズマエッチングを行なった。吹出し口24の図1の紙面と直交する方向の長さは、600mmであった。ノズル20の下面とシリコンウェハ9との間の距離は、1mmとした。
処理済みのガスを一対の吸引口25,25から吸引した。一対の吸引口25,25間の距離Lは、L=40mmであった。
処理ガスの吹き付けと同時にシリコンウェハ9を往復移動(スキャン)させた。移動速度は2m/minとした。したがって、1回のスキャン(片道移動)によってシリコンウェハの表面の各ポイントに処理ガスが接触する時間(処理時間)は、1.2秒であった(式1参照)。
サンプルとなるシリコンウェハごとにスキャン回数を変えた。スキャン回数は、10回、20回、40回、60回、80回の5通りとした。
【0036】
分光光度計(日立製U−4100)を用いて、処理後の各サンプルの反射率を測定した。結果を図2及び図3に示す。図2は、各サンプルへの入射光の波長をλ=550nmとした場合の反射率の測定結果を示したものである。図3は、入射光の波長λに対する各サンプルの反射率の測定結果を示したものである。図2において「As slice→AP Etching」との注釈を付けたデータが、本実施例1にて処理した各サンプルに対応する。「As slice→AP Etching」とは、シリコンインゴットからのスライス後、直接、大気圧プラズマエッチングしたことを示す。また、未処理のサンプル、すなわちインゴットからスライスしたままのシリコンウェハの反射率も測定した。
【0037】
図2に示すように、未処理のサンプルは、スキャン回数n=0であり、その反射率は、入射波長λ=550nmに対し約30%であった。スキャン回数が0〜20回までの範囲では、スキャン回数すなわち処理時間Tが増大するにしたがって、反射率が急激に低下することが確認された。スキャン回数が20回になると、反射率が約12%になった。スキャン回数が20回以上の範囲では、スキャン回数を増減させても反射率はあまり変化しなくなった。しかも、図3に示すように、スキャン回数が20回以上では、入射光の波長λに拘わらず、かつスキャン回数に拘わらず、反射率がほぼ一定の範囲(約10%〜17%)に収束するようになった。
このことから、スキャンを少なくとも20回行なえば、すなわち処理時間Tが24秒以上であれば、シリコン表面を所望の低反射率にできることが判明した。処理のばらつきを考慮して、スキャン回数を20回〜40回、すなわち処理時間Tを24秒〜48秒にすることで、所望の処理量を確実に得られ、かつ無駄な処理を防止できると言える。
【0038】
図4は、スキャン回数を40回、すなわち処理時間TをT=48秒としたサンプルの表面を電子顕微鏡で撮影した写真である。同図(a)が処理前であり、同図(b)が処理後である。大気圧プラズマエッチングによってシリコン表面にナノオーダーの凹凸が形成されていることが確認できた。
【0039】
なお、図2において「As slice→Acid Etching→AP Etching」との注釈を付したデータは、シリコンインゴットからスライスして得たシリコンウェハに対し酸又はアルカリにてウェットエッチングした後、大気圧プラズマエッチングした場合の反射率の測定結果である。ウェットエッチングに用いたエッチャントは、酸処理の場合、HF、HNO、HAc等を用い、アルカリ処理の場合、NaOH−NaOCl等を用いて行った。どちらもセル変換効率は約17%となった。大気圧プラズマエッチングの条件及び装置構成は、上記の直接大気圧プラズマエッチングした場合(As slice→AP Etching)と同じであった。
ウェットエッチング後に大気圧プラズマエッチングした場合、大気圧プラズマエッチングだけの場合より反射率をより低くすることができた。
【実施例2】
【0040】
実施例1と同じ装置を用い、9つのシリコンウェハからなるサンプルに対しそれぞれ大気圧プラズマエッチングを行なった。
フッ素系原料ガスは、CF 0.1slmと、Ar 1.9slmの混合ガス 2.0slmとし、これに水を添加した。水添加後のフッ素系原料ガスの露点は、サンプルに応じて12℃、18℃、24℃の三通りとした。
酸化性反応ガスは、オゾン濃度8vol%のオゾン含有ガス(O+O)とし、その流量は1.2slmとした。
希釈用不活性ガスは、窒素(N)とし、その流量は、サンプルに応じて3slm、6slm、12slmの三通りとした。したがって、フッ素系反応ガスと希釈用不活性ガスの流量比は、(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:3、2:6、2:12の三通りであった。
160V、3.1Aの直流を30kHzの交流電力に変換し、プラズマソース10に供給した。
ノズル20の下面とステージ7上のシリコン基板9との間の距離は、1.5mmとした。
シリコンウェハの温度は25℃(室温)とした。
スキャンの速度は2m/minとした。
スキャン回数は40回とした。
【0041】
処理後のサンプルに対し、実施例1と同じ測定器を用いて反射率を測定した。入射光の波長は550nmとした。結果を、図5に示す。
希釈用不活性ガスの流量によって反射率が変化した。フッ素系原料ガスが低露点(12℃)の場合は、希釈用不活性ガスの流量が小さいほど反射率が低くなったが、露点が18℃及び24℃の場合は、希釈用不活性ガスの流量が小さすぎても大きすぎても反射率が高くなり、反射率を最小にする希釈用不活性ガス流量が存在することが確認された。(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:3〜2:12であれば、フッ素系原料ガスへの水添加量を調節することで、反射率を17%以下にできることが確認された。(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:5〜2:8であれば、反射率を12%以下にできることが確認された。
【0042】
図6は、実施例2において、フッ素系原料ガスに添加する水分量を、吹出し口24から吹き出される処理ガスの流量で割って、処理ガスの単位流量あたりの水分添加量に換算し、該水分添加量と希釈用不活性ガス(N)の流量との関係を示したものである。(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:3〜2:12の流量比範囲における露点12℃〜24℃に対応する水分添加量は、単位処理ガス流量あたり、2g/m〜9.6g/m程度である。この水分添加量は、例えば液晶ディスプレイ用シリコン基板のエッチングの場合の水分添加量より十分に小さい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば太陽電池用のシリコン基板を粗化するのに適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 大気圧プラズマエッチング装置
2 処理ヘッド
3 電源
4 フッ素系原料ガス供給源
4a フッ素系原料供給部
4b キャリアガス供給部
4c 加湿器
4d フッ素系原料ガス供給路
5 酸化性反応ガス供給源
5a 酸素供給部
5b オゾナイザー
5c 酸化性反応ガス供給路
6 希釈用不活性ガス供給源
6a 希釈用不活性ガス供給路
7 ステージ(被処理物支持手段)
8 移動手段
9 シリコン基板(被処理物)
10 プラズマソース(フッ素系反応ガス生成部)
11 電極
13 プラズマ空間
20 ノズル
21 フッ素系反応ガス吹出し路
22 酸化性反応ガス吹出し路
23 希釈用不活性ガス吹出し路
24 吹出し口
25 吸引口
26 排気路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる被処理物の表面を粗化する方法であって、
フッ素系原料ガスを大気圧近傍下のプラズマ空間に導入してフッ素系反応ガスを生成し、
前記フッ素系反応ガスと、酸化性反応ガスと、前記プラズマ空間を経ない希釈用不活性ガスとを含む処理ガスを前記被処理物に接触させ、
前記フッ素系反応ガスと前記希釈用不活性ガスの流量比を、(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:3〜2:12とすることを特徴とするシリコンの表面粗化方法。
【請求項2】
前記フッ素系反応ガスと前記希釈用不活性ガスの流量比を、(フッ素系反応ガス):(希釈用不活性ガス)=2:5〜2:8とすることを特徴とする請求項1に記載の表面粗化方法。
【請求項3】
前記被処理物の各位置おける前記処理ガスの接触時間を、24秒〜48秒にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面粗化方法。
【請求項4】
前記処理ガスの単位流量あたり2g/m〜9.6g/mの水を前記フッ素系原料ガスに添加したうえで、前記フッ素系原料ガスを前記プラズマ空間に導入することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面粗化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−245405(P2010−245405A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94295(P2009−94295)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】