説明

シリコンウエハの加工方法及び貫通電極付3次元シリコンインターポーザ並びにチップサイズパッケージ

【課題】シリコンウエハに貫通孔を形成することが不可欠なチップサイズパッケージや3次元積層型のパッケージについて、シリコンウエハに直接識別記号を形成する技術を提供することを目的とした
【解決手段】少なくとも、シリコンウエハ上に感光性レジストを塗布する塗布工程、感光性レジストを所定のパターンを有する濃度分布マスクを介して露光する露光工程、感光性レジストにシリコンウエハが露出する開口部と露出しない開口部とを形成する現像工程、ドライエッチングにより感光性レジスト開口部に対応する部位のシリコンウエハを除去してシリコンウエハに導通用の貫通孔と非貫通孔から構成される識別記号とを同時に形成する工程、残余の感光性レジストを除去する工程、とを有することを特徴とするシリコンウエハの加工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通電極もしくはビアホールを有する3次元実装パッケージやチップサイズパッケージを製造する上で必要な技術であって、当該パッケージを構成する個片化されたシリコンチップが原シリコンウエハのどこに位置していたかを知るための識別記号をシリチップに刻印する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SiP(System in Package)やMCM(Mult Chip Module)、MCP(Mult Chip Package)などパッケージ類では、複数のICチップを平面的ならべるか、あるいはそれらを垂直に積み重ねて1つのパッケージに収容することで電子基板上の占有面積を小さくしている。配線基板もしくはICチップを搭載した基板を3次元的に積層する場合、積み重ねた基板の周辺に沿ってワイヤーボンディングにより互いを接続するか、基板等を垂直に貫く貫通電極を介して垂直方向の接続が行われている。
【0003】
貫通電極方式では、最上層に搭載するICチップの大きさにも関係するが、概ね数μm〜200μm程度の間隔で貫通孔を単位基板内に配列できるので数千本単位で接続が可能となっている。また、接続距離が短くなりノイズを受けにくく、寄生容量も抵抗も小さくて済むので信号の遅延や減衰、波形の劣化が少なく、回路の高速動作と低消費電力化が可能である。
【0004】
シリコンウエハを用いるパッケージ形態の一つにウエハプロセスをそのまま使用してパッケージングまで行うウエハレベルチップサイズパッケージ(WL−CSP)がある。WL−CSPは、半導体加工を行った後、そのウエハプロセスで最配線、電極形成、樹脂封止、ダイシングまで全て行い、最終的にウエハに割り当てられた半導体素子部の大きさがほぼパッケージの大きさとなるので小型軽量化の点から携帯電話等に盛んに使用されている。
【0005】
いずれにしても、貫通電極方式の3次元実装パッケージやチップサイズパッケージ(CSP)は、1枚のウエハ上で半導体素子や配線層を多面付けにて加工を行い、最終的に個片化するものである。その後、個片化したものが機能しているかどうかの検査を行う。欠陥や不良品が見つかった場合、原ウエハのどの辺りに不良の配線層や半導体素子があったのかを知ることは欠陥の原因を究明し収率をアップするためには不可欠である。そのためには、ウエハ上での位置情報を識別記号として単位の個片毎に記録しておければ都合がよい。
【0006】
シリコンウエハ上に面付けされた各々の部分に識別情報を形成するための技術として、CSPについては半導体素子を保護する絶縁樹脂層の上に接続用配線をフォトリソ法を用いて形成するのと同時に個片に割り当てられた区画の隅に2進数からなる識別記号を同じ配線層材料で形成している(特許文献1参照)。シリコンウエハの表裏の最上層に識別記号を形成することについては特許文献2に開示されている。特許文献3には2次元バーコードパターンを情報記録に使用することの記載がある。いずれも配線層材料をパターニングすることで識別記号化している。
【0007】
別の方法としては、レーザーマーカーやインクジェット法で識別記号を形成する技術が知られているが、これらは主として半導体パッケージの物流管理に使用される場合が多く
外装パッケージのケース表面に形成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−1000581号公報
【特許文献2】特開2006−351772号公報
【特許文献3】特開平11−26333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
識別記号をインキジェット印字機やレーザー照射で形成する方法は、識別記号の描画のためだけの専用装置と専用工程が必要で工程数が増えるという難点がある。
また、インキジェット方式では識別記号が下地基板から凸状に盛り上がるので、凸部を構成する付加材料が洗浄等により剥がれたり、溶解してしまうという問題がある。また、同一材料で凸部を形成したとしても、表面研磨や後加工中に記録情報が消失してしまうことがある。
【0010】
識別記号をエッチングなどで配線材料を凹状あるいは凸状に形成したパターンとすれば、付着したものに比べれば、表面研磨や洗浄に対して耐久性を有するが所詮シリコンウエハ上に成膜したに過ぎず脱落したり剥がれる危険性は無視できない。
そこでシリコンウエハ自体に直接識別記号を刻印形成できれば、剥がれ落ちたりする心配がないが、平面上に配線層を形成するだけの加工しか必要ないものにわざわざ刻印するまでのことは無い。
【0011】
そこで本発明は、シリコンウエハに貫通孔や貫通電極を形成することが予定されているチップサイズパッケージ(CSP)や貫通電極方式の3次元積層型のパッケージについて、シリコンウエハに直接識別記号を形成する技術を提供することを目的とした。識別記号は、目視や撮像装置で認識されればよく、深さが貫通電極並みに深いと本来の回路とは関係のないところに導通構造ができ、そこが原因となる不良が発生する恐れがあるため、貫通することなく表面からある程度の深さを有する凹部であればよい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するための請求項1に記載の発明は、少なくとも、シリコンウエハ上に感光性レジストを塗布する塗布工程、感光性レジストを所定のパターンを有する濃度分布マスクを介して露光する露光工程、感光性レジストにシリコンウエハが露出する開口部と露出しない開口部とを形成する現像工程、ドライエッチングにより感光性レジスト開口部に対応する部位のシリコンを除去してシリコンウエハに深さの異なる貫通電極用の孔と識別記号用の孔とを同時に形成するエッチング工程、残余の感光性レジストを除去する工程、とを有することを特徴とするシリコンウエハの加工方法としたものである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の加工方法で加工された部位を有するシリコンウエハを用いて製造されたことを特徴とする貫通電極付3次元シリコンインターポーザとしたものである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の加工方法で加工された部位を有するシリコンウエハを用いて製造されたことを特徴とするチップサイズパッケージとしたものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明は、感光性レジストの膜厚に差をつけシリコンウエハのドライエッチン
グに入るタイミングに差をつけるようにして、貫通電極用の孔と識別記号となる貫通電極用孔より浅い非貫通孔を同時に形成するものである。複数の非貫通孔を組み合わせて構成される識別記号は、加工済みのシリコンウエハが断裁されて個片のシリコンチップとなった際、もし当該シリコンチップに欠陥や不良が検知された場合には、このシリコンチップが断裁前のシリコンウエハ上のどこにあったかを示す情報として使用できる。その位置がわかる情報等をコード化して識別記号としたものである。
本発明によれば、シコンウエハ表面に彫刻された構造的に安定で耐久性のある識別記号を特別なレーザーやインクジェット印刷装置を使用することなしに、ウエハプロセスをそっくりそのまま使用して余分な費用と時間を費やすことなしに形成することができる。
【0016】
請求項2及び請求項3の発明は、少なくとも請求項1に記載の加工が施されたされた貫通孔及び識別記号を備えるシリコンウエハの用途として、チップサイズパッケージとICチップを多数積層して形成する3次元実装パッケージとを特定したものである。これらのパッケージは、シリコンウエハを貫く貫通孔もしくは深さの深いビアホールを必須の要素とし、さらにパッケージ化された後に種々の電気的検査が行われるのを常とするからである。したがって、識別記号を貫通孔やビアホールと同時形成しておくと、検査時に異常が検知された当該パッケージを構成するシリコンチップのウエハ上での位置の特定が容易になるからである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)単位のシリコンチップ(一区画)に対して、貫通電極用の孔と識別記号用非貫通孔の設計の一例を示した平面図である。(b)円形の非貫通孔を複数個組み合わせて数字として見えるように配置した識別記号の一例を示す図である。
【図2】ウエハを区画するレイアウトの一例の正面図である。
【図3】貫通電極用の孔と識別記号用非貫通孔を形成するフォトリソグラフィ工程の流れを説明する断面視の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
シリコンウエハに微細でアスペクト比の高い孔を形成する技術の一つにドライエッチング方式がある。ドライエッチングは貫通電極となる貫通孔あるいは非貫通孔を形成するための工程で使われているが、通常は半導体素子が多面付けされるウエハ全面に適用される加工工程なので、パターンのサイズが同じであれば、同じ深さとなるように加工されるものである。
【0019】
尚、本発明は、貫通孔を備えるべきシリコンチップに限定されるものではなく、最初に非貫通孔をあけた後、シリコンを薄板化して貫通電極化するシリコンチップにも適用されるので、以下の記載では、貫通電極用の孔として説明してある。
【0020】
ところで、シリコンウエハには多数の同じ配線パターンや半導体素子が多面付けで形成されるので、シリコンウエハ5は、図2に示すように多面付けの数だけ区画されることになる。したがって、区画された全ての区画6あるいは適切に選択された区画内に、図1で示すような当該区画1がシリコンウエハ5のどこを占めていたかが紐付けできるような識別記号3を刻印する必要があるが、この識別記号3は目視や撮像装置で認識できればよく、凹部が深くなり導通構造となってしまうことを避けるため、この識別記号部分の凹部は浅くエッチングする必要がある。
【0021】
ドライエッチングで孔の深度の違うものを作る方法としては、ドライエッチング工程の途中でエッチングを止めて、被加工物を取り出して他の材料でエッチングが不要な部位を
再被覆してから再度エッチングを続ける方法や、エッチング途中で取り出して最初にレジストで被覆しておいた部位のレジストを取りのぞいてからエッチングを再開するなど、部分的にシリコンのエッチング時間を調整することで、深度の異なる孔を形成する方法がある。
【0022】
しかし、例えば直径8インチのシリコンウエハ5への加工では1000個を越える区画6が配置されている場合が多く、被覆用マスクの取付、取り外しの作業は非常に煩雑なものになる。本発明は、貫通孔2と識別記号用の非貫通孔4について、前者については感光性レジストにシリコンウエハ5が露出する完全な開口部を対応させ、後者についてはシリコンウエハ5が露出しないようレジストが底部に少し残る不完全な開口部を対応させるように感光性レジストを露光・現像処理したものである。
【0023】
このようにするとレジストが残存して被覆されている開口部15と完全な開口部14ではドライエッチングが開始されるタイミングが違ってくる結果、ウエハ自体がエッチングがされるエッチング時間に差が生じるからである(図3を参照)。識別記号用の非貫通孔は最初は孔内の底部に残ったレジストがエッチング除去されるまでの間はその下のシリコンが加工されず、レジストが完全に除去されてからシリコンの加工が始まることになる。残存させる膜厚を調整して深さの調整もできる。
【0024】
本発明では、こうしたエッチングを進めたくない部分に対して特別な操作を行うことなく、さらには貫通孔2を形成する条件にて加工を行うことで、貫通孔2の形成と、個片位置を特定するための識別記号3を同時に作成することを可能としたことが本発明の特徴である。情報伝達用の識別記号3は、非貫通孔4を複数個組み合わせて所望する形状に構成される。
【0025】
そのために、レジストに完全な開口部14と不完全な開口部15を形成する必要があるが、本発明では濃度分布マスク12を介して感光性レジスト11を露光し、現像するというフォトリソ工法を採用する。濃度分布マスク12とは、露光光の透過量をマスク基板上に設ける遮光パターンの量で調整するか、あるいは遮光度の異なる層を配置したものである。マスクの透過光量が部分的に変わると露光時に感光性レジストの溶解性(ポジ型レジスト)あるいは硬化度(ネガ型レジスト)が部分的に変化することで現像液に対する溶解性が部分的に変化するからである。
【0026】
以下、本発明になるシリコンウエハの加工方法の概要を図3を用いて説明する。
【実施例】
【0027】
使用したシリコンウエハのサイズは、8インチ径で厚みが0.725mmである。
図1(a)はシリコンインターポーザ1個を構成する単位のシリコンチップ1(一区画)に対して、貫通電極用の貫通孔2と識別記号3の配置設計の一例を示したものである。
【0028】
インターポーザの個片サイズ: 3mm x4mm
貫通孔の直径 : 50μmの円形
貫通孔数は48個 : 孔ピッチ250μm
図1(b)は、シリコンチップ1の隅に円形の非貫通孔4を複数個組み合わせて数字として見えるように配置した識別記号3の一例を示すものである。識別記号用の孔は直径15μmの円形とした。識別記号3は、例えば4桁の数字で構成されるが、数字は、図2に示すように、左から2桁は、当該チップ個片のウエハにおける左側から数えた行数、後ろ2桁は下から数えた列数を示すようなものとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
図2は、図1(a)のシリコンチップ区画6を直径8インチのウエハ5にレイアウトした一例である。
【0030】
露光に使用するフォトマスクのパターンは、詳細は省略するが、図1及び図2に対応する実際に投影するものと等倍のサイズで形成した。
【0031】
図3(a)〜(e)は、貫通電極用の孔と識別記号用の浅い非貫通孔を形成するフォトリソグラフィ工程とドライエッチング工程の流れを説明する断面視の工程図である。貫通電極用の孔は先述したように非貫通孔であっても構わない。
【0032】
先ず、シリコンウエハ10の表面に粘度3000cpのノボラック系のポジ型の感光性レジスト11をスピンコーターにて最終的に20μm厚となる厚みに塗布し、オーブンにて加熱(130℃)乾燥した(図3(a))。
【0033】
次に、感光性レジスト11を濃度分布フォトマスク12を介して、一括アライナ露光装置にて露光した。すなわち貫通孔用として完全な遮光部13、非貫通孔用として低透過率の遮光膜14が形成されている濃度分布マスク12を使用した(図3(b)の上側の図)。
【0034】
次に、TMAH系現像液に予め条件出ししてあった所定の時間浸漬した後、水洗し貫通孔部分と識別記号パターン部の非感光部レジストを除去した。現像された孔内のレジストの残存状況を確認したところ、貫通孔18に対応する部位14の底部ではレジストが抜けてシリコンが露出し、識別記号用の非貫通孔19に対応する部位15の底部にはレジスト残りがあることを確認した(図3(c))。
【0035】
シリコンウエハ10のエッチング加工はICP方式の装置にてSF(6フッ化硫黄)によるエッチングとC(パーフルオロシクロブタン)による側壁の保護膜形成を交互に行うボッシュ方式のドライエッチングにより行った。ドライエッチングは、コイル電圧2500Wにて、エッチングステップ6秒、保護膜形成であるパッシベーションステップ2秒を交互に繰り返し、その繰り返しサイクル数400回で行うと、図3(d)に模式的に示すよう貫通孔と浅い非貫通孔が形成された。
【0036】
このあと、アッシング装置にてシリコンウエハ10表面に残ったレジスト17を除去し、貫通孔18と識別用記号用の浅い非貫通孔19が形成されていることを確認した(図3(e))。識別記号用の非貫通孔19の深さは、約30μmであった。
【0037】
孔あけしたシリコンウエハは、熱酸化にて絶縁層形成、バリア層形成、シード層形成、銅めっき、シリコン薄板化、配線形成することでチップサイズパッケージとした(図示せず)。
【0038】
その後は、ダイシングソーにて個片に切り出し、個片毎に取り出して導通検査など所定の検査を行い、出荷規格範囲内の性能のものを出荷した。規格から外れた個片に関しては上面隅の識別記号にて集計し、工程内での不良発生原因を調べるための試料とした。
【0039】
3次元シリコンインターポーザは、上記の工程で製造したシリコンウエハの貫通孔を導電性材料で埋設してから複数位置合わせをした上で積層し、所定の工程を経た後ダイシングソーにて個片に切り出して製造できる。
【符号の説明】
【0040】
1、シリコンウエハ上の1区画相当
2,貫通電極用の孔
3,識別記号
4、識別記号を構成する非貫通孔
5、シリコンウエハ
6、1区画
10、シリコンウエハ
11、感光性レジスト
12、濃度分布フォトマスク
13、完全遮光部
13’、低透過率遮光部
14、開口部(レジストの)
15、浅い開口部(同上)
17、残余の感光性レジスト
18、貫通孔
19、識別記号を構成する非貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、シリコンウエハ上に感光性レジストを塗布する塗布工程、感光性レジストを所定のパターンを有する濃度分布マスクを介して露光する露光工程、感光性レジストにシリコンウエハが露出する開口部と露出しない開口部とを形成する現像工程、ドライエッチングにより感光性レジスト開口部に対応する部位のシリコンウエハを除去してシリコンウエハに導通用の貫通孔と非貫通孔から構成される識別記号とを同時に形成するエッチング工程、残余の感光性レジストを除去する工程、とを有することを特徴とするシリコンウエハの加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工方法で加工された部位を有するシリコンウエハを用いて製造されたことを特徴とする貫通電極付3次元シリコンインターポーザ。
【請求項3】
請求項1に記載の加工方法で加工された部位を有するシリコンウエハを用いて製造されたことを特徴とするチップサイズパッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−243897(P2012−243897A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111233(P2011−111233)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】