説明

シリコン単結晶インゴットの製造方法

【課題】酸素ドナーのような不純物を含み、不純物濃度の高いシリコン原料(リサイクル原料)であっても、所望の(制御された)電気抵抗率を有するシリコンインゴットを容易に、かつ優れた量産安定性をもって得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】不純物を含むシリコン原料の電気抵抗率を測定し、得られた電気抵抗率の測定値に応じて、該シリコン原料を分類する工程および前記電気抵抗率の測定値に応じて、ボロン(B)の添加量を算出してボロン(B)を含む材料をシリコン原料に添加する工程を含む、制御された電気抵抗率を有するシリコン単結晶インゴットを融液成長法により製造することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の製造に適したシリコン単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶インゴット(以下「単結晶インゴット」ともいう)は種々の方法により製造され、そのひとつに引き上げ法(チョクラルスキー(CZ)法)がある。
図2は、CZ法による結晶成長を示す模式断面図である。
CZ法では、例えば、多結晶シリコンとドープ材を含んだ原料を円筒状の石英ルツボ1に充填し、高周波加熱や抵抗加熱により外側から原料を融解してシリコン融液21を得、シードホルダ22にセットされた種結晶(シード)23をシリコン融液21に浸漬した後、回転させながら徐々に引き上げることにより単結晶インゴット24を得る。
【0003】
図3は、CZ法により製造された単結晶インゴットの一例を示す模式断面図であり、この図を用いて単結晶インゴットの製造方法についてさらに具体的に説明する。
まず、断面寸法12〜13mmφ程度の円柱状などの種結晶をシリコン融液に接触させ、種結晶およびるつぼの回転速度や引き上げ速度などを調整しながら、種結晶の断面寸法を直径3〜5mm程度に一旦細くしてネック(絞り部)101を形成する。なお、図3は種結晶が切断された状態を示している。このネッキング(絞り)は、熱衝撃により種結晶に高密度で発生したスリップ転位の伝播を抑え、転位を消滅させることを目的としている。
【0004】
次いで、種結晶およびるつぼの回転速度や引き上げ速度などを調整しながら、所定の直径10〜30cm程度(4〜12インチ程度)になるまで結晶径を拡大させて、クラウン102およびショルダー(肩)103を形成し、単結晶の製品部分となる所定の直径の直胴部(ボディ、定径部)104を所定の長さに形成する。
【0005】
最後に、種結晶およびるつぼの回転速度や引き上げ速度などを調整しながら、ボディの定径部から徐々に直径を細く絞り、シリコン融液から単結晶インゴット切り離す。このような切り離し技術により、熱的な転位発生の伝播を抑えることができる。この単結晶インゴットの逆円錐状の部分はテール105と呼ばれ、転位発生の伝播を抑えるためには、円錐高さ方向の長さを少なくともボディ104の直径以上になるように形成する。
【0006】
図4は、CZ法における原料の充填方法を示す模式断面図である。図中、1は石英るつぼ、2はシリコン原料を示す。
原料の多結晶シリコンとしては、一般にシーメンス法によって製造される棒状や片状あるいはそれらを砕いた塊状の不規則な形状をした、不純物をほとんど含まない高純度な多結晶シリコンを用いることが多い。そこで、所望の電気抵抗率を有するシリコン結晶を得るために、ホウ素(B)やリン(P)などのドープ材を添加する(ドーピング)。
この「ドーピング」については、志村忠夫著、「半導体シリコン結晶工学」、丸善、1993年9月、p.40−41(非特許文献1)に詳述されており、原料の多結晶シリコンの不純物濃度と電気抵抗率の相関関係に基づいて、適当なドープ材を原料の多結晶シリコンに添加することが記載されている。
【0007】
一方、半導体デバイスの中でも、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、地球環境問題に対する関心が高まるにつれて、近年急速に種々の構造や構成のものが開発されている。
このような太陽電池の中でも、単結晶シリコンウエハを用いた単結晶シリコン太陽電池は、最も歴史的に古いものの一つであり、高い変換効率が得られることおよび製造コストが比較的安価であることから今なお生産量が拡大している。
【0008】
単結晶シリコンウエハは、一般にCZ法による単結晶インゴットから製造されるが、単結晶シリコン太陽電池の生産量の拡大に伴い、太陽電池用の単結晶インゴットの生産量は急速に伸び、高集積半導体デバイスなどに用いられる半導体産業用の単結晶インゴットの生産量に迫る勢いである。
そこで、太陽電池用の単結晶インゴットの製造では、他用途の単結晶インゴットよりも低コスト化が要求されている。
また、近年では単結晶インゴットの原料である多結晶シリコン材料の価格が不安定になり、単結晶インゴットからシリコンウエハに加工する際に生ずる廃材、つまり最も大きな廃材部分であるテール105やクラウン102(図3参照)をリサイクル原料として利用している。
【0009】
また、CZ法では、液体の熱容量と固化現象のバランスを保ちながら結晶を成長させるので、1回の製造においてシリコン融液21(図2参照)を全て使い切ることは困難である。るつぼに残ったシリコン融液は「るつぼ残」として、るつぼの壁面に密着したまま固化し残留する。るつぼ材料が石英(二酸化珪素、SiO2)であることから、「るつぼ残」とるつぼが化学的に結合し、これらを物理的に分離(剥離)することは困難である。
そこで、るつぼ、すなわち二酸化珪素のみを溶解し得るフッ酸に、「るつぼ残」が固着したるつぼを1日程度浸漬して、「るつぼ残」のみを再利用している。このリサイクル原料には、通常、多量の酸素が含まれているが、この酸素を除外することは容易ではない。
【0010】
さらに、太陽電池は、太陽光を有効利用するために、パネル上の縦横に隙間なくシリコンウエハを配置するのが好ましい。しかしながら、円筒形の単結晶インゴットからシリコンウエハを加工するので、正方形に加工すれば加工ロスが多くなる。
そこで、太陽光の有効利用と加工ロスにかかる費用との兼ね合いから、単結晶インゴットをできるだけ四角形に近い形状(擬似四角形)に加工したシリコンウエハが使用されている。したがって、パネル上にシリコンウエハを配置したとき、擬似四角形のR部分は隙間となり、太陽光を受けることができない。例えば、6インチの単結晶インゴットでは、5インチ程度の擬似四角形のシリコンウエハが加工されている。
この加工の廃材もテール105やクラウン102(図3参照)の廃材と共にリサイクル原料として利用している。
【0011】
図5は、太陽電池用のシリコンウエハの加工工程において廃材が生み出される様子を示す模式図、(a)シリコンブロックの加工を示す斜視図、(b)シリコンウエハの平面図および(c)かまぼこの斜視図である。
図5(a)に示すように、単結晶インゴットのうち太陽電池用のシリコンウエハの製品仕様を満たす部分であるボディ104(図3参照)を、ブロックの切断線202に沿って加工してブロック201を得る。次いで、図5(b)に示すように、ブロック201をスライス加工して、ウエハ203を得る。
このような加工において、図5(c)に示すような、その形状から「かまぼこ4」と呼ばれる廃材が生み出される。
【0012】
【非特許文献1】志村忠夫著、「半導体シリコン結晶工学」、丸善、1993年9月、p.40−41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
リサイクル原料は、既にドーピングされた単結晶インゴットの廃材であり、そのシリコンは一定の電気抵抗率を有する。したがって、リサイクル原料を用いて新たに単結晶インゴットを製造する場合には、これらのリサイクル原料の電気抵抗率を不純物濃度に換算し、所望の電気抵抗率から換算される不純物濃度に不足している差分を添加することになる。この電気抵抗率の測定方法には、一般的な四探針法や渦電流法が用いられる。
【0014】
リサイクル原料のシリコンは、様々な電気抵抗率を有するので、まずこれらを分類する必要がある。そして、この分類結果から、分類範囲の中心値の電気抵抗率を不純物濃度に換算して必要なドープ材の添加量を計算し、得られた計算値のドープ材をリサイクル原料に添加してインゴットを製造する。
しかしながら、発明者の初期の検討では、所望の電気抵抗率のシリコンインゴットを得ることができなかった。
【0015】
そこで、発明者は、シリコンの電気抵抗率の測定結果に原因があると考え、種々の実験を実施した結果、サーマルドナー(酸素ドナー)の影響であることを想定した。
この酸素ドナーについて、非特許文献1(p.114)には「CZシリコン単結晶中の酸素原子は通常単独では電気的に中性であるが、300〜500℃の温度範囲(特に〜450℃)で熱処理を受けると複数個の原子が集まって電子を放出してドナー化する」と記載されている。
【0016】
リサイクル原料に酸素が含まれる理由としては、CZ法で用いられる石英るつぼの酸素がシリコン融液に取り込まれことが挙げられる。但し、シリコンに酸素が取り込まれることによってシリコンウエハの強度が高まる性質が経験的に知られていることから、石英るつぼを用いることにより、シリコンに故意に酸素を取り込んでいるのが現状である。
【0017】
また、この酸素ドナーについて、非特許文献1(p.115)には「シリコンウエハを600〜800℃の温度で短時間熱処理することによって消去することができる」と記載されている。
したがって、デバイス製造前もしくはデバイス製造中に、熱処理により酸素ドナーを消去することができる。
しかしながら、熱容量の小さな薄いシリコンウエハでは熱処理が容易であっても、リサイクル原料のような「塊」では、加熱して急冷するといったプロセスを1日に数百kgから数tonのオーダーで実施しなければならない。したがって、電力、コストが掛かり、作業性も悪いため、このような処理は実施されていないのが現状である。
【0018】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、酸素ドナーのような不純物を含み、不純物濃度の高いシリコン原料(リサイクル原料)であっても、所望の(制御された)電気抵抗率を有するシリコンインゴットを容易に、かつ優れた量産安定性をもって得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、不純物を含むシリコン原料の電気抵抗率を測定し、得られた電気抵抗率の測定値に応じて、該シリコン原料を分類する工程および前記電気抵抗率の測定値に応じて、ボロン(B)の添加量を算出してボロン(B)を含む材料をシリコン原料に添加する工程を含む、制御された電気抵抗率を有する単結晶インゴットを融液成長法により製造することを特徴とする単結晶インゴットの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、酸素ドナーのような不純物を含み、不純物濃度の高いシリコン原料(リサイクル原料)であっても、所望の(制御された)電気抵抗率を有するシリコンインゴットを再現性よく、かつ作業性よく容易に、かつ優れた量産安定性をもって得ることができる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の製造方法は、不純物を含むシリコン原料の電気抵抗率を測定し、得られた電気抵抗率の測定値に応じて、該シリコン原料を分類する工程および前記電気抵抗率の測定値に応じて、ボロン(B)の添加量を算出してボロン(B)を含む材料をシリコン原料に添加する工程を含む、制御された電気抵抗率を有する単結晶インゴットを融液成長法により製造することを特徴とする。
【0022】
本発明では、シリコン原料に含まれる不純物に好ましい組成の範囲があり、シリコン原料の電気抵抗率の範囲も組成に依存している(支配されている)。本発明は、特に、1×1015cm-3程度以上のボロン(B)を含む(電気抵抗率に換算すると10Ωcm程度以下)ような不純物濃度の高いリサイクル原料に適用することが好ましい。
ここで、リサイクル原料にはボロン(B)以外にも酸素が含まれている。CZ法による単結晶インゴットには、通常1×1018cm-3程度の酸素が含まれているが、これらがすべて活性化しドナー化しているわけではなく、このドナー化に関する定量化について発明者は鋭意検討した。
発明者の検討実験の中で、酸素ドナーは1×1015cm-3程度からそれ以下であることが、得られたインゴットの電気抵抗率と原料の電気抵抗率からの逆算結果より分かった。
したがって、p型の電気抵抗率4Ωcmは、1015cm-3後半であり、4Ωcm以下の高濃度のボロン(B)を有する原料では、Bの量に対して、酸素ドナーの数が少なく、無視できるようになる。
【0023】
一方、p型の高抵抗側では、Bの量も上記の量より減ることになり、n型の酸素ドナーの量に対して無視できないようになるので、実際はp型の電気抵抗率6Ωcm(酸素ドナーがなければ)であるのに、四探針法の測定結果が電気抵抗率9Ωcmと表示されたりするのである。
したがって、四探針法などにより得られたリサイクル原料の電気抵抗率を、酸素ドナーを含まない値に換算する必要が生じるので、発明者は四探針法による測定値と換算値を種々考慮し、所望の電気抵抗率、ここでは電気抵抗率3〜6Ωcmのシリコンインゴットが製造できるかどうかを検証した。単結晶インゴットは、従来技術と同様にして作製した。
【0024】
得られた結果を図1に示す。
図1は、本発明におけるシリコン原料電気抵抗率と原料電気抵抗率の換算値との関係を示す図である。なお、電気抵抗率は四探針法により測定した。
まず、図示しないが、電気抵抗率の測定値が5Ωcm未満のとき、電気抵抗率の測定値を換算する必要がなく、得られた電気抵抗率をそのまま不純物濃度に換算することによって、3〜6Ωcmのシリコンインゴットが得られることが分かった。
電気抵抗率の測定値が3Ωcm未満のときには、シリコン原料が既に必要以上のボロン(B)を含んでいることを示しているので、3Ωcm以上の原料と混合させてインゴットを製造する必要がある。
【0025】
一方、図1に示すように、電気抵抗率の測定値が5Ωcm以上のときには、式(1):
5.0<y<x (1)
(式中、xはシリコン原料の電気抵抗率の測定値であり、yはシリコン原料の電気抵抗率の換算値である)
に示される範囲内で、3〜6Ωcmのインゴットが得られることが分かった。
【0026】
図1では簡単に、3〜6Ωcmの範囲に入ったシリコンインゴットを○印で示したが、具体的には、測定値と換算値が近いほど、つまりy=xに近いほど、原料の電気抵抗率を高く見積もることになる。高抵抗率は、ボロン(B)の濃度が低くなることを意味するので、所望の電気抵抗率のインゴットを得るためには、より多くのドープ材を添加することになる。したがって、y=xに近いほど、得られるインゴットの電気抵抗率は3〜6Ωcmの範囲を満たすものの、3Ωcmに近い結果となった。
【0027】
これに対して、電気抵抗率の測定値xに関わらず換算値yを5.0にすることは、シリコン原料の電気抵抗率を一定、つまり含まれているB濃度は一定と換算することを意味する。測定値xが得られたのは、酸素ドナーがあるためであり、実際の電気抵抗率はすべて5Ωcmであると想定している。この場合は、原料の電気抵抗率を低く見積もることになり、低抵抗率は、Bの濃度が高くなることを意味するので、所望の電気抵抗率のインゴットを得るためには、ドープ材の添加量は少なくなる。したがって、換算値yが5.0に近づけば近づくほど、得られるインゴットの電気抵抗率は3〜6Ωcmの範囲を満たすものの、6Ωcmに近い結果となった。
したがって、式(1)の範囲外では、図示したように、3〜6Ωcmの範囲を満たすことができなかった。
【0028】
したがって、電気抵抗率の測定値が5Ωcm未満のとき、電気抵抗率の測定値からシリコン原料中の不純物濃度を換算し、製造するシリコン単結晶インゴットの電気抵抗率に応じてボロン(B)の添加量を算出し、電気抵抗率の測定値が5Ωcm以上のとき、式(1)に基づいて電気抵抗率の測定値から電気抵抗率の換算値を求め、得られた電気抵抗率の換算値からシリコン原料中の不純物濃度を換算し、製造するシリコン単結晶インゴットの電気抵抗率に応じてボロン(B)の添加量を算出するのが好ましい。
【0029】
以上の検討結果を最適化するため、実際に得られたインゴットに含まれるボロン(B)濃度から逆算によって原料の電気抵抗率を想定できる。その結果、式(2)
y=0.050×x+5.0 (2)
(式中、xはシリコン原料の電気抵抗率の測定値であり、yはシリコン原料の電気抵抗率の換算値である)
に示される換算式が最も安定してインゴットの電気抵抗率は3〜6Ωcmの範囲内に収まることが分かった。
【0030】
これらの検討結果は、すべてシリコン原料に含まれる酸素ドナーの定量化を鋭意検討した結果であり、以上の換算式の範囲、特に(2)式を用いることにより、所望の電気抵抗率を有する単結晶インゴットを再現性よく製造することができる。
【0031】
したがって、式(1)に代えて式(2)に基づいてシリコン原料の電気抵抗率の換算値を求めるのが好ましい。
【0032】
上記の検討では、シリコン原料の電気抵抗率の測定値を厳密にx±0.5Ωcmの範囲で区分したが、実際のシリコン原料を作業性よく使うためには、シリコン原料の電気抵抗率の測定値が5Ωcm未満のとき、1〜1.5Ωcmの幅でシリコン原料を分類し、シリコン原料の電気抵抗率の測定値が5Ωcm以上20Ωcm未満とき、2〜8Ωcmの幅で前記シリコン原料を分類するのが好ましい。
【0033】
5Ωcm未満の低抵抗率の範囲で細かく分類し、5Ωcm以上の高抵抗率の範囲で大まかに分類する理由は、電気抵抗率と不純物濃度の相関に因る。この2つの物理量の関係は、対数関数的な関係にあり、電気抵抗率が大きくなればなるほど、電気抵抗率の変化量に対して、不純物濃度の変化量は小さくなる。
したがって、高抵抗率の範囲で電気抵抗率の分類幅を大きくしても、不純物濃度の範囲は、低抵抗率のときと比べて同程度に収まるため、上記のように電気抵抗率の分類幅を設定するのが好ましい。
【0034】
電気抵抗率の測定値20Ωcmを超えるときには、分類範囲の設定は不要で20Ωcm以上とすることも考えられるが、現状の半導体産業、太陽光発電産業の分野では、このような高抵抗率を有するインゴットの用途は少なく、上記したように、10Ωcm程度以下のインゴットが製造される場合が多いので、あまり高抵抗率の測定値を有するリサイクル原料を得ることは少ないのが現状である。
【0035】
本発明において、シリコン原料は、不純物としてボロン(B)およびサーマルドナー(酸素ドナー)を含むのが好ましい。これらの不純物以外については含まれない、または含んだとしてもppbオーダーであることが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法により得られた単結晶インゴットは、電気抵抗率3〜6Ωcmを有する単結晶インゴットまたは太陽電池用の単結晶インゴットであるのが好ましい。
【0037】
また、定量的に評価している文献はないが、電気抵抗率が10Ωcmと測定されたシリコン原料を用いて、電気抵抗率10Ωcmの単結晶インゴットが得られる場合がある。すなわち、高抵抗率のシリコン原料を用いるときには、単結晶インゴットの電気抵抗率が制御し難い場合がある。
このような場合を考慮して、電気抵抗率が10Ωcm以上の高抵抗率のシリコン原料を用いるときには、使用する原料重量の1/3までを限度として、他の2/3を電気抵抗率の制御し易い、電気抵抗率が3〜6Ωcm程度のシリコン原料またはボロン(B)も酸素も含まない原料メーカから供給されるバージンポリシリコンと呼ばれる原料を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【0039】
実施例および比較例では、下記の条件でCZ法により単結晶インゴットを作製した。
・ボディ部直径:160mm、
・テール部長さ:200mm
・所望の電気抵抗率の範囲:3〜6Ωcm
・電気抵抗率を制御する不純物:ボロン(B)
・使用したシリコン原料:同一条件で引き上げられた結晶からのリサイクル原料のかまぼこ端材60kg
・石英るつぼ:同一グレード品、内径400mm×高さ350mm、
・種結晶:単結晶シリコン、断面寸法13mmφ
・るつぼ回転:10rpm
・種結晶回転:8rpm(るつぼと種結晶の回転方向は逆方向)
・雰囲気ガス(アルゴン)流量:50SLM
・雰囲気圧力:10Torr
・切り離し時の残湯量:6kg(60kg充填中)
【0040】
シリコン原料の融解からネック〜テール形成までは従来技術と同様にして単結晶を引き上げた。
具体的には、まずシリコン原料を石英るつぼに入れて溶融し、シリコン融液に種結晶を接触させ、種結晶およびるつぼを回転させながら引上げを開始した。その後、ネッキング(絞り部)〜クラウン(コーン)〜ショルダー工程を経て、直径16cmの定径部であるボディを形成した。
最後に、種結晶およびるつぼの回転速度や引き上げ速度などを調整しながら、ボディの定径部から徐々に直径を細く絞り、シリコン融液から単結晶インゴット切り離した。
【0041】
(実施例1)
四探針法で測定した電気抵抗率が3〜4.5Ωcmの範囲内に含まれる原料を使用し、電気抵抗率3〜4.5Ωcmの中心値3.75Ωcmを不純物濃度に換算し、所望の不純物濃度、つまり所望の電気抵抗率3〜6Ωcmが得られるように不純物としてドーピング材を投入せず、単結晶インゴットを作製した。
得られた単結晶インゴットのボディ部分の電気抵抗率を測定した。
同様にして、200回、単結晶インゴットを作製し、所望の電気抵抗率を有する単結晶インゴットが得られる確率を求めたところ、98%であった。
【0042】
(実施例2)
四探針法で測定した電気抵抗率が6〜8Ωcmの範囲内に含まれる原料を使用し、換算値y=0.050×x(電気抵抗率測定値の中心値7Ωcm)+5.0で換算した電気抵抗率を不純物濃度に換算し、所望の不純物濃度、つまり所望の電気抵抗率3〜6Ωcmが得られるように不純物として抵抗率0.001Ωcmの高濃度ボロンを含むシリコンドーパントを275mgドーピングして、単結晶インゴットを作製した。
得られた単結晶インゴットのボディ部分の電気抵抗率を測定した。
同様にして、200回、単結晶インゴットを作製し、所望の電気抵抗率を有する単結晶インゴットが得られる確率を求めたところ、95%であった。
【0043】
(比較例)
四探針法で測定した電気抵抗率が8〜12Ωcmの範囲内に含まれる原料を使用し、換算値y=x(抵抗率測定値の中心値10Ωcm)で換算した電気抵抗率を不純物濃度に換算し、所望の不純物濃度、つまり所望の電気抵抗率3〜6Ωcmが得られるように不純物として抵抗率0.001Ωcmの高濃度ボロンを含むシリコンドーパントを896mgドーピングして、単結晶インゴットを作製した。
得られた単結晶インゴットのボディ部分の電気抵抗率を測定した。
同様にして、200回、単結晶インゴットを作製し、所望の電気抵抗率を有する単結晶インゴットが得られる確率を求めたところ、12%であった。
【0044】
所望の電気抵抗率を有する単結晶インゴットが得られる確率は、比較例の12%に対して、実施例1および2がそれぞれ98%および95%であった。
この結果から、実施例1および2では、比較例に対して明らかに電気抵抗率の制御に成功していることがわかり、本発明の有意性が確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明におけるシリコン原料抵抗率と原料抵抗率の換算値との関係を示す図である。
【図2】CZ法による結晶成長を示す模式断面図である。
【図3】CZ法により製造された単結晶インゴットの一例を示す模式断面図である。
【図4】CZ法における原料の充填方法を示す模式断面図である。
【図5】太陽電池用のシリコンウエハの加工において廃材が生み出される様子を示す模式図、(a)シリコンブロックの加工を示す斜視図、(b)シリコンウエハの平面図および(c)かまぼこの斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 石英るつぼ
2 シリコン原料(リサイクル原料)
4 かまぼこ
21 シリコン融液
22 シードホルダ
23 種結晶(シード)
24 単結晶インゴット
104 直胴部(ボディ、定径部)
101 ネック(絞り部)
102 クラウン
103 ショルダー
105 テール
201 ブロック
202 ブロックの切断線
203 ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含むシリコン原料の電気抵抗率を測定し、得られた電気抵抗率の測定値に応じて、該シリコン原料を分類する工程および前記電気抵抗率の測定値に応じて、ボロン(B)の添加量を算出してボロン(B)を含む材料をシリコン原料に添加する工程を含む、制御された電気抵抗率を有するシリコン単結晶インゴットを融液成長法により製造することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項2】
前記電気抵抗率の測定値が5Ωcm未満のとき、該電気抵抗率の測定値から前記シリコン原料中の不純物濃度を換算し、製造するシリコン単結晶インゴットの電気抵抗率に応じてボロン(B)の添加量を算出し、前記電気抵抗率の測定値が5Ωcm以上のとき、式(1):
5.0<y<x (1)
(式中、xはシリコン原料の電気抵抗率の測定値であり、yはシリコン原料の電気抵抗率の換算値である)
に基づいて該電気抵抗率の測定値から電気抵抗率の換算値を求め、得られた電気抵抗率の換算値から前記シリコン原料中の不純物濃度を換算し、製造するシリコン単結晶インゴットの電気抵抗率に応じてボロン(B)の添加量を算出する請求項1に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記式(1)に代えて式(2):
y=0.050×x+5.0 (2)
(式中、xはシリコン原料の電気抵抗率の測定値であり、yはシリコン原料の電気抵抗率の換算値である)
に基づいて前記シリコン原料の電気抵抗率の換算値を求める請求項1に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項4】
前記電気抵抗率の測定値が5Ωcm未満のとき、1〜1.5Ωcmの幅で前記シリコン原料を分類し、前記電気抵抗率の測定値が5Ωcm以上20Ωcm未満とき、2〜8Ωcmの幅で前記シリコン原料を分類する請求項1〜3のいずれか1つに記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記シリコン原料が、不純物としてボロン(B)およびサーマルドナー(酸素ドナー)を含む請求項1〜4のいずれか1つに記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項6】
前記シリコン単結晶インゴットが、電気抵抗率3〜6Ωcmを有するシリコン単結晶インゴットまたは太陽電池用のシリコン単結晶インゴットである請求項1〜5のいずれか1つに記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−215135(P2009−215135A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62635(P2008−62635)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】