説明

シリコン塊の処理方法、およびシリコン破砕物

【課題】表面にクラックが存在していても、エッチング後のエッチング剤の付着量を腐食性ガスの発生量が顕著とならない程度とすることが可能であり、かつ清浄度の高いシリコン破砕物を得ることが可能なシリコン塊の処理方法を提供する。
【解決手段】下記(a)〜(f)の工程を備えるシリコン塊の処理方法。(a)常温のシリコン塊を加熱する工程、(b)前記加熱したシリコン塊を冷却し、クラックを発生させる工程、(c)前記クラックが発生したシリコン塊を破砕してシリコン破砕物とする工程、(d)前記シリコン破砕物を純水に浸漬し、冷却または破砕により表面に発生したクラックに純水を浸透させる工程、(e)前記純水に浸漬したシリコン破砕物の表面を、エッチング剤を用いてエッチングする工程、および(f)前記エッチングしたシリコン破砕物の表面を純水で洗浄し、前記エッチング剤を除去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン塊を破砕して得られるシリコン破砕物の清浄性を向上させることが可能なシリコン塊の処理方法、および清浄性に優れたシリコン破砕物に関し、さらに詳しくは、半導体用単結晶シリコンの製造に用いられるチョクラルスキー法(以下、「CZ法」という。)において製造原料として供されるシリコン破砕物の清浄性を向上させることが可能なシリコン塊の処理方法、およびそのシリコン破砕物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用単結晶シリコンの製造には、CZ法による回転引上げ法が多用されている。このCZ法は、るつぼ内で多結晶シリコンを溶融し、その融液にシリコンの種結晶を浸漬し、種結晶を回転させながら引上げることによって、半導体デバイスの素材として使用される単結晶シリコンを育成する方法である。
【0003】
半導体用単結晶シリコンの原料には、一般にシーメンス法により製造された棒状の多結晶シリコン塊が用いられる。シリコン塊は、タングステンカーバイドなどの超硬工具を用いて破砕され、CZ法を行う坩堝に仕込むのに適当な大きさのシリコン破砕物とされる。半導体用単結晶シリコンは高純度を要求されるため、シリコン破砕物は、表面をフッ硝酸等のエッチング剤でエッチングし、純水で洗浄した後乾燥させてから原料として供される。
【0004】
特許文献1には、破砕前の多結晶シリコンロッドを純水シャワーによって表面に付着した汚れを洗い流した上でエッチングし、純水シャワーでエッチング剤を洗い流す方法が記載されている。また、特許文献2には、多結晶シリコン棒の破砕物を、純水でごみを水洗分離してエッチングした後、再び純水による水洗によりエッチング剤を除去することが記載されている。
【0005】
シリコン塊の破砕は、製造されたままの状態のシリコン塊に対して行う方法と、加熱後急冷して故意に表面にクラックを形成させたシリコン塊に対して行う方法とがある。シリコン塊は硬いため、製造されたままの状態では容易に破砕できないが、クラックを形成させることにより容易に破砕が可能となる。
【0006】
いずれの場合においても、破砕時にはシリコン破砕物の表面に微細なクラックが形成される。このクラックには、エッチングを行う際にエッチング剤が浸入し、エッチング後に純水で洗浄しても排出させることが困難である。そのため、洗浄後のシリコン破砕物表面のクラック内に、エッチング剤が残留したままとなることがあった。
【0007】
クラック内に残留したエッチング剤は、乾燥させたシリコン破砕物の保管時に蒸発等によりクラック内部から表面へ排出され、シリコン破砕物の周辺を汚染したり腐食させたりする原因となる。また、シリコン破砕物をエッチング剤が表面に付着した状態で放置すると、エッチング剤の種類によっては化学酸化膜が生成してシリコン破砕物の表面が変色する現象が生じる。この化学酸化膜にはエッチング剤に含まれていた不純物や保管雰囲気中の不純物が取り込まれる。
【0008】
さらに、エッチング剤がクラック内に残留したシリコン破砕物を原料とした場合、半導体用単結晶シリコンにエッチング剤や取り込まれた不純物が混入するため、品質不良となるおそれがある。また、CZ法による半導体用単結晶シリコンの製造時には、腐食性ガスが発生する原因ともなり、単結晶製造装置を劣化させるおそれがある。
【0009】
特許文献3には、エッチング後のシリコン破砕物表面のクラック内にエッチング剤が残留する問題に対して、高圧水を噴射した衝撃力で棒状多結晶シリコンを破砕することにより破砕物にクラックを発生させず、エッチングする必要をなくすという対処方法が記載されている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の方法では、シリコン塊の割れ方が不規則であり、得られたシリコン破砕物は粒径の分布範囲が広くなるため、所望の粒度のシリコン破砕物の歩留りが低い。また、特許文献3に記載の方法は、従来の設備に代えて高圧水を使用するための設備が必要であり、実施が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−288333号公報
【特許文献2】特開平8−67510号公報
【特許文献3】特開平6−271309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされてものであり、表面にクラックが存在していても、エッチング後のエッチング剤の付着量を腐食性ガスの発生量が顕著とならない程度とすることが可能であり、かつ清浄度の高いシリコン破砕物を得ることが可能なシリコン塊の処理方法、およびエッチング後のエッチング剤の付着量が腐食性ガスの発生量が顕著とならない程度である、エッチングされたシリコン破砕物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、クラック内に純水を満たした状態でシリコン破砕物をエッチングすることにより、クラック内へのエッチング剤の浸入を抑制することが可能であると考え、エッチング前のシリコン破砕物のクラック内に純水を満たすことについて検討した。また、CZ法による半導体用単結晶シリコンの製造時に腐食性ガスの発生が顕著となる、シリコン破砕物表面のエッチング剤の付着量について検討した。
【0014】
その結果、腐食性ガスの発生は、シリコン破砕物表面のエッチング剤の付着量が30ng/cm2を超えると顕著になることがわかった。
【0015】
そして、シャワーによって純水をシリコン破砕物に浴びせただけの場合には、エッチング後のエッチング剤の付着量を30ng/cm2以下とすることができなかった。これは、シリコン破砕物の表面は濡れたものの、クラック内に純水は浸入しなかったためと考えられる。
【0016】
一方、シリコン破砕物を完全に純水中に浸漬した場合には、エッチング後のエッチング剤の付着量を30ng/cm2以下とすることができた。これは、クラック内に純水が満たされ、エッチング時のエッチング剤の浸入を抑制することができたためと考えられる。また、クラック内に純水が満たされたのは、純水浸漬時の水圧の効果によるものと考えられる。
【0017】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記(1)〜(4)のシリコン塊の処理方法、および(5)のシリコン破砕物にある。
【0018】
(1)下記(a)〜(f)の工程を備えるシリコン塊の処理方法。
(a)常温のシリコン塊を加熱する工程、
(b)前記加熱したシリコン塊を冷却し、クラックを発生させる工程、
(c)前記クラックが発生したシリコン塊を破砕してシリコン破砕物とする工程、
(d)前記シリコン破砕物を純水に浸漬し、冷却または破砕により表面に発生したクラックに純水を浸透させる工程、
(e)前記純水に浸漬したシリコン破砕物の表面を、エッチング剤を用いてエッチングする工程、および
(f)前記エッチングしたシリコン破砕物の表面を純水で洗浄し、前記エッチング剤を除去する工程。
【0019】
(2)前記工程(d)を完了した後、前記工程(e)を開始するまでの時間を10時間以内とすることを特徴とする前記(1)のシリコン塊の処理方法。
【0020】
(3)前記工程(a)において、前記常温のシリコン塊を200℃以上1200℃以下に加熱し、
前記工程(b)において、前記加熱したシリコン塊を100℃以下に冷却し、
前記工程(d)において、複数の前記シリコン破砕物からなるシリコン破砕物群の90体積%以上を純水液面下に浸漬することを特徴とする前記(1)または(2)のシリコン塊の処理方法。
【0021】
(4)前記工程(d)において、前記シリコン破砕物の純水への浸漬時間を1秒以上60分以下とすることを特徴とする前記(1)〜(3)のシリコン塊の処理方法。
【0022】
(5)常温から加熱した後冷却してクラックが発生したシリコン塊を破砕して得られるシリコン破砕物であって、エッチング後の表面における単位面積当たりのエッチング剤付着量が30ng/cm2以下であることを特徴とするシリコン破砕物。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシリコン塊の処理方法によれば、表面にクラックが存在していても、エッチング後のエッチング剤の付着量が腐食性ガスの発生量が顕著とならない程度であり、清浄度の高いシリコン破砕物を得ることができる。また、本発明のシリコン塊の処理方法によって得られたシリコン破砕物、および本発明のシリコン破砕物を原料として使用することにより、不純物の少ない高品質の半導体用単結晶シリコンを製造することができ、単結晶製造装置を劣化させるおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシリコン塊の処理方法を実施可能な処理装置の、純水浸漬工程以降の構成例を示す図である。
【図2】エッチング剤の付着量を測定するための超音波洗浄装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.本発明のシリコン塊の処理方法
本発明のシリコン塊の処理方法は、加熱工程、冷却工程、破砕工程、純水浸漬工程、エッチング工程および純水洗浄工程からなる。
【0026】
1−1.対象とするシリコン塊
本発明のシリコン塊の処理方法において、シリコン塊としてはシーメンス法で製造された棒状の多結晶シリコン塊のみならず、CZ法で製造された単結晶シリコン塊も使用することができる。また、大型のシリコン塊は、小型のものと比較して破砕が容易ではない。ここでは、シリコン塊の大きさについて「大型」とは、直径40mm以下の孔を通過できない程度の大きさをいう。本発明のシリコン塊の処理方法は、大型のシリコン塊の破砕処理に有効であり、特に直径100mm以上の孔を通過できない程度の大型のシリコン塊の破砕処理に有効である。
【0027】
1−2.各工程の説明
(1)加熱工程
加熱工程では、加熱炉を用いて、常温のシリコン塊を内部まで温度が上昇するように加熱する。これは、次の冷却工程でシリコン塊にクラックを発生させるように、シリコン塊内部に大きな温度勾配を形成するためである。加熱完了後におけるシリコン塊全体の温度は、クラックを十分に発生させるため、200℃以上とすることが望ましく、300℃以上とすることがさらに望ましい。
【0028】
加熱工程では加熱炉からの汚染を防止するため、加熱温度は高すぎないことが望ましい。ただし、清浄度が極めて高い加熱炉を用いた場合には、1200℃までの加熱が許容される。加熱炉のコストや昇温時間、加熱に必要とするエネルギー等を考慮すると、加熱温度は900℃以下が実用的である。
【0029】
(2)冷却工程
冷却工程では、加熱工程で加熱したシリコン塊を冷却し、シリコン塊にクラックを発生させる。冷却方法は、加熱炉から室温の雰囲気に取り出して放置するだけでもよい。しかし、シリコン塊内部に大きな温度勾配を形成してクラックを効果的に発生させるとともに、冷却時のシリコン塊の汚染を抑制するには、純水に接触させて冷却することが望ましい。純水による冷却は、純水のシャワーを浴びせる方法や、水槽中の純水に浸漬する方法等を適宜採用することができる。
【0030】
(3)破砕工程
破砕工程では、クラックが発生したシリコン塊を破砕してシリコン破砕物とする。シリコン塊の破砕は、ジョークラッシャーや打撃破砕機等の機械で行ってもよいし、ハンマー等の工具によって人力で行ってもよい。
【0031】
(4)純水浸漬工程
図1は、本発明のシリコン塊の処理方法を実施可能な処理装置の、純水浸漬工程以降の構成例を示す図である。処理装置は、純水浸漬槽11、エッチング槽12、純水洗浄槽13および乾燥室14を備える。純水浸漬槽11および純水洗浄槽13は、純水供給管11a、13aを備え、純水11b、13bを収容する。
【0032】
純水浸漬工程では、シリコン破砕物を純水中に浸漬し、冷却工程および破砕工程でシリコン破砕物の表面に発生したクラック中に純水を浸透させる。具体的には、シリコン破砕物群1を、弗素樹脂からなる孔の開いた容器2に収容し、容器2ごと純水浸漬槽11中の純水11bに浸漬する。純水11bは、純水供給管11aから連続的に供給して流動状態としてもよいし、静止状態としてもよい。
【0033】
クラック中に純水を浸透させることにより、次のエッチング工程においてクラックへのエッチング剤の浸入を抑制することができる。クラック中へのエッチング剤の浸入を抑制するには、クラックの奥深くまで純水を浸透させる必要はなく、クラックのシリコン破砕物表面近傍(すなわちクラックの開口部近傍)に純水を存在させればよい。
【0034】
シリコン破砕物の純水中への浸漬は、複数のシリコン破砕物(以下、「シリコン破砕物群」という。)をまとめて浸漬する場合には、半導体用単結晶シリコンの原料中に混入するエッチング剤の総量を単結晶シリコンの品質を低下させず、かつ単結晶製造装置を劣化させない水準とするため、シリコン破砕物群の90体積%以上を純水液面下に浸漬することが望ましく、100体積%を浸漬することがさらに望ましい。
【0035】
クラック中に純水を浸透させるには、シリコン破砕物表面への水圧を高めることが効果的である。そのため、シリコン破砕物を純水液面から20mm以上深く浸漬することが望ましい。
【0036】
シリコン破砕物を純水に浸漬する時間は、1秒以上であればエッチング工程におけるクラックへのエッチング剤の浸入を抑制する効果を得ることができる。しかし、エッチング剤の浸入の抑制効果を十分に得るには、5秒以上が望ましく、30秒以上がさらに望ましい。上限は特にないものの、シリコン塊の処理効率の面から、1時間以下が望ましく、10分以下がさらに望ましい。
【0037】
(5)エッチング工程
エッチング工程では、破砕工程等でシリコン破砕物の表面に付着した異物や不純物を溶解して除去するため、純水に浸漬したシリコン破砕物の表面を、エッチング剤を用いてエッチングする。具体的には、クラックに純水を浸透させたシリコン破砕物群1を、容器2ごとエッチング槽12に搬送し、エッチング剤12aに浸漬する。エッチング剤としては、弗酸、硝酸、過酸化水素水、硫酸、アンモニアおよび水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ単独またはこれらの2種以上を混合した液体を用いることができる。
【0038】
クラック中の純水は、大気に接する部分の面積が小さいため蒸発しにくい。しかし、純水洗浄工程を完了した後、シリコン破砕物を放置すると、蒸発によりクラック中の純水が減少する。クラック中の純水が消失すると、エッチング工程でのエッチング剤のクラック中への浸入を抑制できない。
【0039】
そのため、純水浸漬工程の完了後エッチング工程を開始するまでの時間(以下「エッチング開始時間」という。)は、10時間以内とすることが望ましく、1時間以内にとすることがより望ましい。純水浸漬工程、エッチング工程および純水洗浄工程を連続的に実施する場合には、シリコン塊の処理効率の面から、エッチング開始時間は10分以内とすることが望ましい。
【0040】
(6)純水洗浄工程
純水洗浄工程では、エッチングしたシリコン破砕物を純水で洗浄し、表面に付着したエッチング剤を除去する。具体的には、エッチングしたシリコン破砕物群1を、容器2ごと純水洗浄槽13に搬送し、純水13bに浸漬する。純水13bは、純水供給管13aから連続的に供給して流動状態としてもよいし、静止状態としてもよい。また、洗浄は、シャワーでシリコン破砕物に純水を浴びせることによって行ってもよい。
【0041】
純水で洗浄したシリコン破砕物は、表面に純水が付着しているため乾燥させる。シリコン破砕物の乾燥は、前記図1に示す乾燥室14内で熱風を吹き付けることによって行ってもよいし、放置することによって行ってもよい。
【0042】
本発明のシリコン塊の処理方法によって得られたシリコン破砕物は、エッチング工程により表面の異物や不純物が除去されているのみならず、表面に付着したエッチング剤を30ng/cm2以下とすることができるため、高い純度が要求される半導体デバイスの素材として使用される単結晶シリコンとして利用することができ、単結晶シリコンの製造時に単結晶製造装置を劣化させるおそれもない。
【0043】
2.本発明のシリコン破砕物
本発明のシリコン破砕物は、エッチング後の表面における単位面積当たりのエッチング剤付着量が30ng/cm2以下であることを特徴とする。本発明のシリコン破砕物を原料として使用することにより、単結晶製造装置を汚染することがなく、シリコン単結晶の純度を向上させることができる。本発明のシリコン破砕物は、本発明のシリコン塊の処理方法によって製造することができる。
【0044】
3.シリコン破砕物表面のエッチング剤付着量の測定方法
エッチング後のシリコン破砕物は、水洗を行っていても表面に残留したエッチング剤が付着している場合がある。エッチング剤の付着量は、以下のようにして測定することができる。
【0045】
3−1.概要
図2は、エッチング剤の付着量を測定するための超音波洗浄装置の構成例を示す図である。1検体は、シリコン破砕物1個とする。測定に際しては、検体であるシリコン破砕物21の全体を、容器22中の純水23に浸漬して24時間以上放置し、純水23中にシリコン破砕物21の表面に付着したエッチング剤を溶出させる。容器22中の純水の量は、検体であるシリコン破砕物21の全体が浸漬する量であればよい。その後、シリコン破砕物21を容器22ごと水25の入った超音波洗浄装置24中に入れ、容器22、純水23およびシリコン破砕物21に超音波振動を付与して、シリコン破砕物21表面のクラック中のエッチング剤を排出させるとともに純水23を攪拌し、純水23中のエッチング剤の濃度を均一にする。
【0046】
エッチング剤の濃度が均一となった純水23に対してイオンクロマトグラフ法を適用して、純水23中のエッチング剤濃度を測定する。このエッチング剤濃度に純水の量を乗じ、検体である1個のシリコン破砕物21の表面積の合計で除することにより、その検体についてのシリコン破砕物21の単位表面積当たりのエッチング剤の付着量(以下、単に「エッチング剤付着量」ともいう。)を算出することができる。このような測定および算出を複数の検体について実施し、得られたエッチング剤付着量の平均値を元のシリコン塊から得られたシリコン破砕物のエッチング剤付着量として採用する。検体の数は多いほど得られる数値の精度が高く、100検体であれば十分な精度の値が得られる。
【0047】
3−2.測定条件
エッチング剤付着量は、以下の条件で測定する。
(1)検体
シリコン破砕物の1個で1検体とし、100検体の測定値の平均値をエッチング剤付着量とする。1検体の質量は特に定めるものではなく、サンプリングが容易になるように、サンプリング対象であるシリコン破砕物群の平均質量近傍の質量に適宜決定すればよい。例えば、1検体の質量は120gとすることができる。各検体の質量を揃える方が測定精度が高まるため、各検体は決定された質量の±3%の範囲の物を選定する。1検体の質量を120gとした場合には、116.4g以上123.6g以下のシリコン破砕物を検体として選定する。
(2)超音波振動付与条件
容器中の純水量:400mL
超音波振動付与前の純水浸漬時間:24時間
超音波洗浄装置:UT−204(シャープ株式会社製)
周波数および出力:39kHz、200W
付与時間:600s以上
(3)イオンクロマトグラフ条件
a.装置:DX−500(Dionex社製)
b.カラム:分離カラム AS4A
ガードカラム AG4A
サプレッサーカラム ASRS300
c.溶離液(硝酸、弗酸の場合):
NO3- 1.5mモル Na2CO3+1.0mモル NaHCO3
- 5mモル Na2SO4
d.送液量:2ml/min
e.試料注入量:200μL
【0048】
(4)エッチング剤付着量算出方法
以上の条件で測定した純水中のエッチング剤濃度から、エッチング剤付着量を下記(1)式で算出できる。
A=D×V/S ・・・(1)
ここで、(1)式中の各記号は下記の諸量を意味する(各諸量の単位は任意)。A:シリコン破砕物の単位表面積当たりのエッチング剤付着量、D:純水中のエッチング剤濃度、V:純水量、S:3個のシリコン破砕物の表面積の合計。
3個のシリコン破砕物の表面積の合計Sは、各シリコン破砕物の形状を球体と仮定して算出する。S(cm2)は、各シリコン破砕物の平均重量をW(g)とすると、シリコンの密度が2.33g/cm3であることから、下記(2)式で算出できる。
S=2.75×W2/3 ・・・(2)
【実施例】
【0049】
本発明のシリコン塊の処理方法およびシリコン破砕物の効果を確認するため、以下の試験を行い、その結果を評価した。
【0050】
1.試験条件
常温のシリコン塊を、上述した加熱工程、冷却工程および破砕工程によりシリコン破砕物とした。このシリコン破砕物から、目視で表面にクラックが確認できるものを選別し、純水浸漬工程以降の工程へ移行させる対象とした。選別したシリコン破砕物の表面を観察したところ、クラックの幅は最大で0.3mmであった。
【0051】
実施例のうち、本発明例は、シリコン破砕物に対して前記図1に示す処理装置を用いて処理を行った。また、比較例は、純水浸漬槽における純水への浸漬を行わなかった点のみが、本発明例の処理と異なるものの、その他の点では本発明例と同様の処理を行った。
【0052】
純水浸漬槽、エッチング槽および純水洗浄槽の容量、純水浸漬槽での純水の流量および浸漬時間、エッチング剤の硝酸濃度、純水浸漬槽での純水の流量および浸漬時間、ならびに乾燥室の設定温度およびシリコン破砕物の乾燥時間は、表1に示したとおりである。
【0053】
【表1】

【0054】
選別したシリコン破砕物からなるシリコン破砕物群は、弗素樹脂からなる孔の開いた容器に収容し、容器ごと純水浸漬槽中の純水に浸漬し、クラックに純水を浸透させた(純水浸漬工程)。純水は、純水供給管から連続的に供給し、流動状態とした。
【0055】
クラックに純水を浸透させたシリコン破砕物群は、容器ごとエッチング槽に搬送し、エッチング剤に浸漬した(エッチング工程)。エッチング剤は、硝酸を70重量%含有する、弗酸と硝酸の混合液とし、浸漬時間は5分とした。
【0056】
そして、エッチングしたシリコン破砕物群は、容器ごと純水洗浄槽に搬送し、純水に浸漬してシリコン破砕物の表面からエッチング剤を除去した(純水洗浄工程)。純水は、純水供給管から連続的に供給し、流動状態とした。
【0057】
エッチング剤を除去したシリコン破砕物群は、容器ごと乾燥室に搬送し、熱風を吹付けて、付着した純水を乾燥させた。
【0058】
また、表2に示すように、本発明例である試験番号1〜3の実施例で、純水浸漬工程の完了後エッチング工程を開始するまでの時間(エッチング開始時間)を変化させた。試験番号4の実施例は比較例であり、純水浸漬工程がないため、エッチング開始時間は規定できなかった。
【0059】
【表2】

【0060】
2.試験結果
各実施例で得られた乾燥後のシリコン破砕物の表面のエッチング剤付着量について、単位面積当たりの硝酸付着量を指標として評価した。硝酸付着量は、上述のエッチング剤付着量の測定方法により測定し、100検体の測定値の平均値とした。その結果を表2に示した。硝酸で評価したのは、エッチング剤中の濃度が他の成分よりも高く、濃度の測定が容易であったためである。
【0061】
各実施例で得られたシリコン破砕物について、所望の目開きのJIS標準篩と、それより一段大きい目開きのものとを重ねて篩分けし、粒子径が揃ったものを選別した。選別したシリコン破砕物から無作為に3個を選択してエッチング剤付着量測定の検体とし、上述した測定方法を適用して実施した。
【0062】
本発明例である試験番号1〜3のシリコン破砕物のエッチング剤付着量は、30ng/cm2以下と、半導体用単結晶シリコンの原料として使用しても品質不良や製造装置の劣化等の問題を生じさせない程度であった。エッチング開始時間が長いほどエッチング剤付着量が多いのは、クラック中の純水がエッチング開始までに蒸発して減少し、クラック中にエッチング剤が浸入したためと考えられる。
【0063】
一方、比較例である試験番号4のシリコン破砕物のエッチング剤付着量は、100ng/cm2と非常に多かった。これは、純水の入っていないクラック中に浸入したエッチング剤が純水洗浄工程でも排出できなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のシリコン塊の処理方法によれば、表面にクラックが存在していても、エッチング後のエッチング剤の付着量が腐食性ガスの発生量が顕著とならない程度であり、清浄度の高いシリコン破砕物を得ることができる。また、本発明のシリコン塊の処理方法によって得られたシリコン破砕物、および本発明のシリコン破砕物を原料として使用することにより、不純物の少ない高品質の半導体用単結晶シリコンを製造することができ、単結晶製造装置を劣化させるおそれもない。したがって、本発明は、半導体用シリコン単結晶の分野において有用な技術である。
【符号の説明】
【0065】
1:シリコン破砕物群、 2:容器、 11:純水浸漬槽、 11a:純水供給管、 11b:純水、 12:エッチング槽、 12a:エッチング剤、 13:純水洗浄槽、 13a:純水供給管、 13b:純水、 14:乾燥室、 21:シリコン破砕物、 22:容器、 23:純水、 24:超音波洗浄装置、 25:水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(f)の工程を備えるシリコン塊の処理方法。
(a)常温のシリコン塊を加熱する工程、
(b)前記加熱したシリコン塊を冷却し、クラックを発生させる工程、
(c)前記クラックが発生したシリコン塊を破砕してシリコン破砕物とする工程、
(d)前記シリコン破砕物を純水に浸漬し、冷却または破砕により表面に発生したクラックに純水を浸透させる工程、
(e)前記純水に浸漬したシリコン破砕物の表面を、エッチング剤を用いてエッチングする工程、および
(f)前記エッチングしたシリコン破砕物の表面を純水で洗浄し、前記エッチング剤を除去する工程。
【請求項2】
前記工程(d)を完了した後、前記工程(e)を開始するまでの時間を10時間以内とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン塊の処理方法。
【請求項3】
前記工程(a)において、前記常温のシリコン塊を200℃以上1200℃以下に加熱し、
前記工程(b)において、前記加熱したシリコン塊を100℃以下に冷却し、
前記工程(d)において、複数の前記シリコン破砕物からなるシリコン破砕物群の90体積%以上を純水液面下に浸漬することを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン塊の処理方法。
【請求項4】
前記工程(d)において、前記シリコン破砕物の純水への浸漬時間を1秒以上60分以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン塊の処理方法。
【請求項5】
常温から加熱した後冷却してクラックが発生したシリコン塊を破砕して得られるシリコン破砕物であって、エッチング後の表面における単位面積当たりのエッチング剤付着量が30ng/cm2以下であることを特徴とするシリコン破砕物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225387(P2011−225387A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94931(P2010−94931)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】