説明

シリコン製ノズル基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】剛性及び液滴吐出速度に優れ、しかもインク吐出量を充分に確保することができ、製造に際しては工程数を削減することができるシリコン製ノズル基板等を提供する。
【解決手段】シリコン製ノズル基板1は、液滴を吐出するためのノズル孔11を複数有し、各ノズル孔11はそれぞれ複数の筒状部11a〜11iから構成され、各筒状部11a〜11iの軸方向に垂直な断面積が上面から底面まで一定である。そして、軸方向に垂直な断面形状および断面積がそれぞれ同じである。筒状部11a〜11iは、それぞれの径が10〜40μmであり、長さが30〜100μmである。筒状部11a〜11iは円筒形であって、中心部とその同心円上に配設することができる。また、多角筒形であって、中心部とその同心上に配設するようにしてもよく、断面を正六角形状とし、ハニカム構造状に配置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン製ノズル基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることにより、インク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印刷速度の高速化及びカラー化を目的としてノズル列を複数有する構造が求められており、さらに加えて、ノズルは高密度化するとともに1列あたりのノズル数が増加して長尺化しており、インクジェットヘッド内のアクチュエータ数は益々増加している。このため、ノズル密度が高く、長尺かつ多数のノズル列を有する、小型で吐出特性に優れたインクジェットヘッドが要求され、従来より様々な工夫、提案がなされている。
【0004】
従来のインクジェットヘッドに、シリコン基材にウェットエッチングで未貫通の傾斜したノズル穴部を形成し、反対側からドライエッチングで垂直のノズル穴部を貫通形成してノズル孔を形成したノズル基板を備えたものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−315461号公報(第4頁−第5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術によれば、傾斜したノズル穴部と垂直のノズル穴部を形成しなければならず、ノズル孔の形成工程が複雑で工程数も多い。
このため、ノズル孔を断面積が一定の筒状にして、ノズル孔の形成工程を簡易にし、工程数を少なくすることも考えられるが、シリコン基板の剛性を確保するのと同時に、液滴吐出速度も確保する必要があり、剛性確保のためにはシリコン基板厚すなわちノズル長を40〜100μmとし、液滴吐出速度を確保するためにはノズル径を10〜30μmとしなければならない。しかしながら、この両者を満たす構造だと、ノズル孔の流路抵抗が大きくなり、吐出される液滴量が小さくなってしまう。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、剛性及び液滴吐出速度に優れ、しかもインク吐出量を充分に確保することができ、その製造に際しては工程数を削減することができるシリコン製ノズル基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシリコン製ノズル基板は、液滴を吐出するためのノズル孔を複数有し、各ノズル孔がそれぞれ複数の筒状部から構成され、各筒状部の軸方向に垂直な断面積が上面から底面まで一定である。
【0009】
各ノズル孔がそれぞれ複数の筒状部から構成され、筒状部の数を任意に設定することができるので、筒状部の数を変えることによって、各ノズル孔から吐出される液滴吐出総量を調整することができる。また、ノズル孔は複数の筒状部から構成されるので、トータルとしての液滴量を充分に確保することができる。そして、同時に吐出する小さな複数の液滴で大きな1つのドットを形成することができるので、1つの液滴で大きいドットを形成する場合に比べて液滴量を節約することができる。
また、各ノズル孔の筒状部の軸方向に垂直な断面積が上面から底面まで一定であるので、前記各筒状部を1回の一括垂直加工で形成でき、工程を合理化することができる。
【0010】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板は、各ノズル孔を構成する筒状部は、各筒状部の軸方向に垂直な断面形状および断面積がそれぞれ同じである。
各ノズル孔を構成する筒状部の断面形状および断面積がそれぞれ同じなので、各筒状部のノズル特性、すなわち吐出液滴量や飛翔速度を同じにすることができ、安定したドットを形成することができる。
【0011】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板は、各ノズル孔を構成する複数の筒状部は、それぞれの径が10〜40μmであり、長さが30〜100μmである。
各ノズル孔を構成する複数の筒状部は、それぞれの径が10〜40μmであり、長さが30〜100μmであるので、液滴吐出速度の最適化とノズル基板の剛性の最適化を両立させて、吐出特性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板は、各ノズル孔を構成する複数の筒状部は円筒形であって、中心部とその同心円上に配設されたものである。
ノズル孔を構成する複数の筒状部を円筒形にし、中心部とその同心円上に配設したので、円形のドットを形成することができる。
【0013】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板は、各ノズル孔を構成する複数の筒状部が多角筒形であって、中心部とその同心上に配設されたものである。
各ノズル孔を構成する複数の筒状部は多角筒形であって、中心部とその同心上に配設されたので、ノズル孔の筒状部のノズル密度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板は、各ノズル孔を構成する複数の筒状部が断面を正六角形状としハニカム構造状に配置したものである。
各ノズル孔を構成する複数の筒状部は断面を六角形状としたハニカム構造なので、複数の筒状部を最密に配置することができる。
【0015】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記に記載したシリコン製ノズル基板を備えたものである。
剛性及び液滴吐出速度に優れ、しかも液滴吐出量を十分確保することができるシリコン製ノズル基板を備えた高性能の液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0016】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記に記載した液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
剛性及び液滴吐出速度に優れ、しかも液滴吐出量を十分確保することができるシリコン製ノズル基板を備えた高性能の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置を得ることができる。
【0017】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、シリコン基材の吐出面となる側の面から複数の垂直穴部よりなる垂直穴を形成する工程と、吐出面となる側の面と垂直穴の垂直穴部の内壁とに連続した第1の保護膜を形成する工程と、垂直穴を形成した側の面と反対側の面を薄板化して垂直穴の垂直穴部を開口させる工程と、薄板化した側の面に第2の保護膜を形成する工程と、第1の保護膜の吐出面となる側の面に撥水膜を形成する工程とを有するものである。
【0018】
ノズル孔が複数の筒状部からなるので、ノズル孔を形成する際に、フォトリソとドライエッチングが1回で済み、製造工程を短縮することができる。また、ノズル孔を形成する際、吐出面となる側の面にパターニングを施すため、ノズル孔の吐出口の径を高精度に制御することができる。さらに、第1の保護膜が吐出面からノズル孔の筒状部の側壁まで連続して形成されるので、ノズル孔の吐出口付近の液滴浸漬によるダメージをなくすことができる。
【0019】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のシリコン製ノズル基板の製造方法を適用して液滴吐出ヘッドのノズル基板部分を形成するものである。
剛性及び液滴吐出速度に優れ、しかも液滴吐出量を十分確保することができるシリコン製ノズル基板を備えた高性能の液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0020】
本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造するものである。
剛性及び液滴吐出速度に優れ、しかも液滴吐出量を十分確保することができるシリコン製ノズル基板を備えた高性能の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
図1は本実施の形態1に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)の一部を断面で示した分解斜視図、図2は図1を組立てた状態の要部を示す縦断面図、図3は図1のノズル孔の近傍を拡大して示した平面図、図4は図3のイ−イ断面図、図5は図3のノズル孔を構成する筒状部の斜視図である。
インクジェットヘッド10は、図1および図2に示すように、複数のノズル孔11が幅方向(図2の紙面の垂直方向)に所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0022】
ノズル基板1は、シリコン単結晶基材(以下、単にシリコン基材ともいう)から作製されている。ノズル基板1にはインク滴(液滴)を吐出するためのノズル孔11が1つの吐出室24(後述)に対して1つ開口されており、各ノズル孔11は、図3に示すように、それぞれ複数の筒状部11a〜11iから構成されている。筒状部11a〜11iは、例えば図5に示す円筒状をなし、その軸方向が基板面に垂直であって、軸方向に垂直な断面が同じ円形状をなし、かつ同じ断面積を有している。各ノズル孔11の中心には中心筒状部11aが設けられ、その同心円ハ上の例えば8箇所には、等間隔に同心筒状部11b〜11iが設けられている。ノズル孔11の各筒状部11a〜11iの径aは10μm〜40μmであり、長さbは30μm〜100μmである。
【0023】
上記の説明では、ノズル孔を中心筒状部11aとその同心円ハ上に設けられた同心筒状部11b〜11iとによって形成した場合を示したが(図3参照)、中心部とその中心部からの半径が異なる複数の同心円上に設けるようにしてもよい。
図6は、ノズル孔11を中心部とその異なる2つの同心円上に設けたもので、ノズル孔11の筒状部11a、11j〜11sは図7に示すように円筒状をなし、その軸方向が基板面に垂直であって、軸方向に垂直な断面が同じ円形状をなし、また同じ断面積を有している。各ノズル孔11の中心には中心筒状部11aが設けられ、例えば、内側の同心円ハ上の5箇所には等間隔に内側同心筒状部11j〜11nを設け、その外側の同心円ニ上の5箇所には等間隔に外側同心筒状部11o〜11sを設けたものである。そして、内側同心筒状部11j〜11nと外側同心筒状部11o〜11sとは同心円に沿って千鳥状に配設されている。ノズル孔11の各筒状部11a〜11sの径aは10μm〜40μmであり、長さbは30μm〜100μmである。
【0024】
上記の説明では、ノズル孔11は中心筒状部11aとその同心円ハ上に設けられた同心筒状部11b〜11iとが円筒形をなすが(図3参照)、多角筒形をなすものであってもよい。
図8は、例えばノズル孔11を、断面六角形状のハニカム構造としたものである。ノズル孔11の筒状部11t〜11zは、図9に示すように六角筒形をなし、その軸方向が基板面に垂直であって、軸方向に垂直な断面が同じ六角形状をなし、また同じ断面積を有している。各ノズル孔11の中心には中心筒状部11tが設けられ、その同心上の例えば6箇所には等間隔に同心筒状部11u〜11zが設けられている。ノズル孔11の各筒状部11a〜11iの対角長は10μm〜40μmであり、長さbは30μm〜100μmである。
【0025】
キャビティ基板2は、シリコン単結晶基材(この基材も以下、単にシリコン基材ともいう)から作製されている。シリコン基材に異方性ウェットエッチングを施し、インク流路の吐出室24、リザーバ25をそれぞれ構成するための凹部240、250、及びオリフィス23を構成するための段差部230が形成される。凹部240はノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、ノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部240は吐出室24を構成し、それぞれがノズル孔11に連通し、またインク供給口であるオリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、吐出室24(凹部240)の底壁が振動板22となっている。
【0026】
他方の凹部250は、液状のインクを貯留するためのものであり、各吐出室24に共通のリザーバ(共通インク室)25を構成する。そして、リザーバ25(凹部250)はそれぞれオリフィス23を介して全ての吐出室24に連通している。また、リザーバ25の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔で形成されたインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
また、キャビティ基板2の全面、もしくは少なくとも電極基板3との対向面には、SiO2 膜等からなる絶縁膜26が形成されている。この絶縁膜26は、インクジェットヘッドを駆動させたときに、絶縁破壊や短絡を防止する。
【0027】
電極基板3は、ガラス基材から作製されている。このガラス基材は、キャビティ基板2のシリコン基材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが好ましい。これは、電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合する際、両基板3、2の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2とを強固に接合することができるからである。
【0028】
電極基板3のキャビティ基板2と対向する面には、キャビティ基板2の各振動板22に対向する位置にそれぞれ凹部32が設けられている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31が形成されており、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)Gは、インクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響する。なお、個別電極31の材料にはクロム等の金属等を用いてもよいが、ITOは透明であるので放電したかどうかの確認が行いやすいため、一般にITOが用いられている。
【0029】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。これらの端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部29内に露出している。
【0030】
上述したノズル基板1、キャビティ基板2、および電極基板3は、一般に個別に作製され、これらを図2に示すように貼り合わせることにより、インクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティ基板2と電極基板3は例えば陽極接合により接合され、そのキャビティ基板2の上面(図2の上面)にはノズル基板1が接着剤等により接合されている。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップGの開放端部は、エポキシ等の樹脂による封止材27で封止されている。これにより、湿気や塵埃等がギャップG内へ侵入するのを防止することができる。
【0031】
そして、図2に示すように、ICドライバ等の駆動制御回路4が、各個別電極31の端子部31bと、キャビティ基板2上に設けられた共通電極28とに、フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0032】
上記のように構成されたインクジェットヘッド10において、駆動制御回路4によりキャビティ基板2と個別電極31との間にパルス電圧が印加されると、振動板22と個別電極31との間に静電気力が発生し、その吸引作用により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて撓み、吐出室24の容積が拡大する。これにより、リザーバ25の内部に溜まっていたインクがオリフィス23を通じて吐出室24に流れ込む。次に、個別電極31への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板22が復元し、吐出室24の容積が急激に収縮する。これにより、吐出室24内の圧力が急激に上昇し、この吐出室24に連通しているノズル孔11からインク液滴が吐出される。
ノズル孔11は、中心筒状部11aとその同心円ハ上に設けられた同心筒状部11b〜11iとによって構成されているので(図3参照)、液滴距離が広がっても、同時に吐出する複数の液滴によって、1つの円形のドットを形成する。
【0033】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について、図10〜図17を用いて説明する。図10は本発明の実施の形態1に係るノズル基板1を示す上面図、図11〜図15はノズル基板1の製造工程を示す断面図(図10をロ−ロ線で切断した断面図)である。図16、図17はキャビティ基板2と電極基板3との接合工程を示す断面図であり、ここでは、主に、電極基板3にシリコン基材200を接合した後に、キャビティ基板2を製造する方法を示す。なお、以下に記載の数値はその一例を示すもので、これに限定するものではない。
まず、最初に、図11〜図15により、ノズル基板1の製造方法を説明する。
【0034】
(a) 図11(a)に示すように、シリコン基材41を用意して熱酸化装置にセットする。
【0035】
(b) シリコン基材41を、所定の酸化温度、酸化時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理し、図11(b)に示すように、シリコン基材41の両面、すなわち吐出面となる側の面41a(ノズル基板1の吐出面1aに対応)、及びキャビティ基板2との接合面となる側の面41b(研削後にノズル基板1の接合面1bに対応)に、エッチング保護膜となるSiO2 膜(熱酸化膜)42を、1.0μmの厚みに、均一に形成する。
【0036】
(c) 図11(c)に示すように、シリコン基材41の吐出面となる側の面41aのSiO2 膜42の上にレジスト43をコーティングし、そのレジスト43から、図3のノズル孔11に対応する後述の垂直穴110となる部分(より詳しくは、図12にその一部を示す複数の垂直穴部110a〜110iとなる部分)に対応する部分を除去し、開口43aを形成する。
この開口43aは、例えば、中心の垂直穴部110aとなる部分の1箇所と、その同心円ハ上の垂直穴部110b〜1100iとなる部分の8箇所に設ける。
【0037】
(d) 図12(d)に示すように、図11(c)で形成したレジストパターン(開口43a)をマスクとして、例えば、緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でエッチングし、SiO2 膜42から開口42aを形成する
このとき、接合面となる側の面41bのSiO2 膜42もエッチングされ、除去される。
【0038】
(e) 図12(e)に示すように、レジスト43を硫酸洗浄などにより剥離する。
そして、ICPドライエッチング装置により、SiO2 膜42の開口42aを介してシリコン基材41に所定の深さの異方性ドライエッチングを行い、深さ70μmの垂直穴110(複数の垂直穴部110a〜110i)を形成する。
【0039】
(f) 図12(f)に示すように、シリコン基材41の表面に残るSiO2 膜42をフッ酸水溶液によって除去する。
【0040】
(g) 図13(g)に示すように、シリコン基材41の吐出面となる側の面41aと、垂直穴110の垂直穴部110a〜110iの内壁とに、第1の保護膜(SiO2 膜)46を厚み0.1μmに形成する。
【0041】
(h) 図13(h)に示すように、透明材料(ガラス等)の支持基板50に、紫外線または熱などの刺激で容易に接着力が低下する自己剥離層61を持った両面テープ60を張り合わせる。具体的には、支持基板50に張り合わせた両面テープ60の自己剥離層61の面と、シリコン基材41の吐出面となる側の面41aとを向かい合わせ、真空中で貼り合わせる。これにより接着界面に気泡が残らないきれいな接着が可能となる。
【0042】
(i) 図13(i)に示すように、シリコン基材41の接合面となる側の面41bからバックグラインダーで研削加工し、シリコン基材の厚さが60μmになるまで薄板化し、垂直穴110(複数の垂直穴部110a〜110i)を開口させて、ノズル孔11(筒状部11a〜11i)を形成する。
この薄板化の方法としては、他にポリッシャー、CMP装置による方法がある。これらの加工方法を用いた場合、研磨剤のカス等がノズル孔11内に残るため、ノズル孔11内の研磨材の水洗除去工程などでノズル孔部11の内壁を洗浄する。
【0043】
(j) 図13(j)に示すように、研削後の接合面となる側の面41bに、低温プラズマCVDによって、第2の保護膜(SiO2 膜)47を厚み0.1μmに形成する。
【0044】
(k) 図14(k)に示すように、接合面となる側の面41bに、第1のダイシングテープ70をサポートテープとして貼り付ける。
次に、支持基板50側からUV光を照射して、両面テープ60の自己剥離層61をシリコン基材41から剥離し、支持基板50をシリコン基材41から剥離する。
【0045】
(l) 図14(l)に示すように、シリコン基材41の吐出面となる側の面41aに撥インク処理(撥水処理)を施す。すなわち、フッ素(F)原子を含む撥インク性(撥水性)を持った材料を蒸着やディッピングで成膜し、撥インク膜(撥水膜)48を形成する。このとき、ノズル孔11(筒状部11a〜11i)の内壁も撥インク処理される。
【0046】
(m) 図14(m)に示すように、吐出面となる側の面41aに、第2のダイシングテープ71をサポートテープとして貼り付ける。
次に、接合面となる側の面41bに貼り付けられた第1のダイシングテープ70を剥離する。
【0047】
(n) 図15(n)に示すように、Arスパッタもしくは02 プラズマ処理によって、シリコン基材41のノズル孔11の筒状部11a〜11iに余分に形成された撥インク膜48を除去する。
【0048】
(o) シリコン基材41のダイシングテープ71を貼り付けている側の面とは反対側の面、すなわち接合面となる側の面41bを真空ポンプに連通した吸着治具に吸着固定し(図示せず)、その状態で、図15(o)に示すように、シリコン基材41の第2のダイシングテープ71を剥離する。
こうして、シリコン基材41からノズル基板1が完成する。
なお、図示を省略したが、ノズル基板1には、ノズル孔11を形成するのと同時に、ノズル基材外輪となる部分に貫通溝を形成するようにしており、吸着冶具を取り外す段階でノズル基板1が個片に分割される。
【0049】
本発明に係るシリコン製ノズル基板1によれば、各ノズル孔11がそれぞれ複数の筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)から構成され、筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)の数を任意に設定することができるので、筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)の数を変えることによって、各ノズル孔11から吐出される液滴吐出総量を調整することができる。また、ノズル孔11が複数の筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)から構成されているので、トータルとしての液滴量を充分に確保することができる。そして、同時に吐出する小さな複数の液滴で大きな1つのドットを形成することができるので、1つの液滴で大きいドットを形成する場合に比べて液滴量を節約することができる。
【0050】
また、各ノズル孔11の各筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)の軸方向に垂直な断面がそれぞれ同形状であり、かつ断面積をそれぞれ同じにしたので、ノズル孔11のノズル特性、すなわち液滴量や飛翔速度を同じにすることができ、安定したドットを形成することができる。
【0051】
また、各ノズル孔11を構成する複数の筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)は、それぞれの径が10μm〜40μmであり、長さが30μm〜100μmであるので、液滴吐出速度の最適化とノズル基板1の剛性の最適化を両立させて、吐出特性を向上させることができる。
【0052】
また、各ノズル孔11の複数の筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s)を円筒形にし、中心部とその同心円ハ(ハ及びニ)上に配設したので、円形のドットを形成することができる。これは、ノズル孔11の筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s)を複数設けると液滴の飛翔中に互いの距離が離れるが、筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s)を同心円ハ(ハ及びニ)上に配置したので、距離が広がっても円形ドットを形成することができるからである。
さらに、各ノズル孔11を構成する複数の筒状部11t〜11zは多角筒形であって、中心部とその同心上に配設され、特に、断面を六角形状のハニカム構造とした場合は、ノズル孔11の筒状部11t〜11zを最密に配置することができ、ノズル密度が向上する。
【0053】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板1の製造方法によれば、ノズル孔11が軸方向に垂直な断面積を上面から底面まで一定とした複数の筒状部からなるので、ノズル孔11を形成する際、フォトリソとドライエッチングが1回で済み、製造工程を短縮することができる。また、吐出面となる側の面41aにパターニングを施すため、ノズル孔11の吐出口の径を高精度に制御することができる。さらに、第1の保護膜46が吐出面1aからノズル孔11の筒状部11a〜11i(11a、11j〜11s、あるいは11t〜11z)の側壁まで連続して形成されるので、ノズル孔11の吐出口付近の液滴浸漬によるダメージをなくすことができる。
なお、本実施の形態1に係るシリコン製ノズル基板1の製造方法は、静電駆動方式のインクジェットヘッドに用いるノズル基板の場合を例にして説明したが、圧電駆動方式やバブルジェット(登録商標)方式など、他方式のインクジェットヘッドのノズル基板にも適用可能である。
【0054】
次に、キャビティ基板2および電極基板3の製造方法について説明する。
ここでは、電極基板3にシリコン基材200を接合した後、そのシリコン基材200からキャビティ基板2を製造する方法について、図16、図17を用いて説明する。
【0055】
(a) 図16(a)に示すように、硼珪酸ガラス等からなるガラス基材300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングして、凹部32を形成する。この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状であり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の底部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、電極基板3が作製される。
【0056】
(b) 図16(b)に示すように、シリコン基材200の両面を鏡面研磨した後、シリコン基材200の片面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によってTEOS(TetraEthylOrthoSilicate)からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。なお、シリコン基材200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し、振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとはエッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0057】
(c) このシリコン基材200と、図16(a)のようにして作製された電極基板3を、図16(c)に示すように、例えば360℃に加熱し、シリコン基材200に陽極を、電極基板3に陰極を接続して、800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。
【0058】
(d) シリコン基材200と電極基板3とを陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基材200をエッチングし、図16(d)に示すように、シリコン基材200を薄板化する。
【0059】
(e) シリコン基材200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面にプラズマCVDによって、シリコン酸化膜を形成する。そして、このシリコン酸化膜に、吐出室24となる凹部240、オリフィス23となる段差部230、及びリザーバ25となる凹部250等を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のシリコン酸化膜をエッチング除去する。
その後、シリコン基材200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングして、図17(e)に示すように、吐出室24となる凹部240およびリザーバ25となる凹部250を形成する。このとき、配線のための電極取り出し部29となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、図17(e)のウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0060】
(f) シリコン基材200のエッチングが終了した後に、図17(f)に示すように、フッ酸水溶液でエッチングして、シリコン基材200の上面に形成されているシリコン酸化膜を除去する。
【0061】
(g) シリコン基材200の吐出室24となる凹部240等が形成された面に、図17(g)に示すように、プラズマCVDによりシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。
【0062】
(h) 図17(h)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部34aからレーザ加工を施して、シリコン基材200のリザーバ25となる凹部250の底部を貫通させ、インク供給孔34を形成する。また、振動板22と個別電極31との間のギャップGの開放端部にエポキシ樹脂等の封止材27を充填して封止を行う。また、図1、図2に示した共通電極28を、シリコン基材200の上面(ノズル基板1との接合側の面)の端部に形成する。
【0063】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基材200からキャビティ基板2が作製される。
そして最後に、このキャビティ基板2に、前述のようにして作製されたノズル基板1を接着剤等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0064】
本実施の形態1によれば、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基材200から作製するので、電極基板3によりシリコン基材200を支持した状態となり、シリコン基材200を薄板化しても割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0065】
実施の形態2.
図18は、実施の形態1に係るインクジェットヘッド10を搭載したインクジェット記録装置を示す斜視図である。図18に示すインクジェット記録装置500は、インクジェットプリンタであり、剛性及び液滴吐出速度に優れ、インク吐出量を十分確保することができる実施の形態1に係るインクジェットヘッド10を搭載しているため、安定した高品質の印字が可能である。
なお、実施の形態1に係るインクジェットヘッド10は、図18に示すインクジェットプリンタの他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドを組立てた状態の要部の縦断面図。
【図3】図1のノズル孔の近傍を拡大して示した平面図。
【図4】図3のイーイ断面図。
【図5】図3のノズル孔を構成する筒状部の斜視図。
【図6】ノズル孔の近傍を拡大して示した他の平面図。
【図7】図6のノズル孔を構成する筒状部の斜視図。
【図8】ノズル孔の近傍を拡大して示した別の平面図。
【図9】図8のノズル孔を構成する筒状部の斜視図。
【図10】図1のノズル基板の上面図。
【図11】ノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図12】図11に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図13】図12に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図14】図13に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図15】図14に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図16】キャビティ基板および電極基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図17】図16に続く製造工程の断面図。
【図18】インクジェット記録装置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0067】
1 ノズル基板、1a 吐出面、1b 接合面、2 キャビティ基板、3 電極基板、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a〜11z 筒状部、22 振動板、23 オリフィス、24 吐出室、25 リザーバ、31 個別電極、32 凹部、34 インク供給孔、41 シリコン基材、41a 吐出面となる側の面、41b 接続面となる側の面、42 SiO2 膜、43 レジスト、46 第1の保護膜、47 第2の保護膜、48 撥インク膜(撥水膜)、110 垂直穴、110a〜110z 垂直穴部、500 インクジェット記録装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するためのノズル孔を複数有し、
前記各ノズル孔がそれぞれ複数の筒状部から構成され、前記各筒状部の軸方向に垂直な断面積が上面から底面まで一定であることを特徴とするシリコン製ノズル基板。
【請求項2】
前記各ノズル孔を構成する複数の筒状部は、前記各筒状部の軸方向に垂直な断面形状および断面積がそれぞれ同じであることを特徴とする請求項1記載のシリコン製ノズル基板。
【請求項3】
前記各ノズル孔を構成する複数の筒状部は、それぞれの径が10μm〜40μmであり、長さが30μm〜100μmであることを特徴とする請求項1または2記載のシリコン製ノズル基板。
【請求項4】
前記各ノズル孔を構成する複数の筒状部は円筒形であって、中心部とその同心円上に配設されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板。
【請求項5】
前記各ノズル孔を構成する複数の筒状部は多角筒形であって、中心部とその同心上に配設されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板。
【請求項6】
前記各ノズル孔を構成する複数の筒状部は断面を正六角形状とし、ハニカム構造状に配置することを特徴とする請求項5記載のシリコン製ノズル基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項7記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項9】
シリコン基材の吐出面となる側の面から、複数の垂直穴部よりなる垂直穴を形成する工程と、
前記吐出面となる側の面と前記垂直穴の垂直穴部の内壁とに連続した第1の保護膜を形成する工程と、
前記垂直穴を形成した側の面と反対側の面を薄板化して前記垂直穴の垂直穴部を開口させる工程と、
前記薄板化した側の面に第2の保護膜を形成する工程と、
前記第1の保護膜の吐出面となる側の面に撥水膜を形成する工程と、
を有することを特徴とするシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のシリコン製ノズル基板の製造方法を適用して、液滴吐出ヘッドのノズル基板部分を形成することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−292080(P2009−292080A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148929(P2008−148929)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】