説明

シリンダライナ

【課題】シリンダブロックに挿入保持されるシリンダライナに関し、シリンダボア内(シリンダライナ筒内)からの冷却損失を低減して燃費を向上する。
【解決手段】シリンダブロック2に挿入保持されるシリンダライナ10であって、シリンダライナ10の外周には溝11が形成されており、溝11のシリンダライナ10径方向厚み対する溝深さ率を小さく設定するほど、溝11のシリンダライナ10外周面積に対する溝面積率を大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに挿入保持されるシリンダライナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、エンジンの燃焼室にセラミックスなどの断熱素材を採用してシリンダボアからの冷却損失を低減することで、熱効率を高めた断熱エンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−10129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、断熱エンジンのようにセラミックスなどの断熱素材で燃焼室を遮熱すると、シリンダボアの温度は500℃程度まで上昇する。そして、シリンダボア温度が高温になると、高温状態で燃料の着火遅れが短くなることにより燃焼の悪化が生じる。さらには、シリンダボア内(シリンダライナ筒内)の吸気が加熱されて空気密度が下がることにより体積効率が低下する。そのため、遮熱によりかえって燃費を悪化させてしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡素な構造で、シリンダボア内(シリンダライナ筒内)からの冷却損失を低減して燃費を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のシリンダライナは、シリンダブロックに挿入保持されるシリンダライナであって、当該シリンダライナの外周には溝が形成されており、前記溝の前記シリンダライナ径方向厚み対する溝深さ率を小さく設定するほど、前記溝の前記シリンダライナ外周面積に対する溝面積率を大きく設定することを特徴とする。
【0007】
また、前記溝深さ率を5%〜50%の範囲で設定するとともに、前記溝面積率を60〜95%の範囲で設定してもよい。
【0008】
また、前記溝は、前記シリンダライナの外周において、上部から下部に向かって傾斜するスパイラル状に形成してもよい。
【0009】
また、前記溝は、前記シリンダライナの外周において、周方向に延びる複数の環状に形成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリンダライナによれば、簡素な構造で、シリンダボア内(シリンダライナ筒内)からの冷却損失を低減して燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリンダライナ及び、このシリンダライナが挿入保持されるシリンダブロックの一部を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシリンダライナを示す模式的な側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシリンダライナの一部を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシリンダライナの溝深さと溝面積率との関係を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るシリンダライナを示す模式的な側面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るシリンダライナの冷却損失と排気温度との関係を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るシリンダライナの冷却損失と燃費率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜7に基づいて、本発明の一実施形態に係るシリンダライナを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るシリンダライナ10は、アルミニウム合金製又は、鋳鉄製等のシリンダブロック2のシリンダボア3内に挿入保持されるシリンダライナである。このシリンダライナ10は、シリンダブロック2よりも耐摩耗性の高い金属または、繊維強化金属で形成されている。
【0014】
シリンダブロック2の上部には、図示しないシリンダヘッドがガスケットを介してボルト締結により取り付けられている。また、シリンダボア3内壁面に隣接するシリンダブロック2内には、図示しないラジエータからウォータポンプにより圧送供給される冷却水を流通させるウォータジャケット4が設けられている。
【0015】
図2に示すように、シリンダライナ10の外周面には、その上部から下部に向かって傾斜するスパイラル状の溝11が形成されている。この溝11の溝深さは、シリンダライナ10径方向厚みに対する溝深さ率が5%〜50%の範囲(半分以下)となるように設定される。
【0016】
また、溝11の溝面積は、溝深さを浅くするほど大きくなるように設定される。すなわち、溝深さ率が5%〜50%の範囲で小さく設定されるほど、シリンダライナ10外周面積に対する溝11の溝面積率は60〜95%の範囲で大きく設定される。
【0017】
本実施形態において、シリンダライナ10の径方向厚みは1.5mmで、溝11の溝深さは半分以下の0.6mmに設定されて、かつ、溝11の溝幅は1.0mmに設定されている(図3参照)。
【0018】
ここで、シリンダライナ10の熱伝達率を所定値に維持できる溝深さ率と溝面積率との関係を図4に示す。このように、溝深さ率を5%〜50%の範囲で小さくするほど、溝面積率を60〜95%の範囲で大きく変化させることで、シリンダライナ10の熱伝達率を所定値に維持することが可能となり、シリンダボア3内(シリンダライナ10筒内)からの冷却損失は低減される。
【0019】
なお、溝11は、例えば図5(a)に示すように、シリンダライナ10の外周において周方向に延びる複数の環状溝11aを設けるものであってもよい。また、図5(b)に示すように、シリンダライナ10の外周において円筒軸方向に延びる複数の縦溝11bを設けるものであってもよい。
【0020】
上述のような構成により、本発明の一実施形態に係るシリンダライナ10によれば以下のような作用・効果を奏する。
【0021】
シリンダブロック2のシリンダボア3内に挿入保持されるシリンダライナ10の外周面には、上部から下部に向かって傾斜するスパイラル状の溝11が形成される。そして、この溝11の溝面積は、シリンダライナ10の熱伝達率を所定値に維持すべく、溝深さを浅くするほど大きくなるように設定される。すなわち、溝深さ率が5%〜50%の範囲で小さく設定されるほど、溝面積率は60〜95%の範囲で大きく設定される。
【0022】
したがって、シリンダライナ10の熱伝達率を所定値に維持することで、シリンダボア3内(シリンダライナ10筒内)からの冷却損失を適度に低減することが可能となり、燃費を効果的に向上することができる。
【0023】
さらに、冷却損失が適度に低減することで、排気温度を上昇させることが可能となり、排気系に設けられた後処理触媒の活性化を促進することができる。
【0024】
また、本実施形態において、溝11の溝深さは、シリンダライナ10径方向厚みに対する溝深さ率が5%〜50%の範囲(半分以下)となるように設定される。
【0025】
したがって、溝11を形成した部分の強度を極端に損なうことなく、シリンダボア3内(シリンダライナ10筒内)からの冷却損失を効果的に低減することがきる。
【0026】
また、本実施形態において、溝11の溝形状は、シリンダライナ10の外周面において、その上部から下部に向かって傾斜するスパイラル状に形成されている。
【0027】
したがって、溝11をシリンダライナ10の外周面に形成する際の機械加工を容易にすることができる。
【0028】
ここで、図6,7に、本実施形態に係るシリンダライナ10と、従来品との比較例を示す。なお、図6は冷却損失と排気温度との関係を示し、図7は冷却損失と燃費率との関係を示している。
【0029】
図6では、従来品に対し、本実施形態に係るシリンダライナ10の冷却損失は大幅に低減されるとともに、排気温度が上昇している。また、図7では、従来品に対し、本実施形態に係るシリンダライナ10の冷却損失は大幅に低減されるとともに、燃費率が大幅に下げられていることからも、本発明の効果が分かる。
【0030】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0031】
例えば、溝11の断面形状は、コ字型に限られず、機械加工し易いV字型やU字型の凹溝であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
2 シリンダブロック
3 シリンダボア
4 ウォータジャケット
10 シリンダライナ
11 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックに挿入保持されるシリンダライナであって、
当該シリンダライナの外周には溝が形成されており、
前記溝の前記シリンダライナ径方向厚み対する溝深さ率を小さく設定するほど、前記溝の前記シリンダライナ外周面積に対する溝面積率を大きく設定する
ことを特徴とするシリンダライナ。
【請求項2】
前記溝深さ率を5%〜50%の範囲で設定するとともに、前記溝面積率を60〜95%の範囲で設定する
ことを特徴とする請求項1記載のシリンダライナ。
【請求項3】
前記溝は、前記シリンダライナの外周において、上部から下部に向かって傾斜するスパイラル状に形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載のシリンダライナ。
【請求項4】
前記溝は、前記シリンダライナの外周において、周方向に延びる複数の環状に形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載のシリンダライナ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132376(P2012−132376A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285782(P2010−285782)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】