説明

シリンダーブロック

【課題】摺動面に加わる面圧の異なるピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面のいずれにも、過不足の無い、最適な潤滑特性を与えることのできるシリンダーブロックを提供する。
【解決手段】ピストンに摺接されるシリンダーボアがアルミニウム合金で形成されたシリンダーブロックにおいて、ピストンリング摺動面とピストンスカート摺動面とでプラズマ溶融処理のプラズマ照射条件を異ならせることで、両摺動面のRk+Rvkの比が、両摺動面に加わる面圧の比と同じ比となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンに摺接されるシリンダーボアがアルミニウム合金で形成されたシリンダーブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの軽量化等を目的として、シリンダーブロック材料の、鋳鉄からアルミニウム合金への置換が進められている。一般に、こうしたアルニウム合金製のシリンダーブロックは、アルミニウム合金製のブロック基体に鋳鉄製のシリンダーライナーを鋳込みや圧入により一体化して形成されている。こうしたシリンダーブロックでは、鋳鉄製のシリンダーライナーにより、シリンダーボア表面に必要とされる耐摩耗性や耐スカッフ性、摺動特性等が確保されている。
【0003】
一方、そうしたアルミニウム合金製のシリンダーブロックの更なる軽量化や製造コストの低減等を目的として、鋳鉄製のシリンダーライナーを廃止した、ライナーレス・アルミシリンダーブロックが開発されている。こうしたライナーレス・アルミシリンダーブロックは、シリンダーボア表面の耐摩耗性や耐スカッフ性、摺動特性等を確保するため、シリコン含有率の高いアルミニウム合金(ハイシリンコンアルミ)を使用するのが一般的となっている。
【0004】
そして従来、特許文献1には、アルミニウム合金製シリンダーブロックのシリンダーボアのピストンリング摺動面にレーザー照射を行って、急冷凝固組織の表面部からなる硬質面部と散点状に設けられた油溜まり用の凹部とを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−278090号公報
【特許文献2】特開2010−031840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした従来のシリンダーブロックによれば、良好な潤滑特性を与えて、ピストンリング摺動面の耐摩耗性を向上することが可能である。しかしながら、シリンダーボアのピストンリング摺動面を下側の部位にも、ピストンスカートとの摺接があるため、そうしたピストンスカート摺接面にも、耐摩耗性の確保に必要なだけの潤滑特性を与える必要がある。そこで、ピストンスカート摺動面にも、ピストンリング摺接面と同様の表面処理を行えば、そうしたピストンスカート摺接面にも十分な潤滑特性を付与することができる。しかしながら、ピストンスカート摺接面がピストンリング摺接面と同様の表面性状とされると、ピストンリング摺動面に比してエンジン稼動時に摺動面に加わる面圧が小さいピストンスカート摺動面には必要とされる以上の過大な潤滑特性が与えられることになる。そして、その結果、表面の粗さによってピストンスカートに対する相手攻撃性が高くなり過ぎてしまい、ピストンスカートの摩耗損失が大きくなってしまう。
【0007】
一方、特許文献2には、ピストン摺動面の上側の1/4の部分の表面粗さを、その下側の1/4の部分の表面粗さよりも大きくしたアルミニウム合金製シリンダーブロックが記載されている。このようにすれば、ピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面にそれぞれ必要な耐摩耗性を与えるとともに、ピストンスカートに対する相手攻撃性を抑えることが可能となる。しかしながら、ピストンリング摺動面、ピストンスカート摺動面のそれぞれの潤滑特性が必ずしも最適化されているとは言い難く、いずれかの摺動面に潤滑特性の過不足が生じたり、不必要に相手攻撃性が高くなったりすることがある。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、摺動面に加わる面圧の異なるピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面のいずれにも、過不足の無い、最適な潤滑特性を与えることのできるシリンダーブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、ピストンに摺接されるシリンダーボアがアルミニウム合金で形成されたシリンダーブロックとしての請求項1に記載の発明は、コア部のレベル差をRk、突出谷部深さをRvkとしたとき、ピストンリング摺動面のRk+Rvkとピストンスカート摺動面のRk+Rvkとの比が、当該シンリンダーブロックを備えるエンジンの使用中に前記ピストンリング摺動面に加わる面圧と前記ピストンスカート摺動面に加わる面圧との比と同じ比としている。
【0010】
摺動面に加わる面圧が小さくなれば、摺動面に必要とされるオイル保持量もそれに比例して小さくなる。そして、適切な厚さの油膜を形成するために必要な摺動面のRk+Rvkも、摺動面に加わる面圧に比例して小さくなる。その点、上記構成では、ピストンリング摺動面のRk+Rvkとピストンスカート摺動面のRk+Rvkとの比が、ピストンリング摺動面に加わる面圧とピストンスカート摺動面に加わる面圧との比と同じ比とされている。そのため、ピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面の双方に適切な厚さの油膜が形成されるようになり、面圧の違いに拘らず、両摺動面の潤滑性を好適に確保することができる。したがって、上記構成によれば、摺動面に加わる面圧の異なるピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面のいずれにも、過不足の無い、最適な潤滑特性を与えることができるようになる。
【0011】
なお、そうしたピストンリング摺動面及びピストンスカート摺動面の表面粗さ(Rk+Rvk)の比の設定は、請求項2によるように、プラズマ照射時の単位面積当りの処理エネルギーの調整を通じて行うことができる。こうした場合、プラズマの照射エネルギーを調節のみで各摺動面に必要な表面粗さを与えることができるため、両摺動面の間における表面粗さの変更を容易に行うことが可能となり、部位毎に表面性状を変えることでのシリンダーブロックの製造時間、製造コストの増大を抑えることができる。
【0012】
一方、プラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーとその照射により形成される表面粗さとの間には、概ね正比例の関係がある。よって、請求項3によるように、ピストンリング摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーと、ピストンスカート摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーとの比を、それらに加わる面圧の比と同じ比とすれば、両摺動面の表面粗さの比をそれらに加わる面圧の比と同じ比とすることが可能となる。
【0013】
更に、請求項4によるように、突出山部高さをRpkとしたとき、ピストンリング摺動面のRk+Rpkとピストンスカート摺動面のRk+Rpkとの比を、それらに加わる面圧の比と同じ比とすれば、摺動面に加わる面圧の違いに拘わらず、両摺動面のフリクションを概ね等しくすることができる。
【0014】
また、請求項5によるように、ピストンリング摺動面のRkとピストンスカート摺動面のRkとの比を、それらに加わる面圧の比と同じ比とすれば、摺動面に加わる面圧の違いに拘わらず、両摺動面に概ね同等のスカッフ耐性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシリンダーブロックの側部断面形状を示す断面図。
【図2】特殊粗さ曲線と負荷曲線とを示す図。
【図3】ピストンリング摺動面のオイル保持量とRk+Rvkとの関係を示すグラフ。
【図4】ピストンスカート摺動面のオイル保持量とRk+Rvkとの関係を示すグラフ。
【図5】ピストンリング摺動面の摩擦係数とRk+Rpkとの関係を示すグラフ。
【図6】ピストンスカート摺動面の摩擦係数とRk+Rpkとの関係を示すグラフ。
【図7】ピストンリング摺動面のスカッフ時間とRkとの関係を示すグラフ。
【図8】ピストンスカート摺動面のスカッフ時間とRkとの関係を示すグラフ。
【図9】単位面積当たりの処理エネルギーと表面粗さとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のシリンダーブロックを具体化した一実施の形態を、図1〜図9を参照して詳細に説明する。
本実施の形態のシリンダーブロックは、そのシリンダーボア部分にアルミダイカスト材(ADC12)を使用したものとなっている。そしてシリンダーブロックは、シリンダーボアの表面に、その粗面化及び硬化のためのプラズマ溶融処理を施した後、ホーニング加工を施すことで製造されている。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態では、シリンダーブロックのシリンダーボア1を2つの領域、すなわちピストン2のピストンリング3と摺接するピストンリング摺動面と、ピストン2のピストンスカート4とのみ摺接するピストンスカート摺動面とに区分している。なお同図では、上死点におけるピストン2の位置が実線で、下死点におけるピストン2の位置が一点鎖線でそれぞれ示されている。
【0018】
本実施の形態のシリンダーブロックでは、上記2つの摺動面の、接触式粗さ測定機で測定した表面粗さパラメーターが、それぞれ以下の条件を満すように設定されている。なお、こうした両摺動面の表面粗さパラメーターの差異は、プラズマ溶融処理でのプラズマ照射条件を異ならせることで設定されている。
・ピストンリング摺動面:
Rk>0.65
Rk+Rpk<1.0
Rk+Rvk<2.0
・ピストンスカート摺動面:
Rk>0.30
Rk+Rpk<0.50
Rk+Rvk<1.0
なお、上記表面粗さパラメーター、Rk、Rpk、Rvkは、次のように求められる。図2の左側に示される曲線は、ISO13565及びDIN4776に規定される態様で、表面粗さ曲線にフィルターをかけてうねりを除去したものとなっている。また同図2の右側に示す負荷曲線は、特殊粗さ曲線を抽出曲線とし、これから評価長さ法及びμm法によって求めたもので、統計学上でいう累計確率密度関数に相当するものとなっている。
【0019】
更に同図に示す線分ABは、負荷曲線において、負荷長さ率(tp値)の方向に40%の幅をとるとともに、この両端の高さの差が最小となる位置を探したときにその2点を通る直線(最小傾斜直線)を示すものとなっている。なお同図の点Aは、この最小傾斜直線と、tp=0%の限界線との交点であり、点Cは、この点Aからの水平線と負荷曲線との交点となっている。また点Bは、最小傾斜直線と、tp=100%の限界線との交点であり、点Dは、この点Bからの水平線と負荷曲線との交点となっている。
【0020】
こうした図において突出山部高さ(初期摩耗高さ)Rpkは、0%限界線と辺ACと負荷曲線とで囲まれる部分の面積と等しい、辺ACを一辺とする直角三角形をなすようなtp=0%の限界線上の高さとなっている。また突出谷部深さ(油溜まり深さ)Rvkは、100%限界線と辺BDと負荷曲線とで囲まれる部分の面積と等しい、辺BDを一辺とする直角三角形をなすような100%限界線上の高さとなっている。そしてコア部のレベル差(有効負荷粗さ)Rkは、点C、点D間の高さの差となっている。
【0021】
次に、両摺動面に上記のような表面粗さパラメーターの条件を設定した理由について説明する。ここでは、オイル消費、フリクション、及びスカッフ耐性の3つの観点から、上記条件を設定している。
【0022】
(オイル消費による制限)
発明者らは、プラズマ照射やホーニング加工の条件を変化させることで、面性状を様々に変化させた複数の試験片を製造し、それらのオイル保持量の評価試験を行っている。試験片のオイル保持量は、オイルを塗布した試験片を立てかけた状態で4時間放置し、その前後の試験片の質量差を測定することで算出されている。ここでは、その値を、実際のエンジンでのオイル消費の指標値として使用している。その結果によれば、オイル保持量は、面性状の凹部についての指標値であるRk+Rvkとの相間が強いことが確認されている。
【0023】
図3に、試験により得られたオイル保持量とRk+Rvkとの関係を示す。同図に示されるように、ピストンリング摺動面のオイル保持量を鋳鉄製シリンダーライナーのオイル保持量(1.0ミリグラム/平方センチメートル)と同等以下とするには、そのRk+RvKを2.0マイクロメートル未満とする必要がある。
【0024】
一方、ピストンスカート摺動面は、オイル消費とは関連が無いが、要求される潤滑特性を満すようにオイル保持量を確保する必要がある。本実施の形態のシリンダーブロックでは、実際の使用時にピストンスカート摺動面の油膜に加わる面圧は、ピストンリング摺動面の約1/2となっており、油膜形成能力が高いため、ピストンリング摺動面のほぼ半分のオイル保持量(0.50ミリグラム/平方センチメートル)を確保すれば必要な潤滑特性を満足することができる。図4に示すように、そうしたオイル保持量を確保できるRk+Rvkは、1.0マイクロメートル未満となる。
【0025】
なお、ここでは、ピストンスカート摺動面に加わる面圧がリング摺動領域の1/2となる場合の試験結果について説明したが、必要な潤滑特性を満すことのできるRk+Rvkは、摺動面に加わる面圧にほぼ比例することが確認されている。したがって、ピストンリング摺動面のRk+Rvkとピストンスカート摺動面のRk+Rvkとの比が、それぞれに加わる面圧との比と同じ比となるようにすれば、両摺動面に十分な潤滑特性を与えることができる。
【0026】
(フリクションによる制限)
発明者らは、上述した複数の試験片についてそれらのフリクションの評価を行っている。フリクションの評価は、往復摺動試験機を使用して各試験片の摩擦係数を測定することで行っている。その結果によれば、フリクションは、面性状の凸部についての指標値であるRk+Rpkとの相間が強いことが確認されている。
【0027】
図5に、試験により得られた平均摩擦係数とRk+Rpkとの関係を示す。同図に示されるように、ピストンリング摺動面の摩擦係数を鋳鉄製シリンダーライナーの摩擦係数(0.03)と同等以下とするには、Rk+Rpkを1.0マイクロメートル未満とする必要がある。
【0028】
一方、ピストンスカート摺動面は、ピストンリング摺動面に比して油膜に加わる面圧が約1/2であり、油膜形成力が高い。そのため、ピストンスカート摺動面では、図6に示すように、ピストンリング摺動面の約半分のRk+Rpk(=0.50マイクロメートル)で摩擦係数を鋳鉄製シリンダーライナーと同等以下とすることができる。
【0029】
なお、ここでは、ピストンスカート摺動面に加わる面圧がリング摺動領域の1/2となる場合の試験結果について説明したが、摩擦係数を一定値以下とすることのできるRk+Rpkは、摺動面に加わる面圧にほぼ比例することが確認されている。したがって、ピストンリング摺動面のRk+Rpkとピストンスカート摺動面のRk+Rpkとの比が、それぞれに加わる面圧との比と同じ比となるようにすれば、両摺動面に十分なフリクション特性を与えることができる。
【0030】
(スカッフ耐性による制限)
発明者らは、上述した複数の試験片についてそれらのスカッフ耐性についての評価試験を行っている。各試験片のスカッフ耐性の評価は、往復摺動試験機を使用し、スカッフィングによって摺動時のフリクションが急激に上昇するまでの時間(スカッフ時間)を測定することで行われている。その結果によれば、スカッフ耐性は、Rkとの相間が強いことが確認されている。
【0031】
図7に、試験により得られたスカッフとRkとの関係を示す。同図に示されるように、ピストンリング摺動面のスカッフ時間を、鋳鉄製シリンダーライナーのスカッフ時間(5分)と同等以上とするには、Rkを0.65マイクロメートル以上とする必要がある。
【0032】
一方、ピストンスカート摺動面は、ピストンリング摺動面に比して油膜に加わる面圧が約1/2であり、油膜形成力が高い。そのため、ピストンスカート摺動面では、図8に示すように、ピストンリング摺動面のほぼ半分のRk(=0.3マイクロメートル)でスカッフ時間を鋳鉄製シリンダーライナーと同等以下とすることができる。
【0033】
なお、ここでは、ピストンスカート摺動面に加わる面圧がリング摺動領域の1/2となる場合の試験結果について説明したが、スカッフ時間を一定値以上とすることのできるRkは、摺動面に加わる面圧にほぼ比例することが確認されている。したがって、ピストンリング摺動面のRkとピストンスカート摺動面のRkとの比が、それぞれに加わる面圧との比と同じ比となるようにすれば、両摺動面に十分なスカッフ耐性を与えることができる。
【0034】
なお、上述したように、両摺動面の表面粗さパラメーターの差異は、プラズマ溶融処理でのプラズマ照射条件を異ならせることで設定することができる。図9は、プラズマ溶融処理にて形成される改質層の表面粗さとプラズマ溶融処理における単位面積当りの処理エネルギーとの関係を示している。同図に示されるように、表面粗さと単位面積当りの処理エネルギーとの間には比例関係がある。一方、上述したように、オイル消費、フリクション、及びスカッフ耐性の要求を満すには、ピストンリング摺動面の表面粗さパラメーターとピストンスカート摺動面の表面粗さパラメーターとの比を、それぞれの摺動面に加わる面圧の比と同じとする必要がある。よって、ピストンリング摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーと、ピストンスカート摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーとの比が、両摺動面に加わる面圧の比と同じ比となるようにプラズマ溶融処理を行えば良いことになる。
【0035】
以上説明した本実施の形態のシリンダーブロックによれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、ピストンリング摺動面のRk+Rvkとピストンスカート摺動面のRk+Rvkとの比が、それら摺動面に加わる面圧の比と同じ比とされている。そのため、ピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面の双方に適切な厚さの油膜が形成されるようになり、面圧の違いに拘らず、両摺動面の潤滑性を好適に確保することができる。したがって、上記構成によれば、摺動面に加わる面圧の異なるピストンリング摺接面、ピストンスカート摺接面のいずれにも、過不足の無い、最適な潤滑特性を与えることができるようになる。
【0036】
(2)本実施の形態では、ピストンリング摺動面のRk+Rpkとピストンスカート摺動面のRk+Rpkとの比が、それらに加わる面圧の比と同じ比とされている。そのため、摺動面に加わる面圧の違いに拘わらず、両摺動面のフリクションを概ね等しくすることができる。
【0037】
(3)本実施の形態では、ピストンリング摺動面のRkとピストンスカート摺動面のRkとの比が、それらに加わる面圧の比と同じ比とされている。そのため、摺動面に加わる面圧の違いに拘わらず、両摺動面に概ね同等のスカッフ耐性を与えることができる。
【0038】
(4)本実施の形態では、ピストンリング摺動面及びピストンスカート摺動面の表面粗さパラメーターの比の設定を、プラズマ照射時の単位面積当りの処理エネルギーの調整を通じて行っている。こうした場合、プラズマの照射エネルギーを調節のみで各摺動面に必要な表面粗さを与えることができるため、両摺動面の間における表面粗さの変更を容易に行うことが可能となり、部位毎に表面性状を変えることでのシリンダーブロックの製造時間、製造コストの増大を抑えることができる。
【0039】
(5)本実施の形態では、ピストンリング摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーと、ピストンスカート摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーとの比を、それらに加わる面圧の比と同じ比とするようにしている。そのため、オイル消費、フリクション、及びスカッフ耐性の要求を満すように両摺動面の表面性状を容易かつ適切に設定することが可能となる。
【0040】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、プラズマ溶融処理におけるプラズマ照射の単位面積当りの処理エネルギーを変えることで、ピストンリング摺動面、ピストンスカート摺動面の表面粗さを異ならせていた。もっとも、両摺動面の表面粗さパラメーターを同様に設定できるのであれば、単位面積当りの処理エネルギーを変えること以外の方法で、両摺動面の表面粗さを異ならせるようにしても良い。
【0041】
・上記実施の形態では、ピストンリング摺動面のRkとピストンスカート摺動面のRkとの比を、それら摺動面に加わる面圧の比と同じ比としていたが、両摺動面のスカッフ耐性を同等とする必要が無い場合には、両摺動面のRkの比を上記面圧の比と等しくしないようにしても良い。その場合であれ、両摺動面のRk+Rvkの比がそれらの摺動面に加わる面圧の比と等しくされていれば、摺動面に加わる面圧の異なる両摺接面のいずれにも、過不足の無い、最適な潤滑特性を与えることができる。
【0042】
・上記実施の形態では、ピストンリング摺動面及びピストンスカート摺動面のRk+Rpkの比を、それら摺動面に加わる面圧の比と同じ比としていたが、両摺動面のフリクション特性を同等とする必要が無い場合には、両摺動面のRk+Rpkの比を上記面圧の比と等しくしないようにしても良い。その場合であれ、両摺動面のRk+Rvkの比がそれらの摺動面に加わる面圧の比と等しくされていれば、摺動面に加わる面圧の異なる両摺接面のいずれにも、過不足の無い、最適な潤滑特性を与えることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…シリンダーボア、2…ピストン、3…ピストンリング、4…ピストンスカート、Rk…コア部のレベル差(有効負荷粗さ)、Rpk…突出山部高さ(初期摩耗高さ)、Rvk…突出谷部深さ(油溜まり深さ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンに摺接されるシリンダーボアがアルミニウム合金で形成されたシリンダーブロックにおいて、
コア部のレベル差をRk、突出谷部深さをRvkとしたとき、ピストンリング摺動面のRk+Rvkとピストンスカート摺動面のRk+Rvkとの比が、当該シリンダーブロックを備えるエンジンの使用中に前記ピストンリング摺動面に加わる面圧と前記ピストンスカート摺動面に加わる面圧との比と同じ比とされてなる
ことを特徴とするシリンダーブロック。
【請求項2】
前記ピストンリング摺動面及び前記ピストンスカート摺動面には、プラズマ溶融処理が施され、前記Rk+Rvkの比がそのプラズマ照射時の単位面積当りの処理エネルギーの調整を通じて設定されてなる
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダーブロック。
【請求項3】
前記ピストンリング摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーと、前記ピストンスカート摺動面のプラズマ照射における単位面積当りの処理エネルギーとの比が、前記面圧の比と同じ比とされてなる
ことを特徴とする請求項2に記載のシリンダーブロック。
【請求項4】
突出山部高さをRpkとしたとき、前記ピストンリング摺動面のRk+Rpkと前記ピストンスカート摺動面のRk+Rpkとの比が、前記面圧の比と同じ比とされてなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリンダーブロック。
【請求項5】
前記ピストンリング摺動面のRkと前記ピストンスカート摺動面のRkとの比が、前記面圧の比と同じ比とされてなる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリンダーブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−2340(P2013−2340A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133463(P2011−133463)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】