説明

シンセサイザと、これを用いた受信装置、および電子機器

【課題】精度の高い発振周波数を生み出す事ができるシンセサイザを提供する事を目的とする。
【解決手段】シンセサイザ1は、基準発振器2からの基準発振信号が入力される比較器4と、比較器4の出力信号に基づいて発振信号を出力する電圧制御発振器5と、この電圧制御発振器5の出力信号を制御部7からの制御信号に基づいて分周する第2分周器6とを備えており、比較器4は、第2分周器6からの出力信号と基準発振器2からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を電圧制御発振器5に出力し、シンセサイザ1を用いる電子機器の使用状態に基づいて、第2分周器6の分周比の値が決められている。これにより、温度検出部8とMEMS振動子11との間の温度差に起因したシンセサイザの発振周波数誤差を無くす事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振周波数の温度補償方法に特徴を有するシンセサイザと、これを用いた受信装置、又は電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、基準発振器の温度補償を行う従来のシンセサイザについて、図6を用いて説明する。図6は、従来の基準発振器の温度補償を行うシンセサイザ100のブロック図を示している。図6において、従来のシンセサイザ100は、基準発振器101から出力された基準発振信号を分周する第1分周器102と、この第1分周器102の出力側に接続された比較器103と、比較器103の出力信号を直流近傍の周波数を持つ信号に変換するローパスフィルタ104とを備える。更に、シンセサイザ100は、ローパスフィルタ104の出力側に接続され、ローカル信号を出力する電圧制御発振器105と、ローカル信号の一部が入力される第2分周器106と、基準発振器101の周囲温度を検出する温度検出部108と、温度検出部108の出力側に接続され、温度検出部108から出力される温度データをディジタル信号に変換するアナログ/ディジタル変換器109と、アナログ/ディジタル変換器109からの出力データが入力されると共に、予め、温度による補正値が記録されたメモリ110と、メモリ110から所定の値を読み出して、第2分周器106の分周比を変更する制御部107とを有し、第2分周器106の出力信号は比較器103へ入力される。
【0003】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平3−209917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のシンセサイザ100において、電子機器の使用状態が変化した時、例えば、電子機器の電源がオフの状態からオンの状態へ変化した瞬間は、基準発振器101の温度変化も瞬間的に大きくなる。その結果、電子機器の使用状態が変化した直後、温度検出部108と基準発振器101とに温度差が生じてしまう。このため、温度検出部108を介して間接的に基準発振器101の温度を検出し、第2分周器106の分周比を制御する方法では、シンセサイザ100の所望発振周波数からシンセサイザ100の現実の発振周波数がずれてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、電子機器の使用状態が変化した場合のシンセサイザの発振周波数が、所望発振周波数からずれることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のシンセサイザは、基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、比較器の出力信号に基づいて発振信号を出力する発振器と、発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器とを備え、比較器は、分周器からの出力信号と基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を発振器に出力するシンセサイザにおいて、このシンセサイザを用いる電子機器の使用状態に対し、分周器の分周比の値が決められている構成である。
【発明の効果】
【0007】
上記構成により本発明のシンセサイザは、電子機器の使用状態に対して、予め、分周器の分周比が決められているため、電子機器の使用状態が変化した直後、温度検出部からの温度情報を用いずに、分周器の分周比を変更する事ができる。これにより、電子機器の使用状態が変化した直後に、所望の発振周波数にする事が可能なシンセサイザを提供できる。
【0008】
また、本発明のシンセサイザを局部発振器として用いた場合、受信信号と、シンセサイザの周波数のずれが、受信装置が許容できる周波数ずれΔFopt以内となるように、温度検出部からの温度情報を用いず、分周器の分周比を変更することで、電子機器の使用状態が変化した場合でも、受信性能の劣化が少ない受信装置、電子機器を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本実施の形態のシンセサイザについて図1を用いて説明する。図1において、シンセサイザ1は、MEMS(Micro−Electro−Mechanical Systems)発振器2から出力された基準発振信号(fREF1=10MHz)が入力される第1分周器3と、第1分周器3で分周後(fREF2=5MHz)の信号が入力される比較器4と、比較器4の出力信号に基づいて発振信号を出力する電圧制御発振器5と、電圧制御発振器5の発振信号の一部が入力される第2分周器6と、温度検出部8からの温度データを基に第2分周器6の分周比を制御する制御部7とを有し、第2分周器6の出力信号は比較器4へ入力される。比較器4は、第2分周器6からの入力信号と第1分周器3からの入力信号とを比較して、この比較結果を示す信号を電圧制御発振器5に出力する。
【0010】
上記における「比較器4の出力信号に基づいて」とは、少なくとも比較器4の出力結果を間接、或いは、直接受けてと言う意味で、間に、別の回路ブロックを介して、その出力を電圧制御発振器5が受けてもよい。本実施の形態では、比較器4の出力をチャージポンプ9により電流成分に変換し、チャージポンプ9の出力信号をループフィルタ10へ入力し、ループフィルタ10において直流近傍の成分のみ取り出して、電圧制御発振器5へ供給する。また、ループフィルタ10は、コンデンサによる比較器4からの電流(電荷)の充電部分と、低周波を通過させる低域通過フィルタで構成されている。
【0011】
制御部7は、温度を検出する温度検出部8の出力信号に基づいて、第2分周器6へ適当な整数分周数M、および分数分周数Nの制御信号を送り、第2分周器6の分周比を変化させる。つまり、第2分周器6は、分周数Mが入力される整数部分と、分周数Nが入力される分数部分により構成される。また、シンセサイザ1を搭載した電子機器が受信する周波数チャネルを変更する場合、電子機器はチャネル切替信号を制御部7に送信し、チャネル切替信号を受信した制御部7は、切替後のチャネルに基づいた分周比へ第2分周器6の分周比を変更する。
【0012】
尚、MEMS発振器が有するMEMS振動子11は、例えば、シリコン、或いは、その化合物を主材料として構成される。例えば、シリコンで構成された振動子の場合、温度特性が、1次の周波数温度係数で、−30ppm/℃程度と非常に大きいため、ATカット水晶振動子などを用いた場合と比べ、前記したような温度制御を頻繁に行う必要がある。尚、周波数温度係数についての詳細は後述する(数1)。また、シンセサイザ1を搭載する受信装置(後述、図2)は、シンセサイザ1と、このシンセサイザ1の出力側に接続された信号処理部(図示せず)とを備える。信号処理部は、例えば、アンテナ(図示せず)が受信した受信信号とシンセサイザ1からの発振信号とを混合し、周波数変換した後、この信号を復調する作業を行う。
【0013】
尚、シンセサイザ1を搭載する電子機器(図示せず)は、上記受信装置と、この受信装置における信号処理部の出力側に接続された表示部(図示せず)とを備える。
【0014】
一例として、本実施の形態のシンセサイザ1を用いたテレビ用の受信装置について、図2を用いて説明する。図2において、本実施の形態のシンセサイザ1は、温度検出部8を含めて同一の半導体IC12に形成され、ベース基板13に実装されている。また、基準発振器の構成要素としてMEMS振動子11が用いられ、ベース基板13の上に実装されている。MEMS振動子11を用いることで、受信装置の小型化を実現することができる。例えば、水晶振動子は2.5×2.0mmのサイズであるが、MEMS振動子11を用いた振動子は1.0×1.0mm〜0.3mm×0.3mmのサイズで構成できる。また、高さについても、MEMS振動子11を用いた振動子は、水晶振動子の半分以下となる。これは、例えば、MEMS振動子11がシリコンで構成される場合、RIE(Reactive Ion Etching)やフォトリソグラフィー等の半導体プロセスで形成できるためである。また、前記のサイズは、代表例であり、従来の水晶などの圧電単結晶などを用いる場合に比べ、より小型に作成できる可能性を有している。また、携帯電話に搭載するような小型のテレビ用受信装置のサイズは9×9mm〜8×8mmと小型であるため、上記のサイズ効果は非常に大きいものとなる。他の構成要素の一例に関して説明すると、ベース基板13には、アンテナ14が受信した受信信号が入力される第1フィルタ15と、第1フィルタ15の出力信号が入力されるLNA(Low Noise Amplifier)16と、LNA16の出力信号が入力される第2フィルタ17と、第2フィルタ17の出力信号が入力されるバラン18とが実装されている。そして、バラン18の出力信号は半導体IC12に入力される。
【0015】
ここで、図2において、温度検出部8とMEMS振動子11とは、それらの配置される位置関係によって、温度差が生じてしまう。温度差発生の原因としては、位置関係の他に、MEMS振動子11や、半導体IC12、ベース基板13などの熱伝導率などが挙げられる。熱の伝わる速度によって、温度差が生じてしまうということである。また、この温度差は、急激な温度変化が起こった際に、特に大きくなりやすい。従って、温度検出部8で検出した温度と、MEMS振動子11との実際の温度が異なってしまい、温度補正時に、間違った周波数に補正してしまうということになる。それによって、シンセサイザ1の発振周波数が所望の値、つまり、受信する信号の周波数からずれ、受信劣化が引きおこされる。特に、周波数温度特性が良くない、つまり、周波数温度係数の大きいMEMS振動子を用いたシンセサイザの場合には、前記の温度差による周波数の補正誤差も大きく、受信特性の劣化が顕著に表れることになる。
【0016】
そこで、電子機器の使用状態が変わった瞬間にMEMS振動子11の周囲温度が急激に変化する場合、本実施の形態のシンセサイザ1は、予めこの使用状態に対応した分周比データを保有している。そして、電子機器が当該使用状態になったときには、制御部7は、当該分周比データを参照して、図1の第2分周器6の分周比を変更する。つまり、本実施の形態のシンセサイザ1は、電子機器の使用状態が変化した瞬間においては、温度検出部8から得られる温度データを参照せずに、第2分周器6の分周比を変更することになる。これにより、MEMS振動子11と温度検出部8の間の温度差に起因したシンセサイザ1の発振周波数のずれを抑制する事ができる。これは、量産時の電子機器であれば、当然、部品の配置、部材の種類は同じ(熱伝導率が同じ)で、また、熱発生の要素である電流値なども、使用状態を規定することで一意に決定できることにより達成される。
【0017】
電子機器として、例えば、携帯電話を考えた場合の使用状態の一例を(表1)に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
(表1)において、使用状態のケース1は、携帯電話の電源がオフの状態からオンの状態になった場合である。このケース1の場合、携帯電話内の各ICに一斉に電流が流れ始めるため、図1の受信装置の周囲の温度が急激に上昇する事が想定される。使用状態のケース2では、携帯電話の待ち受け状態から通話状態に変化した場合である。この(表1)におけるケース2の場合、RF回路の送信側回路の1つであるパワーアンプに大きな電流が急に流れ始める事になり、受信装置の周囲の温度が急激に上昇する事が想定される。(表1)において、使用状態のケース3は、携帯電話の待ち受け状態からテレビ受信機能をオンさせた場合である。このケース3の場合、テレビ信号の受信に必要なRF回路やベースバンド回路等に一斉に電流が流れ始め、受信装置の周囲の温度が急激に上昇する事が想定される。(表1)において、使用状態のケース4は、携帯電話の通話状態から待ち受け状態に変化した場合であり、使用状態のケース5は、携帯電話のテレビ受信機能がオンの状態から待ち受け状態に変化した場合である。共に、それまで携帯電話内の必要部品に流れていた比較的大きな電流が急激に流れなくなるため、受信装置の周囲の温度が急激に下降する事が想定される。(表1)において、使用状態のケース6は、携帯電話の電源オフ状態から携帯電話の電源とテレビ受信機能とを同時にオンさせた場合である。このケース6の場合、携帯電話の電源がオフの状態から携帯電話内の各IC等に一斉に電流が流れ始める事になり、受信装置の周囲の温度が急激に上昇する事が想定される。
【0020】
上記のケース1〜6において、使用状態の変化により受信装置の周囲温度が急激に変化するため、受信装置内で、物理的位置の異なるMEMS振動子11と温度検出部8との間に温度差が生じてしまう。(表1)のケース6の場合における、MEMS振動子11と温度検出部8の温度変化の一例を図3に示す。尚、図3は、MEMS振動子11の方が温度検出部8よりも熱源となるデバイスに近い位置に配置されている場合、或いは、熱容量の関係で環境温度に対する追従が良い(周囲温度に合わせて、温度が変化しやすい)場合を示している。図3のグラフは、横軸に時間を取り、縦軸にはMEMS振動子11と温度検出部8のそれぞれの温度を取っている。図3において、携帯電話の使用状態は、時間t0の瞬間に、(表1)のケース6に示したように変化している。これにより、受信装置の周囲の温度は急激に上昇することになる。その結果、MEMS振動子11と温度検出部8自体の温度も上がり始める。ただ、図3にも示したように、MEMS振動子11と温度検出部8とは、前記の位置関係、熱容量により、時間に対する温度プロファイルが異なる事となる。図3の例においては、MEMS振動子11の温度は、温度検出部8の温度よりも急激に上昇している。そして、MEMS振動子11と温度検出部8との温度は、一定時間Tの間は大きく異なる事となる。この結果、温度検出部8の温度データを基に第2分周器6の分周比を調整すると、所望の発振周波数が得られなくなる。これを防止するため、本実施の形態のシンセサイザ1は、電子機器の使用状態と、これに対応した第2分周器の分周比の値とのデータベースを保有している。このデータベースの一例を(表2)に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
(表2)における左端の列の「ケース」は、(表1)の使用状態の変化を表している。
【0023】
(表1)および(表2)に示したデータベースは、例えば、制御部7が有しているメモリ部に記録された構成としてもよい。要するに、制御部7がアクセスできるメモリ部に(表1)および(表2)のデータベースが記録されていればよい。制御部7は、電子機器の使用状態の変化があった瞬間に、電子機器からその使用状態についての情報を取得し、変化前と変化後との使用状態からメモリ部に記録されているデータベースの内、どの使用状態変化のケースに一致するか検索する。そして、制御部7は、一致したケースに対応した第2分周器6の分周比データを取得し、第2分周器6の分周比を変更する。これにより、電子機器の使用状態が変化した瞬間は、温度検出部8の温度データを用いずに第2分周器6の分周比を最適な値に変更できるので、温度検出部8とMEMS振動子11との温度差に起因した発振周波数の誤差を抑制する事ができる。
【0024】
また、ここで、前記のケース1から6で想定している最終到達温度を各々、T1からT6とすると、T1、T2、T3、T6>T4、T5となるのは、明白である。1次の周波数温度係数が−30ppm/℃のシリコンで構成されたMEMS振動子を用いた場合、温度係数が負であるために、温度が高いと、MEMS振動子の共振周波数は低くなることになる。従って、第2の分周器6の分周数を大きく設定する必要があるため、N1、N2、N3、N6>N4、N5の関係となる。
【0025】
また、ケース1、3、6についても、本実施の形態の場合、各ケースでの温度が、T1<T3<T6の関係があり、第2の分周器6の分周数に関しても、N1<N3<N6の関係が成り立つ。
【0026】
尚、図3において、一定時間Tの決め方としては、MEMS振動子11と温度検出部8の温度差ΔTempが、所定温度差ΔToptに収まるように設定する。ここで、ΔTempによって、受信システムが影響を受けない程度に、所定温度差ΔToptは設定されることが好ましい。言い換えれば、ΔTempによって、MEMS振動子11の共振周波数(基準発振器2の発振周波数)が変動し、その変動によって、シンセサイザ1の局部発振出力の周波数が、本来的な受信信号と同一の周波数値から変動し、受信信号の周波数との間に周波数の差ΔFが発生してしまう。それによって、受信状態が悪化しないように、所定温度差ΔToptは設定されることが好ましい。ここで、受信状態が悪化するといった不具合の例としては、テレビ受信の場合には、画像にノイズが発生することや、データの同期が取れず、受信自体ができないことなどの状態が挙げられる。また、このΔToptに対応する周波数の差ΔFopt(ΔTemp=ΔToptの時のΔF)も受信システム構成(特許請求の範囲における「信号処理部」の構成を言う)によって依存する値となるが、ΔF≦ΔFoptの範囲に、周波数の差ΔFを抑えることによって、所望の受信性能を維持できることになる。本実施の形態では、この条件を満たすように、種々の受信状態のケース(例えば、表1)において、第2の分周器の分周比を調整する(例えば、表2)ことが更に、好ましいということになる。
【0027】
尚、国内用のテレビシステムであるISDB−Tでの構成例では、例えば、ΔFoptを±25kHzとすることができる。キャリア周波数を770MHzとすると、±25kHzは、±32.5ppmの変動に相当する。ここで、シリコンで構成されたMEMS振動子を考えると、−30ppm/℃の1次の周波数温度係数であることから、±32.5ppmの周波数変動は、温度変動としては±1.1℃程度の変動に相当する。この範囲内になるように、ΔToptを設定すれば良い。尚、ここで、ΔToptを絶対値として、定義すれば、符号を考慮することなく使用できる。尚、ここで、ΔFopt=±25kHzとしたが、この値に限るものではない。この値は、システム設計時に決定される事項であり、個々のシステムに合わせて決めてやれば良い(詳細は後述)。
【0028】
尚、(表1)に示したのは、使用状態の一例であり、これ以外の使用状態の変化に対しても、本実施の形態のシンセサイザを適用しても、同様の効果が得られる。また、(表1)においては、電子機器の具体的使用状態を記載した表を用いたが、実際的には、それぞれの使用状態に対して番号等を割り当てて、管理してもよい。例えば、携帯電話の電源オフの状態を番号「1」で、携帯電話の電源オンの状態を番号「2」で管理し、電子機器から制御部7に電子機器の使用状態を知らせる場合も、この番号を用いることとしてもよい。
【0029】
図4を用いて、本実施の形態のシンセサイザ1における第2分周器6の分周比の時間変化の一例を説明する。図4は、横軸に時間を取り、縦軸に第2分周器6の分周比を取っている。図4においては、時間t0までは携帯電話は電源オフ状態であり、時間t0の瞬間、携帯電話は電源オン及びテレビ受信機能オン状態に変化した例を示している。時間t0の瞬間、携帯電話の使用状態が変化し、それに応じて、第2分周器6の分周比は瞬時に分周比Aへ変更されている。これにより、温度検出部8とMEMS振動子11との温度差に起因したシンセサイザ1の発振周波数誤差を抑制する事ができる。尚、時間t0の瞬間、制御部7が予め決められていた分周比Aへ第2分周器6の分周比を変更した後は、温度検出部8から得られる温度データを基に、制御部7は第2分周器6の分周比を変更する。ただし、これは、時間t0以降で、温度検出部8とMEMS振動子11の温度差がほぼなくなる一定時間(図4における一定時間T)経過後に実行される。これにより、電子機器の使用状態が変化した後、前記一定時間経過後のシンセサイザ1の発振周波数の精度を向上させられる。
【0030】
尚、テレビ信号の復調作業は、前記一定時間経過中に開始しても良い。本実施の形態のシンセサイザは、携帯電話の使用状態の変化直後(例えば、前記一定時間)においても精度の高い発振周波数を出力できるためである。また、テレビ信号の復調作業開始までの時間を短時間にする必要が無いのであれば、テレビ信号の復調作業は、前記一定時間経過後に開始しても良い。
【0031】
尚、時間t0から前記一定時間経過後で、温度検出部8から得られる温度情報を基に制御部7が第2分周器6の分周比を変化させている期間において、選択された第2分周器6の分周比データを記録しておき、その記録データを参考にして、次回、携帯電話の使用状態が待ち受け状態から通話状態へ変化した時に用いる第2分周器6の分周比を修正する構成としてもよい。実際的には、電子機器の使用状態に対応した第2分周器6の分周比の値は予め設定し、メモリ部等に記録しておくが、電子機器の実使用状態において、この予め設定されていた分周比の値が、理想的な分周比の値からずれている場合も想定される。このような場合に、上記のような構成をシンセサイザに持たせておけば、事後的に、第2分周器6の分周比を理想値に修正する事ができる。この結果、本実施の形態のシンセサイザは、実使用状態において、高精度な発振周波数を実現する事ができる。分周比の修正方法の一例としては、例えば、携帯電話の使用状態が待ち受け状態から通話状態へ変化してから前記一定時間経過した後の期間において、記録された複数の分周比データの平均値を計算することが考えられる。制御部7は、この平均値を次回の待ち受け状態から通話状態への変化時に分周比として使用する。尚、平均値の算出に用いる分周比データは、前記一定期間経過後から所定期間の間の分周比データのみを使用することとしてもよい。使用状態が変化し、前記一定期間経過した直後の分周比データを使用することが、使用状態変化時に使用する分周比データを修正する上では、最も信頼性が高いためである。また、分周比の修正に用いるデータ数を所定期間内のものに限定する事により、記録する必要のあるデータ数を減らす事ができるため、メモリ部のサイズを小さくすることができる。
【0032】
図5には、本実施の形態のシンセサイザ1における第2分周器6の分周比の時間変化の他の例を示している。図5のグラフは、横軸に時間を取り、縦軸に第2分周器6の分周比を取っている。図5においては、時間t0までは携帯電話は待ち受け状態であり、時間t0の瞬間、携帯電話は通話状態に変化した例を示している。時間t0の瞬間、携帯電話の使用状態が変化し、それに応じて、第2分周器6の分周比は瞬時に分周比Bへ変更される。次に、時間t1の瞬間、第2分周器6の分周比は瞬時に分周比Cへ変更される。次に、時間t2の瞬間、第2分周器6の分周比は瞬時に分周比Dへ変更される。次に、時間t3の瞬間、第2分周器6の分周比は瞬時に分周比Dへ変更される。このように、温度検出部8とMEMS振動子11との間に温度差が生じている前記一定時間Tの間のMEMS振動子11の温度変化が、図4の場合と比べて緩やかな場合には、図5に示したように、分周比の値をステップ状に変更してもよい。このような構成とすることで、シンセサイザ1の発振周波数の精度を向上させる事ができる。上記の構成を実現する具体的な方法としては、一例として、予め、電子機器の使用状態に対応した第2分周器6の分周比データと、分周比変更のタイミングデータとをメモリ部に記録しておく方法が考えられる。(表3)に、このデータベースの一例を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
(表3)における左端の列の「ケース」は、(表1)の使用状態の変化を表している。(表3)のデータベースは、制御部7がアクセス可能なメモリ部に記録されている。
【0035】
制御部7は、(表3)の分周比変化のタイミングデータを参照し、最適なタイミングで第2分周器6の分周比を変更する事となる。これにより、発振周波数の精度の高いシンセサイザを実現できる。
【0036】
尚、電子機器の使用状態に対して予め決められている第2分周器6の分周比の値は、温度検出部8の温度情報に基づいて修正されてもよい。具体的には、図4または図5の時間t0(電子機器の使用状態が変化する時間)の直前の温度検出器8から得られる温度データを基に、電子機器の使用状態に対して予め決められている第2分周器6の分周比の値を修正することを意味している。これは、電子機器の使用状態変化後のMEMS振動子11の温度変化プロファイルが、使用状態変化前のMEMS振動子11の温度により異なる事が予想されるためである。故に、電子機器の使用状態が変化する直前に温度検出器8から得られた温度データを基に、予め決められている第2分周器6の分周比の値が修正されることで、発振周波数の精度の高いシンセサイザを実現する事が可能となる。具体的な修正方法としては、電子機器内の各部品の熱抵抗等を勘案して導出した修正式(近似式)を用いる方法等が考えられる。
【0037】
また、電子機器の使用状態が変化する直前の温度データを使用する他の手段としては、(表4)に示すような、各温度に対して予め分周比データをメモリ部に記録しておく方法も考えられる。
【0038】
【表4】

【0039】
(表4)における左端の列の「ケース」は、(表1)の使用状態の変化を表している。
【0040】
(表4)のデータベースは、制御部7がアクセス可能なメモリ部に記録しておく。そして、制御部7は電子機器から状態変化に対応した信号を受信した後、この状態変化を示す信号を受信する直前の温度データを基に、(表4)のデータベースより第2分周器6の分周比データを読み出し、それに基づいて、第2分周器6の分周比を変化させる。これにより、発振周波数の精度の高いシンセサイザを実現する事ができる。
【0041】
尚、本実施の形態のシンセサイザ1は、出力したい各発振周波数に対して、例えば、(表2)から(表4)のようなデータベースを保有しておいてもよい。これにより、複数の発振周波数においても精度の高いシンセサイザを実現する事ができる。
【0042】
以上、説明した本発明の実施の形態では、電圧制御発振器5の出力をシンセサイザ1の出力としたが、電圧制御発振器5の後に、分周器を入れて、シンセサイザ1の出力としても良い。これにより、電圧制御発振器5の発振周波数を高くすることができ、電圧制御発振器5のサイズを小さくすることが可能となる。
【0043】
また、温度検出部8としては、例えば、半導体を流れる電流の温度特性を利用した半導体トランジスタをベースとしたものや、サーミスタと呼ばれる温度に対して抵抗値が変化する特性を利用したものや、熱起電力を利用する熱電対を利用したものなどが挙げられる。
【0044】
尚、本発明では、周波数温度特性が良くない振動子に対して、特に大きな効果を発揮する。これは、周波数温度特性が悪いほど、図2におけるMEMS振動子11と温度検出部8との実際の温度差によるシンセサイザの発振周波数の誤差が大きくなってしまうためである。
【0045】
この周波数温度特性は、以下の式で表される。基準温度をT0、現在の温度をT、基準温度T0での共振周波数をf、温度がT0からTに変化した際の振動子の共振周波数変化量をδfとすると、温度に対する周波数変動率は(数1)で表される。
【0046】
【数1】

【0047】
尚、「^」は、べき乗を表す記号とし、10が底で、−11が指数を表す。また、α、β、γをそれぞれ1次、2次、3次の周波数温度係数と呼ぶ。詳細に言うと、δf/fは、T0からTまで温度が変化した際の周波数の変動率を示している。例えば、水晶振動子は、その周波数温度係数が、1次が0で、2次、3次の温度係数も小さい振動子である。一般に、温度係数は、1次、2次、3次となるに従って、小さくなり、かつ、電子機器の使用温度範囲における周波数温度特性に占める影響も小さくなるため、1次の温度係数が0であるということは、その振動子の周波数温度特性が非常に、良好であると言う事を示している。水晶の各温度係数は、水晶インゴット(水晶の引き上げ後の固まり)から、水晶板を切り出す際のカット角度によって変わる。その良好な周波数温度特性から、最も広く使用されている水晶振動子に、ATカット水晶振動子がある。これは、例えば、使用温度範囲(−40〜85℃)において、周波数の変動率が、±20〜±100ppm程度となる。この周波数の変動率の幅は、カット角度の微小な違いによって生じる。これに対して、MEMS振動子は、周波数温度特性が良くないものがほとんどで、例えば、シリコン振動子は、1次の温度係数が大きく、−30ppm/℃であり、使用する温度範囲において、この1次の温度係数が支配的である。−40℃〜85℃の使用温度範囲において、これは、30×125=3750ppmとなり、前記ATカット水晶振動子の±20〜±100ppm程度と比較しても非常に悪いことがわかる。
【0048】
従って、本発明は、MEMS振動子を用いた構成では、より一般的な水晶振動子を用いた構成よりも、特に、大きな効果がある。
【0049】
また、本実施の形態では、MEMS振動子として、半導体材料を基材としたシリコン振動子を用いて、説明したが、MEMS振動子の他の例としては、同じ半導体材料であるポリシリコン振動子を用いたものが挙げられる。また、AlN、ZnO、PZTと言った薄膜圧電材料をベースとしたFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)と呼ばれるものや、SiO2などのその他の薄膜材料をベースとしたものが挙げられる。また、弾性表面波を用いたSAW(Surface Acoustic Wave)振動子や、異なる物質の境界を伝播する境界波などを用いた振動子もその一例である。これらの振動子のうちで、ATカット水晶振動子と同程度の周波数温度特性を持つものは、ほとんどなく、また、そのほとんどが、1次の温度係数を有する(無視できない)ものである。例えば、AlNを用いたFBARは、厚み縦振動(印加電界と同一方向に振動)を用いた振動子で、−25ppm/℃の温度係数を有し、ZnOは、−60ppm/℃程度の温度係数を有する。また、SAWを用いた振動子でも、基材に36°yカットのタンタル酸リチウムを用いたものは、−35ppm/℃程度、基材に64°yカットのニオブ酸リチウムを用いたものは、−72ppm/℃程度の温度係数を有する。
【0050】
尚、本実施の形態では、第1シンセサイザ部として、PLL(Phase Locked Loop)を用いた温度補償型シンセサイザに関して説明を行ったが、DLL(Delay Locked Loop)や、ADPLL(All Digital PLL)を用いても良い。また、ループを構成しないDDS(Direct Digital Synthesizer)などでも良い。DDSの例としては、予め、メモリーに記憶された信号情報をD/A(Digital/Analog)変換して、種々の周波数の信号を生成する方法などが挙げられる。また、基準発振器の後に、直接分周器を接続し、周波数を調整するような構成にしてもよい。その構成例は、基準発振器2の後に、第2分周器6を配置し、その第2分周器を調整し、周波数を調整するような構成である。また、基準発振器の負荷インピーダンスを調整するような構成でも良い。その構成例は、基準発振器の負荷容量として、スイッチ機能を有するコンデンサを複数用いて、そのスイッチを切り替えることにより、負荷容量を離散的に切り替えて、周波数調整を行うような構成例である。以上、種々の温度補償型シンセサイザに関して説明したが、要は、所定の周波数調整幅での周波数調整が達成できる温度補償方法であれば良い。
【0051】
尚、本実施の形態の効果として、PLLなどの位相や周波数のロックループを用いた場合、ロックまでの収束時間を短くできるという効果もある。PLLを例に説明する。PLLの動作は、まず、周波数引き込みがなされ(周波数ロック動作)、その後、位相の引き込みがなされる(位相ロック動作)。これは、前記のように図1の比較器4で、第1の分周器3と、第2の分周器6の信号を比較することにより、行われる。通常、この2つの信号の周波数が大きく異なっている場合、周波数ロックされるまでに、時間がかかってしまうという難点があるが、本実施の形態の場合、電子機器の使用状態に合わせて、第2分周器を事前に設定するため、初期の周波数の差を小さくすることができ、周波数ロック、位相ロックに要する時間を短くすることができるという効果を有する。これにより、より早く、良好な受信状態を確立することが可能となる。
【0052】
尚、本実施の形態では、ΔFopt=±25kHzとして、説明を行い、これが設計時に決定されるものであり、この値に限るものではないという説明を行ったが、以下に、詳細に説明する。日本のデジタルテレビ放送方式(ISDB−T)は、直交周波数分割多重方式OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)が用いられている。その受信帯域幅は約5.6MHzであり、それが、13の周波数セグメントに分割されている。家庭用のテレビでは、そのうちの12セグメント(フルセグ)が利用され、携帯電話などのモバイル用途のテレビでは、そのうちの1セグメント(ワンセグ)が利用されている。また、マルチキャリア方式が採用されており、例えば、Mode3では、約1kHzのキャリア間隔で、キャリアが、433本、並んで、一つの受信チャンネルを構成している。これらのキャリアに同期用の既知信号を予め埋め込み、周波数を補正することにより、この周波数の差異ΔFを実質的になくしてしまうということが可能となる。これにより、既知信号が埋め込まれたキャリアの間隔の半分まで、周波数が補正できることになる。但し、補正可能な周波数を大きくしすぎると、補正に時間がかかってしまったり、回路に負担がかかるといった不具合もあることから、それらとのトレードオフによって、設計時に決定される。本実施の形態に適用する場合は、それらから決定された補正可能な周波数である、本実施の形態でいうΔFoptに合わせて、ΔToptを所定温度差としてやれば良い。尚、本実施の形態では、これらを勘案して、ΔFopt=±25kHzとしている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のシンセサイザは精度の高い発振周波数を実現できるので、受信特性の優れた受信装置や電子機器に用いる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のシンセサイザの一例のブロック図
【図2】本発明のシンセサイザを用いた受信装置の一例の概念図
【図3】本発明のシンセサイザを用いた受信装置の一例の概念図
【図4】本発明のシンセサイザを用いた受信装置の一例の概念図
【図5】本発明のシンセサイザの分周比の時間変化の一例を示すグラフ
【図6】従来のシンセサイザのブロック図
【符号の説明】
【0055】
1 シンセサイザ
2 基準発振器
3 第1分周器
4 比較器
5 電圧制御発振器
6 第2分周器
7 制御部
8 温度検出部
9 チャージポンプ
10 ループフィルタ
11 MEMS振動子
12 半導体IC
13 ベース基板
14 アンテナ
15 第1フィルタ
16 LNA
17 第2フィルタ
18 バラン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振信号を出力するシンセサイザにおいて、
前記シンセサイザを用いる電子機器の使用状態に基づいて、
前記シンセサイザの発振周波数の補正量が決められているシンセサイザ。
【請求項2】
基準発振信号が入力される比較器と、
前記比較器の出力信号に基づいて発振信号を出力する発振器と、
前記発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器とを備え、
前記比較器は、前記分周器からの出力信号と前記基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を前記発振器に出力し、
前記シンセサイザを用いる電子機器の使用状態に基づいて、
前記分周器の分周比の値が決められている請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項3】
温度を検出する温度検出部を備え、
前記電子機器の使用状態が変更された場合、
前記制御部は、前記電子機器の使用状態、及び前記温度検出部が検出した温度データに基づいて前記分周器の分周比を変更する請求項2に記載のシンセサイザ。
【請求項4】
前記電子機器の使用状態が変更された場合、
前記制御部は、前記電子機器の使用状態に基づいて前記分周器の分周比を変更し、
その後、前記温度検出部が検出した温度データに基づいて前記分周器の分周比を変更する請求項3に記載のシンセサイザ。
【請求項5】
前記電子機器の使用状態に対して決められている前記分周器の分周比の値は、
前記制御部が前記電子機器の使用状態及び前記温度検出部の温度信号に基づいて変更された前記分周器の過去の分周比データを基に修正される請求項3に記載のシンセサイザ。
【請求項6】
前記制御部が、前記分周器の分周比を、前記電子機器の使用状態に対して決められている分周比の値に変更するタイミングは、予め決められている請求項2に記載のシンセサイザ。
【請求項7】
前記基準発振信号を出力する基準発振器を備え、
この基準発振器は、MEMS素子からなる振動子を有する請求項2に記載のシンセサイザ。
【請求項8】
請求項1に記載のシンセサイザと、
このシンセサイザの出力側に接続された信号処理部とを有する受信装置。
【請求項9】
前記シンセサイザの発振周波数の補正量により補正された後の前記シンセサイザの発振周波数と、
受信信号の周波数との差が、
前記信号処理部において補正可能な周波数補正量の上限値以内となるように前記シンセサイザの発振周波数の補正量を決定する請求項8に記載の受信装置。
【請求項10】
請求項8に記載の受信装置と、
この受信装置の出力側に接続された表示部とを有する電子機器。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−194428(P2009−194428A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30248(P2008−30248)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】