説明

シンチレータパネル、シンチレータパネルの製造方法および放射線検出器

【課題】シンチレータ層18の特性劣化の防止、および信頼性の向上ができるシンチレータパネル12を提供する。
【解決手段】シンチレータ層18を密閉する保護層19を、有機物の連続重合体から構成されるフィルム20と無機層21との積層構造とする。保護層19の有機物の連続重合体から構成されるフィルム20がシンチレータ層18の内部への含浸が少ない連続的な皮膜となり、シンチレータ層18の特性劣化を改善する。保護層19を構成する無機層21がシンチレータ層18への水分透過を防止し、シンチレータ層18の防湿性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を光に変換するシンチレータパネル、このシンチレータパネルの製造方法、およびこのシンチレータパネルを用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用画像検出器として、アクティブマトリクスや固体撮像素子(CCDやCMOS等)を用いた平面形のX線検出器が注目を集めている。このX線検出器にX線を照射することにより、X線撮影像またはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。このX線検出器は、固体検出器であることから、画質性能や安定性の面においても極めて期待が大きく、多くの研究開発が進められている。
【0003】
アクティブマトリクスを用いたX線検出器の主な用途としては、比較的大きな線量で静止画像を収集する胸部あるいは一般撮影用に開発され、近年商品化されている。より高性能で、透視線量下において毎秒30フレーム以上のリアルタイム動画を実現させる必要のある循環器、消化器分野への応用に対しても近い将来に商品化が予想される。この動画用途に対しては、S/Nの改善や微小信号のリアルタイム処理技術等が重要な開発項目となっている。
【0004】
また、固体撮像素子(CCDやCMOS等)を用いたX線検出器の主な用途としては、大きな線量で静止画像を収集する工業用の非破壊検査や口腔内に挿入して静止画像を収集する歯科用等が近年商品化されているが、動画用途への対応も含めて、S/Nの改善、微小信号のリアルタイム処理、X線検出器の小形化、信頼性の改善等が重要な開発項目となっている。
【0005】
X線検出器は、直接方式と間接方式との2方式に大別される。直接方式は、X線をa−Se等の光導電膜により直接電荷信号に変換し、電荷蓄積用キャパシタに導く方式であり、X線により発生した光導電電荷を高電界により直接的に電荷蓄積用キャパシタに導くため、略アクティブマトリクスの画素電極ピッチで規定される解像度特性が得られる。また、直接方式のX線検出器の形態は、アクティブマトリクス基板上に光導電層を直接形成する方式と、放射線を透過する支持基板上に光導電層を形成した光導電パネルをアクティブマトリクス基板上に接合する方式とに大別される。
【0006】
一方、間接方式は、シンチレータ層によりX線を一旦可視光に変換し、可視光をa−Siフォトダイオード、CCD、CMOS等により信号電荷に変換して電荷蓄積用キャパシタに導く方式であるため、シンチレータ層からの可視光がフォトダイオード、CCD、CMOSに到達するまでの光学的な拡散および散乱により解像度特性の劣化が生じる。また、間接方式のX線検出器の形態も、アクティブマトリクス基板上に半導体光検出器が形成された光電変換基板上にシンチレータ層を直接形成する方式と、放射線を透過する支持基板上にシンチレータ層が形成されたシンチレータパネルをアクティブマトリクス基板上に半導体光検出器が形成された光電変換基板上に接合する方式とに大別される。
【0007】
通常、間接方式のX線検出器においては、構造上、シンチレータ層の特性が重要となり、入射X線に対する出力信号強度を向上させるため、例えば、シンチレータ層には、CsI等のハロゲン化合物やGOS等の酸化物系化合物等から構成される高輝度蛍光物質が用いられることが多い。一般的に高密度なシンチレータ層は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の気相成長法により、単数もしくは複数の画素を有するアクティブマトリクス基板上に一様に形成されることが多い。特にCsI等のハロゲン化合物をシンチレータ層に用いた場合には、短冊状の柱状結晶の構造を有するシンチレータ層を真空蒸着法によって形成することにより、解像度特性の改善等を図ることも多い。
【0008】
また、短冊状の柱状結晶構造を有するCsI等のハロゲン化合物のシンチレータ層を形成する場合には、沃素等のハロゲン元素の反応性が高いこと、および大気中の水分と反応してシンチレータ層が潮解することから、シンチレータ層を外気等から遮断する保護層を形成する必要がある。特性上、保護層には、連続的な皮膜形成が必要なため、ホットメルトモールディング、塗布法、CVD法等により形成されるポリパラキシリレン等の有機膜が用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−78471号公報(第8頁、図1−2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ホットメルトモールディング、塗布法、CVD法等により形成される有機膜の保護層を短冊状の柱状結晶構造を有するCsI等のハロゲン化合物のシンチレータ層上に形成した場合には、シンチレータ層の内部に保護層が含浸することから、シンチレータ層内での光学的な拡散および散乱が増加するため、感度特性および解像度特性等の特性の劣化を生じることとなり、かつ保護層が有機膜であることから、経時と共に水分透過が発生するため、シンチレータ層の信頼性にも問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、シンチレータ層の特性劣化の防止、および信頼性の向上ができるシンチレータパネル、シンチレータパネルの製造方法および放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシンチレータパネルは、放射線を透過する支持基板と、この支持基板上に設けられ、外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層と、有機物の連続重合体から構成されるフィルムと無機層との積層構造により構成され、少なくとも前記シンチレータ層を密閉する保護層とを具備しているものである。
【0012】
また、本発明のシンチレータパネルの製造方法は、支持基板上の少なくともシンチレータ層を密閉する保護層を形成するシンチレータパネルの製造方法であって、有機物の連続重合体から構成されるフィルムを真空ラミネート法により形成する工程と、無機層を気相成長法により形成する工程とを具備し、これら有機物の連続重合体から構成されるフィルムと無機層との積層構造により構成された保護層で、少なくともシンチレータ層を密閉するものである。
【0013】
また、本発明の放射線検出器は、前記シンチレータパネルと、このシンチレータパネルのシンチレータ層により変換された光を電子信号に変換する光電変換基板とを具備しているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シンチレータ層を密閉する保護層を有機物の連続重合体から構成されるフィルムと無機層との積層構造とすることにより、シンチレータ層の内部への保護層の含浸が少ない連続的な皮膜形成が可能となることから、シンチレータ層の特性劣化を改善でき、さらに、保護層を構成する無機層がシンチレータ層への水分透過を防止し、シンチレータ層の防湿性が改善されることから、シンチレータ層の信頼性も改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1ないし図6に第1の実施の形態を示す。
【0017】
図1ないし図3において、11は放射線検出器としてのX線検出器で、このX線検出器11は、間接方式のX線平面画像検出器である。このX線検出器11は、放射線としてのX線を光に変換するシンチレータパネル12と、このシンチレータパネル12で変換された光を電気信号に変換するアクティブマトリクス光電変換基板である光電変換基板13を備え、これらシンチレータパネル12と光電変換基板13とが接合されて形成されている。
【0018】
そして、シンチレータパネル12は、X線を透過する支持基板16を有し、この支持基板16上に光を反射する反射層17が形成され、この反射層17上に短冊状の柱状結晶構造を有するシンチレータ層18が形成され、このシンチレータ層18上にシンチレータ層18を密閉する保護層19が積層されて形成されている。
【0019】
反射層17は、反射率の高いAl、Ni、Cu、Pd、Ag等の金属材料が用いられ、シンチレータ層18で発生した光を光電変換基板13の方向へ反射させて光利用効率を高める。
【0020】
シンチレータ層18は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の気相成長法で、高輝度蛍光物質であるヨウ化セシウム(CsI)等のハロゲン化合物やガドリニウム硫酸化物(GOS)等の酸化物系化合物等の蛍光体を、支持基板16上に柱状に堆積させて成膜されている。そして、シンチレータ層18は、支持基板16の面方向に複数の短冊状の柱状結晶18aが形成された柱状結晶構造に形成されている。
【0021】
保護層19は、有機物の連続重合体から構成される2層のフィルム20とこれら2層のフィルム20間に介在される無機層21との積層構造により構成され、例えば、シンチレータ層18とともに支持基板16を含めて全体を密閉して形成されている。
【0022】
フィルム20は、少なくとも、熱可塑性もしくは熱硬化性を有するフェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、アリル樹脂、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリスチレン、ポリブタジエン、スチレンブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレンポリテトラフロロエチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、AS樹脂、ABS樹脂、アイオノマー、AAS樹脂、ACS樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、酢酸セルロース、セルロイド、セロファンのいずれかを主成分とし、真空ラミネート法により圧着もしくは熱圧着することで形成されている。
【0023】
無機層21は、少なくとも、Al、Ti、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、Pt、Auを含む金属、SiO2、Al23、TiO2を含む酸化物、Si34、AlNを含む窒化物、DLC、SiCを含む炭化物のいずれかを主成分とし、気相成長法により形成されている。
【0024】
また、光電変換基板13は、例えば透光性を有するガラス等にて形成された絶縁基板としての支持基板23を備えている。この支持基板23の表面には、二次元的でマトリクス状に複数の画素24が互いに間隔をあけて配列され、各画素24毎に、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)25、電荷蓄積用キャパシタ26、画素電極27、およびフォトダイオードなどの光電変換素子28が形成されている。
【0025】
図3に示すように、支持基板23上には、この支持基板23の行方向に沿った複数の制御ラインとしての制御電極31が配線されている。これら複数の制御電極31は、支持基板23上の各画素24間に位置し、この支持基板23の列方向に離間されて設けられている。これら制御電極31には、薄膜トランジスタ25のゲート電極32が電気的に接続されている。
【0026】
支持基板23上には、この支持基板23の列方向に沿った複数の読出電極33が配線されている。これら複数の読出電極33は、支持基板23上の各画素24間に位置し、この支持基板23の行方向に離間されて設けられている。そして、これら複数の読出電極33には、薄膜トランジスタ25のソース電極34が電気的に接続されている。また、この薄膜トランジスタ25のドレイン電極35は、電荷蓄積用キャパシタ26および画素電極27にそれぞれ電気的に接続されている。
【0027】
図1に示すように、薄膜トランジスタ25のゲート電極32は、支持基板23上に島状に形成されている。このゲート電極32を含む支持基板23上には、絶縁膜41が積層されて形成されている。この絶縁膜41は、各ゲート電極32を覆っている。また、この絶縁膜41上には、島状の複数の半絶縁膜42が積層されて形成されている。これら半絶縁膜42は、半導体にて構成されており、薄膜トランジスタ25のチャネル領域として機能する。そして、これら各半絶縁膜42は、各ゲート電極32に対向して配設されており、これら各ゲート電極32を覆っている。すなわち、これら各半絶縁膜42は、各ゲート電極32上に絶縁膜41を介して設けられている。
【0028】
半絶縁膜42を含む絶縁膜41上には、島状のソース電極34およびドレイン電極35がそれぞれ形成されている。これらソース電極34およびドレイン電極35は、互いに絶縁され電気的に接続されていない。また、これらソース電極34およびドレイン電極35は、ゲート電極32上の両側に設けられており、これらソース電極34およびドレイン電極35の一端部が半絶縁膜42上に積層されている。
【0029】
各薄膜トランジスタ25のゲート電極32は、図3に示すように、同じ行に位置する他の薄膜トランジスタ25のゲート電極32とともに共通の制御電極31に電気的に接続されている。さらに、これら各薄膜トランジスタ25のソース電極34は、同じ列に位置する他の薄膜トランジスタ25のソース電極34とともに共通の読出電極33に電気的に接続されている。
【0030】
電荷蓄積用キャパシタ26は、図1に示すように、支持基板23上に形成された島状の下部電極43を備えている。この下部電極43を含む支持基板23上には絶縁膜41が積層されて形成されている。この絶縁膜41は、各薄膜トランジスタ25のゲート電極32上から各下部電極43上まで延長している。さらに、この絶縁膜41上には、島状の上部電極44が積層されて形成されている。この上部電極44は、下部電極43に対向して配設されており、これら各下部電極43を覆っている。すなわち、これら各上部電極44は、各下部電極43上に絶縁膜41を介して設けられている。そして、この上部電極44を含む絶縁膜41上にはドレイン電極35が積層されて形成されている。このドレイン電極35は、他端部が上部電極44上に積層されて、この上部電極44に電気的に接続されている。
【0031】
各薄膜トランジスタ25の半絶縁膜42、ソース電極34およびドレイン電極35と、各電荷蓄積用キャパシタ26の上部電極44とのそれぞれを含む絶縁膜41上には、絶縁層45が積層されて形成されている。この絶縁層45は、酸化珪素(SiO)などにて形成されており、各画素電極27を取り囲むように形成されている。
【0032】
この絶縁層45の一部には、薄膜トランジスタ25のドレイン電極35に連通したコンタクトホールとしてのスルーホール46が開口形成されている。このスルーホール46を含む絶縁層45上には、島状の画素電極27が積層されて形成されている。この画素電極27は、スルーホール46にて薄膜トランジスタ25のドレイン電極35に電気的に接続されている。
【0033】
各画素電極27上には、可視光を電気信号に変換するフォトダイオードなどの光電変換素子28が積層されて形成されている。
【0034】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0035】
まず、X線検出器11のシンチレータパネル12のシンチレータ層18へと入射したX線51はこのシンチレータ層18の柱状結晶18aにて光52に変換される。
【0036】
この光52は柱状結晶18a内を通じて光電変換基板13の光電変換素子28に到達して電気信号に変換される。光電変換素子28で変換された電気信号は画素電極27に流れ、画素電極27に接続された薄膜トランジスタ25のゲート電極32が駆動状態となるまで、画素電極27に接続された電荷蓄積用キャパシタ26へと移動して保持されて蓄積される。
【0037】
このとき、制御電極31の1つを駆動状態にすると、この駆動状態となった制御電極31に接続された1行の薄膜トランジスタ25が駆動状態となる。
【0038】
そして、この駆動状態となったそれぞれの薄膜トランジスタ25に接続された電荷蓄積用キャパシタ26に蓄積された電気信号が読出電極33へと出力される。
【0039】
この結果、X線画像の特定の行の画素24に対応する信号が出力されるため、制御電極31の駆動制御によって、全てのX線画像の画素24に対応する信号を出力でき、この出力信号をデジタル画像信号に変換する。
【0040】
次に、シンチレータパネル12の製造方法について図4を参照して説明する。
【0041】
図4(a)(b)に示すように、支持基板16上に、反射層17を形成する。
【0042】
図4(c)に示すように、支持基板16の反射層17上に、支持基板16の面方向に複数の短冊状の柱状結晶18aを有する柱状結晶構造のシンチレータ層18を形成する。
【0043】
図4(d)に示すように、支持基板16上のシンチレータ層18を密閉するように、これら支持基板16およびシンチレータ層18の全体を覆って、1層目のフィルム20を真空ラミネート法により圧着もしくは熱圧着して形成する。
【0044】
図4(e)に示すように、1層目のフィルム20全体を完全に覆うように、無機層21を気相成長法により形成する。
【0045】
図4(f)に示すように、無機層21全体を覆うように、2層目のフィルム20を真空ラミネート法により圧着もしくは熱圧着して形成する。
【0046】
次に、一般的な真空ラミネート法について図5を参照して説明する。
【0047】
図5(a)に示すように、例えば、表面にアスペクト比の異なる大小の凹部61,62を有する構造物63にフィルム20を真空ラミネート法により積層形成する場合を想定する。
【0048】
図5(b)に示すように、真空ラミネート法を採用する製造装置65は、下型66と上型67とを有し、下型66には構造物63を加熱する加熱板68が配設され、上型67にはダイアフラム69およびこのダイアフラム69を加熱する加熱板70が配設されている。
【0049】
そして、下型66の加熱板68上に、フィルム20をセットした構造物63を配置する。
【0050】
図5(c)に示すように、下型66と上型67とを閉じ、下型66側からは真空排気してダイアフラム69を吸引するとともに、上型67からは加圧空気を送り込んでダイアフラム69を加圧し、加熱板68,70で型内の構造物63、フィルム20およびダイアフラム69等を加熱しながら、ダイアフラム69でフィルム20を構造物63に圧着させる。
【0051】
図5(d)に、真空ラミネート法によりフィルム20を積層形成した構造物63を示す。有機物の連続重合体から構成されるフィルム20は、構造物63の表面形状に沿って開口幅が広くアスペクト比の小さな凹部61に含浸して圧着するが、例えば、光電変換基板13上のスルーホール46等の開口幅が狭くアスペクト比の大きな凹部62には含浸しないこととなる。
【0052】
このため、図1に示すように、真空ラミネート法により有機物の連続重合体から構成されるフィルム20を短冊状の柱状結晶構造を有するシンチレータ層18上に圧着もしくは熱圧着することにより、シンチレータ層18の内部への有機物の連続重合体から構成されるフィルム20の含浸が少ない連続的な皮膜形成が可能となることから、感度特性および解像度特性等の画像特性の劣化防止が可能となる。
【0053】
また、保護層19は、有機物の連続重合体から構成されるフィルム20と無機層21との積層構造であることから、無機層21がシンチレータ層18への水分透過を防止することとなるため、保護層19の防湿性が改善され、シンチレータ層18の信頼性改善が可能となる。
【0054】
さらに、保護層19を支持基板16のシンチレータ層18が形成された面に対して反対側の面にも連続的に形成することにより、保護層19の端部における防湿性も向上し、かつ支持基板16に対する応力も緩和されるため、大幅なシンチレータ層18の信頼性改善に繋がる。
【0055】
また、保護層19を形成する有機物の連続重合体から構成されるフィルム20が熱可塑性を有する場合には、図1に示すように、シンチレータパネル12を用いた間接方式のX線検出器11を形成する際に、接合層を設けることなく、シンチレータパネル12を光電変換基板13上に熱圧着にて接合させることが可能であるため、接合層による光学的な拡散および散乱を防止することもできる。
【0056】
そして、本実施例のX線検出器11の構成と、従来例のX線検出器の構成とについて、シンチレータ層18の内部への保護層の浸透量と保護層の形成後の特性変化とを実験した結果を図6に示す。なお、特性評価条件:同一条件下、特性劣化量:保護層形成前に対する変化量とする。
【0057】
本実施の形態のX線検出器1の構成においては、シンチレータ層18の高輝度蛍光物質:CsI(Tl Dope)、シンチレータ層18の膜厚:600μm、シンチレータ層18の形成方法:真空蒸着法、保護層19のフィルム20の材質:ポリイミド系ラミネート樹脂、保護層19のフィルム20の膜厚:100μm、保護層19のフィルム20の形成方法:真空ラミネート法、保護層19の無機層21の材質:SiO2、保護層19の無機層21の膜厚:1μm、保護層19の無機層21の形成方法:スパッタリング法とする。
【0058】
従来例のX線検出器の構成においては、保護層19の構成以外は本実施の形態のX線検出器11の構成と同じであり、その保護層については、材質:ポリパラキシリレン、膜厚:20μm、形成方法:熱CVD法とする。
【0059】
本実施例のX線検出器11は、従来例に比べて、シンチレータ層18の内部への保護層19の含浸が少なく、感度劣化量および解像度(MTF)劣化量とも改善できた。
【0060】
これは、シンチレータ層18を密閉する保護層19を有機物の連続重合体から構成されるフィルム20と無機層21との積層構造とすることにより、シンチレータ層18の内部への保護層19の含浸が少ない連続的な皮膜形成が可能となることから、感度特性および解像度特性等の画像特性の劣化を改善できる。
【0061】
さらに、保護層19を構成する無機層21がシンチレータ層18への水分透過を防止し、シンチレータ層18の防湿性が改善されることから、シンチレータ層18の信頼性も改善できる。
【0062】
なお、図7の第2の実施の形態に示すように、保護層19のフィルム20はシンチレータ層18に接する側の1層のみでもよい。
【0063】
また、図8の第3の実施の形態、および図9に示す第4の実施の形態に示すように、保護層19は、シンチレータ層18を密閉すれば、支持基板16のシンチレータ層18が形成された面に対して反対側の面には形成しなくてもよい。その場合、フィルム20は1層でも2層でもよい。
【0064】
なお、X線51を検出するX線検出器11について説明したが、他の放射線を検出する放射線検出器についても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施の形態を示すシンチレータパネルと光電変換基板とを用いた放射線検出器の一部の断面図である。
【図2】同上シンチレータパネルの断面図である。
【図3】同上光電変換基板を模式的に示す正面図である。
【図4】同上シンチレータパネルの製造方法を(a)〜(f)の順に示す説明図である。
【図5】同上シンチレータパネルのフィルムの形成方法を(a)〜(d)の順に示す説明図である。
【図6】同上放射線検出器と従来例とにおけるシンチレータ層の内部への保護層の含浸量と保護層の形成後の特性変化とを示す表である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示す放射線検出器の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態を示す放射線検出器の断面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態を示す放射線検出器の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
11 放射線検出器としてのX線検出器
12 シンチレータパネル
13 光電変換基板
16 支持基板
18 シンチレータ層
19 保護層
20 フィルム
21 無機層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を透過する支持基板と、
この支持基板上に設けられ、外部から入射した放射線を光に変換するシンチレータ層と、
有機物の連続重合体から構成されるフィルムと無機層との積層構造により構成され、少なくとも前記シンチレータ層を密閉する保護層と
を具備していることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
保護層を形成する有機物の連続重合体から構成されるフィルムが、少なくとも、熱可塑性もしくは熱硬化性を有するフェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、アリル樹脂、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリスチレン、ポリブタジエン、スチレンブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレンポリテトラフロロエチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、AS樹脂、ABS樹脂、アイオノマー、AAS樹脂、ACS樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、酢酸セルロース、セルロイド、セロファンの何れかを主成分とする
ことを特徴とする請求項1記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
保護層を形成する有機物の連続重合体から構成されるフィルムが、シンチレータ層の発光に対する透過性を有する
ことを特徴とする請求項1または2記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
保護層を形成する無機層が、少なくとも、Al、Ti、Ni、Cu、Mo、Pd、Ag、Ta、W、Pt、Auを含む金属、SiO2、Al23、TiO2を含む酸化物、Si34、AlNを含む窒化物、DLC、SiCを含む炭化物のいずれかを主成分とする
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のシンチレータパネル。
【請求項5】
シンチレータ層が、少なくともハロゲン化合物を含む高輝度蛍光物質で構成される
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のシンチレータパネル。
【請求項6】
支持基板上の少なくともシンチレータ層を密閉する保護層を形成するシンチレータパネルの製造方法であって、
有機物の連続重合体から構成されるフィルムを真空ラミネート法により形成する工程と、
無機層を気相成長法により形成する工程とを具備し、
これら有機物の連続重合体から構成されるフィルムと無機層との積層構造により構成された保護層で、少なくともシンチレータ層を密閉する
ことを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5いずれか記載のシンチレータパネルと、
このシンチレータパネルのシンチレータ層により変換された光を電子信号に変換する光電変換基板と
を具備していることを特徴とする放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−261651(P2008−261651A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102578(P2007−102578)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】