説明

シートヒータ及びそれを備える車両用シート

【課題】シートのシートクッション部とシートバック部との傾斜角度に応じて発熱体の通電制御をするシートヒータ、及びそれを備える車両用シートを提供する。
【解決手段】本シートヒータは、シート2に配設される発熱体11a、11bと、シートバック22の傾きを検出する角度センサ4と、角度センサにより得られるシートクッションに対するシートバックの傾斜角度θに応じて、発熱体の通電量を制御する制御部5と、を備える。このようなシートヒータはシートのリクライニングの状態に応じて発熱が制御されるため、シート上の着座者3の姿勢が変化しても、着座者に快適な温熱感を与えるように発熱体の発熱を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシートヒータ及びそれを備える車両用シートに関し、詳しくは、シートのシートクッション部とシートバック部との傾斜角度に応じて発熱体の通電制御をするシートヒータ、及びそれを備える車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等のシートのシートクッション部やシートバック部に発熱体を備え、シートに着席している着座者を暖めるシートヒータが用いられている。このようなシートヒータは、着座者にとって快適となる適切な発熱量で発熱するために、温度センサ等により発熱体の通電制御を行っている。
このようなシートヒータでは、着座者の着座姿勢によってシートと着座者の身体とが接している部分が変化し、着座者の身体が密着すると温度が高くなり、密着度が減少すると温度が低くなる。そこで、着座者の着座姿勢にかかわらず、着座者に一定の温熱間を与えることができる車両用シートが知られている(特許文献1を参照)。この車両用シートでは、シートと着座者の身体部との密着度をセンサによって検出することにより、その密着度が減少したときはヒータ温度を高くし、密着度が増加したときはヒータ温度を低くするように制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−220399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示されている、シートのシートバック(背もたれ部)と着座者の身体との密着度を検出することによってヒータ温度を制御する方法では、着座者の肩部等、固定した位置に密着度を検出するためのセンサを設けることとなるため、着座者の座高等体格によってセンサとの距離が変わり、密着度を常に正確に検出することが困難であるという問題がある。また、シート内にセンサを埋め込まなければならないため、シートの厚みが不均一となり、着座者に異物感を与えるという問題がある。着座者に異物感を感じさせないようにするには、センサ及びその周辺の構造や材料に制約が生じてしまう。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、着座者の体格や着座姿勢にかかわらず、シートのリクライニング状態によって着座者に快適な温熱感を与えることができるシートヒータ、及びそれを備える車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、本第1発明のシートヒータは、シートクッションと該シートクッションに回動可能に設けられたシートバックとを有するシートに備えられるシートヒータであって、前記シートに配設される発熱体と、前記シートバックの傾きを検出する角度センサと、前記角度センサにより得られる前記シートクッションに対する前記シートバックの傾斜角度に応じて、前記発熱体の通電量を制御する制御部と、を備えることを要旨とする。
【0007】
本第2発明は、前記第1発明において、前記制御部は、前記傾斜角度が第1角度より小さい前傾状態であるときは、前記発熱体の通電を停止し、前記傾斜角度が第2角度より大きい後傾状態であるときは、前記発熱体の通電量を低減させることを要旨とする。
本第3発明は、前記第1又は第2発明において、前記発熱体は前記シートの複数の領域に分割して配設されており、前記制御部は、前記傾斜角度に応じて各前記領域の前記発熱体の通電量を制御することを要旨とする。
【0008】
本第4発明の車両用シートは、前記第1乃至第3発明のいずれかのシートヒータを備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシートヒータによれば、シートクッションとシートクッションに回動可能に設けられたシートバックとを有するシートに備えられ、シートに配設される発熱体と、前記シートバックの傾きを検出する角度センサと、角度センサにより得られるシートクッションに対するシートバックの傾斜角度に応じて、発熱体の通電量を制御する制御部と、を備えるため、シートのリクライニングの状態に応じて発熱が制御される。シートバックの傾斜角度によって制御を行うためセンサの位置を問わず、着座者の座高等の体格が異なっていても、またシート上の着座者の姿勢が変化しても、着座者に快適な温熱感を与えるように発熱体の発熱を制御することができる。例えば、シートバックが標準ポジションにあるときは、シートと着座者の身体とが適度に接している状態であるので、設定された温度となるような発熱体の発熱とすることができる。また、シートバックが標準ポジションから前後に倒されるほどシートと着座者の身体との密着度が低下する場合には、傾斜角度に応じて発熱体の発熱を増すことによって、着座者に一定の温熱感を与えることができる。
また、本シートヒータでは、角度センサはシートバックの傾きを検出可能な部位に配設すればよいため、センサを着座者と接するシート面周辺に設ける必要がなく、着座者に異物感を与えることがない。また、従来のヒータ付きシートの構造や材質をそのまま適用することができる。
【0010】
前記制御部は、前記傾斜角度が第1角度より小さい前傾状態であるときは、前記発熱体の通電を停止し、傾斜角度が第2角度より大きい後傾状態であるときは、発熱体の通電量を低減させる場合には、シートバックが前倒しされている状態であるとき(例えば、車両への乗り込み時)は発熱体の通電を停止することで、不要な発熱をなくし、電力消費を防止することができる。また、シートバックが大きく後ろ倒しされている状態であるときは、発熱体の通電量を低減させることで低温にし、着座者がくつろいで快眠でき、また低温やけどを防ぐようにすることができる。
前記発熱体は前記シートの複数の領域に分割して配設されており、前記制御部は、前記傾斜角度に応じて各領域の発熱体の通電量を制御する場合には、シートのリクライニングの状態によって、領域毎(例えば、シートクッション部とシートバック部)の発熱量を変えることにより、着座者の身体部位毎に適度な温熱を与えることができる。また、シートヒータの無駄な電力消費を抑えることができる。
【0011】
本発明の車両用シートによれば、上記シートヒータを効果的に使用して、簡素な構造により、乗員の体格やシート上の着座者の姿勢にかかわらず着座者に快適な温熱感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述によって更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】車両用シートに設けられた本シートヒータの構成を示すシート側面図である。
【図2】角度センサの構成例を示す模式図である。
【図3】シートバックが通常のリクライニング状態であるときの傾斜角度及び着座者との密着度を説明するためのシート側面図である。
【図4】シートバックが前傾状態である場合を説明するためのシート側面図である。
【図5】シートバックが後傾状態である場合を説明するためのシート側面図である。
【図6】シートバックの上部と下部に発熱体が1つずつ設けられている場合の本シートヒータの構成を示すシート側面図である。
【図7】運転席のシートのシートバックに発熱体が1つ設けられている場合に、シートのリクライニング状態により発熱量を制御する例を示すグラフである。
【図8】運転席のシートのシートバックに発熱体が2つ設けられている場合に、シートのリクライニング状態により発熱量を制御する例を示すグラフである。
【図9】助手席のシートのシートバックに発熱体が1つ設けられている場合に、シートのリクライニング状態により発熱量を制御する例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜9を参照しながら本発明のシートヒータ及び車両用シートを詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0014】
1.シートヒータ及びそれを備える車両用シートの構成
本シートヒータは、シートクッションと、そのシートクッションに回動可能に設けられたシートバックとを有するシートに備えられる。本シートヒータが設けられるシートは特に限定されず、例えば、車両用シート、室内用シートのような様々なシートが挙げられる。
本シートヒータは、前記シートに配設される発熱体と、前記シートバックの傾きを検出する角度センサと、該角度センサにより検出される前記シートバックの傾きから得られる前記シートクッションに対する前記シートバックの傾斜角度(リクライニング状態)に応じて、前記発熱体の通電量を制御する制御部と、を備えている。
【0015】
図1は、車両用シートに設けられた本シートヒータの構成を示している。車両用シート2は、シートクッション21及びシートバック22からなる。本例においては、シートクッション21及びシートバック22の表面部に、それぞれ発熱体11(11a、11b)が設けられている。
本シートヒータ1は、前記発熱体11a及び11bと、角度センサ4と、制御部5とを備えている。各発熱体11a、11b及び角度センサ4は、それぞれ制御部5に接続されている。
【0016】
発熱体11を設ける場所は特に問わず、シートバックやシートクッションの他、ヘッドレスト、足載せ台、肘掛け等に設けられてもよい。また、1つのシートに設けられる発熱体の数は特に問わず、1つ、又は2つ以上の任意の数に分割して、設けることができる。
例えば、シートバック及びシートクッションの一方に1つの発熱体を設けてもよいし、図1に示すように、シートバック及びシートクッションにそれぞれ1つとなるように発熱体が分割されて設けられてもよい。また、シートバック及びシートクッションの一方、又は両方に設けられた各発熱体が、更に2以上に分割されていてもよい。分割されて設けられた発熱体(以下、「複数の発熱体」という。)に対しては、制御部5により、各別に通電量を制御するように構成することができる。
各発熱体の配置や形状、大きさは、シート上の各領域に接する着座者の身体部位に温熱を与えることができる限り特に問わない。また、複数の発熱体を設ける場合には、各発熱体を隣り合って設けることができ、隣り合う発熱体は隙間なく配設されてもよいし、隙間を空けて配設されてもよい。
【0017】
各発熱体の材料や構造は特に限定されず、例えば、抵抗発熱線や面状発熱体等を使用することができる。各発熱体は、好ましくは着座者と接するシートの表層部に設けられる。この表層部には、シートと一体になってシートの外面を覆うように設けられるシートカバーを含むことができる。例えば、前記発熱体11a、11bを、シート2の内部に備えられているクッション材とシートカバーとの間に設けることができる。
【0018】
角度センサ4は、シートバックの傾きを傾斜角度として検出するセンサであり、角度センサ4の種類は、シートバックの傾斜角度を検出可能な限り、その種類を問わない。例えば、シートバックの傾きに対応して作動する可変抵抗器やロータリエンコーダ等を角度センサ4として用いることができる。また、位置センサやジャイロセンサ等を用いて、シートバックの傾きを検出して傾斜角度を算出してもよい。
また、角度センサ4は、シートの任意の部位に設けることができる。図1に示した例では、角度センサ4は、リクライニング装置の回動軸23部に配設されている。図2は、回動軸23と連動して回転する可変抵抗器を角度センサ4とする例を示している。この例では、回動軸23の回転に伴って抵抗器41側の端子と中間端子42との間の抵抗値が変化することを利用して、極めて簡単に角度センサ4を構成することができる。
【0019】
制御部5は、ハードウェアのみで構成されてもよいし、マイクロプロセッサ等を使用してハードウェアとソフトウェアとによって構成されてもよい。制御部5及び各発熱体11には、図示しない電源により必要な電力が供給される。例えば車両用シートの場合には、電源は車両のバッテリから給電を受けるようにすることができる。
【0020】
制御部5は、角度センサ4と接続されている。制御部5では、角度センサ4によって検出されたシートバック22の傾きから、シートクッション21に対するシートバック22の傾斜角度θを知るようにすることができる。
角度センサ4の信号形式や信号処理方法は、角度センサの種類等に応じて適宜決められればよい。例えば、角度センサ4として可変抵抗器を用いる場合、可変抵抗器の端子電圧を比較回路等によって検出してもよいし、A/Dコンバータにより読み取るようにしてもよい。
この他、制御部5は、使用者がシートヒータの温度を設定するための信号を入力し、その温度設定信号により発熱体の発熱量を調節するように構成することができる。また、室内や発熱体部等の温度を計測するための温度センサを備え、制御部5は、計測された温度により発熱体の発熱量を調節するように構成されてもよい。
【0021】
また、制御部5は、発熱体11と接続されており、発熱体の発熱量を通電量によって制御するように構成されている。複数の発熱体が設けられている場合には、発熱体毎に通電量を制御するように構成することができる。
各発熱体の通電量の制御方法は任意に選択することができる。例えば、制御部5は、パルス幅変調(PWM)、電圧制御、電流制御等により、発熱体11毎に通電量を制御するように構成することができる。
【0022】
2.シートヒータの制御方法及び動作
本シートヒータ1の制御部5は、角度センサ4を用いてシートバック22の傾きを検出し、シートクッション21に対するシートバック22の傾斜角度θ、すなわちシートのリクライニング状態に応じて、発熱体11の通電量を制御する。傾斜角度θに応じて通電量を制御する方法は、任意に選択することができる。例えば、傾斜角度θに応じて連続的に通電量を変化させることができる。また、傾斜角度θの所定範囲毎に、通電量を変更する制御としてもよい。これらの詳細な例を以下に説明する。
【0023】
(1)通常のリクライニング範囲であるときの通電制御
図1に示したように、シートバックが前後に倒されていない状態(「標準ポジション」という。車両の運転者用シートの場合、標準的なドライビングポジションとなる。)では、シート表面と着座者の身体とが適度に密着している。この標準ポジションにおける傾斜角度θを、θ12とする。シートのリクライニングが標準ポジション又は標準ポジションに近い範囲であるときは、設定された温度を基準として、制御部5により発熱体11毎の通電を制御することが好ましい。
【0024】
図3は、シートのリクライニングが標準ポジションに近い範囲(「通常状態」という。)の傾斜角度で変えられた場合を表している。シートの形状や目的によるが、シートを標準ポジションからやや前倒し(傾斜角度θ11)又はやや後倒し(傾斜角度θ13)すると、シートと着座者の身体各部との密着度が変化し、通常、シートバック22と着座者の背中部との密着性が標準ポジションに比べて低下する。このような場合、通常状態の範囲(傾斜角度θ11〜θ13)において、傾斜角度θが標準ポジションから離れる程度に応じて発熱体11bの通電量を増すことにより、着座者3の背中部の温熱感の低下を補うことができる。
【0025】
車両用シートの場合には、運転席と助手席とでは、同程度にシートをリクライニングしたときであっても、通常、着座者とシートとの密着性が異なる。運転席の場合、シートが適正な標準ポジションから後に傾けられた状態では、運転者の背中はシートバック22から離れ気味となる。一方、助手席の場合、シートが後倒しされても、着座者の背中が運転者ほどシートバック22から離れないことが多い。したがって、通常状態においても、シートの目的や使用感に合わせて、傾斜角度θに応じて各発熱体の通電量を増すか減らすかを設定し、又その増減の程度を設定することが好ましい。
【0026】
(2)シートバックが前傾状態であるときの通電制御
図4に示すように、シートバック22が上記通常状態の範囲を超えて前に倒された状態(「前傾状態」という。)では、通常、着座者3はシート2に着座することができない。このため、シートバック22が前傾状態であるときには、制御部5により発熱体11の通電を止めることが好ましい。例えば、制御部5は、シートバックの傾斜角度θが第1角度であるθ11(例えば、約90度とすることができる。)より小さいときには、発熱体11への通電を停止するようにする。それによって、不要な電力消費を抑えることができる。また、シートヒータの切り忘れを防止することができる。
【0027】
(3)シートバックが後傾状態であるときの通電制御
図5に示すように、シートバック22が上記通常状態の範囲を超えて後ろに倒された状態(「後傾状態」という。)では、通常、着座者3はシート上で休息する姿勢であると考えられる。このため、後傾状態であるときには、制御部5により発熱体11の通電量を通常状態よりも減らすことが好ましい。例えば、制御部5は、シートバックの傾斜角度θが第2角度であるθ13(例えば、約120度とすることができる。)より大きいときには、発熱体11への通電量を減少させるように制御することができる。それによって、通常状態よりもシートヒータが低温となるため、着座者に快適な温熱感を与え、低温やけども防ぐことができる。また、シートヒータの電力消費を抑えることができる。
【0028】
後傾状態において、制御部5は、各発熱体に対して通常状態よりも低い一定の通電量としてもよいし、傾斜角度θに応じて通電量を低減するようにしてもよい。低減量は、シートの目的や使用感に合わせて適宜設定されればよい。また、通常状態との間で急激な温熱変化を避けるため、徐々に通電量を変化させるように制御することができる。また、後傾状態における着座者の快適性を更に増すために、発熱量をリズミカルに変化させる温熱ゆらぎ制御等を行うこともできる。
【0029】
(4)複数の発熱体の通電制御
1つのシートの複数の領域毎に発熱体が設けられている場合、制御部5は、シートバックの傾斜角度θに応じて、発熱体毎に異なった通電量とするように制御することできる。例えば、図1に示したシートでは、シートクッション21及びシートバック22に、それぞれ発熱体11a及び11bが設けられている。この場合、前記通常状態や前記後傾状態において、それぞれ別個に設定された発熱量となるように制御することができる。リクライニングの状態によって、シートバック22と着座者の背や肩部の密着度が変化し、シートクッション21と着座者の尻部との密着度も変化するため、発熱体毎の発熱量を変えることにより、着座者の身体部位に応じて適度な温熱感を与えるとともに、シートヒータの消費電力を低減することが可能になる。
【0030】
図6は、シートバック22の下部及び上部にそれぞれ発熱体11b、11cを設けた例を表している。この場合、リクライニングの状態によって、発熱体11bと11cとで異なった通電制御を行うことできる。シートの形状や目的によるが、シートのリクライニング状態を変えると、シートと着座者の身体各部(肩部、背部、尻部等)との密着度は変化する。したがって、シートバック22の傾斜角度θに応じて、通常、着座者の密着性が低下する部位について、発熱体の発熱量を増すことにより一定の温熱感を保つようにすることができる。また、例えば車両の運転席の場合には、シートバック22を標準ポジションから後に倒したとき、通常、運転者の肩部はシートバック22から離れる。このため、運転者用のシートでは、シートバック22の傾斜角度θが一定の値よりも大きくなったら、肩部の発熱体11cの通電を止めることにより、不要な電力消費を抑えることができる。
また、通常、前記標準ポジションでは、シートクッション21と着座者の尻部との密着度も高いと考えられる。したがって、標準ポジションを中心として、シートバック22の傾斜角度θに応じてシートクッション21の発熱体11aの通電量を調整し、適度な温熱感を与えるように制御することができる。
【0031】
以上に述べたシートのリクライニング状態(傾斜角度θ)に基づく制御、更にシート上の領域毎の発熱の制御は、種々組み合わせて、又は変形して適用することができる。図7〜9は、車両用シートについて、リクライニングの状態によるシートヒータの発熱量の制御例を示している。いずれも、横軸は傾斜角度θ、縦軸は発熱体の発熱量Qを表す。また、傾斜角度θが第1角度θ11より小さい範囲を前傾状態A、θ12を標準ポジション、θ11〜θ13の範囲を通常状態B、第2角度θ13より大きい範囲を後傾状態Cとしている。θ11、θ12、θ13等の具体的な角度は、適宜に決められればよい。
【0032】
図7は、運転席に設けられる本シートヒータの基本的な制御方法を示す図である。前傾状態Aにおいては、通常着座できない状態であるので、発熱体11への通電をオフとしている。
標準ポジションθ12のときには、シートヒータが設定温度となるような発熱量Qに制御する。そして、リクライニングが通常状態Bの範囲においては、標準ポジションを基準として前後に倒された量に対応して、シートヒータの発熱量Qを増加させるように制御する。これによって、シートと着座者の身体の密着度の低下分を補い、着座者に一定の温熱感を与えるようにすることができる。
リクライニングが後傾状態Cの範囲においては、車両の運転等が不可能な状態であるので、シートヒータの発熱量Qを大幅に低下させている。また、傾斜角度θが大きいほど発熱量Qを低下させるように制御している。これによってシートヒータの温度を下げ、着座者に快適な休息や眠りの環境を提供することができる。
【0033】
図8は、シートに複数の発熱体11a、11b及び11c(図6参照)を備える場合の制御方法を示す図である。前傾状態Aにおいては、すべての発熱体の通電をオフとしている。
標準ポジションθ12のときには、シートヒータが設定温度となるような発熱量Qに制御する。そして、リクライニングが通常状態Bの範囲において、標準ポジションを基準として前後に倒された量に対応して、発熱体11a及び11bの発熱量Qを増加させるように制御する。この場合、発熱量Qを増加させる程度は、尻部の発熱体11aと背部の発熱体11bとで異なるようにすることができる。これによって、シートと着座者の尻部及び背部それぞれの密着度の低下分を補い、着座者に一定の温熱感を与えるようにすることができる。また、運転席の場合には、通常、着座者の肩部はシートバック22が後側へ倒されるほどシートから離れる。このため、運転席の肩部の発熱体11cについては、傾斜角度θが増すほど発熱量Qを低下させ、通常肩部が完全にシートから離れる傾斜角度θを超えるときには、通電をオフとするように制御することができる。
リクライニングが後傾状態Cの範囲においては、前記同様に、各発熱体の発熱量Qを大幅に低下させている。
【0034】
図9は、車両の助手席や後部座席の制御例を示している。図7に示した制御方法と同様であるが、助手席や後部座席は、運転席と異なり通常にリクライニングされる範囲が広い。このため、通常状態Bの範囲の範囲を広げ、傾斜角度θ13’までの範囲でシートバック22を後に倒しても発熱量Qが緩やかに変化するようにして、着座者に違和感を与えないようにしている。
【0035】
尚、前傾状態及び後傾状態と通常状態との境界角度は、図示した約90度、約120度等に限られず、シートの目的や形状に応じて適宜変更することができる。また、本例では、前傾状態、通常状態及び後傾状態の3区分に分けた通電制御を行っているが、これに限られず、区分数を任意の数に増減することができる。また、本例では、通常状態と後傾状態との間で発熱量を大きく変化させているが、着座者に急な温熱の変動を感じさせないように、滑らかに発熱量を変化させるようにすることができる。
【0036】
3.シートヒータの効果
このように、角度センサを用いて得られたシートバックの傾斜角度に応じて、発熱体の通電量を制御する本シートヒータは、リクライニングの状態にかかわらず、着座者に適度の温熱を与えることができる。
また、本シートヒータは、リクライニングの角度によってヒータの制御をするものであるため、着座者の座高等の体格にかかわらず、着座者に一定の温熱感を与えることができる。更に、シートバックの傾斜角度を得るための角度センサは、シートバックやシートクッションの着座者に接する部位に配設する必要がなく、着座者にセンサによる異物感を生じさせることがない。
【0037】
尚、本発明においては、以上に示した実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した態様とすることができる。
以上の説明では、発熱体がシートクッション及びシートバックに設けられる場合を挙げたが、発熱体の数や配設位置はこれに限らず、例えば、肩部、背部、腰部、尻部及び腿部等にそれぞれ発熱体を配設してもよいし、シートバックのみに配設してもよい。また、発熱体を設ける場所はシートのみに限られず、例えば、ふくらはぎや足の裏等を載せる足載せ台に発熱体を設け、シートに設けた発熱体とあわせて制御することもできる。
【符号の説明】
【0038】
1;シートヒータ、11、11a、11b、11c;発熱体、2;シート、21;シートクッション、22;シートバック、23;回動軸、4;角度センサ、5;制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションと該シートクッションに回動可能に設けられたシートバックとを有するシートに備えられるシートヒータであって、
前記シートに配設される発熱体と、
前記シートバックの傾きを検出する角度センサと、
前記角度センサにより得られる前記シートクッションに対する前記シートバックの傾斜角度に応じて、前記発熱体の通電量を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするシートヒータ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記傾斜角度が第1角度より小さい前傾状態であるときは、前記発熱体の通電を停止し、
前記傾斜角度が第2角度より大きい後傾状態であるときは、前記発熱体の通電量を低減させる、請求項1記載のシートヒータ。
【請求項3】
前記発熱体は前記シートの複数の領域に分割して配設されており、
前記制御部は、前記傾斜角度に応じて各前記領域の前記発熱体の通電量を制御する請求項1又は2記載のシートヒータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシートヒータを備えることを特徴とする車両用シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−52850(P2013−52850A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194379(P2011−194379)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】