説明

シームレスカプセルの製造方法

【課題】皮膜強度が高いシームレスカプセルを効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】最内側から第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置を用い、該第1ノズルから封入材料およびゲル化助剤を含有する水性液状物を、該第2ノズルから疎水性物質を、そして該第3ノズルからゲル化剤および光硬化性樹脂を含有する水性液状物を同時に液中に押出す工程を包含し、前記液中へ押出しにより生じた液滴に、光照射を行う工程を包含するシームレスカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスカプセルの製造方法に関する。より詳細には、皮膜強度が高いシームレスカプセルを効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シームレスカプセルは、食品、医薬部外品、医薬品などの分野で用いられている。シームレスカプセルを形成する皮膜形成材料としては、体内での溶解性に優れ、速やかに崩壊して内容物を放出することが可能な材料が用いられる。このような材料の代表例は、ゼラチンあるいはゼラチンを含む組成物でなる材料である。
【0003】
ゼラチン系以外の皮膜形成材料も知られている。そのような材料でなるカプセルとしては、寒天を基剤として含有するカプセル(例えば、特許文献1);あるいは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーでなる基剤をそれぞれ、カラギーナンなどのゲル化剤でゲル化して得られるカプセルがある(特許文献2〜4)。これらは体内に入った場合に、速やかにあるいは徐々に崩壊してその内容物を放出する。カプセル皮膜の材料を適宜選択することにより、食品、医薬部外品または医薬品として適切な崩壊速度が得られる。このように、上記分野において、カプセル皮膜としては、適切な崩壊性を有する材料が用いられてきた。
【0004】
最近のバイオテクノロジーのめざましい進歩は、医薬品の開発あるいは植物の改良などの様々な分野に影響を与え、上記カプセルについてもこれまでとは異なる利用が考えられる。例えば、インスリン生産細胞、または遺伝子組換えなどの技術により実用化されているインスリン生産微生物を、人体に安全かつ長期間安定な皮膜を有するカプセルに生きたまま封入し、糖尿病患者の生体に埋め込むことにより、インスリンを連続的に生産させ、糖尿病を治療することが可能になることも考えられる。
【0005】
このような目的のためには、カプセルは、生体内で安定に保たれることが必要である。また、酵素や微生物をカプセルに封入し、バイオリアクターとして利用するためには、反応や培養過程において長期的に安定な皮膜を有するカプセルが必要である。しかし、従来、食品や医薬品用途に利用している上記カプセルは、上述のように、体内で溶解することまたは崩壊することを目的としているため、経時的に脆弱化しやすく、さらに耐熱性や耐湿性が低くかつ保管し難いという欠点を有する。そのため、強固な皮膜あるいは水系溶媒中で長期的な安定性を有する皮膜としては不十分である。
【0006】
強固でかつ水系溶媒中で長期的な安定性を有する皮膜を有するカプセル剤として、合成高分子を皮膜基材として含有するシームレスカプセルが提案されている(特許文献5)。このシームレスカプセルは、主に光硬化性樹脂およびゲル化剤を皮膜基材としている。光硬化性樹脂は、光重合成開始剤の開裂により生じるラジカルまたはカチオンの作用で重合反応または架橋反応を起こすことにより得られる。特許文献5において、皮膜を構成する樹脂は、3次元構造を有しており、物理的に強固で安定である。
【0007】
このようなシームレスカプセルは、最内側から第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置によって製造される。具体的には、第1ノズルから封入材料を含有する水溶液を、第2ノズルから疎水性物質を、そして第3ノズルからゲル化剤、ゲル化助剤、および光硬化性樹脂を含有する皮膜組成物を同時に液中に押出すことによって得られる。しかし、この方法を用いる場合、ノズル射出操作を開始すると短時間でゲル化剤とゲル化助剤が反応することによってノズル先端でゲルが形成され易い。そのため、長期間製造を続けると、カプセルの粒径および形状にばらつきを生じる。
【0008】
そこで、ノズル先端でゲルが形成されることない、作業性に優れたシームレスカプセルの製造方法が求められている。
【特許文献1】特開平1−193216号公報
【特許文献2】特開平8−208458号公報
【特許文献3】特開平10−291928号公報
【特許文献4】特開2001−170137号公報
【特許文献5】特開2003−325638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、皮膜強度が高いシームレスカプセルを効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置を用いるシームレスカプセルの製造において、ゲル化剤とゲル化助剤とを分離して製造を行うことにより、ノズル先端におけるゲル化を防止して作業性を高めることができることを見出した。
【0011】
本発明のシームレスカプセルの製造方法は、最内側から第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置を用い、該第1ノズルから封入材料およびゲル化助剤を含む封入材料含有組成物からなる水性液状物を、該第2ノズルから疎水性物質を、そして該第3ノズルからゲル化剤および光硬化性樹脂を含有する皮膜組成物からなる水性液状物を同時に液中に押出す工程を包含する。
【0012】
ある実施態様においては、上記液中への押出しにより生じた液滴に、光照射を行う工程を包含する。
【0013】
ある実施態様においては、上記ゲル化助剤は、カルシウムイオンを生じ得る化合物、ストロンチウムイオンを生じ得る化合物、バリウムイオンを生じ得る化合物、有機酸、グルコース、マルトース、およびフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種であり、上記ゲル化剤は、アルギン酸、高メトキシペクチン、低メトキシペクチン、および硫酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0014】
ある実施態様においては、上記疎水性物質は、オリーブ油、ホホバ油、コーン油、ナタネ油、豚脂、牛脂、鯨油、ヒマシ油、大豆油、米油、米胚芽油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、アボガド油、マカデミアナッツ油、スクワラン、ミンク油、タートル油、炭素数が4〜30の脂肪酸トリグリセリド、炭素数が4〜30の脂肪酸ジグリセリド、炭素数が4〜30の脂肪酸モノグリセリド、炭素数が4〜30の蔗糖脂肪酸エステル、炭素数が8〜30の炭化水素類、ミツロウ、カルナウバロウ、ライスワックス、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、炭素数が4〜30の脂肪酸、炭素数が4〜30の高級アルコール、および炭素数が4〜30の脂肪酸と炭素数が4〜30の高級アルコールとのエステルからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
ある実施態様においては、上記光硬化性樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する親水性光硬化性樹脂である。
【0016】
ある実施態様においては、上記封入材料含有組成物中に、さらに疎水性物質が含まれる。
【0017】
ある実施態様においては、上記皮膜組成物中に、さらに光重合開始剤が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシームレスカプセルの製造方法によれば、同心三重ノズルの最内側の第1ノズルからゲル化助剤を含む水性液状物が、中間の第2ノズルから疎水性物質が、そして最外側の第3ノズルからゲル化剤および光硬化性樹脂を含む水性液状物が同時に液中(例えば、冷却された液状の疎水性物質中)に押出されるため、押し出し工程において、最内層のゲル化助剤と最外層のゲル化剤とが接触しない。そのため、ノズル先端でゲル化をおこすことなく、3層構造の液滴を形成することができる。この液滴は、その後、第2ノズルから押出された疎水性物質からなる皮膜が崩壊することにより、ゲル化助剤とゲル化剤とが接触し、ゲル皮膜が形成される。さらに光照射することによって、ゲル皮膜中の光硬化性樹脂が硬化して皮膜強度が高くなる。このようにして得られるシームレスカプセルは、強固な皮膜を有し、かつ長期間安定である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のシームレスカプセルの製造方法は、最内側から第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置を用い、該第1ノズルから封入材料およびゲル化助剤を含む封入材料含有組成物からなる水性液状物を、該第2ノズルから疎水性物質を、そして該第3ノズルからゲル化剤および光硬化性樹脂を含有する皮膜組成物からなる水性液状物を同時に液中に押出す工程を包含する。
【0020】
(1)封入材料含有組成物からなる水性液状物
上記封入材料含有組成物からなる水性液状物は、同心3重ノズルの最内側の第1ノズルより押出される材料である。上記封入材料含有組成物は、封入材料およびゲル化助剤を含み、必要に応じて、疎水性物質を含む。
【0021】
封入材料は、本発明の方法によって得られるシームレスカプセルに封入される成分であり、所望の目的に応じて適宜選択される。例えば、医薬品、香料、種子、微生物、植物細胞、植物組織、動物細胞、動物組織などが挙げられる。封入材料は、例えば、封入材料が粉末形態(菌体粉末など)の場合、封入材料含有組成物中に0.001〜30質量%、好ましくは0.01〜20質量%の割合で含まれる。封入材料が微生物の場合、封入材料含有組成物中に10cells/mL〜5×1011cells/mL、好ましくは1×10cells/mL〜1×1011cells/mL程度含まれる。封入材料が植物細胞や動物細胞の場合、封入材料含有組成物中に10cells/mL〜5×10cells/mL、好ましくは1×10cells/mL〜1×10cells/mL程度含まれる。封入材料が植物組織、動物組織などの場合、封入材料含有組成物中に3個/mL〜5×10個/mL、好ましくは6個/mL〜1×10個/mL程度含まれる。
【0022】
ゲル化助剤は、ゲル化剤(後述)によるカプセル皮膜の形成性を高めるために用いられる。ゲル化助剤としては、水溶液中で解離して、多価金属イオン、特に二価金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、またはバリウムイオン)を生じ得る化合物、有機酸、多糖類(グルコース、マルトース、フルクトースなど)などが挙げられる。ゲル化助剤は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上組合せて用いてもよい。
【0023】
二価金属イオンを生じ得る化合物は、上記イオンを生じるような無機酸(塩酸)または有機酸(乳酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、グルコン酸など)の塩であり、具体的には、乳酸カルシウム、塩化カルシウムなどである。
【0024】
上記ゲル化助剤の中で、カルシウムイオンを生じ得る化合物、ストロンチウムイオンを生じ得る化合物、バリウムイオンを生じ得る化合物、有機酸、グルコース、マルトース、またはフルクトースが好適に用いられる。これらは、用いられるゲル化剤の種類に応じて適宜選択される。
【0025】
上記ゲル化助剤は、例えば、封入材料含有組成物中に固形分として0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%含まれる。
【0026】
上記封入材料含有組成物は、上記各成分を水に添加して、均一に混合することにより得られる。この封入材料含有組成物は、含有される成分の種類に応じて適宜調製され得、その形態は、水溶液、分散液、あるいは乳濁液(エマルジョン)で有り得る。例えば、疎水性物質を含む場合、封入材料と、ゲル化助剤と、疎水性物質とを混合し、ホモジナイザなどで高速撹拌することによってエマルジョンが調製される。
【0027】
(2)疎水性物質
疎水性物質は、主に同心三重ノズルの中間ノズル(第2ノズル)から押出される物質として用いられる。この物質は、ノズルから押出されたときに、三層構造の液滴の中間層を形成し、第1ノズルから押出される水性液状物に含まれるゲル化助剤と、第3ノズルから押出される水性液状物に含まれるゲル化剤とが接触し、反応することを防止し得る。この中間層は、通常、数10ミリ秒〜数時間、好ましくは数100ミリ秒〜120分間で崩壊するため、この間は、ゲル化助剤とゲル化剤との接触が防止され得る。疎水性物質はまた、上述のように、封入材料含有組成物に含有され得る。
【0028】
疎水性物質としては、例えば、オリーブ油、ホホバ油、コーン油、ナタネ油、豚脂、牛脂、鯨油、ヒマシ油、大豆油、米油、米胚芽油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、アボガド油、マカデミアナッツ油、スクワラン、ミンク油、タートル油、炭素数が4〜30の脂肪酸トリグリセリド、炭素数が4〜30の脂肪酸ジグリセリド、炭素数が4〜30の脂肪酸モノグリセリド、炭素数が4〜30の蔗糖脂肪酸エステル、炭素数が8〜30の炭化水素類、ミツロウ、カルナウバロウ、ライスワックス、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、炭素数が4〜30の脂肪酸、炭素数が4〜30の高級アルコール、または炭素数が4〜30の脂肪酸と炭素数が4〜30の高級アルコールとのエステルが挙げられる。上記脂肪酸グリセリド、蔗糖脂肪酸エステル、炭化水素類、脂肪酸、または高級アルコール中の脂肪酸は、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。疎水性物質は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上組合せて用いてもよい。疎水性物質の粘度または密度は、特に制限されず、適度に調整され得る。
【0029】
(3)皮膜組成物からなる水性液状物
上記皮膜組成物からなる水性液状物は、同心3重ノズルの最外側の第3ノズルより押出される材料である。皮膜組成物は、光硬化性樹脂およびゲル化剤を含み、必要に応じて、その他の成分を含む。
【0030】
(3−1)光硬化性樹脂
光硬化性樹脂は、光照射により引き起こされる反応により硬化する樹脂であり、通常、光重合性モノマー、光重合性オリゴマー、または光重合性モノマー若しくは光重合性オリゴマーの付加重合物が用いられる。光硬化性樹脂は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上組合わせて用いてもよい。光硬化性樹脂は、重合開始剤と組合わせて用いることが好ましい。
【0031】
上記光重合性オリゴマーとしては、例えば、ラジカル重合により硬化する光重合性オリゴマーおよびカチオン重合反応により硬化する光重合性オリゴマーが挙げられる。光重合性オリゴマーの数平均分子量は、300〜30,000、好ましくは500〜20,000の範囲内である。
【0032】
ラジカル重合により硬化する光重合性オリゴマーは、例えば、官能基として (メタ)アクリロイル基、ビニル基などを有する。例えば、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマー、エステル(メタ)アクリレート系オリゴマー、(メタ)アクリレート系オリゴマー、不飽和ポリエステル系オリゴマー、ポリエン・チオール系オリゴマー、およびケイ皮酸系オリゴマーが挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールの両末端に光重合可能なエチレン性不飽和基を有する樹脂(ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルキル鎖の炭素数が4〜10であるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなど)、高酸価不飽和ポリエステル類、高酸価不飽和ポリエポキシド類、アニオン性不飽和アクリル樹脂類、カチオン性不飽和アクリル樹脂類、不飽和ポリアミド類などが挙げられる。上記用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの少なくとも一方を示す。例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートとは、ポリエチレングリコールジアクリレートおよびポリエチレングリコールジメタクリレートのうちの少なくとも一方を示す。
【0033】
カチオン重合反応により硬化する光重合性オリゴマーは、例えば、官能基としてエポキシ基、ビニルエーテル基などを有する。例えば、エポキシ系オリゴマーおよびビニルエーテル系オリゴマーがある。
【0034】
上記光硬化性樹脂のうち、特に水性媒体中に均一に分散するのに十分なイオン性又は非イオン性の親水性基、例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、エーテル結合などを含む樹脂が好適に用いられる。このような光硬化性樹脂は、例えば、特公昭55−40号公報、特公昭55−20676号公報、特公昭62−19837号公報などに開示されている。具体的には、1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する親水性樹脂化合物、高酸価不飽和ポリエステル類、高酸価不飽和エポキシド類、アニオン性不飽和アクリル樹脂、不飽和ポリアミドなどが好適に用いられる。これらの中でも1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する親水性樹脂化合物が好ましく用いられる。
【0035】
上記1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する親水性樹脂化合物としては、ポリアルキレングリコールの両末端に光重合可能なエチレン性不飽和基を有する樹脂が挙げられる。例えば、(1)分子量400〜6000のポリエチレングリコールの両末端水酸基を、(メタ)アクリル酸2モルでエステル化したポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類;(2)分子量200〜4000のポリプロピレングリコールの両末端水酸基を、(メタ)アクリル酸2モルでエステル化したポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類;(3)分子量400〜6000のポリエチレングリコール1モルの両末端水酸基を、ジイソシアネート化合物(トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなど)2モルでウレタン化し、さらに不飽和モノヒドロキシ化合物((メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなど)を2モル付加した不飽和ポリエチレングリコールウレタン化物;および(4)分子量200〜4000のポリプロピレングリコール1モルの両末端水酸基を、ジイソシアネート化合物2モルでウレタン化し、さらに不飽和モノヒドロキシ化合物を2モル付加した不飽和ポリプロピレングリコールウレタン化物が挙げられる。
【0036】
上記高酸価不飽和ポリエステル類としては、例えば、不飽和結合を有する多価カルボン酸と、多価アルコールとのエステル化により得られる、酸価が40〜200の不飽和ポリエステルの塩類などが挙げられる。
【0037】
上記高酸価不飽和エポキシド類としては、例えば、酸価40〜200の不飽和エポキシ樹脂などが挙げられる。このような樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と不飽和カルボキシル化合物((メタ)アクリル酸など)との付加反応物を調製し、この付加反応物に残存するヒドロキシル基に、酸無水物を付加することによって得られる。
【0038】
上記アニオン性不飽和アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルのうちの少なくとも2種の(メタ)アクリル系モノマー由来であって、かつカルボキシル基、リン酸基および/またはスルホン酸基を有する共重合体に、光重合可能なエチレン性不飽和基を導入した樹脂などが挙げられる。
【0039】
上記不飽和ポリアミドは、例えば、ジイソシアネート(トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど)とエチレン性不飽和ヒドロキシ化合物(アクリル酸2−ヒドロキシエチルなど)との付加物を、ゼラチンなどの水溶性ポリアミドに付加することにより得られる。
【0040】
これらの光硬化性樹脂のうち、本発明において特に有利に使用し得るものは、ポリアルキレングリコールの両末端に重合可能なエチレン性不飽和基を有する樹脂であり、代表的には、関西ペイント株式会社からENT−1000、ENT−2000、ENT−3400、ENT−4000、ENTG−2000、ENTG−3800などの商品名で販売されている。
【0041】
上記光硬化性樹脂は、皮膜組成物中に固形分として、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%含有される。
【0042】
(3−2)ゲル化剤
ゲル化剤は、上記光硬化性樹脂と共にカプセルを形成する材料として用いられる。ゲル化剤としては、例えば、アルギン酸、高メトキシペクチン、低メトキシペクチン、アンモニウム塩、硫酸塩(アルカリ金属の硫酸塩、硫酸アンモニウムなど)、アンモニウムイオンを生じ得る化合物が挙げられる。
【0043】
以下のようなゲル化剤と、ゲル化助剤との組み合わせが特に好適に用いられる:アルギン酸と、カルシウムイオンを生じ得る化合物との組み合わせ;高メトキシペクチンと、有機酸、グルコース、マルトース、およびフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種との組み合わせ;低メトキシペクチンと、カルシウムイオンを生じ得る化合物との組み合わせ;または硫酸塩と、カルシウムイオンを生じ得る化合物、ストロンチウムイオンを生じ得る化合物、およびバリウムイオンを生じ得る化合物からなる群より選択される少なくとも1種との組み合わせ。
【0044】
ゲル化剤は、皮膜組成物中に固形分濃度で、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜10質量%含有される。
【0045】
(3−3)その他の成分
その他の成分としては、例えば、不飽和結合を有する水溶性化合物、重合開始剤、増粘剤、可塑剤、光増感剤、着色剤、および細孔形成剤が挙げられる。重合開始剤、特に光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0046】
不飽和結合を有する水溶性化合物は、皮膜の強度を高める目的で加えられる。光重合開始剤から発生する活性種に依存しない重合を抑制する観点から、特に80℃以下で水性溶媒に溶解する物質が好ましく使用される。具体的には、イタコン酸、N,N’−メチレンビスアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン、N,N’−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミドなどが挙げられる。不飽和結合を有する水溶性化合物は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上組合せて用いてもよい。不飽和結合を有する水溶性化合物は、皮膜組成物中に固形分濃度で0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%含まれる。
【0047】
重合開始剤は特に制限されないが、光重合開始剤が好適に用いられる。光重合開始剤は、光照射によって重合開始種を発生し、重合または架橋反応を促進させる化合物である。その代表的な例としては、ベンゾイン、アセトイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、キサントン、クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ナフトール、アントラキノン、ヒドロキシアントラセン、アセトフェノンジエチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパン、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、トリフルオロカーボンスルホニウム塩などが挙げられる。重合開始剤は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上組合わせて用いてもよい。重合開始剤は、皮膜組成物中に固形分濃度で0.001〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%含まれる。
【0048】
増粘剤は、皮膜の形成における安定性を高める目的で加えられる。増粘剤としては、次の化合物が挙げられる:ゼラチン、カラギーナン、ファーセレラン、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、グアーガム、アラビアガム、プルラン、キサンタンガム、ジェランガムなど。増粘剤は、単独で用いてもよいし、あるいは2種以上組合わせて用いてもよい。増粘剤は、皮膜組成物中に固形分濃度で0.1〜40質量%、好ましくは0.5〜30質量%含まれる。
【0049】
可塑剤としては、次の化合物が挙げられる:ブドウ糖、果糖、ガラクトースなどの単糖類;ショ糖、麦芽糖、トレハロース、カップリングシュガーなどの二糖類またはオリゴ糖;プルランなどの多糖類;エリスリトール、ソルビトール、マルチトール(還元麦芽糖水飴)、ラクチトール、パラチニット、キシリトール、マンニトール、ガラクチトールなどの糖アルコール;グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコールなど。これらの可塑剤は、1種または2種以上を組合わせて用いられる。可塑剤は、皮膜組成物中に固形分濃度で1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%含まれる。
【0050】
光増感剤としては、例えば、ルテニウム錯体、ポルフィリン系化合物などが挙げられる。このような光増感剤により可視光領域に十分な感度が付与される。
【0051】
着色剤は、特に制限されず、必要に応じて、天然着色料、合成着色料などが適宜用いられる。
【0052】
細孔形成剤としては、例えば、澱粉、化工澱粉(アルキル化澱粉、エーテル化澱粉など)、分子量1000以上のデキストリン、セルロース、タンパク質などの高分子が挙げられる。細孔形成剤は、得られるシームレスカプセルの膜透過性をさらに高める目的で用いられる。例えば、カプセル形成後、酵素処理、酸、アルカリ処理により高分子鎖を切断し、溶解させ、皮膜から除くことによって、カプセル皮膜に孔を形成すること、あるいは存在する孔の径を大きくすることができ、膜透過性の高いカプセルを得ることができる。
【0053】
(4)シームレスカプセルの製造方法
本発明のシームレスカプセルの製造方法は、最内側から第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置を用いて、例えば、液中滴下法などにより行われる。液としては、液状の疎水性物質(液状油)、例えば、0〜40℃で液体の上述の疎水性物質などが用いられる。この液は、好ましくは冷却して用いられる。
【0054】
本発明におけるシームレスカプセルの製造装置の一例を図1に示す。この装置においては、定常速度で流下するキャリア流体2(液状油)中に、同心三重ノズル1が吐出口を下向きにして配置されている。同心三重ノズル1における最も内側の第1ノズル(内側ノズル11)から、封入材料含有組成物からなる水性液状物31を、次の内側の第2ノズル(中間ノズル13)から疎水性物質32を、そして最外側の第3ノズル(外側ノズル12)から皮膜組成物からなる水性液状物33をそれぞれ同時に一定速度で押出す。キャリア流体2と皮膜組成物からなる水性液状物33との間に作用する界面張力、皮膜組成物からなる水性液状物33と疎水性物質32との間に作用する界面張力、および疎水性物質32と封入材料含有組成物からなる水性液状物31との間に作用する界面張力によって、3層構造のジェットが形成される。ジェットは、その後、球状の液滴となる。形成直後の液滴の断面模式図を図2(a)に示す。この液滴中の3層構造は、比較的短時間(通常、数10ミリ秒〜数時間、好ましくは 数100ミリ秒〜120分間)で、中間層である疎水性物質層が崩壊し、疎水性物質が油滴となる(図2(b)参照)。その結果、最内層のゲル化助剤と最外層のゲル化剤とが接触・反応し、最外層のゲル皮膜の形成が促進され、シームレスカプセル3が得られる。形成されるシームレスカプセルのサイズの均一性を増すために、該ジェット流に振動を加えても良い。
【0055】
得られたシームレスカプセル3は、そのままキャリア流体2中で、あるいはキャリア流体2から分離した状態で光照射される。球状カプセルを得るためには、キャリア流体内で光を照射することが好ましい。これにより、最外層中の光硬化性樹脂が硬化し、強固な皮膜が形成されたシームレスカプセルが得られる。光硬化性樹脂の硬化に必要な活性光線の波長は、一般に約200nm〜約600nmの範囲内であり、このような波長の光を発する光源を用いて照射を行うのが有利である。そのような光源としては、水銀灯、蛍光灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライド灯などが挙げられる。上述の皮膜組成物中に光増感剤が含有されていると、可視光領域に十分な感度が付与される点で好ましい。光硬化性樹脂の種類によっては紫外領域の短波長の活性光線を用いて硬化させることもできる。照射時間は光源の強さや距離により異なるが、一般には0.05秒間〜10分間、好ましくは0.5秒間〜2分間の範囲である。
【0056】
本発明により得られるシームレスカプセルの粒径範囲は、通常0.1mm〜10mm、好ましくは0.3mm〜8mmである。製造後のカプセルは、その用途により、未乾燥でカプセル中の水分を残存させたまま使用してもよいし、あるいは常圧または真空乾燥法により乾燥させてから使用してもよい。
【0057】
本発明により得られるシームレスカプセルは、継ぎ目がなく、サイズや皮膜の厚みが均一である。長期間の使用においても変質することがなく、カプセルを煮沸消毒して用いることもできる。このシームレスカプセルは、着色剤などの種々の添加剤を含む皮膜組成物を用いることにより、従来のカプセルと同様に、所望の特徴を有するカプセルを製造することができる。本発明により得られるシームレスカプセルは、皮膜組成物中にゲル化剤を含有しており、加熱により該ゲル化剤を溶解させて、皮膜から除くことが可能である。そのことによりカプセル皮膜に孔を形成すること、あるいは存在する孔の径を大きくすることが可能である。このようにして得られるカプセルは、膜透過性に優れる。従って、例えば、組成物中に含有させるゲル化剤の量を適宜調節し、カプセル形成後に、これを除去することにより、カプセル内に封入した物質を所望の速度で放出することが可能である。このように、所望の徐放性機能を有するカプセルを効率的に得ることができる。
【実施例】
【0058】
以下の実施例により、発明の詳細を記述するが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
(実施例1)
皮膜組成物として、40%ENTG−2000(関西ペイント株式会社製)水溶液60質量部、2%アルギン酸(君津化学工業株式会社製)水溶液120質量部、ベンゾインイソプロピルエーテル0.3質量部、および蒸留水20質量部の混合物を準備した。疎水性物質として、中鎖脂肪酸トリグリセリド75質量部および蔗糖脂肪酸エステル45質量部の混合物を準備した。そして封入材料含有組成物(最内層液)として、乳酸カルシウム10質量部および乳酸菌(Lactobacillus acidophilus JCM1229)をMRS培地にて37℃にて15時間静置培養した懸濁液(1.3×1010cfu/mL)110質量部の混合物を準備した。なお、cfuは、colony forming unitの略語であり、生菌数を表す。
【0060】
図1に示す同心三重ノズルを有するカプセル製造装置を準備し、キャリア流体2として15℃に冷却した植物油を循環させた。この装置の外側ノズル12から皮膜組成物を、中間ノズル13から疎水性物質を、そして内側ノズル11から封入材料含有組成物を、形成される三相複合ジェットの押出し速度が一定速度(540mm/秒)となるように、キャリア流体2中に押出し、液滴を得た。ノズルの先端にゲルは形成されなかった。
【0061】
キャリア流体中の液滴について、メタルハライド灯(波長320〜400nm)を用いて紫外線を照射し、光硬化性樹脂を重合させた。このような工程により、1分間に24,000個の割合で粒径1mmのシームレスカプセルを得た。得られたシームレスカプセルは、最外層に皮膜が形成されており、疎水性物質層が内部で分離して油滴を形成していた。最内層と皮膜組成物が接触することにより、ゲル化物質とゲル化助剤が反応して皮膜が形成されたと考えられる。このシームレスカプセルの断面模式図は、図2(b)に示すとおりである。その後、60分間にわたりシームレスカプセルを連続して製造したが、ノズル先端にゲルが形成されることはなく、カプセルの粒径のばらつきも非常に少なかった。
【0062】
得られたシームレスカプセル10個を、皮膜固形分濃度が80%となるように調湿し、レオメーター(株式会社サン科学)を用いてカプセルの圧縮強度を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例2)
皮膜組成物として、40%ENT−3400(関西ペイント株式会社製)水溶液60質量部、2%高メトキシペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)水溶液120質量部、イルガキュア369(日本チバガイギー株式会社製)0.2質量部、および蒸留水20質量部の混合物を準備した。疎水性物質として、大豆油100質量部および流動パラフィン20質量部の混合物を準備した。そして封入材料含有組成物として、乳酸10質量部および2%インベルターゼ懸濁液110質量部の混合物を準備した。
【0064】
図1に示す同心三重ノズルを有するカプセル製造装置を準備し、キャリア流体2として15℃に冷却した植物油を循環させた。この装置の外側ノズル12から皮膜組成物を、中間ノズル13から疎水性物質を、そして内側ノズル11から封入材料含有組成物を、形成される三相複合ジェットの押出し速度が一定速度(270mm/秒)となるように、キャリア流体2中に押出し、液滴を得た。ノズルの先端にゲルは形成されなかった。
【0065】
キャリア流体中の液滴について、メタルハライド灯(波長320〜400nm)を用いて紫外線を照射し、光硬化性樹脂を重合させた。このような工程により、1分間に3,000個の割合で粒径4mmのシームレスカプセルを得た。得られたシームレスカプセルは、最外層に皮膜が形成されており、疎水性物質層が内部で分離して油滴を形成していた。実施例1と同様にして、カプセルの圧縮強度を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
皮膜組成物として、40%ENT−3400(関西ペイント株式会社製)水溶液60質量部、2%低メトキシペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)水溶液120質量部、ベンゾインイソブチルエーテル0.6質量部、および1%アクリロイルモルフォリン(株式会社興人製)水溶液20質量部の混合物を準備した。疎水性物質として、ナタネ油60質量部および大豆油60質量部の混合物を準備した。封入材料含有組成物として、1%塩化カルシウム水溶液5質量部およびヒト肝細胞HepG2をDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(Difco社製)培地で懸濁した懸濁液(5×10 cells/mL)115質量部の混合物を準備した。
【0067】
図1に示す同心三重ノズルを有するカプセル製造装置を準備し、キャリア流体2として15℃に冷却した植物油を循環させた。この装置の外側ノズル12から皮膜組成物を、中間ノズル13から疎水性物質を、そして内側ノズル11から封入材料含有組成物を、形成される三相複合ジェットの押出し速度が一定速度(260mm/秒)となるように、キャリア流体2中に押出し、液滴を得た。ノズルの先端にゲルは形成されなかった。
【0068】
キャリア流体中の液滴について、高圧水銀灯(波長320〜400nm)を用いて紫外線を照射し、光硬化性樹脂を重合させた。このような工程により、1分間に1,500個の割合で粒径7mmのシームレスカプセルを得た。得られたシームレスカプセルは、最外層に皮膜が形成されており、疎水性物質層が内部で分離して油滴を形成していた。実施例1と同様にして、カプセルの圧縮強度を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例4)
皮膜組成物として、40%ENTG−3800(関西ペイント株式会社製)水溶液60質量部、2%硫酸アンモニウム水溶液20質量部、1%N−ビニル−2−ピロリドン水溶液120質量部、およびイルガキュア2959(日本チバガイギー株式会社製)0.4質量部の混合物を準備した。疎水性物質として、ナタネ油120質量部を準備した。封入材料含有組成物として、2%乳酸カルシウム水溶液50質量部、ラウリル硫酸ナトリウム5質量部、および中鎖脂肪酸トリグリセリド65質量部を混合し、エクセルオートホモジナイザーで10,000rpmにて10分間高速撹拌してエマルジョンを調製した。
【0070】
図1に示す同心三重ノズルを有するカプセル製造装置を準備し、キャリア流体2として15℃に冷却した植物油を循環させた。この装置の外側ノズル12から皮膜組成物を、中間ノズル13から疎水性物質を、そして内側ノズル11から封入材料含有組成物を、形成される三相複合ジェットの押出し速度が一定速度(236mm/秒)となるように、キャリア流体2中に押出し、液滴を得た。ノズルの先端にゲルは形成されなかった。
【0071】
キャリア流体中の液滴について、高圧水銀灯(波長320〜400nm)を用いて紫外線を照射し、光硬化性樹脂を重合させた。このような工程により、1分間に1,500個の割合で粒径7mmのシームレスカプセルを得た。得られたシームレスカプセルは、最外層に皮膜が形成されており、疎水性物質層が内部で分離して油滴を形成していた。実施例1と同様にして、カプセルの圧縮強度を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1〜4)
封入材料含有組成物において、乳酸カルシウム(実施例1)、乳酸(実施例2)、塩化カルシウム(実施例3)、および乳酸カルシウム(実施例4)の代わりに、水を用いて調製したこと以外は、実施例1〜4と同様にしてシームレスカプセルを得た(それぞれ比較例1〜4)。得られたシームレスカプセルについて、実施例1と同様にして、カプセルの圧縮強度を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の結果から、実施例1〜4の製造方法で得られたシームレスカプセルは、強固な皮膜を有していた。これに対して、比較例1〜4の製造方法で得られたシームレスカプセルは、ゲル化助剤が含有されていないため、皮膜強度が弱かった。
【0075】
(比較例5)
皮膜組成物として、40%ENTG−3800(関西ペイント株式会社製)水溶液60質量部、2%アルギン酸(君津化学工業株式会社製)水溶液120質量部、ベンゾインイソプロピルエーテル0.3質量部、および蒸留水20質量部の混合物を準備した。そして封入材料含有組成物として、2%乳酸カルシウム水溶液120質量部を準備した。
【0076】
図1に示す装置と同様であり、同心三重ノズルの代わりに、同心二重ノズルを有するカプセル製造装置を準備し、キャリア流体2として15℃に冷却した植物油を循環させた。この装置の外側ノズル12から皮膜組成物を、そして内側ノズル11から封入材料含有組成物を、形成される二相複合ジェットの押出し速度が一定速度(260mm/秒)となるように、キャリア流体2中に押出した。その結果、ジェット形成時に同心ノズル先端にて皮膜組成物が固化してしまい、液滴が形成されず、シームレスカプセルを調製することができなかった。
【0077】
(比較例6)
皮膜組成物として、30%ENT−3400(関西ペイント株式会社製)水溶液60質量部、2%低メトキシペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)水溶液120質量部、ベンゾインイソブチルエーテル0.6質量部、および1%アクリロイルモルフォリン(株式会社興人製)水溶液20質量部の混合物を準備した。そして封入材料含有組成物として、1%塩化カルシウム水溶液120質量部を準備した。
【0078】
図1に示す装置と同様であり、同心三重ノズルの代わりに、同心二重ノズルを有するカプセル製造装置を準備し、キャリア流体2として15℃に冷却した植物油を循環させた。この装置の外側ノズルから皮膜組成物を、そして内側ノズルから封入材料含有組成物を、形成される二相複合ジェットの押出し速度が一定速度(260mm/秒)となるように、キャリア流体2中に押出した。その結果、ジェット形成時に同心ノズル先端にて皮膜組成物が固化してしまい、液滴が形成されず、シームレスカプセルを調製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のシームレスカプセルの製造方法においては、同心三重ノズルの最内側の第1ノズルからゲル化助剤が押出され、中間の第2ノズルから疎水性物質が押出され、そして最外側の第3ノズルからゲル化剤および光硬化性樹脂が液中に押出される。そのため、ノズル先端部においてゲルが生じることなく、効率的にシームレスカプセルを製造することができる。得られるシームレスカプセルは、安定な皮膜を有し、その物理的強度が高いため、広範な環境での流通、保管、および使用が可能となる。得られるシームレスカプセルは、耐久性が高いため、長期間使用するバイオリアクターなどの用途も含めて、経済的に有利な製品となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のシームレスカプセルを製造するためのカプセル製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】液滴およびシームレスカプセルの断面模式図である。
【符号の説明】
【0081】
1 同心三重ノズル
2 キャリア流体
3 シームレスカプセル
11 内側ノズル
12 外側ノズル
13 中間ノズル
31 封入物質含有組成物
32 疎水性物質
33 皮膜組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シームレスカプセルの製造方法であって、
最内側から第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する同心三重ノズルを備えるカプセル製造装置を用い、
該第1ノズルから封入材料およびゲル化助剤を含む封入材料含有組成物からなる水性液状物を、該第2ノズルから疎水性物質を、そして該第3ノズルからゲル化剤および光硬化性樹脂を含有する皮膜組成物からなる水性液状物を同時に液中に押出す工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記液中への押出しにより生じた液滴に、光照射を行う工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲル化助剤が、カルシウムイオンを生じ得る化合物、ストロンチウムイオンを生じ得る化合物、バリウムイオンを生じ得る化合物、有機酸、グルコース、マルトース、およびフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記ゲル化剤が、アルギン酸、高メトキシペクチン、低メトキシペクチン、および硫酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記疎水性物質が、オリーブ油、ホホバ油、コーン油、ナタネ油、豚脂、牛脂、鯨油、ヒマシ油、大豆油、米油、米胚芽油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、アボガド油、マカデミアナッツ油、スクワラン、ミンク油、タートル油、炭素数が4〜30の脂肪酸トリグリセリド、炭素数が4〜30の脂肪酸ジグリセリド、炭素数が4〜30の脂肪酸モノグリセリド、炭素数が4〜30の蔗糖脂肪酸エステル、炭素数が8〜30の炭化水素類、ミツロウ、カルナウバロウ、ライスワックス、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、炭素数が4〜30の脂肪酸、炭素数が4〜30の高級アルコール、および炭素数が4〜30の脂肪酸と炭素数が4〜30の高級アルコールとのエステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
前記光硬化性樹脂が、1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する親水性光硬化性樹脂である、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
前記封入材料含有組成物中に、さらに疎水性物質が含まれる、請求項1から5のいずれかの項に記載の方法。
【請求項7】
前記皮膜組成物中に、さらに光重合開始剤が含まれる、請求項1から6のいずれかの項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51748(P2009−51748A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218123(P2007−218123)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000191755)森下仁丹株式会社 (30)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】