説明

シームレスベルトの製造装置およびシームレスベルトの製造方法

【課題】シームレスベルトの厚さ精度のばらつきを抑制できるシームレスベルトの製造装置およびシームレスベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状金型1の内面に樹脂溶液が展開された円筒状金型1を回転させて塗膜を均一化するシームレスベルトの製造装置であって、円筒状金型1の両端部を固定する、当該円筒状金型1と同芯上に対向一対に配置される一対の固定手段と、固定手段を円筒状金型1端部に固定するように、円筒状金型1の軸方向に進退可能に移動させる進退駆動手段と、固定手段をその軸回りに回転させる回転駆動手段とを有し、円筒状金型1の回転は、一対の固定手段で円筒状金型1の両端部を固定し、固定手段を回転駆動手段で回転させて、当該円筒状金型を回転させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状金型の内面に樹脂溶液が展開された当該円筒状金型を回転させて塗膜を均一化するシームレスベルトの製造装置、および、このシームレスベルトの製造装置を用いて、円筒状金型の内面に樹脂溶液が展開された当該円筒状金型を回転させて塗膜を均一化する工程と、円筒状金型の内面の塗膜を加熱硬化する工程とを有するシームレスベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機、プリンタ、ファクシミリ、これらの複合機等の画像形成装置に用いられる転写搬送ベルト、中間転写ベルト、転写定着ベルト、感光体ベルトには、高速化・高画質化が要求されるため、これら機能性ベルトにはシームレスベルトが使用されている。このシームレスベルトの製造は、例えば、樹脂の溶液を円筒状金型の内面に展開した後、円筒状金型を低速回転させながらレベリングさせ、乾燥皮膜化することが一般的に行われている。
【0003】
また、シームレスベルトの製造装置は、筒状金型の内面に樹脂溶液を展開した後、金型の一方端部を回転ホルダで片持ちにして回転させる機構(遠心成形機構)が知られている。また、他の製造装置として、筒状金型の両端部のそれぞれ着脱自在に嵌め合わされる一対の蓋を金型の外周に設け、この蓋と接触させて筒状金型を回転させる複数の駆動ローラを有し、駆動ローラを回転させて、これと当接する蓋および筒状金型を回転させる機構や、単に筒状金型の外周面と複数の駆動ローラを接触担持させ、筒状金型を回転させる機構が知られている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3922840号
【特許文献2】特開2007‐1262号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のシームレスベルトの製造装置や他の製造装置等には以下の問題があった。遠心成形の精度を良くするため金型内周面の精度に加え外周面の精度も必要になる。また外周面の精度に影響され1000rpm以上の高速回転では金型の回転時にビビリが生じ、シームレスベルトの厚さ精度ばらつきや発塵が発生するという問題があった。
【0006】
このため、1000rpm以上の高速回転が行えず遠心力により展開させる樹脂溶液は粘度を下げる必要があり溶剤の使用量が多くなっていた。
【0007】
また、樹脂溶液粘度が低いものに対しては、遠心成形とともに加熱を行う場合に、加熱による溶液粘度低下が生じ、樹脂溶液が金型内周面に密着せずに流れ落ちる現象が生じやすく、溶剤残存量が下がるまでの間は一定の遠心力をかけ続ける乾燥工程も必要となる。
【0008】
また、上記特許文献1の製造装置では、駆動ローラに金型外面を接触担持させる場合、加熱による金型の寸法変化、使用されるスプロケットや駆動ローラの寸法磨耗等により、金型の上下動や微小なスリップを招くこととなる。これが原因で、厚さ精度のばらつきや金型の外周面と駆動ローラの接触に起因する発塵が出やすく良品率の低下が起こりやすい。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、シームレスベルトの厚さ精度のばらつきを抑制できるシームレスベルトの製造装置およびシームレスベルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、金型内に高粘度樹脂溶液を展開し、高速回転で短時間のうちにレベリング(均一化)させることが有効であり、さらに、塗膜の加熱硬化の際にはそれよりも低速回転で乾燥させる方法が有効であることを得た。
【0011】
本発明は、円筒状金型の内面に樹脂溶液が展開された当該円筒状金型を回転させて塗膜を均一化するシームレスベルトの製造装置であって、
前記円筒状金型の両端部を固定する、当該円筒状金型と同芯上に対向一対に配置される一対の固定手段と、
前記固定手段を前記円筒状金型端部に固定するように、当該円筒状金型の軸方向に進退可能に移動させる進退駆動手段と、
前記固定手段をその軸回りに回転させる回転駆動手段と、を有し、
前記円筒状金型の回転は、前記一対の固定手段で前記円筒状金型の両端部を固定し、当該固定手段を回転駆動手段で回転させて、当該円筒状金型を回転させることを特徴とする構成である。
【0012】
「対向一対の固定手段」は、例えば対向一対のチャック手段が例示される。チャック手段として、例えば、同芯上に対向一対のチャックによりチャッキングできる円錐状コーンチャック、台錘状コーンチャック、内面が逆円錐状または台錘状のコーンチャック、円筒状金型端部を把持または挟持して固定する爪状のチャック等が挙げられる。上記の一対の各種コーンチャックの固定方法としは、円筒状金型の両端部を高圧力で挟みこんで固定する方法が例示される。
【0013】
一対の固定手段の一方は、回転駆動手段から伝達された回転作用によって、その軸周りに回転し、その他方の固定手段は、その軸周りに回転自在に構成される。進退駆動手段は、一方の固定手段で固定された端部とは異なる円筒状金型端部に対し、その他方の固定手段を円筒状金型端部に固定するように、円筒状金型の軸方向に進退可能に移動させるように構成できる。または一対の固定手段のそれぞれに対して進退駆動手段を設置し、それぞれの進退駆動手段が、それぞれの固定手段を移動させて円筒状金型端部を固定するように構成できる。
【0014】
この構成によって、円筒状金型の芯ぶれがなく高速回転を容易に行える。また、高粘度の樹脂溶液を用いても製造されるシームレスベルトの厚さ精度のばらつきを抑制できる。従来の特許文献1の製造装置等では、高粘度樹脂溶液を高速回転かつ短時間でレベリング(均一化)することができないが、本願発明はそれが可能である。すなわち、本発明によれば、高粘度樹脂溶液を展開し高速回転で短時間のうちにレベリングすることができ、うねりやスジのない膜厚の均一な厚さ精度、表面精度を有する高精度管状体のシームレスベルトを容易に得ることができる。このようなベルトを電子写真用画像形成装置の定着ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、搬送ベルト、感光体ベルト等の機能性ベルト及びこれ等の基材として使用した場合、優れた寸法精度を有するため、定着性、転写性、搬送性等求められる機能を最大限満足した機能性ベルトとして有用である。
【0015】
上記発明の一実施形態として、円筒状金型と一対の固定手段とが、同芯上に対向一対に配置調整する昇降手段を有する構成がある。昇降手段は、円筒状金型を載置するための昇降台と、昇降台を上下に昇降させる昇降駆動手段で構成される。この昇降台は、その設置面(水平)に対し平行(水平)に設置され、いずれの昇降位置においても水平が維持されていることが好ましい。本発明において「水平」は、厳密な意味での水平に限定されず、シームレスベルトの製造において問題のない範囲であれば、水平軸から傾いていてもよい。昇降台が水平であれば、それに載置される円筒状金型も水平を維持することになる。そして、固定手段と円筒状金型とが同芯上(それら中心軸が一致)にあり、固定手段で固定された後の円筒状金型も水平を維持することが好ましい。
【0016】
また別実施形態として、昇降手段は、昇降台に載置された円筒状金型を移動させ、固定手段と同芯上になるようにし、次いで、円筒状金型の一方端部を一方の固定手段に固定するように、昇降台を同芯方向に移動させるように構成できる。
【0017】
上記発明の一実施形態として、円筒状金型と一対の固定手段とが、同芯上に対向一対に配置させるように昇降手段を制御し、当該円筒状金型の軸方向に当該固定手段を移動させ、当該固定手段を当該円筒状金型端部に固定するように進退駆動手段を制御する制御手段を有する構成がある。
【0018】
この構成によれば、手動で昇降手段、進退駆動手段を操作する必要がなく、円筒状金型を昇降手段の昇降台に設置した後は、昇降動作、固定手段の進退動作を自動化できる。さらに、制御手段は、回転駆動手段を制御して、固定化手段の回転制御を自動化するように構成できる。
【0019】
また、上記の制御手段の一実施形態として、制御手段は、昇降手段の昇降台の所定位置に設置された円筒状金型と、当該円筒状金型端部に固定された固定手段とが同芯上に固定配置されているか否かを、当該固定手段の進出移動距離に基づいて判断する判断部を有し、判断部が、円筒状金型と固定手段とが同芯上に固定配置されていると判断した場合に、回転駆動手段による固定手段の回転を開始可能にする構成がある。
【0020】
この構成によれば、円筒状金型と固定手段とが同芯上に固定されているか否かを判断した後に、回転駆動手段による固定手段の回転を開始可能に構成できる。それらが同芯上に無い場合に回転させた場合には、シームレスベルトを均一に展開できず、膜厚のバラツキが大きく不良率が高くなるため好ましくないからである。さらに、制御手段は、それらが同芯上に無い場合に警告の旨を通知する手段(警報ランプ、音等)を備える構成がある。また、制御手段は、それらが同芯上に固定されていれば、回転駆動手段を制御して、固定化手段の回転制御を自動化するように構成できる。
【0021】
上記の本発明は、樹脂溶液がポリアミド酸溶液を主成分とする溶液であり、樹脂溶液粘度が50〜500Pa・sであって、塗膜の均一化の際における円筒状金型の回転速度を1000rpm〜4000rpmの範囲となるように回転駆動手段を制御する制御手段を有する構成がある。
【0022】
この構成によって、樹脂溶液粘度が50〜500Pa・sの高粘度であっても、1000rpm〜4000rpmの範囲の高速回転で、塗膜の均一化を短時間で行うことができる。塗膜の均一化時間は、樹脂溶液粘度、回転数、円筒状金型サイズ、樹脂溶液の塗布量によって設定されるが、例えば、30秒〜1時間の範囲が例示される。
【0023】
また、シームレスベルトの製造装置は、展開した樹脂溶液の均一化処理の際に、円筒状金型外周面を加熱手段で加熱し、塗膜の加熱硬化処理を行う構成が例示される。また、展開した樹脂溶液の均一化処理の後の塗膜の加熱硬化処理の際に、円筒状金型を回転する構成が例示される。そして、上記の回転駆動手段を制御する制御手段の一実施形態として、塗膜の加熱硬化の際における円筒状金型の回転速度を、塗膜の均一化の際における円筒状金型の回転速度よりも遅くするように回転駆動手段を制御する構成がある。これによって、高粘度樹脂溶液を展開して高速回転で短時間のうちに均一化し、それよりも低速回転で塗膜を加熱硬化できるため、うねりやスジのない膜厚の均一な厚さ精度、表面精度を有する高精度管状体のシームレスベルトを好適に製造できる。
【0024】
また、他の発明のシームレスベルトの製造方法は、
上記シームレスベルトの製造装置を用いて、円筒状金型の内面に樹脂溶液が展開された当該円筒状金型を回転させて塗膜を均一化する工程と、前記円筒状金型の内面の塗膜を加熱硬化する工程とを有するシームレスベルトの製造方法であって、
前記円筒状金型の両端部を当該円筒状金型と同芯上に対向一対になるように固定手段で固定し、当該固定手段をその軸周りに回転させることで、前記円筒状金型を回転させることを特徴とする構成である。
【0025】
この構成によって、円筒状金型の芯ぶれがなく高速回転を容易に行える。また、高粘度の樹脂溶液を用いても製造されるシームレスベルトの厚さ精度のばらつきを抑制できる。すなわち、本発明によれば、高粘度樹脂溶液を展開し高速回転で短時間のうちにレベリングすることができ、うねりやスジのない膜厚の均一な厚さ精度、表面精度を有する高精度管状体のシームレスベルトを容易に得ることができる。
【0026】
また、上記製造方法の一実施形態として、それぞれの固定手段をその原点位置から円筒状金型端部のそれぞれに固定配置するまでの進出移動距離に基づいて、当該円筒状金型と当該固定手段とが同芯上に固定配置されていることを判断した場合に、固定手段の回転を開始可能にする構成がある。
【0027】
また、上記製造方法の一実施形態として、樹脂溶液がポリアミド酸溶液を主成分とする溶液であり、樹脂溶液粘度が50〜500Pa・sであって、塗膜の均一化の際における円筒状金型の回転速度を1000rpm〜4000rpmの範囲となるように回転制御する構成がある。
【0028】
また、上記製造方法の一実施形態として、前記塗膜の加熱硬化の際に前記円筒状金型を回転させる工程を有し、当該回転速度を、前記塗膜の均一化の際における前記円筒状金型の回転速度よりも遅くするように回転制御する構成がある。これによって、高粘度樹脂溶液を展開して高速回転で短時間のうちに均一化し、それよりも低速回転で塗膜を加熱硬化できるため、うねりやスジのない膜厚の均一な厚さ精度、表面精度を有する高精度管状体のシームレスベルトを好適に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】シームレスベルトの製造装置について説明するための図
【図2】シームレスベルトの製造装置について説明するための図
【図3】シームレスベルトの製造装置について説明するための図
【図4】固定手段の一例を説明するための図
【図5】固定手段の一例を説明するための図
【図6】固定手段の一例を説明するための図
【図7】固定手段の一例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。シームレスベルトの製造方法は、まず、シームレスベルトの成形材料となる樹脂溶液を準備する。樹脂溶液の粘度は50Pa・s以上の高粘度である。樹脂溶液の詳細は後述する。この樹脂溶液を円筒状金型に展開する。樹脂溶液を円筒金型内面に展開する方法は、ダイス、円筒形ノズル、カーテン塗工用ディスペンサー、スプレーコート、ロールコート等適宜公知の方法により選択できる。樹脂溶液がポリアミド酸の場合、円筒状金型をその周方向に回転させながらディスペンサーを用いて金型内面にらせん状に塗布することが好ましい。なお、展開は、金型内面の一部に展開されている場合もあり、また、展開された膜厚は、レベリング前では不均一である。
【0031】
次いで、樹脂溶液が展開された円筒状金型を高速で回転し、短時間のうちにレベリング(均一化)する。膜厚の均一性が高いシームレスベルトの作製には円筒状金型の高速回転による塗膜のレベリングが必要である。さらに、加熱硬化(乾燥)工程における塗膜のレベリングが維持されていることが重要である。よって、展開後の均一化の際には、1000〜4000rpmの回転速度で円筒状金型を回転させ、展開塗膜に遠心力を与えて、塗膜厚を均一化した展開塗膜を形成し、加熱硬化(乾燥)工程では、それよりも遅い回転速度で円筒状金型を回転させて硬化させることが好ましい。
【0032】
図1は、シームレスベルトの製造装置の一例を示す説明図である。円筒状金型1の内周面には樹脂溶液がすでに展開されている。円筒状金型1は昇降機の昇降台2に、予め位置決めされた位置に載置される。昇降台2および円筒状金型1は水平である。一対の円錐状コーンチャック3,4は、同じ形状であり、それらの中心軸(回転中心軸)が一致して対向しており、かつ原点位置に待機している。
【0033】
円筒状金型1を昇降台2に載置させた後、制御装置(不図示)の制御盤操作で開始スイッチをONにすると、昇降台2が上昇し、円筒状金型1の中心軸と円錐状コーンチャック3,4の中心軸(回転中心軸)とが一致する位置で昇降台2が停止する。円筒状金型1のサイズまたは上昇高さを予め制御装置に入力し記憶しておくことで上昇距離が演算され自動停止が可能となる。
【0034】
また、別実施形態として、昇降台2に円筒状金型1が適正な所定姿勢にあると判断されると昇降台2が所定の高さの上昇を自動で行うように構成できる。複数の光学センサを用いて円筒状金型1を検出し上記所定姿勢にあるか否かを判断できる。
【0035】
次に、図2および3に示すように、一方の円錐状コーンチャック3が進退駆動手段によって、その軸心方向に一定距離まで進出動作される。進退駆動手段としては、例えば、サーボモータ、エアシリンダ、油圧シリンダなどの駆動機構が挙げられる。
【0036】
もう一方の円錐状コーンチャック4が進退駆動手段によってその軸心方向に進出動作する。これによって、円筒状金型1の両端部が一対の円錐状コーンチャック3,4によって圧着固定される。この場合において、円錐状コーンチャック3、4と円筒状金型1のそれぞれの中心軸は一致する(同芯上にある)が、例えば、円筒状金型1の端部変形や、昇降台2の昇降ゆがみ、円錐状コーンチャック3、4の形状変形、進退駆動手段の軸方向ゆがみ等の原因によって、円錐状コーンチャック3、4と円筒状金型1のそれぞれの中心軸が一致しない(同芯上にない)場合も想定される。このような場合に、円錐状コーンチャック3、4のそれぞれの進出距離が一定の距離に達しているか否かを判断することで、円筒状金型1と円錐状コーンチャック3、4とが同芯上にあるかどうかを判断できる(判断部の機能)。円筒状金型1と円錐状コーンチャック3、4とが同芯上にあれば、高速回転による遠心成形が可能になる。なお、それらが同芯上にあるとは、厳格な意味での同軸を意味するものに限定されず、本願発明目的を達成できる高速回転が可能な範囲の軸ブレは許容される。
【0037】
次いで、円錐状コーンチャック3,4と円筒状金型1との圧着固定が完了すると昇降台2がもとの待機位置まで下降し、回転動作へ移行する(図3参照)。円筒状金型1の主軸線方向(図3において破線)を回転中心として回転して遠心成形し、塗膜厚を均一化する。
【0038】
この均一化の際の回転速度は、1000rpm〜4000rpmの範囲であり、より好ましくは1500rpm〜3500rpmであり、さらに好ましくは2500rpm〜3500rpmである。1000rpmより小さいと、円筒状金型1の内径にもよるが塗膜厚に対し充分な遠心力を与えることが難しく、円周方向の膜厚ムラが生じやすく、また塗膜厚を均一化するのに時間がかかり、製造コストも上昇するため好ましくない。また、4000rpmより大きいと、塗膜液へかかる遠心力が大きくなりすぎるため、円筒状金型1の幅方向に対して膜厚ムラが発生しやすくなり、また製造におけるエネルギー効率や作業安全上においても好ましくない。回転処理時間は、30秒〜1時間の範囲であり、樹脂溶液粘度、回転数、円筒状金型サイズ、樹脂溶液の塗布量によって設定される。
【0039】
次いで、均一化のための回転処理動作が終了すると、昇降台2が所定の高さに上昇し、昇降台2に円筒状金型1を接触させる。次いで、円錐状コーンチャック3,4を原点位置に後退させて円筒状金型1との圧着固定を解除する。内周面に形成された塗膜とともに円筒状金型1を加熱硬化(乾燥)工程へ移行する。
【0040】
次いで、加熱硬化(乾燥)工程において、加熱手段による加熱で、溶媒除去およびイミド転化を順次または、一部を同時に行う多段式加熱法により、ポリイミド系樹脂からなるシームレスベルトを得ることができる。加熱温度は、溶媒の除去工程においては溶媒の種類に応じて適宜に決定されるが、概して60〜200℃程度、イミド転化工程は構成されるポリマー成分に応じて適宜に決定されるが、概して200〜400℃程度である。加熱時間は適宜設定されるが、通常上記溶媒除去工程及びイミド転化工程とも20〜60分程度である。また、加熱硬化(乾燥)工程において、円筒状金型1を回転させながら行う場合には、その回転速度を、塗膜の均一化の際における円筒状金型の回転速度よりも遅く設定し、例えば、10rpm〜1000rpm未満の範囲が挙げられ、10rpm〜500rpmが好ましく、10rpm〜100rpmがより好ましい。
【0041】
別実施形態として、この加熱硬化(乾燥)工程を、円錐状コーンチャック3,4を回転させながら、円筒状金型1の外周から加熱手段で加熱して行う構成もできる。ここでの回転速度は、塗膜の均一化の際における前記円筒状金型の回転速度よりも遅く設定でき、例えば、10rpm〜1000rpm未満の範囲が挙げられ、10rpm〜500rpmが好ましく、10rpm〜100rpmがより好ましい。
【0042】
(構成材料)
シームレスベルトの材料樹脂としては、ポリイミド系樹脂などが挙げられるが、樹脂溶液がポリアミド酸溶液を主成分とする溶液では、熱硬化性で高粘度樹脂に対し好適であるとともに、用途面からも耐熱性、機械的強度、化学的安定性などに優れた特性を生かすことができるポリイミド樹脂を成形しつつ、かつ膜厚均一性、平面度の優れたシームレスベルトに仕上げるのに非常に適した製造方法といえる。
【0043】
ポリイミド系樹脂の原料液としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物やその移動体とジアミンを溶媒中で重合反応させてなるポリアミド酸の溶液が使用可能である。ポリアミド酸を形成するテトラカルボン酸二無水物等やジアミンとしては適宜なものを使用することができる。
【0044】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4一ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0045】
また、ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3’−ジアミノジフエニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(PDA)、3、3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル〉エーテル、ビス(p−β−メチル−6−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−P−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピベラジンHN(CHO(CHO(CH)NH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH(CHNH、等が挙げられる。
【0046】
また、上記したテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合反応させる際の溶媒としても適宜なものを用いうるが、溶解性などの点より極性溶媒が好ましく用いうる。この極性溶媒の例としては、N,N−ジアルキルアミド類が有用であり、例えば、このうちの低分子量のものであるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらは、蒸発、置換または拡散によりポリアミド酸およびポリアミド酸成形品から容易に除去することができる。
【0047】
また、上記以外の有機極性溶媒として、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルボスボルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、併せて用いても差し支えない。
ポリアミド酸の調製に際しては、テトラカルボン酸二無水物やその誘導体、ジアミン、極性溶媒の各々について1種または2種以上の試料を用いうる。
【0048】
テトラカルボン酸二無水物等とジアミンの使用割合は、等モルであることが一般的であるが、これに限定はされない。
【0049】
反応開始時のモノマー濃度は反応条件等により適宜に決定しうるが、一般的には5〜30重量%が適当である。
また、導電性を出すためにケッチェンブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラック、アルミニウムやニッケルのような金属、酸化錫のような酸化金属化合物、チタン酸カリウム等の導電性粉末、あるいはポリアニリンやポリアセチレンのような導電性ポリマー等の適宜なものの1種又は2種以上を用いることができる。
【0050】
(粘度)
ポリアミド酸溶液の粘度は50〜1000Pa・s、好ましくは100〜800Pa・s(B型粘度計、ロータNo.7,25℃)程度である。粘度が50Pa・s以下であるといわゆるタレや塗布層のハジキが生じ易く、塗膜厚の均一性が得られ難くなるため好ましくない。また、このような低粘度溶液では加熱による溶液粘度低下で供給された溶液が金型内周面に密着せずに流れ落ちる現象がおきやすく、塗布後加熱で継続的に溶剤残存量が下がるまで間は一定の遠心力を掛け続ける必要があり、経済及びコスト的に好ましくない。一方、1000Pa・s以上であると、吐出の際に高い圧力をかける必要があり、またレベリングの際の成形が困難となるので好ましくない。
【0051】
(円筒状金型の構成)
本発明で使用される円筒状金型1としては、アルミ、鉄、真ちゅう、ステンレス等のものである。また、金型からの剥離性を考慮してフッ素系やシリコン系の離型剤をその内面に塗布することも可能である。
【0052】
円筒状金型1の内径は、対向一対の円錐状コーンチャック3,4、台錘状コーンチャック3,4(図4)によりチャッキングできるものであれば内径の制限はない。また、円筒状金型1の外径は、対向一対の内面台錐状コーンチャック5,6(図5)、3点爪チャック7,8(図6)によりチャッキングできるものであれば外径の制限はない。
【0053】
(固定手段)
一対の固定手段としては、図1に示す円錐状コーンチャック3,4、図4に示す台錘状コーンチャック3,4、図5に示す内面台錐状コーンチャック5,6、図6に示す3点爪チャック7,8が例示される。円錐状コーンチャック3,4の周面(不図示)および台錐状コーンチャック3,4の周面31、41が円筒状金型1端部の内縁部分に当接する。また、内面台錐状コーンチャック5,6の内周面51、61が円筒状金型1端部の外縁部分に当接する。3点爪チャック8は、3つの爪81,82,83を有し、それぞれが円筒状金型1端部の外縁部分をチャッキングする(3点爪チャック7も同様の構成である)。図7は、3点爪チャックを説明するための模式図であるが、説明を簡単にするために爪を2つとしている。図7は、対向一対の3点爪チャック本体部分のそれぞれが円筒状金型1の端部に当接するまで移動し、次いで、3点爪部分が円筒状金型1の端部外周を挟み込んで固定する。
【0054】
各種チャックの構成材料は、円筒状金型1を固定できる機能を実現できれば特に制限されず、例えば、その表面を金属、硬質プラスチック等で構成できる。
【0055】
また、一対の固定手段のそれぞれが、同じ形状、構成である必要はなく、例えば、一方が台錐状コーンチャック3で、その他方が内面台錐状コーンチャック6の構成もできる。
【符号の説明】
【0056】
1 円筒状金型
2 昇降台
3、4 円錐状コーンチャック、台錐状コーンチャック
5、6 内面台錐状コーンチャック
7、8 3点爪チャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状金型の内面に樹脂溶液が展開された当該円筒状金型を回転させて塗膜を均一化するシームレスベルトの製造装置であって、
前記円筒状金型の両端部を固定する、当該円筒状金型と同芯上に対向一対に配置される一対の固定手段と、
前記固定手段を前記円筒状金型端部に固定するように、当該円筒状金型の軸方向に進退可能に移動させる進退駆動手段と、
前記固定手段をその軸回りに回転させる回転駆動手段と、を有し、
前記円筒状金型の回転は、前記一対の固定手段で前記円筒状金型の両端部を固定し、当該固定手段を回転駆動手段で回転させて、当該円筒状金型を回転させることを特徴とするシームレスベルトの製造装置。
【請求項2】
前記円筒状金型と前記一対の固定手段とが、同芯上に対向一対に配置調整する昇降手段をさらに有する請求項1に記載のシームレスベルトの製造装置。
【請求項3】
前記円筒状金型と前記一対の固定手段とが、同芯上に対向一対に配置させるように前記昇降手段を制御し、当該円筒状金型の軸方向に当該固定手段を移動させ、当該固定手段を当該円筒状金型端部に固定するように進退駆動手段を制御する制御手段を有する請求項2に記載のシームレスベルトの製造装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記昇降手段の昇降台の所定位置に設置された前記円筒状金型と、当該円筒状金型端部に固定された前記固定手段とが同芯上に固定配置されているか否かを、当該固定手段の進出移動距離に基づいて判断する判断部を有し、
前記判断部が、前記円筒状金型と前記固定手段とが同芯上に固定配置されていると判断した場合に、前記回転駆動手段による固定手段の回転を開始可能にする請求項3に記載のシームレスベルトの製造装置。
【請求項5】
前記樹脂溶液がポリアミド酸溶液を主成分とする溶液であり、樹脂溶液粘度が50〜500Pa・sであって、
前記塗膜の均一化の際における前記円筒状金型の回転速度を1000rpm〜4000rpmの範囲となるように前記回転駆動手段を制御する制御手段を有する請求項1から4のいずれか1項に記載のシームレスベルトの製造装置。
【請求項6】
請求項1に記載のシームレスベルトの製造装置を用いて、円筒状金型の内面に樹脂溶液が展開された当該円筒状金型を回転させて塗膜を均一化する工程と、前記円筒状金型の内面の塗膜を加熱硬化する工程とを有するシームレスベルトの製造方法であって、
前記円筒状金型の両端部を当該円筒状金型と同芯上に対向一対になるように固定手段で固定し、当該固定手段をその軸周りに回転させることで、前記円筒状金型を回転させることを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項7】
前記それぞれの固定手段をその原点位置から前記円筒状金型端部のそれぞれに固定配置するまでの進出移動距離に基づいて、当該円筒状金型と当該固定手段とが同芯上に固定配置されていると判断した場合に、固定手段の回転を開始可能にする請求項6に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂溶液がポリアミド酸溶液を主成分とする溶液であり、樹脂溶液粘度が50〜500Pa・sであって、
前記塗膜の均一化の際における前記円筒状金型の回転速度を1000rpm〜4000rpmの範囲となるように回転制御する請求項6または7に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項9】
前記塗膜の加熱硬化の際に前記円筒状金型を回転させる工程を有し、当該回転速度を、前記塗膜の均一化の際における前記円筒状金型の回転速度よりも遅くするように回転制御する請求項8に記載のシームレスベルトの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−40729(P2012−40729A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182530(P2010−182530)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】