説明

ジャイロセンサモジュールおよび角速度検出方法

【課題】検出軸の取付角度の変化にかかわらず、検出精度の向上したジャイロセンサモジュールおよび角速度検出方法を提供すること。
【解決手段】センサ出力補正回路32に含まれる第1、第2のオフセット調整回路36,37によって、第1角速度ω1および第2角速度ω2を、車両が停止している時の第1のジャイロセンサ10の補正値B1および第2のジャイロセンサ20の補正値B2を減じることによって、第1角速度ω1”および第2角速度ω2”に換算できる。したがって、車両の移動時のより正確な第1角速度ω1”および第2角速度ω2”を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方位角を知るための角速度を検出するジャイロセンサモジュールおよび角速度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに取り付けられるナビゲーション装置には、ジャイロセンサが用いられている。ジャイロセンサによって検出された車両が曲がる際の角速度は、車両の方位角を知るために用いられる。ここで、角速度を精度よく検出するには、ジャイロセンサの角速度検出軸と被検出軸を一致させる必要がある。方位角を知るための被検出軸は、地上水平面に対して垂直な軸であり、この被検出軸とジャイロセンサの検出軸とを一致させると、検出精度がよくなる。
車両の傾斜角度を検出し、ジャイロセンサの取付面が地上水平面になるようにジャイロセンサの車両に対する取付角度を機械的に調整して、検出軸と被検出軸とを一致させるジャイロセンサの取付角度調整装置が知られている(特許文献1参照)。
また、第1のジャイロセンサの出力と、第1のジャイロセンサの検出軸に直交する検出軸を有する第2のジャイロセンサの出力との2乗和平均によって、路面および取り付けの傾斜角度を求めることなく、鉛直方向の軸回りの角速度を求めるナビゲーションシステムが知られている。また、さらに、制御回路から出力された誤差と、車速信号に基づいてから補正係数を算出し、鉛直方向の軸回りの角速度を補正するナビゲーションシステムが知られている(特許文献2参照)。
また、第1のジャイロセンサと第2のジャイロセンサの出力に基づいて、故障判断を行う多軸ジャイロセンサが知られている(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−153658号公報(3頁〜5頁、図1および図2)
【特許文献2】特開2002−213959号公報(8頁、段落番号[0067]および段落番号[0068])
【特許文献3】特開2004−286529号公報(要約書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジャイロセンサの取付角度を機械的に調整するためには、付帯する調整用部品が必要であり、取付角度を大きく変化させるには、そのためのスペースも必要となる。したがって、検出軸の取付角度の可動範囲にも制約が生じる。また、上り下りなどで検出軸の角度が急激に変化した場合など、機械的な調整では、検出軸と被検出軸とが一致するまで時間を要する。したがって、検出精度の向上も難しい。そこで、特許文献2のように、第1のジャイロセンサの出力と、第1のジャイロセンサの検出軸に直交する検出軸を有する第2のジャイロセンサの出力との2乗和平均によって、路面および取り付けの傾斜角度を求めることなく、鉛直方向の軸回りの角速度を求め、さらに、いわゆる補正係数を用いて精度を向上する発明がなされた。しかし、第1のジャイロセンサおよび第2のジャイロセンサそれぞれのオフセット処理がなされていないことに起因する検出誤差が生じていることを本発明者は見出した。
本発明の目的は、検出軸の取付角度の変化にかかわらず、検出精度の向上したジャイロセンサモジュールおよび角速度検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のジャイロセンサモジュールは、移動体に取付けられるナビゲーションシステムに組み込まれるジャイロセンサモジュールであって、第1検出軸回りの第1角速度ω1を検出し、出力する第1のジャイロセンサと、前記第1角速度ω1の符号を判定する符号判定回路と、前記第1検出軸と直交する第2検出軸回りの第2角速度ω2を検出し、出力する第2のジャイロセンサと、前記第1、第2のジャイロセンサの出力を補正するセンサ出力補正回路と、前記センサ出力補正回路で補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均を演算し、前記符号判定回路によって得られた前記第1角速度ω1の符号を前記2乗和平均に乗算し、角速度ωを出力する演算回路とを備え、前記センサ出力補正回路は、前記ジャイロセンサモジュールが設置されている前記移動体が停止している時の前記第1のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B1を前記第1角速度ω1から減算した値ω1”を出力する第1のオフセット調整回路と、前記ジャイロセンサモジュールが設置されている前記移動体が停止している時の前記第2のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B2を前記第2角速度ω2から減算した値ω2”を出力する第2のオフセット調整回路とを有し、前記角速度ωは、前記第1検出軸と前記第2検出軸とがなす面内で、かつ前記第1検出軸から−90度から+90度の範囲の軸周りの角速度であることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、センサ出力補正回路に含まれる第1、第2のオフセット調整回路によって、第1角速度ω1および第2角速度ω2は、移動体が停止している時の第1のジャイロセンサの補正値B1および第2のジャイロセンサの補正値B2を減じることによって、第1角速度ω1”および第2角速度ω2”に換算される。したがって、移動体の移動時のより正確な第1角速度ω1”および第2角速度ω2”が得られる。
また、演算回路によって、換算された第1角速度ω1”および第2角速度ω2”に基づいてセンサ出力補正回路で補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均によって被検出軸での角速度ωが演算される。したがって、第1検出軸と第2検出軸とを含む平面内のどの位置に被検出軸があっても、被検出軸における角速度ωの検出を、第1角速度ω1と第2角速度ω2とに基づいた合成によって、検出軸の取付角度の変化にかかわらず精度よく行えるジャイロセンサモジュールが得られる。
なお、第1検出軸と第2検出軸とが直交するとは、正確に直交するのみならず製造過程で生ずるずれの範囲内も含む。例えば、第1検出軸と第2検出軸との交わる角度が、85°〜95°の間であれば、直交するに含まれる。
【0007】
本発明では、前記ジャイロセンサモジュールは、前記演算回路から出力される前記角速度ωを積分して得られる進行方位と前記ナビゲーションシステムの演算で決められた前記移動体の進行方位との誤差Δθを出力する車両位置測定回路と、前記誤差Δθと前記演算回路から出力される前記角速度ωと前記移動体から出力される車速パルスとから、感度調整信号A1,A2を算出し、出力する調整係数演算回路とを備え、前記センサ出力補正回路は、前記第1のオフセット調整回路の前記ω1”に前記感度調整信号A1を掛け合わせた値ω1’を出力する第1の感度調整回路と、前記第2のオフセット調整回路の前記出力ω2”に前記感度調整信号A2を掛け合わせた値ω2’を出力する第2の感度調整回路とを有しているのが好ましい。
この発明では、ωを積分して得られる進行方位とナビゲーションシステムの演算で決められた進行方位との誤差Δθとωと車速パルスとから感度調整信号A1、A2が算出される。そして、この感度調整信号A1、A2がそれぞれω1”およびω2”に掛け合わされて感度調整が行われ、センサ出力補正回路からω1’およびω2’が出力される。したがって、角速度ωの検出がより精度よく行えるジャイロセンサモジュールが得られる。
【0008】
本発明の角速度検出方法は、移動体に取り付けられ、ナビゲーションシステムに組み込まれるジャイロセンサモジュールを用いた角速度検出方法であって、第1検出軸回りの第1角速度ω1を検出し、前記第1角速度ω1の符号を判定し、前記第1検出軸と直交する第2検出軸回りの第2角速度ω2を検出し、前記ジャイロセンサモジュールが設置されている前記移動体が停止している時の前記第1のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B1を前記第1角速度ω1から減算する第1のオフセット調整と、前記ジャイロセンサモジュールが設置されている移動体が停止している時の前記第2のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B2を前記第2角速度ω2から減算する第2のオフセット調整とを含むセンサ出力補正を行い、前記センサ出力補正で補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均を演算し、前記第1検出軸と前記第2検出軸とがなす面内で、かつ前記第1検出軸から−90度から+90度の範囲の軸周りの角速度ωを算出することを特徴とする。
【0009】
本発明では、第1角速度ω1および第2角速度ω2を、移動体が停止している時の第1のジャイロセンサの補正値B1および第2のジャイロセンサの補正値B2を減じることによって、オフセット調整する。したがって、移動体の移動時のより正確な第1角速度ω1’および第2角速度ω2’が得られる。
また、補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均によって被検出軸での角速度ωを演算する。したがって、第1検出軸と第2検出軸とを含む平面内のどの位置に被検出軸があっても、被検出軸における角速度ωの検出を、第1検出軸で検出された第1角速度ω1と第2検出軸で検出された第2角速度ω2とに基づいた合成によって、検出軸の取付角度の変化にかかわらず精度よく行える。
【0010】
本発明では、前記角速度ωを積分して得られる進行方位と前記ナビゲーションシステムの演算で決められた前記移動体の進行方位との誤差Δθを算出し、前記誤差Δθと前記角速度ωとから、感度調整信号A1,A2を算出し、前記センサ出力補正において、前記第1のオフセット調整後の値ω1”に前記感度調整信号A1を掛け合わせた値ω1’を算出する第1の感度調整と、前記第2のオフセット調整後の値ω2”に前記感度調整信号A2を掛け合わせた値ω2’を算出する第2の感度調整とを有しているのが好ましい。
この発明では、オフセット調整に加えて、ωを積分して得られる進行方位とナビゲーションシステムの演算で決められた進行方位との誤差Δθとωと車速パルスとから算出される感度調整信号A1、A2を、それぞれω1”およびω2”に掛け合わせて感度調整を行う。したがって、角速度ωの検出がより精度よく行える。
【0011】
本発明では、前記センサ出力補正は、センサ出力補正回路によって行うのが好ましい。
この発明では、センサ出力補正回路によりセンサ出力補正を行うので、ジャイロセンサモジュールにセンサ出力補正回路を組み込むことが可能になる。
【0012】
本発明では、前記センサ出力補正、前記角速度ωの算出、前記誤差Δθの算出または前記感度調整信号A1,A2の算出の処理のうち、1つまたは複数の処理をソフトウェア処理によって行うのが好ましい。
この発明では、センサ出力補正、角速度ωの算出、誤差Δθの算出または感度調整信号A1,A2の算出の処理のうち、1つまたは複数のソフトウェア処理で処理を行うので、ジャイロセンサモジュールの組み込まれたナビゲーションシステムのCPU(Central Processing Unit)での処理が可能になる。したがって、ジャイロセンサモジュールが小型になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態におけるジャイロセンサモジュール100の組み込まれたナビゲーションシステム101を移動体である車両102に取り付けた状態を示す模式図である。
図1において、ナビゲーションシステム101は、車両102の前方に取り付けられている。ここで、紙面に対して左側が車両102の進行方向である。また、ナビゲーションシステム101は、その底面103と地上水平面70とのなす角度がθで取り付けられている。ジャイロセンサモジュール100は、ナビゲーションシステム101の底面103に組み込まれている。
【0014】
図2は、本実施形態におけるジャイロセンサモジュール100を示す概略斜視図である。
図2において、ジャイロセンサモジュール100は、第1のジャイロセンサ10と第2のジャイロセンサ20と回路30と升型のパッケージ40と蓋50とを備えている。
第1のジャイロセンサ10と第2のジャイロセンサ20と回路30とは、パッケージ40の矩形の底面41に配置されている。
【0015】
第1のジャイロセンサ10は、音叉型のジャイロセンサである。第1のジャイロセンサ10は、その第1検出軸11が、矩形の底面41の短辺と平行になるように配置されている。
第2のジャイロセンサ20は、T型の振動子を二つ組み合わせたWT型のジャイロセンサである。第2のジャイロセンサ20は、その第2検出軸21が、底面41に対し直交するように配置されている。
したがって、第1検出軸11と第2検出軸21とは直交している(図中で第1検出軸11の延長線上での第2検出軸21の方向を点線で示した)。
第1検出軸11と第2検出軸21とが直交していれば、底面41に配置された第1のジャイロセンサ10と第2のジャイロセンサ20との位置関係は、どのような配置であってもよい。
【0016】
図3は、第1検出軸11、第2検出軸21および被検出軸60と地上水平面70との位置関係を示す図である。図では、地上水平面70は紙面に対して直交している。
図3において、角速度ωの被検出軸60は、地上水平面70に対して垂直な方向を向いている。図1に示したジャイロセンサモジュール100の組み込まれたナビゲーションシステム101は、第1検出軸11と第2検出軸21とを含む平面が、地上水平面70に対して略垂直になるように車両等に取り付けられる。
【0017】
正確に方位を検出するには、ナビゲーションシステム101の取付角度等の変化によっても、第1検出軸11と第2検出軸21とを含む平面内から被検出軸60がずれないようにナビゲーションシステム101を車両等に取り付けて使用する。
具体的には、車両の場合、ナビゲーションシステム101の取付角度と地上水平面70とのなす角度θは、第1検出軸11と第2検出軸21とを含む平面が車両等の進行方向と平行になるように、ナビゲーションシステム101を取り付ける。図3では、紙面に対して左右方向が車両等の進行方向になる。
角速度ωが発生すると、ベクトル的に分解されるように、第1検出軸11では、第1検出軸11での第1角速度ω1が検出され、第2検出軸21では、第2検出軸21での第2角速度ω2が検出される。
【0018】
図4は、回路30の信号処理ブロック図である。
図4において、回路30は、センサ出力補正回路32と演算回路33と符号判定回路34と制御回路35とを備えている。
【0019】
第1のジャイロセンサ10では第1角速度ω1を検出し、第2のジャイロセンサ20では第2角速度ω2を検出する。その信号は、センサ出力補正回路32へと送られる。
センサ出力補正回路32は、第1のオフセット調整回路36と第2のオフセット調整回路37と第1の感度調整回路38と第2の感度調整回路39を備えている。
第1のオフセット調整回路36では、検出した第1角速度ω1から車両102が停止している時の第1ジャイロセンサ10の補正値B1を減算した値ω1”を求め出力する。
第2のオフセット調整回路37では、検出した第2角速度ω2から車両102が停止している時の第2ジャイロセンサ20の補正値B2を減算した値ω2”を求め出力する。
【0020】
第1の感度調整回路38では、ω1”に感度調整信号A1を乗じた値ω1’を求め出力する。第2の感度調整回路39では、ω2”に感度調整信号A2を乗じた値ω2’を求め出力する。
補正値B1、補正値B2、感度調整信号A1および感度調整信号A2は制御回路35から出力される。
ω1’およびω2’の信号は、演算回路33へと送られる。また、ω1’の信号は符号判定回路34にも送られる。
【0021】
演算回路33は、2乗和平均回路331と乗算回路332とを備えている。2乗和平均回路331では、ω1’とω2’との2乗和平均である√(ω1’2+ω2’2)を求め、|ω|として出力する。一方、符号判定回路34によってω1’の信号からsign(ω1’)値を求め、正負を決める。符号判定回路34は、sign(ω1’)が正であればcωを出力し、入力される角速度ωが図3の矢印方向に向かって時計回りの回転であることを示す。また、符号判定回路34は、sign(ω1’)が負であれば、ccωを出力し、入力される角速度ωが図3の矢印方向に向かって反時計回りの回転であることを示す。
演算回路33では、乗算回路332によって、符号判定回路34の出力と|ω|を乗じて正負が加味された角速度ωの値の信号を出力する。
【0022】
制御回路35は、車両位置測定回路351と調整係数演算回路352とを備えている。
車両位置測定回路351は、ωを積分して求めた進行方位とナビゲーションシステム101の演算で決められた車両102の進行方位θとの誤差Δθを出力する。次に、調整係数演算回路352は、誤差Δθと演算回路33から出力される角速度ωと車両102から出力される車速パルスとから、感度調整信号A1、A2を算出し、第1の感度調整回路38と第2の感度調整回路39とへ出力する。感度調整信号A1、A2は、常にA1=A2であってもよい。また、次の式に基いて算出することができる。
A1=A2=1+Δθ/θ=1+(θω−θ)/θ
ここで、θωは、乗算回路332が出力するωを、車両102の進行方位が0からθまで変位する間、積分した値であり、次の式に基づく。
θω=∫ωdt
【0023】
また、調整係数演算回路352は、車両102が停止している時の第1ジャイロセンサ10の補正値B1を第1のオフセット調整回路36に、第2ジャイロセンサ20の補正値B2を第2のオフセット調整回路37に出力する。
車両102が停止しているか否かの判断は、制御回路35が、車速パルスに基づいて判断する。その他に例えば、ナビゲーションシステム101が起動したことをトリガとしたり、イグニッションキーがオフ状態からアクセサリーオンまたはイグニッションオンに切り換わったことをトリガとしたりして、オフセット調整を行うこともできる。
【0024】
なお、第1、第2の感度調整回路38,39は、それぞれ、第1、第2のオフセット調整回路36,37より後段にあればよく、例えば、2乗和平均回路331や乗算回路332の後段にあっても良い。
また、温度変化による調整量の変化を記憶しておき、温度センサによってその調整を自動的に行ってもよい。
さらに、車両102のピッチ方向への傾きによる、マップとの誤差を重力方位センサや加速度センサによって検知し、感度調整を行ってもよい。
【0025】
以下、本実施形態の効果を記載する。
(1)センサ出力補正回路32に含まれる第1のオフセット調整回路36および第2のオフセット調整回路37によって、第1角速度ω1および第2角速度ω2を、第1角速度ω1および第2角速度ω2から、車両102が停止している時の第1のジャイロセンサ10の補正値B1および第2のジャイロセンサ20の補正値B2を減じることによって、第1角速度ω1”および第2角速度ω2”に換算できる。したがって、車両102の移動時のより正確な第1角速度ω1”および第2角速度ω2”を得ることができる。
【0026】
(2)演算回路33によって、換算された第1角速度ω1”および第2角速度ω2”に基づいてセンサ出力補正回路32で補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均によって被検出軸60での角速度ωを演算できる。したがって、第1検出軸11と第2検出軸21とを含む平面内のどの位置に被検出軸60があっても、被検出軸60における角速度ωの検出を、第1角速度ω1と第2角速度ω2とに基づいた合成によって、検出軸の取付角度の変化にかかわらず精度よく行えるジャイロセンサモジュール100および角速度検出方法を得ることができる。
【0027】
(3)ωを積分して得られる進行方位とナビゲーションシステム101の演算で決められた進行方位との誤差Δθとωと車速パルスとから感度調整信号A1、A2を算出できる。そして、この感度調整信号A1、A2がそれぞれω1”およびω2”に掛け合わされて感度調整が行われ、センサ出力補正回路32からω1’およびω2’を出力できる。したがって、角速度ωの検出がより精度よく行えるジャイロセンサモジュール100および角速度検出方法を得ることができる。
【0028】
(4)第1のジャイロセンサ10が第1検出軸11を、第2のジャイロセンサ20が第2検出軸21を備えればよいので、1つのジャイロセンサが2つの検出軸を備える場合と比較して、ジャイロセンサの構造を簡単にできる。
【0029】
(5)演算回路33により角速度ωの出力を行うので、ジャイロセンサモジュール100に回路30を組み込むことが可能になる。
【0030】
(第2実施形態)
図5は、本実施形態におけるジャイロセンサモジュール200を示す概略斜視図である。
ジャイロセンサモジュール200は、第1のジャイロセンサ12と第2のジャイロセンサ22と回路31と矩形の設置面81を有する基板80とを備えている。
【0031】
第1のジャイロセンサ12は、矩形の実装面13を備えたパッケージに実装された音叉型のジャイロセンサである。その第1検出軸11は、実装面13の長辺に平行になっている。第1のジャイロセンサ12は、その第1検出軸11が、矩形の設置面81の短辺と平行になるように配置されている。
第2のジャイロセンサ22は、矩形の実装面23を備えたパッケージに実装されたWT型のジャイロセンサである。その第2検出軸21は、実装面23と直交している。第2のジャイロセンサ22は、実装面23の長辺と設置面81の長辺が平行になるように配置されている。
したがって、第1検出軸11と第2検出軸21とは直交している(図中で第1検出軸11の延長線上での第2検出軸21の方向を点線で示した)。
第1検出軸11と第2検出軸21とが直交していれば、底面81に配置された第1のジャイロセンサ12と第2のジャイロセンサ22との位置関係は、どのようなものであってもよい。また、回路30は、第1実施形態と同様の回路を用いることができる。
【0032】
本実施形態では、第1実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(6)既存の実装された第1のジャイロセンサ12および第2のジャイロセンサ22と回路30とを組み合わせて簡便にジャイロセンサモジュール200を構成することができる。
【0033】
(第3実施形態)
図6は、本実施形態におけるジャイロセンサモジュール300を示す概略斜視図である。
図6において、ジャイロセンサモジュール300は、第1のジャイロセンサ10と第2のジャイロセンサ14と回路30と升型のパッケージ40と蓋50とを備えている。
第1のジャイロセンサ10と第2のジャイロセンサ14と回路30とは、パッケージ40の矩形の底面41に配置されている。
【0034】
第1のジャイロセンサ10は、音叉型のジャイロセンサである。第1のジャイロセンサ10は、その第1検出軸11が、矩形の底面41の短辺と平行になるように配置されている。
第2のジャイロセンサ14は、音叉型のジャイロセンサである。第2のジャイロセンサ14は、その第2検出軸15が、矩形の底面41の長辺に対し平行になるように配置されている。
したがって、第1検出軸11と第2検出軸15とは直交している(図中で第1検出軸11の延長線と第2検出軸15延長線とを点線で示した)。
【0035】
ジャイロセンサモジュール300の取り付け方法は、第1検出軸11と第2検出軸15とを含む平面が、図2に示したように地上水平面70と直交するように取り付ける。具体的には、底面41と地上水平面70とが直交するように取り付け、車両に取り付ける場合、第1実施形態と同様に、底面を車両の進行方向と平行に取り付けて使用する。
本実施形態は、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0036】
(第4実施形態)
図7は、本実施形態におけるジャイロセンサモジュール400を示す概略斜視図である。
ジャイロセンサモジュール400は、第1のジャイロセンサ16と第2のジャイロセンサ17と回路30と、矩形の設置面81を有する基板80とを備えている。
【0037】
第1のジャイロセンサ16および第2のジャイロセンサ17は、矩形の実装面19を備えたパッケージに実装された音叉型のジャイロセンサである。
第1のジャイロセンサ16の第1検出軸11および第2のジャイロセンサ17の第2検出軸18は、実装面19の長辺に平行にパッケージされている。
第1のジャイロセンサ16は、実装面19の長辺と設置面81の短辺とが平行になるように配置されている。
第2のジャイロセンサ17は、実装面19の長辺と設置面81の長辺とが平行になるように配置されている。
したがって、第1検出軸11と第2検出軸18とは直交している(図中で第1検出軸11の延長線と第2検出軸18の延長線とを点線で示した)。
回路30は、第1実施形態と同様の回路を用いることができる。
本実施形態では、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
(第5実施形態)
図8は、ソフトウェア処理を用いた信号処理ブロック図である。
本実施形態では、前述の各実施形態において、回路30を含まないジャイロセンサモジュール100,200,300,400を用いて角速度を計算する。
第1のジャイロセンサ10,12,16と第2のジャイロセンサ20,14,17,22とで検出された、第1角速度ω1および第2角速度ω2のアナログ信号は、ADC(Analog Digital Converter)によってデジタル信号に変換される。ADCは、ジャイロセンサモジュール100,200,300,400に設けてもよいし、ジャイロセンサモジュール100,200,300,400とは別にジャイロセンサモジュール100,200,300,400を備えた装置、例えばナビゲーションシステム101に設けてもよい。
変換されたデジタル信号を用いたCPUによるソフトウェア処理により、センサ出力補正、2乗和平均演算、乗算、符号判定、調整係数演算、車両位置測定を行い角速度ωを検出することができる。
ソフトウェア処理は、センサ出力補正、2乗和平均演算、乗算、符号判定、調整係数演算、車両位置判定の処理のうち1つか複数行ってもよい。このとき、ソフトウェア処理を行う処理の前にはADCを設ける。
【0039】
以下、本実施形態の効果を記載する。
(7)センサ出力補正、角速度ωの算出、誤差Δθの算出または感度調整信号A1,A2の算出の処理のうち、1つまたは複数のソフトウェア処理で処理を行うので、ジャイロセンサモジュール100,200,300,400が組み込まれたナビゲーションシステム101のCPU(Central Processing Unit)での処理が可能になる。したがって、ジャイロセンサモジュール100,200,300,400を小型にできる。
【0040】
本発明のジャイロセンサモジュールおよび角速度検出方法は、車両としての二輪車にも使用できる。以下に、二輪車に使用する場合を図2に基づいて説明する。
二輪車に使用するには、第1検出軸11と第2検出軸21とを含む平面を、二輪車の進行方向と直交するようにジャイロセンサモジュール100を取り付ける。
【0041】
また、車両から取り外して携帯可能なナビゲーション装置においては、車両に再び取り付けるごとに取付角度が変化するため、本発明のジャイロセンサモジュールおよび角速度検出方法を有効に活用できる。また、表示画面が上下に角度調整されるのに応じてジャイロセンサモジュールの取付角度が変化するナビゲーション装置が存在する。このようなナビゲーション装置においては、本発明のジャイロセンサモジュールの2つの軸とのなす面を進行方向と平行になるように設置することによって、運転者が所望するように表示画面の角度を調節しても正確な角速度を求めることができる。
【0042】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、1つのジャイロセンサが第1検出軸と第2検出軸を備え、1つのジャイロセンサで第1角速度および第2角速度を検出する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態におけるジャイロセンサモジュールの組み込まれたナビゲーションシステムを移動体である車両に取り付けた状態を示す模式図。
【図2】ジャイロセンサモジュールを示す概略斜視図。
【図3】第1検出軸、第2検出軸および被検出軸と地上水平面との位置関係を示す図。
【図4】回路の信号処理ブロック図。
【図5】本発明の第2実施形態におけるジャイロセンサモジュールを示す概略斜視図。
【図6】本発明の第3実施形態におけるジャイロセンサモジュールを示す概略斜視図。
【図7】本発明の第4実施形態におけるジャイロセンサモジュールを示す概略斜視図。
【図8】本発明の第5実施形態におけるソフトウェア処理を用いた信号処理ブロック図。
【符号の説明】
【0044】
10,12,16…第1のジャイロセンサ、14,17,20,22,…第2のジャイロセンサ、11…第1検出軸、15,18,21…第2検出軸、30,31…回路、32…センサ出力補正回路、33…演算回路、36…第1のオフセット調整回路、37…第2のオフセット調整回路、38…第1の感度調整回路、39…第2の感度調整回路、100,200,300,400…ジャイロセンサモジュール、101…ナビゲーションシステム、102…移動体としての車両、351…車両位置測定回路、352…調整係数演算回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に取付けられるナビゲーションシステムに組み込まれるジャイロセンサモジュールであって、
第1検出軸回りの第1角速度ω1を検出し、出力する第1のジャイロセンサと、
前記第1角速度ω1の符号を判定する符号判定回路と、
前記第1検出軸と直交する第2検出軸回りの第2角速度ω2を検出し、出力する第2のジャイロセンサと、
前記第1、第2のジャイロセンサの出力を補正するセンサ出力補正回路と、
前記センサ出力補正回路で補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均を演算し、前記符号判定回路によって得られた前記第1角速度ω1の符号を前記2乗和平均に乗算し、角速度ωを出力する演算回路とを備え、
前記センサ出力補正回路は、前記ジャイロセンサモジュールが設置されている前記移動体が停止している時の前記第1のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B1を前記第1角速度ω1から減算した値ω1”を出力する第1のオフセット調整回路と、
前記ジャイロセンサモジュールが設置されている前記移動体が停止している時の前記第2のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B2を前記第2角速度ω2から減算した値ω2”を出力する第2のオフセット調整回路とを有し、
前記角速度ωは、前記第1検出軸と前記第2検出軸とがなす面内で、かつ前記第1検出軸から−90度から+90度の範囲の軸周りの角速度である
ことを特徴とするジャイロセンサモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のジャイロセンサモジュールにおいて、
前記ジャイロセンサモジュールは、
前記演算回路から出力される前記角速度ωを積分して得られる進行方位と前記ナビゲーションシステムの演算で決められた前記移動体の進行方位との誤差Δθを出力する車両位置測定回路と、
前記誤差Δθと前記演算回路から出力される前記角速度ωと前記移動体から出力される車速パルスとから、感度調整信号A1,A2を算出し、出力する調整係数演算回路とを備え、
前記センサ出力補正回路は、前記第1のオフセット調整回路の前記ω1”に前記感度調整信号A1を掛け合わせた値ω1’を出力する第1の感度調整回路と、
前記第2のオフセット調整回路の前記出力ω2”に前記感度調整信号A2を掛け合わせた値ω2’を出力する第2の感度調整回路とを有している
ことを特徴とするジャイロセンサモジュール。
【請求項3】
移動体に取り付けられ、ナビゲーションシステムに組み込まれるジャイロセンサモジュールを用いた角速度検出方法であって、
第1検出軸回りの第1角速度ω1を検出し、
前記第1角速度ω1の符号を判定し、
前記第1検出軸と直交する第2検出軸回りの第2角速度ω2を検出し、
前記ジャイロセンサモジュールが設置されている前記移動体が停止している時の前記第1のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B1を前記第1角速度ω1から減算する第1のオフセット調整と、
前記ジャイロセンサモジュールが設置されている移動体が停止している時の前記第2のジャイロセンサの出力値に対応する補正値B2を前記第2角速度ω2から減算する第2のオフセット調整とを含むセンサ出力補正を行い、
前記センサ出力補正で補正された第1角速度ω1’および第2角速度ω2’の2乗和平均を演算し、前記第1検出軸と前記第2検出軸とがなす面内で、かつ前記第1検出軸から−90度から+90度の範囲の軸周りの角速度ωを算出する
ことを特徴とする角速度検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の角速度検出方法であって、
前記角速度ωを積分して得られる進行方位と前記ナビゲーションシステムの演算で決められた前記移動体の進行方位との誤差Δθを算出し、
前記誤差Δθと前記角速度ωとから、感度調整信号A1,A2を算出し、
前記センサ出力補正において、前記第1のオフセット調整後の値ω1”に前記感度調整信号A1を掛け合わせた値ω1’を算出する第1の感度調整と、
前記第2のオフセット調整後の値ω2”に前記感度調整信号A2を掛け合わせた値ω2’を算出する第2の感度調整とを有している
ことを特徴とする角速度検出方法。
【請求項5】
請求項3および請求項4に記載の角速度検出方法であって、
前記センサ出力補正は、センサ出力補正回路によって行う
ことを特徴とする角速度検出方法。
【請求項6】
請求項3および請求項4に記載の角速度検出方法であって、
前記センサ出力補正、前記角速度ωの算出、前記誤差Δθの算出または前記感度調整信号A1,A2の算出の処理のうち、1つまたは複数の処理をソフトウェア処理によって行う
ことを特徴とする角速度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−151681(P2008−151681A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340858(P2006−340858)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】