説明

ジルコニウム(Zr)製ベローズ

【課題】過酷な成形加工に耐えるジルコニウム(Zr)製薄肉パイプを造管し、これまで存在していない、耐食性の優れたジルコニウム製の液圧成形もしくは、ロール成形ベローズを提供する。
【解決手段】ジルコニウム製薄肉ベローズを成形するため、使用されるジルコニウム製薄肉溶接パイプの造管過程において、溶接金属及び熱影響範囲での酸素プラス窒素の含有量の増加を、100ppm以下に抑制することより、ジルコニウム製ベローズの液圧成形もしくはロール成形を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学プラント、製薬メーカー等における、腐食性流体が流れる配管及び圧力容器の変位を吸収する、高耐食性ジルコニウム(Zr)金属製液圧成形もしくはロール成形ベローズに関する。
【背景技術】
【従来の技術及び課題】
【0002】
耐食性金属として、ステンレスとチタンは優れた成形性があり、何十年も前から、両金属製ベローズは配管システムに使用されている。更に、チタン製ベローズの疲労特性を向上させるため、溶接継手の厚さの制御及びゲッターを用いた真空熱処理方法が特開平5−318110に開示されている。特開平9−14549には、ステンレス製ベローズの疲労特性を向上させるため、ベローズの山部分の肉厚と谷部分の肉厚の比を制御することが開示されている。
【0003】
化学工業の各分野で使用されている、チタンやステンレス鋼の耐食性の欠点である還元性液、ガスに使用されている伸縮管継手は、フッ素樹脂製ベローズによって構成されることは一般的である。フッ素樹脂は、時間の経過により劣化、変質し、ベローズ寿命に問題がある。また、フッ素樹脂製ベローズは耐高温、耐高圧性が金属より低いので、使用条件が制限される問題がある。従って、より高温、高圧性の優れた金属製ベローズが要求されている。
【0004】
チタンやステンレス鋼の耐食性の欠点である還元性液、ガスに対して、金属ジルコニウムはフッ素樹脂並みの耐食性を持っている。当社は1996年4月からジスク形ジルコニウム製ベローズを客先に納めている。
【0005】
しかし、ジスク形ベローズより材料を大幅に節約でき、変位吸収性能がより良いU形ジルコニウム製ベローズは存在していない。その原因は、U形ベローズの液圧成形もしくはロール成形には、過酷な成形加工に耐えるパイプが必要とされる。通常成形用パイプは、板を曲げ溶接して造管される。ジルコニウム(Zr)材料は酸素と窒素との親和性がチタンより高い。通常のTIG溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接方法の場合は、ジルコニウム材の溶接金属と熱影響範囲に、酸素と窒素が金属内に固溶されることにより延性が減少し、過酷な液圧成形もしくはロール成形に耐えない。従って、これまでは液圧成形もしくはロール成形によるU形ジルコニウム(Zr)製ベローズを製造することが不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、過酷な成形加工に耐えるジルコニウム製薄肉パイプを造管し、これまで製造不可能であった、耐食性の優れたジルコニウム(Zr)材の液圧成形もしくは、ロール成形ベローズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明はベローズ成形用薄肉パイプの長手溶接過程において、溶接金属及び熱影響範囲部分の、酸素プラス窒素の含有量の増加を100ppm以下に抑制する造管方法で、液圧成形もしくはロール成形に耐えられるジルコニウム(Zr)製溶接薄肉パイプを製造する。
【0008】
前記薄肉パイプの長手溶接過程において、溶接金属及び熱影響範囲部分の酸素と窒素の含有量の増加を抑制する方法は、溶接部と熱影響範囲を急冷する方法である。
【0009】
前記薄肉パイプの溶接方法としては、TIG溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接など適用する。
【発明の効果】
【0010】
TIG溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接において、アフターシールド、バックシールド等で充分なシールを行っても、シールドガスとして使用されるアルゴンガスの純度は100%ではない。真空中で行われる電子ビーム溶接でも、雰囲気中僅かな酸素と窒素の混入を避けることができない。ジルコニウムはチタンより活性な金属なので、大気中で300℃以上の場合は容易に酸素及び窒素と反応し、僅かな酸素と窒素を吸収しても脆化する。本発明は、ベローズ成形過程に発生した溶接金属と、熱影響範囲での割れについて種々検討した結果、割れの発生形態は、熱影響範囲と溶接金属の境界に発生した割れと、溶接金属部に発生した割れの2種類がある。その内訳とは4分の3が熱影響範囲と溶接金属の境界に発生し、4分の1が溶接金属に発生したことが判明した。本発明者の知見として、ジルコニウムの溶接パイプについて、表面酸化皮膜の最も厚い箇所は熱影響範囲と母材との境界であることから、割れ発生の主な原因は表面酸化皮膜の割れによるものではない、素地内部に酸素と窒素の固溶によるものと推定された。
【0011】
そこで、本発明は溶接部と熱影響範囲を急冷することによって、高温時の時間を短縮して、酸素と窒素の固溶を抑制する方法で、過酷な成形加工に耐えるジルコニウム製薄肉パイプを造管する。これまで製造不可能であった耐食性の優れたジルコニウム(Zr)材の液圧成形もしくはロール成形ベローズを提供することができた。
【実施例】
【0012】
ジルコニウムZr702(ASTM R60702)で、板厚0.8mmの材料を用いて、ベローズ成形加工用パイプをTIG溶接方法で本発明例、及び比較例として造管した。比較例として造管した150Aのパイプを4本、本発明例として造管した150Aのパイプを1本用いて、液圧成形方法でベローズ成形試験を行った。
【0013】
表1に材料メーカーからのミルシートで提供された母材の酸素と窒素の含有量、比較例の従来のTIG溶接法での溶接部と熱影響範囲での酸素と窒素濃度のIGA分析結果、本発明例の急冷したTIG溶接部と熱影響範囲での酸素と窒素濃度のIGA分析結果を記した。
【0014】
【表1】

【0015】
表2に液圧成形に際して、比較例1〜4の割れが発生した時点で溶接金属部と熱影響範囲部の伸び率、本発明例の成形に成功したベローズの溶接金属部と熱影響範囲部の伸び率を記した。
【0016】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【図1】ジスク形ベローズ形状とU形ベローズの形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧成形もしくはロール成形で製造したジルコニウム(Zr)製薄肉(板厚0.5〜3.2mm)U形ベローズ。
【請求項2】
前記ジルコニウム製薄肉ベローズを成形するため使用されるジルコニウム製薄肉溶接パイプの造管過程において、溶接金属及び熱影響範囲での酸素プラス窒素の含有量の増加を、100ppm以下に抑制することを特徴とするベローズ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−159870(P2010−159870A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23083(P2009−23083)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(509034270)株式会社SPF (1)
【Fターム(参考)】