説明

スイッチングレギュレータ及びこれを備えた電子機器

【課題】本発明は、変換効率の低下を招くことなく、ノイズ環境下での出力精度を向上することが可能なスイッチングレギュレータを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るスイッチングレギュレータ20は、センス抵抗Rsと、センス電圧Vsenseに応じたセンス電流Isenseを生成するセンス電流生成回路213と、ランプ波或いは三角波のスロープ電流Islopeを生成するスロープ電流生成回路214と、加算電流(Isense+Islope)に応じたスロープ電圧Vslopeを生成するスロープ電圧生成回路215と、出力誤差に応じた誤差電圧Verrを生成する誤差増幅器ERRと、誤差電圧Verrとスロープ電圧Vslopeを比較してPWM信号を生成するコンパレータCMPと、PWM信号に基づいて出力トランジスタN1のオン/オフ制御を行うスイッチング制御部CTRLと、を有して成る構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電圧から所望の出力電圧を生成するスイッチングレギュレータ、及び、これを備えた電子機器に関するものであり、特に、負荷変動に対する高速応答性が要求される電源装置全般(液晶モニタ用電源や大型液晶テレビ用電源、オンボード用電源など)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱損失が少なく、かつ、入出力較差が大きい場合に比較的効率が良い安定化電源手段の一つとして、出力トランジスタのオン/オフ制御(デューティ制御)によってエネルギ貯蔵素子(コンデンサやインダクタなど)の一端を駆動することで、入力電圧から所望の出力電圧を生成するスイッチングレギュレータ(チョッパ型レギュレータ)が広く用いられている。
【0003】
なお、従来の一般的なスイッチングレギュレータは、図3で示すように、出力電圧に応じて変動する帰還電圧Vfbと所定の基準電圧Vrefとの差電圧を増幅する誤差アンプERRを有して成り、当該誤差アンプERRで得られる誤差電圧Verrに応じて出力トランジスタN1の駆動制御を行う構成とされていた。
【0004】
また、負荷変動に対する高速応答性が要求されるスイッチングレギュレータでは、図3で示すように、出力トランジスタN1に流れるスイッチ電流Iswをセンス抵抗Rsでセンス電圧Vsenseとして検出し、当該センス電圧Vsenseに応じて出力トランジスタN1の駆動制御を行う方式(いわゆる、電流モード制御方式)が併用されていた(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2000−92833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに、上記従来のスイッチングレギュレータであれば、負荷変動に誤差アンプERRの出力が追従できなくても、スイッチ電流Iswの検出結果に応じて出力トランジスタN1を直接駆動制御することができるので、変動の少ない安定した出力電圧を生成することが可能である。
【0006】
しかしながら、上記従来のスイッチングレギュレータは、数十[mΩ]程度のセンス抵抗Rsで得られる微少なセンス電圧Vsenseを直接参照して電流モード制御を実現する構成とされていた。そのため、上記従来のスイッチングレギュレータは、その電流モード制御がノイズの影響を受け易く、劣悪なノイズ環境下での使用時(例えば携帯電話端末への搭載時)には、出力精度が低下するおそれがあった。
【0007】
なお、図3に示すように、出力トランジスタN1にセンス抵抗Rsを直列接続した構成では、センス抵抗Rsの抵抗値を大きくしてセンス電圧Vsenseの電圧レベルを高めた場合、そのS/Nを向上し得る反面、スイッチングレギュレータの変換効率の低下を招く結果となっていた。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、変換効率の低下を招くことなく、ノイズ環境下での出力精度を向上することが可能なスイッチングレギュレータ及びこれを備えた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明に係るスイッチングレギュレータは、出力電圧の目標誤差に応じた誤差電圧とPWM制御用のスロープ電圧とを比較してPWM信号を生成し、該PWM信号に基づいて出力トランジスタのオン/オフ制御を行うことによりエネルギ貯蔵素子の一端を駆動することで、入力電圧から所望の出力電圧を生成するスイッチングレギュレータであって、前記出力トランジスタに流れるスイッチ電流に応じたセンス電流を生成するセンス電流生成手段を有して成り、前記スロープ電圧の電圧レベルは、前記センス電流に応じてオフセットされる構成(第1の構成)としている。
【0010】
より具体的に述べると、本発明に係るスイッチングレギュレータは、出力トランジスタのオン/オフ制御によりエネルギ貯蔵素子の一端を駆動することで、入力電圧から所望の出力電圧を生成するスイッチングレギュレータであって、前記出力トランジスタに流れるスイッチ電流に応じたセンス電圧を生成するセンス抵抗と、前記センス電圧に応じたセンス電流を生成するセンス電流生成手段と、ランプ波形或いは三角波形のスロープ電流を生成するスロープ電流生成手段と、前記センス電流と前記スロープ電流との加算電流に応じたスロープ電圧を生成するスロープ電圧生成手段と、前記出力電圧に応じた帰還電圧と所定の目標設定電圧との差分を増幅して誤差電圧を生成する誤差電圧生成手段と、前記誤差電圧と前記スロープ電圧とを比較してPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、前記PWM信号に基づいて前記出力トランジスタのオン/オフ制御を行うスイッチング制御手段と、を有して成る構成(第2の構成)としている。
【0011】
このような構成とすることにより、センス抵抗の抵抗値を小さく設定したまま、最終的なスロープ電圧の電圧レベルを所望のレベルにまで高めることができるので、変換効率の低下を招くことなく、ノイズの影響を受けにくい電流モード制御を実現し、ノイズ環境下での出力精度を向上することが可能となる。また、モニタトランジスタを用いないので、ペア性のずれなどに起因して誤検出を起こすことがなく、電源電圧特性や温度特性に優れた電流モード制御を実現することが可能となる。
【0012】
なお、上記第2の構成から成るスイッチングレギュレータは、前記エネルギ貯蔵素子であるインダクタと、出力電流を整流またはスイッチングする整流素子と、出力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、を有して成る構成(第3の構成)にするとよい。
【0013】
また、上記第2または第3の構成から成るスイッチングレギュレータにおいて、前記センス電流生成手段は、前記センス電圧に応じた電流が流される第1抵抗と、該第1抵抗に流れる電流をミラーして前記センス電流を生成する第1カレントミラー回路と、を有して成り、前記スロープ電流生成手段は、ランプ波形或いは三角波形の発振電圧を生成する発振回路と、前記発振電圧に応じた電流が流される第2抵抗と、該第2抵抗に流れる電流をミラーして前記スロープ電流を生成する第2カレントミラー回路と、を有して成り、前記スロープ電圧生成手段は、前記センス電流とスロープ電流との加算電流が流されてその一端から前記スロープ電圧が引き出される第3抵抗を有して成る構成(第4の構成)にするとよい。このような構成とすることにより、第3抵抗の抵抗値を大きく設定することで、センス抵抗の抵抗値を小さく設定したまま、最終的なスロープ電圧の電圧レベルを所望のレベルにまで高めることが可能となる。また、第1、第2抵抗の抵抗値を適宜選択することでセンス電流とスロープ電流との相対的な大きさを容易に調整することが可能となる。
【0014】
また、上記第4の構成から成るスイッチングレギュレータにおいて、前記センス抵抗の抵抗値は、所定の温度係数をもって変動するものであり、第1〜第3抵抗の少なくとも一は、上記の温度係数を相殺する温度係数をもってその抵抗値が変動するように調整されている構成(第5の構成)にするとよい。このような構成とすることにより、温度変動に依ることなく、高精度に出力帰還制御を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る電子機器は、装置電源であるバッテリと、前記バッテリの出力変換手段と、を有して成る電子機器であって、前記出力変換手段として、上記第1〜第5いずれかの構成から成るスイッチングレギュレータを備えて成る構成(第6の構成)としている。このような構成とすることにより、バッテリの浪費を招くことなく、ノイズ環境下でも安定した電力供給を行うことが可能となる。特に、液晶パネルのデータ信号生成部に対する電力供給手段として、本発明に係るスイッチングレギュレータを用いれば、画素トランジスタへのデータ書き込み電圧が変動しにくくなるので、液晶の駆動が不十分となったり、表示メモリ等への書き込みができなくなったりすることなく、コントラスト低下や輝度傾斜等の少ない優れた画像表示を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
上記したように、本発明に係るスイッチングレギュレータであれば、変換効率の低下を招くことなく、ノイズ環境下での出力精度を向上することが可能となり、延いては、これを備えた電子機器の消費電力低減並びに信頼性向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、携帯電話端末に搭載され、バッテリの出力電圧を変換して端末各部(例えばTFT[Thin Film Transistor]液晶パネル)の駆動電圧を生成するDC/DCコンバータに本発明を適用した場合を例に挙げて説明を行う。
【0018】
図1は、本発明に係る携帯電話端末の一実施形態を示すブロック図(特に、TFT液晶パネルへの電源系部分)である。本図に示すように、本実施形態の携帯電話端末は、装置電源であるバッテリ10と、バッテリ10の出力変換手段であるDC/DCコンバータ20と、携帯電話端末の表示手段であるTFT液晶パネル30と、を有して成る。なお、本図には明示されていないが、本実施形態の携帯電話端末は、上記構成要素のほか、その本質機能(通信機能など)を実現する手段として、送受信回路部、スピーカ部、マイク部、表示部、操作部、メモリ部など、を当然に有して成る。
【0019】
DC/DCコンバータ20は、バッテリ10から印加される入力電圧Vinから一定の出力電圧Voutを生成し、該出力電圧VoutをTFT液晶パネル30に供給する。なお、TFT液晶パネル30のデータ信号(画素トランジスタのソース線に印加される電圧信号)を生成するデータ信号生成部(不図示)への電源供給が不安定になると、液晶の駆動が不十分となったり、表示メモリ等への書き込みができなくなったりして、コントラスト低下や輝度傾斜等の画質劣化を生じるおそれがある。そのため、DC/DCコンバータ20には、負荷変動に対する高応答性が要求されている。
【0020】
図2は、DC/DCコンバータ20の一構成例を示す回路図(一部にブロックを含む)である。本図に示す通り、本実施形態のDC/DCコンバータ20は、スイッチング電源IC21のほか、外付けのインダクタLex、整流ダイオードDex(ショットキーバリアダイオードなど)、平滑コンデンサCex、及び、抵抗Rex1〜Rex2を有して成る昇圧型スイッチングレギュレータ(チョッパ型レギュレータ)である。
【0021】
スイッチング電源IC21は、回路ブロック的に見ると、スイッチ駆動回路211と、センス電圧生成回路212と、センス電流生成回路213と、スロープ電流生成回路214と、スロープ電圧生成回路215と、出力帰還回路216と、を有するほか、外部との電気的な接続手段として、外部端子T1〜T2を有して成る。なお、スイッチング電源IC21には、上記した回路ブロックのほか、その他の保護回路ブロック(低入力誤動作防止回路や熱保護回路など)を適宜組み込んでも構わない。
【0022】
スイッチ駆動回路211は、スイッチング制御部CTRLと、Nチャネル電界効果トランジスタN1と、を有して成る。センス電圧生成回路212は、センス抵抗Rsを有して成る。センス電流生成回路213は、Nチャネル電界効果トランジスタN2〜N4と、Pチャネル電界効果トランジスタP1〜P4と、定電流源I1と、抵抗R1と、を有して成る。スロープ電流生成回路214は、Nチャネル電界効果トランジスタN5〜N6と、Pチャネル電界効果トランジスタP5〜P6と、定電流源I2と、可変電流源I3と、コンデンサC1と、抵抗R2と、を有して成る。スロープ電圧生成回路215は、抵抗R3を有して成る。出力帰還回路216は、誤差増幅器ERRと、直流電圧源E1と、コンパレータCMPと、を有して成る。
【0023】
上記各構成要素間の接続関係について、さらに説明する。
【0024】
トランジスタN1のドレインは、外部端子T1(スイッチ端子)に接続されている。トランジスタN1のソースは、センス抵抗Rsを介して接地されている。トランジスタN1のゲートは、スイッチング制御部CTRLの制御信号出力端に接続されている。
【0025】
トランジスタP1のゲートは、トランジスタN1のソースとセンス抵抗Rsの一端との接続ノードに接続されている。トランジスタP1、P2のソースは、いずれも定電流源I1を介して電源ライン(=Vin[V]、以下同様)に接続されている。トランジスタP1のドレインは、トランジスタN2のドレインに接続されており、トランジスタP2のドレインは、トランジスタN3のドレインに接続されている。トランジスタN2、N3のゲートは互いに接続されており、その接続ノードは、トランジスタN2のドレインに接続されている。トランジスタN2、N3のソースは、いずれも接地されている。トランジスタP2のゲートは、抵抗R1を介して接地される一方、トランジスタN4のソースにも接続されている。トランジスタN4のゲートは、トランジスタP2のドレインとトランジスタN3のドレインとの接続ノードに接続されている。トランジスタN4のドレインは、トランジスタP3のトランジスタP3のドレインに接続されている。トランジスタP3、P4のゲートは互いに接続されており、その接続ノードは、トランジスタP3のドレインに接続されている。トランジスタP3、P4のソースは、いずれも電源ラインに接続されている。トランジスタP4のドレインは、抵抗R3を介して接地されている。
【0026】
トランジスタN5のドレインは、定電流源I2を介して電源ラインに接続されている。トランジスタN5のソースは、可変電流源I3を介して接地される一方、コンデンサC1を介しても接地されている。トランジスタN5、N6のゲートは互いに接続されており、その接続ノードは、トランジスタN5のドレインに接続されている。トランジスタN6のドレインは、トランジスタP5のドレインに接続されている。トランジスタN6のソースは、抵抗R2を介して接地されている。トランジスタP5、P6のゲートは互いに接続されており、その接続ノードは、トランジスタP5のドレインに接続されている。トランジスタP5、P6のソースは、いずれも電源ラインに接続されている。トランジスタP6のドレインは、抵抗R3を介して接地されている。
【0027】
誤差増幅器ERRの反転入力端(−)は、外部端子T2(出力帰還端子)に接続されている。誤差増幅器ERRの非反転入力端(+)は、直流電圧源E1の正極端に接続されている。直流電圧源E1の負極端は、接地されている。コンパレータCMPの非反転入力端(+)は、誤差増幅器ERRの出力端に接続されている。コンパレータCMPの反転入力端(−)は、トランジスタP4、P6の各ドレインと抵抗R3の一端との接続ノードに接続されている。コンパレータCMPの出力端は、スイッチング制御部CTRLのPWM信号入力端に接続されている。
【0028】
外部端子T1は、スイッチング電源IC21の外部において、インダクタLexの一端に接続される一方、整流ダイオードDexのアノードにも接続されている。インダクタLexの他端は、バッテリ10から与えられる入力電圧Vinの印加端に接続されている。整流ダイオードDexのカソードは、平滑コンデンサCexを介して接地される一方、抵抗Rex1、Rex2を介しても接地されている。また、整流ダイオードDexのカソードは、出力電圧Voutの引出端(負荷であるTFT液晶パネル30の電源入力端)にも接続されている。
【0029】
まず、上記構成から成るスイッチング電源IC21の基本動作(直流/直流変換動作)について説明する。
【0030】
トランジスタN1は、スイッチング制御部CTRLによってオン/オフ制御される出力トランジスタである。トランジスタN1がオン状態にされると、インダクタLexには、トランジスタN1を介して接地端に向けたスイッチ電流Iswが流れ、その電気エネルギが蓄えられる。なお、トランジスタN1のオン期間において、すでに平滑コンデンサCexに電荷が蓄積されていた場合、負荷(本図には示していないTFT液晶パネル30)には、平滑コンデンサCexからの電流が流れることになる。また、このとき、外部端子T1の電位は、トランジスタN1を介して、ほぼ接地電位まで低下しているため、整流ダイオードDexは逆バイアス状態となり、平滑コンデンサCexからトランジスタN1に向けて電流が流れ込むことはない。
【0031】
一方、トランジスタN1がオフ状態にされると、インダクタLexに生じた逆起電圧によって、そこに蓄積されていた電気エネルギが放出される。このとき、整流ダイオードDexは順バイアス状態となるため、当該整流ダイオードDexを介して流れる電流は、負荷に流れ込むとともに、平滑コンデンサCexを介して接地端にも流れ込み、該平滑コンデンサCexを充電することになる。上記の動作が繰り返されることで、負荷であるTFT液晶パネル30には、平滑コンデンサCexにより平滑された直流出力が供給される。
【0032】
このように、本実施形態のスイッチング電源IC21は、トランジスタN1のオン/オフ制御によってエネルギ貯蔵素子であるインダクタLexの一端を駆動することで、入力電圧Vinを昇圧して出力電圧Voutを生成するチョッパ型昇圧回路の一構成要素として機能するものである。
【0033】
次に、上記構成から成るスイッチング電源IC21の電圧帰還制御及び電流モード制御について説明する。
【0034】
センス電圧生成回路212では、トランジスタN1に流れるスイッチ電流Iswがセンス抵抗Rsに直接的に流され、その一端からセンス電圧Vsenseが引き出される。
【0035】
センス電流生成回路213では、センス抵抗Rsの一端からトランジスタP1のゲートに印加されるセンス電圧Vsenseに応じて、トランジスタN2のドレイン電流、延いては、トランジスタN3のドレイン電流が変動され、もってトランジスタN4の開閉制御が行われる。その結果、抵抗R1には、センス電圧Vsenseに応じた電流が流され、トランジスタP3、P4から成るカレントミラー回路では、抵抗R1に流れる電流をミラーすることでセンス電流Isenseが生成される。
【0036】
スロープ電流生成回路214では、可変電流源I3が所定の周期でオン/オフされて、コンデンサC1の充放電が繰り返され、ランプ波形(のこぎり波形)の発振電圧Voscが生成される。その結果、抵抗R2には、発振電圧Voscに応じた電流が流され、トランジスタP5、P6から成るカレントミラー回路では、抵抗R2に流れる電流をミラーすることでスロープ電流Islopeが生成される。なお、スロープ電流Islopeは、三角波形の電流信号としても構わない。
【0037】
スロープ電圧生成回路215では、センス電流Isenseとスロープ電流Islopeとの加算電流(Isense+Islope)が抵抗R3に流され、その一端からスロープ電圧Vslopeが引き出される。
【0038】
上記構成により、スロープ電圧Vslopeの電圧レベルは、以下の(1)式で表されることになる。
【0039】
【数1】

【0040】
上記(1)式からも分かるように、スロープ電圧信号Vslopeの電圧レベルは、センス電流Isense(延いてはスイッチ電流Isw)が大きいほど、高レベル側にオフセットされることになる。
【0041】
また、上記(1)式からも分かるように、本実施形態のDC/DCコンバータ20であれば、抵抗R3の抵抗値を大きく設定することで、センス抵抗Rsの抵抗値を小さく設定したまま、最終的なスロープ電圧Vslopeの電圧レベルを所望のレベルにまで高めることが可能となる。従って、変換効率の低下を招くことなく、ノイズの影響を受けにくい電流モード制御を実現し、ノイズ環境下での出力精度を向上することが可能となる。
【0042】
なお、センス電流Isenseとスロープ電流Islopeとの相対的な大きさについては、DC/DCコンバータ20の仕様(例えばインダクタLexの大きさ)に応じて、適宜調整すればよい。その際、本実施形態のDC/DCコンバータ20であれば、抵抗R1、R2の抵抗値を適宜選択することで、容易に上記調整を行うことが可能となる。
【0043】
出力帰還回路216において、誤差増幅器ERRは、外付けの抵抗Rex1、Rex2の接続ノードから引き出される出力帰還電圧Vfb(出力電圧Voutの実際値に相当)と、直流電圧源E1で生成される参照電圧Vref(出力電圧Voutの目標設定値Vtargetに相当)との差分を増幅して誤差電圧Verrを生成する。すなわち、誤差電圧Verrの電圧レベルは、出力電圧Voutがその目標設定値Vtargetよりも低いほど、高レベルとなる。
【0044】
コンパレータCMPは、誤差電圧Verrとスロープ電圧Vslopeを比較してPWM[Pulse Width Modulation]信号を生成するPWMコンパレータである。すなわち、PWM信号のオンデューティ(単位期間に占めるトランジスタN1のオン期間の比)は、誤差電圧Verrとスロープ電圧Vslopeの相対的な高低に応じて逐次変動する。具体的に述べると、出力電圧Voutがその目標設定値Vtargetよりも低いほど、PWM信号のオンデューティは大きくなり、出力電圧Voutがその目標設定値Vtargetに近付くにつれて、PWM信号のオンデューティは小さくなる。また、スイッチ電流Iswが大きいほど、PWM信号のオンデューティは小さくなる。
【0045】
スイッチング制御部CTRLは、入力電圧Vinを昇圧して出力電圧Voutを得るに際し、上記のPWM信号に応じてトランジスタN1のスイッチング制御を行う。より具体的に述べると、スイッチング制御部CTRLは、PWM信号のオン期間にトランジスタN1をオン状態とし、PWM信号のオフ期間にトランジスタN1をオフ状態とする。
【0046】
このように、本実施形態のスイッチング電源IC21は、誤差電圧Verrに基づく電圧帰還制御により、出力電圧Voutをその目標設定値Vtargetに合わせ込むことができる。また、スイッチ電流Iswに基づく電流モード制御により、入出力変動や負荷変動に対する応答性を向上することが可能となる。
【0047】
なお、上記構成から成るDC/DCコンバータ20において、センス抵抗Rsの抵抗値は、所定の温度係数をもって変動するものであり、抵抗R1〜R3の少なくとも一は、上記の温度係数を相殺する温度係数をもってその抵抗値が変動するように調整されている構成とされている。以下では、当該構成について、詳細な説明を行う。
【0048】
センス抵抗Rsは、数十[mΩ]の微少な抵抗値を得るために、アルミニウム配線を用いた抵抗とされており、その抵抗値は、正の温度係数(+4000[ppm/℃]程度)をもって変動する。なお、温度特性の単位として用いたppmとは、parts par millionの略であり、100万分の1を表している。すなわち、+4000[ppm/℃]の温度係数を持つセンス抵抗Rsの抵抗値は、温度が1[℃]上昇すると、100万分の4000、すなわち、+0.4[%]だけ大きくなる。
【0049】
抵抗R1は、センス抵抗Rsの有する正の温度係数を相殺するように、その抵抗値が同じく正の温度係数(+3000[ppm/℃]程度)をもって変動するベース抵抗(半導体抵抗)とされている。なお、消費電力低減の観点から、抵抗R1に流れる電流が過大とならないように、抵抗R1の抵抗値としては少なくとも数百[Ω]が必要となる。そのため、抵抗R1として導電性の高いアルミニウム抵抗を用いることはできず、後述する抵抗を単独で用いていたので、センス抵抗Rsと抵抗R1の温度係数には、+1000[ppm/℃]程度の差違が残存する。
【0050】
そのため、抵抗R3としては、上記温度係数の差異分を相殺するように、その抵抗値が正の温度係数(+1000[ppm/℃]程度)をもって変動する抵抗素子を用いる必要がある。また、抵抗R3としては、スロープ電圧Vslopeの電圧レベルを所望値まで高めるべく、数十[kΩ]の抵抗値を有する抵抗素子を用いる必要がある。
【0051】
そこで、本実施形態では、抵抗R3として、ベース抵抗やポリ抵抗(多結晶シリコン抵抗)を単独で用いるのではなく、正の温度係数(+3000[ppm/℃]程度)を有するベース抵抗と、負の温度係数(−2000[ppm/℃]程度)を有するポリ抵抗と、を直列接続することで、抵抗R3を形成する構成としている。
【0052】
このような抵抗素子の選択を行うことにより、スイッチング電源IC21のチップ温度が変動しても、高精度に出力帰還制御を行うことが可能となる。
【0053】
なお、上記では、センス電流生成回路213についてのみ着目し、スロープ電流生成回路214を構成する抵抗R2については、特段言及しなかったが、抵抗R2についても、上記と同様の考察に基づいて、適宜抵抗素子を選択すればよい。
【0054】
また、温度調整を変更したいときは、正と負の抵抗の割合を変更して、抵抗R3を形成すればよい。
【0055】
また、上記の実施形態では、携帯電話端末に搭載され、バッテリの出力変換手段として用いられるDC/DCコンバータに本発明を適用した場合を例に挙げて説明を行ったが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、本発明は、その他の電子機器に搭載されるDC/DCコンバータにも広く適用することが可能である。
【0056】
また、上記の実施形態では、昇圧型のDC/DCコンバータに本発明を適用した場合を例に挙げて説明を行ったが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、降圧型や昇降圧型のDC/DCコンバータにも同様に適用することが可能である。
【0057】
また、本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。例えば、外付けの整流ダイオードに代えて同期整流素子をスイッチング電源ICに内蔵する構成としてもよいし、出力トランジスタとしてバイポーラトランジスタを用いる構成としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、電流モード制御方式を採用したスイッチングレギュレータの出力精度向上を図る上で有用な技術であり、特に、高い変換効率や負荷変動に対する電源出力の高速応答性が要求され、かつ、劣悪なノイズ環境下での使用が想定される電子機器(携帯電話端末など)の電源手段として好適な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】は、本発明に係る携帯電話端末の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】は、DC/DCコンバータ20の一構成例を示す回路図である。
【図3】は、電流モード制御方式を採用したスイッチングレギュレータの一従来例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0060】
10 バッテリ
20 DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)
30 TFT液晶パネル
21 スイッチング電源IC
211 スイッチ駆動回路
212 センス電圧生成回路
213 センス電流生成回路
214 スロープ電流生成回路
215 スロープ電圧生成回路
216 出力帰還回路
CTRL スイッチング制御部
N1〜N6 Nチャネル電界効果トランジスタ
P1〜P6 Pチャネル電界効果トランジスタ
Rs センス抵抗
R1〜R3 抵抗
I1〜I2 定電流源
I3 可変電流源
C1 コンデンサ
ERR 誤差増幅器
E1 直流電圧源
CMP コンパレータ
T1〜T2 外部端子
Lex インダクタ(外付け)
Dex 整流ダイオード(外付け)
Cex 平滑コンデンサ(外付け)
Rex1〜Rex2 抵抗(外付け)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧の目標誤差に応じた誤差電圧とPWM制御用のスロープ電圧とを比較してPWM信号を生成し、該PWM信号に基づいて出力トランジスタのオン/オフ制御を行うことによりエネルギ貯蔵素子の一端を駆動することで、入力電圧から所望の出力電圧を生成するスイッチングレギュレータであって、前記出力トランジスタに流れるスイッチ電流に応じたセンス電流を生成するセンス電流生成手段を有して成り、前記スロープ電圧の電圧レベルは、前記センス電流に応じてオフセットされることを特徴とするスイッチングレギュレータ。
【請求項2】
出力トランジスタのオン/オフ制御によりエネルギ貯蔵素子の一端を駆動することで、入力電圧から所望の出力電圧を生成するスイッチングレギュレータであって、前記出力トランジスタに流れるスイッチ電流に応じたセンス電圧を生成するセンス抵抗と、前記センス電圧に応じたセンス電流を生成するセンス電流生成手段と、ランプ波形或いは三角波形のスロープ電流を生成するスロープ電流生成手段と、前記センス電流と前記スロープ電流との加算電流に応じたスロープ電圧を生成するスロープ電圧生成手段と、前記出力電圧に応じた帰還電圧と所定の目標設定電圧との差分を増幅して誤差電圧を生成する誤差電圧生成手段と、前記誤差電圧と前記スロープ電圧とを比較してPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、前記PWM信号に基づいて前記出力トランジスタのオン/オフ制御を行うスイッチング制御手段と、を有して成ることを特徴とするスイッチングレギュレータ。
【請求項3】
前記エネルギ貯蔵素子であるインダクタと、出力電流を整流またはスイッチングする整流素子と、出力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、を有して成ることを特徴とする請求項1に記載のスイッチングレギュレータ。
【請求項4】
前記センス電流生成手段は、前記センス電圧に応じた電流が流される第1抵抗と、該第1抵抗に流れる電流をミラーして前記センス電流を生成する第1カレントミラー回路と、を有して成り、前記スロープ電流生成手段は、ランプ波形或いは三角波形の発振電圧を生成する発振回路と、前記発振電圧に応じた電流が流される第2抵抗と、該第2抵抗に流れる電流をミラーして前記スロープ電流を生成する第2カレントミラー回路と、を有して成り、前記スロープ電圧生成手段は、前記センス電流とスロープ電流との加算電流が流されてその一端から前記スロープ電圧が引き出される第3抵抗を有して成ることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のスイッチングレギュレータ。
【請求項5】
前記センス抵抗の抵抗値は、所定の温度係数をもって変動するものであり、第1〜第3抵抗の少なくとも一は、上記の温度係数を相殺する温度係数をもってその抵抗値が変動するように調整されていることを特徴とする請求項4に記載のスイッチングレギュレータ。
【請求項6】
装置電源であるバッテリと、前記バッテリの出力変換手段と、を有して成る電子機器であって、前記出力変換手段として、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のスイッチングレギュレータを備えて成ることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−311634(P2006−311634A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127774(P2005−127774)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】