説明

スタビライザバーの保持構造

【課題】下部ハウジングを板材のプレス成型で形成しても、極めて単純な形状のプレートの追加により、下部ハウジングの折曲部の曲率半径を比較的大きくすることができる。
【解決手段】車幅方向に延びるバー本体16aの両端に一対のアームを車両の進行方向に延びて設け、これらのアームの先端をシャシフレームに枢着する。基端が車軸に固定された上部ハウジング33の先端がバー本体を第1ブッシュ31を介して回動可能に受け、上部ハウジングに取付けられる下部ハウジング34がバー本体を第2ブッシュ32を介して回動可能に押える。下部ハウジングは、第2ブッシュの外周面に面接触するように湾曲する下部ハウジング本体34aと、上部ハウジングに取付けられるフランジ部34bとを有する。下部ハウジング本体及びフランジ部を板材のプレス成型により一体的に形成し、フランジ部と上部ハウジングとの間にプレート36を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のローリングを抑制して車両の走行安定性を向上させるスタビライザバーを保持する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二分割された上部ハウジング及び下部ハウジングにより半割のラバーブッシュを介してスタビライザを挟持するようにした軸保持構造が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この軸保持構造では、各ラバーブッシュのアウタプレートの周方向端部に、その軸方向中央付近の限定的な範囲で半径方向外側へ張り出す回り止め用掛止爪が形成される。また上部ハウジング及び下部ハウジングのスタビライザを挟んで突き合う当接面の相互間に、各掛止爪を収容して周方向への回転を掛止させる掛止空間が各掛止爪に対応した限定的な範囲にのみ形成される。
【0003】
このように構成された軸保持構造では、掛止空間がスタビライザバーの軸心方向から見て比較的大きな隙間として開口してしまうことを回避できるので、路面からの異物侵入によるラバーブッシュの耐久性の低下を抑制できる。また二分割された上部ハウジング及び下部ハウジング相互を締結する際に、各掛止爪及び掛止空間を避けた位置で、これらとの干渉することなくスタビライザバー寄りに締結箇所を極力近接させて締結できるので、各ハウジングをコンパクト化して大幅な軽量化を図ることができるとともに、スタビライザバーを間に挟んだ締結ピッチを縮小化することで強度信頼性の向上を図ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−341326号公報(請求項1及び2、段落[0026]及び[0027])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示された軸保持構造では、上部ハウジング及び下部ハウジングが鋳鉄等の鋳物で形成されているため、小さな掛止空間を容易に成型できるけれども、下部ハウジングを圧延鋼板等の板材のプレス成型により形成すると、下部ハウジングの折曲部における曲率半径を小さくしようとしても成型上の限界があり、所定の小さな曲率半径を有する折曲部を下部ハウジングに形成できない不具合があった。このため、下部ハウジングの折曲部に小さな掛止空間を形成しようとしても、上記成型上の限界により所定の形状の小さな掛止空間を形成できない問題点があった。
【0006】
本発明の第1の目的は、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成しても、極めて単純な形状のプレートの追加により、下部ハウジングの折曲部の曲率半径を比較的大きくすることができる、スタビライザバーの保持構造を提供することにある。本発明の第2の目的は、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成しても、プレートに比較的単純な形状の下側凹部を形成することにより、下側回り止め用掛止爪を収容するための所定の形状の小さな下側掛止空間を形成することができる、スタビライザバーの保持構造を提供することにある。本発明の第3の目的は、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成しても、下部ハウジングにリブを設けることにより、下部ハウジングの機械的強度を十分に確保できる、スタビライザバーの保持構造を提供することにある。本発明の第4の目的は、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成することにより、従来の鋳物製の下部ハウジングと比べて、下部ハウジングの重量を軽減できるとともに、下部ハウジングの生産性を向上できる、スタビライザバーの保持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、図1及び図6に示すように、車幅方向に延びて設けられたバー本体16aと基端がバー本体16aの両端に接続され車両の進行方向に延び先端がシャシフレーム11又は車軸にそれぞれ枢着された一対のアーム16b,16bとを有するスタビライザバー16と、基端が車軸13又はシャシフレームに固定され先端がバー本体16aを半割の第1ブッシュ31を介して回動可能に受ける上部ハウジング33と、上部ハウジング33に取付けられバー本体16aを半割の第2ブッシュ32を介して回動可能に押える下部ハウジング34とを備えたスタビライザバーの保持構造において、下部ハウジング34が、第2ブッシュ32の外周面に面接触するように湾曲する下部ハウジング本体34aと、上部ハウジング33に取付けられるフランジ部34bとを有し、下部ハウジング本体34a及びフランジ部34bが板材をプレス成型することにより一体的に形成され、フランジ部34bと上部ハウジング33との間にプレート36が介装されることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に図1に示すように、第2ブッシュ32のうちバー本体16aの長手方向に延びる外側縁にこの外側縁に沿って延びる下側回り止め用掛止爪32bが設けられ、プレート36に下側回り止め用掛止爪32bを収容可能な下側掛止空間38となる下側凹部36aがバー本体16aの長手方向に延びて設けられたことを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に図1、図4及び図5に示すように、下部ハウジング本体34aの外周面からフランジ部34bにわたって延びるリブ34cが設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の観点の保持構造では、フランジ部と上部ハウジングとの間に極めて単純な形状のプレートを介装することにより、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成しても、接続部である下部ハウジングの折曲部、即ち下部ハウジング本体及びフランジ部の接続部の曲率半径を比較的大きくすることができる。この結果、従来、高価な鋳物で形成されていた下部ハウジングを、プレートを追加するだけで安価な板材のプレス成型により形成することが可能となる。
【0011】
本発明の第2の観点の保持構造では、プレートに下側回り止め用掛止爪を収容可能な下側掛止空間となる下側凹部を設けたので、下部ハウジングに下側凹部を設ける必要がない。この結果、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成しても、プレートに比較的単純な形状の下側凹部を形成することにより、下側回り止め用掛止爪を収容するための所定の形状の小さな下側掛止空間を形成することができる。
【0012】
本発明の第3の観点の保持構造では、下部ハウジング本体の外周面からフランジ部にわたって延びるリブを設けたので、下部ハウジングを板材のプレス成型により形成しても、下部ハウジングの機械的強度を十分に確保できる。また下部ハウジングを板材のプレス成型により形成することにより、従来の鋳物製の下部ハウジングと比べて、下部ハウジングの重量を軽減できるとともに、下部ハウジングの生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明実施形態のスタビライザバーの保持構造を示す図3のA−A線断面図である。
【図2】図3のB−B線断面図である。
【図3】そのスタビライザバーを上部ハウジング及び下部ハウジングにより挟持した状態を斜め上方から見た要部破断斜視図である。
【図4】下部ハウジングとプレートを組合せて裏返した状態を示す斜視図である。
【図5】そのスタビライザバーを上部ハウジング及び下部ハウジングにより挟持した状態を斜め下方から見た要部破断斜視図である。
【図6】そのスタビライザバーを含む車両の懸架装置を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図6に示すように、車両のシャシフレーム11と車輪との間には懸架装置12が介装される。車両の前部を支える懸架装置12は、車幅方向に延びて設けられ両端に一対のナックルアームを介して一対の前輪が取付けられた前車軸13と、前車軸13とシャシフレーム11との間に介装され路面から受ける衝撃を緩和する一対のリーフスプリング14と、前車軸13とシャシフレーム11との間に介装され車両のローリングを抑制するスタビライザバー16とを備える。シャシフレーム11は車両の進行方向に延びる一対のサイドメンバ11a,11aを有し、これらのサイドメンバ11a,11aの前部には、前後方向に所定の間隔をあけて前側ブラケット17及び後側ブラケット18がそれぞれ固着される。リーフスプリング14の前端は前側ピン19を介して前側ブラケット17に枢着され、後端は後側ロアピン21、シャックル22及び後側アッパピン23を介して後側ブラケット18に枢着される。また前車軸13は一対のリーフスプリング14,14より下方に位置し、一対のリーフスプリング14,14はその長手方向の略中央が前車軸13の上面に載った状態で前車軸13に固定される。
【0015】
一方、スタビライザバー16は、車幅方向に延びて設けられたバー本体16aと、基端がバー本体16aの両端に接続された一対のアーム16b,16bとを有する(図6)。アーム16bはバー本体16aから車両前方に延びて設けられる。アーム16bの先端に対向するサイドメンバ11a下部にはアーム用ブラケット24が取付けられ、アーム16bの先端はアーム用ロアピン26、ロッド26及びアーム用アッパピン28を介してアーム用ブラケット24に枢着される。バー本体16aと一対のアーム16b,16bとは一定の外径を有する丸鋼を折曲げることにより一体的に形成される(図5及び図6)。またバー本体16aは、第1及び第2ブッシュ31,32を介して上部ハウジング33及び下部ハウジング34により回動可能に挟持される(図1〜図3)。即ち、上部ハウジング33はバー本体16aを半割の第1ブッシュ31を介して回動可能に受けるように構成され、下部ハウジング34はバー本体16aを半割の第2ブッシュ32を介して回動可能に押えるように構成される。上部ハウジング33は、下面に半割の第1ブッシュ31を収容可能な半円状の軸収容部33dが形成された受け部33aと、この受け部33aから上方に延びて設けられた連結部33bと、連結部33bの上端に設けられ前車軸13及びリーフスプリング14間に挿着された挿着部33cとを有する(図1〜図3及び図6)。受け部33a、連結部33b及び挿着部33cは鋳鉄等の鋳物により一体的に形成される。また受け部33aの下面のうち軸収容部33dを挟んだ両側の平面部33e,33eには一対のねじ孔33f,33fが形成される(図1)。
【0016】
一方、下部ハウジング34は、第2ブッシュ32の外周面に面接触するように湾曲する下部ハウジング本体34aと、上部ハウジング33に取付けられる一対のフランジ部34bとを有する(図1〜図6)。下部ハウジング34の外面には、下部ハウジング本体34aの外周面からフランジ部34bにわたって延びる複数のリブ34cが設けられる(図1及び図3〜図5)。下部ハウジング本体34a、フランジ部34b及びリブ34cは鋼板等の板材をプレス成型することにより一体的に形成される。また下部ハウジング34のフランジ部34bと上部ハウジング33の平面部33eとの間にはプレート36が介装される。
【0017】
第1及び第2ブッシュ31,32はウレタンゴムやナイロン樹脂等の振動を吸収する弾性及び耐摩耗性を有する材料により形成された一対の半円筒片からなり、これらの半円筒片を互いに対向させることによりバー本体16aの外径より僅かに大きい一定の内径を有する挿通孔35が形成される(図1〜図3)。一対の半円筒片によりバー本体16aを挟持した状態で、上部ハウジング33及び下部ハウジング34が第1及び第2ブッシュ31,32を保持するようになっている。また第1及び第2ブッシュ31,32の両端面には、第1及び第2ブッシュ31,32が上部ハウジング33及び下部ハウジング34から外れるのを防止するための第1及び第2鍔部31a,32aが第1及び第2ブッシュ31,32と一体的にそれぞれ形成される(図2及び図5)。更に第1ブッシュ31のうちバー本体16aの長手方向に延びる両側縁の一方には、この一方の側縁に沿って延びる単一の上側回り止め用掛止爪31bが設けられ、第2ブッシュ32のうちバー本体16aの長手方向に延びる両外側縁の一方には、この一方の外側縁に沿って延びる単一の下側回り止め用掛止爪32bが設けられる(図1及び図3)。上部ハウジング33の軸収容部33dの側縁には上側回り止め用掛止爪31bを収容可能な上側掛止空間37となる上側凹部33gがバー本体16aの長手方向に延びて設けられ、プレート36には下側回り止め用掛止爪32bを収容可能な下側掛止空間38となる下側凹部36aがバー本体16aの長手方向に延びて設けられる。
【0018】
なお、この実施の形態では、上側凹部33gが上部ハウジング33の軸収容部33dの両側縁に設けられる(図1及び図3)。これは、第1ブッシュ31の上側回り止め用掛止爪31bをいずれの上側凹部33gにも収容可能とすることにより、第1ブッシュ31の組付作業性を向上するためである。また下側凹部36aをプレート36の両側縁に設けられる。これは、プレート36を左右対称に形成することにより、プレート36の組付作業性を向上するためである。更にプレート36の下側凹部36aは所定の長さに切断したフラットバーの両側縁を機械加工により形成してもよく、或いは下側凹部36aを有するように押出し成型又は引抜き成型されたフラットバーを所定の長さに切断することにより形成してもよい。
【0019】
一方、図1及び図4の符号34dはフランジ部34bのうち上部ハウジング33のねじ孔33fに対向する位置に形成された通孔であり、図1中の符号36bはプレート36のうち上記通孔34dに対向して形成された透孔である。また、図1、図3及び図5中の符号39は通孔34d及び透孔36bに挿通されねじ孔33fに螺合される埋込みボルトであり、符号41は埋込みボルト39に螺合されるナットである。更に、図6中の符号42はサイドメンバ11a及び上部ハウジング33間に介装されリーフスプリング14の自由振動を抑制するショックアブソーバである。
【0020】
このように構成されたスタビライザバー16の保持構造では、下部ハウジング34のフランジ部34bと上部ハウジング33の平面部33eとの間に極めて単純な形状のプレート36を介装することにより、下部ハウジング34を板材のプレス成型により形成しても、下部ハウジング本体34aとフランジ部34bとの接続部の曲率半径R(図3)を比較的大きくすることができる。この結果、プレート36を追加するだけで、下部ハウジング34を安価な板材のプレス成型により形成することができる。またプレート36に下側回り止め用掛止爪32bを収容可能な下部掛止空間38となる下側凹部36aを設けたので、下部ハウジング34に下側凹部を設ける必要がない。この結果、下部ハウジング34を板材のプレス成型により形成しても、プレート36に比較的単純な形状の下側凹部36aを形成することにより、下側回り止め用掛止爪32bを収容するための所定の形状の小さな下側掛止空間38を形成することができる。更に下部ハウジング本体34aの外周面からフランジ部34bにわたって延びるリブ34cを設けたので、下部ハウジング34を板材のプレス成型により形成しても、下部ハウジング34の機械的強度を十分に確保できる。
【0021】
なお、上記実施の形態では、前車軸とシャシフレームとの間にスタビライザバーを介装したが、後車軸とシャシフレームとの間にスタビライザバーを介装してもよい。また、上記実施の形態では、スタビライザバーのアームの先端をシャシフレームに枢着し、上部ハウジングの基端を前車軸に固定したが、スタビライザバーのアームの先端を前車軸に枢着し、上部ハウジングの基端をシャシフレームに固定してもよい。
【符号の説明】
【0022】
11 シャシフレーム
13 前車軸(車軸)
16 スタビライザバー
16a バー本体
16b アーム
31 第1ブッシュ
32 第2ブッシュ
32b 下側回り止め用掛止爪
33 上部ハウジング
34 下部ハウジング
34a 下部ハウジング本体
34b フランジ部
34c リブ
36 プレート
36a 下側凹部
38 下側掛止空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びて設けられたバー本体(16a)と基端が前記バー本体(16a)の両端に接続され車両の進行方向に延び先端がシャシフレーム(11)又は車軸(13)にそれぞれ枢着された一対のアーム(16b,16b)とを有するスタビライザバー(16)と、基端が車軸(13)又はシャシフレーム(11)に固定され先端が前記バー本体(16a)を半割の第1ブッシュ(31)を介して回動可能に受ける上部ハウジング(33)と、前記上部ハウジング(33)に取付けられ前記バー本体(16a)を半割の第2ブッシュ(32)を介して回動可能に押える下部ハウジング(34)とを備えたスタビライザバーの保持構造において、
前記下部ハウジング(34)が、前記第2ブッシュ(32)の外周面に面接触するように湾曲する下部ハウジング本体(34a)と、前記上部ハウジング(33)に取付けられるフランジ部(34b)とを有し、
前記下部ハウジング本体(34a)及び前記フランジ部(34b)が板材をプレス成型することにより一体的に形成され、
前記フランジ部(34b)と前記上部ハウジング(33)との間にプレート(36)が介装される
ことを特徴とするスタビライザバーの保持構造。
【請求項2】
前記第2ブッシュ(32)のうち前記バー本体(16a)の長手方向に延びる外側縁にこの外側縁に沿って延びる下側回り止め用掛止爪(32b)が設けられ、前記プレート(36)に前記下側回り止め用掛止爪(32b)を収容可能な下側掛止空間(38)となる下側凹部(36a)が前記バー本体(16a)の長手方向に延びて設けられた請求項1記載のスタビライザバーの保持構造。
【請求項3】
前記下部ハウジング本体(34a)の外周面から前記フランジ部(34b)にわたって延びるリブ(34c)が設けられた請求項1記載のスタビライザバーの保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−189780(P2011−189780A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55411(P2010−55411)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】