説明

ステアバイワイヤ式操舵装置

【課題】 転舵モータ失陥時にも転舵可能なフェールセーフ機能を有し、かつトー角の調整が可能なステアバイワイヤ式操舵装置を提供する。
【解決手段】 操舵軸10と機械的に連結されないステアリングホイール1と、その操舵角を検出する操舵角センサ2と、ステアリングホイール1に反力トルクを与える操舵反力モータ4と、2つの転舵モータ6A,6Bと操舵反力モータ4を制御するステアリング制御部5aとを備える。転舵モータ6Aの出力を操舵軸10に伝達する出力伝達機構15と、他の転舵モータ6Bの出力を操舵軸10に伝達する出力伝達機構16とを設け、転舵を行う。両転舵モータ6A,6Bの出力軸を滑りねじ機構24を介して結合する。両転舵操モータの一方が失陥したとき、他方の出力を滑りねじ機構24を介して失陥した転舵モータに対応する出力伝達機構15(16)に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールで操舵を行うようにしたステアバイワイヤ式操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアバイワイヤ式操舵装置において、操舵輪を転舵する転舵モータが失陥しても、補助モータによって操舵輪を転舵するように構成したものが提案されている(特許文献1)。
また、前輪系統または後輪系統における左右輪を独立に転舵するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、異常時に前記左右輪のそれぞれをトーインあるいはトーアウト状態に制御して制動力を得る方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−349845号公報
【特許文献2】特開2005−263182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術は、転舵モータの失陥時に補助モータを作動させるフェールセーフ機能を持たせたものであるが、転舵モータが正常である場合、補助モータは一切機能しておらず不経済である。
また、特許文献2に開示の技術は、各輪を独立に転舵する方法であるが、異常が生じた車輪は制御不能になるため、正常に転舵して危険回避する動作が取れないという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、トー角の調整が可能で、かつ転舵モータの失陥時にも転舵可能なフェールセーフ機能を持つステアバイワイヤ式操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵用の操舵軸に機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、前記操舵軸を駆動する転舵モータと、前記操舵反力モータおよび前記転舵モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記転舵モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、次の構成としたことを特徴とする。
すなわち、前記操舵軸が左右の車輪の転舵用の2つの分割操舵軸に分割され、これら2つの分割操舵軸を、それぞれ左右の出力伝達機構を介し独立して駆動する2つの転舵モータを設け、両転舵モータの出力軸を、一対のねじ軸部と滑りねじナットとでなり各ねじ軸部の独立した回転を許容すると共にいずれか片方のねじ軸部のみを回転させたときはその回転をもう片方のねじ軸部に伝達する機能を有する滑りねじ機構により結合する。
この滑りねじ機構は、前記両転舵モータのうちのいずれか一方の転舵モータが失陥した状態で、他方の転舵モータを回転駆動させることにより、この回転駆動側の転舵モータの出力軸の回転を失陥側の転舵モータの出力軸に伝達可能とする。
【0007】
この構成によると、左右の車輪用の2つの分割操舵軸を、それぞれ左右の出力伝達機構を介して独立して駆動する2つの転舵モータを設けたため、左右独立に転舵角を制御することができて、トー角の調整が可能となる。また、両転舵モータの出力軸を、両転舵モータの出力軸を、ねじ軸部と滑りねじナットとでなり各ねじ軸部の独立した回転を許容すると共にいずれか片方のねじ軸部のみを回転させたときはその回転をもう片方のねじ軸部に伝達する機能を有する滑りねじ機構により結合し、両転舵モータのうちのいずれか一方の転舵モータが失陥した状態で、他方の転舵モータを回転駆動させることにより、この回転駆動側の転舵モータの出力軸の回転を失陥側の転舵モータの出力軸に伝達可能としたため、一方の転舵モータが失陥した際に、他方の転舵モータのみで転舵可能となるフェイルセーフ機能が得られる。なお、前記滑りねじ機構は、各ねじ軸部の独立した回転を許容する機能を有するため、左右独立に転舵角を制御してトー角を調整する動作の妨げとならない。
【0008】
前記機能を持つ滑りねじ機構は、例えば、次の逆ねじを有する滑りねじ機構で実現できる。具体的には、前記滑りねじ機構は、両出力軸に設けられた互いに逆ねじの一対のねじ軸部と、両ねじ軸部にそれぞれ螺合する互いに逆ねじの一対のねじ溝部を有する滑りねじナットとでなるものとするのが良い。前記各ねじ軸部は、前記出力軸の一部として設けられたものであっても、出力軸に対して結合された軸であっても良い。
このような互いに逆ねじとなるねじ溝を有する滑りねじナットを設けることで、ねじ軸部に対する滑りねじナットの軸方向移動が許容され、そのため両ねじ軸部の独立した回転が可能となる。また、滑りねじナットの逆伝達効率の低い特性、つまり滑りねじナットの軸方向移動をねじ軸部の回転に変換して伝える効率の低い特性のために、片方のねじ軸部のみを回転させたときは、滑りねじナットが移動せずにもう片方のねじ軸部に回転を伝達することになる。そのため、両転舵モータのうちのいずれか一方の転舵モータが失陥した状態で、他方の転舵モータを回転駆動させることにより、この回転駆動側の転舵モータの出力軸の回転を失陥側の転舵モータの出力軸に伝達可能となる。
【0009】
この発明において、前記各分割操舵軸はそれぞれ一部にボールねじ軸部を有し、前記両出力伝達機構は、それぞれ、前記各分割操舵軸のボールねじ軸部に螺合するボールナットを有していて、前記転舵モータの回転により前記ボールナットを回転させて前記分割操舵軸を軸方向に進退させるものであり、前記両転舵モータの回転より、両分割操舵軸を軸方向に移動させて転舵およびトー角調整を可能としても良い。
【0010】
この発明において、前記左右の出力伝達機構は、前記両転舵モータを互いに同方向に回転させることで、前記両分割操舵軸を互いに同方向に移動させるものとしても良い。また、両転舵モータを互いに同方向に同回転角度だけ回転させることで、前記両分割操舵軸を互いに同方向に同量だけ移動させるものとしても良い。これにより、トー角を維持したままでの転舵が可能になる。
【0011】
この発明において、前記左右の出力伝達機構は、前記両転舵モータを互いに逆方向に回転させることで、前記両分割操舵軸を互いに逆方向に移動させるものとしても良い。また両転舵モータを互いに逆方向に同回転角度だけ回転させることで、前記両分割操舵軸を互いに逆方向に同量だけ移動させるものとしても良い。これによりトー角調整が可能となる。
【0012】
この発明において、前記滑りねじ機構は、前記両転舵モータを互いに同方向に同じ角速度で回転させると、前記滑りねじナットが転舵モータの出力軸と一体となって同じ角速度で回転するものとしても良い。これによりトー角を維持したままでの転舵が可能になる。前記滑りねじ機構が、前記一対の逆ねじを有する構成のものである場合は、このような、両転舵モータを互いに同方向に同じ角速度で回転させると、前記滑りねじナットが転舵モータの出力軸と一体となって同じ角速度で回転する作用が生じる。
【0013】
この発明において、前記滑りねじ機構は、前記両転舵モータを互いに逆方向に同じ角速度で回転させると前記滑りねじナットが左右に移動するものとしても良い。これによりトー角調整が可能となる。前記滑りねじ機構が、前記一対の逆ねじを有する構成のものである場合は、このような、両転舵モータを互いに逆方向に同じ角速度で回転させると前記滑りねじナットが左右に移動する作用が生じる。
【0014】
この発明において、前記滑りねじ機構は、前記両転舵モータのうちの片方のみを回転させると、滑りねじナットの逆伝達効率が低いことで、前記片方の回転をもう片方の転舵モータの出力軸に伝達するものとしても良い。上記逆伝達効率は、滑りねじナットの軸方向移動をねじ軸部の回転に変換して伝える効率を言う。
【0015】
この発明において、前記両転舵モータは、モータロータと前記出力軸との間に、出力軸からモータロータへの回転伝達を遮断する逆入力遮断クラッチ機構を有するものとしても良い。前記逆入力遮断クラッチ機構が設けられていると、失陥した転舵モータのロータが固着する故障が生じた際にも、もう片方の転舵モータから前記滑りねじ機構で伝達される回転による出力軸の回転が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵用の操舵軸に機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、前記操舵軸を駆動する転舵モータと、前記操舵反力モータおよび前記転舵モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記転舵モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、前記操舵軸が左右の車輪の転舵用の2つの分割操舵軸に分割され、これら2つの分割操舵軸を、それぞれ左右の出力伝達機構を介し独立して駆動する2つの転舵モータを設け、両転舵モータの出力軸を、ねじ軸と滑りねじナットとでなり各ねじ軸の独立した回転を許容すると共にいずれか片方のねじ軸のみを回転させたときはその回転をもう片方のねじ軸に伝達する機能を有する滑りねじ機構により結合し、この滑りねじ機構は、前記両転舵モータのうちのいずれか一方の転舵モータが失陥した状態で、他方の転舵モータを回転駆動させることにより、この回転駆動側の転舵モータの出力軸の回転を失陥側の転舵モータの出力軸に伝達可能としたため、トー角の調整が可能で、かつ転舵モータの失陥時にも他方の転舵モータのみで転舵可能なフェールセーフ機能を備えるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同ステアバイワイヤ式操舵装置における操舵軸駆動部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このステアバイワイヤ式操舵装置は、図1に概略図で示すように、運転者が操舵するステアリングホイール1と、操舵角センサ2と、操舵トルクセンサ3と、操舵反力モータ4と、左右の車輪13にナックルアーム12およびタイロッド11を介して連結された転舵用の軸方向移動自在な操舵軸10と、この操舵軸10を駆動する操舵軸駆動部14と、転舵角センサ8と、ステアリング制御部5aを含むECU(電気制御ユニット)5とを備える。ECU5およびそのステアリング制御部5aは、マイクロコンピュータおよびその制御プログラムを含む電子回路等により構成される。
【0019】
ステアリングホイール1は、転舵用の操舵軸10と機械的に連結されていない。ステアリングホイール1に対して、操舵角センサ2および操舵トルクセンサ3が設けられ、操舵反力モータ4が接続されている。操舵角センサ2は、ステアリングホイール1の操舵角を検出するセンサである。操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に作用する操舵トルクを検出するセンサである。操舵反力モータ4は、ステアリングホイール1に反力トルクを付与するモータである。
【0020】
ECU5のステアリング制御部5aは、操舵反力モータ4および転舵モータ6A,6Bを制御する。すなわち、ステアリング制御部5aは、操舵角センサ2の検出する操舵角の信号、図示しない車速センサの検出する車輪回転速度の信号、および運転状態を検出する各種センサの信号に基づいて目標操舵反力を設定し、実際の操舵反力トルクが目標操舵反力に一致するように操舵トルクセンサ3の検出する操舵トルクの信号をフィードバックして、操舵反力モータ4を制御する。また、ステアリング制御部5aは、上記したように、両転舵モータ6A,6Bの回転方向を選択設定して車輪13の転舵とトー角調整を選択的に行なわせる。
【0021】
図2は、操舵軸10を駆動する操舵軸駆動部14の詳細を断面図で示す。この操舵軸駆動部14は、左右2つの転舵モータ6A,6Bと、左右2つの出力伝達機構15,16と、1つの滑りねじ機構24とを備える。各出力伝達機構15,16は減速機を構成する。前記操舵軸10は左右の分割操舵軸10A,10Bに2分割されている。これら各分割操舵軸10A,10Bの一部には、各ボールねじ25A,25Bのボールねじ軸部10Aa,10Baがそれぞれ形成されている。2つの転舵モータ6A,6Bは、それらの出力軸6Aa,6Baが前記操舵軸10と平行となり同軸上で互いに対向する姿勢で、操舵軸駆動部14のハウジング30に設置される。
【0022】
2つの出力伝達機構15,16のうち第1の出力伝達機構15は、前記両転舵モータ6A,6Bのうち一方の転舵モータ6Aの出力を、前記両分割操舵軸10A,10Bのうち一方の分割操舵軸10Aに伝達する機構である。2つの出力伝達機構15,16のうち第2の出力伝達機構16は、前記両転舵モータ6A,6Bのうち他方の転舵モータ6Bの出力を、前記両分割操舵軸10A,10Bのうち他方の分割操舵軸10Bに伝達する機構である。
【0023】
第1の出力伝達機構15は、一方の分割操舵軸10Aのボールねじ軸部10Aaと、このボールねじ軸部10Aaにボール(図示せず)を介して螺合するボールナット18Aと、一方の転舵モータ6Aの出力軸6Aaに設けられた出力ギヤ19Aと、前記ボールナット18Aの外径面に固定され前記出力ギヤ19Aに噛み合う入力ギヤ20Aとでなる。第2の出力伝達機構16は、他方の分割操舵軸10Bのボールねじ軸部10Baと、このボールねじ軸部10Baにボール(図示せず)を介して螺合するボールナット18Bと、他方の転舵モータ6Bの出力軸6Baに設けられた出力ギヤ19Bと、前記ボールナット18Bの外径面に固定され前記出力ギヤ19Bに噛み合う入力ギヤ20Bとでなる。前記両ボールナット18A,18Bは、それぞれ軸受21A,21Bを介して前記ハウジング30に支持されている。
【0024】
一方の転舵モータ6Aの出力軸6Aaの回転は、第1の出力伝達機構15の出力ギヤ19Aおよび入力ギヤ20Aを経てボールナット18Aに伝達され、これにより一方の分割操舵軸10Aが軸方向に移動する。他方の転舵モータ6Bの出力軸6Baの回転は、第2の出力伝達機構16の出力ギヤ19Bおよび入力ギヤ20Bを経てボールナット18Bに伝達され、これにより他方の分割操舵軸10Bが軸方向に移動する。両転舵モータ6A,6Bを同方向に回転させた場合、両分割操舵軸10A,10Bは互いに同方向に同量移動して、車輪13の転舵が行なわれる。また、両転舵モータ6A,6Bを互いに逆方向に回転させた場合、両分割操舵軸10A,10Bは互いに逆方向に同量移動して、車輪13のトー角調整が行なわれる。両転舵モータ6A,6Bの回転方向を含めた駆動制御は、前記ECU5のステアリング制御部5aで行なわれる。ステアリング制御部5aは、両転舵モータ6A,6Bを独立制御可能なものである。
【0025】
前記両転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baは、滑りねじ機構24を介して互いに結合されている。滑りねじ機構24は、一方の転舵モータ6Aの出力軸6Aaに形成されたねじ軸部22Aと、他方の転舵モータ6Bの出力軸6Baに形成されたねじ軸部22Bと、両ねじ軸部22A,22Bが滑り接触して螺合する滑りねじナット17とで構成される。前記両ねじ軸部22A,22Bはそのねじ溝が互いに逆ねじとされ、これらねじ軸部22A,22Bが螺合する滑りねじナット17の左右一対のねじ孔17a,17bは、各ねじ軸部22A,22Bに対応して互いにねじ溝が逆溝とされている。両ねじ孔17a,17bは、同一軸心上にあり、そのねじ溝のリードは互いに同じとされている。
【0026】
前記両転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baには、それぞれ出力軸6Aa,6Baからモータロータ(図示せず)への回転伝達を遮断する逆入力遮断クラッチ機構23A,23Bが設けられている。
【0027】
上記構成の作用を説明する。滑りねじ機構24は、互いに逆ねじが切られた左右一対のねじ孔17a,17bに、左右の出力軸6Aa,6Baのねじ軸部22A,22Bが滑り接触により螺合しているため、次の動作を行う。両ねじ軸部22A,22Bを互いに同方向に同じ角速度で回転させると、両ねじ軸部22A,22Bは滑りねじナット17と一体となって同じ角速度で回転する。両ねじ軸部22A,22Bを逆方向に同じ角速度で回転させると、滑りねじナット17は左右に移動する。
いずれか片方のねじ軸部22A,22Bのみを回転させると、滑りねじ機構24は逆伝達効率が低いため、すなわち滑りねじナット17の軸方向移動をねじ軸部22A,22Bの回転に変換して伝える効率が低いため、滑りねじナット17がモータ停止側のねじ軸部22A,22Bに対して軸方向移動できずに、回転側のねじ軸部22A,22Bと一体に回転し、滑りねじナット17を介してモータ低下側のねじ軸部22A,22Bに回転を伝達する。
【0028】
このような作用を奏する滑りねじ機構24を用いて両転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baを結合し、また各転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baの回転を独立して各分割操舵軸10A,10Bに伝達する左右の出力伝達機構15,16を設けたため、転舵モータ6A,6Bの動作によって次の作用が得られる。
【0029】
左右の転舵モータ6A,6Bは独立して制御可能であり、左右の転舵モータ6A,6Bを同方向に同角速度で回転させた場合は、出力伝達機構15,16を介して分割操舵軸10A,10Bは互いに同方向に同量だけ移動する。これにより、操舵軸10の全体が左右に移動することになって、転舵が行われる。このとき、左右の転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baは、滑りねじ機構24で結合されているが、滑りねじ機構24は、上記のように、両ねじ軸部22A,22Bが滑りねじナット17と一体となって同じ角速度で回転する。そのため、滑りねじ機構24が両出力軸6Aa,6Baの回転の障害とならず、転舵の障害とならない。
【0030】
左右の転舵モータ6A,6Bを逆方向に回転させた場合は、出力伝達機構15,16を介して分割操舵軸10A,10Bは互いに逆方向に移動する。そのため、操舵軸10の全長が変化することになって、トー角を調整することができる。このとき、左右の転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baは、滑りねじ機構24で結合されているが、滑りねじ機構24は、上記のように、両ねじ軸部22A,22Bを逆方向に回転させることで、滑りねじナット17が左右に移動する。そのため、滑りねじ機構24が両出力軸6Aa,6Baの逆方向回転の障害とならず、トー角調整の障害とならない。
【0031】
左右の転舵モータ6A,6Bのうちのいずれか片方の転舵モータ6A,6Bの失陥した際には、もう片方の転舵モータ6A,6Bのみが回転する。このとき、上記作用を奏する滑りねじ機構24で結合されているため、回転側の転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baの回転が、失陥側の転舵モータ6A,6Bの出力軸6Aa,6Baに回転を伝達し、両輪とも転舵を行うことができる。また、逆入力遮断クラッチ機構23A,23Bの作用により、失陥した転舵モータ6A,6Bのロータが固着した際にも、その出力軸6Aa,6Baの回転が可能で、滑りねじ機構24を介して伝達される出力軸6Aa,6Baの回転を出力伝達機構15,16へ行えて転舵することが可能となる。
【0032】
なお、いずれか片方の転舵モータ6A,6Bが失陥したとき、1つの転舵モータ6A,6Bのみで転舵を行うが、モータ失陥時の一方の転舵モータ6A,6Bの他方の転舵モータ6A,6Bへの代替は、車両走行時に行う動作である。そのため、その最大発生トルクは、据え切り動作時に必要なトルクよりもはるかに小さなものである。したがって、2つの転舵モータ6A,6Bのそれぞれは、1つの転舵モータで転舵を行う構成とした場合の転舵モータよりも小型のもので良い。
【0033】
この構成のステアバイワイヤ式操舵装置によると、上記のように、逆伝達効率の低い滑りねじ機構24を用いたフェールセーフ機構により、いずれか片方の転舵モータ6A,6Bが失陥際にも、機械体または電気的切替えを必要とせずに、転舵が可能となる。また、トー角の調整も可能となる。
【0034】
なお、上記実施形態では、滑りねじ機構24として、図2の一対の逆ねじを有する構成のものを用いたが、滑りねじ機構24は、図2の構成のものに限らず、ねじ軸部と滑りねじナットとでなり各ねじ軸部の独立した回転を許容すると共にいずれか片方のねじ軸部のみを回転させたときはその回転をもう片方のねじ軸部に伝達する機能を有するものであれば良い。
【符号の説明】
【0035】
1…ステアリングホイール
2…操舵角センサ
4…操舵反力モータ
5…ECU
5a…ステアリング制御部
6A,6B…転舵モータ
6Aa,6Ba…転舵モータの出力軸
10…操舵軸
10A,10B…分割操舵軸
10Aa,10Ba…ボールねじ軸部
15…第1の出力伝達機構
16…第2の出力伝達機構
17…滑りねじナット
18A,18B…ボールナット
22A,22B…ねじ軸部
23A,23B…逆入力遮断クラッチ機構
24…滑りねじ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵用の操舵軸に機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、前記操舵軸を駆動する転舵モータと、前記操舵反力モータおよび前記転舵モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記転舵モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記操舵軸が左右の車輪の転舵用の2つの分割操舵軸に分割され、これら2つの分割操舵軸を、それぞれ左右の出力伝達機構を介し独立して駆動する2つの転舵モータを設け、 両転舵モータの出力軸を、一対のねじ軸部と滑りねじナットとでなり各ねじ軸部の独立した回転を許容すると共にいずれか片方のねじ軸部のみを回転させたときはその回転をもう片方のねじ軸部に伝達する機能を有する滑りねじ機構により結合し、
この滑りねじ機構は、前記両転舵モータのうちのいずれか一方の転舵モータが失陥した状態で、他方の転舵モータを回転駆動させることにより、この回転駆動側の転舵モータの出力軸の回転を失陥側の転舵モータの出力軸に伝達可能としたことを特徴とするステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記滑りねじ機構が、両出力軸に設けられた互いに逆ねじの一対のねじ軸部と、両ねじ軸部にそれぞれ螺合する互いに逆ねじの一対のねじ溝部を有する滑りねじナットとでなるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記各分割操舵軸はそれぞれ一部にボールねじ軸部を有し、前記両出力伝達機構は、それぞれ、前記各分割操舵軸のボールねじ軸部に螺合するボールナットを有していて、前記転舵モータの回転により前記ボールナットを回転させて前記分割操舵軸を軸方向に進退させるものであり、前記両転舵モータの回転より、両分割操舵軸を軸方向に移動させて転舵およびトー角調整を可能としたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記左右の出力伝達機構は、前記両転舵モータを互いに同方向に回転させることで、前記両分割操舵軸を互いに同方向に移動させるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記左右の出力伝達機構は、前記両転舵モータを互いに逆方向に回転させることで、前記両分割操舵軸を互いに逆方向に移動させるものとしたステアバイイヤ式操舵装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記滑りねじ機構は、前記両転舵モータを互いに同方向に同じ角速度で回転させると、前記滑りねじナットが転舵モータの出力軸と一体となって同じ角速度で回転するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記滑りねじ機構は、前記両転舵モータを互いに逆方向に同じ角速度で回転させると前記滑りねじナットが左右に移動するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記滑りねじ機構は、前記両転舵モータのうちの片方のみを回転させると、滑りねじナットの逆伝達効率が低いことで、前記片方の回転をもう片方の転舵モータの出力軸に伝達するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記両転舵モータは、モータロータと前記出力軸との間に、出力軸からモータロータへの回転伝達を遮断する逆入力遮断クラッチ機構を有するステアバイワイヤ式操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−214978(P2010−214978A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60430(P2009−60430)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】