ステータコア
【課題】ティースの形状に由来する磁束量の偏りを従来よりも軽減させる。
【解決手段】ステータコア10は、円筒形状のヨーク12と、ヨーク12の内周面に周方向に沿って配置され、回転電機のロータ11からの磁束を受けるティース14と、を備えている。ティース14は、ヨーク12の中心軸に垂直な断面形状が台形である台形ティース16と、先端部19が台形ティース16と同一形状であって、先端部19からヨーク12に至るまでの基部21が台形ティース16とは異なる形状である異形ティース18と、から構成される。
【解決手段】ステータコア10は、円筒形状のヨーク12と、ヨーク12の内周面に周方向に沿って配置され、回転電機のロータ11からの磁束を受けるティース14と、を備えている。ティース14は、ヨーク12の中心軸に垂直な断面形状が台形である台形ティース16と、先端部19が台形ティース16と同一形状であって、先端部19からヨーク12に至るまでの基部21が台形ティース16とは異なる形状である異形ティース18と、から構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ステータコアに関する。
【背景技術】
【0002】
モータやジェネレータなどの回転電機には回転磁界を発生させてロータ(回転子)を回転させるステータ(固定子)が設けられている。ステータは略円筒形状のステータコアとコイルとを含んで構成されており、ステータコアに設けられたティース(極歯)にコイルが組み付けられる。ティースはステータコアの内周面の周方向に沿って複数個設けられており、隣り合うティース同士の隙間はスロットと呼ばれる。このスロットにおけるコイル密度(スロット空間に占めるコイル体積の割合)の向上を図るために、従来から、例えば特許文献1に開示されているような台形ティースと呼ばれるティースが使用されている。台形ティースとは、図8に示すように、ステータコア110の中心軸Cに垂直な断面形状が台形であるティースであり、ステータコア110の中心軸Cに向かう方向に沿って幅が狭くなるように形成されている。
【0003】
台形ティース112には台形ティース112に沿った形状の台形コイル114が組み付けられる。ティースおよびコイルの断面形状を台形にすると、図9のようにティースおよびコイルの断面形状が長方形である場合に比べてスロット116におけるコイル密度が向上する。このことから、台形ティース112を使用する事で、従来の出力を維持したまま回転電機を小型化することが可能となる。
【0004】
ここで、図10に示すように、所定の台形ティース112に台形コイル122を組み付けるにあたり、両隣の台形ティース112に既に台形コイル114が組み付けられている場合、所定の台形ティース112に台形コイル122を組み付けることができない。そこで従来からコイルの組み付けを容易にするために、図11に示すようにステータコア110に台形ティース112の他に長方形ティース118を少なくとも一個配置している。図11に示されているように、両隣の台形ティース112に台形コイル114が組み付けられていても長方形ティース118に長方形コイル120を組み付けることができる。ティースにコイルを組み付ける際には長方形ティース118の隣の台形ティース112から台形コイル114を組み付け、以下ステータコア110の周方向に沿って順次台形ティース112に台形コイル114を順次組み付けていき、最後に長方形ティース118に長方形コイル120を組み付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−160939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ティースはロータ124に設けられた永久磁石126からの磁束を受ける。永久磁石126から生じた磁束がティースに流入する模式図を図12に示す。磁束は主にティースの頂面128からティース内に流入するが、一部は漏れ磁束130としてティースの側面132からティース内に流入する。これは永久磁石126からティースに向かう過程で磁束密度が増加して飽和し、ティースの頂面128から外れる磁束が生じるためである。
【0007】
この漏れ磁束130につき、ティースが台形ティース112である場合と長方形ティース118である場合とは磁束の強さが異なる。すなわち、ロータ124から台形ティース112の側面134(図12にて一点鎖線で示す)に至るまでの磁路と、ロータ124から長方形ティース118の側面132に至るまでの磁路とを比較すると、長方形ティース118の磁路の方がΔdで示す分、大気を通過する区間が長くなる。大気はティースの材料である金属よりも磁気抵抗が大きいことから、大気を通過する区間が長い分、磁束が弱められる。その結果、長方形ティース118に流入する総磁束量は、台形ティース112に流入する総磁束量よりも少なくなる。
【0008】
ティースの形状によって磁束量が異なるとロータ124に径方向の偏心力が発生する。これを図13を用いて説明する。図13で示す回転電機は三相の交流回転電機であり、V相に長方形ティース118が割り当てられている。各ロータ124の永久磁石126からV相のティースに磁束が流入する際、ティースの形状によって磁束量が異なると、長方形ティース118に生じる電磁力と長方形ティース118に対向する台形ティース112に生じる電磁力とが相殺されず、長方形ティース118に対向する方向に偏心力136が生じる。この偏心力136によりロータ124及びロータ124のシャフト138が長方形ティース118に対向する側に引っ張られる。これによりロータ124の回転が不安定になり、回転電機の騒音・振動特性(NV特性)が悪化してしまう。
【0009】
そこで本発明は、ティースの形状に由来する磁束量の偏りを従来よりも軽減させるステータコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は回転電機のステータコアに関するものである。ステータコアは、円筒形状のヨークと、ヨークの内周面に周方向に沿って配置され、回転電機のロータからの磁束を受けるティースと、を備えている。さらに、ティースは、ヨークの中心軸に垂直な断面形状が台形である台形ティースと、先端部が台形ティースと同一形状であって、先端部からヨークに至るまでの基部が台形ティースとは異なる形状である異形ティースと、から構成されている。
【0011】
また、上記発明において、ヨークの径方向に沿った長さについて、異形ティースの先端部の長さは、異形ティースの全長の15%以上30%以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ティースの形状に由来する磁束量の偏りを従来よりも軽減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るステータコアを例示する図である。
【図2】異形ティースと台形ティースとの形状を比較する図である。
【図3】本実施形態に係るステータコアの拡大図である。
【図4】本実施形態に係るステータコアの拡大図である。
【図5】本実施形態に係るステータコアにおける磁束の解析結果を例示する図である。
【図6】ロータに加わる偏心力を説明する図である。
【図7】本実施形態に係るステータコアを例示する図である。
【図8】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図9】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図10】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図11】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図12】ロータからステータへの磁束の流れを説明する図である。
【図13】ロータに加わる偏心力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本実施形態に係るステータコア10を例示する。ステータコア10は略円筒形状をしており、内周側にロータ(回転子)11が収容される。ステータコア10に後述するコイルを組み付けることでステータ(固定子)15が形成され、ステータ15から発生する回転磁界によってロータ11が回転する。ステータ15及びロータ11を備える回転電機は、例えば車両のモータまたはジェネレータとして使用される。なお、回転電機の種類としては、ロータ11に永久磁石13を備えた永久磁石モータであってもよく、ロータ11に永久磁石13を備えないリラクタンスモータであってもよい。
【0015】
ステータコア10は、円筒形状のヨーク(継鉄)12と、ヨーク12の内周面に周方向に沿って配置され、ヨーク12の中心軸Cに向かって延びる複数個のティース14とを備えている。ヨーク12とティース14とは一体に形成されており、例えば珪素鋼板の積層体から構成されている。
【0016】
ティース14は、台形ティース16と、台形ティース16とは形状の異なる異形ティース18から構成されている。台形ティース16はヨーク12の中心軸Cに垂直な断面形状が台形のティースであり、ヨーク12の中心に向かって幅が狭くなるように形成されている。また、隣り合う台形ティース16の側面同士はほぼ平行となるように形成されていることが好適である。
【0017】
異形ティース18は、台形ティース16と同一形状の先端部19と、先端部19とヨーク12との間に形成され、台形ティース16とは異なる形状の基部21とから構成されている。なお、「同一形状」とは、図2に示すように、台形ティース16の先端部17と異形ティース18の先端部19とが幾何学的に合同であることを指している。すなわち、台形ティース先端部17の頂面30と異形ティース先端部19の頂面32との形状及び面積が等しく、かつ、台形ティース先端部17の側面34と異形ティース先端部19の側面36の形状及び面積が等しく、さらに、台形ティース先端部17の頂面30と各側面34との成す角(テーパ角)と、異形ティース先端部19の頂面32と各側面36との成す角とが同一であり、これらの条件により、台形ティース先端部17と異形ティース先端部19の立体形状及び体積が相等しいことを指している。また、「同一」とは、台形ティース16および異形ティース18の製造時の公差を含むものであり、たとえば設計値に対して5%程度の差異を含むものとする。
【0018】
また、図3に示すように、ヨーク12の径方向について、異形ティース先端部19の長さL2は異形ティース18の全長L1の15%以上30%以下とすることが好適である。異形ティース先端部19の長さL2を上述のように定めることの効果については後述する。また、台形ティース16と異形ティース18の全長は同一であることが好適である。
【0019】
また、図1においては異形ティース18の基部21の断面を長方形で示しているが、この形状に限らない。要するに両隣の台形ティース16に台形コイル20が挿入されている時であってもコイルが挿入できる形状であれば良く、例えば基部21の断面形状を台形ティース16よりも幅の狭い(細い)台形に形成してもよい。
【0020】
図1に戻り、台形ティース16および異形ティース18にはそれぞれの形状に沿って成形されたコイルが組み付けられる。以下、台形ティース16に組み付けられるコイルを台形コイル20と呼び、異形ティース18に組み付けられるコイルを異形コイル22と呼ぶ。ここで、台形コイル20および異形コイル22はいわゆる集中巻き用のコイルであって、例えば銅製の平角線を厚み方向に巻いて形成されるエッジワイズコイルであってよい。また、エッジワイズコイルの他にも、銅製の丸線をボビンに巻いた丸線コイルであってもよく、さらに、銅製の平角線をボビンに巻いたフラット巻きコイルであっても良い。
【0021】
なお、従来の長方形ティースから本実施形態に掛かる異形ティース18にティース形状を変更したことに伴い、図4にwで示すように異形ティース18の幅が増加する。これに伴い、異形ティース18の組み付けの際に、台形ティース16に既に組み付けられている台形コイル20の先端部分と異形コイル22との基部とが接触し、そのままでは異形コイル22を異形ティース18に組み付けることが困難となる。そこで、異形コイル22の組み付けの際には、異形コイル22の基部側外周面40を異形コイル22の中心軸42側に弾性変形させ、基部側の径を小さくさせた状態で異形ティース18に組み付ける。基部側の径を小さく変形することにより、台形コイル20の先端部との接触を避けることができ、異形コイル22を異形ティース18に挿入することができる。また、台形コイル20の先端部を通過した後は異形コイル22はその弾性によりもとの形状に回復する。さらに、異形コイル22の先端部は異形ティース18の先端部19に沿った形状をしていることから、隣接する台形コイル20に接触することはない。
【0022】
また、図1においては異形ティース18を3個ステータコア10に配置しているが、この配置に限られない。コイルの組付けを可能にするという観点から考慮すれば、異形ティース18は少なくとも1個ステータコア10に配置されていればよい。
【0023】
また、ステータコア10の内周側にはロータ11が収容されている。ロータ11はシャフト24に嵌め込み固定されており、これによりロータ11の回転がシャフト24に伝えられ、さらにシャフト24から図示しない車両の動力伝達機構(パワートレーン)に回転が伝達される。図1に示す実施形態においてはロータ11には鋳込み等の手段によって永久磁石13が組み込まれている。永久磁石13は好適にはネオジム磁石等の希土類磁石から構成される。この永久磁石13から生じた磁束はステータコア10のティース14に流入する。
【0024】
ここで本発明者らは、異形ティース先端部19の長さL2を異形ティース18の全長L1の15%以上30%以下に構成することにより、異形ティース18に流入する磁束量が台形ティース16とほぼ等しくなることを見出した。これによれば、台形ティース16と異形ティース18との間で磁束量の偏りが軽減され、その結果ロータ11に係る偏心力を軽減することが可能となる。
【0025】
図5にはロータ11−ステータ15間の磁束の流れ解析の結果が示されている。磁束はロータ11及びステータ15に記された線によって表わされ、さらに磁束の強さは当該線の周りの色の濃さによって表わされている。ここで、図5に丸で囲った部分を参照すると、異形ティース先端部19について、頂面32から側面36にかけて色が濃くなっている、すなわち磁束密度が高くなっている。さらに側面36において、ヨーク12側に行くにつれて磁束密度が低くなっている。すなわち、異形ティース18の側面に流入する漏れ磁束の大部分は異形ティース先端部19に集中していることが理解される。このことから、異形ティース18の先端部のみを台形ティース16と同一形状にすることによって、台形ティース16と異形ティース18との磁束量はほぼ等しくなることが理解される。本発明者らの解析の結果、異形ティース先端部19の長さL2を異形ティース18の全長L1の15%以上30%以下とすることで、台形ティース16と異形ティース18との磁束量がほぼ等しくなることを見出した。
【0026】
ステータコア10に異形ティース18を配置したときの、ロータ11に係る偏心力の軌跡を図6下段に示す。なお、図6上段は比較例であり、異形ティース18の代わりに従来の長方形ティースを配置したときの、ロータ11に係る偏心力を示すものである。いずれの場合においても、ロータ11を一回転させたときの偏心力の軌跡44を示している。また、いずれの場合においても、図7に示すように基準線Aから左回りに90°の位置に異形ティース18または長方形ティースを1個のみステータコア10に配置し、その他は台形ティース16を配置している。
【0027】
なお、ロータ11に加わる偏心力については図6の円で示すように予め許容範囲が定められている。この許容範囲は騒音・振動特性(NV特性)に影響を与えない範囲として予め実験等により求められる。長方形ティースを使用した場合、図6上段に示すように長方形ティースの対向側に偏心力が発生し、許容範囲を逸脱していることが理解される。一方、長方形ティースに代えて本実施形態に係る異形ティース18を使用すると、異形ティース18の対向側に偏心力が発生するものの、その大きさは長方形ティースの場合と比較して大幅に軽減され、偏心力が許容範囲内に収まっている。
【0028】
以上説明した様に本発明においては、ステータコア10に配置するティース14として、台形ティース16の他に、先端部19が台形ティース16と同一形状であり、かつ、基部21が台形ティースとは形状の異なる異形ティース18を使用している。このような異形ティース18を配置することにより、従来の長方形ティースと比較して台形ティース16との磁束量の差が軽減され、したがってロータ11に掛かる偏心力も軽減される。また異形ティース18の基部21は長方形断面等に形成され、両隣の台形ティース16に台形コイル20が挿入されている時であってもコイルが挿入できるように形成されている。したがってコイルの組み付けに際しては、長方形コイルを使用するときとほぼ同等の容易性が保たれる。
【0029】
なお、図1にて示したように、回転電機が三相交流の回転電機である場合、異形ティース18は各相に均等に割り当てられることが好適である。図6下段に示したように、異形ティース18は従来の長方形ティースと比較して台形ティース16との磁束量の差が軽減されているものの、台形ティース16と異形ティース18との間には依然としてわずかな磁束量の差が存在する。このため、異形ティース18と各相に均等に割り当てることによって各相間の磁束量に偏りが発生することを防ぎ、磁束量に伴う誘起電圧(逆起電力)を各相間で等しくすることができる。
【符号の説明】
【0030】
10 ステータコア、11 ロータ、12 ヨーク、13 永久磁石、14 ティース、15 ステータ、16 台形ティース、17 台形ティース先端部、18 異形ティース、19 異形ティース先端部、20 台形コイル、21 異形ティース基部、22 異形コイル、24 シャフト、30 台形ティース頂面、32 異形ティース頂面、34 台形ティース先端部の側面、36 異形ティース先端部の側面、40 異形ティース基部の外周面、42 異形ティース中心軸。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ステータコアに関する。
【背景技術】
【0002】
モータやジェネレータなどの回転電機には回転磁界を発生させてロータ(回転子)を回転させるステータ(固定子)が設けられている。ステータは略円筒形状のステータコアとコイルとを含んで構成されており、ステータコアに設けられたティース(極歯)にコイルが組み付けられる。ティースはステータコアの内周面の周方向に沿って複数個設けられており、隣り合うティース同士の隙間はスロットと呼ばれる。このスロットにおけるコイル密度(スロット空間に占めるコイル体積の割合)の向上を図るために、従来から、例えば特許文献1に開示されているような台形ティースと呼ばれるティースが使用されている。台形ティースとは、図8に示すように、ステータコア110の中心軸Cに垂直な断面形状が台形であるティースであり、ステータコア110の中心軸Cに向かう方向に沿って幅が狭くなるように形成されている。
【0003】
台形ティース112には台形ティース112に沿った形状の台形コイル114が組み付けられる。ティースおよびコイルの断面形状を台形にすると、図9のようにティースおよびコイルの断面形状が長方形である場合に比べてスロット116におけるコイル密度が向上する。このことから、台形ティース112を使用する事で、従来の出力を維持したまま回転電機を小型化することが可能となる。
【0004】
ここで、図10に示すように、所定の台形ティース112に台形コイル122を組み付けるにあたり、両隣の台形ティース112に既に台形コイル114が組み付けられている場合、所定の台形ティース112に台形コイル122を組み付けることができない。そこで従来からコイルの組み付けを容易にするために、図11に示すようにステータコア110に台形ティース112の他に長方形ティース118を少なくとも一個配置している。図11に示されているように、両隣の台形ティース112に台形コイル114が組み付けられていても長方形ティース118に長方形コイル120を組み付けることができる。ティースにコイルを組み付ける際には長方形ティース118の隣の台形ティース112から台形コイル114を組み付け、以下ステータコア110の周方向に沿って順次台形ティース112に台形コイル114を順次組み付けていき、最後に長方形ティース118に長方形コイル120を組み付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−160939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ティースはロータ124に設けられた永久磁石126からの磁束を受ける。永久磁石126から生じた磁束がティースに流入する模式図を図12に示す。磁束は主にティースの頂面128からティース内に流入するが、一部は漏れ磁束130としてティースの側面132からティース内に流入する。これは永久磁石126からティースに向かう過程で磁束密度が増加して飽和し、ティースの頂面128から外れる磁束が生じるためである。
【0007】
この漏れ磁束130につき、ティースが台形ティース112である場合と長方形ティース118である場合とは磁束の強さが異なる。すなわち、ロータ124から台形ティース112の側面134(図12にて一点鎖線で示す)に至るまでの磁路と、ロータ124から長方形ティース118の側面132に至るまでの磁路とを比較すると、長方形ティース118の磁路の方がΔdで示す分、大気を通過する区間が長くなる。大気はティースの材料である金属よりも磁気抵抗が大きいことから、大気を通過する区間が長い分、磁束が弱められる。その結果、長方形ティース118に流入する総磁束量は、台形ティース112に流入する総磁束量よりも少なくなる。
【0008】
ティースの形状によって磁束量が異なるとロータ124に径方向の偏心力が発生する。これを図13を用いて説明する。図13で示す回転電機は三相の交流回転電機であり、V相に長方形ティース118が割り当てられている。各ロータ124の永久磁石126からV相のティースに磁束が流入する際、ティースの形状によって磁束量が異なると、長方形ティース118に生じる電磁力と長方形ティース118に対向する台形ティース112に生じる電磁力とが相殺されず、長方形ティース118に対向する方向に偏心力136が生じる。この偏心力136によりロータ124及びロータ124のシャフト138が長方形ティース118に対向する側に引っ張られる。これによりロータ124の回転が不安定になり、回転電機の騒音・振動特性(NV特性)が悪化してしまう。
【0009】
そこで本発明は、ティースの形状に由来する磁束量の偏りを従来よりも軽減させるステータコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は回転電機のステータコアに関するものである。ステータコアは、円筒形状のヨークと、ヨークの内周面に周方向に沿って配置され、回転電機のロータからの磁束を受けるティースと、を備えている。さらに、ティースは、ヨークの中心軸に垂直な断面形状が台形である台形ティースと、先端部が台形ティースと同一形状であって、先端部からヨークに至るまでの基部が台形ティースとは異なる形状である異形ティースと、から構成されている。
【0011】
また、上記発明において、ヨークの径方向に沿った長さについて、異形ティースの先端部の長さは、異形ティースの全長の15%以上30%以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ティースの形状に由来する磁束量の偏りを従来よりも軽減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るステータコアを例示する図である。
【図2】異形ティースと台形ティースとの形状を比較する図である。
【図3】本実施形態に係るステータコアの拡大図である。
【図4】本実施形態に係るステータコアの拡大図である。
【図5】本実施形態に係るステータコアにおける磁束の解析結果を例示する図である。
【図6】ロータに加わる偏心力を説明する図である。
【図7】本実施形態に係るステータコアを例示する図である。
【図8】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図9】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図10】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図11】従来技術に係るステータコアを例示する図である。
【図12】ロータからステータへの磁束の流れを説明する図である。
【図13】ロータに加わる偏心力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本実施形態に係るステータコア10を例示する。ステータコア10は略円筒形状をしており、内周側にロータ(回転子)11が収容される。ステータコア10に後述するコイルを組み付けることでステータ(固定子)15が形成され、ステータ15から発生する回転磁界によってロータ11が回転する。ステータ15及びロータ11を備える回転電機は、例えば車両のモータまたはジェネレータとして使用される。なお、回転電機の種類としては、ロータ11に永久磁石13を備えた永久磁石モータであってもよく、ロータ11に永久磁石13を備えないリラクタンスモータであってもよい。
【0015】
ステータコア10は、円筒形状のヨーク(継鉄)12と、ヨーク12の内周面に周方向に沿って配置され、ヨーク12の中心軸Cに向かって延びる複数個のティース14とを備えている。ヨーク12とティース14とは一体に形成されており、例えば珪素鋼板の積層体から構成されている。
【0016】
ティース14は、台形ティース16と、台形ティース16とは形状の異なる異形ティース18から構成されている。台形ティース16はヨーク12の中心軸Cに垂直な断面形状が台形のティースであり、ヨーク12の中心に向かって幅が狭くなるように形成されている。また、隣り合う台形ティース16の側面同士はほぼ平行となるように形成されていることが好適である。
【0017】
異形ティース18は、台形ティース16と同一形状の先端部19と、先端部19とヨーク12との間に形成され、台形ティース16とは異なる形状の基部21とから構成されている。なお、「同一形状」とは、図2に示すように、台形ティース16の先端部17と異形ティース18の先端部19とが幾何学的に合同であることを指している。すなわち、台形ティース先端部17の頂面30と異形ティース先端部19の頂面32との形状及び面積が等しく、かつ、台形ティース先端部17の側面34と異形ティース先端部19の側面36の形状及び面積が等しく、さらに、台形ティース先端部17の頂面30と各側面34との成す角(テーパ角)と、異形ティース先端部19の頂面32と各側面36との成す角とが同一であり、これらの条件により、台形ティース先端部17と異形ティース先端部19の立体形状及び体積が相等しいことを指している。また、「同一」とは、台形ティース16および異形ティース18の製造時の公差を含むものであり、たとえば設計値に対して5%程度の差異を含むものとする。
【0018】
また、図3に示すように、ヨーク12の径方向について、異形ティース先端部19の長さL2は異形ティース18の全長L1の15%以上30%以下とすることが好適である。異形ティース先端部19の長さL2を上述のように定めることの効果については後述する。また、台形ティース16と異形ティース18の全長は同一であることが好適である。
【0019】
また、図1においては異形ティース18の基部21の断面を長方形で示しているが、この形状に限らない。要するに両隣の台形ティース16に台形コイル20が挿入されている時であってもコイルが挿入できる形状であれば良く、例えば基部21の断面形状を台形ティース16よりも幅の狭い(細い)台形に形成してもよい。
【0020】
図1に戻り、台形ティース16および異形ティース18にはそれぞれの形状に沿って成形されたコイルが組み付けられる。以下、台形ティース16に組み付けられるコイルを台形コイル20と呼び、異形ティース18に組み付けられるコイルを異形コイル22と呼ぶ。ここで、台形コイル20および異形コイル22はいわゆる集中巻き用のコイルであって、例えば銅製の平角線を厚み方向に巻いて形成されるエッジワイズコイルであってよい。また、エッジワイズコイルの他にも、銅製の丸線をボビンに巻いた丸線コイルであってもよく、さらに、銅製の平角線をボビンに巻いたフラット巻きコイルであっても良い。
【0021】
なお、従来の長方形ティースから本実施形態に掛かる異形ティース18にティース形状を変更したことに伴い、図4にwで示すように異形ティース18の幅が増加する。これに伴い、異形ティース18の組み付けの際に、台形ティース16に既に組み付けられている台形コイル20の先端部分と異形コイル22との基部とが接触し、そのままでは異形コイル22を異形ティース18に組み付けることが困難となる。そこで、異形コイル22の組み付けの際には、異形コイル22の基部側外周面40を異形コイル22の中心軸42側に弾性変形させ、基部側の径を小さくさせた状態で異形ティース18に組み付ける。基部側の径を小さく変形することにより、台形コイル20の先端部との接触を避けることができ、異形コイル22を異形ティース18に挿入することができる。また、台形コイル20の先端部を通過した後は異形コイル22はその弾性によりもとの形状に回復する。さらに、異形コイル22の先端部は異形ティース18の先端部19に沿った形状をしていることから、隣接する台形コイル20に接触することはない。
【0022】
また、図1においては異形ティース18を3個ステータコア10に配置しているが、この配置に限られない。コイルの組付けを可能にするという観点から考慮すれば、異形ティース18は少なくとも1個ステータコア10に配置されていればよい。
【0023】
また、ステータコア10の内周側にはロータ11が収容されている。ロータ11はシャフト24に嵌め込み固定されており、これによりロータ11の回転がシャフト24に伝えられ、さらにシャフト24から図示しない車両の動力伝達機構(パワートレーン)に回転が伝達される。図1に示す実施形態においてはロータ11には鋳込み等の手段によって永久磁石13が組み込まれている。永久磁石13は好適にはネオジム磁石等の希土類磁石から構成される。この永久磁石13から生じた磁束はステータコア10のティース14に流入する。
【0024】
ここで本発明者らは、異形ティース先端部19の長さL2を異形ティース18の全長L1の15%以上30%以下に構成することにより、異形ティース18に流入する磁束量が台形ティース16とほぼ等しくなることを見出した。これによれば、台形ティース16と異形ティース18との間で磁束量の偏りが軽減され、その結果ロータ11に係る偏心力を軽減することが可能となる。
【0025】
図5にはロータ11−ステータ15間の磁束の流れ解析の結果が示されている。磁束はロータ11及びステータ15に記された線によって表わされ、さらに磁束の強さは当該線の周りの色の濃さによって表わされている。ここで、図5に丸で囲った部分を参照すると、異形ティース先端部19について、頂面32から側面36にかけて色が濃くなっている、すなわち磁束密度が高くなっている。さらに側面36において、ヨーク12側に行くにつれて磁束密度が低くなっている。すなわち、異形ティース18の側面に流入する漏れ磁束の大部分は異形ティース先端部19に集中していることが理解される。このことから、異形ティース18の先端部のみを台形ティース16と同一形状にすることによって、台形ティース16と異形ティース18との磁束量はほぼ等しくなることが理解される。本発明者らの解析の結果、異形ティース先端部19の長さL2を異形ティース18の全長L1の15%以上30%以下とすることで、台形ティース16と異形ティース18との磁束量がほぼ等しくなることを見出した。
【0026】
ステータコア10に異形ティース18を配置したときの、ロータ11に係る偏心力の軌跡を図6下段に示す。なお、図6上段は比較例であり、異形ティース18の代わりに従来の長方形ティースを配置したときの、ロータ11に係る偏心力を示すものである。いずれの場合においても、ロータ11を一回転させたときの偏心力の軌跡44を示している。また、いずれの場合においても、図7に示すように基準線Aから左回りに90°の位置に異形ティース18または長方形ティースを1個のみステータコア10に配置し、その他は台形ティース16を配置している。
【0027】
なお、ロータ11に加わる偏心力については図6の円で示すように予め許容範囲が定められている。この許容範囲は騒音・振動特性(NV特性)に影響を与えない範囲として予め実験等により求められる。長方形ティースを使用した場合、図6上段に示すように長方形ティースの対向側に偏心力が発生し、許容範囲を逸脱していることが理解される。一方、長方形ティースに代えて本実施形態に係る異形ティース18を使用すると、異形ティース18の対向側に偏心力が発生するものの、その大きさは長方形ティースの場合と比較して大幅に軽減され、偏心力が許容範囲内に収まっている。
【0028】
以上説明した様に本発明においては、ステータコア10に配置するティース14として、台形ティース16の他に、先端部19が台形ティース16と同一形状であり、かつ、基部21が台形ティースとは形状の異なる異形ティース18を使用している。このような異形ティース18を配置することにより、従来の長方形ティースと比較して台形ティース16との磁束量の差が軽減され、したがってロータ11に掛かる偏心力も軽減される。また異形ティース18の基部21は長方形断面等に形成され、両隣の台形ティース16に台形コイル20が挿入されている時であってもコイルが挿入できるように形成されている。したがってコイルの組み付けに際しては、長方形コイルを使用するときとほぼ同等の容易性が保たれる。
【0029】
なお、図1にて示したように、回転電機が三相交流の回転電機である場合、異形ティース18は各相に均等に割り当てられることが好適である。図6下段に示したように、異形ティース18は従来の長方形ティースと比較して台形ティース16との磁束量の差が軽減されているものの、台形ティース16と異形ティース18との間には依然としてわずかな磁束量の差が存在する。このため、異形ティース18と各相に均等に割り当てることによって各相間の磁束量に偏りが発生することを防ぎ、磁束量に伴う誘起電圧(逆起電力)を各相間で等しくすることができる。
【符号の説明】
【0030】
10 ステータコア、11 ロータ、12 ヨーク、13 永久磁石、14 ティース、15 ステータ、16 台形ティース、17 台形ティース先端部、18 異形ティース、19 異形ティース先端部、20 台形コイル、21 異形ティース基部、22 異形コイル、24 シャフト、30 台形ティース頂面、32 異形ティース頂面、34 台形ティース先端部の側面、36 異形ティース先端部の側面、40 異形ティース基部の外周面、42 異形ティース中心軸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のステータコアであって、
円筒形状のヨークと、
前記ヨークの内周面に周方向に沿って配置され、前記回転電機のロータからの磁束を受けるティースと、
を備え、
前記ティースは、
前記ヨークの中心軸に垂直な断面形状が台形である台形ティースと、
先端部が前記台形ティースと同一形状であって、前記先端部から前記ヨークに至るまでの基部が前記台形ティースとは異なる形状である異形ティースと、
から構成されることを特徴とするステータコア。
【請求項2】
請求項1記載のステータコアであって、前記ヨークの径方向に沿った長さについて、前記異形ティースの先端部の長さは、前記異形ティースの全長の15%以上30%以下であることを特徴とするステータコア。
【請求項1】
回転電機のステータコアであって、
円筒形状のヨークと、
前記ヨークの内周面に周方向に沿って配置され、前記回転電機のロータからの磁束を受けるティースと、
を備え、
前記ティースは、
前記ヨークの中心軸に垂直な断面形状が台形である台形ティースと、
先端部が前記台形ティースと同一形状であって、前記先端部から前記ヨークに至るまでの基部が前記台形ティースとは異なる形状である異形ティースと、
から構成されることを特徴とするステータコア。
【請求項2】
請求項1記載のステータコアであって、前記ヨークの径方向に沿った長さについて、前記異形ティースの先端部の長さは、前記異形ティースの全長の15%以上30%以下であることを特徴とするステータコア。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図13】
【公開番号】特開2012−100498(P2012−100498A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248312(P2010−248312)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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