説明

ストッパゴム部付き防振装置及びその製造方法

【課題】防振性能を従来と同等に維持しながらコストを効果的に低廉化し得る、本体ゴム部の内側の収容空間にインナストッパゴム部を配置した形態の防振装置を提供する。
【解決手段】上取付金具12と下取付金具14とを弾性連結する本体ゴム部16の内側の収容空間18にインナストッパゴム部20を配置して成るエンジンマウント10において、インナストッパゴム部20を周方向に4分割した形態のストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4を、薄肉のヒンジ部57を経て本体ゴム部16から連続して延びる形態で、且つインナストッパゴム部20を構成したときとは表裏逆向きの形状で、本体ゴム部16の加硫成形時に薄肉のヒンジ部57とともに一体に加硫成形しておき、その後ストッパゴム片20-1〜20-4をヒンジ部57で折り返し、収容空間18内で周方向に合せてインナストッパゴム部20を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はストッパゴム部付き防振装置に関し、詳しくは本体ゴム部の内側の収容空間にインナストッパゴム部を配置してなるストッパゴム部付き防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剛性の第1取付部材と第2取付部材とをゴム弾性体から成る主ゴム部としての本体ゴム部で連結し、本体ゴム部の弾性変形に基づいて防振作用する防振装置として、本体ゴム部の内側に形成される収容空間にインナストッパゴム部を配置した形態のものが知られている。
例えば下記特許文献1,特許文献2に、本体ゴム部の内側の収容空間にインナストッパゴム部を配置した防振装置が開示されている。
【0003】
この種の防振装置はエンジンマウントとしても用いられている。
図7はその具体例を示している。
図において200はエンジン側に取り付けられる上取付金具(第1取付部材),202は車体側に取り付けられる下取付金具(第2取付部材)で、それらをゴム弾性体から成る主ゴム部としての本体ゴム部204が弾性連結している。
本体ゴム部204は全体として筒形をなしており、その下部に下取付金具202における中心側の筒形部206が埋め込まれている。
【0004】
本体ゴム部204の内側には環状の収容空間208が形成されており、そこに筒形をなすインナストッパゴム部210が配置されている。
インナストッパゴム部210は、本体ゴム部204とは別体のゴム単体から成る部材であって、このインナストッパゴム部210は、図に示しているように収容空間208に対して図中下側から上向きに挿入されてそこに組み付けられる。
【0005】
このエンジンマウントは、本体ゴム部204の内側の収容空間208、具体的には筒形をなすインナストッパゴム部210の内側空間を貫通して上向きに延びたエンジン側のブラケット212に対して、本体ゴム部204の上端部に加硫接着にて固着された上取付金具200が固定されるとともに、本体ゴム部204の下端部に加硫接着にて固着された下取付金具202が車体側のブラケットに固定されることで、エンジン側を吊下状態に弾性支持する。
即ちこのエンジンマウントは、エンジン吊下型のマウントであり、且つ本体ゴム部(厳密には内側の収容空間)に対しブラケットを貫通させる形でエンジン側と車体側とを連結する形式の貫通型のマウントである。
【0006】
而してインナストッパゴム部210は、エンジン側のブラケット212が図中左右方向(図中左右方向は車両の前後方向である)に相対移動したときに圧縮弾性変形してその変位を抑制する。
若しインナストッパゴム部210が設けられていないと、エンジン側のブラケット212が図中左右方向に大きく変位して、あるところで本体ゴム部204に急激に当ることとなり、エンジンマウントの前後方向のばね特性が急激に立ち上る硬いばね特性となるが、インナストッパゴム部210を本体ゴム部204とブラケット212との間に介在させておくことで、エンジンマウントにおける図中左右方向即ち車両前後方向のばね特性を軟らかいばね特性とすることができる。
【0007】
図7に示しているように、従来ではこのインナストッパゴム部210が、本体ゴム部204とは別体に加硫成形されて、本体ゴム部204に組み付けられていた。
しかしながらインナストッパゴム部210を、本体ゴム部204とは別体の独立した加硫品として構成すると、インナストッパゴム部210の製作分コストが多くかかることとなる。
【0008】
近年、エンジンマウントを含む防振装置に対するコスト低減の必要性が益々高くなってきており、そうした中でこの種のエンジン吊下型のエンジンマウントのコスト低減が求められている。
【0009】
以上エンジン吊下型のエンジンマウントを例として説明したが、同様の問題は、本体ゴム部の内側の収容空間にインナストッパゴム部を配置した他の形態のエンジンマウント及びエンジンマウント以外の様々なストッパゴム部付き防振装置において共通に生じる問題である。
【0010】
尚、本発明に関連する先行技術として下記特許文献3に開示されたものがある。
この特許文献3に開示のものは、ゴム製のダイヤフラムを有し、そのダイヤフラムを加硫成形時から反転させて製品形状に組み付けるようになしたものであるが、この特許文献3に開示のものはインナストッパゴム部に関してものでなく、特徴的な構成において本発明と異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実公平6−24595号公報
【特許文献2】特開2004−293664号公報
【特許文献3】特開2008−164116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情を背景とし、防振性能を従来と同等に維持しながらコストを効果的に低廉化し得る、本体ゴム部の内側の収容空間にインナストッパゴム部を配置した形態の防振装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して請求項1のものは、(イ)剛性の第1取付部材及び第2取付部材と、(ロ)それら第1取付部材と第2取付部材とを弾性連結する主ゴム部としてのゴム弾性体から成る本体ゴム部と、(ハ)該本体ゴム部の内側に形成される収容空間に配置された、ゴム弾性体から成るインナストッパゴム部と、を有するストッパゴム部付き防振装置であって、前記インナストッパゴム部を周方向に複数分割した形態のストッパゴム片を、前記本体ゴム部の端部に隣接して部分的に薄肉に設けたヒンジ部を経て該本体ゴム部から連続して延びる形態で、且つインナストッパゴム部を構成したときとは表裏逆向きの形状で、前記本体ゴム部の加硫成形時に前記薄肉のヒンジ部とともに一体に加硫成形した上、該ストッパゴム片を該ヒンジ部で前記本体ゴム部の内側に折り返し、前記収容空間内で各ストッパゴム片を周方向に合せて前記インナストッパゴム部を構成してあることを特徴とする。
【0014】
請求項2のものは、請求項1において、前記ストッパゴム片と前記本体ゴム部との、前記ヒンジ部による繋ぎ目が直線状をなしていることを特徴とする。
【0015】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、複数分割されたうちの1つの前記ストッパゴム片と前記本体ゴム部との前記ヒンジ部による繋ぎ目は、外部入力の主入力方向と直交方向に分割されておらず、該直交方向に連続した1つの繋ぎ目となっていることを特徴とする。
【0016】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記本体ゴム部は筒形をなしていて、前記収容空間が該本体ゴム部にて取り囲まれた環状空間をなしており、前記インナストッパゴム部は筒形をなしていて、周方向に複数のストッパゴム片に分割されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記インナストッパゴム部は前記ストッパゴム片に周方向に4分割されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6のものは、請求項4,5の何れかにおいて、前記本体ゴム部の上端部に前記第1取付部材が、下端部に前記第2取付部材が設けられており、該本体ゴム部の内側の前記収容空間及び前記インナストッパゴム部をエンジン側のブラケットが上下に貫通して前記第1取付部材に固定されるとともに、前記第2取付部材が車体側のブラケットに固定されるようになしてあり、前記エンジン側を吊下式に弾性支持する吊下型のエンジンマウントであることを特徴とする。
【0019】
請求項7のものは、請求項4〜6の何れかにおいて、前記インナストッパゴム部は車両前後方向に突出する前後ストッパ部と、車両左右方向に突出する左右ストッパ部とを有しており、且つそれら前後ストッパ部と左右ストッパ部との間には周方向に隙間を有していることを特徴とする。
【0020】
請求項8のものは、請求項1〜7の何れかにおいて、前記薄肉のヒンジ部は、前記ストッパゴム片の折返し状態で横断面形状が湾曲形状をなしていることを特徴とする。
【0021】
請求項9はストッパゴム部付き防振装置の製造方法にかかるもので、(イ)剛性の第1取付部材及び第2取付部材と、(ロ)それら第1取付部材と第2取付部材とを弾性連結する主ゴム部としてのゴム弾性体から成る本体ゴム部と、(ハ)該本体ゴム部の内側に形成される収容空間に配置された、ゴム弾性体から成るインナストッパゴム部と、を有するストッパゴム部付き防振装置の製造方法であって、前記インナストッパゴム部を周方向に複数分割した形態のストッパゴム片を、前記本体ゴム部の端部から薄肉のヒンジ部を経て連続して延びる形態で、且つインナストッパゴム部を構成したときとは表裏逆向の形状で、前記本体ゴム部の加硫成形時に前記ヒンジ部とともに一体に加硫成形し、しかる後に前記複数のストッパゴム片のそれぞれを該ヒンジ部で前記本体ゴム部の内側に折り返し、前記収容空間内で各ストッパゴム片を周方向に合せて前記インナストッパゴム部を構成することを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0022】
以上のように本発明は、インナストッパゴム部を周方向に複数分割した形態のストッパゴム片を、本体ゴム部の端部から薄肉のヒンジ部を経て連続して延びる形態で、本体ゴム部の加硫成形時にヒンジ部とともに一体に加硫成形した上、複数のストッパゴム片のそれぞれをヒンジ部で本体ゴム部の内側に折り返し、本体ゴム部の内側の収容空間内で各ストッパゴム片を周方向に合せてインナストッパゴム部を構成するようになしたものである。
【0023】
本発明では、本体ゴム部とインナストッパゴム部とを合せて1つの加硫品として得ることができるため、従来のようにインナストッパゴム部を独立した1つの加硫品として防振装置を製造する場合に比べ、インナストッパゴム部の加硫のための工程を1工程削減することができ、これに伴って防振装置製造のための所要コストを安価となすことができる。
【0024】
尚、本発明ではストッパゴム片を折り返す工程が必要であるが、この折返し工程が、従来必要とされていた独立したインナストッパゴム部の挿入工程に置き換わるものと考えれば、全体として単体のインナストッパゴム部の加硫工程分を、製造工程から削減することができる。
【0025】
本発明では、ストッパゴム片と本体ゴム部とのヒンジ部による繋ぎ目を直線状となしておくことが望ましい(請求項2)。
このようにしておくことで、ストッパゴム片を成形時の状態から本体ゴム部の内側の収容空間に向けて容易に且つスムーズに折り返すことができる。
【0026】
本発明では、複数分割されたうちの1つのストッパゴム片と本体ゴム部とのヒンジ部による繋ぎ目を、外部入力の主入力方向と直交方向に分割せず、直交方向に連続した1つの繋ぎ目となしておくことが望ましい(請求項3)。
【0027】
本発明では、本体ゴム部を筒形となして、上記収容空間を本体ゴム部にて取り囲まれた環状空間となし、またインナストッパゴム部を筒形となして、これを周方向に複数のストッパゴム片に分割しておくことができる(請求項4)。
【0028】
本発明ではインナストッパゴム部の分割数を、インナストッパゴム部及び本体ゴム部の形状その他の条件に応じて様々に設定することが可能であるが、望ましくは偶数分割とすること、特に4分割とすることがより望ましい(請求項5)。
【0029】
本発明では、上記防振装置をエンジンを吊下式に弾性支持する吊下型のエンジンマウントとなしておくことができる(請求項6)。
即ち、本体ゴム部の上端部に第1取付部材を、下端部に第2取付部材を設けて、本体ゴム部の内側の収容空間及びインナストッパゴム部の内側空間を上下に貫通してエンジン側のブラケットを第1取付部材に固定するとともに、第2取付部材を車体側のブラケットに固定するようになしておくことができる。
【0030】
本発明ではまた、請求項7に従ってインナストッパゴム部を、車両前後方向に突出する前後ストッパ部と、車両左右方向に突出する左右ストッパ部とを有するものとなし、且つそれら前後ストッパ部と左右ストッパ部との間に、周方向に隙間を有するものとなしておくことができる。
このようにすることでインナストッパゴム部、ひいては本体ゴム部を含む防振装置の車両前後方向のばね特性を軟らかなばね特性となすことができる。
【0031】
本発明では、ストッパゴム片の折返し状態での上記薄肉のヒンジ部の横断面形状を、湾曲形状となしておくことができる(請求項8)。
【0032】
請求項9は防振装置の製造方法に関するもので、ここではインナストッパゴム部を周方向に複数分割した形態のストッパゴム片を、本体ゴム部の端部から薄肉のヒンジ部を経て連続して延びる形態で、且つインナストッパゴム部を構成したときとは表裏逆向きの形状で、本体ゴム部の加硫成形時にヒンジ部とともに一体に加硫成形し、しかる後に複数のストッパゴム片のそれぞれをヒンジ部で本体ゴム部の内側に折り返し、上記の収容空間内で各ストッパゴム片を周方向に合せてインナストッパゴム部を構成するもので、この製造方法によれば、本体ゴム部とインナストッパゴム部とを一体に有する防振装置を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態のエンジンマウントを車両への取付状態で示す図である。
【図2】同実施形態のエンジンマウントの平面視図である。
【図3】(ア)図1のアーア視断面図である。(イ)図1のイーイ視断面図である。
【図4】(ウ)加硫成形時点での同実施形態のエンジンマウントを、図2のウーウ視断面で示した図である。(エ)同じく図2のエーエ視断面で示した図である。
【図5】加硫成形時点での同実施形態のエンジンマウントを底面側から見た図である。
【図6】同実施形態のエンジンマウントを図4,図5とは異なる状態で示した図である。
【図7】従来のエンジンマウントの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に本発明をエンジンマウントに適用した場合の実施形態を図面に基づいて以下に詳しく説明する。
この例は、エンジン吊下型の、且つ本体ゴム部の内側の空間を貫通したブラケットを介して車体とエンジンとを弾性連結する形態の貫通型のエンジンマウントで、図1中10はそのエンジンマウントを表している。
【0035】
図1及び図6に示しているようにこのエンジンマウント10は、金属板材を曲げ加工して成る上取付金具(第1取付部材)12及び下取付金具(第2取付部材)14と、それらを弾性連結する状態に一体に加硫接着された、ゴム弾性体から成る主ゴム部としての本体ゴム部16とを有し、更に本体ゴム部16の内側の収容空間18に配置されたインナストッパゴム部20を有している。
尚この実施形態において、図1中左右方向が車両の前後方向となり、また紙面と直交方向が車両の左右方向となる。
【0036】
図1において、22は車体側のブラケットで、エンジンマウント10は、下取付金具14が固定孔24においてこの車体側のブラケット22に固定される。
【0037】
図1において、26はエンジン側のブラケットで基部30と、これより上向きに突き出した軸部28とを有している。そしてこの軸部28に対し、エンジンマウント10の上取付金具12が固定されている。
上取付金具12は、図2に示しているように平面視形状が略四角形状をなしており、図中の左端部と右端部とが左方向,右方向に夫々円弧形状で膨出した膨出部42をなしている。
【0038】
この上取付金具12は、図1及び図4に示しているように全体として下向きに凹曲した浅い皿状の形態をなしており、傾斜部31と、水平方向に平坦な底部32とを有している。
底部32には、貫通の固定孔34が設けられており、上記エンジン側のブラケット26における軸部28の上部のねじ部36、詳しくは軸部28の下部の本体部よりも小径で上向きに延びたねじ部36が、この固定孔34を挿通して上向きに突き出している。
そしてその突き出したねじ部36に対してナット38が螺合され、そのナット38と軸部28の段付部40とが底部32を上下両側から挟持する状態に、上取付金具12の底部32が軸部28に固定されている。
【0039】
上記本体ゴム部16は平面視形状が略四角の筒状をなしており、図6に示しているようにその上部44は、縦断面形状が略ハ字状をなしている。
また上部44は、平面視形状において左右の端部が図2中左方向と右方向とに夫々円弧形状で膨出した形状をなしている。図2中46はその膨出部を表している。
【0040】
一方本体ゴム部16の下部48は、図6に示しているように上部44に較べて細幅の四角筒状をなしており、その内部に下取付金具14の中心部の四角の筒形部50が埋め込まれている。
下取付金具14はまた、この筒形部50への移行部分が上向きに凸をなす形状で湾曲した形状をなしており、その湾曲部52が、本体ゴム部16における上部44の付根部の内部に埋め込まれている。
【0041】
尚、本体ゴム部16の下端部、詳しくは下取付金具14における筒形部50より下側の部分はリバウンド側のストッパゴム部54とされており、このストッパゴム部54に対し、エンジン側のブラケット26における基部30の当接部56が当接することで、リバウンド時のストッパ作用が行われる。
【0042】
図6において、本体ゴム部16の内側の収容空間18は筒形の本体ゴム部16にて取り囲まれた環状空間をなしており、そしてそこに配置された上記のインナストッパゴム部20は全体として筒形をなしており、薄肉のヒンジ部(インテグラルヒンジ部)57にて本体ゴム部16、詳しくはその下部48における下端部と?がる状態で、本体ゴム部16と一体に加硫成形されている。
【0043】
このインナストッパゴム部20は、その上部が内形円形状,外形略四角形状をなして、上記の軸部28に外嵌状態に嵌合する嵌合部58とされ、また下部が、本体ゴム部16における下部48の内面に当ってストッパ作用するストッパ作用部60とされている。
尚上記の薄肉のヒンジ部57は、インナストッパゴム部20を構成した状態で、その横断面形状が下向きに凸をなす湾曲形状をなしている。
【0044】
尚、図6に示す縦断面において、インナストッパゴム部20と本体ゴム部16との間、詳しくはストッパ作用部60の図中上端から嵌合部58の上端にかけての部分と、本体ゴム部16における上部44との間には、空隙Kが生ぜしめられている。
【0045】
また図1に示しているように、嵌合部58の下端からストッパ作用部60の下端にかけての部分と、エンジン側のブラケット26における上記の軸部28との間には空隙Kが生ぜしめられている。
尚、ストッパ作用部60の外周側の面は本体ゴム部16の下部48に接触した状態にある。
更に、図1のイ−イ視断面を示す図3(イ)にあるように、ストッパ作用部60の周方向4つのコーナ部には空隙Kが生ぜしめられている。
【0046】
本実施形態において、インナストッパゴム部20は周方向に4分割されており、かかるインナストッパゴム部20が、図4及び図5に示しているようにヒンジ部57にて本体ゴム部16と一体に?がった、4つのストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4にて構成されている。
【0047】
ここで図5に示しているように(図5はゴムストッパ片20-1〜20-4を折り返す前の、加硫成形時点での底面側から見た形状を示している)、本体ゴム部16と各ストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4とのヒンジ部57による繋ぎ目部分は、何れも直線状をなしており、それらの繋ぎ目の部分には、平面視及び底面視において湾曲形状部分は存在していない。
【0048】
ここで4つのストッパゴム片20-1〜20-4の形状は似た形状をなしているが、各部の形状が以下のように異なっている。
具体的には、図3(ア)に示しているようにストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4は、嵌合部58の一部(嵌合部58を4分割した一部)を有している。図中58-1,58-2,58-3,58-4は、夫々嵌合部58を分割して成る嵌合部片を表している。
【0049】
図3(ア)に示しているように、ストッパゴム片20-1,20-3における嵌合部片58-1,58-3は、その向きが180度異なる外は同一形状をなしており、またストッパゴム片20-2,20-4における嵌合部片58-2,58-4も、その向きが180度異なる外は同一形状をなしているが、嵌合部片58-2及び58-4は、嵌合部片58-1,58-3に対して周方向長が僅かに長いものとされている。
【0050】
各ストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4はまた、夫々がストッパ作用部60の一部を有している。図中60-1,60-2,60-3,60-4は、ストッパ作用部60を分割して成るストッパ作用部片を表している。
図示のようにこれら4つのストッパ作用部片の形状もまた、次のような関係となっている。即ち、一対のストッパ作用部片60-1と60-3とは、向きが180度異なる他は同一形状を成しており、また今一対のストッパ作用部片60-2,60-4もまた、その向きが180度異なる他は同一形状をなしているが、ストッパ作用部片60-1,60-2とは異なった形状を成している。
【0051】
上記のインナストッパゴム部20は、主としてエンジンマウント10における車両前後方向(図中左右方向)のばね特性を柔らかくすることを狙いとして設けられており、そのためにここでは車両前後方向に位置するストッパゴム片20-1,20-3のストッパ作用部片60-1,60-3の厚みが厚く、また車両左右方向(図3及び図5中上下方向)に位置する一対のストッパゴム片20-2,20-4のストッパ作用部片60-2,60-4の厚みが薄くされているのである。
【0052】
図4は本体ゴム部16及びインナストッパゴム部20を加硫成形した段階の形状、即ち4つのストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4を折り曲げる前の形状を現している。
このとき、各ストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4は、夫々が図1,図3,図6に示す形状とは表裏及び上下に逆形状をなしている。
また薄肉のヒンジ部57が、図4に示しているように上下方向にストレート形状をなしている。
【0053】
この実施形態では、このようにしてヒンジ部57とともに本体ゴム部16と一体成形した各ストッパゴム片20-1〜20-4を図4に示す状態から、図6に示しているように本体ゴム部16の内側に180度折り曲げて、表裏及び上下の向きを逆向きとなし、そしてそれらを収容室18内で周方向に合せて、インナストッパゴム部20を構成する。
【0054】
そしてその状態でエンジンマウント10を下取付金具14において車体側のブラケット22に固定し、また上取付金具12においてエンジン側のブラケット26に固定する。
【0055】
尚本発明のエンジンマウント10は、外部入力の主入力方向が車両前後方向であり、この場合、図3(イ)で示しているようにインナストッパゴム部20を、ストッパ作用部片60-1,60-2,60-3,60-4を通過する線分P(ここではそれら中央を通過する、車両前後方向及びその直交方向の線分P)で分割すると、ストッパ作用部片60-1,60-3に対して前後方向入力が加わったときに、ストッパ作用部片60-1,60-3のそれぞれが車両左右方向(図中上下方向)に別れて(分離して)しまう虞がある。
そのためにこの実施形態では、線分Pとθ(ここではθ=40°)異なった角度の線分Pで、インナストッパゴム部20を4分割し、そのことによってストッパ作用部片60-1,60-3が前後方向入力によって車両左右方向に別れて(分離して)しまわないように図っている。
【0056】
以上のような本実施形態によれば、本体ゴム部16とインナストッパゴム部20とを合せて1つの加硫品として得ることができるため、従来のようにインナストッパゴム部20を独立した1つの加硫品として防振装置を製造する場合に比べ、インナストッパゴム部20の加硫のための工程を削減することができ、これに伴って防振装置製造のための所要コストを安価となすことができる。
一方において、インナストッパゴム部20を含むエンジンマウント10の防振性能を従来と同等に維持することができる。
【0057】
また本実施形態では、ストッパゴム片20-1,20-2,20-3,20-4と本体ゴム部16とのヒンジ部57による繋ぎ目を直線状となしており、ストッパゴム片20-1〜20-4を加硫成形時の状態から本体ゴム部16の内側の収容空間18に向けて容易に且つスムーズに折り返すことができる。
【0058】
以上本発明の実施形態を詳述したが、これはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態のエンジンマウントは、あくまで1つの形態例を示したに過ぎず、これを他の様々な形状で構成すること、例えば本体ゴム部を平面視円形状で構成するといったことも可能であるし、またインナストッパゴム部を4分割以外の分割数で複数分割するといったことも可能である。更に本発明はエンジンマウント以外の防振装置、具体的には本体ゴム部の内側の収容空間にインナストッパゴム部を配置した形態の防振装置一般に適用することが可能であるなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 エンジンマウント
12 上取付金具(第1取付部材)
14 下取付金具(第2取付部材)
16 本体ゴム部
18 収容空間
20 インナストッパゴム部
20−1,20−2,20−3,20−4 ストッパゴム片
22 車体側のブラケット
26 エンジン側のブラケット
57 ヒンジ部
,K,K 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)剛性の第1取付部材及び第2取付部材と、(ロ)それら第1取付部材と第2取付部材とを弾性連結する主ゴム部としてのゴム弾性体から成る本体ゴム部と、(ハ)該本体ゴム部の内側に形成される収容空間に配置された、ゴム弾性体から成るインナストッパゴム部と、を有するストッパゴム部付き防振装置であって、
前記インナストッパゴム部を周方向に複数分割した形態のストッパゴム片を、前記本体ゴム部の端部に隣接して部分的に薄肉に設けたヒンジ部を経て該本体ゴム部から連続して延びる形態で、且つインナストッパゴム部を構成したときとは表裏逆向きの形状で、前記本体ゴム部の加硫成形時に前記薄肉のヒンジ部とともに一体に加硫成形した上、該ストッパゴム片を該ヒンジ部で前記本体ゴム部の内側に折り返し、前記収容空間内で各ストッパゴム片を周方向に合せて前記インナストッパゴム部を構成してあることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ストッパゴム片と前記本体ゴム部との、前記ヒンジ部による繋ぎ目が直線状をなしていることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、複数分割されたうちの1つの前記ストッパゴム片と前記本体ゴム部との前記ヒンジ部による繋ぎ目は、外部入力の主入力方向と直交方向に分割されておらず、該直交方向に連続した1つの繋ぎ目となっていることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記本体ゴム部は筒形をなしていて、前記収容空間が該本体ゴム部にて取り囲まれた環状空間をなしており、
前記インナストッパゴム部は筒形をなしていて、周方向に複数のストッパゴム片に分割されていることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記インナストッパゴム部は前記ストッパゴム片に周方向に4分割されていることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム部の上端部に前記第1取付部材が、下端部に前記第2取付部材が設けられており、該本体ゴム部の内側の前記収容空間及び前記インナストッパゴム部をエンジン側のブラケットが上下に貫通して前記第1取付部材に固定されるとともに、前記第2取付部材が車体側のブラケットに固定されるようになしてあり、前記エンジン側を吊下式に弾性支持する吊下型のエンジンマウントである請求項4,5の何れかに記載のストッパゴム部付き防振装置。
【請求項7】
請求項4〜6の何れかにおいて、前記インナストッパゴム部は車両前後方向に突出する前後ストッパ部と、車両左右方向に突出する左右ストッパ部とを有しており、且つそれら前後ストッパ部と左右ストッパ部との間には周方向に隙間を有していることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかにおいて、前記薄肉のヒンジ部は、前記ストッパゴム片の折返し状態で横断面形状が湾曲形状をなしていることを特徴とするストッパゴム部付き防振装置。
【請求項9】
(イ)剛性の第1取付部材及び第2取付部材と、(ロ)それら第1取付部材と第2取付部材とを弾性連結する主ゴム部としてのゴム弾性体から成る本体ゴム部と、(ハ)該本体ゴム部の内側に形成される収容空間に配置された、ゴム弾性体から成るインナストッパゴム部と、を有するストッパゴム部付き防振装置の製造方法であって、
前記インナストッパゴム部を周方向に複数分割した形態のストッパゴム片を、前記本体ゴム部の端部から薄肉のヒンジ部を経て連続して延びる形態で、且つインナストッパゴム部を構成したときとは表裏逆向の形状で、前記本体ゴム部の加硫成形時に前記ヒンジ部とともに一体に加硫成形し、しかる後に前記複数のストッパゴム片のそれぞれを該ヒンジ部で前記本体ゴム部の内側に折り返し、前記収容空間内で各ストッパゴム片を周方向に合せて前記インナストッパゴム部を構成することを特徴とするストッパゴム部付き防振装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−137155(P2012−137155A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290632(P2010−290632)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】