説明

スパッタリング装置、スパッタリング方法及び金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法

【課題】平面性に優れ且つ生産性にも優れる両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】巻出ロール111から巻き出された耐熱性樹脂フィルム112は駆動ロール118、119、120、121、122、123により折り返された間で、耐熱性樹脂フィルム112方向に開口部がある2つの開口部を有する少なくとも4ユニットの対向スパッタリングユニット129、130、131,132により、耐熱性樹脂フィルム112の第1成膜面と第2成膜面に同時に成膜が進行する。両端の対向スパッタリングユニット129、132の片側は片面成膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺樹脂フィルムの両面にスパッタリング法で成膜を行うスパッタリング方法、このスパッタリング方法を用いた金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法及びスパッタリング装置に関し、フレキシブル配線基板に適用される金属ベース層付樹脂フィルムの製造、特に、両面に金属膜を成膜する金属ベース層付樹脂フィルムの製造に好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルム上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられ、このフレキシブル配線基板には、樹脂フィルムのうち耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムが用いられている。金属膜付耐熱性樹脂フィルムには、配線パターンの繊細化、高密度化に伴って平坦性が求められてきている。
【0003】
上記のような金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、従来、(1)金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法、
(2)金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法、
(3)耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等)若しくは湿式めっき法により金属膜を成膜して製造する方法等が知られている。
【0004】
また、特許文献1では、真空成膜法若しくは湿式めっき法を用いる3番目の製造方法として、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する方法が開示されており、また、特許文献2では、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて薄膜の金属ベース層をまず成膜し、続いて、成膜速度の速い湿式めっき法を用いて上記金属ベース層上に厚膜の金属膜を形成し、金属膜付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献1では、金属膜の密着力を更に高めるため、2種類のスパッタリングターゲットを用いた方法も開示されている。すなわち、ニッケル銅合金をスパッタリングターゲットとして第一の金属薄膜をまず成膜し、続いて、銅等をスパッタリングターゲットとして上記金属シード層上に厚膜の金属膜を成膜する方法が提案されている。
【0006】
さらに、成膜速度の速い電気めっき法と成膜速度の遅いスパッタリング法を併用する技術が特許文献2に開示されている。特許文献2の製造方法は、スパッタリング法のみを用いる特許文献1の方法と比較して製造効率に優れるため、特許文献2に記載された製造方法が広く利用されている。
【0007】
スパッタリング法と湿式めっき法(電気めっき法)で作製された金属膜付耐熱性樹脂フィルムの構造を図1に示す。耐熱性樹脂フィルム1の上にスパッタリング法により金属シード層2と金属ベース層3を成膜し、湿式めっき法により金属膜4を成膜している。
【0008】
ところで、耐熱性樹脂フィルム1の両面に金属ベース層3をスパッタリング法などの真空成膜法により成膜するには、2つの方法がある。一つは、耐熱性樹脂フィルム1の表面に金属ベース層3を成膜した後に、真空成膜装置から一旦、取り出し、フィルムを裏返してセットし直して裏面に金属ベース層3(図1参照)を成膜する方法であり、もう一つは、図2に示す耐熱性樹脂フィルム1の表面に金属ベース層3を成膜した後、真空中で連続して裏面に金属ベース層3を成膜する方法がある。特許文献3には、連続高分子フィルムの両面上に磁性薄膜を連続的にスパッタリング法で成膜する技術が開示されている。
【0009】
図2の両面スパッタリング方法について説明する。真空チャンバー5内の巻出ロール6から巻き出された耐熱性樹脂フィルム7は、冷却キャンロール10上で第1成膜面にカソード22,23,24,25からスパッタリング法により成膜され、続いて冷却キャンロール17上で第2成膜面にカソード26,27,28,29からスパッタリング法により成膜され、巻取ロール21に巻き取られる。巻出ロール6と巻取ロール21はサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルムの張力バランスが保たれており、キャンロール10,17の回転により巻出ロールから長尺の耐熱性樹脂フィルムが巻き出されて巻取ロール21に巻き取られる。巻出ロール6から巻取ロール21までの搬送路には、駆動ロール8、12、15、19と張力センサーロール9、11、16、18が配置されている。この方法は、真空中で連続して両面に成膜を行っているが、両面同時ではなく、第1成膜面に成膜後に、第2成膜面が成膜されているので、第1成膜面と第2成膜面成膜された膜の応力が異なってしまい耐熱性樹脂フィルム7の反りやウネリの原因となっている。しかし、耐熱性樹脂フィルム7への成膜は冷却が必要であるため、裏面を冷却キャンロールで冷却する必要があり、両面同時成膜は不可能であった。
【0010】
さらに、図2に示す方法では、冷却キャンロール10,17上を通過中に膜厚が増加していくが、膜厚の増加による応力や耐熱性樹脂フィルムへの熱負荷による熱収縮・熱膨張により、耐熱性樹脂フィルム7の長さが変化すると冷却キャンロール10,17上で無理な引っ張りや弛みが発生することがある。
【0011】
前述したように、スパッタリング法ではスパッタ源から電子が基板に飛来することに起因するジュール熱によって耐熱性樹脂フィルムの温度上昇が問題となっている。特許文献4には、直方体内部にスパッタリングターゲットが互いに向き合うように配置されて、1つの開口部を有する対向スパッタが記載されている。対向スパッタは、電子が直接耐熱性樹脂フィルムに直接飛来しないために耐熱性樹脂フィルムの温度上昇が低減できる方法として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3447070号
【特許文献2】特許第3570802号
【特許文献3】特開2004−11023号
【特許文献4】特開2005−48227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記のような問題点に鑑み、その課題とするところは、平面性に優れ且つ生産性にも優れる両面金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できるスパッタリング装置、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム製造方法及びスパッタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者は、2つの開口を有する対向スパッタリングユニットを少なくとも4ユニット以上備え、第1成膜面(長尺樹脂フィルムの一方の面)と第2成膜面(長尺樹脂フィルムの他方の面)に交互に成膜を行う方法を試みた。また、第1成膜面も第2成膜面も一回ではなく二回に分けて所定の厚さの膜を形成できる。
【0015】
すなわち、2つの開口を有する対向スパッタリングユニットを備えるスパッタリング装置を用いて、第1成膜面と第2成膜面に交互に成膜を行う方法では、第1成膜面と第2成膜面の膜厚を交互に厚くしていくことが可能なため、一回の成膜では、比較的薄い膜しか形成しなくて済むので、両面の膜応力の差を低減できる。
【0016】
従って、本発明の2つの開口部を有する対向スパッタリングユニットを備えるスパッタリング装置を用いた第1成膜面と第2成膜面に交互に成膜を行うことが可能な金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法を用いた場合、平面性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できることを見出すに至った。本発明はこのような技術的知見により完成されたものである。
【0017】
即ち、上記目的を達成するための本発明のスパッタリング装置は、
(1)互いに対向するターゲットを構成する金属の電子がこの対向する領域が成す空間から外部に向かって飛び出すための開口が2つ形成された対向スパッタリングユニットと、
(2)長尺樹脂フィルムが巻き回された巻出ロールから巻き出された前記長尺樹脂フィルムの一方の面を前記2つの開口の一方の開口に対向させるように案内し、その後、前記一方の開口に案内された前記一方の面を、前記一方の開口とは異なる他方の開口に対向させるように案内する複数のガイドロールとを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
ここで、前記対向スパッタリングユニットは、
(3)前記2つの開口が互いに向き合うように所定間隔離されて配列された複数のものであり、
【0019】
前記ガイドロールは、
(4)前記互いに向き合う開口の間を前記長尺樹脂フィルムが通過するように案内するものであってもよい。
【0020】
また、前記複数のガイドロールは、
(5)前記長尺樹脂フィルムを前記巻出ロールから巻き出して搬送するための複数の駆動ロールであってもよい。
【0021】
さらに、
(6)前記複数の駆動ロールは、前記樹脂フィルムの搬送方向下流側に向かうほど、その回転速度が速くなるように制御されるものであってもよい。
【0022】
さらにまた、
(7)前記駆動ロールは、前記樹脂フィルムの搬送方向下流側に向かうほど、その回転速度が遅くなるように制御されるものであってもよい。
【0023】
また、上記目的を達成するための本発明のスパッタリング方法は、
(8)互いに対向するターゲットを構成する金属の電子がこの対向する領域が成す空間から外部に向かって飛び出すための開口が2つ形成された第1対向スパッタリングユニットと、この第1対向スパッタリングユニットと同じ構造の第2対向スパッタリングユニットと、この第2対向スパッタリングユニットと同じ構造の第3対向スパッタリングユニットと、この第3対向スパッタリングユニットと同じ構造の第4対向スパッタリングユニットとを、それぞれの2つの開口のうちのいずれか一方の開口が互いに向き合うように一列に配置しておき、
(9)前記一列に配置された4つの対向スパッタリングユニットの一番端の第1対向スパッタリングユニットの2つの開口の一方の開口に対向させるように長尺樹脂フィルムの一方の面をガイドロールで案内してこの一方の面に成膜し、続いて、前記一方の開口に案内された前記一方の面を、前記一方の開口とは異なる他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら、前記成膜された一方の面に重ねて成膜する第1成膜工程と、
(10)前記第1成膜工程で、前記他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら成膜した前記一方の面の反対側の面に前記第2対向スパッタリングユニットで成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜する第2成膜工程と、
(11)前記第2成膜工程で、前記他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら成膜した前記一方の面の反対側の面に前記第3対向スパッタリングユニットで成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜する第3成膜工程と、
(12)前記第3成膜工程で、前記他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら成膜した前記一方の面の反対側の面に前記第4対向スパッタリングユニットで成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜する第4成膜工程とを含むことを特徴とするものである。
【0024】
ここで、
(13)前記ガイドロールが前記長尺樹脂フィルムを案内するときの搬送速度は、その搬送方向下流側に向かうほど遅くなるものであってもよい。
【0025】
また、
(14)前記ガイドロールが前記長尺樹脂フィルムを案内するときの搬送速度は、その搬送方向下流側に向かうほど速くなるものであってもよい。
【0026】
さらに、
(15)前記長尺樹脂フィルムは、長尺耐熱性樹脂フィルムであってもよい。
【0027】
さらにまた、
(16)前記長尺樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルムから選ばれる1種で構成されたものであってもよい。
【0028】
さらにまた、上記目的を達成するための本発明の金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法は、
(17)上記したいずれかのスパッタリング方法により、前記長尺樹脂フィルムの前記一方の面に金属の薄膜の金属シード層を前記第1成膜工程で成膜し、続いて、前記一方の面の反対側の面にも前記第1成膜工程で金属シード層を成膜し、
(18)前記金属シード層が所望の膜厚となるまで前記一方の面と前記反対側の面に成膜を繰り返し、
(19)前記一方の面の金属シード層の表面にCuまたはCu合金から選択される金属ベース層をいずれかの前記成膜工程で成膜し、前記一方の面の金属シード層の表面に前記金属ベース層をいずれかの前記成膜工程で成膜し、前記一方の面と前記他方の面の金属ベース層が前記所望の膜厚となるまで前記一方の面と前記他方の面に成膜を繰り返し、前記長尺樹脂フィルムの両面に金属シード層と金属ベース層の2層からなる積層体を成膜することを特徴とするものである。
【0029】
ここで、
(20)前記金属シード層がNiまたはNi合金であってもよい。
【0030】
また、
(21)前記Ni合金がNi−Cr合金層であってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本願発明のスパッタリング装置によれば、2つの開口を有する対向スパッタリングユニットの一方の開口にガイドロールによって案内される樹脂フィルムの一方の面に成膜し(一回目の成膜)、続いて、この一方の面を他方の開口に対向させて成膜する(二回目の成膜)ので、一回の成膜では、比較的薄い膜しか形成しなくて済むので、両面の膜応力の差を低減でき、平坦性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率良く製造でき、配線パターンの繊細化、高密度化に対応できる。
【0032】
また、本願発明のスパッタリング方法によれば、第1成膜工程で、長尺樹脂フィルムの一方の面に成膜し、続いて、この成膜された一方の面に重ねて成膜し、第2成膜工程で、一方の面の反対側の面に成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜し、第3成膜工程で、第2成膜工程で成膜した一方の面の反対側の面に成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜し、第3成膜工程で成膜した前記一方の面の反対側の面に成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜するので、一回の成膜工程では、比較的薄い膜しか形成しなくて済み、両面の膜応力の差を低減でき、平坦性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率良く製造でき、配線パターンの繊細化、高密度化に対応できる。
【0033】
さらに、両面に交互に成膜されていく膜の応力や金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの熱収縮・熱膨張により、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムがその長さ方向に伸びても縮んでも、駆動ロールの回転速度を個別に設定することで、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに無理な引っ張りや弛みを与えることなく対応することが可能となる。
【0034】
また、本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法は、巻き出しロールから巻き出された長尺の耐熱性樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻き取りロールに巻き取ると共に、巻き出しロールと巻き取りロール間の搬送路上において、駆動ロール間に配置された2つの開口部を有する対向スパッタリングユニットにより、折り返された耐熱性樹脂フィルムに少なくとも第1成膜面を2回、第2成膜面を2回、さらに、第1成膜面を2回、第2成膜面を2回の繰り返し成膜が可能であり、これら駆動ロールの回転速度を個別に設定できることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明で成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムの概略構成を示す断面図である。
【図2】従来技術に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Aの概略構成を示す説明図である。
【図3】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Bの概略構成を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Cの概略構成を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明で成膜した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの概略構成を示す断面図である。
【図6】本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置の対向スパッタリングユニット概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のスパッタリング法は、樹脂フィルムのうち耐熱性樹脂フィルムの両面にスパッタリング法で成膜を行うスパッタリング方法(成膜方法)に関する。本発明のスパッタリング法を金属膜が形成されてなる金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造を例に説明する。
1.金属膜付耐熱性樹脂フィルムS
【0037】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムSは、図1に示すように耐熱性樹脂フィルム1の両面に接着剤を介さずに金属シード層2、金属ベース層3、金属膜4の順に積層された構造である。
【0038】
金属シード層2は、ニッケル−クロム合金で形成することが望ましい。金属シード層の層厚は、5nm〜50nmが望ましい。
【0039】
クロムを添加元素とするニッケル−クロム系合金からなる金属シード層2の層厚が5nm未満である場合、その後の処理工程を経ても金属シード層2の長期的な密着性に問題が生じてしまう。さらに、金属シード層2の層厚が5nm未満では、配線加工を行う時のエッチング液が染み込み配線部が浮いてしまうことなどにより配線ピール強度(配線と基板との密着性)が著しく低下するなどの問題が発生するため、好ましくない。一方、金属シード層2の層厚が50nmを超えるときは、配線部の加工に際して金属シード層2の除去が困難となり、さらには、ヘヤークラックや反りなどを生じて密着強度が低下する場合があるので好ましくない。また、層厚が50nmよりも厚くなると、エッチングを行うことが難しくなるため、やはり好ましくない。
【0040】
この金属シード層2の成分組成は、クロムの割合が5〜40原子%であることが、耐熱性や耐食性の観点から必要であり、より望ましいクロムの割合は12〜22原子%である。すなわち、クロムの割合が5原子%未満であるときは耐熱性が低下してしまい、一方、クロムの割合が40原子%を超えたときは配線部の加工に際して金属シード層2の除去が困難となるので好ましくない。さらにこのニッケル−クロム合金に、耐熱性や耐食性を向上する目的でモリブデンやバナジウム等の他の遷移金属元素を目的や特性に合わせて適宜添加することができる。なお、耐食性、絶縁信頼性の向上や配線部の加工性を考慮して金属シード層の組成が決められる。
【0041】
金属ベース層3の層厚は、50nm〜1000nm以下が望しく、より望ましくは50nm〜500nmである。金属ベース層には銅を用いる。
【0042】
金属膜4は、金属ベース層3の表面に、必要に応じて成膜する。金属膜4は、配線加工されて導体となることから銅で形成することが望ましい。金属ベース層3と金属膜4を含めた厚みが10nm〜12μmとすることが望ましい。なお、金属膜4は、後述する配線パターンの形成方法に応じて、その膜厚を適宜選択し、また、金属膜4を設けないことも適宜選択できる。
【0043】
耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0044】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムSの製造手順は、耐熱性樹脂フィルム1の表面にシード層2と、各金属シード層2の表面に金属ベース層3とをスパッタリング法により成膜して金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを製造し、続いて、各金属ベース層3の表面に湿式めっき法により金属膜4を成膜することにより製造する。湿式めっき法は、公知の無電解めっき法や電解めっき法を用いることができ、複数の湿式めっき法を組み合わせても良い。
【0045】
2.成膜装置
本発明の成膜装置は、長尺樹脂フィルムの両面に金属シード層2と金属ベース層3を成膜する手段として適用することができる。
本発明の成膜装置は、巻き出しロールから巻き出された長尺の耐熱性樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻き取りロールに巻き取ると共に、前記耐熱性樹脂フィルムの表面にスパッタリング法で成膜を行うスパッタリング装置において、巻き出しロールと巻き取りロール間の搬送路上に、4個以上の隣接する駆動ロール(本発明にいうガイドロールの一例であり、駆動のみならずガイドの機能も有する。)が前記耐熱性樹脂フィルムを折り返す搬送路を構成して配置され、前記駆動ロール間に配置されかつ搬送路に向き開いた2つの開口部を有する対向スパッタリングユニットにより、耐熱性樹脂フィルムに少なくとも第1成膜面を2回、第2成膜面を2回、さらに、第1成膜面を2回、第2成膜面を2回成膜の成膜工程を順に繰り返しながら、前記長尺樹脂フィルムの両面に複数の薄膜を重ねて成膜することができることを特徴とするスパッタリング装置である。前記耐熱性樹脂フィルムの搬送路を折り返す駆動ロールを4つ以上配置させることで、耐熱性樹脂フィルムの搬送路に4カ所以上の折り返し箇所を設けることで、4個以上の対向スパッタリングユニットを設けることが可能となる。4個以上の対向スパッタリングユニットを設けることで、前記耐熱性樹脂フィルム各面に2個以上の対向スパッタリングユニットによるスパッタリング成膜が可能となり、2種類以上の異なるスパッタリング膜の積層や、スパッタリング膜の膜厚を厚くすることが可能となる。
【0046】
また、巻出ロールと巻取ロールはサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルムの張力バランスが保たれており、駆動ロールの回転により巻出ロールから長尺の耐熱性樹脂フィルムが巻き出されて巻き取りロールに巻き取られる。
【0047】
3.金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置
【0048】
本発明のスパッタリング方法および成膜装置を金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造に用いた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置について、図3、図4を用いて詳細に説明する。図3、図4の装置構成は基本的に同じ構成あり、これらの違いは、駆動ロール位置と本数、2つの開口部を有する対向スパッタリングユニット個数が異なる点であり、図3の装置構成は前後非対称構造であるが第1成膜面と第2成膜面の成膜回数が等しく、一方、図4の装置構成は前後対称構造であるが第1成膜面と第2成膜面の成膜回数が異なる。
【0049】
本発明の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置B(スパッタリング装置B)について図3を用いて詳細に説明する。
【0050】
スパッタリング装置Bのスパリング真空チャンバー110内には、耐熱性樹脂フィルム112(本願発明にいう長尺樹脂フィルムの一例である)が巻き回された巻出ロール111が配置されており、この巻出ロール111から巻き出された耐熱性樹脂フィルム112は駆動ロール118、119、120、121、122、123により折り返された間で、耐熱性樹脂フィルム112方向に開口部がある2つの開口部を有する少なくとも4ユニットの対向スパッタリングユニット129、130、131,132により、耐熱性樹脂フィルム112の第1成膜面と第2成膜面に同時に成膜が進行する。(ただし、両端の対向スパッタリングユニットの片側は片面成膜)。対向スパッタリングユニット129での成膜が本発明にいう第1成膜工程であり、。対向スパッタリングユニット130での成膜が本発明にいう第2成膜工程であり、対向スパッタリングユニット131での成膜が本発明にいう第3成膜工程であり、対向スパッタリングユニット132での成膜が本発明にいう第4成膜工程である。
【0051】
このようにして、両面の膜厚が交互に増加しながら巻取ロール128に巻き取られる。
【0052】
巻出ロール111と巻取ロール128はサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルムの張力バランスが保たれており、駆動ロールの回転により巻出ロールから長尺の耐熱性樹脂フィルム112が巻き出されて巻取ロール128に巻き取られる。この間の駆動ロール115、125と張力センサーロール114、126、フリーロール113、116、117、124、127が配置されている。
【0053】
4ユニットの対向スパッタリングユニット129、130、131,132で第1成膜面(本発明にいう一方の面)と第2成膜面(本発明にいう反対側の面)に交互に成膜を行う方法では、第1成膜面と第2成膜面の膜厚を交互に厚くしていくことが可能なため、両面の膜応力の差を低減でき、反りやウネリを抑制し平面性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できる。
さらには、両面に交互に成膜されていく膜の応力や金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの熱収縮・熱膨張により、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム長が伸びても縮んでも、駆動ロールの回転速度を個別に設定することで、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに無理な引っ張りや弛みを与えることなく対応することが可能となる。
【0054】
本発明の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Cについて図4を参照して説明する。
【0055】
逆転成膜を行うことを考慮すると対称性の高い構造が望ましい。図4の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Cは、図3の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Bよりも、対向スパッタリングユニットを1ユニット増やして対称性を高めている。これは、往復搬送しながら成膜を行うような製品に対して適した構造のスパッタ装置である。
【0056】
真空チャンバー140内の巻出ロール141から巻き出された耐熱性樹脂フィルム142は、駆動ロール147、148、149、150、151、152、153により折り返された間で、耐熱性樹脂フィルム142方向に開口部がある2つの開口部を有する少なくとも5ユニットの対向スパッタリングユニット159、160、161、162、163により、耐熱性樹脂フィルム142の第1成膜面と第2成膜面に同時に成膜が進行する。(ただし、両端の対向スパッタリングユニットの片側は片面成膜)
【0057】
そして、両面の膜厚が交互に増加しながら巻取ロール158に巻き取られる。
【0058】
巻出ロール141と巻取ロール158はサーボモータのトルク制御により耐熱性樹脂フィルムの張力バランスが保たれており、駆動ロールの回転により巻出ロールから長尺の耐熱性樹脂フィルム142が巻き出されて巻取ロール158に巻き取られる。この間の駆動ロール145、155と張力センサーロール144、156、フリーロール143、146、154、156が配置されている。
5ユニットの対向スパッタリングユニット159、160、161、162、163で第1成膜面と第2成膜面に交互に成膜を行う方法では、第1成膜面と第2成膜面の膜厚を交互に厚くしていくことが可能なため、両面の膜応力の差を低減でき、平面性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できる。第1成膜面の対向スパッタリングユニットは3ユニット、第2成膜面の対向スパッタリングユニットは2ユニットであるため、両面同じ膜厚にするためには各カソードのスパッタ電力(電圧、電流)を調整する必要がある。
さらには、両面に交互に成膜されていく膜の応力や金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの熱収縮・熱膨張により、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム長が伸びても縮んでも、駆動ロールの回転速度を個別に設定することで、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに無理な引っ張りや弛みを与えることなく対応することが可能となる。
【0059】
本発明の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置は、成膜前の両面にヒータ加熱による乾燥処理やイオンビーム・プラズマ等を用いた前処理を設置してもよい。また、本発明の装置は各ロールの回転軸方向は水平方向の横並びに限らず、水平方向の縦並び、垂直も垂直方向でも構わない。さらに、対向スパッタリングユニットは、駆動ロール間に2ユニット以上設置しても、耐熱性樹脂フィルムを挟む対向スパッタリングユニットは、それぞれの真っ正面にある必要もなく、千鳥に配置しても構わない。
4.対向スパッタリングユニット
スパッタリング法ではスパッタ源から電子が基板に飛来することに起因するジュール熱によって耐熱性樹脂フィルムの温度上昇が問題となっている。特に、平板型ターゲットはスパッタからの電子が直接基板に飛来する配置であるため、耐熱性樹脂フィルムと言えども、熱負荷により熱収縮が生じたり、シワが発生することがある。これを防止するために、スパッタリング成膜中の耐熱性樹脂フィルムの裏側から水冷キャンロール等により冷却することが必要になる。しかし、この水冷キャンロールは複雑な内部構造で重量も重いため回転機構等も大がかりな機構になってしまう。ところが、直方体内部にスパッタリングターゲットが互いに向き合うように配置されて対向スパッタは、電子が耐熱性樹脂フィルムに直接飛来しないために耐熱性樹脂フィルムの温度上昇が低減できる方法であるため、耐熱性樹脂フィルムの冷却機構が不要になり、きわめてシンプルなスパッタリング装置を構成することができる。
【0060】
図6に示す本発明に用いる対向スパッタリングユニットXは2枚のターゲット170、171が対向して配置され、その裏側には磁気回路であるカソードユニット172、173があり、この2枚のターゲットを囲むように囲い板174、175が設置される。そして、2カ所の開口部(本発明にいう開口の一例である)を有する。開口部以外の4面にターゲットを配置しても構わない。また、本発明にいう「対向する領域が成す空間」とは、囲い板174、175に挟まれた空間Tでもある。
【0061】
例えばスパッタリング装置Bにおいて、対向スパッタリングユニットXの2カ所の開口部は、駆動ロール119、120、121、122で折り返される前後の耐熱性樹脂フィルムに向いている。駆動ロールを通過して2回目の成膜が行を行うことが可能となり、一度の成膜では薄い膜しか形成しなくて済むので、両面の膜応力の差を低減することができる。
【0062】
なお、対向スパッタリングユニットXを用いても、スパッタリング装置Bの駆動ロール118、119、120、121、122、123およびスパッタリング装置Cの駆動ロール147、148、149、150、151、152、153の内部に冷却又は加温の為の液体を循環させても良い。これら駆動ロールの内部に冷却又は加温用の液体を循環させることで、成膜時の耐熱性樹脂フィルムの温度変化をさらに抑制することができる。
5.金属膜
【0063】
得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層上に湿式めっき法を用いて金属膜を形成する場合、電気めっき処理のみで行う場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合がある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0064】
そして、本発明のスパッタリング方法で得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層の表面に、湿式めっき法により金属膜を更に形成することにより、両面の膜応力の差を低減させた金属膜付耐熱性樹脂フィルムを得ることが可能となる。尚、このようにして上記金属シード層上にそれぞれ形成される乾式めっき法(スパッタリング法)による金属シード層および金属ベース層と、湿式めっき法による金属層(上記金属ベース層と金属膜)の合計厚さは、厚くとも20μm以下にすることが好ましい。
6.配線パターン
【0065】
このようにして得られた金属膜付耐熱性樹脂フィルムを用いて、この金属膜付耐熱性樹脂フィルムの少なくとも片面に配線パターンを個別に形成する。また、所定の位置に層間接続のためのヴィアホールを形成して各種用途に用いることもできる。より具体的に説明すると、(1)配線パターンを金属膜付耐熱性樹脂フィルムの少なくとも片面に個別に形成して利用する。(2)配線パターンが形成された金属膜付耐熱性樹脂フィルムで耐熱性樹脂フィルムを貫通するヴィアホールを形成して利用する。(3)場合によっては、該ヴィアホール内に導電性物質を充填してホール内を導電化して利用する。
【0066】
上記配線パターンの形成方法としては、公知のサブトラクティブ法やセミアディティブ法を用いることができる。
サブトラクティブ法は、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの不要な金属膜と属ベース層と金属シード層を化学エッチングで除去して配線パターンを形成する。金属膜付耐熱性樹脂フィルムを準備し、該金属膜上にスクリーン印刷あるいはドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成した後、露光現像して配線パターンの箇所にレジスト膜が残るようにパターニングする。次いで、塩化第2鉄溶液等のエッチング液で該金属膜を選択的にエッチング除去した後、上記レジスト膜を除去して所定の配線パターンを形成する。両面に配線パターン加工することが好ましい。全ての配線パターンを幾つかの配線領域に分割するかどうかは、配線パターンの配線密度の分布等による。例えば、配線パターンを、配線幅と配線間隔がそれぞれ50μm以下の高密度配線領域とその他の配線領域に分け、プリント基板との熱膨張差や取扱い上の都合等を考慮して分割する配線基板のサイズを10〜65mm程度に設定して適宜分割すればよい。
【0067】
また、上記ヴィアホールの形成方法としては、従来公知の方法が利用でき、例えば、レーザー加工等により、配線パターンの所定の位置に該配線パターンと耐熱性樹脂フィルムを貫通するヴィアホールを形成する。ヴィアホールの直径は、ホール内の導電化に支障を来たさない範囲内で小さくすることが好ましく、通常100μm以下、好ましくは50μm以下にする。ヴィアホール内には、めっき、蒸着、スパッタリング等により銅等の導電性金属を充填あるいは所定の開孔パターンを持つマスクを使用して導電性ペーストを圧入、乾燥し、ホール内を導電化して層間の電気的接続を行う。
【0068】
セミアディティブ法は、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの金属膜の表面に、配線パターンを設けたい箇所のみ湿式めっき法で配線膜を厚く成膜し、その後、ソフトエッチングで不要な金属膜と属ベース層と金属シード層を除去する配線方法である。金属膜付耐熱性樹脂フィルムを準備し、該金属膜上にスクリーン印刷あるいはドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成した後、露光現像して配線パターンの箇所が露出するようにレジスト膜が残るようにパターニングする。レジストの露光現像後に湿式めっき法で配線パターンを厚く成膜し、その後、配線パターンに不要な金属膜等をソフトエッチング(化学エッチング)で除去する。ヴィアホールの形成はサブトラクティブ法と同様である。なお、セミアディテイブ法で配線パターンを形成する際は、金属膜を湿式めっき法で成膜していない金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いても良い。
【0069】
これまで、樹脂フィルムのうち耐熱性樹脂フィルムの両面に金属シード層と金属ベース層を成膜した金属ベース層付樹脂フィルム基板の製造方法を中心に説明してきた。本発明は、樹脂フィルムの両面には金属シード層や金属ベース層をスパッタリング成膜に限定されず、酸化物膜や窒化物膜などをスパッタリング成膜に用いることができるのはもちろんである。
【0070】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0071】
図3に示す本発明の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Bを用い、上記長尺の耐熱性樹脂フィルム112には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0072】
対向スパッタリングユニット129、130には金属シード層のターゲットであるNi−Crターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用い、対向スパッタリングユニット131、132には金属ベース層のターゲットであるCuターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。
【0073】
始めに、ドライポンプを用いて5Paまで排気し、次にターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10−3Paまで排気し、各カソード近傍にArガスをそれぞれ200sccm導入した。フィルム搬送速度2m/minにして、金属シード層の対向スパッタリングユニット129、130には5kW、金属ベース層の対向スパッタリングユニット131、132には15kWのDCスパッタ電力を印加した。また、張力センサーロール114、126の張力が80Nになるように張力制御を行った。フィルム搬送速度2m/minに対する駆動ロール118の回転速度を100%とすると、駆動ロール119は100.2%、駆動ロール120は100.4%、駆動ロール121は100.6%、駆動ロール122は100.8%、駆動ロール123は101.0%に増加設定した。このように設定したのは、この耐熱性樹脂フィルムとこの成膜条件では、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが伸びる傾向にあったためである。もちろん、収縮する傾向にある金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムならば、減速設定にすればよい。
【0074】
500m両面成膜後に、フィルムの搬送を停止し、Arガス導入を停止し、かつ、各ポンプを停止してからベント(大気開放)し、巻出ロールの耐熱性ポリイミドフィルムの終端部を外し、全てのフィルムを巻取ロールに巻き取ってから取り外した。
【0075】
そして、図5に示すように、得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に形成されたCuの金属シード層と金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に形成されたCuの金属シード層と金属ベース層)を部分的にエッチングし、かつ、それぞれの面に形成された金属シード層であるNi−Cr層膜厚と金属ベース層Cu層膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面ともNi−Cr層膜厚は約15nm、Cu層膜厚は約150nm、であった。
[比較例]
【0076】
実施例と同様に、図2に示す金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置Aを用い、上記長尺の耐熱性樹脂フィルム142には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0077】
金属シード層のカソード22と26にはNi−Crターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用い、金属ベース層のカソード23、24、25、27、28、29にはCuターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。
【0078】
始めに、ドライポンプを用いて5Paまで排気し、次にターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10−3Paまで排気し、各カソード近傍にArガスをそれぞれ200sccm導入した。フィルム搬送速度2m/minにして、金属シード層のカソード22と26には5kW、金属ベース層のカソード23、24、25、27、28、29には6kWのDCスパッタ電力を印加した。また、張力センサーロール9、11、16、18の張力が80Nになるように張力制御を行った。フィルム搬送速度2m/minに対する水冷キャンロール10の回転速度を100%とすると、水冷キャンロール17は101.5%に増加設定した。このように設定したのは、この耐熱性樹脂フィルムとこの成膜条件では、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが伸びる傾向にあったためである。もちろん、収縮する傾向にある金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムならば、減速設定にすればよい。
【0079】
500m両面成膜後に、フィルムの搬送を停止し、Arガス導入を停止し、かつ、各ポンプを停止してからベント(大気開放)し、巻出ロールの耐熱性ポリイミドフィルムの終端部を外し、全てのフィルムを巻取ロールに巻き取ってから取り外した。
【0080】
そして、図5に示すように、得られた金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム100の一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に形成されたNi−Crからなる金属シード層120とCuからなる金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に形成されたNi−Crからなる金属シード層120とCuからなる金属ベース層130)を部分的にエッチングし、かつ、それぞれの面に形成された金属シード層であるNi−Cr層膜厚と金属ベース層Cu層膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面ともNi−Cr層膜厚は約15nm、Cu層膜厚は約150nm、であった。
【0081】
「評 価」
【0082】
本発明の実施例で作製した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムと従来技術の比較例で作製した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの平坦性を比較した。
【0083】
両方の金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを直径30mmの円形にそれぞれ10枚切り抜き、金属定盤上で、最大ギャップを測定した。その結果、本発明の実施例で作製した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの最大ギャップの平均値は0.1mm以下(測定不能レベル)、従来技術の比較例で作製した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの最大ギャップの平均値は0.3mmであった。
また、本発明は水冷キャンロールを採用していないにも関わらず従来技術の比較例(水冷キャンロールを採用)で作製した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムと同様に目視で確認できるシワの発生は無かった。
【0084】
そして、本発明に係るスパッタリング装置(製造装置)によって製造した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムは、交互に両面の膜厚を増加させたため、膜応力が従来技術より等しいため、平坦性に優れ、配線パターンの繊細化、高密度化に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る製造装置によれば、平坦性に優れる金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム金属ベース層を効率よく製造できるため、この金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムから得られる金属膜付耐熱性樹脂フィルムを液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線に適用できる産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0086】
1 耐熱性樹脂フィルム
2,120 スパッタリング法による金属シード層
3,130 スパッタリング法による金属ベース層
4 湿式めっき法による金属膜
5 110,140 金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置の真空チャンバー
6,21,128,158 巻取ロール
8,12,15,19,115,118,119,120,121,122,123,125,145,147,148,149,150,151,152,153,155 駆動ロール
13,14,20,33,34,36,46,47,73,74,86,87,113,116,117,124,127,143,146,154,157 フリーロール
114,126,144,156 張力センサーロール
129,130,131,132,159,160,161,162,163 対向スパッタリングユニット
7,112,142,100 耐熱性樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)
6,111,141 巻出ロール
170,171 ターゲット
172,173 カソードユニット
174,175 囲い板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向するターゲットを構成する金属の電子がこの対向する領域が成す空間から外部に向かって飛び出すための開口が2つ形成された対向スパッタリングユニットと、
長尺樹脂フィルムが巻き回された巻出ロールから巻き出された前記長尺樹脂フィルムの一方の面を前記2つの開口の一方の開口に対向させるように案内し、その後、前記一方の開口に案内された前記一方の面を、前記一方の開口とは異なる他方の開口に対向させるように案内する複数のガイドロールとを備えたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記対向スパッタリングユニットは、前記2つの開口が互いに向き合うように所定間隔離されて配列された複数のものであり、
前記ガイドロールは、前記互いに向き合う開口の間を前記長尺樹脂フィルムが通過するように案内するものであることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記複数のガイドロールは、前記長尺樹脂フィルムを前記巻出ロールから巻き出して搬送するための複数の駆動ロールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記複数の駆動ロールは、前記樹脂フィルムの搬送方向下流側に向かうほど、その回転速度が速くなるように制御されるものであることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記駆動ロールは、前記樹脂フィルムの搬送方向下流側に向かうほど、その回転速度が遅くなるように制御されるものであることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
互いに対向するターゲットを構成する金属の電子がこの対向する領域が成す空間から外部に向かって飛び出すための開口が2つ形成された第1対向スパッタリングユニットと、この第1対向スパッタリングユニットと同じ構造の第2対向スパッタリングユニットと、この第2対向スパッタリングユニットと同じ構造の第3対向スパッタリングユニットと、この第3対向スパッタリングユニットと同じ構造の第4対向スパッタリングユニットとを、それぞれの2つの開口のうちのいずれか一方の開口が互いに向き合うように一列に配置しておき、
前記一列に配置された4つの対向スパッタリングユニットの一番端の第1対向スパッタリングユニットの2つの開口の一方の開口に対向させるように長尺樹脂フィルムの一方の面をガイドロールで案内してこの一方の面に成膜し、続いて、前記一方の開口に案内された前記一方の面を、前記一方の開口とは異なる他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら、前記成膜された一方の面に重ねて成膜する第1成膜工程と、
前記第1成膜工程で、前記他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら成膜した前記一方の面の反対側の面に前記第2対向スパッタリングユニットで成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜する第2成膜工程と、
前記第2成膜工程で、前記他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら成膜した前記一方の面の反対側の面に前記第3対向スパッタリングユニットで成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜する第3成膜工程と、
前記第3成膜工程で、前記他方の開口に対向させるようにガイドロールで案内しながら成膜した前記一方の面の反対側の面に前記第4対向スパッタリングユニットで成膜し、続いて、この成膜された反対側の面に重ねて成膜する第4成膜工程とを含むことを特徴とするスパッタリング方法。
【請求項7】
前記ガイドロールが前記長尺樹脂フィルムを案内するときの搬送速度は、その搬送方向下流側に向かうほど遅くなるものであることを特徴とする請求項6に記載のスパッタリング方法。
【請求項8】
前記ガイドロールが前記長尺樹脂フィルムを案内するときの搬送速度は、その搬送方向下流側に向かうほど速くなるものであることを特徴とする請求項6に記載のスパッタリング方法。
【請求項9】
前記長尺樹脂フィルムは、長尺耐熱性樹脂フィルムであることを特徴とする請求項6から請求項8までのうちのいずれか一項に記載のスパッタリング方法。
【請求項10】
前記長尺樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルムから選ばれる1種で構成されることを特徴とする請求項6から9に記載のスパッタリング方法。
【請求項11】
請求項6から10までのうちのいずれかに記載のスパッタリング方法により、前記長尺樹脂フィルムの前記一方の面に金属の薄膜の金属シード層を前記第1成膜工程で成膜し、続いて、前記一方の面の反対側の面にも前記第1成膜工程で金属シード層を成膜し、
前記金属シード層が所望の膜厚となるまで前記一方の面と前記反対側の面に成膜を繰り返し、
前記一方の面の金属シード層の表面にCuまたはCu合金から選択される金属ベース層をいずれかの前記成膜工程で成膜し、前記一方の面の金属シード層の表面に前記金属ベース層をいずれかの前記成膜工程で成膜し、前記一方の面と前記他方の面の金属ベース層が前記所望の膜厚となるまで前記一方の面と前記他方の面に成膜を繰り返し、前記長尺樹脂フィルムの両面に金属シード層と金属ベース層の2層からなる積層体を成膜することを特徴とする金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記金属シード層がNiまたはNi合金であることを特徴とする請求項11に記載の金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記Ni合金がNi−Cr合金層であることを特徴とする請求項12に記載の金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−77330(P2012−77330A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221727(P2010−221727)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】