説明

スパッタリング装置

【課題】スパッタリング堆積膜のカバレッジ性を適切かつ充分に改善できるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】スパッタリング装置100は、基板70およびターゲット35Bが配された真空成膜室30と、基板70とターゲット35Bとの間の真空成膜室30の成膜空間30Aにプラズマ27を誘導するプラズマガン40と、成膜空間30Aに配された偏向電極60と、偏向電極60に正電圧を印加する第1電源50と、ターゲット35Bに負電圧を印加する第2電源52と、を備える。そして、このような正負電圧に基づいて、プラズマ27からターゲット35BにドリフトするAr+のターゲット35Bへの入射方向が制御されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの配線微細化や高速化に伴い、デバイス内の配線材料としてアルミよりも抵抗率が低い銅(Cu)が注目されている。シリコン基板へのCu電極配線の形成は、通常、スパッタリング技術と電解メッキ技術との組合せにより、以下のような方法で行われる。
【0003】
図6は、シリコン基板へのCu電極配線形成の一例について各工程を模式的に示した図である。
【0004】
まず、図6(a)に示すように、シリコン基板(図示せず)上のシリコン酸化層に配線用の溝やホールを設け、当該溝やホールにCu拡散防止用のタンタル(Ta)からなるバリア膜(以下、「Taバリア膜」と略す)がスパッタリング法によって形成される。
【0005】
そして、図6(b)に示すように、このTaバリア膜を覆うように、電解メッキ時の下地電極膜の役割を果たすCuからなるシード膜(以下、「Cuシード膜」と略す)がスパッタリング法によって形成される。
【0006】
次いで、図6(c)に示すように、Cu電極配線が、Cuシード膜を覆うようにして、溝やホールに電解メッキ法により埋め込まれる。
【0007】
最後に、図6(d)に示すように、Cu電極配線が、適宜の平坦化法(例えば、CMP)により平坦化される。
【0008】
ところで、特許文献1には、プラズマガンからの円柱形のプラズマを、N極同士の一対の永久磁石で挟み、これにより、高密度の均一なシートプラズマを大面積に形成できることが記載されている。また、このようなシートプラズマをターゲットおよび基板間に誘導すると、シートプラズマ方式のスパッタリングを行えるとされている(特許文献2参照)。
【0009】
よって、上述のシートプラズマ技術を応用して、シリコン基板のホールや溝にTaバリア膜やCuシード膜を形成できると、半導体用配線プロセスにおいて、成膜面積の大面積化や成膜の効率化を行えるので都合がよい。
【特許文献1】特公平4−23400号公報
【特許文献2】特開2005−179767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本件発明者等は、微細なホールや溝に高カバレッジのCuシード膜形成が行えるよう、シートプラズマ方式のスパッタリング装置の改良に取り組んでいる。そして、この場合、スパッタ粒子の飛散方向を適切に制御できると(具体的には、基板の中心方向におけるスパッタ粒子の直進性を改善できると)、Cuシード膜のカバレッジ性の改善が可能になると考えている。
【0011】
なお、この点に関して、マグネトロンプラズマ方式のスパッタリング装置においては、スパッタリング堆積膜のカバレッジ性の改善法として、イオン化されたスパッタ粒子の方向を、電界により制御できる構造がすでに提案されている(従来例としての特開2001−192824号公報)。
【0012】
しかし、従来例のごとく、スパッタ粒子の方向を電界制御するには、スパッタ粒子のイオン化が前提となる。従って、従来例の構造では、スパッタリング堆積膜のカバレッジ性が、スパッタ粒子のイオン化の割合に支配されるという問題がある。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スパッタリング堆積膜のカバレッジ性を適切かつ充分に改善できるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件発明者等は、電界によりスパッタ粒子を偏向することに代えて、ターゲットの入射イオンを偏向することにより、上述の従来例の問題を解決できることに気がついた。
【0015】
よって、本発明は、このような知見に基づいてはじめて案出できたものであり、
基板およびターゲットが配された真空成膜室と、
前記基板と前記ターゲットとの間の前記真空成膜室の成膜空間にプラズマを誘導するプラズマガンと、
前記成膜空間に配された偏向電極と、
前記偏向電極に正電圧を印加する第1電源と、
前記ターゲットに負電圧を印加する第2電源と、を備え、
前記正負電圧に基づいて、前記プラズマから前記ターゲットにドリフトする正イオンの前記ターゲットへの入射方向が制御されているスパッタリング装置を提供する。
【0016】
ここで、本発明では、前記偏向電極は、前記プラズマと前記ターゲットとの間に配されてもよい。
【0017】
また、筒状の前記偏向電極が、前記ターゲットの平面視において、前記ターゲットの周辺に沿って前記ターゲットを環状に囲んでもよい。そして、前記ターゲットは、前記偏向電極の内部に配されてもよい。
【0018】
以上の構成により、本発明は様々な効果を奏する。
【0019】
例えば、偏向電極が、ターゲットの周辺に沿ってターゲットを環状に囲んでいるので、ターゲットの周囲全域において均等に、正イオンのターゲットへの入射方向を制御できる。また、ターゲットが、偏向電極の内部に配されているので、シートプラズマ方式のスパッタリング装置に上述の偏向電極を組み込む場合には、ターゲットとシートプラズマとの間の距離の調整を行える。
【0020】
また、本発明では、前記正負電圧が作る電界により、前記正イオンのドリフトは、前記偏向電極内において前記ターゲットの周辺から中心に向かうように偏向されてもよい。
【0021】
これにより、正イオンがターゲットに斜めに入射する場合のスパッタ粒子の飛散分布の中心は、正イオンがターゲットに垂直に入射する場合のスパッタ粒子の飛散分布の中心に対して、基板の中心方向にオフセットされると考えられる。
【0022】
つまり、このようなスパッタ粒子の飛散現象をターゲットの全体においてマクロ的に見ると、スパッタ粒子の飛散分布が基板の中心に収束するので、基板の中心方向におけるスパッタ粒子の直進性が向上する。その結果、基板配線用の高アスペクト比のホールや溝などに、スパッタ粒子が適度の直進性を持って入射するので、スパッタ粒子をホールや溝などの底面まで効率良く到達できると考えられる。
【0023】
よって、ホールや溝の壁面においてスパッタリング堆積膜のカバレッジ性の改善が期待できる。なお、このことは、後述のスパッタ粒子の堆積実験で検証されている。
【0024】
また、本発明では、前記プラズマを挟み、同磁極が向き合っている一対の磁界発生手段を更に備えてもよい。そして、前記プラズマは、前記磁界発生手段の対が作る磁界により前記ターゲットと平行なシート状に拡がり、前記シート状のプラズマが、前記成膜空間に誘導されてもよい。
【0025】
このように、本発明では、シートプラズマ方式のスパッタリング装置に、偏向電極が組み込まれている。
【0026】
よって、シートプラズマとターゲットとの間を適切に離すことができる。このため、偏向電極によって正イオンのドリフト方向(ターゲットへの入射方向)を制御できる距離を充分に確保できるので好都合である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、スパッタリング堆積膜のカバレッジ性を適切かつ充分に改善できるスパッタリング装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態によるスパッタリング装置の一構成例を示した概略図である。
【0030】
本実施形態のスパッタリング装置100は、放電プラズマ輸送の方向から見て順番に、放電プラズマを高密度に生成するプラズマガン40と、プラズマ輸送の方向を中心軸とした円筒状の非磁性(例えばステンレス製やガラス製)のシートプラズマ変形室20と、プラズマ輸送の方向と直交する方向を中心軸とした円筒状の非磁性(例えばステンレス製)の真空成膜室30と、を備える。
【0031】
なお、ここでは、詳細な説明は省略するが、これらの各部40、20、30は、プラズマを輸送する通路を介して互いに気密状態を保って連通されている。
【0032】
まず、プラズマガン40の構成およびシートプラズマ変形室20の周辺の構成について概説する。
【0033】
スパッタリング装置100のプラズマガン40は、公知の圧力勾配型ガンであり、カソードユニット41および中間電極G1、G2を内蔵している。また、プラズマガン40には、放電により電離される放電ガス(ここでは、アルゴンガス)をプラズマガン40内の放電空間に導くことができる放電ガス供給手段(図示せず)も併設されている。
【0034】
以上の構成により、上述のプラズマガン40では、プラズマガン電源(図示せず)を用いてカソードユニット41およびアノードA(後述)間に低電圧かつ大電流のアーク放電を発生できる。
【0035】
このようにして、放電プラズマの輸送中心に対して略等密度な分布の円柱状のアーク放電プラズマ(以下、「円柱プラズマ22」という)がプラズマガン40の放電空間に形成される。そして、この円柱プラズマ22が、図1に示すように、プラズマガン40からシートプラズマ変形室20に引き出される。
【0036】
また、シートプラズマ変形室20では、図1に示すように、一対の角形の棒磁石24A、24B(永久磁石;磁界発生手段の対)が、シートプラズマ変形室20のプラズマ輸送空間を挟むよう、一定の間隔をあけて配設されている。本実施形態では、これらの棒磁石24A、24BのN極同士が対向している。そして、第1電磁コイル23(空芯コイル)が作るコイル磁界と、棒磁石24A、24Bが作る磁石磁界との相互作用に基づいて、円柱プラズマ22は、その輸送方向の輸送中心を含む平面Sに沿って拡がるシート状のプラズマ(以下、「シートプラズマ27」という)に変形される。そして、このシートプラズマ27が、シートプラズマ変形室20から通路28を通り、真空成膜室30の成膜空間30Aに誘導される。
【0037】
なお、以上の磁界によるシートプラズマ27の変形法は、すでに周知である。よって、この詳細な説明は、ここでは省略する。
【0038】
次に、真空成膜室30の構成について説明する。
【0039】
真空成膜室30は、シートプラズマ27中のAr+(アルゴン正イオン)の衝突エネルギによりターゲット35Bの材料(例えば銅)をスパッタ粒子として放出する成膜チャンバに相当する。この真空成膜室30は、図1に示すように、接地されており、成膜空間30Aを有する。また、この成膜空間30Aは、バルブ37により開閉可能な排気口からターボポンプなどの真空ポンプ36により真空排気される。これにより、この成膜空間30Aはスパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧される。
【0040】
本実施形態では、円板状のターゲット35Bは、円板状のターゲットホルダ(図示せず)に装着された状態において、昇降装置35Aの駆動力により成膜空間30Aを上下(真空成膜室30の中心軸方向)に移動できる。これにより、ターゲット35Bとシートプラズマ27との間の好適な距離が設定される。
【0041】
同様に、円板状の基板70は、円板状の基板ホルダ34Bに装着された状態において、昇降装置34Aの駆動力により成膜空間30Aを上下(真空成膜室30の中心軸方向)に移動できる。これにより、基板70とシートプラズマ27との間の好適な距離が設定される。
【0042】
このようにして、円板状のターゲット35Bおよび基板70が、シートプラズマ27の厚み方向に一定の好適な間隔Lをあけてシートプラズマ27を挟み、成膜空間30Aにおいて同軸状に対向して配されている。
【0043】
また、本実施形態では、ターゲット35Bは、図1に示すように、直流バイアス電源52により負電圧(−1000V程度のマイナス電圧)が印加されている。
【0044】
このような負電圧により、シートプラズマ27中のAr+がターゲット35Bに向かって引き付けられ、Ar+がターゲット35Bに衝突する。すると、この衝突エネルギにより、ターゲット35Bからスパッタ粒子(ここでは、銅(Cu)粒子)が基板70に向かって放出される。
【0045】
更に、本実施形態では、円筒状の偏向電極60(イオンリフレクタ)が、ターゲット35Bの周囲に配され、この偏向電極60は、直流バイアス電源50によりバイアス電圧(正電圧)が印加されている。
【0046】
これにより、Ar+のターゲット35Bへのドリフトの過程において、偏向電極60に印加される電圧の作用(電界)によって、図1に示すように、Ar+の軌跡が曲げられる。なお、このような偏向電極60の構成については、後程、詳述する。
【0047】
また、基板ホルダ34Bは、図1に示すように、高周波バイアス電源51により高周波(RF)電力が印加されている。
【0048】
これにより、シートプラズマ27を横切る際にシートプラズマ27の作用により電離されたCu粒子(Cu+)を、RF電力のセルフバイアスによって基板70に適切に引き込むことができる。
【0049】
次に、真空成膜室30の周辺の構成を説明する。
【0050】
真空成膜室30のプラズマガン40と反対側の側方には、アノードAが配置され、真空成膜室30の側壁とアノードAとの間には、シートプラズマ27の通路29が設けられている。
【0051】
アノードAは、プラズマガン40のカソードユニット41に対して所定の基準電位が与えられる。これにより、アノードAは、カソードユニット41およびアノードAの間のアーク放電に基づくシートプラズマ27中の荷電粒子(特に電子)を回収する役割を有している。
【0052】
また、アノードAの裏面(カソードユニット41に対する対向面の反対側の面)には、アノードA側をS極、その反対側をN極とした永久磁石38が配されている。
【0053】
この永久磁石38のN極から出てS極に入る主面Sに沿った磁力線により、アノードAに向かうシートプラズマ27の幅方向(プラズマの拡がり方向)の拡散を抑えるようにシートプラズマ27が幅方向に収束される。その結果、シートプラズマ27の荷電粒子が、アノードAに適切に回収される。
【0054】
また、図1に示すように、第2電磁コイル32および第3電磁コイル33(いずれも空芯コイル)が、互いに対をなして、真空成膜室30の成膜空間30Aを挟み、異極同士(ここでは、第2電磁コイル32はN極、第3電磁コイル33はS極)を向かい合わせて配置されている。第2電磁コイル32は、棒磁石24A、24Bと真空成膜室30との間のプラズマ輸送方向の適所に配置され、第3電磁コイル33は、真空成膜室30とアノード15との間のプラズマ輸送方向の適所に配置されている。
【0055】
これらの第1および第2電磁コイル32、33の対が作るコイル磁界(例えば10G〜300G程度)により、シートプラズマ27は、プラズマの拡がり方向の拡散を適切に抑えるように整形される。
【0056】
次に、本発明の実施形態の特徴部である偏向電極60の構成について図面を参照しながら説明する。
【0057】
図2は、本発明の実施形態によるスパッタリング装置に用いる偏向電極の一構成例を示した斜視図である。
【0058】
また、図3は、図1の偏向電極によるAr+の偏向の様子、および、スパッタ粒子の飛散の様子を模式的に示した図である。
【0059】
なお、スパッタリング装置100の真空成膜室30の内部は、偏向電極60の中心軸200を中心とする対称な構造となっている。よって、図3では、真空成膜室30の内部の半分のみが図示されている。また、図面の簡素化を図る観点から、真空成膜室30内の構成要素の一部(例えば、昇降装置34A、35Aなど)の図示が省略されている。
【0060】
図2および図3に示すように、偏向電極60は、円板状のターゲット35Bと直交する方向を中心軸200とする、ターゲット35Bと同軸状に配された金属製の円筒体である。そして、ターゲット35Bを平面視した場合には、偏向電極60(円筒体)およびターゲット35Bは相似形の形態を有しており、偏向電極60(円筒体)の内寸は、ターゲット35Bの外寸よりも若干大きめになっている。つまり、ターゲット35Bを平面視した場合には、偏向電極60が、ターゲット35Bの周辺に沿ってターゲット35Bの周辺を円環状に囲んでいる。
【0061】
更に、図1および図3に示すように、本実施形態では、ターゲット35Bは、偏向電極60に内包されている。これにより、ターゲット35Bは、上述のとおり、昇降装置35Aの駆動力により成膜空間30Aを上下(真空成膜室30の中心軸方向)に移動できる。
【0062】
ここで、本件発明者等は、以上の偏向電極60およびターゲット35Bに適宜の電圧を印加すると、Ar+のドリフトの方向を適切に制御できると考えた。そして、このようなAr+のドリフトの方向の制御の結果として、後述のとおり、Cu粒子の直線性が向上すると考えた。
【0063】
図4は、図3の偏向電極によるAr+の偏向の説明に用いる静電界シミュレーションの結果を示した図である。
【0064】
図4では、ターゲット35Bおよび偏向電極60による電界の様子を表した電気力線(矢印)、等電位線(実線)および電位分布(グレイスケール)の様子が図示されている。
【0065】
このような静電界シミュレーションを行うに当たっては、図3に示したターゲット35Bや偏向電極60の形状と略同一形の解析モデルが、数値計算用の分割単位解析領域(メッシュ領域)によってコンピュータ上に生成されている。そして、ターゲット35Bに対応するメッシュ領域には、「−1000V」の電圧データが入力され、偏向電極60に対応するメッシュ領域には、「+50V」の電圧データが入力されている。
【0066】
但し、本シミュレーションについては、あくまで、ターゲット35Bおよび偏向電極60によるAr+の偏向効果を確認することに主眼が置かれている。よって、このような確認に影響を及ぼさない範囲内でモデルの簡略化がなされている。例えば、本静電界シミュレーションでは、シートプラズマ27自身が持つ浮遊電位(正の電位)のモデル化は省略されている。よって、ターゲット35Bから遠く離れたシートプラズマ近傍領域での解析結果については、必ずしも現実の電界分布と整合性が取れていない。
【0067】
なお、静電界シミュレーションは、汎用の電磁場解析ソフトを用いているが、解析ソフトの説明は省略する。
【0068】
図4に示すように、ターゲット35Bの周辺近傍では、ターゲット35Bの負電圧および偏向電極60の正電圧に基づいて偏向電極60からターゲット35Bに向く電界Eが形成されている。
【0069】
この電界Eの作用により、ターゲット35Bの周辺部では、偏向電極60内をシートプラズマ27からターゲット35Bの方向にドリフトするAr+が、図3に示すように、ターゲット35Bの中心方向に偏向される。これにより、Ar+は、ターゲット35Bの中心方向に収束するように斜めに入射すると考えられる(以下、このようなAr+の入射を「Ar+斜め入射」と略す場合がある。)。そして、この場合、Ar+の衝突エネルギによって放出されるCu粒子の割合は、Ar+のターゲット35Bへの入射方向とは逆向きの、基板70の中心寄りの方向に主成分が存在して、この方向を中心に一定の角度成分を持つと予測される(図3中の二点鎖線参照)。
【0070】
これに対して、ターゲット35Bの中心部では、偏向電極60内をシートプラズマ27からターゲット35Bの方向にドリフトするAr+が、図3に示すように、ターゲット35Bに垂直入射すると考えられる(以下、このようなAr+の入射を「Ar+垂直入射」と略す場合がある。)。そして、この場合、Ar+の衝突エネルギによって放出されるCu粒子の割合は、Ar+の入射方向とは逆向きの、基板70に垂直な方向に主成分が存在して、この方向を中心に一定の角度分布を持つと予測される(図3中の点線参照)。
【0071】
以上のとおり、Ar+斜め入射でのCu粒子の飛散分布の中心は、Ar+垂直入射でのCu粒子の飛散分布の中心に対して、基板70の中心方向にオフセットされると考えられる。
【0072】
つまり、このようなCu粒子の飛散現象をターゲット35Bの全体においてマクロ的に見ると、Cu粒子の飛散分布が基板70の中心に収束するので、基板70の中心方向におけるCu粒子の直進性が向上する。その結果、高アスペクト比のCu配線用のホールや溝(以下、「ホール等71」と略す)に、Cu粒子が適度の直進性を持って入射するので、Cu粒子をホール等71の底面まで効率良く到達できると考えられる。
【0073】
よって、このホール等71の壁面においてCu堆積膜72(スパッタリング堆積膜)のカバレッジ性の改善が期待できる。なお、このことは、以下に述べるCu粒子の堆積実験により検証されている。
【実施例】
【0074】
本実施例のCu粒子の堆積実験は、偏向電極60によるCu堆積膜72のカバレッジ性改善を検証する目的で行われた。
【0075】
図5は、偏向電極に正電圧を印加した場合と、電圧を印加しなかった場合と、において、シリコン基板のホール等へのCu粒子の堆積実験結果の断面写真を掲載した図である。
【0076】
図5(a)では、偏向電極60に「+50V」の電圧が印加された場合のCu堆積膜72の写真が掲載されている。図5(b)では、偏向電極60に電圧を印加しなかった場合のCu堆積膜72’の写真が掲載されている。
【0077】
なお、本堆積実験では、偏向電極60への電圧印加以外の各種の成膜パラメータ(例えば、真空度、成膜時間およびプラズマガン40の放電電流)については、両者間において同一にしている。また、本堆積実験における偏向電極60とターゲット35Bとの間の配置関係は、実施形態において述べたものとほぼ同じである。よって、当該配置関係の説明は省略する。更に、本堆積実験では、ターゲット35Bに、−1000V程度の電圧が印加されている。
【0078】
まず、図5に示すように、偏向電極60に「+50V」の電圧を印加した場合のシリコン基板の主面上(ホール等71以外の部分)のCu堆積膜72のトップ膜厚L1、L2は、偏向電極60に電圧を印加しなかった場合のCu堆積膜72’のトップ膜厚L1’、L2’とほほ同じであることが分かる。
【0079】
このような状況において、ホール等71(深さL10、入口開口径L5)におけるCu堆積膜72のカバレッジ性に関連する各種の膜厚データ(サイド膜厚L3、L4、L6、L7やボトム膜厚L8など)について検討した。
【0080】
図5の写真から容易に目視評価できるように、偏向電極60に「+50V」の電圧を印加した場合のCu堆積膜72は、偏向電極60に電圧を印加しなかった場合のCu堆積膜72’に比べて、カバレッジ性が改善されていることが分かる。
【0081】
例えば、シリコン基板の中央部付近において、偏向電極60に「+50V」の電圧を印加した場合、Cu堆積膜72のカバレッジ性を表す一指標としてのCu堆積膜72の膜厚比率「ボトム膜厚L8/トップ膜厚L1(またはトップ膜厚L2)」が約60%であるのに対して、偏向電極60を印加しなかった場合、Cu堆積膜72’の膜厚比率「ボトム膜厚L8’/トップ膜厚L1’(またはトップ膜厚L2’)」が約40%であった。
【0082】
以上に述べた如く、本実施形態のスパッタリング装置100は、基板70およびターゲット35Bが配された真空成膜室30と、基板70とターゲット35Bとの間の真空成膜室30の成膜空間30Aにシートプラズマ27を誘導するプラズマガン40と、シートプラズマ27とターゲット35Bとの間の成膜空間30Aに配された円筒状の偏向電極60と、偏向電極60に正電圧を印加する直流バイアス電源50と、ターゲット35Bに負電圧を印加する直流バイアス電源52と、を備える。
【0083】
そして、このような正負電圧に基づいて、シートプラズマ27からターゲット35BにドリフトするAr+のターゲット35Bへの入射方向が制御されている。具体的には、正負電圧が作る電界により、Ar+のドリフトは、偏向電極60内においてターゲット35Bの周辺から中心に向かうように偏向される。
【0084】
また、本実施形態では、偏向電極60は、ターゲット35Bの平面視において、ターゲット35Bの周辺に沿ってターゲット35Bを環状に囲み、これにより、偏向電極60によるAr+のドリフト方向(ターゲット35Bへの入射方向)の制御がターゲット35Bの全周において均等に行える。
【0085】
更に、本実施形態では、ターゲット35Bは、偏向電極60の内部に配されているので、ターゲット35Bとシートプラズマ27との間の距離の調整を、昇降装置35Aを用いて容易に行える。
【0086】
以上の構成により、Ar+斜め入射でのCu粒子の飛散分布の中心は、Ar+垂直入射でのCu粒子の飛散分布の中心に対して、基板70の中心方向にオフセットされると考えられる。
【0087】
つまり、Cu粒子の飛散現象をターゲット35Bの全体においてマクロ的に見ると、Cu粒子の飛散分布が基板70の中心に収束するので、基板70の中心方向におけるCu粒子の直進性が向上する。その結果、高アスペクト比のCu配線用のホール等71に、Cu粒子が適度の直進性を持って入射するので、Cu粒子をホール等71の底面まで効率良く到達できると考えられる。
【0088】
よって、ホール等71の壁面においてCu堆積膜72(スパッタリング堆積膜)のカバレッジ性の改善が期待できる。なお、このことは、上述のCu粒子の堆積実験で検証されている。
【0089】
このようにして、本実施形態のスパッタリング装置100は、ターゲット35Bの入射イオンであるAr+に対して電界による偏向作用を与えている。
【0090】
よって、本実施形態のスパッタリング装置100では、スパッタリング堆積膜のカバレッジ性がスパッタ粒子のイオン化の割合に支配されるという従来例の問題を根本的に解消できる。
【0091】
また、本実施形態では、シートプラズマ方式のスパッタリング装置100に、偏向電極60が組み込まれ、これにより、本実施形態のスパッタリング装置100は、様々な効果を奏する。
【0092】
例えば、シートプラズマ27とターゲット35Bとの間を適切に離すことができる。このため、偏向電極60によってAr+のドリフト方向(ターゲット35Bへの入射方向)を制御できる空間(距離)を充分に確保できるので好都合である。
【0093】
また、このようなシートプラズマ27を用いると、シートプラズマ27とターゲット35Bとの間の距離が、ターゲット35Bのほぼ全域に亘り一定となるので、偏向電極60によるAr+のドリフト方向(ターゲット35Bへの入射方向)の制御がターゲット35Bの全域において均等に行える。
【0094】
但し、本明細書の技術は、シートプラズマ方式のスパッタリング法との組合せにおいて、上述のような様々な効果を奏するが、必ずしも、シートプラズマ方式のスパッタリング装置の用途には限定されない。例えば、円柱状のプラズマを用いるスパッタリング法であっても、或いは、イオンビームスパッタリング(IBS)法であっても本技術を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、スパッタリング堆積膜のカバレッジ性を適切かつ充分に改善できるスパッタリング装置が得られる。
【0096】
よって、本発明は、例えば、シートプラズマ方式のスパッタリング装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態によるスパッタリング装置の一構成例を示した概略図である。
【図2】本発明の実施形態によるスパッタリング装置に用いる偏向電極の一構成例を示した斜視図である。
【図3】図1の偏向電極によるAr+の偏向の様子、および、スパッタ粒子の飛散の様子を模式的に示した図である。
【図4】図3の偏向電極によるAr+の偏向の説明に用いる静電界シミュレーションの結果を示した図である。
【図5】偏向電極に正電圧を印加した場合と、電圧を印加しなかった場合と、において、シリコン基板のホール等へのCu粒子の堆積実験結果の断面写真を掲載した図である。(a)では、偏向電極に「+50V」の電圧が印加された場合のCu堆積膜の写真が掲載されている。(b)では、偏向電極に電圧を印加しなかった場合のCu堆積膜の写真が掲載されている。
【図6】シリコン基板へのCu電極配線形成の一例について、各工程を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0098】
20 シートプラズマ変形室
22 円柱プラズマ
23 第1電磁コイル
24A、24B 棒磁石
36 真空ポンプ
37 バルブ
27 シートプラズマ
28、29 通路
30 真空成膜室
30A 成膜空間
32 第2電磁コイル
33 第3電磁コイル
34B 基板ホルダ
34A、35A 昇降装置
35B ターゲット(Cuターゲット)
38 永久磁石
40 プラズマガン
41 カソードユニット
50、52 直流バイアス電源
51 高周波バイアス電源
60 偏向電極
70 基板
71 ホール等
72 Cu堆積膜(スパッタリング堆積膜)
100 スパッタリング装置
200 偏向電極の中心軸
A アノード
1、G2 中間電極
S 主面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板およびターゲットが配された真空成膜室と、
前記基板と前記ターゲットとの間の前記真空成膜室の成膜空間にプラズマを誘導するプラズマガンと、
前記成膜空間に配された偏向電極と、
前記偏向電極に正電圧を印加する第1電源と、
前記ターゲットに負電圧を印加する第2電源と、を備え、
前記正負電圧に基づいて、前記プラズマから前記ターゲットにドリフトする正イオンの前記ターゲットへの入射方向が制御されているスパッタリング装置。
【請求項2】
前記偏向電極は、前記プラズマと前記ターゲットとの間に配されている請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
筒状の前記偏向電極が、前記ターゲットの平面視において、前記ターゲットの周辺に沿って前記ターゲットを環状に囲んでいる請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記ターゲットは、前記偏向電極の内部に配されている請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記正負電圧が作る電界により、前記正イオンのドリフトは、前記偏向電極内において前記ターゲットの周辺から中心に向かうように偏向されている請求項1ないし4のいずれかに記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記プラズマを挟み、同磁極が向き合っている一対の磁界発生手段を更に備え、
前記プラズマは、前記磁界発生手段の対が作る磁界により前記ターゲットと平行なシート状に拡がり、前記シート状のプラズマが、前記成膜空間に誘導されている請求項1ないし5のいずれかに記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−121184(P2010−121184A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296505(P2008−296505)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】