説明

スパッタ装置及び成膜方法

【課題】スパッタリング法による成膜時において、電子や酸素イオンが基板に入射することを防ぎ、基板や基板上の膜へのダメージを低減することで、膜特性を向上させることができるスパッタ装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜材料を備えたターゲット22と、ターゲット22の表面22aと基板Wの表面W1とを略平行に配置しつつ、基板Wをターゲット22に対して相対移動させる搬送手段と、を有し、基板Wの表面W1の長辺方向の長さより、ターゲット22の表面22aの短手方向における長さが短く形成されたスパッタ装置において、ターゲット22と基板Wとの間において、ターゲット22の短手方向に磁場を印加する永久磁石26を有し、基板Wをターゲット22の短手方向に沿って搬送させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等においては、大面積のガラス基板上に透明電導膜等の薄膜を、均一な膜厚で、連続的に成膜するために、種々のスパッタ装置が提案されている。
これらスパッタ装置の1種に、インライン式スパッタ装置がある。この装置は、スパッタ成膜室内に複数のターゲットを配列し、基板をターゲットの配列方向に沿って一定速度にて搬送する間に、ターゲットから叩き出された成膜材料を基板上に堆積させることにより、基板上に所望の薄膜を成膜する装置である。この構成によれば、大面積のガラス基板上に膜厚の均一な薄膜を連続的に成膜することができる。
【0003】
一方、ガラス基板上に成膜する透明電導膜としては、ITO(Indium Tin Oxide)膜が広く用いられている。
ところで、ITO膜等の酸化膜を成膜する際には、ターゲットに含まれる酸素原子或いはスパッタリング時に導入される酸素ガスからプラズマ中で酸素イオンが発生し、ターゲット電位により加速されて基板に入射する。電子や酸素イオンが基板に入射すると、ITO膜の結晶配向性に対してダメージを与え、ITO膜の抵抗値が増加する等、膜特性を損なうという問題がある。
そのため、ITO膜や基板に入射する電子や酸素イオンを低減することにより、ダメージを低減することが重要である。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に示すように、基板の搬送方向と交差し、基板の成膜面と略平行な方向の偏向磁界を該成膜面の近傍に発生する偏向磁界発生手段として、永久磁石を設けているものが知られている。この構成によれば、偏向磁界発生手段により基板の近傍に偏向磁界を形成することで、基板方向に飛行する荷電粒子の飛行方向を偏向して成膜面に進入するのを抑制することができるとされている。
【特許文献1】特開平5−70951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術にあっては、偏向磁界発生手段が基板の両端部に配置されているため、基板中央部に発生する磁場が弱いという問題がある。近年、成膜対象であるガラス基板は一辺が2〜3mのものが用いられる傾向にある。このような大型のガラス基板を用いる場合には、特に基板中央部に発生する磁場が弱くなる。この場合には、電子や酸素イオン等の荷電粒子を効率よく偏向することができず、その結果、ガラス基板表面に電子や酸素イオンが入射して、これら電子や酸素イオンにより基板表面がダメージを受けてしまう。
また、酸素イオンの質量は電子の質量よりも遥かに重いため、強い磁場を発生させなければ酸素イオンを偏向できないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、スパッタリング法による成膜時において、荷電粒子が基板に入射することを防ぎ、基板や基板上の膜へのダメージを低減することで、膜特性を向上させることができるスパッタ装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のスパッタ装置は、成膜材料を備えたターゲットと、前記ターゲットの表面と基板の表面とを略平行に配置しつつ、前記ターゲットと前記基板とを相対移動させる移動機構と、を有し、前記基板の表面の第1方向における長さより、前記ターゲットの表面の前記第1方向における長さが短く形成されたスパッタ装置において、前記ターゲットと前記基板との間において、前記第1方向に磁場を印加する磁場印加手段を有し、前記移動機構は、前記磁場印加手段を前記ターゲットとともに、前記基板に対して相対移動させることを特徴とする。
この構成によれば、ターゲットと基板との間において、第1方向に磁場を発生させる磁場印加手段を設け、この磁場印加手段をターゲットとともに、基板に対して相対移動させることで、基板とターゲットとの間に強い磁場を発生させることができる。そのため、プラズマ中で発生する荷電粒子は、磁場印加手段により発生した磁場からローレンツ力を受けて、荷電粒子の飛行方向および磁場方向のそれぞれに直交する方向、つまり基板と平行に移動するように偏向される。よって、成膜材料の初期成長過程のみならず、全成膜過程において、荷電粒子が基板の表面に入射することを防ぎ、基板や基板上の膜へのダメージを低減することができるため、基板に形成される被膜の抵抗値が増加することを抑制することができる。したがって、全成膜過程を通じて基板に形成される被膜の結晶性等の膜特性を向上させることができる。
【0008】
また、前記ターゲットと前記基板との間に、前記ターゲットからの前記成膜材料の飛散範囲を規制する防着部材が設けられ、前記磁場印加手段は、前記防着部材を挟んで前記ターゲットの反対側に配置されていることを特徴とする。
この構成によれば、磁場印加手段を、防着部材を挟んでターゲットの反対側に配置することで、磁場印加手段がターゲットの死角となるため、ターゲットから叩き出された粒子が磁場印加手段に成膜材料が付着することを防止することができる。
【0009】
また、前記移動機構は、固定された前記ターゲットに対して前記基板を前記第1方向に移動させ、前記ターゲットは、前記第1方向に沿って複数設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、基板を第1方向に移動させながら、複数のターゲットを用いて効率よく成膜処理を行うことができる。したがって、大面積の基板上に膜特性に優れ、膜厚の均一な薄膜を大量かつ連続的に成膜することができる。
【0010】
また、隣接する一対の前記ターゲット間に配置された前記磁場印加手段は、前記一対のターゲットと前記基板との間における磁場の印加に供されていることを特徴とする。
この構成によれば、隣接する一対のターゲット間に配置された磁場印加手段を、一対のターゲットと基板との間における磁場の印加に供することで、装置コストを低減することができる。
【0011】
また、前記ターゲットはITOの成膜材料を含んでいることを特徴とする。
この構成によれば、プラズマ中で発生する電子または酸素イオンが基板の表面に入射することを防ぐことができるため、透明電導膜であるITO膜の初期成長過程のみならず、ITO膜の全成膜過程において、基板や基板上の膜へのダメージを低減することができる。その結果、ITO膜は、全成膜過程を通じて結晶性等の膜特性を維持することが可能となる。
【0012】
また、前記基板を保持する基板保持手段と、前記ターゲットが配置されるとともに、前記基板が前記移動機構により移動するスパッタ室と、該スパッタ室内の真空排気を行う真空排気手段と、前記スパッタ室内にスパッタガスを供給するガス供給手段と、前記ターゲットに電圧を印加する電源と、を備えたインライン式スパッタ装置であることを特徴とする。
この構成によれば、ガス供給手段からスパッタ室にスパッタガスを供給し、電源からターゲットに電圧を印加する。これにより、スパッタ室内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、ターゲットに衝突して成膜材料の原子を飛び出させる。そして、飛び出した原子を基板に付着させることにより、基板の表面に成膜材料の被膜を形成することができる。そして、インラインスパッタ装置では、基板保持手段に保持された基板がターゲットに対して相対移動するので、基板の表面全体に成膜を行うことができる。また、複数の基板を連続して第1方向に移動させることにより、複数の基板に対して連続的に成膜を行うことができる。
【0013】
一方、本発明の成膜方法は、成膜材料を備えたターゲットと、前記ターゲットの表面と基板の表面とを平行に配置しつつ、前記ターゲットと前記基板とを相対移動させる移動機構と、を有し、前記ターゲットの表面の第1方向における長さは、前記基板の表面の前記第1方向における長さより短く形成され、前記ターゲットと前記基板との間において、前記第1方向に磁場を印加する磁場印加手段を有するスパッタ装置を用いて、前記磁場印加手段により前記第1方向に磁場を印加しつつ、前記移動機構により前記磁場印加手段を前記ターゲットとともに前記基板に対して相対移動させて、スパッタ成膜を行うことを特徴とする。
この構成によれば、ターゲットと基板との間において、第1方向に磁場を発生させる磁場印加手段を設け、この磁場印加手段をターゲットとともに、基板に対して相対移動させることで、基板とターゲットとの間に強い磁場を発生させることができる。そのため、プラズマ中で発生する荷電粒子は、磁場印加手段により発生した磁場からローレンツ力を受けて、荷電粒子の飛行方向および磁場方向のそれぞれに直交する方向、つまり基板と平行に移動するように偏向される。よって、成膜材料の初期成長過程のみならず、全成膜過程において、荷電粒子が基板の表面に入射することを防ぎ、基板や基板上の膜へのダメージを低減することができるため、基板に形成される被膜の抵抗値が増加することを抑制することができる。したがって、全成膜過程を通じて基板に形成される被膜の結晶性等の膜特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ターゲットと基板との間において、第1方向に磁場を発生させる磁場印加手段を設け、この磁場印加手段をターゲットとともに、基板に対して相対移動させることで、基板とターゲットとの間に強い磁場を発生させることができる。そのため、プラズマ中で発生する荷電粒子は、磁場印加手段により発生した磁場からローレンツ力を受けて、荷電粒子の飛行方向および磁場方向のそれぞれに直交する方向、つまり基板と平行に移動するように偏向される。よって、成膜材料の初期成長過程のみならず、全成膜過程において、荷電粒子が基板の表面に入射することを防ぎ、基板や基板上の膜へのダメージを低減することができるため、基板に形成される被膜の抵抗値が増加することを抑制することができる。したがって、全成膜過程を通じて基板に形成される被膜の結晶性等の膜特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、図1〜図4に基づいて、本発明の実施形態に係るスパッタ装置および成膜方法について説明する。
(マグネトロンスパッタ装置)
図1は、本実施形態におけるマグネトロンスパッタ装置の概略構成図(正面図)である。
図1に示すように、マグネトロンスパッタ装置(以下、スパッタ装置という)10は、インライン式のスパッタ装置であって、基板Wの仕込み/取出し室12と、基板Wに対する成膜室(スパッタ室)14とを備えている。仕込み/取出し室12には、ロータリーポンプなどの粗引き排気手段12pが接続され、成膜室14には、ターボ分子ポンプなどの高真空排気手段(真空排気手段)14pが、例えば2台接続されている。本実施形態のスパッタ装置10では、基板Wを縦型に支持して仕込み/取出し室12に搬入し、粗引き排気手段12pで仕込み/取出し室12を排気する。次に、高真空排気手段14pで高真空排気した成膜室14に基板Wを搬送し、成膜処理を行う。成膜後の基板Wは、仕込み/取出し室12を介して外部に搬出するように構成されている。
【0016】
また、成膜室14には、Arなどのスパッタガスを供給するガス供給手段17が接続されている。なお、ガス供給手段17からは、Oなどの反応ガスを供給することも可能である。
【0017】
図2は、図1のA−A線に相当する成膜室内の断面図であり、図3は、図2のB−B線に沿う成膜室内の断面図である。
図2,3に示すように、成膜室14内の幅方向における一方側に、図示しない基板保持手段により保持された基板Wが縦型に配置されている。また、他方側に、基板Wの表面W1と略平行に複数のスパッタカソード機構20が縦型に配置されている。
本実施形態の基板Wは、平面視略矩形状であって長辺と短辺とを有し、その長辺が例えば2〜3m程度のものである。なお、基板Wとして、例えば、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)、ガラス等からなる基板を用いることが可能であり、本実施形態ではガラス基板が好適に用いられている。
【0018】
基板保持手段には、図示しない搬送手段(移動機構)が連結されており、この搬送手段により基板Wは、その長辺方向(第1方向:図2中矢印F参照)に沿う方向に搬送される。なお、図1〜3においては、スパッタカソード機構20を2つのみ示すが、2つ以上設けても構わない。
【0019】
なお、本実施形態における基板保持手段及び搬送手段は、以下に示すような種々の構成を用いることが可能である。
例えば、スパッタカソード機構20に対して略平行に設けられたベースプレートの支持面に、基板Wを載置する構成が可能である。これにより、スパッタカソード機構20における後述するターゲット22の表面22aと、基板Wの表面W1とが略平行になるように基板Wを保持することができる。この場合、モータに連結された搬送ローラや、ラック&ピニオン機構等の搬送手段により、基板が保持されたベースプレートを搬送する。
また、基板Wの上端縁と下端縁とを溝付ローラにより挟持し、ターゲット22の表面22aと、基板Wの表面とが略平行になるように基板Wを保持するような構成も可能である。この場合、モータ等により溝付きローラを回転させることで、基板を搬送することができる。
【0020】
スパッタカソード機構20は、ターゲット22、チムニー(防着部材)24及び永久磁石(磁場印加手段)26を備えている。
ターゲット22は、平面視矩形状のものであり、その短手方向(第1方向)を基板Wの搬送方向(長辺方向)に一致させて、複数のターゲット22が配列されている。つまり、基板Wは搬送手段により、ターゲット22の配列方向に沿って搬送される。なお、ターゲット22の短手方向の幅は、基板Wの長辺より短く形成されており、例えば300mm程度で形成されている。また、隣接するターゲット22間は、150〜200mm程度の間隔を隔てて配置されている。
【0021】
各ターゲット22は、その表面22aと基板Wの表面W1との間に所定の間隔(例えば、90〜100mm)を空けて対向配置されている。
ターゲット22の形成材料としては、透明導電膜であるITO膜の成膜材料を含んでいることが好ましく、例えばInのみでもよく、Inに所定材料を添加したものでもよい。また、ZnO系膜やSnO系膜からなる透明導電膜を形成するため、ターゲット22をZnOまたはSnOに所定材料を添加したもので構成してもよい。本発明によれば、結晶配向性の高い透明導電膜を成膜することができる。
【0022】
なおターゲット22は、背面プレート30にインジウム等のロウ材でボンディングされている。ターゲット22は、背面プレート30の裏面における外周部分で、絶縁プレート40を介して壁面41に取り付けられている。そして、ターゲット22は、背面プレート30を介して外部電源(電源)に接続され、負電位(カソード)に保持されている。成膜室14(図1参照)の外方には、背面プレート30の裏面に沿って、ターゲット22の表面22aに水平な磁界を発生させる磁気回路32が配置されている。磁気回路32は、背面プレート30側の表面の極性が相互に異なる中心磁石33および外周磁石34を備えている。
【0023】
チムニー24は、平面視L字状の部材が対向したものであり、各ターゲット22の長手方向に沿う両側方を各々囲むように設けられている。したがって、各ターゲット22間は、チムニー24により遮られている。チムニー24は、ターゲット22から叩き出された粒子の飛散範囲を規制して、粒子が基板Wの表面W1以外の箇所(例えば、成膜室14の壁面等)に付着することを防ぐものである。また、基板Wに対する粒子の入射角度を所定角度範囲に制限するものである。
【0024】
そして、対向するチムニー24間であって、ターゲット22の表面22aと基板Wの表面W1とが対向する領域には、基板Wに向けて開口する開口部28が形成されている。なお、ターゲット22を囲むチムニー24間の幅aは400mm程度で形成されており、そして開口部28の幅bは、前述したターゲット22の幅より若干広い310mm程度で形成されている。また、隣接するチムニー24間の幅cは、50〜70mm程度の間隔を隔てて形成されている。
【0025】
各チムニー24を挟んでターゲット22の反対側には、各チムニー24の長手方向に沿って等間隔に、複数の永久磁石26が配列されている。各永久磁石26は、チムニー24の開口部28と同一の平面から基板W側に向けて突出するように配置されている。具体的には、永久磁石26はターゲット22と基板Wとの中間位置、つまり基板Wの表面W1から45〜50mm程度の位置に配置されている。
【0026】
また、複数のターゲットに対応する複数の永久磁石26は、基板Wの搬送方向に沿ってN極とS極とが交互になるように配置されている。そして、対向する永久磁石26間に磁場を発生させることにより、各ターゲット22と基板Wとが対向する領域毎に、基板Wの表面W1と平行で、かつターゲット22の短手方向に沿った磁場が発生する(図2参照)。なお、本実施形態ではチムニー24の長手方向に沿って複数の永久磁石26を配列した場合について説明したが、チムニー24の長手方向の長さに相当する1枚の永久磁石を配置しても構わない。
【0027】
(成膜方法)
次に、本実施形態のスパッタ装置による成膜方法について説明する。
まず、ガス供給手段17(図1参照)から成膜室14にスパッタガスを供給し、外部電源から背面プレート30を介してターゲット22にスパッタ電圧を印加する。成膜室14内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、ターゲット22に衝突してITO膜の成膜材料の原子を飛び出させる。そして、飛び出した原子を基板Wに付着させることにより、基板Wの表面W1にITO膜が形成される。本実施形態のように、インラインスパッタ装置(スパッタ装置10)では、基板保持手段に保持された基板Wがターゲット22に対して相対移動するので、基板Wの表面W1全体に成膜を行うことができる。また、複数の基板Wを連続して長辺方向(第1方向:図2中矢印F)に移動させることにより、複数の基板Wに対して連続的に成膜を行うことができる。
【0028】
ところで、ITO膜等の酸化膜を成膜する際には、ターゲットに含まれる酸素原子或いはスパッタリング時に導入される酸素ガスからプラズマ中で酸素イオンが発生し、ターゲット電位により加速されて基板に入射する。電子や酸素イオンが基板に入射すると、ITO膜の結晶配向性に対してダメージを与え、ITO膜の抵抗値が増加する等、膜特性を損なうという問題がある。
【0029】
ここで、本実施形態では、基板Wとターゲット22との間において、永久磁石26により磁場を発生させることで、電子や酸素イオンが基板Wの表面W1へ入射することを防いでいる。
【0030】
具体的には、ターゲット22と基板Wとの中間位置に配置された永久磁石26により、基板Wの表面W1と平行で、かつターゲット22の短手方向に沿った磁場を発生させる(図2中矢印Q参照)。この場合、基板Wとターゲット22との間に印加する磁場は10(Oe)以上であることが好ましい。そして、プラズマ中で発生して基板Wに向けて飛行している電子や酸素イオンが、チムニー24の開口部28を通過し、磁場が発生している領域に差し掛かると、基板Wの搬送方向に直交する方向(図2中矢印R参照)に偏向されることとなる。
【0031】
これは、一般に電荷qをもつ荷電粒子がF=q(E+v×B)で表されるローレンツ力Fを受けることを利用したものである。なお、Eは粒子が飛行する空間における電場であり、Bは磁場の強さ、vは荷電粒子の速度である。
ここで、荷電粒子の速度vに対して垂直(基板Wの表面W1に平行)な方向に磁場Bを形成することで、荷電粒子はこれらの向きに垂直な方向に力を受けることとなる。よって、ローレンツ力を受けた電子や酸素イオンは、その飛行方向および磁場方向に直交する方向、つまり基板Wの表面W1と平行な方向に曲げられるため、基板Wの表面W1に入射することなく飛行することとなる。
【0032】
したがって、本実施形態によれば、ターゲット22と基板Wとの間において、ターゲット22の短手方向に沿った磁場を印加する永久磁石26を有するとともに、基板Wの搬送方向(長辺方向)をターゲット22の短手方向に一致させて基板Wを搬送させる構成とした。
この構成によれば、ターゲット22と基板Wとの間において、ターゲット22の短手方向に沿った磁場を発生させることで、基板Wとターゲット22との間に10(Oe)以上の強い磁場を発生させることができる。そのため、ターゲット22から発生する電子や酸素イオンが、ローレンツ力を受けて基板Wと平行で、かつ基板Wの短辺方向に沿って偏向されることとなる。
よって、透明電導膜であるITO膜の初期成長過程のみならず、ITO膜の全成膜過程において、電子や酸素イオンが基板Wの表面W1に入射することを防ぎ、基板Wや基板Wに形成されるITO膜等へのダメージを低減することができる。これにより、成膜材料の抵抗値が増加することを抑制することができる。その結果、基板Wに形成されるITO膜は、全成膜過程を通じて結晶性等の膜特性を維持することが可能となる。
【0033】
さらに、ターゲット22から叩き出された成膜材料が、必ずチムニー24の開口部28を通過することを利用して、チムニー24を挟んでターゲット22の反対側に永久磁石26が配置されている構成とした。これにより、ターゲット22からの成膜材料の飛散範囲全体にもれなく磁場を印加することが可能になり、電子や酸素イオンが基板Wに入射するのを確実に防止することができる。よって、電子や酸素イオンによる基板Wに形成されるITO膜等へのダメージをより低減することができる。また、チムニー24により永久磁石26がターゲット22の死角となるため、ターゲット22から叩き出された粒子が永久磁石26に付着することを防ぐことができる。
また、本実施形態のようなインライン式のスパッタ装置10にあっては、基板Wをターゲット22の配列方向に移動させながら成膜処理を行うため、複数のターゲット22を用いて効率よく成膜処理を行うことができる。
【0034】
このように、各ターゲット22の短手方向の両端部に永久磁石26を配置し、各ターゲット22の短手方向に沿った磁場を印加することで、従来のように基板の両端部に永久磁石を配置する場合と比べて、大型の基板の中央部においても強い磁場を得ることができる。そのため、電子や電子より質量数の大きい酸素イオンを確実に偏向させることが可能になり、これらが基板Wの表面W1に入射することを確実に防ぐことができる。したがって、ITO膜等の透明導電膜の抵抗値が増加することを抑制することができるため、大面積の基板Wの表面W1に膜特性に優れ、膜厚の均一な薄膜を連続的に成膜することができる。
【0035】
さらに、ターゲット22を挟んで、チムニー24の反対側であって、基板Wとターゲット22との中間位置に永久磁石26が設けられているため、ターゲット22から発生する磁場との干渉を防ぐことができる。さらに、永久磁石26から発生する磁場が基板Wに湧き出しあるいは浸み込むことがないため、基板Wの表面W1に平行な磁場を効率的に印加することができる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0037】
例えば、本実施形態では、各チムニーを挟んでターゲットの反対側に永久磁石を配置したが(図2参照)、図4に示すように、隣接するターゲット22のチムニー24間に永久磁石26を1列のみ配置し、隣接するターゲット22のチムニー24間の永久磁石26を共用する構成としてもよい。つまり、隣接する一対のターゲット22間に配置された永久磁石26は、一対のターゲット22と基板Wとの間における磁場の印加に供されることになる。この場合、永久磁石26は、隣接するターゲット22の中間位置に、ターゲット22の長手方向に沿って配置することが好ましい。これにより、永久磁石26の配置個数を削減することができ、基板Wとターゲット22との間に効率的に磁場を発生させた上で、装置コストを低減することができる。
また、本実施形態では、ターゲットを複数配列し、その配列方向に沿って基板を搬送したが、ターゲットと基板とが相対的に移動するような構成であれば、適宜設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態におけるマグネトロンスパッタ装置の概略構成図(正面図)である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図2のB−B線に沿う断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態におけるマグネトロンスパッタ装置の図1のA−A線に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10…スパッタ装置 14…成膜室(スパッタ室) 14p…高真空排気手段(真空排気手段) 17…ガス供給手段 22…ターゲット 24…チムニー(防着部材) 26…永久磁石(磁場印加手段) W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を備えたターゲットと、
前記ターゲットの表面と基板の表面とを略平行に配置しつつ、前記ターゲットと前記基板とを相対移動させる移動機構と、を有し、
前記基板の表面の第1方向における長さより、前記ターゲットの表面の前記第1方向における長さが短く形成されたスパッタ装置において、
前記ターゲットと前記基板との間において、前記第1方向に磁場を印加する磁場印加手段を有し、
前記移動機構は、前記磁場印加手段を前記ターゲットとともに、前記基板に対して相対移動させることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記ターゲットと前記基板との間に、前記ターゲットからの前記成膜材料の飛散範囲を規制する防着部材が設けられ、
前記磁場印加手段は、前記防着部材を挟んで前記ターゲットの反対側に配置されていることを特徴とする請求項1記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記移動機構は、固定された前記ターゲットに対して前記基板を前記第1方向に移動させ、
前記ターゲットは、前記第1方向に沿って複数設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のスパッタ装置。
【請求項4】
隣接する一対の前記ターゲット間に配置された前記磁場印加手段は、前記一対のターゲットと前記基板との間における磁場の印加に供されていることを特徴とする請求項3記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記ターゲットはITOの成膜材料を含んでいることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のスパッタ装置は、
前記基板を保持する基板保持手段と、
前記ターゲットが配置されるとともに、前記基板が前記移動機構により移動するスパッタ室と、
該スパッタ室内の真空排気を行う真空排気手段と、
前記スパッタ室内にスパッタガスを供給するガス供給手段と、
前記ターゲットに電圧を印加する電源と、を備えたインライン式スパッタ装置であることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項7】
成膜材料を備えたターゲットと、
前記ターゲットの表面と基板の表面とを平行に配置しつつ、前記ターゲットと前記基板とを相対移動させる移動機構と、を有し、
前記ターゲットの表面の第1方向における長さは、前記基板の表面の前記第1方向における長さより短く形成され、
前記ターゲットと前記基板との間において、前記第1方向に磁場を印加する磁場印加手段を有するスパッタ装置を用いて、
前記磁場印加手段により前記第1方向に磁場を印加しつつ、前記移動機構により前記磁場印加手段を前記ターゲットとともに前記基板に対して相対移動させて、スパッタ成膜を行うことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138230(P2009−138230A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315837(P2007−315837)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】