説明

スピンドルモータ、ディスク駆動装置、及びスピンドルモータの製造方法

【課題】スピンドルモータは、上下にのびる中心軸に対して直交する方向に広がるベース部材の上面側にステータユニットを固定する必要がある。
【解決手段】ベース部材31及びステータユニット32に対して回転する回転部4の中心軸を中心とする円環状のコアバック321a及びコアバックから径方向内側へ向けて突出した複数本のティース部321bを有するステータコア321と、複数本のティース部に巻回されたコイル322a,322bに対応して、ベース部材31の上面側を、ステータユニット32との間に接着剤34が介在する第1領域51と、ステータユニットとの間に接着剤34が介在しない第2領域52とを分離するため、接着剤の径方向内側への侵入を制限する堰部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、及びスピンドルモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置や光ディスク装置には、ディスクをその中心軸を中心として回転させるためのスピンドルモータが搭載されている。スピンドルモータは、装置のハウジングに固定される静止部と、ディスクを支持しつつ回転する回転部とを有する。スピンドルモータは、静止部と回転部との間に発生する磁束により中心軸を中心としたトルクを発生させ、これにより、静止部に対して回転部を回転させる。
【0003】
静止部は、磁束を発生させるためのステータを有する。ステータは、ステータコアとステータコイルとを有し、ベース部材に接着剤を介して固定されている。例えば、特開2008−79421号公報には、ベース部材に接着剤を介してステータが固定され、ステータの内側にロータマグネットが位置するインナーロータタイプのスピンドルモータが記載されている。
【特許文献1】特開2008−79421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インナーロータタイプのスピンドルモータにおいて、ベース部材とステータとを強固に固定し、動作時の騒音や振動も低減させるためには、ベース部材とステータとを多量の接着剤で固定することが望ましい。しかしながら、多量の接着剤を使用すると、ステータコイルから引き出されたコモン線への接着剤の吸い上げが発生し易い。接着剤を吸い上げた状態でコモン線のワイアーアレンジを行うと、コモン線の断線不良を引き起こす虞がある。
【0005】
また、ベース部材に多量の接着剤を一度に塗布すると、ステータを固定したときに接着剤が径方向内側へはみ出し、接着剤とロータマグネットとが干渉してしまう、という問題もある。
【0006】
接着剤のはみ出しを防止するためには、例えば、ステータを配置する前と配置した後との2回に分けて、接着剤を塗布することも考えられる。すなわち、まず、ベース部材に接着剤の一次塗布を行い、ステータを配置して、接着剤を硬化させる。その後、ステータコイルの間に接着剤の二次塗布を行い、接着剤を硬化させる。しかしながら、このような方法では、接着剤を塗布する工程と接着剤を硬化させる工程とを、2回繰り返さなくてはならず、スピンドルモータの生産性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、コモン線への接着剤の吸い上げや、径方向内側への接着剤の侵入を防止しつつ、多量の接着剤でベース部材とステータユニットとを固定できるスピンドルモータ及びスピンドルモータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、上下にのびる中心軸に対して直交する方向に広がるベース部材と、前記ベース部材の上面側に配置されたステータユニットと、前記ベース部材に前記ステータユニットを固定する接着剤と、前記ベース部材及び前記ステータユニットに対して、前記中心軸を中心として回転する回転部と、を備え、前記ステータユニットは、前記中心軸を中心とする円環状のコアバック及び前記コアバックから径方向内側へ向けて突出した複数本のティース部を有するステータコアと、前記複数本のティース部に巻回されたコイルと、を有し、前記ベース部材は、前記ステータユニットとの間に接着剤が介在する第1領域と、前記ステータユニットとの間に接着剤が介在しない第2領域と、を有し、前記コイルの複数本の導線を束ねたコモン線は、前記第2領域の上方から引き出されており、前記ベース部材の上面に、前記接着剤の径方向内側への侵入を制限する堰部が設けられているスピンドルモータである。
【0009】
本願の第2発明は、上下にのびる中心軸に対して直交する方向に広がるベース部材と、前記ベース部材の上面側に配置されたステータユニットと、前記ベース部材に前記ステータユニットを固定する接着剤と、前記ベース部材及び前記ステータユニットに対して、前記中心軸を中心として回転する回転部と、を備えるスピンドルモータの製造方法であって、a)前記ベース部材の前記上面に、前記接着剤の径方向内側への侵入を制限する堰部を形成する工程と、b)前記工程a)の後に、前記ベース部材の前記堰部より径方向外側の領域に、接着剤を塗布する工程と、c)前記ベース部材に前記接着剤を介して前記ステータユニットを配置する工程と、d)前記工程c)の後に、前記接着剤を硬化させる工程と、を含み、前記工程b)では、前記中心軸を中心とする円弧状の領域に前記接着剤を塗布し、前記工程c)では、前記接着剤が塗布されていない領域の上方にコモン線の引き出し部が位置するように、前記ベース部材と前記ステータユニットとを固定するスピンドルモータの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本願の第1発明によれば、コモン線への接着剤の吸い上げを抑制でき、これにより、コモン線の断線不良を防止できる。また、径方向内側への接着剤の侵入を制限し、これにより、接着剤と回転部との干渉を防止できる。また、コモン線への接着剤の吸い上げや、径方向内側への接着剤の侵入を防止しつつ、多量の接着剤でベース部材とステータユニットとを固定できる。これにより、ベース部材とステータユニットとを強固に固定できるとともに、スピンドルモータの動作時の騒音や振動も低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、スピンドルモータの構成を示した図である。
【図2】図2は、ディスク駆動装置の縦断面図である。
【図3】図3は、スピンドルモータの縦断面図である。
【図4】図4は、ベース部材及びステータユニットの上面図である。
【図5】図5は、第1領域におけるベース部材及びステータユニットの拡大縦断面図である。
【図6】図6は、ベース部材とステータユニットとを固定するときの手順を示したフローチャートである。
【図7】図7は、撥油膜が形成されたベース部材の上面図である。
【図8】図8は、接着剤が塗布されたベース部材の上面図である。
【図9】図9は、変形例に係るベース部材の上面図である。
【図10】図10は、変形例に係るベース部材及びステータユニットの拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、中心軸9に沿った方向を上下方向とし、ベース部材31に対してステータユニット32側を上として、各部材の形状や位置関係を説明する。ただし、これは、あくまで説明の便宜のために上下方向を定義したものであって、本発明に係るスピンドルモータ及びディスク駆動装置が実際の機器に搭載されたときの設置姿勢を限定するものではない。
【0013】
<1.一実施形態に係るスピンドルモータ>
図1は、本発明の一実施形態に係るスピンドルモータ1の構成を示した図である。図1に示したように、スピンドルモータ1は、ベース部材31と、ステータユニット32と、回転部4とを備えている。ベース部材31は、上下にのびる中心軸9に対して直交する方向に広がっている。ステータユニット32は、ベース部材31の上面側に配置され、接着剤34によりベース部材31に固定されている。また、回転部4は、ベース部材31及びステータユニット32に対して、中心軸9を中心として回転する。
【0014】
ステータユニット32は、ステータコア321と、複数のコイル322a,322bとを有する。ステータコア321は、中心軸9を中心とする円環状のコアバック321aと、コアバック321aから径方向(中心軸9に直交する方向。以下同じ)の内側へ向けて突出した複数本のティース部321bを有する。複数のコイル322a,322bは、複数本のティース部321bにそれぞれ巻回されている。
【0015】
ここで、ベース部材31は、ステータユニット32との間に接着剤34が介在する第1領域51と、ステータユニット32との間に接着剤34が介在しない第2領域52と、を有する。そして、第2領域52の上方に位置するコイル322aから、複数本の導線を束ねたコモン線32cが引き出されている。このため、コモン線32cへの接着剤34の吸い上げが抑制される。また、ベース部材31の上面には、接着剤34の径方向内側への侵入を制限する堰部350が設けられている。
【0016】
スピンドルモータ1の製造工程においては、以下の手順で、ベース部材31とステータユニット32とを固定する。まず、ベース部材31の上面に堰部350を形成する。次に、ベース部材31の堰部350より径方向外側であって、かつ、中心軸9を中心とする円弧状の領域に、接着剤34を塗布する。そして、ベース部材31の上面側に、接着剤34を介してステータユニット32を配置する。このとき、接着剤34が塗布されていない領域の上方にコモン線32cの引き出し部が位置するように、ステータユニット32を配置する。
【0017】
本実施形態のスピンドルモータ1では、コモン線32cへの接着剤34の吸い上げや、径方向内側への接着剤34の侵入を防止しつつ、多量の接着剤34でベース部材31とステータユニット32とを固定できる。これにより、ベース部材31とステータユニット32とを強固に固定できるとともに、スピンドルモータ1の動作時の騒音や振動も低減させることができる。
【0018】
<2.より具体的な実施形態>
<2−1.ディスク駆動装置の構成>
続いて、本発明のより具体的な実施形態について説明する。
【0019】
図2は、ディスク駆動装置2の縦断面図である。ディスク駆動装置2は、磁気ディスク22(以下、単に「ディスク22」という)を回転させつつ、ディスク22に対する情報の読み出し及び書き込みを行う装置である。図2に示したように、ディスク駆動装置2は、装置ハウジング21、ディスク22、アクセス部23、およびスピンドルモータ1を備えている。
【0020】
装置ハウジング21は、ディスク22、アクセス部23、およびスピンドルモータ1を内部に収容する筐体である。アクセス部23は、スピンドルモータ1に支持されたディスク22の記録面に沿ってヘッド231を移動させて、ディスク22に対する情報の読み出し及び書き込みを行う。なお、アクセス部23は、ディスク22に対して情報の読み出し及び書き込みのいずれか一方のみを行うものであってもよい。
【0021】
<2−2.スピンドルモータの構成>
続いて、上記のスピンドルモータ1の構成について説明する。図3は、スピンドルモータ1の縦断面図である。このスピンドルモータ1は、ステータユニット32の径方向内側にロータマグネット43が位置する、いわゆるインナーロータタイプのモータである。図3に示したように、スピンドルモータ1は、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21に固定された静止部3と、ディスク22を支持しつつ中心軸9を中心として回転する回転部4とを備えている。
【0022】
静止部3は、ベース部材31、ステータユニット32、及び静止軸受ユニット33を有している。
【0023】
ベース部材31は、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21(図2参照)の一部であり、装置ハウジング21の他の部位と一体に形成されている。ベース部材31は、中心軸9に対して直交する方向に広がる平板部311と、平板部311の内縁部から上方へ突出した内側円筒部312と、平板部311の外縁部から上方へ突出した外側円筒部313とを有する。平板部311、内側円筒部312、及び外側円筒部313は、全体として、ステータユニット32を収容するための凹部を構成する。ベース部材31は、例えば、アルミニウム合金等の金属材料により形成される。
【0024】
ベース部材31は、平板部311を軸方向(中心軸9に沿う方向。以下同じ)に貫通する複数のコイル孔31aを有する。また、ベース部材31の平板部311の下面には、シール部材314が貼付されている。シール部材314は、例えば、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂により形成される。各コイル孔31aの下面側の開口は、シール部材314により閉塞された状態となっている。
【0025】
なお、本実施形態では、ベース部材31と装置ハウジング21とが一体に形成されているが、ベース部材31と装置ハウジング21とは、互いに固定された別体の部材であってもよい。
【0026】
ステータユニット32は、ステータコア321と複数のコイル322a,322bとを有し、コイル322a,322bに与えられた駆動電流に応じて、磁束を発生させる機能を有する。ステータユニット32は、接着剤34を介してベース部材31に固定されている。
【0027】
ステータコア321は、中心軸9を中心とする円環状のコアバック321aと、コアバック321aから径方向内側に向けて突出した複数本のティース部321bとを有する。ステータコア321は、例えば、電磁鋼板を軸方向に積層させた積層鋼板に、打抜き加工を行うことにより得られる。
【0028】
また、コイル322a,322bは、ステータコア321の各ティース部321bの周囲に巻回された導線により構成されている。ステータユニット32は、各コイル322a,322bの下部をコイル孔31aに収容させた状態で、平板部311の上面側に固定されている。
【0029】
図4は、ベース部材31及びステータユニット32の上面図である。図3は、図4中のIII−III位置から見た断面図に相当する。図4に示したように、本実施形態のステータコア321は、9本のティース部321bを有する。そして、ベース部材31の平板部311には、各ティース部321bに巻回されたコイル322a,322bに対応する9つのコイル孔31aが、中心軸9の周囲に等間隔に形成されている。
【0030】
本実施形態のコイル322a,322bは、三相交流、すなわち、U相、V相、及びW相の各電流を流すための3本の導線により構成されている。U相、V相、及びW相の各電流は、図4中に示した入力側の端部32u,32v,32wを介して、各導線に入力される。また、3本の導線の出力側の端部は、螺旋状に束ねられて1本のコモン線32cを構成する。コモン線32cにおいて、3本の導線はスター結線(Y結線)として接続され、U相、V相、及びW相の各電流が合流する。
【0031】
図4に示したように、本実施形態では、コモン線32cが引き出された1つのコイル322aと、他の8つのコイル322bとが、ベース部材31上に配置されている。そして、接着剤34は、平面視において8つのコイル322bと重なる円弧状の領域と、コアバック321aと外側円筒部313との間の円環状の領域とに、形成されている。
【0032】
すなわち、ベース部材31の平板部311は、ステータユニット32との間に接着剤34が介在する第1領域51と、ステータユニット32との間に接着剤34が介在しない第2領域52とを有する。そして、コモン線32cは、第2領域52の上方に位置するコイル322aから引き出されている。このため、コモン線32cへの接着剤34の吸い上げが抑制される。これにより、接着剤34の吸い上げによるコモン線32cの断線不良も防止される。
【0033】
コアバック321aの外周面と、ベース部材31の外側円筒部313の内周面とは、径方向に対向する。そして、コアバック321aの外周面とベース部材31の外側円筒部313の内周面との間には、接着剤34が全周に亘って介在する。このため、ステータコア321は、ベース部材31に全周に亘って強固に固定される。
【0034】
また、図3及び図4に示したように、ベース部材31の上面には、撥油膜35が形成されている。本実施形態の撥油膜35は、複数のコイル孔31aの径方向内側の部位を結んだ円環状の領域に形成されている。撥油膜35は、例えば、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系の撥油成分を含む。一方、接着剤34は、例えば、OH基を有する接着成分を含む。撥油膜35は、接着剤34をはじく性質を有し、接着剤34の径方向内側への侵入を制限する堰部として機能する。
【0035】
図5は、第1領域51におけるベース部材31及びステータユニット32の拡大縦断面図である。図5に示したように、撥油膜35の径方向外側の端部は、後述するロータマグネット43の外周面よりも径方向外側に位置する。このため、接着剤34は、ロータマグネット43の外周面よりも径方向外側の位置において堰き止められる。このため、接着剤34とロータマグネット43との干渉が防止される。
【0036】
コイル孔31aの内部において、接着剤34は、コイル322bよりも径方向内側の位置から、コイル322bよりも径方向外側の位置までに亘って、ステータユニット32とシール部材314との間に介在する。すなわち、コイル孔31aの内部における接着剤34の径方向内側の端部は、コイル322bよりも径方向内側に位置し、コイル孔31aの内部における接着剤34の径方向外側の端部は、コイル322bよりも径方向外側に位置する。このため、ベース部材31に対してステータユニット32は強固に固定される。
【0037】
また、接着剤34は、コイル322bを構成する導線の隙間にも浸透されている。このため、ベース部材31に対してコイル322bがより強固に固定され、スピンドルモータ1の動作時の振動や騒音も良好に低減される。
【0038】
図3に戻る。静止軸受ユニット33は、回転部4側のシャフト41を回転自在に支持するための機構である。静止軸受ユニット33は、略円筒形状のスリーブ331と、スリーブ331の下部の開口を閉塞するキャップ332とを有する。スリーブ331の内周面とシャフト41の外周面との間には、潤滑オイルが充填されている。
【0039】
回転部4は、シャフト41、ハブ42、およびロータマグネット43を有している。
【0040】
シャフト41は、中心軸9に沿って上下方向にのびる略円柱形状の部材である。シャフト41は、スリーブ331の内側に挿入された状態で、静止軸受ユニット33に対して回転可能に支持されている。ハブ42は、シャフト41に固定されてシャフト41とともに回転する部材である。ハブ42は、ディスク22を支持する支持面を有する。
【0041】
ロータマグネット43は、ハブ42に固定されている。ロータマグネット43は、中心軸9を中心とする円環形状をなしており、その外周面は、ステータコア321の複数のティース部321bの内周面と径方向に対向する。また、ロータマグネット43の外周面は、N極とS極とが交互に配列された磁極面となっている。
【0042】
このようなスピンドルモータ1において、静止部3のコイル322a,322bに駆動電流を与えると、ステータコア321の複数のティース部321bに径方向の磁束が発生する。そして、ティース部321bとロータマグネット43との間の磁束の作用により周方向のトルクが発生し、静止部3に対して回転部4が中心軸9を中心として回転する。ハブ42に支持されたディスク22は、シャフト41及びハブ42とともに中心軸9を中心として回転する。
【0043】
<2−3.ベース部材とステータユニットとの固定手順>
続いて、スピンドルモータ1の製造工程において、ベース部材31とステータユニット32とを固定するときの手順について、図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0044】
ベース部材31とステータユニット32とを固定するときには、まず、ベース部材31の平板部311の下面に、シール部材314を貼付する(ステップS1)。これにより、複数のコイル孔31aの下面側の開口を閉塞させる。
【0045】
次に、ベース部材31の平板部311の上面に、撥油剤を塗布する(ステップS2)。撥油剤は、複数のコイル孔31aの径方向内側の部位を結んだ円環状の領域に塗布される。撥油剤が塗布されると、当該撥油剤中の溶媒成分が気化することにより、撥油膜35が形成される。図7は、撥油膜35が形成されたベース部材31の上面図である。このように、本実施形態では、ベース部材31の平板部311の上面に接着剤34を塗布する前に、接着剤34の径方向内側への侵入を制限する堰部として、円環状の撥油膜35を形成しておく。
【0046】
なお、ステップS2では、例えば、紫外線に励起されて発光する蛍光性の撥油剤を使用し、紫外線を照射しつつ撥油剤の塗布を行えば、撥油剤の可視性が向上する。このようにすれば、円環状の領域に切れ目なく撥油剤を塗布したか否かを、容易に確認できる。
【0047】
続いて、ベース部材31の平板部311の上面に、接着剤34を塗布する(ステップS3)。本実施形態では、加熱により硬化する熱硬化性の接着剤34が使用される。図8は、接着剤34が塗布されたベース部材31の上面図である。図8に示したように、接着剤34は、撥油膜35よりも径方向外側の領域に塗布される。また、接着剤34は、少なくとも1つのコイル孔31aに重ならない円弧状の領域に、塗布される。
【0048】
その後、ベース部材31の平板部311の上面側に、接着剤34を介してステータユニット32を配置する(ステップS4)。ここでは、接着剤34が塗布されていないコイル孔31aに、コモン線32cの引き出し部を有するコイル322aが収容されるように、ステータユニット32を配置する。コモン線32cは、接着剤34が塗布されていない領域の上方に位置することとなる。
【0049】
ステータユニット32は、図示しない押圧機構により、平板部311側に押圧される。これにより、ベース部材31とステータユニット32との間において、接着剤34が拡がる。コイル孔31aの内部においては、コイル322aの径方向内側からコイル322aの径方向外側までに亘る領域に、接着剤34が拡がる。ただし、コイル孔31aの内側には撥油膜35が形成されているため、撥油膜35の外縁部より径方向内側への接着剤34の侵入は抑制される。
【0050】
また、ステータコア321のコアバック321aの外周面と、ベース部材31の外側円筒部313の内周面との間には、全周に接着剤34が行き渡る。
【0051】
その後、押圧機構によりステータユニット32を押圧した状態のまま、ベース部材31及びステータユニット32を加熱炉に搬入する。加熱炉の内部において、接着剤34は加熱されて硬化し、これにより、ベース部材31に対してステータユニット32が固定される(ステップS5)。
【0052】
接着剤34の一部は、加熱時にコイル322bを構成する導線の隙間にも浸透し、導線の隙間において硬化する。これにより、ベース部材31に対してコイル322bはより強固に固定される。また、加熱時には、撥油膜35中に残存する溶媒成分も気化し、平板部311の上面に撥油膜35が定着する。
【0053】
所定時間の加熱が完了すると、ベース部材31及びステータユニット32を加熱炉から取り出し、押圧機構の押圧を解除する。そして、ベース部材31に対するステータユニット32の高さ検査を行う(ステップS6)。高さ検査においては、ベース部材31に対するステータユニット32の高さや傾きが、許容範囲内であるかどうかが検査される。
【0054】
以上のように、本実施形態では、接着剤34が塗布されていない領域の上方にコモン線32cを配置する。このため、コモン線32cへの接着剤34の吸い上げが防止される。また、撥油膜35により接着剤34の径方向内側への侵入が制限される。したがって、多量の接着剤34を使用してベース部材31とステータユニット32とを強固に固定し、スピンドルモータ1の動作時の騒音や振動も低減できる。
【0055】
また、本実施形態では、接着剤34の径方向内側への侵入を防止するために、接着剤34を複数回に分けて塗布する必要はない。このため、スピンドルモータ1の生産効率が向上する。接着剤34を一度に塗布すれば、接着剤34の塗布量のばらつきや、接着剤34を塗布する際のパーティクルの混入も、抑制できる。
【0056】
<3.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0057】
上記の実施形態では、ステップS3において接着剤34を一度に塗布していたが、接着剤34は、ステータユニット32を配置する前と配置した後の2度に分けて塗布されてもよい。
【0058】
上記の実施形態では、コイル孔31aの径方向内側の部位を結んだ円環状の領域に撥油膜35を形成していたが、撥油膜35は、接着剤34が塗布される領域の内側に形成されていればよい。例えば、9つのコイル孔31a,31bのうちの8つのコイル孔31bの径方向内側の部位を結んだ円弧状の領域に、撥油膜35が形成されていてもよい。
【0059】
また、上記の実施形態では、コイル孔31aの径方向内側の領域のみに撥油膜35を形成していたが、図9に示したように、撥油膜35は、周方向に隣り合うコイル孔31aの間の領域にも形成されていてもよい。ただし、ステータコア321のコアバック321aの下面と平板部311の上面との間に接着剤34を良好に介在させるため、撥油膜35の径方向外側の端部は、コアバック321aの内周面より径方向内側に位置していることが望ましい。
【0060】
また、上記の実施形態では、ベース部材31の平板部311の上面に撥油膜35を形成していたが、図10に示したように、平板部311の上面に、撥油膜35の代わりに凸部36を形成してもよい。凸部36は、ベース部材31と一体に成形されたものであってもよく、ベース部材31とは別個の部材であってもよい。このような凸部36も、接着剤34の径方向内側への侵入を制限する堰部として機能し得る。
【0061】
また、上記の実施形態では、磁気ディスク22を回転させるためのスピンドルモータ1について説明したが、本発明は、光ディスク等の他のディスクを回転させるためのスピンドルモータにも適用することができる。ただし、磁気ディスク用のスピンドルモータは、低騒音性や耐振動性に対して、特に高い性能が要求される。このため、磁気ディスク用のスピンドルモータに本発明を適用する技術的意義は大きい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、及びスピンドルモータの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 スピンドルモータ
2 ディスク駆動装置
3 静止部
4 回転部
9 中心軸
21 装置ハウジング
22 ディスク
23 アクセス部
31 ベース部材
31a コイル孔
32 ステータユニット
32c コモン線
33 静止軸受ユニット
34 接着剤
35 撥油膜
36 凸部
41 シャフト
42 ハブ
43 ロータマグネット
51 第1領域
52 第2領域
311 平板部
312 内側円筒部
313 外側円筒部
314 シール部材
321 ステータコア
321a コアバック
321b ティース部
322a,322b コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下にのびる中心軸に対して直交する方向に広がるベース部材と、
前記ベース部材の上面側に配置されたステータユニットと、
前記ベース部材に前記ステータユニットを固定する接着剤と、
前記ベース部材及び前記ステータユニットに対して、前記中心軸を中心として回転する回転部と、
を備え、
前記ステータユニットは、
前記中心軸を中心とする円環状のコアバック及び前記コアバックから径方向内側へ向けて突出した複数本のティース部を有するステータコアと、
前記複数本のティース部に巻回されたコイルと、
を有し、
前記ベース部材は、
前記ステータユニットとの間に接着剤が介在する第1領域と、
前記ステータユニットとの間に接着剤が介在しない第2領域と、
を有し、
前記コイルの複数本の導線を束ねたコモン線は、前記第2領域の上方から引き出されており、
前記ベース部材の上面に、前記接着剤の径方向内側への侵入を制限する堰部が設けられているスピンドルモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のスピンドルモータにおいて、
前記堰部は、前記ベース部材の上面において前記第1領域の径方向内側に形成された撥油膜であるスピンドルモータ。
【請求項3】
請求項2に記載のスピンドルモータにおいて、
前記撥油膜は、パーフルオロアルキル基を含む分子構造を有する撥油剤を含んでなるスピンドルモータ。
【請求項4】
請求項1に記載のスピンドルモータにおいて、
前記堰部は、前記ベース部材の上面において前記第1領域の内側に形成された凸部であるスピンドルモータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
前記回転部は、前記複数本のティース部の内周面に対向する外周面を有するロータマグネットを備え、
前記堰部の径方向外側の端部は、前記ロータマグネットの前記外周面よりも径方向外側に位置するスピンドルモータ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
前記ベース部材は、前記コイルを収容する複数のコイル孔を有し、
前記堰部は、少なくとも、前記複数のコイル孔の径方向内側の部位を結んだ円弧状又は円環状の領域に形成されているスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のスピンドルモータにおいて、
前記堰部は、周方向に隣り合う前記コイル孔の間の領域にも形成されているスピンドルモータ。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のスピンドルモータにおいて、
前記コイル孔の内部における前記接着剤の径方向内側の端部は、前記コイルよりも径方向内側に位置し、
前記コイル孔の内部における前記接着剤の径方向外側の端部は、前記コイルよりも径方向外側に位置するスピンドルモータ。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
前記ベース部材は、前記コアバックの外周面に対向する内周面を有し、
前記接着剤は、前記コアバックの外周面と前記ベース部材の前記内周面との間に、全周に亘って介在するスピンドルモータ。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれかに記載のスピンドルモータと、
前記スピンドルモータの前記回転部に支持された前記ディスクに対し、情報の読み出しおよび書き込みの少なくとも一方を行うアクセス部と、
前記スピンドルモータおよび前記アクセス部を収容するハウジングと、
を備えたディスク駆動装置。
【請求項11】
上下にのびる中心軸に対して直交する方向に広がるベース部材と、前記ベース部材の上面側に配置されたステータユニットと、前記ベース部材に前記ステータユニットを固定する接着剤と、前記ベース部材及び前記ステータユニットに対して、前記中心軸を中心として回転する回転部と、を備えるスピンドルモータの製造方法であって、
a)前記ベース部材の前記上面に、前記接着剤の径方向内側への侵入を制限する堰部を形成する工程と、
b)前記工程a)の後に、前記ベース部材の前記堰部より径方向外側の領域に、接着剤を塗布する工程と、
c)前記ベース部材に前記接着剤を介して前記ステータユニットを配置する工程と、
d)前記工程c)の後に、前記接着剤を硬化させる工程と、
を含み、
前記工程b)では、前記中心軸を中心とする円弧状の領域に前記接着剤を塗布し、
前記工程c)では、前記接着剤が塗布されていない領域の上方にコモン線の引き出し部が位置するように、前記ベース部材と前記ステータユニットとを固定するスピンドルモータの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のスピンドルモータの製造方法において、
前記工程a)では、前記ベース部材の上面に撥油剤を塗布するスピンドルモータの製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載のスピンドルモータの製造方法において、
前記工程a)では、前記ベース部材の上面に凸部を形成するスピンドルモータの製造方法。
【請求項14】
請求項11から請求項13までのいずれかに記載のスピンドルモータの製造方法において、
前記ベース部材は、前記ステータユニットに含まれるコイルを嵌合させる複数のコイル孔を有し、
前記工程a)では、少なくとも、前記複数のコイル孔の径方向内側の部位を結んだ円弧状又は円環状の領域に、前記堰部を形成するスピンドルモータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−207006(P2010−207006A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51686(P2009−51686)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】