説明

スピンドルモータおよび回転装置

【課題】 動圧発生溝や各部品の加工誤差等に起因する圧力差を補償するための連通穴を適切に形成し、動圧発生溝の形成も容易で、潤滑流体の漏れを容易に防止することが可能なスピンドルモータを提供する。
【解決手段】シャフトに外筒部材を取り付け、外筒部材とスリーブ間にラジアル動圧軸受及びスラスト動圧軸受を設けるとともに、シャフトと外筒部材間及びハブと外筒部材間に連通穴を形成する。鍔部付き外筒部材をシャフトに取り付けているため連通穴を容易に形成することができるとともに、連通穴開口部とシールとの間にスラスト動圧軸受を有するので、シール部から潤滑流体が漏れにくい。また、鍔部を有した外筒部材にすることにより、スラスト動圧発生溝の形成も容易となり、プレス等の安価な方法でも形成が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動圧軸受を使用したスピンドルモータおよび回転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク、ポリゴンミラー、光ディスク装置などのスピンドルモータに用いられている軸受装置として、従来用いられていた玉軸受装置に代わって、玉軸受よりも回転精度が優れ、しかも静音性にも優れる動圧軸受装置が多く用いられつつある。また、携帯用機器に用いられるようになってきており、更なるスピンドルモータの小型化が求められてきている。
【0003】
特許文献1には小型化を可能な軸受形状として図9及び10に示すように、ラジアル動圧発生溝10をその内周面に形成したスリーブ24をブラケット26で包み、スリーブ24内周面とシャフト1外周面との間でラジアル動圧軸受を形成した構成が提案されている。また、スラスト動圧発生溝11がブラケット26の上面肩部に形成されており、ブラケット26上面肩部とハブ4下面の間でスラスト動圧軸受が形成されている。さらに、少なくともラジアル動圧軸受やスラスト動圧軸受を構成している箇所を含めてスリーブ24内周面とシャフト1外周面との間やブラケット26上面肩部とハブ4下面との間には作動流体としての潤滑油が充填されている。この構成によれば、スリーブ24外周面及び下面と、ブラケット26の内周面及び上面間に潤滑流体31を流通可能に連通する連通穴25を形成することにより、ラジアル軸受部に設けられる動圧発生溝や各部品の加工誤差等に起因して、スリーブ24内周面とシャフト1外周面との間に保持される潤滑流体31の軸線方向上下端部に圧力差が生じた場合も、連通穴25を通じて圧力差が補償され、潤滑流体31内の負圧による気泡の発生やロータの過浮上の発生が抑えられる。また、スリーブ24・ブラケット26一体品で連通穴25を形成する場合は、細くて長い穴をドリル加工等で形成するため加工が困難であるのに対し、この構成のスリーブ24とブラケット26の2ピース構造であれば、スリーブ24の外周面もしくはブラケット26の内周面に溝を設ければ組み立てたときに連通穴になるので、連通穴の形成が容易である。
【0004】
また、特許文献2には図11及び12に示すように、スリーブ27をブラケット26で軸線方向の上下も囲み、連通穴28をコの字形状に形成している構成も提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3には図13及び14に示すように、ラジアル動圧発生溝10とスラスト動圧発生溝11をその内周面とフランジ部上面に形成したフランジ付きスリーブ29をブラケット26で包んだ構成が提案されている。フランジ付きスリーブ29内周面とシャフト1外周面の間でラジアル動圧軸受を形成し、フランジ付きスリーブ29フランジ部上面とハブ4下面の間でスラスト動圧軸受が形成されている。この構成では、フランジ付きスリーブ29外周面及びフランジ部下面と、ブラケット26の内周面及び肩部上面間に連通穴30が形成されている。
【特許文献1】特開2004−19705号公報
【特許文献2】特開2004−52931号公報
【特許文献3】特開2004−239387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された従来構成のスピンドルモータでは、スラスト軸受部分に連通穴が形成されておらず、スラスト動圧発生溝11や各部品の加工誤差等に起因して、スラスト軸受の内周部と外周部に圧力差が生じた場合に圧力差が補償されず、潤滑流体31内の負圧による気泡の発生やロータの過浮上の発生を抑えることができない。さらに、非常に面積の小さなブラケット26の上面肩部にスラスト動圧発生溝を形成するため、上面肩部の表面形状やスラスト動圧溝の加工精度の向上が困難となっている。さらに、同様の理由で、プレス等の安価な方法でスラスト動圧溝の形成を行うことができず、加工コストの低減が困難となっている。
【0007】
それに対し、特許文献3に開示された従来構成のスピンドルモータでは、フランジ付きスリーブ29を形成することにより、スラスト軸受外周部分とラジアル軸受下部の間に連通穴30を形成しているので、スラスト動圧発生溝11や各部品の加工誤差等に起因して圧力差が発生しても、潤滑流体31内の負圧による気泡の発生やロータの過浮上の発生を抑えることができる。また、フランジ付きスリーブ29にすることにより、スラスト動圧発生溝の形成も容易となり、プレス等の安価な方法でも形成が可能になっている。しかしながら軸受開口部の拡大図(図14)に示すように、テーパ部13の近傍に連通穴30が開口しているので、潤滑流体31がラジアル下部からスラスト外周側へ流通すると、スラスト軸受に全ての潤滑流体31を取り込むことができず、テーパ部13と円筒壁部14で形成されるシールから潤滑流体31が漏れやすい形状となっている。
【0008】
本発明は上記課題や問題を解決するもので、動圧発生溝や各部品の加工誤差等に起因する圧力差を補償するための連通穴を適切に形成し、動圧発生溝の形成も容易で、潤滑流体31の漏れを容易に防止することが可能なスピンドルモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題や問題を解決するために本発明のスピンドルモータは、静止部材と、ラジアル軸受部とスラスト軸受部を介して前記静止部材に対して相対回転可能な回転部材を有するスピンドルモータにおいて、前記回転部材はシャフトとシャフトに取り付けられた外筒部材及びロータハブを有し、前記外筒部材は円筒部と前記円筒部の一端部からラジアル外周面に対して垂直な方向に広がる鍔部からなり、前記静止部材は前記外筒部材の円筒部外周面と半径方向に対向する内周面と、前記外筒部材の鍔部下面と軸線方向に対向する上面とを有するスリーブ部材を有し、前記ラジアル軸受部は前記外筒部材の円筒部外周面と、これと半径方向に対向する前記スリーブの内周面との間に介在された流体と、前記外筒部材の円筒部外周面と前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなり、前記スラスト軸受部は前記外筒部材の鍔部下面と、これと軸線方向に対向する前記スリーブ上面との間に介在された流体と、前記外筒部材の鍔部下面と前記スリーブ上面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のスピンドルモータは、前記シャフト外周面と前記外筒部材内周面の間、および前記ロータハブ下面と前記外筒部材上面の間に流体を流通可能に連通する連通穴を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の発明によれば、鍔部付き外筒部材をシャフトに取り付けているため、ラジアル動圧軸受下部とスラスト動圧軸受外周部に連通する連通穴を容易に形成することができる。さらに、連通穴開口部とシールとの間にスラスト動圧軸受を有するので、連通穴から潤滑流体31が流通してもスラスト動圧軸受に向かって潤滑流体31が取り込まれるので、シール部から潤滑流体31が漏れにくい形状となっている。また、鍔部を有した外筒部材にすることにより、スラスト動圧発生溝の形成も容易となり、プレス等の安価な方法でも形成が可能となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るスピンドルモータおよび回転装置について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1及び2は、本発明の実施の形態1におけるスピンドルモータの断面図及びシール近傍の拡大図である。このスピンドルモータは、シャフト1にハブ4が取り付けられておりシャフト1を中心軸として回転するロータを構成している。また、シャフト1に取り付けられた鍔付き外筒部材3と、鍔付き外筒部材3に対して微小隙間を介して外周に配置されたスリーブ2によって軸受が構成されており、スリーブ2に対してシャフト1を含むロータは回転可能に支持されている。さらに、スリーブ2はベース5に取り付けられており、ステータを構成している。
【0014】
ハブ4の下部内周面には周方向に多極着磁された円環状のマグネット7が取り付けられ、ベース5のマグネット7と周方向に対向する位置にはステータコア6が取り付けられており、複数のステータコア7に制御された電流を流すと、マグネット7との間に回転力が発生し、ステータに対してロータを回転させる駆動機構として作用する。
【0015】
鍔付き外筒部3の外周面とスリーブ2の内周面との間には潤滑流体31が充填されており、鍔付き外筒部材3の外周面とスリーブ2の内周面の少なくとも一方にはヘリングボーン形状のラジアル動圧発生溝10が2箇所に形成されている。したがって、鍔付き外筒部材3が回転することによって、鍔付き外筒部材3の外周面とスリーブ2の内周面との間に動圧が発生し、ラジアル動圧軸受が構成されることになる。このラジアル動圧軸受によって、鍔付き外筒部材3はスリーブ2に対してラジアル方向に非接触状態で支持される。なお、本実施例ではラジアル動圧発生溝10をヘリングボーン形状としたが、スパイラル形状や三円弧形状などの溝形状にしてもよい。さらに本実施例ではラジアル動圧発生溝10を2箇所に形成したが、1箇所でも良く、3箇所以上形成しても良い。
【0016】
また、鍔付き外筒部材3の鍔部下面とスリーブ2の上面との間には潤滑流体31が充填されており、鍔付き外筒部材3の鍔部下面とスリーブ2の上面の少なくとも一方にはヘリングボーン形状のスラスト動圧発生溝11が形成されている。したがって、鍔付き外筒部材3が回転することによって、鍔付き外筒部材3の鍔部下面とスリーブ2の上面との間に動圧が発生し、スラスト動圧軸受が構成されることになる。このスラスト動圧軸受によって鍔付き外筒部材3はスリーブに対してアキシャル方向に非接触状態で支持される。なお、本実施例ではスラスト動圧発生溝11をヘリングボーン形状としたが、スパイラル形状やステップ形状などの溝形状にしてもよく、動圧によって潤滑流体31が半径方向内側に向かうポンプイン形状であることが望ましい。
【0017】
ベース5には磁性体で形成された吸引リング9が取り付けられており、マグネット7との間に軸線方向の磁気吸引力を発生させることで、スラスト動圧軸受で発生する動圧とバランスさせて、ロータのアキシャル方向の支持を安定させている。なお、このような磁気付勢は、ステータコア6とマグネット7との軸線方向の磁気的中心をズラすことにより、発生させることも可能である。
【0018】
さらに、スリーブ2の外周上部にはシャフトを中心として外側に広がるテーパ部13が形成されており、スラスト動圧軸受の半径方向外側のハブ4の下面には軸線方向に垂下し且つ前記スリーブの外周面と間隙を介して対向する円筒壁部14が形成されている。このスリーブ2のテーパ部13とハブ4の円筒壁部14で協働して潤滑流体31の漏れを防ぐシールが形成されており、このシールは毛細管力を利用している。
【0019】
このような鍔付き外筒部材3を用いることにより、図9〜12に示す従来のスピンドルモータと比較して、スラスト軸受面積を大きく取ることができ、スラスト軸受の表面形状やスラスト動圧溝の加工精度の向上が可能となっている。さらに、鍔付き外筒部材3にスラスト動圧発生溝11を形成する場合には、プレス等の安価な方法でスラスト動圧溝の形成を行うことができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0020】
また、鍔付き外筒部材3を用いることにより、シャフト1の外周面と鍔付き外筒部材3の内周面の間、およびロータハブ4の下面と鍔付き外筒部材の鍔部上面の間に流体を流通可能に連通する連通穴12を容易に形成することができる。したがって、ラジアル動圧発生溝10やスラスト動圧発生溝11や各部品の加工誤差等に起因して、各動圧軸受部に間に保持される潤滑流体31に圧力差が生じた場合も、連通穴12を通じてラジアル軸受の下部とスラスト軸受外周部の圧力差が補償され、潤滑流体31内の負圧による気泡の発生やロータの過浮上の発生が抑えられる。
【0021】
さらに、図13及び14に示す従来のスピンドルモータはスラスト軸受外周部に形成される連通12の開口部がシールを形成するスリーブのテーパ部に隣接しているので、潤滑流体31がラジアル下部からスラスト外周側へ流通すると、テーパ部13と円筒壁部14で形成されるシールから潤滑流体31が漏れやすい形状であるのに対し、図1及び2に示すスピンドルモータは連通穴開口部とテーパ部13の間にスラスト動圧軸受を有するので、連通穴から潤滑流体31が流通してもスラスト動圧軸受に向かって潤滑流体31が取り込まれるので、テーパ部13と円筒壁部14で形成されるシールから潤滑流体31が漏れにくい形状となっている。また、非接触状態で支持される鍔付き外筒部材3の鍔部下面とスリーブ2の上面との微小隙間は、潤滑流体31が循環することを考慮すると,ハブ4が取り付けられた鍔付き外筒部材3との連通穴12の隙間より小さく形成されることが望ましく、スリーブ2のテーパ部13とハブ4の円筒壁部14の隙間からの漏れをさらに抑制できる。
【0022】
(実施の形態2)
図3及び4は、本発明の実施の形態2におけるスピンドルモータの断面図及びシール近傍の拡大図である。実施の形態1のスピンドルモータではスリーブ2の外周上部にテーパ部13が形成されているのに対し、このスピンドルモータでは、スリーブ2の外周上部にはシャフトを中心として外側に広がる段付き部15が形成されている。この段付き部15とハブ4の円筒壁部14で協働して潤滑流体31の漏れを防ぐシールが形成されており、このシールは毛細管力を利用している。毛細管力は液面の面積に比例するので、同じ液面面積の場合にはテーパ形状よりも段付き形状のほうがオイルを多く貯えることができるので、オイルの蒸発に対する信頼性を向上することができる。
【0023】
(実施の形態3)
図5及び6は、本発明の実施の形態3におけるスピンドルモータの断面図及び軸受機構近傍の拡大図である。図5及び6に示すスピンドルモータは、シャフト1にハブ4が取り付けられておりシャフト1を中心軸として回転するロータを構成している。また、シャフト1に取り付けられた第1の外筒部材16と第2の外筒部材17と、第1の外筒部材に対して微小隙間を介して外周に配置されたスリーブ2によって軸受が構成されており、スリーブ2に対してシャフト1を含むロータは回転可能に支持されている。なお、第1の外筒部材16の直径よりも第2の外筒部材17の直径が大きくなっている。さらに、スリーブ2はベース5に取り付けられており、ステータを構成している。
【0024】
ハブ4の下部内周面には周方向に多極着磁された円環状のマグネット7が取り付けられ、ベース5のマグネット7と周方向に対向する位置にはステータコア6が取り付けられており、複数のステータコア7に制御された電流を流すと、マグネット7との間に回転力が発生し、ステータに対してロータを回転させる駆動機構として作用する。
【0025】
第1の外筒部材16の外周面とスリーブ2の内周面との間には潤滑流体31が充填されており、第1の外筒部材16の外周面とスリーブ2の内周面の少なくとも一方にはヘリングボーン形状のラジアル動圧発生溝10が2箇所に形成されている。したがって、第1の外筒部材16が回転することによって、第1の外筒部材16の外周面とスリーブ2の内周面との間に動圧が発生し、ラジアル動圧軸受が構成されることになる。このラジアル動圧軸受によって、第1の外筒部材16はスリーブに対してラジアル方向に非接触状態で支持される。なお、本実施例ではラジアル動圧発生溝10をヘリングボーン形状としたが、スパイラル形状や三円弧形状などの溝形状にしてもよい。さらに本実施例ではラジアル動圧発生溝10を2箇所に形成したが、1箇所でも良く、3箇所以上形成しても良い。
【0026】
また、第2の外筒部材17の下面とスリーブ2の上面との間には潤滑流体31が充填されており、第2の外筒部材17の下面とスリーブ2の上面の少なくとも一方にはヘリングボーン形状のスラスト動圧発生溝11が形成されている。したがって、第2の外筒部材17が回転することによって、第2の外筒部材17の下面とスリーブ2の上面との間に動圧が発生し、スラスト動圧軸受が構成されることになる。このスラスト動圧軸受によって第2の外筒部材17はスリーブに対してアキシャル方向に非接触状態で支持される。なお、本実施例ではスラスト動圧発生溝11をヘリングボーン形状としたが、スパイラル形状やステップ形状などの溝形状にしてもよく、動圧によって潤滑流体31が半径方向内側に向かうポンプイン形状であることが望ましい。
【0027】
ベース5には磁性体で形成された吸引リング9が取り付けられており、マグネット7との間に軸線方向の磁気吸引力を発生させることで、スラスト動圧軸受で発生する動圧とバランスさせて、ロータのアキシャル方向の支持を安定させている。なお、このような磁気付勢は、ステータコア6とマグネット7との軸線方向の磁気的中心をズラすことにより、発生させることも可能である。
【0028】
さらに、スリーブ2の外周上部にはシャフトを中心として外側に広がるテーパ部13が形成されており、スラスト動圧軸受の半径方向外側のハブ4の下面には軸線方向に垂下し且つ前記スリーブの外周面と間隙を介して対向する円筒壁部14が形成されている。このスリーブ2のテーパ部13とハブ4の円筒壁部14で協働して潤滑流体31の漏れを防ぐシールが形成されており、このシールは毛細管力を利用している。なお、テーパ部13の変わりに実施の形態2で説明した段付き部14を形成しても良い。
【0029】
このような第1の外筒部材16及び第2の外筒部材17を用いることにより、図9〜12に示す従来のスピンドルモータと比較して、スラスト軸受面積を大きく取ることができ、スラスト軸受の表面形状やスラスト動圧溝の加工精度の向上が可能となっている。さらに、第2の外筒部材17にスラスト動圧発生溝11を形成する場合には、第2の外筒部材17は円盤部材なのでプレス等の安価な方法でスラスト動圧溝の形成を高精度で行うことができ、加工コストの低減及び加工精度の向上を図ることができる。
【0030】
また、第1の外筒部材16及び第2の外筒部材17を用いることにより、シャフト1の外周面と第1の外筒部材16の内周面の間、およびロータハブ4の下面と第2の外筒部材17の上面の間に流体を流通可能に連通する連通穴18及び19を容易に形成することができる。したがって、ラジアル動圧発生溝10やスラスト動圧発生溝11や各部品の加工誤差等に起因して、各動圧軸受部に間に保持される潤滑流体31に圧力差が生じた場合も、連通穴12を通じてラジアル軸受の下部とスラスト軸受外周部の圧力差が補償され、潤滑流体31内の負圧による気泡の発生やロータの過浮上の発生が抑えられる。
【0031】
そのうえ、第1の外筒部材16と第2の外筒部材17の間にも連通穴20を形成すると、スラスト軸受とラジアル軸受それぞれで圧力差を補償され、スラスト軸受とラジアル軸受の相互作用を減少することができるので、それぞれの軸受で発生した負圧等の悪影響が他の軸受に影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0032】
さらに、図13及び14に示す従来のスピンドルモータはスラスト軸受外周部に形成される連通12の開口部がシールを形成するスリーブのテーパ部に隣接しているので、潤滑流体31がラジアル下部からスラスト外周側へ流通すると、テーパ部13と円筒壁部14で形成されるシールから潤滑流体31が漏れやすい形状であるのに対し、図5及び6に示すスピンドルモータは連通穴開口部とテーパ部13の間にスラスト動圧軸受を有するので、連通穴から潤滑流体31が流通してもスラスト動圧軸受に向かって潤滑流体31が取り込まれるので、テーパ部13と円筒壁部14で形成されるシールから潤滑流体31が漏れにくい形状となっている。また、非接触状態で支持される外筒部材17の下面とスリーブ2の上面との微小隙間は、潤滑流体31が循環することを考慮すると,ハブ4が取り付けられた外筒部材17との連通穴19の隙間より小さく形成されることが望ましく、スリーブ2のテーパ部13とハブ4の円筒壁部14の隙間からの漏れをさらに抑制できる。
【0033】
(実施の形態4)
図7及び8は、本発明の実施の形態4におけるスピンドルモータの断面図及び軸受機構近傍の拡大図である。実施の形態3のスピンドルモータではシャフト1に第1の外筒部材16と第2の外筒部材17が取り付けられているのに対し、このスピンドルモータでは、シャフト1に第1の外筒部材16が取り付けられ、ハブ4の円筒壁部14の内周に内筒部材21が取り付けられている。つまり、実施の形態3における第2の外筒部材17が内筒部材21に置き換えられており、内筒部材21の下面とスリーブ2の上面との間にスラスト動圧軸受が構成される。第2の外筒部材17とシャフト1の取り付け面積に比べて内筒部材21とハブ4の取り付け面積が大きく取れるので、取り付け強度を向上することができる。
【0034】
なお、1〜4の実施例はシャフト回転でアウターロータタイプのスピンドルモータであったが、シャフト固定やインナーロータタイプなどのモータ形状に適応することができる。
【0035】
また、本発明の軸受装置やそれを用いたスピンドルモータは、HDDやポリゴンミラー、光ディスク装置等の回転駆動装置として用いることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ハードディスク装置やその他の装置のスピンドルモータなどに特に適したスピンドルモータに適用できるが、その他の機器にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るスピンドルモータの断面図
【図2】本発明の第1のシール機構近傍を拡大して示す断面図
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るスピンドルモータの断面図
【図4】本発明の第2のシール機構近傍を拡大して示す断面図
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るスピンドルモータの断面図
【図6】本発明の第3の軸受機構近傍を拡大して示す断面図
【図7】本発明の第4の実施の形態に係るスピンドルモータの断面図
【図8】本発明の第4の軸受機構近傍を拡大して示す断面図
【図9】従来のスピンドルモータの断面図
【図10】従来のスピンドルモータの軸受機構近傍を拡大して示す断面図
【図11】従来の他のスピンドルモータの断面図
【図12】従来の他のスピンドルモータの軸受機構近傍を拡大して示す断面図
【図13】従来他のスピンドルモータの断面図
【図14】従来の他のスピンドルモータの軸受機構近傍を拡大して示す断面図
【符号の説明】
【0038】
1 シャフト
2、26 ブラケット
3 鍔付き外筒部材
4 ハブ
5 ベース
6 ステータコア
7 マグネット
8 抜け止め部材
9 吸引リング
10 ラジアル動圧発生溝
11 スラスト動圧発生溝
12、18、19、20、22、23、25、28、30 連通穴
13 テーパ部
14 円筒壁部
15 段付き部
16 第1の外筒部材
17 第2の外筒部材
21 内筒部材
24、27 スリーブ
29 フランジ付きスリーブ
31 潤滑流体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止部材と、ラジアル軸受部とスラスト軸受部を介して前記静止部材に対して相対回転可能な回転部材を有するスピンドルモータにおいて、
前記回転部材はシャフトとシャフトに取り付けられた外筒部材及びロータハブを有し、前記外筒部材は円筒部と前記円筒部の一端部からラジアル外周面に対して垂直な方向に広がる鍔部からなり、
前記静止部材は前記外筒部材の円筒部外周面と半径方向に対向する内周面と、前記外筒部材の鍔部下面と軸線方向に対向する上面とを有するスリーブ部材を有し、
前記ラジアル軸受部は前記外筒部材の円筒部外周面と、これと半径方向に対向する前記スリーブの内周面との間に介在された流体と、前記外筒部材の円筒部外周面と前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなり、
前記スラスト軸受部は前記外筒部材の鍔部下面と、これと軸線方向に対向する前記スリーブ上面との間に介在された流体と、前記外筒部材の鍔部下面と前記スリーブ上面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項2】
前記シャフト外周面と前記外筒部材内周面の間、および前記ロータハブ下面と前記外筒部材上面の間に流体を流通可能に連通する連通穴を有することを特徴とする請求項1記載のスピンドルモータ。
【請求項3】
静止部材と、ラジアル軸受部とスラスト軸受部を介して前記静止部材に対して相対回転可能な回転部材を有するスピンドルモータにおいて、
前記回転部材はシャフトとシャフトに取り付けられた第1及び第2の円筒状の外筒部材及びロータハブを有し、前記第1の外筒部材よりも第2の外筒部材の外径が大きくなっており、
前記静止部材は前記第1の外筒部材の外周面と半径方向に対向する内周面と、前記第2の外筒部材の下面と軸線方向に対向する上面とを有するスリーブ部材を有し、
前記ラジアル軸受部は前記第1の外筒部材の外周面と、これと半径方向に対向する前記スリーブの内周面との間に介在された流体と、前記第1の外筒部材の外周面と前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなり、
前記スラスト軸受部は前記第2の外筒部材の下面とこれと軸線方向に対向する前記スリーブ上面との間に介在された流体と、前記第2の外筒部材の下面と前記スリーブ上面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項4】
前記シャフト外周面と前記第1の外筒部材内周面の間、前記シャフト外周面と前記第2の外筒部材の内周面間および前記ロータハブ下面間と前記第2の外筒部材上面の間、前記第1の外筒部材と前記第2の外筒部材の間の少なくとも2箇所以上に流体を流通可能に連通する連通穴を有することを特徴とする請求項3記載のスピンドルモータ。
【請求項5】
静止部材と、ラジアル軸受部とスラスト軸受部を介して前記静止部材に対して相対回転可能な回転部材を有するスピンドルモータにおいて、
前記回転部材はシャフトとシャフトに取り付けられた円筒状の外筒部材及びロータハブ、を有し、ロータハブには円筒状の内筒部材が取り付けられており、
前記静止部材は前記外筒部材の外周面と半径方向に対向する内周面と、前記内筒部材の下面と軸線方向に対向する上面とを有するスリーブ部材を有し、
前記ラジアル軸受部は前記外筒部材の外周面と、これと半径方向に対向する前記スリーブの内周面との間に介在された流体と、前記外筒部材の外周面と前記スリーブの内周面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなり、
前記スラスト軸受部は前記内筒部材の下面とこれと軸線方向に対向する前記スリーブ上面との間に介在された流体と、前記内筒部材の下面と前記スリーブ上面の少なくとも一方に形成された動圧発生溝からなることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項6】
前記シャフト外周面と前記外筒部材内周面の間、前記ロータハブ内周面と前記内筒部材外周面の間および前記ロータハブ下面間と前記内筒部材上面の間、前記外筒部材と前記内部材の間の少なくとも2箇所以上に流体を流通可能に連通する連通穴を有することを特徴とする請求項5記載のスピンドルモータ。
【請求項7】
前記外筒部材および内筒部材が多孔質金属材料で形成されることを特徴とする請求項1〜6記載のスピンドルモータ。
【請求項8】
前記外筒部材および内筒部材が銅又は銅系材料で形成されることを特徴とする請求項1〜6記載のスピンドルモータ。
【請求項9】
前記外筒部材および内筒部材がステンレス鋼で形成されることを特徴とする請求項1〜6記載のスピンドルモータ。
【請求項10】
前記外筒部材および内筒部材が樹脂材料で形成されることを特徴とする請求項1〜6記載のスピンドルモータ。
【請求項11】
前記スラスト軸受の半径方向外側の前記ロータハブ下面には軸線方向に垂下し且つ前記スリーブの外周面と間隙を介して対向する円筒壁部が形成され、前記円筒壁部の内周面と前記スリーブの外周面の間には、毛細管力を利用したシール部が設けられていることを特徴とする請求項1〜6記載のスピンドルモータ。
【請求項12】
前記シール部は、前記円筒壁部の内周面と前記スリーブ外周面のいずれか一方に、前記円筒壁部内周面と前記スリーブの外周面との間隙が前記スラスト軸受から離れるにしたがって徐々に拡大するような段付き部が少なくとも一つ設けられた形状であることを特徴とする請求項11記載のスピンドルモータ。
【請求項13】
前記シール部は、前記円筒壁部の内周面と前記スリーブ外周面のいずれか一方に、前記円筒壁部内周面と前記スリーブの外周面との間隙が前記スラスト軸受から離れるにしたがって徐々に拡大するようなテーパ部が設けられた形状であることを特徴とする請求項11記載のスピンドルモータ。
【請求項14】
前記回転部材にロータマグネットが取り付けられ、前記静止部材の前記ロータマグネットと対向する位置にステータコアが取り付けられることを特徴とする請求項1〜13記載のスピンドルモータ。
【請求項15】
前記回転部材にポリゴンミラー、記録ディスク等の被回転体が取り付けたことを特徴とする請求項14記載の回転装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−194400(P2006−194400A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8807(P2005−8807)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】