スピン伝導型磁気センサ
【課題】 スピン伝導特性を改善可能なスピン伝導型磁気センサを提供することを目的とする。
【解決手段】 この磁気センサは、磁気シールド層10Bを有するベース基板10と、ベース基板10の磁気シールド層10B上の絶縁膜4を介して貼り付けられた単一ドメインからなる半導体の結晶層3と、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上に、第1トンネル障壁層を介して形成された第1強磁性層1と、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上に、第1強磁性層1から離間し、第2トンネル障壁層を介して形成された第2強磁性層2とを備えている。
【解決手段】 この磁気センサは、磁気シールド層10Bを有するベース基板10と、ベース基板10の磁気シールド層10B上の絶縁膜4を介して貼り付けられた単一ドメインからなる半導体の結晶層3と、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上に、第1トンネル障壁層を介して形成された第1強磁性層1と、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上に、第1強磁性層1から離間し、第2トンネル障壁層を介して形成された第2強磁性層2とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁場によってスピンが回転することを利用した磁気センサ、特にスピン伝導型磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッドは、磁気抵抗効果を利用した磁気センサである。磁気ヘッドに用いられるトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子は、スピンバルブ型の構造を有しており、比較的大きな出力変化が得られるという優れた特性を有している。しかしながら、磁気情報の読出速度を向上させた場合、特に、1Tbit/inch以上の記録密度領域の磁気情報を読み出す場合には、磁気ヘッドの検出原理を変えなければ、磁気情報が検出できなくなると考えられている。そこで、このような問題を解決するため、出願人は、SOI(Silicon on Insulator)基板における半導体層を走行するスピン流を利用したスピン伝導型磁気センサを提案している(特許文献1及び特許文献2参照)。なお、一般的なSiスピン拡散長は1μm以下、スピン寿命が1nsec以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2010−37362号
【特許文献2】特願2010−213913号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SOI基板を用いたスピン伝導型磁気センサのスピン伝導特性には改善の余地がある。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、スピン伝導特性を改善可能なスピン伝導型磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らが、スピン伝導型磁気センサのスピン伝導特性について、鋭意検討したところ、結晶成長により、SiOxやMgOなどの絶縁層上に、半導体の結晶層を成長させた場合、その結晶性が十分ではなく、これがスピン伝導特性に影響を与えていることが判明した。
【0006】
そこで、本発明に係る磁気センサは、磁気シールド層を有するベース基板と、前記ベース基板の前記磁気シールド層上の絶縁膜を介して貼り付けられた単一ドメインからなる半導体の結晶層と、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、第1トンネル障壁層を介して形成された第1強磁性層と、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して形成された第2強磁性層と、を備えることを特徴とする
【0007】
すなわち、半導体の結晶層は、絶縁層上への薄膜成長によって形成されるのではなく、CZ(Czochralski)法あるいはFZ(Floating Zone)法などの単一ドメインの結晶が得られる方法により別途作製されたインゴッドなどの単結晶体をスライスして切り出したもの或いは剥離したものを用いる。この場合、半導体の結晶層の結晶性は、絶縁層上に薄膜成長を用いて形成したものよりも高くなる。したがって、この半導体の結晶層をスピン伝導層として利用すれば、スピン伝導特性が改善し、出力の向上、磁場解像度の向上及び素子作製における制約が緩和される。また、ベース基板の外側からの磁場の結晶層への導入は、磁気シールド層により抑制される。
【0008】
前記半導体の結晶層は、Si、Ge、GaAs、又はグラフェン(Graphene)からなることが好ましく、これらは単一ドメインからなる結晶を得るとができる。
【0009】
第1強磁性層と第2強磁性層との間に存在するスピンの向きは、半導体の結晶層に導入される磁場の影響を受けて回転し、第2強磁性層側の出力が変動する。第2強磁性層側の出力を検出する方式としては、磁気抵抗効果測定方式と、スピン流方式がある。
【0010】
前者の磁気抵抗効果測定方式の場合、第1強磁性層と第2強磁性層との間に電子流を流し、これらの間の磁気抵抗の変化を測定することで、半導体の結晶層内に導入された磁場の大きさを計測することができる。
【0011】
第1及び第2強磁性層間に電子を流した場合、そのスピンが上記磁場により回転し、出力が変動する。半導体の結晶層はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作製したSOI基板の場合の半導体の結晶層よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0012】
一方、上述のように、情報の読み出し速度を更に向上させる場合には、スピン流方式を用いる。
【0013】
すなわち、本発明に係る磁気センサは、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第1強磁性層との間に電子が流れる第1電極と、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第2強磁性層との間の電圧を測定するための第2電極と、を更に備えることを特徴とする。
【0014】
スピン流方式では、第1強磁性層と第1電極との間に電子流を流す。この場合、第1強磁性層直下の半導体の結晶層からスピン流が拡散する。このスピン流は、半導体の結晶層をチャネル層として伝播し第2強磁性層側に至る。スピン流の伝播過程でスピンが受けた磁場に応じて、スピンの向きが回転して、第2強磁性層と第2電極との間の電圧が変動するので、半導体の結晶層内に導入された磁場の大きさを計測することができる。
【0015】
詳説すれば、第1強磁性層と第1電極との間に電子を流すと、半導体の結晶層内にスピンが蓄積され、このスピンが第2強磁性層方向へと拡散する。拡散したスピンの偏極の方向に応じて、第2強磁性層と第2電極との間の電圧が変化する。この構造のスピン伝導型磁気センサでは、媒体対向面(ABS)が対向する磁気記録媒体から、半導体の結晶層内に磁場が導入され、伝導中にスピンの偏極が回転する。したがって、出力電圧は、半導体の結晶層内に導入された磁場の大きさに依存することとなり、磁気センサとして機能する。ここで、半導体の結晶層はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作成したSOI基板の場合の半導体の結晶層の結晶性よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0016】
なお、前記半導体の結晶層は、磁気ヘッドにおける媒体対向面側に先端部が位置する突出部を有していることを特徴とする。この場合、突出部を介して、上記磁場を半導体の結晶層内部に導入することができる。
【0017】
特に、突出部以外の半導体の結晶層が磁場の影響を受けたくない場合、磁気センサは、前記突出部が内部に位置する貫通孔を有する磁気シールドを前記ベース基板上の媒体対向面側に更に備え、前記貫通孔は、前記半導体の結晶層における前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との領域の側方に位置していることが好ましい。半導体の結晶層の側方には磁気シールドが位置しているため、突出部以外からは磁場が内部に導入されず、正確な測定が可能となる。
【0018】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、MgO、Al2O3、SiO2、ZnO、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする。これらの材料の場合、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。
【0019】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、前記半導体基板とショットキー接触する金属層との界面に形成されるショットキー障壁からなることを特徴とする。トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキー障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキー障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0020】
半導体の結晶層の厚みは、0.4nm以上70nm以下である。この場合、バックグラウンド電圧を低く抑えることができるという利点がある。すなわち、磁気センサにおいて、半導体の結晶層の厚みを薄くすることには利点がある。絶縁層上に半導体の結晶層を結晶成長させた場合、薄くしすぎると、半導体の結晶層の結晶性が十分ではない。一方、バルクの半導体の結晶層を用いた場合には、厚みを薄くしても、高い結晶性を有しているので、十分にノイズを低下させることができる。
【0021】
また、磁気抵抗効果測定方式において、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが反対方向(反平行)である場合、これらを平行とした場合よりも、磁場変化に対する第2強磁性層への到達スピン量の変化率が大きくなり、大きな出力を得ることができるので、好ましい。
【0022】
また、スピン流方式の場合、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが同じ(平行)であれば、磁化方向の固定には熱と磁場をかけて一度加熱するのみでよいため、好ましい。
【0023】
なお、Siどの立方晶のダイヤモンド構造や、GaAsなどの閃亜鉛鉱構造の半導体は、良質なバルク結晶が数多く製造され、市販されているため、チャネル材料としては好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スピン伝導特性を改善可能なスピン伝導型磁気センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】磁気センサ主要部の斜視図である。
【図2】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図3】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図4】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図5】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図6】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図7】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図8】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図9】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図10】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図11】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図12】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図13】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図14】磁気センサの斜視図である。
【図15】外部磁場(Oe)と電圧Vnon-Local(μV)の関係を示すグラフである。
【図16】外部磁場(Oe)と電圧Vnon-Local(μV)の関係を示すグラフである。
【図17】半導体の結晶層の厚み(Si膜厚)(μm)とバックグラウンド電圧(μV)との関係を示すグラフである。
【図18】磁気センサを備えた磁気ヘッドの縦断面図である。
【図19】半導体の結晶層上に形成された各層の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施の形態に係る磁気センサについて説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する符号は省略する。
【0027】
図1は、磁気センサ主要部の斜視図である。
【0028】
この磁気センサは、ベース基板10と、ベース基板10に絶縁膜4を介して貼り付けられた単一ドメインのバルクの半導体の結晶層3とを備えている。ベース基板10は、下部ベース基板10A、下部磁気シールド10B、及び、上部ベース基板10Cを積層してなる。半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第1トンネル障壁層5Aを介して第1強磁性層1が形成されており、同様に、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第2トンネル障壁層5Bを介して第2強磁性層2が形成されている。第2強磁性層2は、第1強磁性層1からY軸方向に離間している。また、ベース基板10の外側からの磁場の結晶層3への導入は、磁気シールド10Bにより抑制され、媒体対向面側からの磁場の結晶層3への導入は、磁気シールドSH1により抑制され、ベース基板10の磁気シールド10Bとは逆側からの結晶層3への磁場の導入は、磁気シールドSH2により抑制される(図14参照)。
【0029】
なお、基板厚み方向をZ軸とし、これに垂直な2軸をX軸及びY軸とする三次元直交座標系が設定される。
【0030】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2の長手方向は、共にX軸方向であり、これらの磁化方向は、本例では、共にY軸の正方向に向いている(平行)。もちろん、これらの磁化方向を逆方向に設定した場合(反平行)においても、磁気センサは動作することができる。
【0031】
半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第1強磁性層1との間に電子が流れる第1電極1Mが設けられている。同様に、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第2強磁性層2との間の電圧を測定するための第2電極2Mが設けられている。第1電極1Mと第2電極2Mは、半導体の結晶層3に直接接触している。
【0032】
ここで、半導体の結晶層3は、絶縁層上への薄膜成長によって形成されるのではない。半導体の結晶層3は、CZ(Czochralski)法あるいはFZ(Floating Zone)法により作製された単結晶インゴッドをスライスして切り出したものを用いる。半導体の結晶層3は、必要に応じて、貼り合わせ後に研磨を行うことで、薄膜化することができる。すなわち、結晶層3を、単一ドメインの単結晶から製造するように、絶縁層上への結晶成長を用いず、別の工程において、結晶層3を作製しておき、これをベース基板10に絶縁膜4を介して貼り付ける。別工程としては、MBE法を用いた結晶成長法を用いることができる。MBE法を用いた結晶成長法を用いる場合、例えば、グラフェン(Graphene)を採用することができる。グラファイトは、複数の単原子層からなるグラフェンを積層したものであり、単一のグラフェンは、半導体としての機能しうることが知られている。すなわち、グラファイトの元の結晶層を別工程で形成した後、これを絶縁膜4を介してベース基板10に貼り付け、元の結晶層を剥離することで、単一原子層のグラフェン層が、結晶層3として絶縁膜4上に残留する。
【0033】
バルクの半導体の結晶層の結晶性は、絶縁膜上への薄膜成長を用いて形成したものの結晶性よりも高くなる。したがって、この半導体の結晶層3をスピン伝導層として利用すれば、スピン伝導特性が改善し、出力の向上、磁場解像度の向上及び素子作製における制約が緩和される。
【0034】
第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に存在するスピンの向きは、半導体の結晶層3に導入される磁場Bの影響を受けて回転し、第2強磁性層2側の電圧出力が変動する。第2強磁性層2側の出力を検出する方式としては、(1)磁気抵抗効果測定方式と、(2)スピン流方式がある。
【0035】
(1)磁気抵抗効果測定方式の場合、第1電極1Mと第2電極2Mは用いない。すなわち、これらの形成を省略するか、例え形成した場合においても利用しない。この場合、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に、電子流源を接続し、これらの間に電子流を供給する。注入された電子のスピンの偏極方向は、半導体の結晶層3の突出部3Bを介して内部に導入される磁場Bの向きに依存して、回転する。したがって、第1強磁性層1から第2強磁性層2に至る電子量、換言すれば分極率が変化するため、これらの間の半導体の結晶層を含む領域の磁気抵抗が変化する。したがって、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間の電圧を電圧測定回路によって計測することで、半導体の結晶層3内に導入された磁場Bの大きさを計測することができる。
【0036】
このように、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に電子を流した場合、そのスピンが上記磁場Bにより回転し、出力が変動する。半導体の結晶層3はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作製したSOI基板の場合の半導体の結晶層よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0037】
また、情報の読み出し速度を更に向上させる場合には、スピン流方式を用いる。
【0038】
(2)スピン流方式では、図1に示す通り、第1電極1と第2電極2とを用いる。第1強磁性層1と第1電極1Mとの間には、電子流源Eを接続する。一方、第2強磁性層2と第2電極2Mとの間には、電圧測定回路(手段)Vを接続する。
【0039】
電子流源Eから、第1強磁性層1と第1電極1Mとの間に電子流を供給する。この場合、第1強磁性層1の直下の半導体の結晶層3からスピン流が拡散する。このスピン流は、半導体の結晶層3をチャネル層として伝播し、第2強磁性層2側に至る。スピン流の伝播過程でスピンが受けた磁場Bに応じて、スピンの向きが回転して、第2強磁性層2と第2電極2Mとの間の電圧が変動する。この電圧は、電圧測定回路Vによって測定する。したがって、半導体の結晶層3内に導入された磁場Bの大きさを計測することができる。
【0040】
この構造のスピン伝導型磁気センサでは、X軸の負方向側のYZ平面が、媒体対向面(ABS)を構成している。媒体対向面が対向する磁気記録媒体から、突出部3Bを介して半導体の結晶層3のチャネルである本体部3A内に磁場Bが導入される。半導体の結晶層本体部3Aにおいて、スピンの偏極が回転する。
【0041】
半導体の結晶層3は、本体部3Aと突出部3Bとを備えている。本体部3Aの形状はY軸方向を長手方向とし、X軸方向を短手方向とし、Z軸方向を厚み方向とする直方体である。突出部3Bの平面形状は、台形柱である。この台形は、媒体対向面とXY平面との交線を上底とし、また本体部に連続しているため実際には下底はないが、仮想的には本体部3Aとの境界線を台形の下底とみなすことができる。
【0042】
したがって、出力電圧は、半導体の結晶層3内に導入された磁場の大きさに依存することとなり、磁気センサとして機能する。ここで、半導体の結晶層はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作成したSOI基板の場合の半導体の結晶層の結晶性よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0043】
このように、半導体の結晶層3は、磁気ヘッドにおける媒体対向面側に先端部が位置する突出部3Bを有している。この場合、突出部3Bを介して、上記磁場を半導体の結晶層3内部に導入することができる。
【0044】
特に、突出部3B以外の半導体の結晶層3である本体部3Aは、磁気シールドSH(10Bを含む)によりY軸まわりに囲まれており、磁場の影響を受けにくくなっている。すなわち、この磁気センサは、突出部3Bが内部に位置する貫通孔TH(図14参照)を有する磁気シールドSHを更に備えており、この貫通孔THは、半導体の結晶層3における第1強磁性層1と第2強磁性層2との間の領域の側方(X軸負方向)に位置している。媒体対向面における貫通孔THの一辺の長さ(Y軸方向の長さ)を例えば0.005μm〜0.1μmとし、他辺の長さ(Z軸方向の長さ)を例えば0.001μm〜0.1μmとすることができる。半導体の結晶層3の側方には磁気シールドSH(特に側部磁気シールドSH1:図12参照)が位置しているため、突出部3B以外からは磁場が内部に導入されず、正確な測定が可能となる。
【0045】
次に、各要素の材料について説明する。
【0046】
下部ベース基板10Aは、AlTiC、Al2O3又はSiなどの半導体のように絶縁性の高い材料からなる。
【0047】
下部磁気シールド10Bを含む磁気シールドSHの材料は、例えばNi及びFeを含む合金、センダスト、Fe及びCoを含む合金、Fe、Co、及びNiを含む合金等の軟磁性体材料からなり、一例としてはNiFeからなる。なお、側部に立設された側部磁気シールドSH1のZ軸方向の厚みは、半導体の結晶層3の厚みよりも大きく、例えば0.02μm〜1μmである。同様に上部磁気シールドSH2と、下部磁気シールド10BのZ軸方向の厚みも、それぞれ0.02μm〜1μmである。
【0048】
上部ベース基板10Cは、下部磁気シールド10B内に埋め込まれた絶縁層からなり、SiO2、SiNx、MgO、又はAl2O3などを用いることができる。なお、下部磁気シールド10Bは、上部ベース基板10Cの下面に接触する第1磁気シールド10B1と、側面に接触する第2磁気シールド10B2からなり、XZ断面の形状はL字型である。
【0049】
絶縁膜4の材料としては、SiO2、SiNx、MgO、又はAl2O3などを用いることができるが、絶縁膜であれば特に制限されるものではない。
【0050】
半導体の結晶層3の材料としては、バルク或いは単一ドメインからなる単結晶半導体からなればよく、結晶欠陥の少ないSiが好ましいが、その他のGeなどの半導体の他、GaAs、AlGaAs、ZnO、ダイヤモンド(C)又はSiCなどの化合物半導体、或いはグラフェンを採用することも可能である。この中で、半導体の結晶層3が、Si、Ge、GaAs、又はグラフェンからなる場合、これらは良質な単一ドメインの結晶を得ることができることが知られているため、好適である。半導体はスピン拡散長が比較的長いため、チャンネル内に好適にスピンを蓄積することができる。
【0051】
半導体の結晶層3上に形成された第1トンネル障壁層5A及び第2トンネル障壁層5Bは、それぞれMgO、Al2O3、SiO2、ZnO、又は、MgAl2O4などの厚さ2nm以下の絶縁層からなる。これらの材料の場合、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。なお、本例では、第1及び第2トン熱障壁層5A,5Bは、共通の絶縁層5であって連続している。
【0052】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2の材料は、それぞれCr、Mn、Co、Fe、Niからなる群から選択される金属、群の元素を1以上含む合金、又は、群から選択される1以上の元素と、B、C、N、Si、Geからなる群から選択される1以上の元素とを含む化合物である。
【0053】
一例としては、これらの強磁性層1,2は、CoFeからなる。これらの材料はスピン分極率の大きい強磁性材料であるため、スピンの注入電極又はスピンの受け取り電極としての機能を好適に実現することが可能である。
【0054】
第1電極1M及び第2電極2Mの材料は、Au、CuまたはAlなどの非磁性金属からなる。
【0055】
なお、上述の第1及び第2トンネル障壁層は、半導体基板とショットキー接触する金属層との界面に形成されるショットキー障壁からなることとしてもよい。
【0056】
トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキー障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキー障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0057】
半導体の結晶層3の厚みは、0.4nm以上70nm以下である。この場合、バックグラウンド電圧を低く抑えることができるという利点がある。すなわち、磁気センサにおいて、半導体の結晶層3の厚みを薄くすることには利点がある。従来のSOI基板のように、絶縁層上に半導体の結晶層を結晶成長させた場合、薄くしすぎると、半導体の結晶層の結晶性が十分ではない。一方、バルクの半導体の結晶層3を用いた場合には、厚みを薄くしても、高い結晶性を有しているので、十分にノイズを低下させることができる。
【0058】
次に、磁気センサの製造方法について、図2〜図14を参照して説明する。
【0059】
まず、図2に示すように、下部ベース基板10Aを用意する。本例では、下部ベース基板10Aは、AlTiCからなることとする。同図では、長方形で板状の下部ベース基板10Aが示されているが、これは最終的にダイシングを行った後の形状であり、実際に最初に用意される基板は直径6インチのウェハである。また、下部ベース基板10Aとして、SOI基板を用いることも可能である。この下部ベース基板10Aに適当なアライメントマークを形成しておき、これを以後のパターニングの基準として使用する。
【0060】
次に、図3に示すように、下部磁気シールド10Bとなる磁性層10B’を下部ベース基板10A上に形成する。この磁性層10B’は、軟磁性体からなり、例えば、NiFeからなる。形成方法としては、スパッタ法などを用いることができる。
【0061】
しかる後、図4に示すように、磁性層10B’を、そのXZ断面がL字型となるように加工し、Y軸に平行に延びた境界線を有する段差を形成する。この加工には、Arを用いたイオンミリング法又は公知の反応性イオンエッチング(RIE)法を用いることができる。
【0062】
次に、図5に示すように、絶縁体からなる上部ベース基板10Cを、下部磁気シールド10Bの上面の全面上に形成した後、XY平面に平行な研磨面を有する研磨部材を用いて、絶縁体からなる上部ベース基板10Cを、第2磁気シールド10B2の表面が露出するまで化学機械研磨(CMP)し、露出表面を平坦化する。
【0063】
次に、貼り合わせ用のバルクの半導体の結晶層(半導体基板)3を用意する。この半導体の結晶層3は、FZ法あるいはCZ法で作製された単結晶半導体基板であり、本例ではSiである。この半導体の結晶層3(例:厚さ100nm)の表面を熱酸化することで、表面にSiO2からなる絶縁膜4(例:厚さ20nm)を形成する。絶縁膜4の形成方法はスパッタ法や化学的気相成長(CVD)法を用いてもよい。この半導体の結晶層3は必要に応じてダイシングして適当な大きさに加工され、図6に示すように、前述のベース基板10の表面に貼り付ける。
【0064】
ベース基板10の最表面には絶縁体からなる上部ベース基板10Cが位置しており、半導体の結晶層3の表面には絶縁層10が形成されている。したがって、これらの絶縁体を接触させて、熱と圧力を加えることで、ベース基板10に、半導体の結晶層3が固定される。
【0065】
更に、半導体の結晶層3の露出表面を洗浄する。この洗浄には、いわゆるRCA洗浄を用いることができる。RCA洗浄は、フッ酸水溶液(HF)を露出表面に接触させた後、アンモニア(NH4OH)+過酸化水素(H2O2)を露出表面に接触させ、次に、塩酸(HC1)+過酸化水素(H2O2)を露出表面に接触させ、最後に純水で洗浄を行う。
【0066】
しかる後、半導体の結晶層3の表面上に、分子線ビームエピタキシー(MBE)法を用いて、トンネル障壁層5としてMgO(1nm〜1.5nm)を形成し、続いて、トンネル障壁層5上に、Fe(5nm〜10nm)を形成し、この上にTi層(3nm)を形成し、更に、スパッタ法を用いて、この上にCoFe層、Ru層、CoFe層を順次形成して、強磁性層6を形成する。更に、必要に応じて、強磁性層6を構成する最表面のCoFe層上に反強磁性層(IrMn)61を形成し(図19参照)、更に、Ru層及びTa層をバリア膜62として反強磁性層61上に形成する(図19参照)が、構造の明瞭化のため図6には図示していない。
【0067】
次に、強磁性層6の磁化方向を固定するため、磁場下でのアニールを行う。例えば、Y軸負方向に磁化方向を固定することとする。
【0068】
次に、図6に示すように、フォトレジストを塗布してからこれのパターニングを行い、強磁性層6(バリア層)上にマスクR1を形成する。このマスクR1を用いて、マスクR1で被覆されていない各層6、5、3の領域をイオンミリングして除去し、図7に示すように、絶縁膜4を露出させる。なお、イオンミリングと併用して化学的なエッチングを用いることもできる。
【0069】
しかる後、露出した半導体の結晶層3の側面を被覆する絶縁膜(厚さ20nm:図示せず)を形成してから、マスクRを除去する。
【0070】
次に、図7に示すように、フォトレジストを塗布してからこれのパターニングを行い、強磁性層6(バリア層)上に第2のマスクR2を形成する。このマスクR2は、X軸方向に延びた一対の領域からなる。マスクR2を用いて、強磁性層6(バリア層)の露出領域を、イオンミリングあるいは化学的なエッチングによって、トンネル障壁層5が露出するまで除去し、露出した半導体の結晶層3を被覆する絶縁膜(厚さ20nm:図示せず)を形成してから、次に、マスクR2を除去する。図8に示すように、ここで残留した強磁性層を第1強磁性1を第2強磁性層2とする。なお、ここでの除去工程は、半導体の結晶層3が露出するまで行うこととしてもよい。スピン流型の検出を行う場合、トンネル障壁層あるいは絶縁膜が露出して残留している場合には、第1強磁性層1と第2強磁性層2に隣接する領域のトンネル障壁層及び絶縁膜をフォトレジストを用いたパターニングとエッチングによって除去し、図9に示すように、露出した半導体の結晶層3の表面上に、それぞれ第1電極1M及び第2電極2Mを形成する。この形成には、スパッタ法や蒸着法を用いることができる。
【0071】
更に、ベース基板10上の半導体の結晶層3から離間した適当な位置に、蒸着法などで4つの電極パッド(図示せず)を形成する。次に、図10に示すように、これらの電極パッドと、上記第1強磁性層1、第2強磁性層2、第1電極1M、第2電極2Mを、それぞれ配線W1,W2,W1M,W2Mを用いて接続する。すなわち、配線W1,W2,W1M,W2Mの一端部は、図10に示すように、各層1、2、1M、2Mに電気的及び物理的に接続される。
【0072】
次に、図11に示すように、リフトオフプロセスを用いて、強磁性電極1,2及び電極1M,2Mの媒体対向面側の表面を覆うように、厚さ20nmの絶縁膜PFをこれらの上に形成する。これは強磁性電極1,2及び電極1M,2Mが、次のプロセスで側部磁気シールド層SH1と電気的に接触することを防ぐためであり、絶縁膜PFは例えばSiO2からなる。
【0073】
次に、図12に示すように、Y軸に沿って延びた側部磁気シールド層SH1によって、突出部3B形成領域以外の媒体対向面側の絶縁膜4の表面を被覆する。側部磁気シールド層SH1は、第2磁気シールド10B2上に、絶縁膜4を介して形成される。側部磁気シールド層SH1の形成においては、この形成領域のみが開口したマスクパターンをフォトレジストで基板表面上に形成し、開口内に側部磁気シールドを構成する軟磁性材料を堆積し、しかる後、フォトレジストを除去すればよい。軟磁性材料の堆積にはスパッタ法を用いることができる。
【0074】
次に、図13示すように、必要に応じてスペーサとしての絶縁膜SPを、スパッタ法を用いて露出した基板表面上に形成し、絶縁膜SPで各種配線を被覆し、絶縁膜SPの露出表面を化学機械研磨し、平坦化する。このとき、側部磁気シールドSH1と絶縁膜SPのZ軸方向の高さが同じになることが好ましい。
【0075】
次に、図14に示すように、側部磁気シールドSH1と絶縁膜SPのZ軸正方向の露出表面上に、上部磁気シールドSH2を形成する。この形成には、スパッタ法を用いることができる。以上の工程により、磁気センサが完成する。なお、上述の各磁気シールド10B、SH1,SH2は、磁気シールド層であり、一定の厚みを有している。
【0076】
図15は、実施例として、上記実施形態に係るスピン流型の磁気センサにおける外部磁場(Oe)と電圧Vnon-Local(μV)の関係を示すグラフである(貼り付け型のSOI基板を用いた例)。なお、半導体の結晶層3としてはCZ法により作製されたもの(Pドープ、1×20cm-3)を用い、磁気シールドとしてはNiFe、トンネル障壁層はMgO、絶縁膜はSiO2を用いた。
第1強磁性層と第1電極との間の離間距離:50μm
第2強磁性層と第2電極との間の離間距離:50μm
第1強磁性層と第2強磁性層との間の離間距離:1μm
半導体の結晶層3の厚み:50nm
突出部3Bの本体部3AからのX軸方向突出量:100nm
突出部3Bの媒体対向面におけるY軸方向寸法:50nm
突出部3Bの媒体対向面におけるZ軸方向寸法:40nm
トンネル障壁層の厚み:1nm
第1電極と第1強磁性層間の電流:1mA
第1強磁性層と第2強磁性層の中心間距離d:3.6μm
スピン拡散長LN:2.15μm
スピン寿命t:9.2nsec
【0077】
図16は、比較例として、基板貼り付け工程を用いる代わりに、絶縁体からなる上部ベース基板10C上に、同一スケールの半導体の結晶層をMBE法(固体ソース:Si、成長温度:500℃)で形成し、残りの工程は、上記実施例と同様にして形成したスピン流型の磁気センサの出力特性を示すグラフである(Si成膜基板を用いた例)。
第1強磁性層と第1電極との間の離間距離:50μm
第2強磁性層と第2電極との間の離間距離:50μm
第1強磁性層と第2強磁性層との間の離間距離:1μm
半導体の結晶層3の厚み:50nm
突出部3Bの本体部3AからのX軸方向突出量:100nm
突出部3Bの媒体対向面におけるY軸方向寸法:50nm
突出部3Bの媒体対向面におけるZ軸方向寸法:40nm
トンネル障壁層の厚み:1nm
第1電極と第1強磁性層間の電流:1mA
第1強磁性層と第2強磁性層の中心間距離d:1.3μm
スピン拡散長LN:0.52μm
スピン寿命t:0.86nsec
【0078】
このグラフでは、磁気センサにおける外部磁場(Oe)と、出力電圧Vnon-Local(μV)の関係が示されている。なお、図15及び図16では、第1強磁性層1、第2強磁性層2の磁化の向きが平行の場合(点線)と反平行の場合(実線)を示している。また、図15は本実施例のバルク基板を貼り付けた場合の結果であり、図16はMBE法にてSiを結晶成長させた場合のHanle効果の測定の図である。
【0079】
実施例の場合、比較例と比較して、僅かな磁場の変化に対しても、大きく出力が変化しており、より高感度の磁気センサとして機能していることが分かる。実施例の場合には、半導体の結晶層3は、単一ドメインからなる単結晶であるが、比較例の場合には単一ドメインの単結晶とはなっていない。これらが単一ドメインの結晶層であるかどうかは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により確認した。
【0080】
図17は、上記実施例に係る磁気センサにおける半導体の結晶層3の厚み(Si膜厚)(μm)とバックグラウンド電圧(μV)との関係を示すグラフである。なお、半導体の結晶層3の厚みは変化させ、d=1.3μmとし、第1電極と第1強磁性層間の電圧V=1Vとした。半導体の結晶層3の厚みが、70nm以下である場合には、バックグラウンド電圧を特に低く抑えることができる。15nm以上であれば、バックグランド電圧が低くなることが確認された。また、半導体の結晶層3の厚みが薄くなるにしたがってバックグラウンド電圧は減少しているが、薄すぎる場合には、単結晶の膜として存在できないという課題があるため、これは0.4nm以上であることが好ましい。
【0081】
図18は、磁気センサを備えた磁気ヘッドの縦断面図である。
【0082】
磁気記録媒体20は、記録面20aを有する記録層20bと、記録層20bに積層される軟磁性の裏打ち層20cとを含んで構成されており、図18中Z軸方向で示す方向に、薄膜磁気記録再生ヘッド100Aに対して相対的に進行する。薄膜磁気記録再生ヘッド100Aは、磁気記録媒体20から記録を読み取る読取ヘッド部100aの他に、磁気記録媒体20への記録を行う記録ヘッド部100bを備えている。読取ヘッド部100a及び記録ヘッド部100bは、支持基板101上に設けられており、アルミナ等の非磁性絶縁層INSにより覆われている。
【0083】
上述の磁気センサ(100とする)は、磁気ヘッド内に組み込まれている。支持基板101上に、磁気センサ100が読取ヘッド部として形成されており、その上に絶縁層INSを介して、書き込み用の記録ヘッド部100bが形成されている。記録ヘッド部100bにおいて、リターンヨーク30上にコンタクト部32及び主磁極33が設けられており、これらが磁束のパスを形成している。コンタクト部32を取り囲むように薄膜コイル31が設けられており、薄膜コイル31に記録電流を流すと主磁極33の先端から磁束が放出され、ハードディスク等の磁気記録媒体20の記録層20bに情報を記録することができる。
【0084】
なお、強磁性層の磁化方向は、上述のように、スピン流のみを用いる非局所配置の場合であっても、磁気抵抗効果を用いる場合であっても、どのような向きであっても使用することが可能であり、前者の非局所配置の場合には、磁化方向を平行とする場合と、反平行とする場合において、出力結果に差は生じないが、製造段階においては、同一方向に磁場をかけて強磁性層を加熱することで、磁化方向を平行とする方が容易であるため、第1及び第2強磁性層の磁化方向は平行であることが好ましい。一方、後者の磁気抵抗効果を用いる配置の場合には、第1及び第2強磁性層の磁化方向を反平行とした方が、平行とした場合よりも、大きな出力を得ることができるので、好ましい。
【0085】
また、第1強磁性層及び第2強磁性層の磁化方向は、これらの形状異方性(アスペクト比を高くする)か、あるいは反強磁性膜と強磁性層とを交換結合することで、固定することができる。また、半導体の結晶層3におけるスピン緩和時間は1nsec以上である。
【0086】
なお、上述の結晶層3として、グラフェンを用いた場合の製造方法について補足説明をしておく。グラフェンは、スピン注入によりスピンが蓄積される層である。グラフェンとは、炭素原子が6角形の網の目状に平面的に結合した構造のシートである。グラフェンからなる半導体結晶層3の厚みを極限まで薄くでき、極めて微小領域からの磁束を選択的に検出可能となる。
【0087】
このようなグラフェンは、例えば、剥離法、分解法により得ることができる。剥離法では、例えば、(A)高配向熱分解グラファイト(HOPG)を用意する。この高配向熱分解グラファイト(HOPG)は、単層グラフェンシートが多数積層されたものであって、単一のドメインからなる単結晶であり、市販されている。
【0088】
また、(B)有機溶媒に可溶なフィルム基材上に、レジスト層を塗布した第1の剥離板、第1の剥離板と同一構造の第2の剥離板、第3の剥離板、第4の剥離板、・・・第Nの剥離板を用意しておく。
【0089】
常圧下でフィルム基材上のレジスト層をHOPGと接触させる。これにより、レジスト層とHOPGとが接着する。続いて、HOPGと第1の剥離板とを真空下に配置し、HOPGから第1の剥離板をはがすことにより、元のHOPGから、一部のグラフェンシートが剥離され、レジスト層上に複数層のグラフェンシートが残留する。
【0090】
真空を維持した状態で、第1の剥離板上に残留した複数のグラフェンシートの表面に、第2の剥離板のレジスト層を接触させ、第1の剥離板を第2の剥離板から剥がすことにより、第2の剥離板のレジスト層上にグラフェンシートを残留させる。このような作業を、第Nの剥離版のレジスト層上に残留したグラフェンシートの厚みが、所望の膜厚になるように光学顕微鏡等で観察しながら、この付着、剥離を工程と、真空中で繰り返す。
【0091】
その後、最終的に第Nの剥離板のレジスト層上に付着したグラフェンシートを、絶縁膜4上に真空中で接触させ、しかる後、常圧に戻してから有機溶媒でフィルム基材を溶かし、レジストを溶解・洗浄することにより、絶縁膜4上にグラフェンからなる結晶層を接着することができる。最終的に残留するグラフェン層は、1層であることが好ましく、この場合には非常に微細な領域からの磁場を検出することができる。
【0092】
また、分解法では、まず、例えば、CVD法等により形成したSiC層に対して必要に応じて、酸化及び水素エッチングを行なった後、電子衝撃加熱等によってシリコン原子を脱離させることによって、SiC層上に、グラフェンシートを形成することができる。分解法を用いる場合、SiCのインゴットから切り出した半導体基板を、絶縁膜4上に熱と圧力をかけて貼り付けた後、この半導体基板に分解法を適用することで、グラフェン層を絶縁膜4上に形成することができる。
【0093】
以上、説明したように、本発明では、単一ドメインの結晶層をスピン伝導チャネルとして用いているため、Si以外の材料の場合においても、スピン伝導特性を改善することができるが、特に、Siどの立方晶のダイヤモンド構造や、GaAsなどの閃亜鉛鉱構造の半導体は、良質なバルク結晶が数多く製造され、市販されているため、チャネル材料としては好ましい。
【符号の説明】
【0094】
10・・・ベース基板、3・・・半導体の結晶層、1,2・・・強磁性層、3B・・・突出部、1M,2M・・・電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁場によってスピンが回転することを利用した磁気センサ、特にスピン伝導型磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッドは、磁気抵抗効果を利用した磁気センサである。磁気ヘッドに用いられるトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子は、スピンバルブ型の構造を有しており、比較的大きな出力変化が得られるという優れた特性を有している。しかしながら、磁気情報の読出速度を向上させた場合、特に、1Tbit/inch以上の記録密度領域の磁気情報を読み出す場合には、磁気ヘッドの検出原理を変えなければ、磁気情報が検出できなくなると考えられている。そこで、このような問題を解決するため、出願人は、SOI(Silicon on Insulator)基板における半導体層を走行するスピン流を利用したスピン伝導型磁気センサを提案している(特許文献1及び特許文献2参照)。なお、一般的なSiスピン拡散長は1μm以下、スピン寿命が1nsec以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2010−37362号
【特許文献2】特願2010−213913号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SOI基板を用いたスピン伝導型磁気センサのスピン伝導特性には改善の余地がある。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、スピン伝導特性を改善可能なスピン伝導型磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らが、スピン伝導型磁気センサのスピン伝導特性について、鋭意検討したところ、結晶成長により、SiOxやMgOなどの絶縁層上に、半導体の結晶層を成長させた場合、その結晶性が十分ではなく、これがスピン伝導特性に影響を与えていることが判明した。
【0006】
そこで、本発明に係る磁気センサは、磁気シールド層を有するベース基板と、前記ベース基板の前記磁気シールド層上の絶縁膜を介して貼り付けられた単一ドメインからなる半導体の結晶層と、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、第1トンネル障壁層を介して形成された第1強磁性層と、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して形成された第2強磁性層と、を備えることを特徴とする
【0007】
すなわち、半導体の結晶層は、絶縁層上への薄膜成長によって形成されるのではなく、CZ(Czochralski)法あるいはFZ(Floating Zone)法などの単一ドメインの結晶が得られる方法により別途作製されたインゴッドなどの単結晶体をスライスして切り出したもの或いは剥離したものを用いる。この場合、半導体の結晶層の結晶性は、絶縁層上に薄膜成長を用いて形成したものよりも高くなる。したがって、この半導体の結晶層をスピン伝導層として利用すれば、スピン伝導特性が改善し、出力の向上、磁場解像度の向上及び素子作製における制約が緩和される。また、ベース基板の外側からの磁場の結晶層への導入は、磁気シールド層により抑制される。
【0008】
前記半導体の結晶層は、Si、Ge、GaAs、又はグラフェン(Graphene)からなることが好ましく、これらは単一ドメインからなる結晶を得るとができる。
【0009】
第1強磁性層と第2強磁性層との間に存在するスピンの向きは、半導体の結晶層に導入される磁場の影響を受けて回転し、第2強磁性層側の出力が変動する。第2強磁性層側の出力を検出する方式としては、磁気抵抗効果測定方式と、スピン流方式がある。
【0010】
前者の磁気抵抗効果測定方式の場合、第1強磁性層と第2強磁性層との間に電子流を流し、これらの間の磁気抵抗の変化を測定することで、半導体の結晶層内に導入された磁場の大きさを計測することができる。
【0011】
第1及び第2強磁性層間に電子を流した場合、そのスピンが上記磁場により回転し、出力が変動する。半導体の結晶層はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作製したSOI基板の場合の半導体の結晶層よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0012】
一方、上述のように、情報の読み出し速度を更に向上させる場合には、スピン流方式を用いる。
【0013】
すなわち、本発明に係る磁気センサは、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第1強磁性層との間に電子が流れる第1電極と、前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第2強磁性層との間の電圧を測定するための第2電極と、を更に備えることを特徴とする。
【0014】
スピン流方式では、第1強磁性層と第1電極との間に電子流を流す。この場合、第1強磁性層直下の半導体の結晶層からスピン流が拡散する。このスピン流は、半導体の結晶層をチャネル層として伝播し第2強磁性層側に至る。スピン流の伝播過程でスピンが受けた磁場に応じて、スピンの向きが回転して、第2強磁性層と第2電極との間の電圧が変動するので、半導体の結晶層内に導入された磁場の大きさを計測することができる。
【0015】
詳説すれば、第1強磁性層と第1電極との間に電子を流すと、半導体の結晶層内にスピンが蓄積され、このスピンが第2強磁性層方向へと拡散する。拡散したスピンの偏極の方向に応じて、第2強磁性層と第2電極との間の電圧が変化する。この構造のスピン伝導型磁気センサでは、媒体対向面(ABS)が対向する磁気記録媒体から、半導体の結晶層内に磁場が導入され、伝導中にスピンの偏極が回転する。したがって、出力電圧は、半導体の結晶層内に導入された磁場の大きさに依存することとなり、磁気センサとして機能する。ここで、半導体の結晶層はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作成したSOI基板の場合の半導体の結晶層の結晶性よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0016】
なお、前記半導体の結晶層は、磁気ヘッドにおける媒体対向面側に先端部が位置する突出部を有していることを特徴とする。この場合、突出部を介して、上記磁場を半導体の結晶層内部に導入することができる。
【0017】
特に、突出部以外の半導体の結晶層が磁場の影響を受けたくない場合、磁気センサは、前記突出部が内部に位置する貫通孔を有する磁気シールドを前記ベース基板上の媒体対向面側に更に備え、前記貫通孔は、前記半導体の結晶層における前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との領域の側方に位置していることが好ましい。半導体の結晶層の側方には磁気シールドが位置しているため、突出部以外からは磁場が内部に導入されず、正確な測定が可能となる。
【0018】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、MgO、Al2O3、SiO2、ZnO、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする。これらの材料の場合、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。
【0019】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、前記半導体基板とショットキー接触する金属層との界面に形成されるショットキー障壁からなることを特徴とする。トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキー障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキー障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0020】
半導体の結晶層の厚みは、0.4nm以上70nm以下である。この場合、バックグラウンド電圧を低く抑えることができるという利点がある。すなわち、磁気センサにおいて、半導体の結晶層の厚みを薄くすることには利点がある。絶縁層上に半導体の結晶層を結晶成長させた場合、薄くしすぎると、半導体の結晶層の結晶性が十分ではない。一方、バルクの半導体の結晶層を用いた場合には、厚みを薄くしても、高い結晶性を有しているので、十分にノイズを低下させることができる。
【0021】
また、磁気抵抗効果測定方式において、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが反対方向(反平行)である場合、これらを平行とした場合よりも、磁場変化に対する第2強磁性層への到達スピン量の変化率が大きくなり、大きな出力を得ることができるので、好ましい。
【0022】
また、スピン流方式の場合、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが同じ(平行)であれば、磁化方向の固定には熱と磁場をかけて一度加熱するのみでよいため、好ましい。
【0023】
なお、Siどの立方晶のダイヤモンド構造や、GaAsなどの閃亜鉛鉱構造の半導体は、良質なバルク結晶が数多く製造され、市販されているため、チャネル材料としては好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スピン伝導特性を改善可能なスピン伝導型磁気センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】磁気センサ主要部の斜視図である。
【図2】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図3】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図4】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図5】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図6】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図7】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図8】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図9】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図10】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図11】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図12】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図13】製造工程を示すための磁気センサ中間体の斜視図である。
【図14】磁気センサの斜視図である。
【図15】外部磁場(Oe)と電圧Vnon-Local(μV)の関係を示すグラフである。
【図16】外部磁場(Oe)と電圧Vnon-Local(μV)の関係を示すグラフである。
【図17】半導体の結晶層の厚み(Si膜厚)(μm)とバックグラウンド電圧(μV)との関係を示すグラフである。
【図18】磁気センサを備えた磁気ヘッドの縦断面図である。
【図19】半導体の結晶層上に形成された各層の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施の形態に係る磁気センサについて説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する符号は省略する。
【0027】
図1は、磁気センサ主要部の斜視図である。
【0028】
この磁気センサは、ベース基板10と、ベース基板10に絶縁膜4を介して貼り付けられた単一ドメインのバルクの半導体の結晶層3とを備えている。ベース基板10は、下部ベース基板10A、下部磁気シールド10B、及び、上部ベース基板10Cを積層してなる。半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第1トンネル障壁層5Aを介して第1強磁性層1が形成されており、同様に、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第2トンネル障壁層5Bを介して第2強磁性層2が形成されている。第2強磁性層2は、第1強磁性層1からY軸方向に離間している。また、ベース基板10の外側からの磁場の結晶層3への導入は、磁気シールド10Bにより抑制され、媒体対向面側からの磁場の結晶層3への導入は、磁気シールドSH1により抑制され、ベース基板10の磁気シールド10Bとは逆側からの結晶層3への磁場の導入は、磁気シールドSH2により抑制される(図14参照)。
【0029】
なお、基板厚み方向をZ軸とし、これに垂直な2軸をX軸及びY軸とする三次元直交座標系が設定される。
【0030】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2の長手方向は、共にX軸方向であり、これらの磁化方向は、本例では、共にY軸の正方向に向いている(平行)。もちろん、これらの磁化方向を逆方向に設定した場合(反平行)においても、磁気センサは動作することができる。
【0031】
半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第1強磁性層1との間に電子が流れる第1電極1Mが設けられている。同様に、半導体の結晶層3における絶縁膜4とは反対側の表面上には、第2強磁性層2との間の電圧を測定するための第2電極2Mが設けられている。第1電極1Mと第2電極2Mは、半導体の結晶層3に直接接触している。
【0032】
ここで、半導体の結晶層3は、絶縁層上への薄膜成長によって形成されるのではない。半導体の結晶層3は、CZ(Czochralski)法あるいはFZ(Floating Zone)法により作製された単結晶インゴッドをスライスして切り出したものを用いる。半導体の結晶層3は、必要に応じて、貼り合わせ後に研磨を行うことで、薄膜化することができる。すなわち、結晶層3を、単一ドメインの単結晶から製造するように、絶縁層上への結晶成長を用いず、別の工程において、結晶層3を作製しておき、これをベース基板10に絶縁膜4を介して貼り付ける。別工程としては、MBE法を用いた結晶成長法を用いることができる。MBE法を用いた結晶成長法を用いる場合、例えば、グラフェン(Graphene)を採用することができる。グラファイトは、複数の単原子層からなるグラフェンを積層したものであり、単一のグラフェンは、半導体としての機能しうることが知られている。すなわち、グラファイトの元の結晶層を別工程で形成した後、これを絶縁膜4を介してベース基板10に貼り付け、元の結晶層を剥離することで、単一原子層のグラフェン層が、結晶層3として絶縁膜4上に残留する。
【0033】
バルクの半導体の結晶層の結晶性は、絶縁膜上への薄膜成長を用いて形成したものの結晶性よりも高くなる。したがって、この半導体の結晶層3をスピン伝導層として利用すれば、スピン伝導特性が改善し、出力の向上、磁場解像度の向上及び素子作製における制約が緩和される。
【0034】
第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に存在するスピンの向きは、半導体の結晶層3に導入される磁場Bの影響を受けて回転し、第2強磁性層2側の電圧出力が変動する。第2強磁性層2側の出力を検出する方式としては、(1)磁気抵抗効果測定方式と、(2)スピン流方式がある。
【0035】
(1)磁気抵抗効果測定方式の場合、第1電極1Mと第2電極2Mは用いない。すなわち、これらの形成を省略するか、例え形成した場合においても利用しない。この場合、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に、電子流源を接続し、これらの間に電子流を供給する。注入された電子のスピンの偏極方向は、半導体の結晶層3の突出部3Bを介して内部に導入される磁場Bの向きに依存して、回転する。したがって、第1強磁性層1から第2強磁性層2に至る電子量、換言すれば分極率が変化するため、これらの間の半導体の結晶層を含む領域の磁気抵抗が変化する。したがって、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間の電圧を電圧測定回路によって計測することで、半導体の結晶層3内に導入された磁場Bの大きさを計測することができる。
【0036】
このように、第1強磁性層1と第2強磁性層2との間に電子を流した場合、そのスピンが上記磁場Bにより回転し、出力が変動する。半導体の結晶層3はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作製したSOI基板の場合の半導体の結晶層よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0037】
また、情報の読み出し速度を更に向上させる場合には、スピン流方式を用いる。
【0038】
(2)スピン流方式では、図1に示す通り、第1電極1と第2電極2とを用いる。第1強磁性層1と第1電極1Mとの間には、電子流源Eを接続する。一方、第2強磁性層2と第2電極2Mとの間には、電圧測定回路(手段)Vを接続する。
【0039】
電子流源Eから、第1強磁性層1と第1電極1Mとの間に電子流を供給する。この場合、第1強磁性層1の直下の半導体の結晶層3からスピン流が拡散する。このスピン流は、半導体の結晶層3をチャネル層として伝播し、第2強磁性層2側に至る。スピン流の伝播過程でスピンが受けた磁場Bに応じて、スピンの向きが回転して、第2強磁性層2と第2電極2Mとの間の電圧が変動する。この電圧は、電圧測定回路Vによって測定する。したがって、半導体の結晶層3内に導入された磁場Bの大きさを計測することができる。
【0040】
この構造のスピン伝導型磁気センサでは、X軸の負方向側のYZ平面が、媒体対向面(ABS)を構成している。媒体対向面が対向する磁気記録媒体から、突出部3Bを介して半導体の結晶層3のチャネルである本体部3A内に磁場Bが導入される。半導体の結晶層本体部3Aにおいて、スピンの偏極が回転する。
【0041】
半導体の結晶層3は、本体部3Aと突出部3Bとを備えている。本体部3Aの形状はY軸方向を長手方向とし、X軸方向を短手方向とし、Z軸方向を厚み方向とする直方体である。突出部3Bの平面形状は、台形柱である。この台形は、媒体対向面とXY平面との交線を上底とし、また本体部に連続しているため実際には下底はないが、仮想的には本体部3Aとの境界線を台形の下底とみなすことができる。
【0042】
したがって、出力電圧は、半導体の結晶層3内に導入された磁場の大きさに依存することとなり、磁気センサとして機能する。ここで、半導体の結晶層はバルクからなるので、その結晶性は、結晶成長により作成したSOI基板の場合の半導体の結晶層の結晶性よりも高い。したがって、スピン伝導特性を改善することができ、より精密な計測を行うことができる。
【0043】
このように、半導体の結晶層3は、磁気ヘッドにおける媒体対向面側に先端部が位置する突出部3Bを有している。この場合、突出部3Bを介して、上記磁場を半導体の結晶層3内部に導入することができる。
【0044】
特に、突出部3B以外の半導体の結晶層3である本体部3Aは、磁気シールドSH(10Bを含む)によりY軸まわりに囲まれており、磁場の影響を受けにくくなっている。すなわち、この磁気センサは、突出部3Bが内部に位置する貫通孔TH(図14参照)を有する磁気シールドSHを更に備えており、この貫通孔THは、半導体の結晶層3における第1強磁性層1と第2強磁性層2との間の領域の側方(X軸負方向)に位置している。媒体対向面における貫通孔THの一辺の長さ(Y軸方向の長さ)を例えば0.005μm〜0.1μmとし、他辺の長さ(Z軸方向の長さ)を例えば0.001μm〜0.1μmとすることができる。半導体の結晶層3の側方には磁気シールドSH(特に側部磁気シールドSH1:図12参照)が位置しているため、突出部3B以外からは磁場が内部に導入されず、正確な測定が可能となる。
【0045】
次に、各要素の材料について説明する。
【0046】
下部ベース基板10Aは、AlTiC、Al2O3又はSiなどの半導体のように絶縁性の高い材料からなる。
【0047】
下部磁気シールド10Bを含む磁気シールドSHの材料は、例えばNi及びFeを含む合金、センダスト、Fe及びCoを含む合金、Fe、Co、及びNiを含む合金等の軟磁性体材料からなり、一例としてはNiFeからなる。なお、側部に立設された側部磁気シールドSH1のZ軸方向の厚みは、半導体の結晶層3の厚みよりも大きく、例えば0.02μm〜1μmである。同様に上部磁気シールドSH2と、下部磁気シールド10BのZ軸方向の厚みも、それぞれ0.02μm〜1μmである。
【0048】
上部ベース基板10Cは、下部磁気シールド10B内に埋め込まれた絶縁層からなり、SiO2、SiNx、MgO、又はAl2O3などを用いることができる。なお、下部磁気シールド10Bは、上部ベース基板10Cの下面に接触する第1磁気シールド10B1と、側面に接触する第2磁気シールド10B2からなり、XZ断面の形状はL字型である。
【0049】
絶縁膜4の材料としては、SiO2、SiNx、MgO、又はAl2O3などを用いることができるが、絶縁膜であれば特に制限されるものではない。
【0050】
半導体の結晶層3の材料としては、バルク或いは単一ドメインからなる単結晶半導体からなればよく、結晶欠陥の少ないSiが好ましいが、その他のGeなどの半導体の他、GaAs、AlGaAs、ZnO、ダイヤモンド(C)又はSiCなどの化合物半導体、或いはグラフェンを採用することも可能である。この中で、半導体の結晶層3が、Si、Ge、GaAs、又はグラフェンからなる場合、これらは良質な単一ドメインの結晶を得ることができることが知られているため、好適である。半導体はスピン拡散長が比較的長いため、チャンネル内に好適にスピンを蓄積することができる。
【0051】
半導体の結晶層3上に形成された第1トンネル障壁層5A及び第2トンネル障壁層5Bは、それぞれMgO、Al2O3、SiO2、ZnO、又は、MgAl2O4などの厚さ2nm以下の絶縁層からなる。これらの材料の場合、スピンの注入及び検出の効率が高いという利点がある。なお、本例では、第1及び第2トン熱障壁層5A,5Bは、共通の絶縁層5であって連続している。
【0052】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2の材料は、それぞれCr、Mn、Co、Fe、Niからなる群から選択される金属、群の元素を1以上含む合金、又は、群から選択される1以上の元素と、B、C、N、Si、Geからなる群から選択される1以上の元素とを含む化合物である。
【0053】
一例としては、これらの強磁性層1,2は、CoFeからなる。これらの材料はスピン分極率の大きい強磁性材料であるため、スピンの注入電極又はスピンの受け取り電極としての機能を好適に実現することが可能である。
【0054】
第1電極1M及び第2電極2Mの材料は、Au、CuまたはAlなどの非磁性金属からなる。
【0055】
なお、上述の第1及び第2トンネル障壁層は、半導体基板とショットキー接触する金属層との界面に形成されるショットキー障壁からなることとしてもよい。
【0056】
トンネル障壁層は、電子がトンネルする厚みのポテンシャル障壁を構成しており、本例では2nm以下であることとする。2nm以下の絶縁膜であれば、電子はこれをトンネルすることができ、ショットキー障壁の場合も、電子がこれをトンネルすることができる。なお、絶縁膜の方が、ショットキー障壁よりも厚みを制御することが容易であるという利点がある。
【0057】
半導体の結晶層3の厚みは、0.4nm以上70nm以下である。この場合、バックグラウンド電圧を低く抑えることができるという利点がある。すなわち、磁気センサにおいて、半導体の結晶層3の厚みを薄くすることには利点がある。従来のSOI基板のように、絶縁層上に半導体の結晶層を結晶成長させた場合、薄くしすぎると、半導体の結晶層の結晶性が十分ではない。一方、バルクの半導体の結晶層3を用いた場合には、厚みを薄くしても、高い結晶性を有しているので、十分にノイズを低下させることができる。
【0058】
次に、磁気センサの製造方法について、図2〜図14を参照して説明する。
【0059】
まず、図2に示すように、下部ベース基板10Aを用意する。本例では、下部ベース基板10Aは、AlTiCからなることとする。同図では、長方形で板状の下部ベース基板10Aが示されているが、これは最終的にダイシングを行った後の形状であり、実際に最初に用意される基板は直径6インチのウェハである。また、下部ベース基板10Aとして、SOI基板を用いることも可能である。この下部ベース基板10Aに適当なアライメントマークを形成しておき、これを以後のパターニングの基準として使用する。
【0060】
次に、図3に示すように、下部磁気シールド10Bとなる磁性層10B’を下部ベース基板10A上に形成する。この磁性層10B’は、軟磁性体からなり、例えば、NiFeからなる。形成方法としては、スパッタ法などを用いることができる。
【0061】
しかる後、図4に示すように、磁性層10B’を、そのXZ断面がL字型となるように加工し、Y軸に平行に延びた境界線を有する段差を形成する。この加工には、Arを用いたイオンミリング法又は公知の反応性イオンエッチング(RIE)法を用いることができる。
【0062】
次に、図5に示すように、絶縁体からなる上部ベース基板10Cを、下部磁気シールド10Bの上面の全面上に形成した後、XY平面に平行な研磨面を有する研磨部材を用いて、絶縁体からなる上部ベース基板10Cを、第2磁気シールド10B2の表面が露出するまで化学機械研磨(CMP)し、露出表面を平坦化する。
【0063】
次に、貼り合わせ用のバルクの半導体の結晶層(半導体基板)3を用意する。この半導体の結晶層3は、FZ法あるいはCZ法で作製された単結晶半導体基板であり、本例ではSiである。この半導体の結晶層3(例:厚さ100nm)の表面を熱酸化することで、表面にSiO2からなる絶縁膜4(例:厚さ20nm)を形成する。絶縁膜4の形成方法はスパッタ法や化学的気相成長(CVD)法を用いてもよい。この半導体の結晶層3は必要に応じてダイシングして適当な大きさに加工され、図6に示すように、前述のベース基板10の表面に貼り付ける。
【0064】
ベース基板10の最表面には絶縁体からなる上部ベース基板10Cが位置しており、半導体の結晶層3の表面には絶縁層10が形成されている。したがって、これらの絶縁体を接触させて、熱と圧力を加えることで、ベース基板10に、半導体の結晶層3が固定される。
【0065】
更に、半導体の結晶層3の露出表面を洗浄する。この洗浄には、いわゆるRCA洗浄を用いることができる。RCA洗浄は、フッ酸水溶液(HF)を露出表面に接触させた後、アンモニア(NH4OH)+過酸化水素(H2O2)を露出表面に接触させ、次に、塩酸(HC1)+過酸化水素(H2O2)を露出表面に接触させ、最後に純水で洗浄を行う。
【0066】
しかる後、半導体の結晶層3の表面上に、分子線ビームエピタキシー(MBE)法を用いて、トンネル障壁層5としてMgO(1nm〜1.5nm)を形成し、続いて、トンネル障壁層5上に、Fe(5nm〜10nm)を形成し、この上にTi層(3nm)を形成し、更に、スパッタ法を用いて、この上にCoFe層、Ru層、CoFe層を順次形成して、強磁性層6を形成する。更に、必要に応じて、強磁性層6を構成する最表面のCoFe層上に反強磁性層(IrMn)61を形成し(図19参照)、更に、Ru層及びTa層をバリア膜62として反強磁性層61上に形成する(図19参照)が、構造の明瞭化のため図6には図示していない。
【0067】
次に、強磁性層6の磁化方向を固定するため、磁場下でのアニールを行う。例えば、Y軸負方向に磁化方向を固定することとする。
【0068】
次に、図6に示すように、フォトレジストを塗布してからこれのパターニングを行い、強磁性層6(バリア層)上にマスクR1を形成する。このマスクR1を用いて、マスクR1で被覆されていない各層6、5、3の領域をイオンミリングして除去し、図7に示すように、絶縁膜4を露出させる。なお、イオンミリングと併用して化学的なエッチングを用いることもできる。
【0069】
しかる後、露出した半導体の結晶層3の側面を被覆する絶縁膜(厚さ20nm:図示せず)を形成してから、マスクRを除去する。
【0070】
次に、図7に示すように、フォトレジストを塗布してからこれのパターニングを行い、強磁性層6(バリア層)上に第2のマスクR2を形成する。このマスクR2は、X軸方向に延びた一対の領域からなる。マスクR2を用いて、強磁性層6(バリア層)の露出領域を、イオンミリングあるいは化学的なエッチングによって、トンネル障壁層5が露出するまで除去し、露出した半導体の結晶層3を被覆する絶縁膜(厚さ20nm:図示せず)を形成してから、次に、マスクR2を除去する。図8に示すように、ここで残留した強磁性層を第1強磁性1を第2強磁性層2とする。なお、ここでの除去工程は、半導体の結晶層3が露出するまで行うこととしてもよい。スピン流型の検出を行う場合、トンネル障壁層あるいは絶縁膜が露出して残留している場合には、第1強磁性層1と第2強磁性層2に隣接する領域のトンネル障壁層及び絶縁膜をフォトレジストを用いたパターニングとエッチングによって除去し、図9に示すように、露出した半導体の結晶層3の表面上に、それぞれ第1電極1M及び第2電極2Mを形成する。この形成には、スパッタ法や蒸着法を用いることができる。
【0071】
更に、ベース基板10上の半導体の結晶層3から離間した適当な位置に、蒸着法などで4つの電極パッド(図示せず)を形成する。次に、図10に示すように、これらの電極パッドと、上記第1強磁性層1、第2強磁性層2、第1電極1M、第2電極2Mを、それぞれ配線W1,W2,W1M,W2Mを用いて接続する。すなわち、配線W1,W2,W1M,W2Mの一端部は、図10に示すように、各層1、2、1M、2Mに電気的及び物理的に接続される。
【0072】
次に、図11に示すように、リフトオフプロセスを用いて、強磁性電極1,2及び電極1M,2Mの媒体対向面側の表面を覆うように、厚さ20nmの絶縁膜PFをこれらの上に形成する。これは強磁性電極1,2及び電極1M,2Mが、次のプロセスで側部磁気シールド層SH1と電気的に接触することを防ぐためであり、絶縁膜PFは例えばSiO2からなる。
【0073】
次に、図12に示すように、Y軸に沿って延びた側部磁気シールド層SH1によって、突出部3B形成領域以外の媒体対向面側の絶縁膜4の表面を被覆する。側部磁気シールド層SH1は、第2磁気シールド10B2上に、絶縁膜4を介して形成される。側部磁気シールド層SH1の形成においては、この形成領域のみが開口したマスクパターンをフォトレジストで基板表面上に形成し、開口内に側部磁気シールドを構成する軟磁性材料を堆積し、しかる後、フォトレジストを除去すればよい。軟磁性材料の堆積にはスパッタ法を用いることができる。
【0074】
次に、図13示すように、必要に応じてスペーサとしての絶縁膜SPを、スパッタ法を用いて露出した基板表面上に形成し、絶縁膜SPで各種配線を被覆し、絶縁膜SPの露出表面を化学機械研磨し、平坦化する。このとき、側部磁気シールドSH1と絶縁膜SPのZ軸方向の高さが同じになることが好ましい。
【0075】
次に、図14に示すように、側部磁気シールドSH1と絶縁膜SPのZ軸正方向の露出表面上に、上部磁気シールドSH2を形成する。この形成には、スパッタ法を用いることができる。以上の工程により、磁気センサが完成する。なお、上述の各磁気シールド10B、SH1,SH2は、磁気シールド層であり、一定の厚みを有している。
【0076】
図15は、実施例として、上記実施形態に係るスピン流型の磁気センサにおける外部磁場(Oe)と電圧Vnon-Local(μV)の関係を示すグラフである(貼り付け型のSOI基板を用いた例)。なお、半導体の結晶層3としてはCZ法により作製されたもの(Pドープ、1×20cm-3)を用い、磁気シールドとしてはNiFe、トンネル障壁層はMgO、絶縁膜はSiO2を用いた。
第1強磁性層と第1電極との間の離間距離:50μm
第2強磁性層と第2電極との間の離間距離:50μm
第1強磁性層と第2強磁性層との間の離間距離:1μm
半導体の結晶層3の厚み:50nm
突出部3Bの本体部3AからのX軸方向突出量:100nm
突出部3Bの媒体対向面におけるY軸方向寸法:50nm
突出部3Bの媒体対向面におけるZ軸方向寸法:40nm
トンネル障壁層の厚み:1nm
第1電極と第1強磁性層間の電流:1mA
第1強磁性層と第2強磁性層の中心間距離d:3.6μm
スピン拡散長LN:2.15μm
スピン寿命t:9.2nsec
【0077】
図16は、比較例として、基板貼り付け工程を用いる代わりに、絶縁体からなる上部ベース基板10C上に、同一スケールの半導体の結晶層をMBE法(固体ソース:Si、成長温度:500℃)で形成し、残りの工程は、上記実施例と同様にして形成したスピン流型の磁気センサの出力特性を示すグラフである(Si成膜基板を用いた例)。
第1強磁性層と第1電極との間の離間距離:50μm
第2強磁性層と第2電極との間の離間距離:50μm
第1強磁性層と第2強磁性層との間の離間距離:1μm
半導体の結晶層3の厚み:50nm
突出部3Bの本体部3AからのX軸方向突出量:100nm
突出部3Bの媒体対向面におけるY軸方向寸法:50nm
突出部3Bの媒体対向面におけるZ軸方向寸法:40nm
トンネル障壁層の厚み:1nm
第1電極と第1強磁性層間の電流:1mA
第1強磁性層と第2強磁性層の中心間距離d:1.3μm
スピン拡散長LN:0.52μm
スピン寿命t:0.86nsec
【0078】
このグラフでは、磁気センサにおける外部磁場(Oe)と、出力電圧Vnon-Local(μV)の関係が示されている。なお、図15及び図16では、第1強磁性層1、第2強磁性層2の磁化の向きが平行の場合(点線)と反平行の場合(実線)を示している。また、図15は本実施例のバルク基板を貼り付けた場合の結果であり、図16はMBE法にてSiを結晶成長させた場合のHanle効果の測定の図である。
【0079】
実施例の場合、比較例と比較して、僅かな磁場の変化に対しても、大きく出力が変化しており、より高感度の磁気センサとして機能していることが分かる。実施例の場合には、半導体の結晶層3は、単一ドメインからなる単結晶であるが、比較例の場合には単一ドメインの単結晶とはなっていない。これらが単一ドメインの結晶層であるかどうかは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により確認した。
【0080】
図17は、上記実施例に係る磁気センサにおける半導体の結晶層3の厚み(Si膜厚)(μm)とバックグラウンド電圧(μV)との関係を示すグラフである。なお、半導体の結晶層3の厚みは変化させ、d=1.3μmとし、第1電極と第1強磁性層間の電圧V=1Vとした。半導体の結晶層3の厚みが、70nm以下である場合には、バックグラウンド電圧を特に低く抑えることができる。15nm以上であれば、バックグランド電圧が低くなることが確認された。また、半導体の結晶層3の厚みが薄くなるにしたがってバックグラウンド電圧は減少しているが、薄すぎる場合には、単結晶の膜として存在できないという課題があるため、これは0.4nm以上であることが好ましい。
【0081】
図18は、磁気センサを備えた磁気ヘッドの縦断面図である。
【0082】
磁気記録媒体20は、記録面20aを有する記録層20bと、記録層20bに積層される軟磁性の裏打ち層20cとを含んで構成されており、図18中Z軸方向で示す方向に、薄膜磁気記録再生ヘッド100Aに対して相対的に進行する。薄膜磁気記録再生ヘッド100Aは、磁気記録媒体20から記録を読み取る読取ヘッド部100aの他に、磁気記録媒体20への記録を行う記録ヘッド部100bを備えている。読取ヘッド部100a及び記録ヘッド部100bは、支持基板101上に設けられており、アルミナ等の非磁性絶縁層INSにより覆われている。
【0083】
上述の磁気センサ(100とする)は、磁気ヘッド内に組み込まれている。支持基板101上に、磁気センサ100が読取ヘッド部として形成されており、その上に絶縁層INSを介して、書き込み用の記録ヘッド部100bが形成されている。記録ヘッド部100bにおいて、リターンヨーク30上にコンタクト部32及び主磁極33が設けられており、これらが磁束のパスを形成している。コンタクト部32を取り囲むように薄膜コイル31が設けられており、薄膜コイル31に記録電流を流すと主磁極33の先端から磁束が放出され、ハードディスク等の磁気記録媒体20の記録層20bに情報を記録することができる。
【0084】
なお、強磁性層の磁化方向は、上述のように、スピン流のみを用いる非局所配置の場合であっても、磁気抵抗効果を用いる場合であっても、どのような向きであっても使用することが可能であり、前者の非局所配置の場合には、磁化方向を平行とする場合と、反平行とする場合において、出力結果に差は生じないが、製造段階においては、同一方向に磁場をかけて強磁性層を加熱することで、磁化方向を平行とする方が容易であるため、第1及び第2強磁性層の磁化方向は平行であることが好ましい。一方、後者の磁気抵抗効果を用いる配置の場合には、第1及び第2強磁性層の磁化方向を反平行とした方が、平行とした場合よりも、大きな出力を得ることができるので、好ましい。
【0085】
また、第1強磁性層及び第2強磁性層の磁化方向は、これらの形状異方性(アスペクト比を高くする)か、あるいは反強磁性膜と強磁性層とを交換結合することで、固定することができる。また、半導体の結晶層3におけるスピン緩和時間は1nsec以上である。
【0086】
なお、上述の結晶層3として、グラフェンを用いた場合の製造方法について補足説明をしておく。グラフェンは、スピン注入によりスピンが蓄積される層である。グラフェンとは、炭素原子が6角形の網の目状に平面的に結合した構造のシートである。グラフェンからなる半導体結晶層3の厚みを極限まで薄くでき、極めて微小領域からの磁束を選択的に検出可能となる。
【0087】
このようなグラフェンは、例えば、剥離法、分解法により得ることができる。剥離法では、例えば、(A)高配向熱分解グラファイト(HOPG)を用意する。この高配向熱分解グラファイト(HOPG)は、単層グラフェンシートが多数積層されたものであって、単一のドメインからなる単結晶であり、市販されている。
【0088】
また、(B)有機溶媒に可溶なフィルム基材上に、レジスト層を塗布した第1の剥離板、第1の剥離板と同一構造の第2の剥離板、第3の剥離板、第4の剥離板、・・・第Nの剥離板を用意しておく。
【0089】
常圧下でフィルム基材上のレジスト層をHOPGと接触させる。これにより、レジスト層とHOPGとが接着する。続いて、HOPGと第1の剥離板とを真空下に配置し、HOPGから第1の剥離板をはがすことにより、元のHOPGから、一部のグラフェンシートが剥離され、レジスト層上に複数層のグラフェンシートが残留する。
【0090】
真空を維持した状態で、第1の剥離板上に残留した複数のグラフェンシートの表面に、第2の剥離板のレジスト層を接触させ、第1の剥離板を第2の剥離板から剥がすことにより、第2の剥離板のレジスト層上にグラフェンシートを残留させる。このような作業を、第Nの剥離版のレジスト層上に残留したグラフェンシートの厚みが、所望の膜厚になるように光学顕微鏡等で観察しながら、この付着、剥離を工程と、真空中で繰り返す。
【0091】
その後、最終的に第Nの剥離板のレジスト層上に付着したグラフェンシートを、絶縁膜4上に真空中で接触させ、しかる後、常圧に戻してから有機溶媒でフィルム基材を溶かし、レジストを溶解・洗浄することにより、絶縁膜4上にグラフェンからなる結晶層を接着することができる。最終的に残留するグラフェン層は、1層であることが好ましく、この場合には非常に微細な領域からの磁場を検出することができる。
【0092】
また、分解法では、まず、例えば、CVD法等により形成したSiC層に対して必要に応じて、酸化及び水素エッチングを行なった後、電子衝撃加熱等によってシリコン原子を脱離させることによって、SiC層上に、グラフェンシートを形成することができる。分解法を用いる場合、SiCのインゴットから切り出した半導体基板を、絶縁膜4上に熱と圧力をかけて貼り付けた後、この半導体基板に分解法を適用することで、グラフェン層を絶縁膜4上に形成することができる。
【0093】
以上、説明したように、本発明では、単一ドメインの結晶層をスピン伝導チャネルとして用いているため、Si以外の材料の場合においても、スピン伝導特性を改善することができるが、特に、Siどの立方晶のダイヤモンド構造や、GaAsなどの閃亜鉛鉱構造の半導体は、良質なバルク結晶が数多く製造され、市販されているため、チャネル材料としては好ましい。
【符号の説明】
【0094】
10・・・ベース基板、3・・・半導体の結晶層、1,2・・・強磁性層、3B・・・突出部、1M,2M・・・電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気シールド層を有するベース基板と、
前記ベース基板の前記磁気シールド層上の絶縁膜を介して貼り付けられた単一ドメインからなる半導体の結晶層と、
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、第1トンネル障壁層を介して形成された第1強磁性層と、
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して形成された第2強磁性層と、
を備えることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第1強磁性層との間に電子が流れる第1電極と、
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第2強磁性層との間の電圧を測定するための第2電極と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記半導体の結晶層は、Si、Ge、GaAs、又はグラフェンからなること特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記半導体の結晶層は、磁気ヘッドにおける媒体対向面側に先端部が位置する突出部を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記突出部が内部に位置する貫通孔を有する磁気シールドを前記ベース基板上の媒体対向面側に更に備え、
前記貫通孔は、前記半導体の結晶層における前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との領域の側方に位置している、
ことを特徴とする請求項4に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、MgO、Al2O3、SiO2、ZnO、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、前記半導体基板とショットキー接触する金属層との界面に形成されるショットキー障壁からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記半導体の結晶層の厚みは、0.4nm以上70nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが反対方向であること特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが同じであること特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記半導体の結晶層は、ダイヤモンド構造又は閃亜鉛鉱構造の半導体からなることを特徴とする請求項1、2及び3乃至10のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項1】
磁気シールド層を有するベース基板と、
前記ベース基板の前記磁気シールド層上の絶縁膜を介して貼り付けられた単一ドメインからなる半導体の結晶層と、
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、第1トンネル障壁層を介して形成された第1強磁性層と、
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に、前記第1強磁性層から離間し、第2トンネル障壁層を介して形成された第2強磁性層と、
を備えることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第1強磁性層との間に電子が流れる第1電極と、
前記半導体の結晶層における前記絶縁膜とは反対側の表面上に設けられ、前記第2強磁性層との間の電圧を測定するための第2電極と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記半導体の結晶層は、Si、Ge、GaAs、又はグラフェンからなること特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記半導体の結晶層は、磁気ヘッドにおける媒体対向面側に先端部が位置する突出部を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記突出部が内部に位置する貫通孔を有する磁気シールドを前記ベース基板上の媒体対向面側に更に備え、
前記貫通孔は、前記半導体の結晶層における前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との領域の側方に位置している、
ことを特徴とする請求項4に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、MgO、Al2O3、SiO2、ZnO、又は、MgAl2O4からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記第1及び第2トンネル障壁層は、前記半導体基板とショットキー接触する金属層との界面に形成されるショットキー障壁からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記半導体の結晶層の厚みは、0.4nm以上70nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが反対方向であること特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層の磁化の向きが同じであること特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記半導体の結晶層は、ダイヤモンド構造又は閃亜鉛鉱構造の半導体からなることを特徴とする請求項1、2及び3乃至10のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−174323(P2012−174323A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37552(P2011−37552)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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