説明

スプライスプレートの製造方法

【課題】短時間かつ低コストで、凹凸の形状のバラツキが小さい十分な粗度を有する凹凸を形成して一定以上のすべり係数が得られ、簡単な方法で広範囲の面積の凹凸加工を可能とするスプライスプレートの製造方法を提供する。
【解決手段】ボルト孔8近傍に山形の凹凸9を表面に有するボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法であって、前記山形の凹凸部9をパワー密度105W/cm2以上107W/cm2以下のレーザ光の照射とアシストガスによる溶融・除去により形成することを特徴とするスプライスプレートの製造方法。また、前記凹凸9をボルト孔8を中心とした放射状に設置したことを特徴とするスプライスプレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築、橋梁などにおける鋼構造体の摩擦接合に利用される高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築用鋼材などを直列に接合する際は、被接合鋼材を突き合わせて、その両側の側面にスプライスプレートを添えてボルトで締め付けて接合する、いわゆる、高力ボルト摩擦接合が一般的に採用されている。高力ボルト摩擦接合において、日本建築学会の設計施工指針では、接合耐力上重要となる摩擦面は、黒皮の除去された良好な赤錆面で、すべり係数が0.45を上回る処理を施すこと、また、すべり係数はすべり耐力試験により確認する必要があるとしている。通常、良好な赤錆状態であれば、すべり係数は0.45を上回ることが知られており、すべり耐力試験は省略される場合が多い。しかし、赤錆状態のすべり係数は0.6程度の値が得られることもあるが、環境因子や鋼材組成などにより錆生成状態が異なるため、バラツキが大きい。摩擦接合面のすべり係数は接合耐力上高いほど好ましいことは明らかであり、鋼材表面に赤錆を生成する方法の他に、特許文献1に示されるように、接合面に施工前にショットブラストなどにより凹凸を付けたり、特許文献2に示されるように、接合面に耐食性金属を溶射する方法などが提案されている。しかし、従来の方法では、十分な粗度を形成できないばかりでなく、凹凸の形状のバラツキが大きいなど、得られるすべり係数に限界があり、ある値以上のすべり係数が得られないなどの問題があった。
【0003】
このため、鋼材表面に赤錆を発生させる方法の他に、特許文献3にあるように、接合面に転造等の加工法で凹凸を付ける方法などが提案されている。凹凸を形成する加工方法は、転造法で行うのがよいとされている。これは、機械切削などによる方法では、凸部は加工前の鋼板表面よりも同じか低くなるため、凸部を鋼板表面よりも高くするためには、摩擦接合全面を加工しなければならず、長時間を要し、かつ高コストとなるためである。
なお、凹凸面を付与した後、特許文献4にあるようなレーザ熱処理方法を用いて、凸部のみを硬化させることができる。
【特許文献1】特開昭51−52628号公報
【特許文献2】特開平1−206104号公報
【特許文献3】特開平11−247831号公報
【特許文献4】特開平2003−28128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、短時間かつ低コストで、凹凸の形状のバラツキが小さい十分な粗度を有する凹凸を形成して一定以上のすべり係数が得られ、簡単な方法で広範囲の面積の凹凸加工を可能とするスプライスプレートの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、下記のごとくである。
(1)ボルト孔近傍に山形の凹凸を表面に有するボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法であって、前記山形の凹凸をパワー密度105W/cm2以上107W/cm2以下のレーザ光の照射とアシストガスによる溶融・除去により形成することを特徴とするスプライスプレートの製造方法。
(2)前記山形の凹凸をボルト孔を中心とした放射状に設置したことを特徴とするスプライスプレートの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造工程を簡略化し、安価に十分な粗度を有する凹凸を形成して、広範囲の面積の凹凸加工を製造可能なスプライスプレート製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態を、図を用いて詳細に説明する。なお、下記の各図において、同一の機能を有する部分には同一の番号を付記した。
<実施の形態>
本発明の第1の発明であるスプライスプレートの実施の形態の一例について図1を参照して説明する。
まず、凹凸の付与方法について述べる。加工熱源として、例えば、半導体レーザが利用できる。半導体レーザは電気入力からレーザ光への変換効率が高く、同じ出力であれば他のレーザより装置を小型化できる利点がある。また、発振波長が1μm以下と短いため鋼材への波長吸収特性が高いことも熱源として有利である。
【0008】
例えば、市販のヌボニクス社製ISL-2000M等が利用できる。これは最大出力2kWの光ファイバ伝送の半導体レーザである。半導体レーザ部分はガリウム砒素系の素子からなり波長808nmを中心波長としたレーザ光を出力する。半導体レーザから出たレーザ光はコア径1mmの光ファイバに導光される。光ファイバの出力端に配置した光学系により半導体レーザ光を光学系で加工点に1対1の倍率で結像した。すなわち、被加工鋼材表面上で直径が約1mmの集光スポットとなる。
【0009】
光学系の先端にはアシストガスを供給するノズルを配置した。ノズルの開口は直径2mmである。上記ノズル部分までを一体化してレーザ加工ヘッドと称する。このレーザ加工ヘッドを数値制御ステージに搭載する。
そして、レーザ加工ヘッドを移動させながら、所定の条件にてレーザ光と酸素ガスを与えることにより、レーザ光にて加熱された部分で鋼材と酸素との反応が起こり、鋼が溶融して、酸素ガスのモーメンタムにより吹き飛ばされていく。所定の条件とは、すなわち、レーザのパワー密度として105W/cm2以上107W/cm2以下とすることである。レーザのパワー密度105W/cm2以上にて鋼の溶融が開始する。上記の条件、出力2kWを直径1mmに集光するとパワー密度は2.5×105W/cm2となり溶融域に入る。同時にアシストガスによる溶融物の除去を行うことにより効果的な形状付与加工が可能である。一方、レーザのパワー密度が107W/cm2以上となると、蒸発域になり、プラズマが生じるために加工が阻害されることになる。そのメカニズムは、プラズマは非加工物上方に生じ逆制動輻射によりレーザ光を吸収するので非加工物に到達するレーザパワーが低減すること、また、プラズマの電子密度による屈折率勾配によってレーザビームが発散され集光スポット径が拡大するために集光パワー密度が低下するためである。
【0010】
上記の一連の作業をプログラム化し数値制御することにより任意のパターンの溝を付与することができる。例えば、ボルト孔周囲に放射状のパターンができる。スプライスプレートとボルトとの摩擦抵抗を考慮すると、放射状のパターンが好ましい。放射状のパターンは転造では工数的にコスト高となるが、本発明の方式では非接触加工のため、加工パターンによるコストの違いはない。
【0011】
なお、特許文献4によれば、スプライスプレートの母材表面よりも凹凸の凸部を高く突き出すように形成することが好ましいとされているが、これは転造範囲を極力狭く限定するためであり、本発明の方法によれば、凹凸範囲をスプライスプレートとボルト頭あるいは座金との接触領域よりも十分広く取ることが容易であるので、凸部が母材鋼板表面と同一高さでも問題がない。
【0012】
本発明によれば、簡単な方法で広範囲の面積の凹凸加工が可能となる。すなわち、1台のレーザを用いてレーザ光の集光照射とアシストガスによる溶融・除去により山形の凹凸を形成することにより、製造工程を簡略化し、スプライスプレートの安価な製造が可能となる。
【実施例】
【0013】
図1に、本発明のスプライスプレート10の製造方法によりレーザ光を照射して鋼材表面に凹凸を付与する様子を示す。図1に於いて、1は半導体レーザ、2は伝送用光ファイバ、3は加工ヘッド、4は加工ヘッド3に内蔵の集光レンズ、5は被加工鋼材(スプライスプレート10の母材)である。数値制御ステージについては図示していない。半導体レーザ1はコア径1mmの伝送用光ファイバ2に導光されている。伝送用光ファイバ2の出力端に配置した集光レンズ4により半導体レーザ光を加工点に1対1の倍率で結像した。すなわち、被加工鋼材5表面上で約1mmの集光スポットとなる。加工ヘッド3の先端にはアシストガス供給口7よりアシストガスを供給するノズル6を配置した。ノズル6の開口は直径2mmである。この加工ヘッド3を数値制御ステージに搭載する。そして、加工ヘッド3を移動させながら、被加工鋼材5にレーザ光と酸素ガスを与えることにより、レーザ光にて加熱された部分で鋼と酸素との反応が起こり、鋼が溶融して、溶融部が酸素ガスのモーメンタムにより吹き飛ばされていく。
加工条件は様々に設定できるが、例えば、レーザ出力2kW、酸素ガス圧0.5MPa、ノズルと被加工鋼材表面との距離5mmとし、レーザ加工ヘッドの送り速度500mm/秒としたとき、幅0.8mm、深さ0.4mmの溝部を形成することができた。
【0014】
さらに、上記作業を連続的化したプログラムとすることでコンピュータ制御により鋼材表面に種々の凹凸パターン9を形成することができる。例えば、ボルト孔8を中心として上限値をd1として直径を1.6mmずつ拡大した円軌道を走査することにより、図3に示すような同心円状の凹凸パターン9を形成できる。
また、ボルト孔8を中心として上限値をd2として一方向に0.8mmずつシフトさせながら走査することにより、図4に示すような直線状の凹凸パターン9を形成できる。
【0015】
さらに、図5に示すようなボルト孔8周囲に放射状の凹凸パターン9を形成できる。この場合は、走査範囲を直径30mmの円内の領域とし、加工部の外周上にて0.8mmずつシフトするように設定した。したがって、ボルト孔8近傍では加工のラップが発生し、凹凸ピッチは0.8mm以下になっている。このため、表面の平均粗度はボルト孔8近傍の内側で小さく、外側ほど大きくなっている。ボルト締結時の面圧を考慮すると、外側ほど面圧が低いので、外側ほど摩擦力が大きいことは有利である。逆に、ボルト孔8近傍で加工のラップにより凹凸パターン9が無くなることを避けるにはレーザの照射出力をボルト孔8近傍で小さく、外側で大きくするか、あるいは、ボルト近傍のみ一列置きに間引き加工することで回避できる。あるいは、アシストガスである酸素の圧力をボルト孔8近傍の内側で小さく、外側で大きくしてもよい。この例では、スプライスプレート10の片面のみに凹凸パターン9を形成したものを示しているが、両面に形成することも当然可能である。
なお、上記のレーザ種類や波長、およびファイバ長は一例であり、他の値のものを選ぶこともできる。例えば、CO2レーザを用いれば光ファイバ伝送はできないものの、ボルト孔8の貫通加工も同じ装置にて可能となる。また、溝部の幅や深さも上記は例示であって特に上記に拘るものではない。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、建築、橋梁などにおける鋼構造体の摩擦接合に利用される高力ボルト摩擦接合用スプライスプレートに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る本発明のスプライスプレートを製造する装置構成の概略を示す図である。
【図2】スプライスプレートの一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る本発明のスプライスプレートの表面外観を示す図である。(図2における各ボルト孔の近傍部分)
【図4】本発明の実施の形態に係る本発明のスプライスプレートの別の表面外観を示す図である。 (図2における各ボルト孔の近傍部分)
【図5】本発明の実施の形態に係る本発明のスプライスプレートのさらに別の表面外観を示す斜視図であり、図2におけるAで示した部分の半分を拡大した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 半導体レーザ
2 伝送用光ファイバ
3 加工ヘッド
4 集光レンズ
5 被加工鋼材
6 ノズル
7 アシストガス供給口
8 ボルト孔
9 凹凸パターン
10 スプライスプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト孔近傍に山形の凹凸を表面に有するボルト摩擦接合用スプライスプレートの製造方法であって、前記山形の凹凸をパワー密度105W/cm2以上107W/cm2以下のレーザ光の照射とアシストガスによる溶融・除去により形成することを特徴とするスプライスプレートの製造方法。
【請求項2】
前記山形の凹凸をボルト孔を中心とした放射状に設置したことを特徴とするスプライスプレートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−270632(P2009−270632A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121865(P2008−121865)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】