説明

スラストニードル軸受用の保持器及びスラストニードル軸受

【課題】軸受寿命を確保できるスラストニードル軸受用の保持器及びスラストニードル軸受を提供する。
【解決手段】円盤部12cは、ポケット部12gの半径方向外方において、周方向に連続して薄肉部12jより厚い厚肉部12hを形成しており、厚肉部12hの厚さT1は、ころ11の径Dよりも小さいので、円盤部12cの外径側で、ころ11が転動する軌道輪13,14との隙間を小さくすることにより、塵埃等の異物の侵入を抑制でき、それにより軸受寿命を延長することができる。一方、薄肉部12jをポケット部12gの周囲に形成することによって、軌道輪13,14と円盤部12cとの接触が抑制されるので、軸受の引きずり抵抗を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のステアリング装置などに用いられると好適なスラストニードル軸受用の保持器及びスラストニードル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング装置に用いられる、チルト・テレスコ方向にステアリングホイールを位置決めする位置決め装置等において、スラストニードル軸受が設けられている場合がある。ここで、スラストニードル軸受は、ころが転動する一対の軌道輪と共に用いられるが、搬送時等においては、軌道輪が分離しないように何らかの手段で固定することが好ましい。特許文献1には、樹脂製の保持器の外周にリップ部を一体成形し、これを軌道輪の外周に係合させることで、保持器と軌道輪との分離を阻止するようにしている。
【特許文献1】仏国特許第2831232号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、特許文献1に示す保持器においては、保持器とレースとの間の隙間が比較的大きいため、かかる隙間を介して外部から塵埃等の異物が侵入しやすく、軸受寿命を低下させる恐れがある。しかしながら、保持器とレースとの間の隙間を小さくすると、両者が接触しやすくなり、引きずり抵抗が増大するという問題がある。また、ころの潤滑性を向上させたいという要請もある。
【0004】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、軸受寿命を確保できるスラストニードル軸受用の保持器及びスラストニードル軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の、ころを保持するスラストニードル軸受用の保持器において、
前記保持器はプラスチックから形成され、軌道輪を組み付けたときに前記軌道輪に係合する環状のリップ部を備えた中央部と、前記中央部から半径方向外方に延在し、前記ころを保持する円盤部とからなり、
前記円盤部の外径は、前記軌道輪の外径以下であり、
前記円盤部は、外径側より内径側で薄くなっている薄肉部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前記円盤部は、外径側より内径側で薄くなっている薄肉部を有するので、前記円盤部の外径側で、前記軌道輪との隙間を小さくすることにより、塵埃等の異物の侵入を抑制でき、それにより軸受寿命を延長することができる。一方、前記薄肉部を形成することによって、前記軌道輪と前記円盤部との接触が抑制されるので、軸受の引きずり抵抗を抑制することができる。尚、「厚さ」とは、保持器の軸線方向の寸法をいうものとする。
【0007】
前記円盤部は、周方向に並べて形成されたポケット部を有し、前記薄肉部は、隣接する前記ポケット部の間に形成されているので、前記薄肉部に潤滑油を貯留することが出来、ころの潤滑を高めて更なる軸受寿命の延長を図ることができる。
【0008】
前記円盤部は、周方向に並べて形成されたポケット部を有し、該ポケット部の半径方向外方において、周方向に連続して前記薄肉部より厚い厚肉部を形成しており、前記厚肉部の厚さは、前記ころの径よりも小さいので、異物の侵入抑制と、引きずりトルクの低減とを高次元で両立させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかるスラストニードル軸受を、組み込んだ状態で示す断面図である。図1において、ベース1に対して、フランジ2aを有する軸2がスラストニードル軸受10により回転自在に支持されている。尚、フランジを設けることなく、軸2をワッシャを介してナットで固定したり、ボルトで直接固定しても良い。
【0010】
スラストニードル軸受10は、ころ11と、ころ11を保持する保持器12と、ベース1に当接する円板状の軌道輪13と、軸2のフランジ部2aに当接する円板状の軌道輪14とを有する。
【0011】
図2は、スラストニードル軸受10の斜視図であり、図3は、半割したスラストニードル軸受10の断面斜視図であり、図4は、半割したスラストニードル軸受10の断面図であり、図5は、図4の矢印Vで示す構成を拡大した図である。図6は、保持器12の正面図であり、図7は、図6の保持器12をVII-VII線で切断して矢印方向に見た図である。
【0012】
図5、7に示すように、保持器12は、中央に開口12aを有する円筒状の本体12bと、本体12bの中央から半径方向外方に延在する円盤部12cとから一体的に形成されている。保持器12は、プラスチック素材から射出成形により成形できる。本体12bの両端外周には、半径方向外側に環状に突出したリップ部12dが形成されている。尚、本体12bの両端内周には、リップ部12dに対応したテーパ面状の面取り部12fを形成してもよい。
【0013】
保持器12の円盤部12cは、図6に示すように周方向に等間隔に、軸線方向に貫通した矩形穴状のポケット部12gを有している。ポケット部12gは、ころ11を保持する機能を有する。図4において、円盤部12cの外縁の両側面には、周方向に連続して段差状に突出した厚肉部12hが形成されている。円盤部12cにおいて、厚肉部12hの半径方向内側は、それより薄い薄肉部12jとなっている。軸線方向に向いた面が大きな浅皿状である薄肉部12jは、図6に示すように、ポケット部12gの周囲を囲っている。
【0014】
図5に示すように、厚肉部12hの厚さをT1とし、薄肉部12jの厚さをT2とし、ころ11の径をDとすると、D>T1>T2が成立する。尚、厚さT1,T2の差は、グリース潤滑を妨げない範囲で任意に決定できる。又、本実施の形態によれば、厚肉部12hと軌道輪13,14との隙間として、(D−T1)=0.15mm以下とすることが可能となる。
【0015】
図5において、軌道輪13,14は、軸線方向内方に向かうにつれて縮径するテーパ面13a、14aと、軸線方向内方端で半径方向内方に環状に突出し、保持器12の本体12bにわずかな隙間で対峙する環状部13b、14bを有している。環状部13b、14bの内径は、保持器12のリップ部12dの外径よりも小さくなっている。保持器12を軌道輪13,14に組み付けるときには、リップ部12dが弾性変形することで、環状部13b、14bを乗り越えることができるようになっている。
【0016】
円盤部12cの外径は、軌道輪13,14の外径と等しくても良いが、軸受動作時のがたつきを考慮して、円盤部12cの外周が軌道輪13,14の外周よりはみ出ないように、円盤部12cの外径を、軌道輪13,14の外径より小さく設定することが望ましい。
【0017】
スラストニードル軸受の動作時には、図1に矢印で示すように、軸2にはスラスト荷重が加わるが、かかるスラスト荷重は、フランジ部2aを介して軌道輪14に伝達され、ころ11により支持されることとなる。よって、スラスト荷重を受けた状態でも、軸2はベース1に対して円滑に回転できる。
【0018】
本実施の形態によれば、円盤部12cは、ポケット部12gの半径方向外方において、周方向に連続して薄肉部12jより厚い厚肉部12hを形成しており、厚肉部12hの厚さT1は、ころ11の径Dよりも小さいので、円盤部12cの外径側で、ころ11が転動する軌道輪13,14との隙間を小さくすることにより、塵埃等の異物の侵入を抑制でき、それにより軸受寿命を延長することができる。一方、薄肉部12jをポケット部12gの周囲に形成することによって、軌道輪13,14と円盤部12cとの接触が抑制されるので、軸受の引きずり抵抗を抑制することができる。
【0019】
図8は、別な実施の形態にかかるスラストニードル軸受10’の分解斜視図であり、図9は、別な実施の形態にかかる保持器12’の正面図であり、図10は、図9の保持器12’をX-X線で切断して矢印方向に見た図である。本実施の形態においては、円盤部12cの外縁に厚肉部を形成していないが、これを形成しても良い。共通する構成には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0020】
本実施の形態においては、隣接するポケット部12g間に、モールド成形によって三角形状の凹部12kを形成している。従って、凹部12kを形成した円盤部12cの部分が薄肉部となる。凹部12kの形状や深さは、円盤部12cの強度を損なわない範囲で任意に設定できる。本実施の形態においては、隣接するポケット部12g間に凹部12kを形成したことにより、凹部12k内に貯留された潤滑油が適宜ポケット部12g内のころ11に供給され、ころの潤滑性を高めることができる。
【0021】
以上の実施の形態において、軌道輪13,14への組み付け容易性を確保するために、リップ部12dには一カ所以上の切欠を形成して、弾性変形しやすいようにしてもよい。
【0022】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、その発明の範囲内で変更・改良が可能であることはもちろんである。スラストニードル軸受は、各種の機械に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態にかかるスラストニードル軸受を、組み込んだ状態で示す断面図である。
【図2】実施の形態にかかるスラストニードル軸受10の斜視図である。
【図3】半割したスラストニードル軸受10の断面斜視図である。
【図4】半割したスラストニードル軸受10の断面図である。
【図5】図4の矢印Vで示す構成を拡大した図である。
【図6】保持器12の正面図である。
【図7】図6の保持器12をVII-VII線で切断して矢印方向に見た図である。
【図8】別な実施の形態にかかるスラストニードル軸受10’の分解斜視図である。
【図9】別な実施の形態にかかる保持器12’の正面図である。
【図10】図9の保持器12’をX-X線で切断して矢印方向に見た図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ベース
2 軸
2a フランジ部
10、10’ スラストニードル軸受
12、12’ 保持器
12a 開口
12b 本体
12c 円盤部
12d リップ部
12f 面取り部
12g ポケット部
12h 厚肉部
12j 薄肉部
12k 凹部
13 軌道輪
13a テーパ面
13b 環状部
14 軌道輪
14a テーパ面
14b 環状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ころを保持するスラストニードル軸受用の保持器において、
前記保持器はプラスチックから形成され、軌道輪を組み付けたときに前記軌道輪に係合する環状のリップ部を備えた中央部と、前記中央部から半径方向外方に延在し、前記ころを保持する円盤部とからなり、
前記円盤部の外径は、前記軌道輪の外径以下であり、
前記円盤部は、外径側より内径側で薄くなっている薄肉部を有することを特徴とするスラストニードル軸受用の保持器。
【請求項2】
前記円盤部は、周方向に並べて形成されたポケット部を有し、前記薄肉部は、隣接する前記ポケット部の間に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスラストニードル軸受用の保持器。
【請求項3】
前記円盤部は、周方向に並べて形成されたポケット部を有し、該ポケット部の半径方向外方において、周方向に連続して前記薄肉部より厚い厚肉部を形成しており、前記厚肉部の厚さは、前記ころの径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のスラストニードル軸受用の保持器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の保持器を有することを特徴とするスラストニードル軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−191897(P2009−191897A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31693(P2008−31693)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】