説明

スラスト滑り軸受および該スラスト滑り軸受を備えたポンプ

【課題】摺接面の接触状態を改善し、偏摩耗を低減するスラスト滑り軸受を提供する。
【解決手段】本発明に係るスラスト滑り軸受は、摺接面を有する回転側摺接部材30と、摺接面を有する固定側摺接部材31と、回転側摺接部材30の摺接面とは反対側の端面に接する回転側変形部材40と、固定側摺接部材31の摺接面とは反対側の端面に接する固定側変形部材41とを備える。回転側摺接部材30と固定側摺接部材31にスラスト荷重が加わると、回転側変形部材40および固定側変形部材41が変形し、摺接面同士が面接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受、および該スラスト滑り軸受を備えたポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプは、羽根車を回転させることにより液体を加圧し、吐出口から液体を吐出する。羽根車は、軸受により回転自在に支持された軸を介してモータなどの駆動源により回転駆動される。ポンプに用いられる軸受には、一般に、ラジアル荷重を支持するラジアル軸受と、スラスト荷重を支持するスラスト軸受とが含まれる。軸受の例としては、羽根車の回転に伴う軸受摺接面の相対的な回転により吸い込まれた液体の動圧を利用した滑り軸受が挙げられる。
【0003】
図1は、スラスト滑り軸受を模式的に示す断面図である。図1に示すように、スラスト滑り軸受は、回転側摺接部材51と固定側摺接部材52とを有する。固定側摺接部材52は、固定基台55に保持され、一方、回転側摺接部材51は、軸と一体に回転する回転基台56に固定される。図2(a)は固定側摺接部材52を示す平面図であり、図2(b)は図2(a)のA-A線断面図である。図2(a)に示すように、固定側摺接部材52の摺接面には、液体の動圧を発生させるスパイラル溝57が形成されている。このスパイラル溝57は、潤滑に用いられる液体が摺接面に供給されやすくするためのものであり、10μm程度の深さを有している。このスパイラル溝57は、一般にレーザ加工によって形成される。
【0004】
摺接部材51,52は、SiCなどのセラミックで形成されるのが一般的である。ところが、ポンプの取扱液が超純水の場合、摺接部材51,52が腐食してしまい、軸受の寿命が極端に短くなってしまう。そこで、このような取扱液を使用する場合には、摺接部材51,52の摺接面を多結晶ダイヤモンドで被覆することで耐久性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多結晶ダイヤモンドの被膜は、膜厚が薄すぎると剥離しやすく、厚すぎると割れやすくなるため、数μm〜10数μmの厚さの膜として形成される。
【0005】
ところで、回転側摺接部材51と固定側摺接部材52にスラスト荷重がかかった場合、これらの摺接部材51,52は最終的に回転基台56と固定基台55の保持面にそれぞれ拘束される。このため、これらの工作精度、組立精度によっては、回転側摺接部材51と固定側摺接部材52の各摺接面が正しく接触せずに、一方の端部が他方の一部に接触するだけとなる。図3は、摺接面が傾いている状態を誇張して表現した図である。
【0006】
このように摺接面が互いに傾いていると、その接触点(実際には摺接面は相対的に回転するため、一方は軸受の回転中心から接触点までを半径とする円周となる)に荷重が集中し、摺接面が偏摩耗してしまう。ダイヤモンド被膜は薄いため、偏摩耗により、想定よりも早く基材のセラミックが露出することになる。そして、露出した箇所が液体(超純水)と接触して、摺接部材51,52が腐食し、その結果、軸受の寿命が短くなってしまう。なお、このような偏摩耗に起因する問題は、ダイヤモンド被膜に限らず、他の被膜でも同様に起こり得る。さらに、被膜のない軸受においても、軸受寿命の低下に影響する問題である。
【0007】
また、スパイラル溝57(図2(a)参照)が形成されている摺接面にダイヤモンド皮膜を形成すると、ダイヤモンド被膜があるにもかかわらず超純水により摺接面が腐食したり、ダイヤモンド被膜が割れて剥離するといった現象が頻繁に起きてしまう。
【0008】
【特許文献1】特開2006−275286号公報
【特許文献2】WO2008/133197A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、摺接面の接触状態を改善し、偏摩耗を低減するスラスト滑り軸受を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、従来の問題点を改善した多結晶材料の被膜をもつスラスト滑り軸受を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受であって、摺接面を有する回転側摺接部材と、摺接面を有する固定側摺接部材と、前記回転側摺接部材の、摺接面とは反対側の端面に接する回転側変形部材と、前記固定側摺接部材の、摺接面とは反対側の端面に接する固定側変形部材とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記回転側変形部材および前記固定側変形部材は、前記摺接面の摺接により塑性変形する材料から構成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記回転側変形部材および前記固定側変形部材は、フッ素樹脂またはポリエチレンから構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様は、軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受であって、摺接面を有する回転側摺接部材と、摺接面を有する固定側摺接部材とを備え、前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面の少なくとも一方には、径方向に延びるラジアル溝が形成されており、前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面は、結晶性材料で被覆されており、前記回転側摺接部材および前記固定側摺接部材の摺接面内の表面形状変化箇所が曲面で構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様は、軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受であって、摺接面を有する回転側摺接部材と、摺接面を有する固定側摺接部材とを備え、前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面の少なくとも一方には、径方向に延びるラジアル溝が形成されており、前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面は、結晶性材料で被覆されており、前記回転側摺接部材および前記固定側摺接部材の摺接面内の表面形状変化箇所の外角は30度以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の好ましい態様は、前記回転側摺接部材の、摺接面とは反対側の端面に接する回転側変形部材と、前記固定側摺接部材の、摺接面とは反対側の端面に接する固定側変形部材とをさらに備えたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記結晶性材料が多結晶ダイヤモンドであることを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様は、ケーシングと、前記ケーシングに収容される羽根車と、前記羽根車と一体となって回転する軸と、前記軸を回転させるモータと、前記軸を回転自在に支持する複数の軸受とを備えるポンプであって、前記複数の軸受の少なくとも一つは上記スラスト滑り軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スラスト軸受の組立時に摺接部材の摺接面が傾いても、摺接部材が互いを押圧しながら回転することにより、変形部材が変形して摺接面の傾きが改善される。また、本発明によれば、摺接面の全体が滑らかな面で構成されるので、ピンホールや露出箇所を形成することなく、結晶性材料(例えばダイヤモンド)の被膜を摺接面にコーティングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るスラスト軸受装置を備えた全周流型キャンドモータポンプの断面図である。図4に示すように、ポンプは、ポンプケーシング10と、このポンプケーシング10に収容されたキャンドモータ11と、このキャンドモータ11によって回転される軸12と、この軸12の端部に固定された羽根車15とを備えている。ポンプケーシング10は、ケーシング外筒10Aと、このケーシング外筒10Aの両端に接続された吸込ケーシング10Bおよび吐出ケーシング10Cとを有している。吸込ケーシング10Bおよび吐出ケーシング10Cは、それぞれ吸込口10aおよび吐出口10bを有している。
【0018】
キャンドモータ11は、軸12の外周面に固定された回転子11Aと、この回転子11Aを囲むように配置された固定子11Bと、この固定子11Bが固定されるモータ外胴11Cと、モータ外胴11Cの両開放端部を塞ぐモータ側板11Dと、回転子11Aと固定子11Bとの間に配置された円筒状のキャン11Eとを備えている。固定子11Bは、モータ外胴11Cと、キャン11Eと、モータ側板11Dとによって形成された空間内に密封されている。モータ外胴11Cとケーシング外筒10Aとの間には、円筒状の液体の流路17が形成されている。この流路17は吸込口10aおよび吐出口10bに連通している。このような構成において、羽根車15を回転させると、液体は、吸込口10aからポンプケーシング10内に吸い込まれ、回転する羽根車15によって昇圧される。昇圧された液体は、流路17を通って吐出口10bから吐出される。
【0019】
軸12はその両端に配置されたラジアル軸受20,21によって回転自在に支持されるとともに、スラスト軸受22および補助スラスト軸受23によって支持されている。スラスト軸受22、ラジアル軸受20,21、および補助スラスト軸受23は、いずれも滑り軸受である。スラスト軸受22は、ポンプの運転中に発生するスラスト荷重を受けるためのものである。ポンプの運転中は、羽根車15の回転により液体が加圧されるため、羽根車15の吐出側面が受ける圧力は吸込側面が受ける圧力よりも高くなる。この羽根車15に作用する圧力のアンバランスによりスラスト荷重が発生する。スラスト軸受22は、この吐出口10bから吸込口10aに向かう方向に発生するスラスト荷重を受けるためのものである。一方、補助スラスト軸受23は、ポンプ起動時などにおいて定常運転時とは逆向き(吸込口10aから吐出口10bに向かう方向)のスラスト荷重を受けるためのものである。スラスト軸受22、ラジアル軸受20,21、および補助スラスト軸受23には、ポンプケーシング10内に取り込まれた液体が浸潤し、この液体によって潤滑されている。
【0020】
図5は、図4に示すスラスト軸受22およびラジアル軸受21を示す断面図である。図6は図5に示すB-B線断面図である。ラジアル軸受21は、軸12の外周面に固定された回転側ラジアル摺接部材26と、固定基台(固定側軸受ブラケット)27に固定された固定側ラジアル摺接部材28とを有している。スラスト軸受22は、軸12と一体に回転する回転側スラスト摺接部材30と、この回転側スラスト摺接部材30に対向して配置される固定側スラスト摺接部材31とを有している。回転側スラスト摺接部材30と固定側スラスト摺接部材31は、互いに向き合う環状の摺接面をそれぞれ有している。回転側スラスト摺接部材30および固定側スラスト摺接部材31は、SiC(炭化けい素)などのセラミックから構成されている。
【0021】
回転側スラスト摺接部材30は、軸12に固定された回転基台(回転側軸受ブラケット)33に保持されている。この回転基台33には環状の縁部33aが形成されており、この縁部33aの内側に回転側スラスト摺接部材30が配置されている。縁部33aと回転側スラスト摺接部材30との間には、ゴムなどの弾性材から形成された軸受押さえリング34が配置されており、この軸受押さえリング34により回転側スラスト摺接部材30のラジアル方向の位置が固定されている。
【0022】
固定側スラスト摺接部材31は上記固定基台27に保持されている。この固定基台27の位置は固定されている。この固定基台27には環状の縁部27aが形成されており、この縁部27aの内側に固定側スラスト摺接部材31が配置されている。縁部27aと固定側スラスト摺接部材31との間には、ゴムなどの弾性材から形成された軸受押さえリング36が配置されており、この軸受押さえリング36により固定側スラスト摺接部材31のラジアル方向の位置が固定されている。
【0023】
回転側スラスト摺接部材30に隣接してシート(回転側変形部材)40が配置されている。このシート40は、回転側スラスト摺接部材30の摺接面とは反対側の端面に接している。シート40は、回転側スラスト摺接部材30と回転基台33とに挟まれており、回転側スラスト摺接部材30と回転基台33との間のスラスト荷重は、シート40を介して伝達される。同様に、固定側スラスト摺接部材31に隣接してシート(固定側変形部材)41が配置されている。このシート41は、固定側スラスト摺接部材31の摺接面とは反対側の端面に接している。シート41は、固定側スラスト摺接部材31と固定基台27とに挟まれており、固定側スラスト摺接部材31と固定基台27との間のスラスト荷重は、シート41を介して伝達される。このように、回転側スラスト摺接部材30および固定側スラスト摺接部材31は、2つのシート40,41によって挟まれている。
【0024】
これらのシート40,41は同一の形状を有し、同一の材料から形成されている。したがって、以下、回転側スラスト摺接部材30に接するシート40について説明する。図7はシート40を示す斜視図である。図7に示すように、シート40は環状の形状を有している。シート40は摺接面の面積よりも大きく、摺接部材の端面(摺接面と反対側の面)の全体を覆う形状を有している。シート40の厚さは、0.1mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。シート40の材料としては、低荷重で変形するものが好ましく、樹脂材料が適当である。例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)が好ましく使用される。
【0025】
このような変形可能なシート40,41の上に摺接部材30,31がそれぞれ設置されるので、スラスト軸受22の組立時に摺接部材30,31の摺接面が傾いても、摺接部材30,31が互いを押圧しながら回転することにより、シート40,41が変形して摺接面の傾きが改善される。その結果、摺接部材30,31の摺接面は互いに面接触する。図8(a)は摺接部材30,31が傾いた状態で摺接面同士が接触している状態を示す模式図であり、図8(b)は摺接部材30,31がスラスト荷重を受けている状態を示す模式図である。図8(b)から分かるように、シート40,41の変形により摺接部材30,31の摺接面が回転軸12(一点鎖線で示す)に対して垂直な面に修正される。これにより、摺接部材30,31の偏摩耗を抑制することができ、スラスト軸受22の寿命を延ばすことができる。
【0026】
シート40,41の材料として、ゴム等のエラストマーを用いることもできる。しかしながら、弾性変形の場合は変形量に応じて摺接部材30,31に荷重がかかるため、摺接面内での接触圧力が不均一となる。したがって、シート40,41の変形は主に塑性変形であることが好ましく、ポンプ運転に伴って発生するスラスト荷重による摺接部材30,31の摺接によって塑性変形する材料を用いてシート40,41を形成することが好ましい。具体的には、圧縮強さ、圧縮降伏応力が小さい材料が好ましく、特に圧縮強さ50MPa以下で、圧縮降伏応力が30MPa以下の材料が好ましい。更に、取扱液に対する安定性が高く、吸水率が小さい材料が好ましい。このような材料としては、フッ素樹脂の他にポリエチレンが挙げられる。
【0027】
図9(a)は固定側スラスト摺接部材31の平面図であり、図9(b)は固定側スラスト摺接部材31の縦断面図である。固定側スラスト摺接部材31の摺接面31aには、径方向に延びる複数のラジアル溝45が形成されている。このラジアル溝45は、U字型の断面形状を有しており、ラジアル溝45と摺接面31aとは滑らかな曲面でつながっている。ラジアル溝45を含む摺接面31aの全体は、多結晶ダイヤモンドで被覆されている。ダイヤモンドコーティングの方法は特に限定されないが、特許文献1(特開2006−275286号公報)に記載の方法が適用可能である。
【0028】
図2(a)に示すようなスパイラル溝を含む摺接面にダイヤモンド被膜を形成すると、既に述べたように超純水による腐食や、ダイヤモンド被膜の割れによる剥離という問題が起こる。この原因は以下のようなメカニズムであると考えられる。SiCから形成される摺接部材にレーザ加工によって形成された溝は、幅1mm程度、深さ10μm程度である。図10は、この摺接部材に多結晶ダイヤモンドコーティングがなされた状態を示している。図10に示すように、摺接部材の表面にはレーザ加工により、シャープなエッジ部が形成されている。ダイヤモンドの結晶はその表面形状の変化に追従することができずに、ピンホールができたり、エッジ部分が被覆されずに残ってしまったりする。取扱液が超純水であると、超純水がピンホールから浸入して摺接部材の表面が腐食されたり、露出したエッジ部が腐食してしまう。
【0029】
また、エッジ部のように表面形状の変化が大きい箇所があると、たとえダイヤモンドでコーティングされていたとしても、摺接部材同士が摺接したときに、その箇所に応力が集中することとなる。ダイヤモンド膜は脆いため、このような応力集中に耐えられず割れてしまい、摺接部材から剥離することになる。
【0030】
一方、図11に示すような、摺接面に急激な形状変化がなく、なだらかな形状であれば、ダイヤモンドの結晶はその表面形状の変化に追従することができ、ピンホールなどを形成することはない。また、応力集中も緩和されるため、ダイヤモンド被膜が剥離するほどの応力集中も起こらない。
【0031】
本実施形態では、このような理由に基づき、図2(a)に示すスパイラル溝に比べて、幅が広い断面U字型のラジアル溝45が摺接面31aに形成されている。図12はラジアル溝45の延びる方向に対して垂直な面に沿った断面図である。このラジアル溝45は、摺接部材31を成形するための型の形状として摺接部材31に転写可能な大きさであり、また、研削により成形可能な大きさである。図12に示すように、ラジアル溝45全体が緩やかな円弧を描くような形状をしており、ラジアル溝45と摺接面31aとの接続部も滑らかな曲面R1として形成されている。
【0032】
図13は図9(a)に示すC−C線断面図である。図13に示すように、摺接面31aの内周縁部および外周縁部は滑らかな曲面R2で形成されている。なお、回転側スラスト摺接部材30の摺接面の内周縁部および外周縁部も、同様に、滑らかな曲面で形成されている。図13に示す実施形態では、摺接面31aとは反対側の端面の内周縁部および外周縁部も曲面R2として形成されているが、摺接面31aの両周縁部のみを曲面で形成してもよい。
【0033】
本実施形態では、溝の幅Wは2mm程度、溝の深さDは0.2mm程度である。回転側摺接部材を型により成形する際の精度やその容易性を考慮すると、幅Wは2〜3.5mm、深さDは0.2〜0.25mmの範囲内であることが好ましい。
【0034】
このように、ダイヤモンドコーティングされる摺接面の全てを、平坦面を含む滑らかな面で構成したため、表面形状変化の大きな箇所が存在しない。よって、ダイヤモンド被膜にピンホールや露出箇所が形成されるのを抑制でき、また、応力集中を緩和することができる。結果として、超純水による摺接部材の腐食や、ダイヤモンド被膜の剥離が抑制され、スラスト滑り軸受の寿命が延びる。
【0035】
なお、本実施形態では、摺接面内の全ての表面形状変化箇所を曲面で構成したが、表面形状変化箇所が大きな鈍角であれば、これを曲面により構成しなくともよい。例えば、図14に示すように、表面形状変化箇所(角部)の外角が30度以下であれば、ピンホール形成の抑制および応力集中の緩和が可能である。しかしながら、表面形状変化箇所を曲面で形成すること、特に断面が円弧形状となるように表面形状変化箇所を形成することが最も好ましい。なお、本実施形態では、ラジアル溝を固定側スラスト摺接部材に形成したが、回転側スラスト摺接部材にラジアル溝を形成してもよく、または両方の摺接部材にラジアル溝を形成してもよい。ただし、ラジアル溝は固定側スラスト摺接部材または回転側スラスト摺接部材のどちらか一方のみに設けるのがより好ましい。また、ラジアル溝は半径方向と平行でなく、半径方向に対して傾きを持った形状でも構わなく、ラジアル溝の断面全体が緩やかに変化する形状をしており、ラジアル溝と摺接面との接続部も緩やかに変化する形状として形成されていればよい。
【0036】
このような、改善された表面形状を持つ摺接部材を被覆する材料としては、多結晶ダイヤモンドに限るものではなく、結晶体、特に多結晶体であって、硬くて脆い材質の被膜であれば同じような効果を発揮することが可能である。多結晶ダイヤモンドは特にそのような性質(多結晶で硬くて脆い)が顕著であるため特に効果が大きい。
【0037】
本実施形態では、軸受自体の片あたりの改善、および軸受の摺接面内の表面形状の改善の相乗効果により、スラスト滑り軸受の寿命を飛躍的に延ばすことができる。また、摺接面の表面形状が滑らかであるので、摺接面同士の接触圧力にも急激な変化がおきにくく、偏摩耗をより抑制することができる。
【0038】
上述の2つの改善(変形部材および被膜)はそれぞれを単独に用いても十分に効果のあるものである。例えば、変形部材(シート40,41)は、被膜のないスラスト滑り軸受にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。また、ダイヤモンド以外の材料による被膜を施したスラスト滑り軸受にも、変形部材を適用することができる。変形部材は、ダイヤモンドコーティングのように薄くて破損しやすい被膜の場合には、特に効果的である。なお、補助スラスト軸受23の摺接面についても、同様の形態でダイヤモンド被膜をコーティングしても良いし、変形部材を適用しても良い。
【0039】
本実施形態のスラスト滑り軸受は、図4に示すポンプのみならず、スラスト荷重を発生する他の回転機械にも適用することが可能である。
【0040】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】スラスト滑り軸受を模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)は固定側摺接部材を示す平面図であり、図2(b)は図2(a)のA-A線断面図である。
【図3】摺接面が傾いている状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスラスト軸受装置を備えた全周流型キャンドモータポンプの断面図である。
【図5】図4に示すスラスト軸受およびラジアル軸受を示す断面図である。
【図6】図5に示すB-B線断面図である。
【図7】シートを示す斜視図である。
【図8】図8(a)は摺接部材が傾いた状態で摺接面同士が接触している状態を示す模式図であり、図8(b)は摺接部材がスラスト荷重を受けている状態を示す模式図である。
【図9】図9(a)は固定側スラスト摺接部材の平面図であり、図9(b)は固定側スラスト摺接部材の縦断面図である。
【図10】従来の摺接部材に多結晶ダイヤモンドコーティングがなされた状態を示す図である。
【図11】滑らかな摺接面に多結晶ダイヤモンドコーティングがなされた状態を示す図である。
【図12】ラジアル溝の延びる方向に対して垂直な面に沿った断面図である。
【図13】図9(a)に示すC−C線断面図である。
【図14】外角が30度以下の表面形状変化箇所(角部)を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10 ポンプケーシング
11 キャンドモータ
12 軸
15 羽根車
20,21 ラジアル軸受
22 スラスト軸受
23 補助スラスト軸受
26 回転側ラジアル摺接部材
27 固定基台
28 固定側ラジアル摺接部材
30 回転側スラスト摺接部材
31 固定側スラスト摺接部材
33 回転基台
34,36 軸押さえリング
40,41 シート(変形部材)
45 ラジアル溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受であって、
摺接面を有する回転側摺接部材と、
摺接面を有する固定側摺接部材と、
前記回転側摺接部材の、前記摺接面とは反対側の端面に接する回転側変形部材と、
前記固定側摺接部材の、前記摺接面とは反対側の端面に接する固定側変形部材とを備えたことを特徴とするスラスト滑り軸受。
【請求項2】
前記回転側変形部材および前記固定側変形部材は、前記摺接面の摺接により塑性変形する材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
前記回転側変形部材および前記固定側変形部材は、フッ素樹脂またはポリエチレンから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受であって、
摺接面を有する回転側摺接部材と、
摺接面を有する固定側摺接部材とを備え、
前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面の少なくとも一方には、径方向に延びるラジアル溝が形成されており、
前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面は、結晶性材料で被覆されており、
前記回転側摺接部材および前記固定側摺接部材の摺接面内の表面形状変化箇所が曲面で構成されていることを特徴とするスラスト滑り軸受。
【請求項5】
軸方向の荷重を受けるスラスト滑り軸受であって、
摺接面を有する回転側摺接部材と、
摺接面を有する固定側摺接部材とを備え、
前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面の少なくとも一方には、径方向に延びるラジアル溝が形成されており、
前記回転側摺接部材の摺接面および前記固定側摺接部材の摺接面は、結晶性材料で被覆されており、
前記回転側摺接部材および前記固定側摺接部材の摺接面内の表面形状変化箇所の外角は30度以下であることを特徴とするスラスト滑り軸受。
【請求項6】
前記回転側摺接部材の、前記摺接面とは反対側の端面に接する回転側変形部材と、
前記固定側摺接部材の、前記摺接面とは反対側の端面に接する固定側変形部材とをさらに備えたことを特徴とする請求項4または5に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項7】
前記結晶性材料が多結晶ダイヤモンドであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項8】
ケーシングと、
前記ケーシングに収容される羽根車と、
前記羽根車と一体となって回転する軸と、
前記軸を回転させるモータと、
前記軸を回転自在に支持する複数の軸受とを備えるポンプであって、
前記複数の軸受の少なくとも一つは請求項1乃至7いずれか一項に記載のスラスト滑り軸受であることを特徴とするポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−151207(P2010−151207A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329093(P2008−329093)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】