説明

スラスト転がり軸受

【課題】転動体の磨耗や摩損を防止して充分な耐久寿命を維持確保することが可能なスラスト転がり軸受を提供する。
【解決手段】スラスト転がり軸受10は、互いに相対的に回転可能に対向配置された複数の軌道輪(例えば、内輪12及び外輪14)と、内外輪間に転動自在に配列された複数の転動体16と、隣り合う転動体の隙間にそれぞれ配置可能に構成された複数の間隔体18とを備えており、隣り合う転動体の隙間に間隔体をそれぞれ配置することにより、複数の転動体を互いに接触させること無く密集した状態で内外輪間に転動自在に配列させることができる。また、間隔体の厚さ寸法T1,T2は、隣り合う転動体の隙間寸法に整合するように設定することができるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォークリフトやトレーラなどの転舵装置(特にキングピン)に用いられるスラスト転がり軸受に関する。なお、スラスト転がり軸受としては、例えばスラスト玉軸受やスラストころ軸受などを想定することが可能である。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばフォークリフトやトレーラなどの転舵装置(特にキングピン)には、例えば特許文献1に示すようなスラスト転がり軸受が適用されている。このような転舵装置に用いられるスラスト転がり軸受には、そのコンパクト化と同時に大きな荷重に耐え得る設計を図ることが要求される。この要求に応えるためには、軸受の限られた軌道に対して少しでも多くの転動体を配設する必要があり、そのため、例えば特許文献1に示すような総転動体軸受タイプのスラスト転がり軸受が一般的に適用されていた。
【0003】
しかし、総転動体軸受タイプのスラスト転がり軸受では、その運転時に、隣り合う転動体同士が接触し合うため、長時間或いは長期間に亘って使用することにより、接触箇所が例えば線状に連続的又は断続的に磨耗或いは摩損する場合がある。このような場合、例えば転動体表面の剥離から転動体割れに至る場合も想定され、軸受としての充分な耐久寿命を維持確保することが困難になってしまう。
【特許文献1】特開2001−73967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、転動体の磨耗や摩損を防止して充分な耐久寿命を維持確保することが可能なスラスト転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明のスラスト転がり軸受は、互いに相対的に回転可能に対向配置された複数の軌道輪と、軌道輪間に転動自在に配列された複数の転動体と、隣り合う転動体の隙間にそれぞれ配置可能に構成された複数の間隔体とを備える。
このような発明において、隣り合う転動体の隙間に間隔体をそれぞれ配置させることにより、複数の転動体は互いに接触すること無く密集した状態で内外輪間に転動自在に配列される。
この場合、間隔体の厚さ寸法は、隣り合う転動体の隙間寸法に整合するように設定される。また、間隔体は、隣り合う転動体に対向する面が転動体の外面形状に対応した凹状の湾曲面を成している。更に、間隔体には、その湾曲面の中央部に潤滑剤を保持するための保持部が設けられている。なお、間隔体は、樹脂材料で形成することができる。
このようなスラスト転がり軸受を転蛇装置に組み込んだ場合において、転蛇装置には操舵輪を操舵可能に支持するキングピンが設けられており、スラスト玉軸受は、当該キングピンを回動自在に支持している。
【発明の効果】
【0006】
本発明のスラスト転がり軸受によれば、隣り合う転動体の隙間に間隔体を介在させたことにより、転動体の磨耗や摩損を防止して充分な耐久寿命を維持確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施の形態に係るスラスト転がり軸受について、添付図面を参照して説明する。
スラスト転がり軸受の使用態様としては、例えば図1に示すように、例えばフォークリフトやトレーラなどの転蛇装置に組み込まれて使用する場合を想定することができる。この場合、転蛇装置には、操舵輪2(車軸4を介して車体6に回転可能に接続されている)を操舵可能に支持するキングピン8が設けられており、スラスト転がり軸受10は、キングピン8をスラスト方向に保持しながら同時に回動自在に支持している。
なお、スラスト転がり軸受10としては、例えば単式或いは複式のスラスト玉軸受やスラストころ軸受などを想定することができるが、以下の説明では、その一例として単式のスラスト玉軸受を図示して説明する。
【0008】
図2に示すように、スラスト転がり軸受(スラスト玉軸受)10は、互いに相対的に回転可能に対向配置された複数の軌道輪(例えば、内輪12及び外輪14)と、内外輪間に転動自在に配列された複数の転動体(玉)16と、隣り合う玉16の隙間にそれぞれ配置可能に構成された複数の間隔体18とを備えている。
【0009】
スラスト玉軸受10は、その外周がカバー体20で被覆されていると共に、カバー体20には、内輪12及び外輪14の内径面12a及び14aと同心円状の開口20aが形成されており、例えばこの開口20aから内径面12a,14aを通してキングピン8などの各種の軸を挿入できるようになっている。また、内輪12の内径面12aにはリング状シール22が介在されていると共に、外輪14の外径面14bとカバー体20との間には環状シール24が設けられており、スラスト玉軸受10に封入された潤滑剤(例えば、グリースや油)が外部に漏洩したり、外部から異物(例えば、水や塵埃)が侵入するのを防止できるようになっている。
【0010】
内輪12及び外輪14、玉16の材料としては、例えばJIS G4805の高炭素クロム軸受鋼(SUJ-1からSUJ-5まで規定されている)を適用し、カバー体20の材料としては、例えば冷間圧延鋼板(SPCC)を適用することができる。また、リング状シール22としては、例えばニトリルゴム(NBR)を適用することができる。更に、環状シール24は、心金入りのゴム製であるため、心金を例えば鉄鋼(SECC)で形成すると共に、ゴム材料として例えばニトリルゴム(NBR)を適用することができる。なお、スラスト玉軸受10のサイズは、使用目的や使用環境に応じて設定されるため、ここでは特に限定しない。
【0011】
このようなスラスト玉軸受10によれば、図3(a)に示すように、隣り合う玉16の隙間に間隔体18をそれぞれ配置することにより、複数の玉16を互いに接触させること無く密集した状態で内外輪間に転動自在に配列させることができる。
複数の玉16を配列する場合、隣り合う玉16の隙間が全て同一寸法になるとは限らない。そこで、間隔体18の厚さ寸法は、隣り合う玉16の隙間寸法に整合するように設定することができるようになっている。即ち、異なる厚さ寸法の間隔体18を複数用意することにより、共通部品化を図っている。なお、図3(a)には、隣り合う玉16aの隙間が他の隙間よりも大きくなったため、その隙間に異なる厚さ寸法T1の間隔体18a(他の間隔体18の厚さ寸法T2よりも大きなもの:図3(c),(d))を配置した例が示されている。これにより複数の玉16は、間隔体18を介してガタつくこと無く密集した状態で配列する。
【0012】
また、図3(b)〜(e)に示すように、間隔体18は、隣り合う玉16に対向する面が玉16の外面形状に対応した凹状面26aを成しており、凹状面26aの中央部には、潤滑剤(図示しない)を保持するための保持部26bが設けられている。
この場合、凹状面26aは、ストレートに窪んだ円錐状の面(図3(c),(d))としても良いし、或いは、玉16の外面の曲率に合致するような湾曲して窪んだ円錐状の面(図3(e))としても良い。また、保持部26bは、図面上では貫通孔を例示しているが、貫通しない窪み穴であっても良い。
このような構成によれば、潤滑剤を保持部26bに保持することができるため、軸受組立時に部品同士の摩擦を少なくしてスムーズな組立作業を行うことが可能になると共に、軸受運転時の潤滑を常時良好な状態に維持することが可能となる。
【0013】
また、間隔体18の材料としては、例えば高炭素クロム軸受鋼を適用しても良いが、樹脂材料(ナイロン樹脂など)を適用することが好ましい。樹脂製の間隔体18は、その滑り性が優れたものとなり、耐摩耗性を高めることができるため、軸受運転時の回転トルクを低減させることが可能となる。
【0014】
以上、本実施の形態のスラスト転がり軸受(スラスト玉軸受)10によれば、隣り合う玉16の隙間に複数の間隔体18をそれぞれ配置したことにより、転動体(玉)16の磨耗や摩損を防止して充分な耐久寿命を維持確保することができる。
具体的に説明すると、例えば図4(a)に示すように、転動体16同士を互いに接触して配列する総転動体軸受では、その運転(矢印方向に転動体回転)時に、隣り合う転動体16同士が接触し合うため、長時間或いは長期間に亘って使用することにより、接触箇所が例えば線状に連続的又は断続的に磨耗或いは摩損する場合がある。このような場合、例えば転動体表面の剥離から転動体割れに至る場合も想定され、軸受としての充分な耐久寿命を維持確保することが困難になってしまう。
【0015】
これに対して、例えば図4(b)に示すように、隣り合う玉16の隙間に複数の間隔体18をそれぞれ配置して転動体16同士を互いに接触しないように構成すれば、その運転(矢印方向に転動体回転)時に、隣り合う転動体16同士が接触することが無いため、長時間或いは長期間に亘って使用しても、転動体16の磨耗や摩損そしてこれらに起因して生じる転動体割れといった問題は生じない。この結果、軸受としての充分な耐久寿命を維持確保することができる。この場合、転動体16と内外輪との間の摩擦は常時生じることになるが、この間の摩擦量は僅かな量であるため、耐久寿命に影響することは無い。
【0016】
更に、間隔体18に潤滑剤を保持するための保持部26bを設けたことにより、隣り合う転動体16間に潤滑剤を万遍無く行き渡らせることができるため、間隔体16の周囲並びに内輪12及び外輪14に対する転動体16の潤滑性を常時一定に維持することが可能となる。即ち、例えば図4(a)に示すような総転動体軸受では、その運転時に、隣り合う転動体16同士が接触し合うため、油膜形成不良による磨耗が進むといった問題が生じることになるが、本実施の形態のような構成(図4(a))にすることにより、かかる問題も生じない。
【0017】
ここで、スラスト玉軸受10の実機耐久試験を行った結果について、図5を参照して説明する。耐久試験では、本発明のスラスト玉軸受10と同一サイズで同一材質の軸受を2種類(従来品、玉に特殊熱処理を施した特殊熱処理品)用意し、揺動往復回数を連続的に上昇させた。
図5から明らかなように、従来品は約4万サイクルで破損し、特殊熱処理品は約7万サイクルで破損したが、本製品は10万サイクルを超えても継続使用が可能な状態に維持された。
【0018】
なお、本発明は上述した実施の形態の構成に限定されることは無く、以下のように変更することが可能である。例えば、スラスト玉軸受10の構成は、図2に示すような構成に限定されることは無く、例えばカバー体20やリング状シール22及び環状シール24の無い軸受にも本発明の技術思想を適用することができることは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスラスト転がり軸受が組み込まれた転蛇装置の構成例を示す断面図。
【図2】本発明の一実施の形態に係るスラスト転がり軸受の構成を示す断面図。
【図3】(a)は、隣り合う転動体の隙間に間隔体をそれぞれ配置した構成例を示す図、(b)は、間隔体の側面図、(c)は、同図(b)の間隔体のc−c線に沿う断面図、(d)は、異なる厚さ寸法の間隔体が配置された構成例を示す断面図、(e)は、本発明の変形例に係る間隔体の構成を示す断面図。
【図4】(a)は、総転動体軸受タイプの転動体の配列構成図、(b)は、本発明の軸受の転動体の配列構成図。
【図5】軸受仕様と破損寿命についての実機耐久試験の結果を示す図。
【符号の説明】
【0020】
10 スラスト転がり軸受
12 内輪
14 外輪
16 転動体
18 間隔体
T1,T2 間隔体の厚さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対的に回転可能に対向配置された複数の軌道輪と、軌道輪間に転動自在に配列された複数の転動体と、隣り合う転動体の隙間にそれぞれ配置可能に構成された複数の間隔体とを備えていることを特徴とするスラスト転がり軸受。
【請求項2】
隣り合う転動体の隙間に間隔体をそれぞれ配置させることにより、複数の転動体は互いに接触すること無く密集した状態で内外輪間に転動自在に配列されることを特徴とする請求項1に記載のスラスト転がり軸受。
【請求項3】
間隔体の厚さ寸法は、隣り合う転動体の隙間寸法に整合するように設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラスト転がり軸受。
【請求項4】
間隔体は、隣り合う転動体に対向する面が転動体の外面形状に対応した凹状面を成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスラスト転がり軸受。
【請求項5】
間隔体は、樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスラスト転がり軸受。
【請求項6】
間隔体には、その凹状面の中央部に潤滑剤を保持するための保持部が設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のスラスト転がり軸受。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のスラスト転がり軸受が組み込まれた転蛇装置であり、
転蛇装置には、操舵輪を操舵可能に支持するキングピンが設けられており、スラスト玉軸受は、当該キングピンを回動自在に支持していることを特徴とする転舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−77914(P2006−77914A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263848(P2004−263848)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】