説明

スラスト軸受の給油装置およびこれを備えた排気タービン過給機

【課題】エンジン始動時やエンジン低負荷時等の低速時など、回転軸の回転数が小さい場合であっても、軸受損失を低減することができるスラスト軸受の給油装置を提供することを目的とする。
【解決手段】回転軸3に設けられ、該回転軸3と一体となって回転する円板状のスラストカラー4と、該スラストカラー4と対向し、回転軸3の軸方向に作用するスラスト力を回転可能に支持するスラスト軸受5との摺接面18に潤滑油を供給するスラスト軸受5の給油装置6において、回転軸3の回転数を検知するセンサ15と、該センサ15により検知した回転軸3の回転数に基づいて、スラスト軸受5に供給される潤滑油の温度を制御する温度調整手段9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機等の高速回転体の回転軸における軸受損失を低減することができるスラスト軸受の給油装置およびこれを備えた排気タービン過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、過給機等の高速回転体の回転軸においては、高速の定格負荷条件でのスラスト力が非常に大きくなるため、スラスト軸受を大きく設計することが不可欠である。一方で、エンジン始動時やエンジン低負荷時等の回転軸の回転数が小さくなる条件下ではスラスト力が小さくなるため、スラスト力の最大負荷に適合させて設計されたスラスト軸受は、その大きさのために軸受損失が大きくなり、結果として過給機全体の性能に与える影響が大きくなるという問題があった。
【0003】
このような、エンジン始動時やエンジン低負荷時等の軸受損失を低減するために、スラスト軸受に潤滑油を供給することが知られている。一般に、油の粘度は油温により大幅に変化し、油温が低い場合には粘度が高くなり、油温が高い場合には粘度は低くなる。スラスト軸受に潤滑油を温度調節せずにそのまま供給した場合には、エンジン始動時やエンジン低負荷時等には、温度が低く粘度の高い潤滑油が供給されることになるため、軸受損失が増大し、過給機全体の負荷が大きくなるという問題があった。
このような問題を解消するため、潤滑油の油温をあげて粘度を小さく保ち、軸受損失を低減することができるスラスト軸受の給油装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、軸受回転時に発生する遠心力により、軸受内部に吸い込まれる油量に見合う適正量の潤滑油を給油させることで軸受損失を低減することができるスラスト軸受の給油装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−124029号公報
【特許文献2】特開2009−19600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、排気ガスからの熱により熱せられた潤滑油が軸受に供給されるので、回転数が大きい場合には、必要以上の高温の潤滑油が供給されて軸受が耐熱温度以上になってしまう場合があり、かえって軸受損失を増大させてしまう可能性があった。
また、軸受の耐熱温度以上に高温となった場合には、油の温度に応じて弁を作動させ、熱せられていない潤滑油を軸受に供給されるようになっているものの、回転軸の回転数に応じた適切な温度調整ができないという問題があった。
【0007】
また、特許文献2では、適正量の潤滑油を軸受に給油することができるものの、回転数が小さくスラスト軸受にかかる荷重が小さい場合には、スラスト軸受との摺接面が大きくなるため軸受損失が大きくなり、結果として軸受損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、回転軸の回転数に基づいて、スラスト軸受に供給される潤滑油の温度を制御し、回転数が小さい低速時であっても、軸受損失を低減することができるスラスト軸受の給油装置およびこれを備えた排気タービン過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のスラスト軸受の給油装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるスラスト軸受部の給油装置は、回転軸に設けられ、該回転軸と一体となって回転する円板状のスラストカラーと、該スラストカラーと対向し、前記回転軸の軸方向に作用するスラスト力を回転可能に支持するスラスト軸受との摺接面に潤滑油を供給するスラスト軸受の給油装置において、前記回転軸の回転数を検知するセンサと、該センサにより検知した前記回転軸の回転数に基づいて、前記スラスト軸受に供給される前記潤滑油の温度を制御する温度調整手段と、を備えていることを特徴とするスラスト軸受の給油装置である。
【0010】
本発明にかかるスラスト軸受の給油装置によれば、センサが検知した回転軸の回転数に基づいてスラスト軸受に供給される潤滑油の温度が制御されるので、例えば、エンジン始動時やエンジン低負荷時等の低速時であっても、温度調整手段によりスラスト軸受に供給される潤滑油の温度を上げて潤滑油の粘度を適正値まで下げることができる。したがって、軸受の摺動損失を低減させながら、スラスト軸受を確実に潤滑することができる。
【0011】
また、本発明にかかるスラスト軸受の給油装置は、前記温度調整手段が、前記潤滑油を貯留するヘッドタンクの側面に配設されているオイルヒータを備えていることとしてもよい。
【0012】
本発明によれば、オイルヒータが潤滑油を貯留するヘッドタンクの側面に配設されているので、検知した回転軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を制御することができる。このようにすることで、低速回転時には、オイルヒータによりヘッドタンク内の潤滑油温度を調整し、スラスト軸受に供給される潤滑油の温度を上げることで潤滑油の粘度を適正に保つことができる。この結果、軸受の摺動損失を低減させることができる。また、高速回転時にはヒータを切ることにより、摺動時にスラスト軸受が耐熱温度以上にならないよう調整することができる。
【0013】
また、本発明にかかるスラスト軸受の給油装置は、前記温度調整手段が、潤滑油流路に配設されているオイルヒータを備えていることとしてもよい。
【0014】
本発明によれば、オイルヒータが潤滑油流路に配設されているので、検知した回転軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を制御することができる。このようにすることで、低速回転時には、オイルヒータにより潤滑油流路内を流れる潤滑油温度を調整し、スラスト軸受に供給される潤滑油の温度を上げることで潤滑油の粘度を適正に保つことができる。この結果、軸受の摺動損失を低減させることができる。また、高速回転時にはヒータを切ることにより、摺動時のスラスト軸受が耐熱温度以上にならないよう制御することができる。
さらに、本発明によれば、オイルヒータを潤滑油流路に配設することとしたので、ヘッドタンクに配設する場合に比べて、オイルヒータの設置面積を小さくすることができる。
【0015】
また、本発明にかかるスラスト軸受の給油装置は、前記温度調整手段が、前記スラスト軸受を潤滑した後の潤滑油を該スラスト軸受へ再循環させる再循環流路と、該再循環流路を流れる潤滑油の流量を制御する再循環流量制御バルブと、を備えていることとしてもよい。
【0016】
本発明によれば、スラスト軸受を潤滑した後の潤滑油を該スラスト軸受へ再循環させる再循環流路と、該再循環流路を流れる潤滑油の流量を制御する再循環流量制御バルブとを備えているので、循環する潤滑油から得られた排熱を温度調整機構の熱源とすることができる。
センサにより回転軸が低速回転であることが検知された場合には、再循環流量制御バルブを開くことで、加熱された潤滑油がヘッドタンクを介してスラスト軸受けに供給することができる。この結果、スラスト軸受の摺動損失を低減させることができる。
また回転軸が低速回転であることが検知された場合には、再循環流量制御バルブを閉じ、潤滑油が給油タンクに送られる。潤滑油は給油タンクに貯留されている間に十分に冷やされるので、スラスト軸受には、十分に冷却された潤滑油を供給することができる。
【0017】
本発明にかかるスラスト軸受の給油装置は、上記いずれかのスラスト軸受の給油装置において、前記スラスト軸受が、前記スラストカラーに摺接する領域が複数の分割領域に分割され、スラスト力が所定値未満のときには一部の前記分割領域のみが前記スラストカラーに摺接し、スラスト力が所定値以上のときには前記一部の前記分割領域に加えて他部の前記分割領域が前記スラストカラーに摺接することとしてもよい。
【0018】
本発明によれば、スラスト軸受にかかるスラスト力が所定値未満の場合には、スラスト軸受の一部の分割領域のみがスラストカラーに摺接するので、回転軸の回転数が小さい場合であっても、スラスト軸受の摺動損失を低減させることができる。また、スラスト軸受にかかるスラスト力が所定値以上の時には、一部の分割領域に加えて他部の分割領域がスラストカラーに摺接するので、回転軸が高速回転する場合にはスラスト軸受のスラスト面積が増加し、スラスト軸受にかかる負荷能力を維持しつつ軸受損失を低減することができる。
具体的には、スラスト軸受の分割領域を内周側と外周側に分け、内周側スラスト軸受を弾性部材によって付勢しておき、内周側スラスト軸受を外周側スラスト軸受よりもスラストカラー側に位置させておく。これにより、スラスト力が所定値未満の場合には内周側スラスト軸受のみがスラストカラーに摺接する。そして、スラスト力が所定値以上のときには、スラスト力が弾性部材の弾性力に打ち勝って内周側スラスト軸受を押圧し、最終的にはスラストカラーが外周側スラスト軸受にも摺接するようになる。
【0019】
さらに、本発明にかかる排気タービン過給機は、上記いずれかに記載のスラスト軸受の給油装置を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、上記のようなスラスト軸受の給油装置を備えているので、特に、エンジン始動時やエンジン低負荷時等の低速時であっても、過給機性能が高い排気タービン過給機を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスラスト軸受の給油装置によれば、エンジン始動時やエンジン低負荷時等の低速時など、回転軸の回転数が小さい場合であっても粘度の高い潤滑油がスラスト軸受の摺接面に供給されるので、軸受損失を低減することができ、過給機性能を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機を示した図であり、(a)は、過給機の縦断面図、(b)は、その要部断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機の縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機の縦断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機の縦断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る内側軸受を示した縦断面図である。
【図6】図5のII−II線断面図である。
【図7】スラスト軸受を支持すべき回転軸の部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係るスラスト軸受の給油装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した排気タービン過給機(以下、単に「過給機」という。)1を示した図であり、(a)は、図1に示す過給機1の断面図、(b)は、その要部断面図である。
図1に示すように、過給機1のハウジング2内には、軸方向のスラスト力を受けるスラスト軸受5が設けられている。回転軸3には、円板状のスラストカラー4が設けられており、このスラストカラー4とスラスト軸受5とが摺接する。
【0024】
過給機1は、例えば図示しない船用ディーゼル機関に装着されて、船用ディーゼル機関を構成するシリンダライナ(図示せず)の内部と連通する給気マニホールド(図示せず)に、圧縮された空気を供給する船用排気タービン過給機である。この過給機1は、エンジンの排気を導いてタービンを回転させ、得られた回転力でコンプレッサを回転させて空気を加圧圧縮し、より給気圧の高い混合気をエンジンに供給する。
【0025】
過給機1は、スラスト軸受5に潤滑油を供給する給油装置6を備えている。この給油装置6は、図1(a)に示すように、回転軸3の上方に設けられ、潤滑油を一時的に貯留するヘッドタンク7と、ヘッドタンク7の底部とスラスト軸受5との間にハウジング2を貫通するように設けられ、スラスト軸受5に潤滑油を供給する第1潤滑油流路11と、スラスト軸受5を潤滑した潤滑油を給油タンク8にまで導く第2潤滑油流路12と、第2潤滑油流路12に配設され、給油タンク8内に潤滑油を汲み上げるポンプ10と、給油タンク8からスラスト軸受5にまで延びる第3潤滑油流路13とを備えている。
【0026】
スラスト軸受5とスラストカラー4との摺接面18には、その間の回転摺動を滑らかにするために、給油装置6により潤滑油が供給されるようになっている。ヘッドタンク7に貯留されている潤滑油は、ヘッドタンク7から第1潤滑油流路11を介して供給される。
また、ヘッドタンク7の側面にはその内部に貯留される潤滑油の温度を制御するオイルヒータ(温度調整手段)9が配設されている。オイルヒータ9としては、電気ヒータが好適に用いられる。
【0027】
スラスト軸受5を潤滑した潤滑油は、第2潤滑油流路12に配設されたポンプ10により汲み上げられ、給油タンク8へと導かれる。その後潤滑油は、回転軸3の上方に設けられ、潤滑油を一時的に貯留するヘッドタンク7に第3潤滑油流路13を通じて導かれる。
このようにして、潤滑油は給油装置6内を循環することとなる。
【0028】
また、この給油装置6は、回転軸3の回転数を検知するセンサ15が備えられており、センサ15により回転軸3の回転数が検知されると、制御部は、その回転数に基づいて、ヘッドタンク7内の潤滑油を適正な温度にするようオイルヒータ9への通電を調整することにより、潤滑油の温度を制御する。
例えば、回転軸3の回転数が所定の基準値以下であることが検知された場合には、オイルヒータ9への通電が開始され、ヘッドタンク7内の潤滑油の温度を上げるよう制御される。
一般に潤滑油は、温度が上がるとその粘度は下がるので、回転軸3が低速である場合には、スラスト軸受5の摺接面18には、粘度の低い潤滑油が供給されることとなる。このため、スラスト軸受5を確実に潤滑でき、軸受損失(摺動損失)を低減させ、過給圧力の低下を防ぐことができる。
【0029】
回転軸3の回転数が所定の基準値以上であることが検知された場合には、オイルヒータ9のスイッチを切り通電を停止し、ヘッドタンク7内の潤滑油の温度がこれ以上、上がらないように制御される。このため、摺接時においてスラスト軸受5が耐熱温度以上にならないよう調整することができる。
【0030】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機1の断面図である。
なお、この第2実施形態においては第1実施形態に比べて特徴的な部分のみを説明し、第1実施形態と構造が同じ部分には、第1実施形態における符号と同じ符号を付してあり、それらについて重複する説明は省略する。
【0031】
第2実施形態の給油装置6では、図2に示すように、オイルヒータ9は第3潤滑油流路13に配設されている。
第1実施形態と同様、第2実施形態の給油装置6においても、センサ15により回転軸3の回転数が検知されると、その回転数に基づいて潤滑油を適正な温度にするようにオイルヒータ9への通電が調整され、第3潤滑油流路13内を流れる潤滑油の温度が制御されるようになっている。
【0032】
本実施形態では、オイルヒータ9を第3潤滑油流路13に配設することとしたので、ヘッドタンク7に配設する第1実施形態に比べて、オイルヒータ9の設置面積を小さくすることができる。
その他の作用効果については第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0033】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態について、図3を用いて説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機1の断面図である。
なお、この第3実施形態においても、第1実施形態に比べて特徴的な部分のみを説明し、第1実施形態と構造が同じ部分には、第1実施形態における符号と同じ符号を付してあり、それらについて重複する説明は省略する。
【0034】
図3に示すように、第3実施形態の給油装置6には、スラスト軸受5を潤滑した後の潤滑油を該スラスト軸受5へ再循環させる再循環流路14と、この再循環流路14を流れる潤滑油の流量を制御する再循環流量制御バルブ16とが備えられている。また、給油タンク8とヘッドタンク7を接続する第3潤滑油流路13には、潤滑油流量制御バルブ17が備えられている。
【0035】
スラスト軸受5を潤滑した後の潤滑油は、第2潤滑油流路12を流下する途中で分岐する再循環流路14に流入するようになっている。この再循環流路14には潤滑油を汲み上げるポンプ10と、再循環流路14を流れる潤滑油の流量を制御する再循環流量制御バルブ16とが備えられている。
【0036】
スラスト軸受5を経由した潤滑油は、その循環過程において、排気ガスから得られた熱を熱源として加熱される。
センサ15により回転軸3が低速であることが検知された場合には、再循環流量制御バルブ16が開かれ、加熱された潤滑油が直接ヘッドタンク7に送られる。そして、この加熱された潤滑油は、第1潤滑油流路11を経由してスラスト軸受5に供給されるようになっている。
【0037】
センサ15により回転軸3が高速であることが検知された場合には再循環流量制御バルブ16が閉じられ、潤滑油が第2潤滑油流路12を経由して給油タンク8に送られる。潤滑油は給油タンク8に貯留されている間に十分に冷やされる。そして、第3潤滑油流路13に配設された潤滑油流量制御バルブ17が開けられ、十分に冷却された潤滑油がヘッドタンク7に送られた後、第1潤滑油流路11を経由してスラスト軸受5に供給されるようになっている。
【0038】
このように、回転軸3の回転数が所定の基準値以下である場合には、スラスト軸受5の摺接面18には、加熱されて粘度が低くなった潤滑油が供給されることとなる。このため、スラスト軸受5を確実に潤滑でき、軸受損失(摺動損失)を低減させ、過給圧力の低下を防ぐことができる。また、回転軸3の回転数が所定の基準値以上である場合には、スラスト軸受5の摺接面18には、十分冷却された潤滑油が供給されることとなるので、摺接時においてスラスト軸受5が耐熱温度以上にならないようにすることができる。
【0039】
〔第4実施形態〕
以下、本発明の第4実施形態について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の第4実施形態に係るスラスト軸受の給油装置を具備した過給機1の断面図である。
なお、この第4実施形態においては、前述した実施形態に比べて特徴的な部分のみを説明し、これらと構造が同じ部分には、前述の実施形態における符号と同じ符号を付してあり、それらについて重複する説明は省略する。
【0040】
第4実施形態の給油装置6は、図4に示すように、ヘッドタンク7の側面に潤滑油を加熱するためのオイルヒータ9が配設され、さらに、スラスト軸受5を潤滑した後の潤滑油をスラスト軸受5へ再循環させる再循環流路14と、この再循環流路14を流れる潤滑油の流量を制御する再循環流量制御バルブ16とが備えられた構成となっている。
【0041】
第4実施形態においては、回転軸3の回転数が所定の基準値以下であることが検知された場合には、オイルヒータ9と再循環流量制御バルブ16に指令信号が送られ、オイルヒータ9により、ヘッドタンク7内の潤滑油の温度を上げるよう制御されるのに加え、再循環流量制御バルブ16が開かれ、加熱された潤滑油が直接ヘッドタンク7に送られるようになっている。そして、この加熱された潤滑油は、第1潤滑油流路11を経由してスラスト軸受5に供給されるようになっている。
このため、潤滑油は、オイルヒータ9および排気ガスから得られた熱を熱源として加熱されるため、さらに効率よく潤滑油を加温することができる。
【0042】
なお、本実施形態においては、オイルヒータ9をヘッドタンク7の側面に配設するものについて説明したが、必要に応じて第3潤滑油流路13に配設される(第2実施形態の図2参照)こととしてもかまわないし、ヘッドタンク7の側面と第3潤滑油流路13の両方に配設したものも同様に適用できる。
【0043】
〔第5実施形態〕
以下、本発明の第5実施形態に係るスラスト軸受5の要部を図5〜図7に示す。
図5は、本発明の第5実施形態に係る内側軸受19を示した断面図であり、図6は、図5のII−II線断面図である。また、図7は、スラスト軸受5を支持すべき回転軸3の部分拡大縦断面図である。
図5に示すように、軸方向のスラスト力を受けるスラスト軸受5が設けられている。また、回転軸3には、円板状のスラストカラー4が設けられており、このスラストカラー4とスラスト軸受5とが摺接する。
【0044】
スラスト軸受5は、図5に示すように、スラスト軸受5の分割領域が内周側の内側軸受19と外周側の外側軸受20とに分けられている。
内側軸受19は、例えばばね等の弾性部材23によって付勢させて、外側軸受20よりもスラストカラー4側に位置されるように配置されている。
【0045】
内側軸受19は、図6に示すように、回転軸3の周方向に沿ってスラストカラー4に摺接する領域において、複数の内周パッド21が形成されている。これら内周パッド21は周方向に等間隔で離間して設けられている。また、各内周パッド21の表面には、テーパ部24とフラット部25が設けられている。そして、隣り合う内周パッド21とテーパ部24との間には潤滑油を供給するための給油路26と、供給された潤滑油を、スラスト軸受5とスラストカラー4との摺接面18に導く給油溝27が設けられている。
【0046】
図7に示すように、テーパ部24は、給油路26よりもスラストカラー4の回転方向前方に設けられ、スラストカラー4の側面との間隔がスラストカラー4の回転方向に向かうに従い漸次小さくなるように形成されている。また、フラット部25は、テーパ部24をスラストカラー4の回転方向に登り切った先にあってスラストカラー4の側面と僅かに離間して平行に相対するように形成されている。
【0047】
このように構成されたスラスト軸受5においては、給油路26を通じて空間に供給された潤滑油は、回転軸3と一体となって回転するスラストカラー4に引っ張られるようにして同方向への流れを生じる。流れを生じた潤滑油は、スラストカラー4とテーパ部24との間隔が漸次狭くなることで自らの圧を高め、スラストカラー4に対して回転軸3の軸方向に推力を発生させるようになっている。このようなスラスト軸受5では、この推力を利用して、スラストカラー4をスラスト軸受5から僅かに離間させ、大きな摩擦を生むことなく回転軸3に作用する荷重を受けるしくみになっている。
【0048】
第5実施形態に係るスラスト軸受5においては、回転軸3の回転数が小さい場合には、スラストカラー4を回転軸3方向に押推するスラスト力が小さいため、内側軸受19の内周パッド21のみが前記スラストカラー4に摺接する。
回転軸3の回転数が大きい場合にはスラスト力が大きくなることにより弾性部材23の弾性力に打ち勝って内側軸受19を押圧し、内側軸受19の内周パッド21に加えて外側軸受20の外周パッド22が前記スラストカラー4に摺接するようになっている。
【0049】
このように、第5実施形態によれば、スラスト軸受5にかかるスラスト力が所定値未満の場合には、スラスト軸受5の一部の内周パッド21のみがスラストカラー4に摺接するので、回転軸3の回転数が小さい低速時のスラスト軸受5の摺動損失を低減させることができる。また、スラスト軸受5にかかるスラスト力が所定値以上となる高速時には、内側軸受19の内周パッド21に加えて外側軸受20の外周パッド22がスラストカラー4に摺接するので、スラスト軸受5のスラスト面積が増加し、スラスト軸受5にかかる負荷能力を維持しつつ軸受損失を低減することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、分割領域を内周側と外周側の2領域としたが、3領域以上としても良い。
【符号の説明】
【0051】
2 ハウジング
3 回転軸
4 スラストカラー
5 スラスト軸受
6 給油装置
7 ヘッドタンク
8 給油タンク
9 オイルヒータ(温度調整手段)
14 再循環流路
15 センサ
16 再循環流量制御バルブ
18 摺接面
19 内側軸受
20 外側軸受
21 内周パッド
23 弾性部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられ、該回転軸と一体となって回転する円板状のスラストカラーと、該スラストカラーと対向し、前記回転軸の軸方向に作用するスラスト力を回転可能に支持するスラスト軸受との摺接面に潤滑油を供給するスラスト軸受の給油装置において、
前記回転軸の回転数を検知するセンサと、
該センサにより検知した前記回転軸の回転数に基づいて、前記スラスト軸受に供給される前記潤滑油の温度を制御する温度調整手段と、
を備えていることを特徴とするスラスト軸受の給油装置。
【請求項2】
前記温度調整手段は、前記潤滑油を貯留するヘッドタンクの側面に配設されているオイルヒータを備えていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト軸受の給油装置。
【請求項3】
前記温度調整手段は、潤滑油流路に配設されているオイルヒータを備えていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト軸受の給油装置。
【請求項4】
前記温度調整手段は、前記スラスト軸受を潤滑した後の潤滑油を該スラスト軸受へ再循環させる再循環流路と、該再循環流路を流れる潤滑油の流量を制御する再循環流量制御バルブと、を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスラスト軸受の給油装置。
【請求項5】
前記スラスト軸受は、前記スラストカラーに摺接する領域が複数の分割領域に分割され、
スラスト力が所定値未満のときには一部の前記分割領域のみが前記スラストカラーに摺接し、スラスト力が所定値以上のときには前記一部の前記分割領域に加えて他部の前記分割領域が前記スラストカラーに摺接することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のスラスト軸受の給油装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のスラスト軸受の給油装置を備えていることを特徴とする排気タービン過給機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−122557(P2011−122557A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282943(P2009−282943)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】