説明

スルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法およびその用途

【課題】高い触媒活性を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体を提供し、それにより固定床流通式反応方式に適用可能とする。
【解決手段】粉状炭化物と有機結着剤との混合物を成型、硬化して得られた炭化物成型体をスルホン化処理することにより、高いスルホン酸基含有量と高い固体酸触媒活性を有するスルホン酸基含有炭素質材料成型体を得ることができる。また、当該成型体を用いてオレフィンの水和、エーテル化・エステル化、カルボン酸とアルコールのエステル化、エステルの加水分解、ヒドロペルオキシドの酸分解などの各種反応を固定床流通式反応方式で行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸は様々な化学反応に広く用いられている重要な触媒である。しかし一般的に大量に必要とすること、装置の腐食の問題があること、さらには反応後の生成物からの硫酸触媒の分離、回収、精製、再利用の工程など煩雑な工程が必要であること、或いは生成物中に残留する硫酸の中和、およびそれにより生成する塩の除去および廃棄、排水処理などの工程を必要とすること、さらにこれら工程では多くのエネルギーを要することなど多くの問題がある。
固体酸触媒は、硫酸等の鉱酸触媒の代替として利用することにより、装置の腐食がなく、上記の反応後の種々の工程が省略もしくは大幅に簡略化されることから、各種化学反応に対する触媒として有用であり、様々な固体酸が開発されている。代表的な固体酸としては、シリカ・アルミナ、結晶性アルミノ珪酸塩(ゼオライト)、ヘテロポリ酸などの無機化合物がある。
【0003】
一方、オレフィンの水和反応はアルコール類やケトン類の製造のために工業的に重要な反応であり、この反応には酸触媒が使用される。イソプロピルアルコール又は2−ブタノールは、プロピレンまたはn−ブテンの水和を利用した各種方法によって製造される(非特許文献1、非特許文献2)。水和反応工程の多くのプロセスでは硫酸を触媒として使用しているが、前記の問題点の他に副生物が多い問題もあり、これらの問題を解消する目的で、固体酸触媒も一部使用されている。この場合、前記した無機固体酸触媒は一般には水の存在下には活性が低下することから使用されず、無機担体にリン酸を担持した触媒等が使用されるが、反応中にリン酸が担体上から脱離する問題がある。さらに架橋ポリスチレン骨格上にスルホン酸基を有するポリマーである強酸型イオン交換樹脂も使用されるが、耐熱性が低い、高価である等の問題から使用範囲が限定されている。耐熱性を有するフッ素置換オレフィンポリマーをベースとする固体超強酸「ナフィオン」(デュポン社登録商標)なども開発されているが、工業用途に利用するには高価に過ぎる。
【0004】
そうした中、芳香族化合物や糖類といった有機物を比較的低温で炭化処理およびスルホン化処理して得られるスルホン酸基を含有する炭素質材料が開発され、触媒として種々の化学反応に高活性であること、耐熱性に優れること、低コストであること等から最近注目を集めており、脂肪酸のエステル化反応、エステルの加水分解反応、アルキル化反応、オレフィンの水和反応等の触媒としての評価が試みられている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
ところで前述の先行公開技術において得られるスルホン酸基含有炭素質材料は粉末状或いは粒状である。また前記公開技術においては、スルホン酸基含有炭素質材料は全て粉状或いは粒状の状態で反応触媒として用いられており、反応方式も攪拌型回分式反応器を用い、粉末状のスルホン酸基含有炭素質材料を懸濁させて使用している。しかしながら化学プロセスで多く採用されている、固定触媒層を用いた流通式反応方式に応用しようとした場合は、前記粉状或いは粒状のスルホン酸基含有炭素質材料は適用できない。これら粉状のスルホン酸基含有炭素質材料に関しては、それをプロトン伝導材料として応用するために加圧成型した試みは存在するが、固体酸触媒として用いるために成型し、固定触媒層を用いた流通式反応方式に適用しようとした試みはなされていないことから、工業的に応用可能な酸量と機械強度および表面積を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体触媒の開発が望まれている。
【非特許文献1】触媒, 18(6),180(1976)
【非特許文献2】石油学会誌, 34(3), 201(1991)
【非特許文献3】堂免他,「カーボン系固体強酸の合成条件と触媒作用」,日本化学会第85回春季年会(2005),2B5-43
【非特許文献4】Hara,M. et al. Nature,438(10),178,November (2005)
【非特許文献5】原他,PETROTECH,29(6),411(2006)
【特許文献1】特開2004-238311号公報
【特許文献2】国際公開WO 2005/029508 A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、オレフィン水和反応等の各種酸触媒反応に対して高活性を有しかつ、固定床流通式触媒反応に応用可能な、十分な機械強度と表面積を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体の製造方法およびそれにより得られた成型体触媒の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来技術の問題点に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、炭化物成型体をスルホン化処理することにより、表面積が大きく耐摩耗性や圧縮強度などの機械的特性に優れ、且つ応用上充分な量の酸量と酸強度を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一は炭化物成型体をスルホン化処理することを特徴とするスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
また、本発明の第二は炭化物成型体が粉状炭化物を成型したものであることを特徴とする本発明の第一に記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第三は炭化物成型体が、粉状炭化物と結着剤との混合物を成型し、続いて硬化して得られたものであることを特徴とする本発明の第二に記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第四は粉状炭化物100重量部に対する結着剤の量が3〜50重量部であることを特徴とする本発明の第三に記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第五は粉状炭化物が有機物を300~600℃の範囲で炭化して得られたものであることを特徴とする本発明の第二〜第四のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第六はスルホン化処理温度が40〜250℃であることを特徴とする本発明の第一〜第五のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第七は得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体が0.3mmol/g以上のスルホン酸基を含有することを特徴とする本発明の第一〜第六のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第八は得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の圧縮強度が1N/mm以上であることを特徴とする本発明の第一〜第七のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第九は得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体が20m2/g以上の比表面積を有する、本発明の第一〜第八のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法である。
本発明の第十は本発明の第一〜第九のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、オレフィンの水和反応を行なうことを特徴とするオレフィン水和生成物の製造方法である。
本発明の第十一は本発明の第一〜第九のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、オレフィンをエーテル化反応させることを特徴とするエーテル類の製造方法である。
本発明の第十二は本発明の第一〜第九のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、カルボン酸とアルコールとをエステル化反応させることを特徴とするエステル類の製造方法である。
本発明の第十三は本発明の第一〜第九のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、カルボン酸とオレフィンとをエステル化反応することを特徴とするエステル類の製造方法である。
本発明の第十四は本発明の第一〜第九のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、エステル結合を含有する有機化合物の加水分解反応を行うことを特徴とする、アルコールの製造方法である。
本発明の第十五は本発明の第十に記載の製造方法により得られたオレフィン水和物の脱水素反応を行うことを特徴とするケトン類の製造方法である。
本発明の第十六はオレフィン水和物が2-ブタノールであり、脱水素反応により得られたケトンがメチルエチルケトンである、本発明の第十五に記載のケトン類の製造方法である。
本発明の第十七は本発明の第一〜第九のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下で行うことを特徴とするアラルキルヒドロペルオキシドの酸分解反応によるフェノール類の製造方法である。
本発明の第十八はアラルキルヒドロペルオキシドがクメンヒドロペルオキシドであり、酸分解反応で製造されるものがフェノール及びアセトンであるところの本発明の第十七に記載のアラルキルヒドロペルオキシドの酸分解反応によるフェノール類の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法で得られたスルホン酸基含有炭素質材料の成型体は応用上充分な酸量と機械的な強度、それに表面積を有する。したがって化学工業で広く用いられている固定床流通式反応方式に応用してオレフィンの水和反応、オレフィンのアルコールによるエーテル化反応、エステルやエーテルの加水分解反応、アルコールまたはオレフィンとカルボン酸とのエステル化反応、アラルキルヒドロペルオキシドの酸分解反応、パラフィンのオレフィンによるアルキル化反応、オレフィンの二量化反応等、化学工業的に重要な各種の固体酸触媒反応を効率良く経済的に行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法は、予め炭化物成型体を製造しそれをスルホン化処理してスルホン酸基を導入する方法である。炭化物成型体を得る方法としては、粉状の炭化物を製造しそれに結着剤を混ぜて成型した後に硬化して得る方法、粉状の炭化物を直接圧縮成型して得る方法などが有るが、粉状の炭化物に結着剤を混合して成型し、それを硬化する方法が好ましい。
【0011】
(粉状炭化物の製造)
本発明のスルホン酸基含有炭素質材料成型体を製造するための粉状炭化物の製造は、スルホン酸基含有炭素質材料を製造する際に用いられている、従来知られている方法で行うことが出来る。すなわち出発原料である有機合成化合物あるいは天然有機化合物を炭化処理し、必要に応じて粉砕することにより得られる。
(炭化処理のための原料について)
炭化処理のための原料は、炭化が可能な有機物であればいずれも適用可能である。例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレン、コロネン等の芳香族炭化水素等の有機低分子量化合物、重油、石油系ピッチ・タール等の石油系重質炭化水素混合物、糖類・デンプン・セルロース・アミロース等の天然有機物、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂或いはポリエチレン、ポリアクリルアミド等の熱可塑性樹脂などの有機高分子化合物などが挙げられる。これらの有機物の中でもセルロースあるいはセルロースを含有する有機物を原料に用いた場合、得られるスルホン酸基含有炭素質材料成型体の耐熱性が優れており特に好ましい。さらにはセルロースを含有する有機物として天然の木本類や草本類を用いた場合は、それらが安価に入手できることから経済的に特に好ましい。また、フェノール樹脂を原料に用いた場合、得られるスルホン酸基含有炭素質材料成型体の固体酸としての活性が優れており特に好ましい。また、原料有機物としてレゾルシノール樹脂を用いた場合は得られるスルホン酸基含有炭素質材料はアルキル化反応やオレフィンの二量化反応などの、非水溶液系の酸触媒反応に対して高い活性を示し好ましい。
【0012】
(炭化処理の条件)
前記原料有機物の炭化処理は、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱することにより行われ、それにより無定形の黒色固体(炭化物)が得られる。好ましい炭化処理温度は300〜600℃である。炭化処理の温度が前記範囲の下限に満たない場合には、得られる粉状炭化物を成型して得た炭化物成型体をスルホン化処理して得る本発明の目的物であるスルホン酸基含有炭素質材料成型体の耐熱性が劣る、あるいは水又は有機物へのスルホン酸基の溶解が多いなどの問題を生じる傾向にある。一方、前記範囲の上限を超える温度の場合には、得られる粉状炭化物を成形して得た炭化物成型体に充分な量のスルホン酸基を付与することが出来ず、したがって本発明の目的物である十分なスルホン酸基を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体が得られない。
【0013】
炭化処理のための加熱時間は、1〜100時間、好ましくは2〜15時間である。炭化処理の時間が前記範囲の下限に満たない場合には、最終製品であるスルホン酸基含有炭素質材料成型体の耐熱性が劣る、あるいは水または有機物等への溶解分が多いなどの問題を生じる傾向にあり、本発明の目的である十分なスルホン酸基を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体が得られない。一方、前記範囲の上限の時間で必要な炭化は十分進行しており、それを超える時間をかけることは不要である。
【0014】
(炭化物の粒度)
炭化物は必要により粉砕して粒度をそろえて粉状炭化物とすることが望ましい。粉砕後の粉状炭化物の平均粒度は5〜20μmが好ましくさらに好ましくは5〜10μmである。粉砕方法は特に限定されないが、自動乳鉢、ボールミル、ハンマリング、裁断のような公知の機械的粉砕手法が一般的に用いられる。
【0015】
(炭化物成型体の製造)
炭化物成型体は前記の方法で得た粉状炭化物を成型することにより得ることが出来る。成型する方法としては、粉状炭化物に結着剤を混合しこれを成型して硬化する方法あるいは粉状炭化物を直接圧縮成型する方法を採用することが出来るが、粉状炭化物に結着剤を混合しこれを成型して硬化する方法が好ましい。なお、成形方法はこれらの方法に限定されるものでなく、さまざまな公知の成形方法で可能である。
【0016】
(結着剤を用いた成型と硬化)
炭化物成型体を製造する好ましい方法である、粉状炭化物に結着剤を混合し成型した後硬化する方法について説明する。結着剤は粉状炭化物の成型性の向上、成型物の圧縮強度、耐摩耗性等の機械的特性の向上を目的に配合するものであり、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂やキシレン樹脂、テフロン(登録商標)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、リグニン、デンブン、など公知の有機バインダーを用いることが出来るが、この中ではポリビニルアルコールが低温で硬化が可能な点で好ましく用いられる。粉状炭化物と結着剤の使用割合は好ましくは炭化物100重量部に対して結着剤が3〜50重量部、さらに好ましくは10〜30重量部である。結着剤の量が3重量部未満では成形体中の結着剤の分散が十分でないので成形性が劣り、その結果機械的な強度を上げることが出来ない。一方、50重量部を越えるとスルホン化されて固体酸性を発現できる炭化物の比率が小さくなり、充分な量のスルホン酸基を含有するスルホン酸基含有炭素質材料成型体が得られない。また、炭化物と結着剤の均一混合を促進するために、助剤を添加することが好ましい。助剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類が好ましい。助剤の添加量は、炭化物100重量部に対して0.5〜5重量部が通常用いられる。成型方法は、押出し成型、プレス成型、打錠成型などさまざまな公知の方法が用いられる。成型体の大きさは、使用目的に応じて1〜10mmφ程度、長さ1〜30mm程度のペレットが好ましい。
【0017】
次いで粉状炭化物の成型体は硬化処理に供される。この工程は、前の工程で製造された粉状炭化物の成型体を加熱する、あるいは紫外線を照射する等の処理を施すことにより、成型体の強度を高めるために行う。熱処理により硬化を行う場合、熱処理温度は50〜600℃であることが好ましい。さらに好ましくは50〜200℃である。熱処理温度が50℃に満たない場合は、成型体の圧縮強度や耐摩耗性等の機械的特性が不十分である。熱処理後の成型体はその圧縮強度が1N/mm以上であることが望ましい。圧縮強度が1N/mmに満たない場合は、この成型体をスルホン化処理する際に成型体が破砕したりする弊害が生ずる。また、本発明の目的物であるスルホン酸基含有炭素質材料成型体の圧縮強度は1N/mm以上であることが望ましいが、熱処理後の炭化物成型体の圧縮強度が1N/mm未満であるとこれをスルホン化して得たスルホン酸基含有炭素質材料成型体の強度が1N/mmに満たないものとなり、これを触媒として用いるために固定床反応器に充填し反応に供した場合、触媒の粉砕等により反応器の閉塞などの問題が生ずる。また、熱処理温度が600℃を超えると得られる炭化物成型体に充分な量のスルホン酸基を導入できず、固体酸触媒として充分な活性を有するスルホン酸基含有炭素質材料成型体が得られない。
【0018】
(炭化物の賦活について)
上記熱処理により得られた炭化物成型体をスルホン化処理して、本発明の目的物であるスルホン酸基含有炭素質材料成型体を得るのであるが、得られるスルホン酸基含有炭素質材料成型体の表面積を大きくするために、上記の熱処理後の炭化物成形体はスルホン化処理前の段階で賦活処理されたものであることが望ましい。賦活処理は粉末状炭化物について行う方法、あるいは粉状炭化物を成型し熱処理した後の炭化物成型体について行う方法、何れをも行うことも出来る。なお、本発明のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の表面積は20m2/g以上であることが、触媒活性の観点から好ましい。
【0019】
(スルホン化処理について)
上記の工程で得られた炭化物成型体は次いでスルホン化処理されて本発明の製造方法の目的物であるスルホン酸基含有炭素質材料成型体が得られる。
スルホン化処理に使用するスルホン化剤は濃硫酸又は発煙硫酸である。製造されるスルホン酸基含有炭素質材料成型体のスルホン酸基含量を大きくするためには、発煙硫酸を使用することが好ましい。これにより、種々の反応に高い触媒活性を有するスルホン酸基含有炭素質材料成型体が得られる。使用する濃硫酸又は発煙硫酸の量は特に限定されないが、スルホン化を行う炭化物の量の5〜100倍(質量比)、好ましくは10〜80倍である。この範囲の下限に満たない場合には、炭化物に十分な量のスルホン酸基を付与することができず、得られるスルホン酸基含有炭素質材料の種々の化学反応に対する触媒活性が不十分なものとなる傾向にあり、またプロトン伝導材料としてプロトン伝導性が不十分なものとなる傾向にある。一方、この範囲の上限を超える場合には、必要以上の濃硫酸又は発煙硫酸を使用することとなり、使用済みの硫酸の処理を含めコスト上昇をもたらす。
【0020】
スルホン化処理の温度は、好ましくは40〜250℃である。スルホン化処理の温度がこの範囲の下限に満たない場合には、炭化物に十分な量のスルホン酸基を付与することができず、得られるスルホン酸基含有炭素質材料の成型体の種々の化学反応に対する触媒活性が不十分なものとなる。またプロトン伝導材料としてプロトン伝導性が不十分なものとなる傾向にある。一方、この範囲の上限を超える温度の場合には、付加したスルホン酸基が分解する傾向となる。また高温でのスルホン化処理の操作が困難となる。
【0021】
スルホン化処理の時間は適宜選択できるが、15分以上かつ30時間以下の範囲で行うのが好ましい。スルホン化処理の時間がこの範囲の下限に満たない場合には、炭化物に十分なスルホン酸基を付与することができず、酸量が飽和してない。そのため得られるスルホン酸基含有炭素質材料成型体としては種々の化学反応に対する触媒活性が不十分なものとなる。またプロトン伝導材料としてプロトン伝導性が不十分なものとなる傾向にある。一方、この範囲の上限の時間で必要なスルホン化は十分進行しており、それを超える時間を掛けることは不要である。
【0022】
スルホン化処理工程後には、好ましくは熱水で、洗浄することにより余剰の硫酸を除去し、さらに乾燥することによって、本発明のスルホン化炭素質材料成型体を得ることができる。熱水による洗浄は、例えばソックスレー抽出法等により、約100℃での還流下で行うのが簡便である。加圧下にさらなる高温で洗浄することにより、洗浄時間を短縮することも可能である。
【0023】
以下実施例により本発明を具他的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<スルホン酸基含有炭素質材料成型体の物性>
スルホン酸基含有炭素質材料成型体の物性は以下のように測定した。
(スルホン酸量)
スルホン酸量は、塩化ナトリウム溶液を用いたイオン交換容量測定により求めた。所定量のスルホン酸基含有炭素質材料を塩化ナトリウム溶液に加え入れて一定時間撹拌し、スルホン酸基のプロトンとナトリウムイオンとを交換させた。イオン交換により生成したHClの量を中和滴定により定量して、スルホン酸量を求めた。
イオン交換反応は以下の式で示される。
R−SO3H + NaCl → R−SO3Na + HCl ・・・(反応式1)
(ここでRはスルホン酸基含有炭素質材料からスルホン酸基を除いた後のカーボン残基である)。
(表面積)
BET法により、窒素ガス吸着量より表面積を測定した。
(圧縮強度)
成型体20個を110℃で1時間処理した後、デシケータ内で冷却し、木屋式硬度計を用いて圧縮強度を測定した。直径5mmの圧子により一定速度で成型体に半径方向に圧力を加え、成型体が破壊されたときの加重量を単位長さの圧縮強度(N/mm)とした。
【0024】
<実施例1>
(炭化物成型体の製造)
セルロース粉末(旭化成ケミカルズ社製セオラスTG-101)3.0kgを30L金属製容器に入れ、窒素ガス流通下、5rpmで撹拌しながら、400℃で4時間加熱することにより炭素質粉末を得た。
得られた粉末120gにポリビニルアルコール30g(日本酢ビ・ポバールビ社製)を2Lのニーダーに入れ、純水122gを加えた。混錬しながら助剤としてポリエチレングリコール(アルコックスE−160)3.0gを添加し、30分混錬を続けた。その後、ピストン押出機を用いて3mmφの径で押出し、60℃で24時間乾燥させ硬化させることで炭化物成型体αを得た。
【0025】
(スルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造)
5Lガラス容器に98%濃硫酸2kgを入れて100rpmで撹拌しながら、炭化物成型体A200gを投入した。140℃に昇温して2時間維持した後、50℃以下になるまで放冷した。硫酸の10倍量の純水に、成型体が分散した濃硫酸液を撹拌しながら添加し、10分撹拌を継続し、吸引ろ過により成型体を回収した。洗浄水中に硫酸が検出されなくなるまで成型体を純水で洗浄し、60℃で24時間乾燥させ、スルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを得た。スルホン酸量は0.72mmol/g、表面積は50m2/g、圧縮強度は1.8N/mmであった。
【0026】
(オレフィンの水和反応)
100mlの撹拌機付きオートクレーブに、蒸留水9.09g(0.50モル)とジオキサン(溶媒)15.29gを仕込み、固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを0.2g加えて密閉し、プロピレンを10.3g(0.25モル)封入した。次いで、500rpmで撹拌しながら120℃まで昇温し、窒素により5MPaに圧力調整を行った後、120℃に保ったまま2時間水和反応を行った。反応終了後は、反応液を冷却してから水素炎イオン化型検出器ガスクロマトグラフィ(以下、FID-GC)により定量分析を行った。その結果、単位触媒量、単位時間当たりに換算したイソプロピルアルコールの生成量は0.56mmol/g-cat./hrであった。結果を表1に示す。
【0027】
(オレフィンのエーテル化反応)
100mlの撹拌機付きオートクレーブに、2−プロパノール29.75g(0.50モル)を仕込み、固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを0.20g加えて密閉し、プロピレンを11.5g(0.27モル)封入した。次いで、500rpmで撹拌しながら110℃まで昇温し、窒素により5MPaに圧力調整を行った後、120℃に保ったまま2時間エーテル化反応を行った。反応終了後は、反応液を冷却してからFID-GCにより定量分析を行った。その結果、単位触媒量、単位時間当たりに換算したジイソプロピルエーテルの生成量は0.40mmol/g-cat./hrであった。結果を表1に示す。
【0028】
(カルボン酸とエタノールのエステル化反応)
50mlの三口フラスコに、エタノール7.67g(0.17mol)および酢酸1.00g(0.017mol)を仕込み、固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを0.20g入れて、80℃で1hr撹拌し、エステル化反応を行なった。反応終了後は、反応液を冷却してからFID-GCにより定量分析を行った。その結果、酢酸エチルの収率(=生成した酢酸エチル(mol)/仕込みの酢酸(mol))は23%であった。結果を表1に示す。
【0029】
(オレフィンのエステル化反応)
100mlの撹拌機付きオートクレーブに、酢酸36.3g(0.6モル)を仕込み、固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを0.5g加えて密閉し、プロピレンを16.7g(0.4モル)封入した。窒素により2.0MPaに圧力を調整した後、500rpmで撹拌しながら80℃まで昇温し、4時間エステル化反応を行なった。反応終了後は、反応液を冷却してから、スルホン酸基含有炭素質材料Aと反応液とを分離してFID-GCにより定量分析を行い、酢酸イソプロピルが150mg生成していることを確認した。結果を表1に示す。
【0030】
(エステルの加水分解反応)
50ccの三口フラスコに、酢酸エチル2.6g(0.03mol)および水27.1g(1.5mol)を仕込み、固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを0.20g入れて、80℃で2hr撹拌し、酢酸エチルの加水分解反応を行なった。反応終了後は、反応液を冷却してからFID-GCにより定量分析を行った。その結果、酢酸エチルの転化率(酢酸エチル減少率)は20%であった。結果を表1に示す。
【0031】
(ケトンの合成反応)
500mlの撹拌機付きオートクレーブに、蒸留水45.0g(2.5モル)を仕込み、固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを4.0g加えて密閉し、ブテンを92.5g(1.65モル)封入した。次いで、700rpmで撹拌しながら150℃まで昇温し、窒素により5MPaに圧力調整を行った後、150℃に保ったまま7.5時間水和反応を行った。反応終了後は、反応液を冷却してから熱電導度型検出器ガスクロマトグラフィ(以下、TCD-GC)により定量分析を行い、5.4gの2-ブタノールが得られていることを確認した。その後反応液を蒸留し、さらにモレキュラーシーブにて脱水処理することにより純度90%の2-ブタノール5.1gを得た。
100ccの撹拌機付きオートクレーブに、その2-ブタノール1.0gと銅亜鉛触媒(アルドリッチ社製)0.1gを加え密閉し、次いで、700rpmで撹拌しながら500℃まで昇温し、1時間脱水素反応を行った。反応終了後は、反応液を冷却してからTCD-GCにより定量分析を行い、0.38gのメチルエチルケトンが得られていることを確認した。
【0032】
(酸分解反応)
100mlの三口フラスコにエタノール13.8gと固体酸触媒としてスルホン酸基含有炭素質材料成型体A0.2gとを仕込み、窒素雰囲気下で78℃に加熱・撹拌した(エタノールは還流状態にある)。そこへクメンヒドロペルオキシド(含有量88質量%)7.4gを15分かけて滴下した。滴下完了から30分後に反応液をサンプリングし、FID-GCにより定量分析を行った。その結果、フェノールの収率は35%(生成したフェノール(mol)/仕込みのクメンヒドロペルオキシド(mol)X100)であった。結果を表−1に示す。
なお、上記した何れの反応においても、反応終了後のスルホン酸基含有炭素質材料成型体Aを観察したところ、成型体の破損や粉砕は認められなかった。
【0033】
<比較例1>
(炭化物成型体の製造)
炭化温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様にして炭化物成型体βを得た。
(スルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造)
炭化物成型体βを用いたこと以外は実施例1と同様にしてスルホン酸基含有炭素質材料成型体Bを得た。スルホン酸量は0.02mmol/gであった。
(各種反応の実施)
スルホン酸基含有炭素質材料成型体Bを固体酸触媒として用いたこと以外は実施例1と同様にして各種反応を実施した。結果を表1に示す。
【0034】
以上の実施例により、炭化物成型体をスルホン化処理することにより充分な強度を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体が得られること、またそのスルホン酸基含有炭素質材料成型体は固体酸触媒として高い活性を有することが明らかになった。また当該スルホン酸基含有炭素質材料成型体は、粉状炭化物を成形硬化し次いでスルホン化処理することにより製造できることも明らかになった。また比較例との対比により、スルホン酸基含有炭素質材料成型体の前駆体である炭化物(炭素質材料成型体硬化物)を製造する際の炭化温度を制御することにより、固体酸触媒として高い活性を示すスルホン酸基含有炭素質材料成型体を得られることも明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、高い触媒活性を有し、高い圧縮強度を有するスルホン酸基含有炭素質材料の成型体を提供し、それによりオレフィンの水和、エーテル化、エステル化、カルボン酸とアルコールのエステル化等の各種反応を固定床流通式反応方式において適用可能である。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化物成型体をスルホン化処理することを特徴とするスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項2】
炭化物成型体が粉状炭化物を成型したものであることを特徴とする請求項1記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項3】
炭化物成型体が、粉状炭化物と結着剤との混合物を成型し、続いて硬化して得られたものであることを特徴とする請求項2記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項4】
粉状炭化物100重量部に対する結着剤の量が3〜50重量部であることを特徴とする請求項3に記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項5】
粉状炭化物が有機物を300~600℃の範囲で炭化して得られたものであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項6】
スルホン化処理温度が40〜250℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項7】
得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体が0.3mmol/g以上のスルホン酸基を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項8】
得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の圧縮強度が1N/mm以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項9】
得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体が20m2/g以上の比表面積を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のスルホン酸基含有炭素質材料成型体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、オレフィンの水和反応を行なうことを特徴とするオレフィン水和生成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、オレフィンをエーテル化反応させることを特徴とするエーテル類の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、カルボン酸とアルコールとをエステル化反応させることを特徴とするエステル類の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、カルボン酸とオレフィンとをエステル化反応することを特徴とするエステル類の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下に、エステル結合を含有する有機化合物の加水分解反応を行うことを特徴とする、アルコールの製造方法。
【請求項15】
請求項10記載の製造方法により得られたオレフィン水和物の脱水素反応を行うことを特徴とするケトン類の製造方法。
【請求項16】
オレフィン水和物が2-ブタノールであり、脱水素反応により得られたケトンがメチルエチルケトンである、請求項15記載のケトン類の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたスルホン酸基含有炭素質材料成型体の存在下で行うことを特徴とするアラルキルヒドロペルオキシドの酸分解反応によるフェノール類の製造方法。
【請求項18】
アラルキルヒドロペルオキシドがクメンヒドロペルオキシドであり、酸分解反応で製造されるものがフェノール及びアセトンであるところの請求項17記載のアラルキルヒドロペルオキシドの酸分解反応によるフェノール類の製造方法。

【公開番号】特開2010−120784(P2010−120784A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293472(P2008−293472)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】