説明

ズームレンズおよび撮像装置

【課題】動画撮影に適した小型で軽量のフォーカス群を有するズームレンズおよび撮像装置を提供する。
【解決手段】物体より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とを順に配置する。広角端から望遠端への変倍に際して前記各レンズ群が移動する。前記第4レンズ群を光軸方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に物体距離変化に伴う結像位置の補正を行う。以下の条件式を満足する。f1は前記第1レンズ群の焦点距離、fwは広角端における全系の焦点距離、ftは望遠端における全系の焦点距離とする。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レンズ交換式デジタルカメラの交換レンズ装置等に用いられるズームレンズ、およびそのようなズームレンズを内蔵した撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ交換式デジタルカメラシステムに対する小型化・携帯性改善の要求は依然強く、とりわけ近年はミラーレス機構を有するレンズ交換式デジタルカメラのボディの急速な普及により、これらの要求はさらに強まっている。一般的にミラーレスのレンズ交換式デジタルカメラはフランジバックが短く、ボディそのものも従来の一眼レフカメラに比して小型に設計されているため、システムの携帯性を損なわないよう、レンズにも一層の小型化が求められる。
【0003】
また、動画撮影機能を有するレンズ交換式デジタルカメラの普及を背景として、近年は動画撮影に適したレンズが求められている。一般にレンズ交換式デジタルカメラでは大型の撮像素子が用いられ、レンズの実焦点距離が長いため、被写界深度の浅さに堪えうる高精度のフォーカシングが必要である。また、被写体追従のため高速のフォーカシング機能を兼ね備えることも必要である。これらを達成するためには広角端から望遠端にかけての適切なフォーカスピント敏感度の達成と、フォーカスレンズ群の軽量化が求められる。
【0004】
レンズ交換式カメラの交換レンズに用いられるズームレンズは、近年は3つ以上のレンズ群を移動させる多群ズームレンズが主流である。一般に、多群ズームレンズでは、各レンズ群の変倍に伴う相対位置変化の自由度が高いため収差補正上有利であり、高性能化を図りやすい。また、各レンズ群に変倍作用を分散させることで、高倍率化や変倍時の各群移動量の低減が容易となる。
【0005】
特許文献1では、物体側より順に、正の屈折率を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折率を有する第3レンズ群と、正の屈折率を有する第4レンズ群と、負の屈折率を有する第5レンズ群とが順に配置されたズームレンズが提案されている。このズームレンズでは、広角端から望遠端への変倍に際して、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群との空気間隔が増大し、前記第2レンズ群と前記第3レンズ群の空気間隔が減少し、前記第4レンズ群と前記第5レンズ群との空気間隔が減少するように、少なくとも前記第1レンズ群および前記第5レンズ群が物体側へ移動する。また、前記第2レンズ群と前記4レンズとの軸上間隔が減少するように、少なくとも前記第4レンズ群が移動する。また、前記第4レンズ群を光軸に沿って移動させて近距離被写体への合焦を行う。
【0006】
特許文献2では、物体側より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とを備えたズームレンズが提案されている。このズームレンズでは、広角端から望遠端への変倍に際して、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群との空気間隔が増大し、前記第3レンズ群と前記第4レンズ群との空気間隔が増大し、前記第4レンズ群と前記第5レンズ群との空気間隔が減少するように、少なくとも前記第1レンズ群および前記第5レンズ群が物体側に移動する。また、広角端から望遠端への変倍に際して、前記第3レンズ群と前記第5レンズ群が一体的に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−230238号公報
【特許文献2】特開平8−43734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2に記載のズームレンズは可動群が5つのズームレンズであり、高倍率化、および高性能化を図りやすい。また、変倍作用を各群に分散させることで各群の移動量を抑えることができるため、鏡筒の光軸方向の小型化が容易な構成である。さらに、最も物体側の第1レンズ群を正レンズ群、最も像側の第5レンズ群を負レンズ群とし、系全体の望遠比を小さくすることで光学系の全長の短縮を図っている。
【0009】
また、上記特許文献1では、開口絞りに近い第4レンズ群をフォーカス群とすることで、フォーカス群のレンズ径および重量を抑えてその駆動系、ひいては鏡筒の小型化を容易化する提案がなされている。また、第4レンズ群および第5レンズ群の横倍率を、広角端から望遠端にかけて適切に設定することで動画撮影に適したフォーカスピント敏感度を設定することができる。
【0010】
しかしながら上記特許文献1に記載の実施例では、フォーカス群である第4レンズ群が少なくとも2枚のレンズから構成されている。レンズ交換式デジタルカメラに用いられる光学系の個々のレンズエレメントはコンパクトカメラやビデオカメラ用に用いられるレンズエレメントに比して一般的にサイズが大きく、重量も重い。これはフォーカス群についても同様である。フォーカス群の重量が大きい場合、大きな駆動力が必要となるためアクチュエータが大型化し、鏡筒の小型化には不利である。また、駆動時の静粛性が失われ動画撮影に向かないレンズとなってしまう。このため、レンズ交換式デジタルカメラに用いられる交換レンズの光学系においては、フォーカス群のさらなる軽量化が求められている。
【0011】
また、上記特許文献1,2に記載のズームレンズは5つのレンズ群を有しており、高倍率化・高性能化に有利な構成であるが、第5レンズ群に変倍負荷が偏っており、変倍に際する第5レンズ群の移動量が非常に大きい。この結果、広角端状態から望遠端状態へかけての変倍時に各群の繰り出し量が大きくなり、望遠端における光学系全長短縮が難しい。また、このような光学系を実現するためには一般に多段繰り出し構造が必要であるため、径方向に大型化してしまう。
【0012】
本開示の目的は、動画撮影に適した小型で軽量のフォーカス群を有するズームレンズおよび撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示によるズームレンズは、物体より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とが順に配置され、広角端から望遠端への変倍に際して各レンズ群が移動し、第4レンズ群を光軸方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に物体距離変化に伴う結像位置の補正を行い、以下の条件式を満足するようにしたものである。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)
ただし、
f1:第1レンズ群の焦点距離
fw:広角端における全系の焦点距離
ft:望遠端における全系の焦点距離
とする。
【0014】
本開示による撮像装置は、ズームレンズと、ズームレンズによって形成された光学像に応じた撮像信号を出力する撮像素子とを備え、ズームレンズを、上記本開示によるズームレンズによって構成したものである。
【0015】
本開示によるズームレンズまたは撮像装置では、広角端から望遠端への変倍に際して第1ないし第5の各レンズ群が移動し、第4レンズ群がフォーカス群として移動する。
【発明の効果】
【0016】
本開示のズームレンズまたは撮像装置によれば、第4レンズ群をフォーカス群とし、各レンズ群の構成の最適化を図るようにしたので、フォーカス群を動画撮影に適した小型で軽量のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本開示の一実施の形態に係るズームレンズの第1の構成例を示すものであり、数値実施例1に対応するレンズ断面図である。
【図2】ズームレンズの第2の構成例を示すものであり、数値実施例2に対応するレンズ断面図である。
【図3】ズームレンズの第3の構成例を示すものであり、数値実施例3に対応するレンズ断面図である。
【図4】変倍の際の各レンズ群の移動の様子を示す説明図である。
【図5】数値実施例1に対応するズームレンズの広角端における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図6】数値実施例1に対応するズームレンズの中間焦点距離状態における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図7】数値実施例1に対応するズームレンズの望遠端における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図8】数値実施例2に対応するズームレンズの広角端における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図9】数値実施例2に対応するズームレンズの中間焦点距離状態における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図10】数値実施例2に対応するズームレンズの望遠端における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図11】数値実施例3に対応するズームレンズの広角端における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図12】数値実施例3に対応するズームレンズの中間焦点距離状態における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図13】数値実施例3に対応するズームレンズの望遠端における諸収差を示す収差図であり、(A)は球面収差、(B)は非点収差、(C)は歪曲収差を示す。
【図14】(A)は数値実施例1に対応するズームレンズの広角端における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図15】(A)は数値実施例1に対応するズームレンズの中間焦点距離状態における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図16】(A)は数値実施例1に対応するズームレンズの望遠端における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図17】(A)は数値実施例2に対応するズームレンズの広角端における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図18】(A)は数値実施例2に対応するズームレンズの中間焦点距離状態における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図19】(A)は数値実施例2に対応するズームレンズの望遠端における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図20】(A)は数値実施例3に対応するズームレンズの広角端における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図21】(A)は数値実施例3に対応するズームレンズの中間焦点距離状態における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図22】(A)は数値実施例3に対応するズームレンズの望遠端における非防振時の横収差を示す収差図であり、(B)は防振時の横収差を示す収差図である。
【図23】撮像装置の一構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
[レンズ構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係るズームレンズの第1の構成例を示している。この構成例は、後述の数値実施例1のレンズ構成に対応している。なお、図1は広角端で無限遠合焦時でのレンズ配置に対応している。同様にして、後述の数値実施例2〜3のレンズ構成に対応する第2および第3の構成例の断面構成を、図2〜図3に示す。図1〜図3において、符号Simgは像面を示す。符号diは、i番目の面とi+1番目の面との光軸Z1上の面間隔を示す。なお符号diについては、変倍に伴って変化する部分の面間隔(例えば図1ではd5,d10,d16,d18)のみ符号を付す。符号Simgは像面を示す。
【0020】
本実施の形態に係るズームレンズは、光軸Z1に沿って物体側より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、正の屈折力を有する第3レンズ群G3と、正の屈折力を有する第4レンズ群G4と、負の屈折力を有する第5レンズ群G5とが順に配置された、実質的に5つのレンズ群で構成されている。
【0021】
開口絞りStは、第3レンズ群G3の近傍に隣接して配置されていることが好ましい。具体的な構成例として、第1および第3の構成例に係るズームレンズ1,3では、開口絞りStが、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との間において第3レンズ群G3の近傍に配置されている。また、第2の構成例に係るズームレンズ2では、開口絞りStが、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4との間において第3レンズ群G3の近傍に配置されている。
【0022】
本実施の形態に係るズームレンズは、図4(A),(B)に示したように、広角端から望遠端への変倍に際して各レンズ群が移動する。なお、図4(A)は広角端での各レンズ群の配置を示し、図4(B)は望遠端での各レンズ群の配置を示す。また、変倍の際の各レンズ群の移動の軌跡を破線で示している。図4(A),(B)に示したように、広角端から望遠端への変倍に際し、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との空気間隔は増大し、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との空気間隔は減少し、また、少なくとも第1レンズ群G1、第3レンズ群G3、および第5レンズ群G5が物体側へ単調に移動するようになっている。また、第4レンズ群G4を光軸Z1方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に、物体距離変化に伴う結像位置の補正を行うようになっている。
【0023】
変倍に際しては、開口絞りStと第3レンズ群G3とが一体的に移動することが好ましい。また、変倍に際し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが光軸Z1に沿って一体的に移動することが好ましい。
【0024】
本実施の形態に係るズームレンズは、以下の条件式を満足するように構成されている。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)
【0025】
さらに、以下の条件式を適宜選択的に満足することが好ましい。
0<|f2|/(fw・ft)1/2<0.29 …(2)
0.45<log(Z)[β2t/β2w]<0.85 …(3)
【0026】
ただし、
f1:第1レンズ群G1の焦点距離
f2:第2レンズ群G2の焦点距離
fw:広角端における全系の焦点距離
ft:望遠端における全系の焦点距離
Z:変倍比
β2w:第2レンズ群G2の広角端における横倍率
β2t:第2レンズ群G2の望遠端における横倍率
とする。
また、条件式(3)において、Zは底、[β2t/β2w]は真数とする。
【0027】
第4レンズ群G4は少なくとも1つの非球面を有していることが好ましい。第4レンズ群G4は単レンズで構成されていることが好ましい。具体的な構成例として、第1および第3の構成例に係るズームレンズ1,3では、第4レンズ群G4が単レンズ(両凸レンズL4)で構成されている。
【0028】
第5レンズ群G5は、物体側より順に、負の屈折力を有する前群L51と、正の屈折力を有する後群L52とで構成され、前群L51を光軸Z1と直交する方向に移動させることによって像のぶれ補正を行うものであることが好ましい。前群L51は少なくとも1つの非球面を有していることが好ましい。前群L51は単レンズで構成されていることが好ましい。
【0029】
第5レンズ群G5に関しては、以下の条件式を満足することが好ましい。
0.53<f51/f5<1.0 …(4)
ただし、
f51:前群L51の焦点距離
f5:第5レンズ群G5の焦点距離
とする。
【0030】
[作用・効果]
次に、本実施の形態に係るズームレンズの作用および効果を説明する。
【0031】
(フォーカス群の軽量化)
本実施の形態に係るズームレンズは、動画撮影に適したレンズ系となっている。以下、動画撮影に適したズームレンズ系を提供するため、フォーカス群を軽量化することを考える。フォーカス群の軽量化のためには、第1の条件としてフォーカス群を構成するレンズの径を小さくするか、あるいは第2の条件としてフォーカス群を構成するレンズの枚数を少なくすればよい。
【0032】
第1の条件としてフォーカス群を構成するレンズの径を小さくするためには、フォーカス群を通過する光束径を小さくすればよい。これにより、必要とされるレンズ径が小さくなり、また、コバ厚確保のため必要となる中心厚も減らすことができ、フォーカス群の軽量化に有利である。
【0033】
第2の条件として、フォーカス群を構成するレンズ枚数を少なくする方法について述べる。一般に、当該群を構成しているレンズ枚数が増えるほど収差補正上の自由度が増え有利である。逆にレンズ枚数を減らすことは良好な光学性能の維持を困難にする。特に、開口絞り付近に配置されたレンズ群を構成するレンズ枚数を減らすことは、瞳高さに応じて顕著に増大する球面収差やコマ収差の拡大を招くため、光学系の良好な結像性能維持が困難となる。以上のような前提の下で、特定の群のレンズ枚数を減らすためには、やはり当該群を通過する光束径を小さくし、通過する光線の光軸Z1に対する高さを小さくすることで、発生する収差量を抑えれば良い。
【0034】
以上の理由から、フォーカス群を通過する光束径を小さくすることがフォーカス群の軽量化をもたらし、動画撮影に適したフォーカス群を提供することに繋がる。
【0035】
(フォーカス群の光束径を小さくする方法)
そこで、具体的にフォーカス群を通過する光束径を小さくする方法について述べる。光学系を通過する光束径は開口絞り径によっておおよそ決定されるので、開口絞り径を小さくすれば自ずとフォーカス群である第4レンズ群G4の光線通過高は小さくなる。しかし、単に開口絞り径を小さくしたのでは、開放F値が暗くなってしまい、要求仕様の達成が難しくなる。
【0036】
開放F値を維持しながら開口絞り径を小さくするためには、開口絞りStより物体側の正レンズの屈折力を強め、開口絞り通過前の光束を強く収斂し、開口絞り径に比して入射瞳径が大きくなるよう計らえばよい。本実施の形態における光学系においては、第1レンズ群G1の正レンズの屈折力を強めればよい。
【0037】
条件式(1)は、第1レンズ群G1の焦点距離f1について適切な範囲を規定したものである。条件式(1)の上限を上回ると、第1レンズ群G1による収斂作用が不十分で、開口絞り径を十分に小さくすることができず、第4レンズ群G4で発生する球面収差やコマ収差、フォーカシング時の像面変動が増大してしまう。条件式(1)の下限を下回ると、第1レンズ群G1の屈折力が強すぎるため、当該群での諸収差の発生量が増大し、良好な結像性能を維持することが難しい。また、群間の偏芯敏感度が大きくなり、製造上好ましくない。加えて開口絞りStから離れたレンズ径の大型化を招くため、小型化に不利である。
【0038】
なお、さらなる小型化を図るため、条件式(1)の上限を以下の条件式(1)’の通り、1.04とすることが望ましい。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.04 …(1)’
また、フォーカスレンズ群の軽量化のため、条件式(1)の上限を以下の条件式(1)’’の通り、1.00とするとなおよい。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.00 …(1)’’
【0039】
また、同時に、開口絞りStを第3レンズ群G3の近傍に隣接して配置し、変倍に際し第3レンズ群G3と一体的に移動する形式とすることで、第3レンズ群G3に隣接した第4レンズ群G4のレンズ径を小さく抑えることができる。また、上述のように開口絞りStを第3レンズ群G3に隣接して配置させることで、開口絞り前後の光学系の対称性を良好にし、開口絞りStより物体側及び像側のレンズ系の大型化を避けることができるため、鏡筒の小型化およびレンズ重量低減に対し有効である。また、フォーカス群である第4レンズ群G4と開口絞りStを切り離すことで、第4レンズ群G4の可動部重量が軽減され、アクチュエータの大型化を避けることができるため、これによっても小型化に有利となる。
【0040】
条件式(1)に従い第1レンズ群G1の正レンズの屈折力を強めると、第1レンズ群G1を通過後の軸外光束が光軸Z1となす角が大きくなり、光学系全体のレンズ径が大きくなるか、あるいは周辺光量比を確保しづらくなる。これを防ぐため、第2レンズ群G2の負レンズの屈折力も同時に強め、第2レンズ群G2を通過後の軸外光束が光軸Z1となす角を緩やかすることが好ましい。これによって、軸外収差の発生と、開口絞りStより像側に配置されたレンズの径の大型化を避けることができる。
【0041】
条件式(2)は、第2レンズ群G2の焦点距離f2について適切な範囲を規定したものである。条件式(2)の上限を上回ると、第1レンズ群G1の屈折力に対し第2レンズ群G2の屈折力が不十分となり、第2レンズ群G2を通過後の軸外光束が光軸Z1となす角が大きく、軸外性能が維持しづらくなる。また、開口絞りStより像側のレンズ径の大型化を招き、小型化に不利である。また、フォーカス群も大きくなり重くなってしまう。条件式(2)の下限を下回ると、第2レンズ群の屈折力が強すぎるため、第2レンズ群で発生する諸収差量および群間の偏心敏感度が大きくなるため、好ましくない。
【0042】
なお、さらに良好な軸外性能を得るために条件式(2)の上限を以下の条件式(2)’の通り、0.27とすることが望ましい。
0<|f2|/(fw・ft)1/2<0.27 …(2)’
また、フォーカスレンズ群の軽量化のため条件式(2)の上限を以下の条件式(2)’’の通り、0.23とするとなおよい。
0<|f2|/(fw・ft)1/2<0.23 …(2)’’
【0043】
(変倍時の収差変動を抑える方法。小型化の方法)
また、好ましい実施形態として、フォーカス群を構成する第4レンズ群G4の少なくとも1面を非球面形状とすることで、球面収差やコマ収差、フォーカシングに伴う像面変動を良好に補正することができる。これにより、全ズーム位置、全フォーカス位置にわたり良好な結像性能を有するズームレンズ系を提供することができる。
【0044】
また、さらなる好ましい実施形態として、フォーカス群である第4レンズ群G4を単レンズで構成すれば、動画撮影に最適な極めて軽量のフォーカス群を提供することができる。
【0045】
条件式(3)は第2レンズ群G2の変倍負荷について適切な範囲を規定したものである。第5レンズ群G5の変倍負荷を第2レンズ群G2に分散させ、変倍に伴う第5レンズ群G5の移動量を減らすことで、変倍時の各群移動量が小さくなり、鏡筒を1段繰り出しで構成することができるため、鏡筒の小型化が容易になる。このとき第2レンズ群G2の屈折力を条件式(2)を満たすように設定していれば、第2レンズ群G2は少ない移動量で変倍比を得ることができ、小型化の妨げとならない。
【0046】
なお、さらなる高性能化と小型化のためには、条件式(3)の数値値囲を、以下の条件式(3)’の通り、設定することが望ましい。
0.52<log(Z)[β2t/β2w]<0.75 …(3)’
【0047】
本実施の形態に係るズームレンズでは、多群ズーム系採用による鏡筒構造の複雑化を避けるために、変倍に際し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが光軸Z1に沿って一体的に移動することが好ましい。第3レンズ群G3および第5レンズ群G5を変倍に際し一体的に移動する形式を採用することで、第3レンズ群G3、第4レンズ群G4および第5レンズ群G5のカム筒を一体で構成し、その中をフォーカス群である第4レンズ群G4が移動する構造をとることができ、結果、鏡筒構造が簡易化され、鏡筒の小型化、低コスト化が容易となる。また、群間の相対偏心感度が傾向的に高くなりやすいこれらのレンズ群を高い相対位置精度で組み立てることが可能となる。この構成は、レンズ内にフォーカス群のアクチュエータを搭載した近年の交換レンズに適合した構成である。
【0048】
(防振、ぶれ補正の方法)
本実施の形態に係るズームレンズでは、第5レンズ群G5を物体側より順に、負の屈折力を有する前群L51と、正の屈折力を有する後群L52とに分割し、前群L51を光軸Z1に直交する方向に移動させることで、撮影画像のぶれ補正を行うことが可能である。
【0049】
条件式(4)は、防振レンズ群である前群L51の屈折力について適切な範囲を規定したものである。条件式(4)の上限を上回ると、前群L51での発散作用が不十分で、像面で所望の像高を得るためにバックフォーカスが冗長化し、鏡筒のコンパクトさを損なうため好ましくない。また、防振レンズ群の径が大きくなり、防振レンズ群を駆動するアクチュエータの大型化を招き、鏡筒の小型化に不利となるため好ましくない。条件式(4)の下限を下回ると、前群L51の屈折力が強くなりすぎ、少ないレンズ枚数では諸収差の補正が難しい。このため、防振レンズ群を少ないレンズ枚数で構成することが困難で、レンズ枚数が多くなると防振レンズ群を駆動するアクチュエータが大型化し、鏡筒の小型化に不利となるため好ましくない。
【0050】
なお、防振時の良好な結像性能と鏡筒小型化のため、条件式(4)の数値範囲を、以下の条件式(4)’の通り、設定することがより好ましい。
0.6<f51/f5<0.9 …(4)’
【0051】
また、好ましい実施形態として、防振レンズ群を構成する前群L51の少なくとも1面を非球面形状とすることで、ぶれ補正に伴い防振レンズ群が光軸方向に移動したときの収差変動量が抑制され、防振時も良好な結像性能を有するズームレンズを提供することができる。
【0052】
また、さらなる好ましい実施形態として、防振レンズ群である前群L51を、単レンズで構成すれば、極めて軽量の防振レンズ群が実現でき、防振レンズ群を駆動させるアクチュエータの小型化が容易になるため、小型のズームレンズを提供することが可能になる。
【0053】
以上のように本実施の形態によれば、動画撮影に適したフォーカス群を有し、無限遠から近距離合焦時まで収差変動が小さく良好な結像性能を有し、撮影画像のぶれ補正機能を有し、かつ小型化に適したズームレンズ系を提供することができる。
【0054】
[撮像装置への適用例]
図23は、本実施の形態に係るズームレンズを適用した撮像装置100の一構成例を示している。この撮像装置100は、例えばデジタルスチルカメラであり、CPU(Central Processing Unit)110が全体を統括制御し、図1に示したズームレンズ1(または図2〜図3に示したズームレンズ2,3)によって得られる光学像を撮像素子140により電気信号へ変換した後、これを映像分離回路150へ送出するようになされている。ここで撮像素子140としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の光電変換素子が用いられる。映像分離回路150は、その電気信号に基づいてフォーカス制御信号を生成し、これをCPU110へ送出すると共に、電気信号のうち映像部分に相当する映像信号を後段の映像処理回路(図示せず)へ送出するようになされている。映像処理回路では、その後の処理に適した信号形式に変換し、表示部に対する映像表示処理、所定の記録媒体に対する記録処理、所定の通信インタフェースを介したデータ転送処理等に供するようになされている。
【0055】
CPU110は、フォーカシング操作等の外部からの操作信号が供給され、その操作信号に応じて種々の処理を実行するようになされている。CPU110は、例えばフォーカシングボタンによるフォーカシング操作信号が供給された場合、その指令に応じた合焦常態にするべく、ドライバ回路120を介して駆動モータ130を動作させる。これにより撮像装置100のCPU110は、フォーカシング操作信号に応じてフォーカスレンズ群(第4レンズ群G4)を光軸に沿って移動させるようになされている。なお、撮像装置100のCPU110は、そのときのフォーカスレンズ群の位置情報をフィードバックさせるようになされており、次に駆動モータ130を介してフォーカスレンズ群を移動させる際に参照するようになされている。同様にして、CPU110は、ズーミングの操作信号が供給された場合には、ドライバ回路120を介して駆動モータ130を動作させる。
【0056】
この撮像装置100はまた、手ぶれに伴う装置のぶれを検出するぶれ検出部を備えている。CPU110は、ぶれ検出部から出力される信号に基づいてドライバ回路120を介して駆動モータ130を動作させる。これにより、CPU110は、ぶれ量に応じて防振レンズ群(第5レンズ群G5の前群L51)を光軸Z1に垂直な方向に移動させる。
【0057】
また上述の実施の形態においては、撮像装置100の具体的対象としてデジタルスチルカメラとするようにした場合について述べたが、これに限らず、他の種々の電子機器を撮像装置100の具体的対象とするようにしても良い。例えば、レンズ交換式のカメラや、デジタルビデオカメラ、デジタルビデオカメラ等が組み込まれた携帯電話機、PDA(Personal DigitalAssistant)等のその他の種々の電子機器を、撮像装置100の具体的対象とするようにしても良い。
【実施例】
【0058】
次に、本実施の形態に係るズームレンズの具体的な数値実施例について説明する。
なお、以下の各表や説明において示した記号の意味等については、下記に示す通りである。「面番号」は、最も物体側の構成要素の面を1番目として、像側に向かうに従い順次増加するようにして符号を付したi番目の面の番号を示している。「Ri」は、i番目の面の曲率半径(mm)を示す。「di」はi番目の面とi+1番目の面との間の光軸上の間隔(mm)を示す。「ni」はi番目の面を有する光学要素の材質のd線(波長587.6nm)における屈折率の値を示す。「νi」はi番目の面を有する光学要素の材質のd線におけるアッベ数の値を示す。また、FnoはFナンバー、fは全系の焦点距離、ωは半画角、Bfはバックフォーカス(最終レンズ面から像面Simgまでの距離)を示す。
【0059】
「STO」は絞り面であることを示す。面番号に「*」を付した面は非球面である。非球面の形状は次式で表される形状である。非球面係数のデータにおいて、記号“E”は、その次に続く数値が10を底とした“べき指数”であることを示し、その10を底とした指数関数で表される数値が“E”の前の数値に乗算されることを示す。例えば、「1.0E−05」であれば、「1.0×10-5」であることを示す。
【0060】
【数1】

【0061】
ただし、
y:光軸に垂直な方向の高さ
z(y):高さyにおけるレンズ面頂点からの光軸方向の距離
R:レンズ面頂点での近軸曲率半径
k:コーニック係数
Ci:i次の非球面係数
とする。
【0062】
[数値実施例1]
[表1]〜[表3]は、図1に示した第1の構成例に係るズームレンズ1に対応する具体的なレンズデータを示している。特に[表1]にはその基本的なレンズデータを示し、[表2]には非球面に関するデータを示す。[表3]にはその他のデータを示す。このズームレンズ1は、変倍に伴って各レンズ群が移動するため、各レンズ群の前後の面間隔の値は可変となっている。この可変の面間隔のデータは[表3]に示す。
【0063】
このズームレンズ1では、第1レンズ群G1が、物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズおよび両凸レンズからなる接合レンズL11と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL12とで構成されている。第2レンズ群G2は、物体側より順に、両凹レンズおよび物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる接合レンズL21と、両凹形状の負レンズL22とで構成されている。第3レンズ群G3は、物体側より順に、両凸レンズL31と、両凸レンズおよび両凹レンズからなる接合レンズL32とで構成されている。第4レンズ群G4は、両面に非球面形状を有する両凸レンズL4で構成されている。第5レンズ群G5は、物体側より順に、前群L51と後群L52とからなる。前群L51は、両面に非球面形状を有する両凹レンズとなっている。後群L52は、両凸レンズおよび両凹レンズからなる接合レンズとなっている。
【0064】
このズームレンズ1では、無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングに際し、第4レンズ群G4は物体側へ移動し、変倍に際し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが光軸方向に一体的に移動する。第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との間には開口絞りStが配置されており、変倍に際して第3レンズ群G3と一体的に移動する。第5レンズ群G5の前群L51を光軸Z1に直交する方向に移動させることで撮影画像のぶれ補正を行う。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
[数値実施例2]
[表4]〜[表6]は、図2に示した第2の構成例に係るズームレンズ2に対応する具体的なレンズデータを示している。特に[表4]にはその基本的なレンズデータを示し、[表5]には非球面に関するデータを示す。[表6]にはその他のデータを示す。このズームレンズ2は、変倍に伴って各レンズ群が移動するため、各レンズ群の前後の面間隔の値は可変となっている。この可変の面間隔のデータは[表6]に示す。
【0069】
このズームレンズ2では、第1レンズ群G1が、物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズおよび両凸レンズからなる接合レンズL11と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL12とで構成されている。第2レンズ群G2は、物体側より順に、両凹レンズおよび物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる接合レンズL21と、物体側に凹面を向けたメニスカス形状の負レンズL22とで構成されている。第3レンズ群G3は、物体側より順に、両凸レンズL31と、両凸レンズおよび両凹レンズからなる接合レンズL32とで構成されている。第4レンズ群G4は、物体側の面が非球面形状を有する両凸レンズL41と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL42とからなる接合レンズで構成されている。第5レンズ群G5は、物体側より順に、前群L51と後群L52とからなる。前群L51は、両面に非球面形状を有する両凹レンズL51となっている。後群L52は、両凸レンズおよび両凹レンズからなる接合レンズとなっている。
【0070】
このズームレンズ2では、無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングに際し、第4レンズ群G4は物体側へ移動し、変倍に際し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが光軸方向に一体的に移動する。第3レンズ群G3と第4レンズ群G4との間には開口絞りStが配置されており、変倍に際して第3レンズ群G3と一体的に移動する。第5レンズ群G5の前群L51を光軸Z1に直交する方向に移動させることで撮影画像のぶれ補正を行う。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
[数値実施例3]
[表7]〜[表9]は、図3に示した第3の構成例に係るズームレンズ3に対応する具体的なレンズデータを示している。特に[表7]にはその基本的なレンズデータを示し、[表8]には非球面に関するデータを示す。[表9]にはその他のデータを示す。このズームレンズ3は、変倍に伴って各レンズ群が移動するため、各レンズ群の前後の面間隔の値は可変となっている。この可変の面間隔のデータは[表9]に示す。
【0075】
このズームレンズ3では、第1レンズ群G1が、物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズおよび両凸レンズからなる接合レンズL11と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL12とで構成されている。第2レンズ群G2は、物体側より順に、両凹レンズおよび物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる接合レンズL21と、物体側に凹面を向けたメニスカス形状の負レンズL22とで構成されている。第3レンズ群G3は、物体側より順に、両凸レンズL31と、両凸レンズおよび両凹レンズからなる接合レンズL32とで構成されている。第4レンズ群G4は、物体側の面に非球面形状を有する両凸レンズL4で構成されている。第5レンズ群G5は、物体側より順に、前群L51と後群L52とからなる。前群L51は、両面に非球面形状を有する両凹レンズとなっている。後群L52は、両凸レンズおよび両凹レンズからなる接合レンズとなっている。
【0076】
このズームレンズ3では、無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングに際し、第4レンズ群G4は物体側へ移動し、変倍に際し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが光軸方向に一体的に移動する。第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との間には開口絞りStが配置されており、変倍に際して第3レンズ群G3と一体的に移動する。第5レンズ群G5の前群L51を光軸Z1に直交する方向に移動させることで撮影画像のぶれ補正を行う。
【0077】
【表7】

【0078】
【表8】

【0079】
【表9】

【0080】
[各実施例のその他の数値データ]
[表10]には、上述の各条件式に関する値を、各数値実施例についてまとめたものを示す。[表10]から分かるように、各条件式について、各数値実施例の値がその数値範囲内となっている。
【0081】
【表10】

【0082】
[収差性能]
図5〜図22に、各数値実施例の収差性能を示す。図5〜図22に示した収差はいずれも無限遠合焦時のものである。
【0083】
図5(A)〜(C)はそれぞれ、数値実施例1に対応するズームレンズ1の広角端における球面収差、非点収差、およびディストーション(歪曲収差)を示している。図6(A)〜(C)は中間焦点距離状態における同様の各収差を示している。図7(A)〜(C)は望遠端における同様の各収差を示している。これらの各収差図には、d線(587.6nm)を基準波長とした収差を示す。球面収差図には、g線(435.84nm)、C線(656.28nm)についての収差も示す。非点収差図において、S(実線)はサジタル方向、T(一点鎖線)はメリジオナル方向の収差を示す。FnoはF値、ωは半画角を示す。
【0084】
同様に、数値実施例2に対応するズームレンズ2についての球面収差、非点収差、および歪曲収差を図8〜図10の(A)〜(C)に示す。同様にして、数値実施例3に対応するズームレンズ3についての球面収差、非点収差、および歪曲収差を図11〜図13の(A)〜(C)に示す。
【0085】
図14(A)は数値実施例1に対応するズームレンズ1の広角端における非防振時の横収差を示し、図14(B)は防振時の横収差を示している。なお、非防振時には防振レンズ群(第5レンズ群G5の前群L51)は基準位置にある。防振時には防振レンズ群が基準位置から光軸に直交する方向にレンズシフトした状態となる。図14(B)の防振時の横収差は、防振レンズ群によって+0.3°の振れ角を補正した場合の収差を示している。同様にして、図15(A),(B)に中間焦点距離状態における非防振時および防振時の横収差を示す。図16(A),(B)に望遠端における非防振時および防振時の横収差を示す。
【0086】
同様に、数値実施例2に対応するズームレンズ2についての非防振時および防振時の横収差を図17〜図19の(A),(B)に示す。数値実施例3に対応するズームレンズ3についての非防振時および防振時の横収差を図20〜図22の(A),(B)に示す。
【0087】
以上の各収差図から分かるように、各実施例について、広角端から望遠端の各変倍域において各収差がバランス良く補正されている。また、像ぶれ補正時の収差も良好となっている。
【0088】
以上の各数値データおよび各収差図から分かるように、動画撮影に適したフォーカス群を有し、無限遠から近距離合焦時まで収差変動が小さく良好な結像性能を有し、撮影画像のぶれ補正機能を有し、かつ小型化されたズームレンズが実現できている。
【0089】
<その他の実施の形態>
本開示による技術は、上記実施の形態および実施例の説明に限定されず種々の変形実施が可能である。
例えば、上記各数値実施例において示した各部の形状および数値は、いずれも本技術を実施するための具体化のほんの一例に過ぎず、これらによって本技術の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならないものである。
【0090】
また、上記実施の形態および実施例では、5つのレンズ群からなる構成について説明したが、実質的に屈折力を有さないレンズをさらに備えた構成であっても良い。
【0091】
また例えば、本技術は以下のような構成を取ることができる。
[1]
物体より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とが順に配置され、
広角端から望遠端への変倍に際して前記各レンズ群が移動し、
前記第4レンズ群を光軸方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に物体距離変化に伴う結像位置の補正を行い、
以下の条件式を満足する
ズームレンズ。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)
ただし、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
fw:広角端における全系の焦点距離
ft:望遠端における全系の焦点距離
とする。
[2]
開口絞りが前記第3レンズ群の近傍に隣接して配置され、
変倍に際し前記第3レンズ群と前記開口絞りとが一体的に移動する
上記[1]に記載のズームレンズ。
[3]
以下の条件式を満足する、上記[1]または[2]に記載のズームレンズ。
0<|f2|/(fw・ft)1/2<0.29 …(2)
ただし、
f2:前記第2レンズ群の焦点距離
とする。
[4]
前記第4レンズ群は少なくとも1つの非球面を有する
上記[1]ないし[3]のいずれか1つに記載のズームレンズ。
[5]
前記第4レンズ群は単レンズで構成される
上記[1]ないし[4]のいずれか1つに記載のズームレンズ。
[6]
以下の条件式を満足する、上記[1]ないし[5]のいずれか1つに記載のズームレンズ。
0.45<log(Z)[β2t/β2w]<0.85 …(3)
ただし、
Zは底、[β2t/β2w]は真数であり、
Z:変倍比
β2w:前記第2レンズ群の広角端における倍率
β2t:前記第2レンズ群の望遠端における倍率
とする。
[7]
変倍に際し、前記第3レンズ群と前記第5レンズ群とが光軸に沿って一体的に移動する
上記[1]ないし[6]のいずれか1つに記載のズームレンズ。
[8]
前記第5レンズ群は、物体側より順に、負の屈折力を有する前群と、正の屈折力を有する後群とで構成され、前記前群を光軸と直交する方向に移動させることによって像のぶれ補正を行い、
以下の条件式を満足する
上記[1]ないし[7]のいずれか1つに記載のズームレンズ。
0.53<f51/f5<1.0 …(4)
ただし、
f51:前記前群の焦点距離
f5:前記第5レンズ群の焦点距離
とする。
[9]
前記前群は少なくとも1つの非球面を有する
上記[8]に記載のズームレンズ。
[10]
前記前群は単レンズで構成される
上記[8]または[9]に記載のズームレンズ。
[11]
実質的に屈折力を有さないレンズをさらに備えた
上記[1]ないし[10]のいずれか1つに記載の反射屈折型レンズ系。
[12]
ズームレンズと、前記ズームレンズによって形成された光学像に応じた撮像信号を出力する撮像素子とを備え、
前記ズームレンズは、
物体より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とが順に配置され、
広角端から望遠端への変倍に際して前記各レンズ群が移動し、
前記第4レンズ群を光軸方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に物体距離変化に伴う結像位置の補正を行い、
以下の条件式を満足する
撮像装置。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)
ただし、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
fw:広角端における全系の焦点距離
ft:望遠端における全系の焦点距離
とする。
[13]
前記ズームレンズは、実質的に屈折力を有さないレンズをさらに備える
上記[12]に記載の撮像装置。
【符号の説明】
【0092】
G1…第1レンズ群、G2…第2レンズ群、G3…第3レンズ群、G4…第4レンズ群、G5…第5レンズ群、L51…前群、L52…後群、St…開口絞り、Simg…像面、Z1…光軸、1〜3…ズームレンズ、100…撮像装置、110…CPU、120…ドライバ回路、130…駆動モータ、140…撮像素子、150…映像分離回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とが順に配置され、
広角端から望遠端への変倍に際して前記各レンズ群が移動し、
前記第4レンズ群を光軸方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に物体距離変化に伴う結像位置の補正を行い、
以下の条件式を満足する
ズームレンズ。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)
ただし、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
fw:広角端における全系の焦点距離
ft:望遠端における全系の焦点距離
とする。
【請求項2】
開口絞りが前記第3レンズ群の近傍に隣接して配置され、
変倍に際し前記第3レンズ群と前記開口絞りとが一体的に移動する
請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項3】
以下の条件式を満足する
請求項1に記載のズームレンズ。
0<|f2|/(fw・ft)1/2<0.29 …(2)
ただし、
f2:前記第2レンズ群の焦点距離
とする。
【請求項4】
前記第4レンズ群は少なくとも1つの非球面を有する
請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項5】
前記第4レンズ群は単レンズで構成される
請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項6】
以下の条件式を満足する
請求項1に記載のズームレンズ。
0.45<log(Z)[β2t/β2w]<0.85 …(3)
ただし、
Zは底、[β2t/β2w]は真数であり、
Z:変倍比
β2w:前記第2レンズ群の広角端における横倍率
β2t:前記第2レンズ群の望遠端における横倍率
とする。
【請求項7】
変倍に際し、前記第3レンズ群と前記第5レンズ群とが光軸に沿って一体的に移動する
請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項8】
前記第5レンズ群は、物体側より順に、負の屈折力を有する前群と、正の屈折力を有する後群とで構成され、前記前群を光軸と直交する方向に移動させることによって像のぶれ補正を行い、
以下の条件式を満足する
請求項1に記載のズームレンズ。
0.53<f51/f5<1.0 …(4)
ただし、
f51:前記前群の焦点距離
f5:前記第5レンズ群の焦点距離
とする。
【請求項9】
前記前群は少なくとも1つの非球面を有する
請求項8に記載のズームレンズ。
【請求項10】
前記前群は単レンズで構成される
請求項8に記載のズームレンズ。
【請求項11】
ズームレンズと、前記ズームレンズによって形成された光学像に応じた撮像信号を出力する撮像素子とを備え、
前記ズームレンズは、
物体より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、負の屈折力を有する第5レンズ群とが順に配置され、
広角端から望遠端への変倍に際して前記各レンズ群が移動し、
前記第4レンズ群を光軸方向に移動させることで変倍に伴う結像位置の変動を補正すると共に物体距離変化に伴う結像位置の補正を行い、
以下の条件式を満足する
撮像装置。
0.60<f1/(fw・ft)1/2<1.10 …(1)
ただし、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
fw:広角端における全系の焦点距離
ft:望遠端における全系の焦点距離
とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−37105(P2013−37105A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171728(P2011−171728)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】