説明

セット枠の歪み計測方法

【課題】セット枠を引き続いて使用することの適否の確認を可能とし、発泡成形時の真空吸引において成形型とセット枠との間のシール性を適正に保つ。
【解決手段】成形型にセットされたシートカバーを該成形型の成形面に沿うように真空吸引しながら成形型内でシートパッドを発泡成形する際に、このシートカバーを成形型にセットするために使用されるセット枠の歪み計測方法であって、圧力センサ42を備えた計測型40にセット枠(外枠15)をセットした状態において、この計測型40に対するセット枠の接触圧力の分布を検出し、この圧力分布のパターンに基づいてセット枠の全体的な歪みを計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両用シートのシートカバーをシートパッドの成形型にセットするために使用されるセット枠の歪み計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのシートカバーを成形型にセットする技術は、例えば特許文献1に開示されている。この技術では、シートパッドを発泡成形するための成形型の下型にシートカバーをセットする際、セット枠(支持枠)が使用されている。この支持枠は、成形型の下型に装着されるとともに、シートカバーを下型の成形面に沿わせて位置決めするための機能を有する。
一般的なシートの成形においては、下型にシートカバーを位置決めして成形型の上下型を型締めした後、下型の成形面側からシートカバーを連続して真空吸引しながら該キャビティー内に発泡樹脂材を充填してシートパッドを発泡成形する。これにより、発泡成形されたシートパッドがシートカバーの内面に接着されて相互に一体化される。なお、キャビティー内の真空吸引時には、通常、下型上面の周縁とセット枠(支持枠)との接合面がシール面になっている。
【特許文献1】特開平3−288607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、シートパッドの発泡成形時にシートカバーを真空吸引するには、成形型の下型とセット枠とのシール性を確保することが重要である。しかし、成形作業の繰り返しによって真空吸引時のシール性を維持できない程度までセット枠に歪みが生じても、それを目視などによって認識することは困難である。この結果、歪みの修正が必要なセット枠をそのまま使用することになり、キャビティー内の真空吸引が適正に行われず、シートパッドの発泡成形が不良になる。
【0004】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、セット枠を継続して使用することの適否の確認を可能とし、発泡成形時の真空吸引において成形型とセット枠との間のシール性を適正に保つようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、成形型にセットされたシートカバーを該成形型の成形面に沿うように真空吸引しながら成形型内でシートパッドを発泡成形する際に、このシートカバーを成形型にセットするために使用されるセット枠の歪み計測方法であって、圧力センサを備えた計測型にセット枠をセットした状態において、この計測型に対するセット枠の接触圧力の分布を検出し、この圧力分布のパターンに基づいてセット枠の全体的な歪みを計測する。
【0006】
このように、セット枠の歪みを計測してセット枠を継続して使用することの適否を定期的に確認すれば、常に計測に合格した適正なセット枠のみを使用することができる。これにより、例えば発泡成形時の真空吸引において成形型とセット枠との間のシール性が常に適正に保たれ、ひいては良好な発泡成形が維持される。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、セット枠を、クランプを用いてシートカバーと共に成形型にセットし、かつ、計測型に対してもクランプを用いて成形型の場合と同様にセットして歪みを計測する。
これにより、成形型においてシートパッドを発泡成形するときと同じ状態でセット枠の歪みを検知することができる。
【0008】
第3の発明は、第1又は2の発明において、計測型の圧力センサによって検出されたセット枠の接触圧力の分布を、表示装置の画像で表示する。
これにより、表示装置の画像を見るだけでセット枠を引き続いて使用することの適否を確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
まず、図1〜図3の検査工程で使用する検査型10は、図4〜図6で示す成形工程に移す前のシートカバー30を検査するためのもので、成形工程の成形型20を構成する下型22と同じ形状に設定されている。すなわち、この検査型10は下型22の成形面22aと同形の内面10aをもっている。したがって、成形工程において下型22にシートカバー30をセットする場合と同じ状態で、検査型10に対してもシートカバー30をセットすることが可能である。
なお、検査型10はその内面10aで囲まれた空所を真空吸引できるように、吸引ポンプなど(図示省略)を駆動源とする周知のエア減圧構造になっている。
【0010】
シートカバー30は、検査工程および成形工程で共用されるセット枠12によって検査型10にセットされる。このセット枠12は、内枠14と外枠15との組み合わせによって構成されており、これらの両枠14,15の間にシートカバー30の外周端末を挟み込んで保持することが可能である。また、両枠14,15は、検査型10または下型22における上面の周縁10b,22bに合わせた矩形の枠形状になっている。ただし、外枠15はその周方向に連続していてもよいが、内枠14は周方向に沿って複数個に分割されている。
【0011】
図2からも明らかなように、セット枠12の外枠15は、ベース部15aおよび接合部15bによって構成されている。ベース部15aは、検査型10または下型22の周縁10b,22bに接触する部分であり、接合部15bは内枠14と対向して相互間でシートカバー30の外周端末を挟み込む部分である。ベース部15aには、検査型10または下型22の孔に嵌り合うことで、外枠15を位置決めする位置決めピン15cがある。また、接合部15bには、内枠14の孔に嵌り合うことで両枠14,15を位置決めする位置決めピン15dがある。
【0012】
図2で示すように、セット枠12を構成する内枠14と外枠15の接合部15bとは、周方向の複数箇所において両枠クランプ16で互いに結合状態に保持される。さらに、外枠15のベース部15aは、検査型10または下型22の周縁10b,22bに対し、周方向の複数箇所において外枠クランプ18で結合状態に保持される。後で説明するように両枠クランプ16は、セット枠12と同様に検査工程および成形工程で共用されるが、外枠クランプ18は検査工程および成形工程のそれぞれに専用のものが個別に設けられている。なお、これらの両枠クランプ16および外枠クランプ18は個々に周知の構造であるので、その概要だけを以下に説明しておく。
【0013】
まず、両枠クランプ16は、固定板16aに対して可動板16bがヒンジピン16cを支点として回転操作できるようになっている。この可動板16bを回転操作することで、固定板16aと可動板16bとによって内枠14と外枠15の接合部15bとを結合状態に保持し(図2)、あるいは結合状態を解除することができる。
外枠クランプ18は、検査型10または下型22の周縁10b,22bに固定されたブラケット18aに、ハンドル18bの一端部が回転操作可能に連結されている。また、ブラケット18aには加圧アーム18cの一端部が回転可能に連結されている。そして、ハンドル18bと加圧アーム18cとは、リンク18dで連結されている。これにより、ハンドル18bを回転操作すれば、それに連動する加圧アーム18cによって外枠15のベース部15aを検査型10または下型22の周縁10b,22bに押し付けた状態に保持し(図2)、あるいは押し付けを解放することができる。
【0014】
図4〜図6で示す成形工程において、シートパッド32を発泡成形するための成形型20(図6)は、下型22および上型23によって構成されている。そして、既に述べたように下型22に対しては、セット枠12によってシートカバー30をセットすることができる。つまり、このセット枠12における外枠15のベース部15aを専用の外枠クランプ18によって下型22の周縁22bに押し付けた状態に保持することができる。
上型23は、下型22に対して昇降動作することができる。これにより、成形型20の型締め(図6)あるいは型開きを行うことができ、型締め状態で成形型20の内部に構成されるキャビティー26に発泡樹脂材が充填されてシートパッド32が発泡成形される。なお、この発泡成形時にはシートカバー30を下型22の成形面22aに沿わせるように連続して真空吸引する必要があり、そのために下型22側は吸引ポンプなど(図示省略)を駆動源とする周知のエア減圧構造になっている。
【0015】
図7および図8で示すセット枠12の歪み計測システムにおいては、該セット枠12を構成する外枠15の歪み(変形)を計測するための計測型40を備えている。この計測型40は、検査型10と同様に成形型20の下型22と同じ形状に設定され、下型22の成形面22aおよび周縁22bと同形の内面40aおよび周縁40bを有する。ただし、計測型40の内面40aについては、後述するように計測型40に外枠15をセットするときのセット位置を決める目安になる程度の役割しかなく、場合によっては廃止してもよい。
計測型40の周縁40bには、圧力センサ42が周方向に連続して設けられている。この圧力センサ42は、周知のように自体に加わる圧力を検出して電気信号に変換する機能を有している。そして、圧力センサ42から送り出された電気信号は、図7で示すモニター44(表示装置)の画面に圧力分布の模式的な画像として表示される。また、計測型40の周縁40bには、検査型10あるいは成形型20の下型22で使用されているものと同じ構成の外枠クランプ18が設けられている。この外枠クランプ18により、外枠15のベース部15aを計測型40の圧力センサ42に押し付けた状態に保持することができる。
【0016】
つづいて、シートカバー30の検査工程、シートパッド32の成形工程およびセット枠12の歪み計測システムにおける個々の作業を説明する。
まず、シートカバー30の検査工程においては、既に述べたようにシートカバー30をセット枠12によって検査型10にセットする。このときのセット枠12は、その内枠14と外枠15の接合部15bとの間にシートカバー30の外周端末を挟み込み、両枠クランプ16によって結合されている。また、外枠15のベース部15aは、検査型10の周縁10bに設けられている専用の外枠クランプ18により、該周縁10bに押し付けられた状態に保持されている。
【0017】
そこで、検査型10の内面10a側からシートカバー30を真空吸引すると、このシートカバー30が検査型10の内面10aに倣った状態に吸着される。これにより、真空吸引時におけるシートカバー30のシール性の適否を検査することができるとともに、縫製ラインによってシートカバー30にシワなどが生じていないか、といった形状の検査を行うことができる。なお、このときの真空吸引においては、検査型10の周縁10bとセット枠12における外枠15のベース部15aとの接合面がシール面になっている。
また、検査工程においては、シートカバー30をその縫製ラインなどを目安にして検査型10の内面10aに位置決めし、その状態でシートカバー30の外周端末をセット枠12の内枠14と外枠15の接合部15bとの間に挟み込み、両枠クランプ16によって結合する。これにより、検査工程においてセット枠12とシートカバー30との関係が正確に位置決めされたこととなる。
【0018】
検査工程で全ての検査を終えたら、セット枠12の両枠クランプ16はそのままにして外枠クランプ18を解除し、シートカバー30をセット枠12(両枠クランプ16を含む)と共に検査型10から取り外す(図3)。そして、検査に合格したシートカバー30については、そのセット枠12と共に成形工程に移す。
成形工程においては、検査後のシートカバー30をセット枠12によって成形型20の下型22にセットする(図4)。このとき、セット枠12における外枠15のベース部15aを、下型22の周縁22bに設けられている専用の外枠クランプ18で周縁22bに押し付けた状態に保持してセット枠12を位置決めする(図5)。また、下型22の成形面22a側からシートカバー30を真空吸引することにより、シートカバー30が下型22の成形面22aに倣った状態に吸着される。これによって成形型20による発泡成形のための準備が完了する。なお、このときの真空吸引は、下型22の周縁22bとセット枠12における外枠15のベース部15aとの接合面がシール面になっている。
【0019】
つぎに、図6で示すように成形型20を型締めし、既に述べたようにシートカバー30を下型22の成形面22aに沿わせるように真空吸引しながら該キャビティー26に発泡樹脂材を充填する。これにより、キャビティー26内においてシートカバー30の内側にシートパッド32が発泡成形される。成形後は成形型20を型開きし、かつ、シートカバー30からセット枠12を外すとともに、下型22からシート成形品を取り出す。このシート成形品は、発泡成形されたシートパッド32がシートカバー30の内面に接着されて相互に一体化されている。
【0020】
前述したように、検査工程あるいは成形工程での真空吸引にあっては、検査型10の周縁10bあるいは成形型20(下型22)の周縁22bと、セット枠12における外枠15のベース部15aとの接合面がシール面になる。このため、真空吸引時のシール性を適正に保つには、外枠15の歪み具合を定期的に計測し、適正であれば引き続いて使用し、不適正であれば修正した後に再使用することが必要である。
そこで、図7および図8で示す歪み計測システムにおいて、検査工程および成形工程で使用されているセット枠12の外枠15の全体的な歪み具合を計測する。そのために、計測型40の周縁40bに外枠15を、そのベース部15aが圧力センサ42の上面に接触した状態で載せる。そして、計測型40の外枠クランプ18により、外枠15のベース部15aを圧力センサ42に押し付けた状態に保持する(図8)。つまり、外枠15を検査工程あるいは成形工程で使用するときと同じ状態で計測型40にセットする。
【0021】
このように外枠15を計測型40にセットすることにより、圧力センサ42に対するベース部15aの接触圧力が該圧力センサ42で検出され、その検出信号に基づき、既に説明したように図7のモニター44に圧力分布の画像が模式的に表示される。この画像によって外枠15を引き続いて使用することの適否を判断する。なお、この圧力分布については、外枠15(ベース部15a)の全周にわたって均等である必要はなく、外枠クランプ18を使用している箇所と、そうでない箇所とでは個々の圧力に差が生じるのは当然である。したがって、外枠15を継続して使用することの適否は、モニター44に表示された圧力分布のパターンが、予め求めた正常パターンの範囲内にあるか否かを判断する。
【0022】
以上の説明から明らかなように、シートカバー30とシートパッド32とを一体化させる発泡成形においては、特にシートカバー30の真空吸引時のシール性、成形型20の下型22に対するセット状態がシート成形品の出来具合を左右する。その反面、これらのシール性の適否やセット状態の確認を成形工程でチェックしていては、成形工程での準備作業に多くの時間を費やすことになる。
本実施の形態では、前述したように成形工程の前工程である検査工程において、シートカバー30の形状ならびに真空吸引時のシール性の適否を検査することができる。しかも、この検査工程では、検査型10の内面10aを利用して次の成形工程における成形型20の下型22を想定したシートカバー30の位置決めを行い、その状態でセット枠12とシートカバー30との関係を決めておくことができる。これらのことから、成形工程では検査工程からセット枠12と共に移されたシートカバー30を成形型20の下型22にセットするだけで、発泡成形の準備を終え、成形工程での作業時間が短縮される。また、下型22にシートカバー30をセットする作業が簡素化されるため、ロボットによる作業も可能となる。
【0023】
さらに、歪み計測システムでは、例えばシートパッド32の成形工程での成形回数が予め定めた回数に達する毎にセット枠12における外枠15の歪みを計測し、該外枠15を引き続いて使用することの適否を確認する。これにより、適正な外枠15のみを継続して使用することができる。したがって、成形工程でシートパッド32を発泡成形するときの真空吸引において、成形型20の下型22と外枠15との間のシール性が常に適正に保たれ、発泡成形が良好に行われる。また、この歪み計測システムにおいては、前述のように外枠15を成形工程で使用するときと同じように外枠クランプ18によって計測型40にセットするので、外枠15の歪みを的確に検知することができる。
なお、歪み計測システムでの外枠15の歪み計測は、前述した検査工程におけるシートカバー30の検査回数に基づいて実施し、セット枠12を継続して使用することの適否を判断してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】検査工程におけるシートカバーのセット状態を表した概略図。
【図2】図1の主要部を拡大して表した断面図。
【図3】検査工程におけるシートカバーの取り外し状態を表した概略図。
【図4】成形工程におけるシートカバーのセット途中を表した概略図。
【図5】成形工程におけるシートカバーのセット状態を表した概略図。
【図6】図5の主要部を拡大して表した断面図。
【図7】セット枠の歪み計測システムを表した概略図。
【図8】図7の主要部を拡大して表した断面図。
【符号の説明】
【0025】
10 検査型
12 セット枠
14 内枠
15 外枠
16 両枠クランプ
18 外枠クランプ
20 成形型
22 下型
22a 成形面
30 シートカバー
32 シートパッド
40 計測型
42 圧力センサ
44 モニター(表示装置)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型にセットされたシートカバーを該成形型の成形面に沿うように真空吸引しながら成形型内でシートパッドを発泡成形する際に、このシートカバーを成形型にセットするために使用されるセット枠の歪み計測方法であって、
圧力センサを備えた計測型にセット枠をセットした状態において、この計測型に対するセット枠の接触圧力の分布を検出し、この圧力分布のパターンに基づいてセット枠の全体的な歪みを計測するセット枠の歪み計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたシート成形方法であって、
セット枠を、クランプを用いてシートカバーと共に成形型にセットし、かつ、計測型に対してもクランプを用いて成形型の場合と同様にセットして歪みを計測するセット枠の歪み計測方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたシート成形方法であって、
計測型の圧力センサによって検出されたセット枠の接触圧力の分布を、表示装置の画像で表示するセット枠の歪み計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−172899(P2009−172899A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14753(P2008−14753)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】