説明

セラミックス接合方法及び接合装置

【課題】セラミックス材同士またはセラミックス材と金属材とを容易にかつ簡便に接合し得るセラミックス接合方法及び接合装置を提供する。
【解決手段】セラミックス接合装置10は、一対の被接合材41,41を押圧すると共に一対の被接合材41,41の間に挟む金属箔42に電流を流すための一対の電極21を備えた接合台20と、一対の電極間に金属箔を気化させるのに必要な電気エネルギーを供給する回路30とを備える。この回路30は、一対の電極21,21に並列接続する充放電用コンデンサー31と、充放電用コンデンサー31と一対の電極21,21との間に直列接続される放電用スイッチ32と、充放電用コンデンサー31を充電するための電源回路33とを備える。充放電用コンデンサー31は、金属箔42を気化させるのに必要なエネルギーを蓄積し、充電電圧が数百Vオーダーになるよう選定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナやジルコニア等のセラミックス同士を接合したり又はこれらのセラミックスと高融点の金属とを接合する、セラミックス接合方法及び接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材同士を接合する方法として、金属中間材法が知られている。これは、接合するセラミックス材の間に、ろう材と呼ばれる金属の中間材を挟み、真空中やアルゴンガス中で、10MPa程度の圧力を加え、数分から数時間高温に加熱する方法である。
【0003】
特許文献1には、金層を形成したセラミックス材料の金層上に、接合金属と金との混合粉体と接合金属とを順に積層し、大気中で加圧して圧粉体を作製し、真空中で加熱することで固相拡散法によってセラミックスと金属材料とを接合させる技術が開示されている。特許文献2及び3には、セラミックスと金属との間に金層を介在させ、所定の押圧力で加圧すると共に、パルス電圧を印加して加熱することで、セラミックスと金属とを金層を介して接合することが開示されている。特許文献4には、チタン、ジルコニア等のセラミックスに対して活性な金属からなる金属箔と金属板とを圧着する工程を経ることで、セラミックスと金属板との接合強度が増すことが開示されている。
【0004】
上記金属中間材法は、使用できる中間材が炉の到達温度で制限されること、オペレーション時間が長く生産性が悪いこと、真空容器や真空ポンプが必要となり装置が大規模になる、といった欠点があった。
【0005】
そこで、セラミックス材の間に金属箔を挟み、この金属箔に電流を流すことで生じるジュール熱で金属箔を気化させ、セラミックス材同士を接合するコンデンサー放電法が報告されている(非特許文献1乃至3)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−328372号公報
【特許文献2】特開平10−194859号公報
【特許文献3】特開平11−71185号公報
【特許文献4】特開平8−245274号公報
【非特許文献1】K.Takaki 他8名、 "A capacitor discharge technique with optimized energy for joining ceramics", Surface Engineering Instrumentation & Vacuum Technology, 2002年、65巻、p.457−462
【非特許文献2】K.Takaki 他8名、 "Bonding strength of alumina tiles joined using capacitor discharge technique", Surface & Coatings Technology, 2003年、169−170、p.495−498
【非特許文献3】高田良宏、板垣稔、藤原民也、高橋幾久雄、高木浩一、向川政治、大島修三、桑嶋孝幸「チタン箔溶断セラミックス接合におかる回路インダクタンスの効果」、電気学会論文誌A、平成15年9月、123巻、9号、p.884−890
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のコンデンサー放電法では、被接合材であるセラミックス材同士に挟まれた金属箔に、数kVという高電圧を印加して行っているので、耐圧が高いコンデン
サー素子を用いる必要がある。また、金属箔に印加される電圧が高電圧であることから、装置が大型化し、安全性を損なうという課題がある。このため、場所を選ばずに接合作業を行うことができない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、セラミックス材同士またはセラミックス材と金属材とを容易にかつ簡便に接合することができる、セラミックス接合方法及び接合装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のセラミックス接合方法は、セラミックス材を含む一対の被接合材の間に金属箔を挟んで、被接合材同士を押圧しながら、充放電用コンデンサーに蓄えられたエネルギーを上記金属箔に注入して該金属箔に生じるジュール熱で被接合材同士を接合させる方法において、充放電用コンデンサーが、金属箔を気化させるのに必要なエネルギーを蓄積し、かつ、充電電圧が数百Vオーダーとなるよう選定されることを特徴とする。
前記充放電用コンデンサーには、金属箔の気化を開始させるのに必要なエネルギー以上で金属箔全てを気化させるエネルギーの2倍以下の範囲のエネルギーを、100〜400Vの充電電圧で充電させることが好ましい。
上記構成において、一対の被接合材の他方は、好ましくは、セラミックス又は金属である。また、セラミックス材又は金属の接合面には、好ましくは、表面を粗す処理が施されている。また、金属箔は、チタン、ステンレス、ニッケル、タングステン、モリブデンの何れかであってよい。
上記構成によれば、数百Vオーダの低電圧で金属箔に通電し、金属箔の抵抗成分で生じるジュール熱により、金属箔の温度が上昇し、金属箔が液化及び気化する。よって、低電圧でパルス状大電流を印加するという簡便且つ安全な方法で、セラミックス材同士を又はセラミックス材と金属材とを接合することができる。
【0010】
一方、本発明の接合装置は、一対の被接合材を押圧すると共に一対の被接合材の間に挟まれる金属箔に電流を流すための一対の電極を備えた接合台と、一対の電極間に金属箔を気化させるのに必要な電気エネルギーを供給する回路とを備え、この回路が、一対の電極に並列接続され、かつ金属箔を気化させるのに必要なエネルギーを蓄える充電電圧が数百Vオーダの充放電用コンデンサーと、充放電用コンデンサーと一対の電極との間に直列接続される放電用スイッチと、充放電用コンデンサーを充電するための電源回路と、を備えたことを特徴とする。
上記構成によれば、接合台にセットされた一対の接合材の間に金属箔を挟んで、電源回路から充放電用コンデンサーを充電させ、放電用スイッチをONにして金属箔に電流を数百Vの電圧でパルス的に流すことができる。よって、金属箔の抵抗成分で生じるジュール熱により、金属箔の温度が上昇し、金属箔が液化及び気化する。これにより、低電圧のパルス電流で金属箔に電気エネルギーを供給でき、装置の小型化及び安全性を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被接合材同士を金属箔で挟み、予め金属箔を気化させるのに必要なエネルギーを低電圧の充放電用コンデンサーに蓄えておき、その後、当該充放電用コンデンサーと金属箔とを電気的に接続することで、金属箔に対してパルス的に電流が流れ込み、電気エネルギーが金属箔の抵抗成分でジュール熱として熱エネルギーに変換され、金属箔が液化及び気化し、再度固化させることができる。このようにして、被接合材同士を接合できる優れたセラミックス接合方法を提供することができる。
【0012】
さらに本発明によれば、大気中で、短時間に、簡単かつ簡便に、被接合材同士を接合することができるセラミックス接合装置を提供することができる。この接合装置では、充電電圧が低いコンデンサー素子を用いているので、回路構成が複雑とならず小型化でき、従来のようにkVオーダの高電圧を印加しないので、安全面にも寄与する。また、被接合材に予め拡散層を設ける必要がなく、被接合材の接合面に所定範囲の表面粗さとなるよう処理を行うという単純な工程で、被接合材同士を高い強度で接合させることができるので、異種のセラミックス材同士を容易に接合させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の接合装置10の構成を示す回路図であり、図2は図1中の接合台20の構造を示す図で、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
接合装置10は、図1及び2に示すように、一対の被接合材41,41を押圧すると共に一対の被接合材41,41の間に挟まれる金属箔42に電流を流すための一対の電極21,21を備えた接合台20と、この一対の電極21,21間に電流を流して金属箔42を気化させるのに必要な電気エネルギーを供給する回路30と、を含んで構成される。
【0014】
一対の被接合材41,41は、何れもアルミナやジルコニア、炭化珪素、窒化珪素などのセラミックス材であっても、このようなセラミックスと高融点の金属材とからなる組合せであってもよい。金属箔は、好ましくは、高融点材料であるチタン(Ti)、ステンレス、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの素材でなる。
【0015】
接合台20は、図2に示すように、例えば下側プレート22と、下側プレート22に立設した複数本のロッド23と、各ロッド23に挿通する孔を設けた上側プレート24と、上下各プレート22,24の対向する各面に配置される上下のゴム板25,25と、各ロッド23に刻設により形成されたボルトにネジ締めされる各ナット26と、対向するように下側プレート22上に配置された一対の電極21,21と、を有する。そして、下側プレート22と上側プレート24との間に上下のゴム板25,25を介して、被接合材41,41を挟んで各ボルトに対してナット26でネジ締めして、所定の押圧力で、上下から被接合材41,41を押圧することができ、一対の被接合材41,41に挟まれた金属箔42の各端部を、一対の電極21で電気的に接続できるように構成されている。例えば、各電極21は、上下の銅でなる電極板で金属箔42の各端部を挟持することで、電気的に接続することができる。
【0016】
これにより、金属箔42を挟んだ状態で一対の被接合材41,41を、上下のゴム板25,25を介在させて上側プレート24と下側プレート22とで挟み、各ロッド23に形成されたボルトに対するナット26の締め付け強度を、トルクレンジなどで測定しながら行うことで、一対の被接合材41,41をバラツキをなくして均一に接合させることができる。
【0017】
次に、本発明のセラミックス接合方法に用いる回路30について説明する。
回路30は、一対の電極21,21に並列接続された、充電電圧が数百Vオーダの充放電用コンデンサー31と、この充放電用コンデンサー31と一方の電極21との間に接続される放電用スイッチ32と、充放電用コンデンサー31を充電するための電源回路33と、充放電用コンデンサー31と電源回路33との間に直列に接続される電流突入防止用抵抗である抵抗34と、を含んで構成されている。
【0018】
電源回路33は、AC100Vなどの交流用電源(図示せず)に第1スイッチ33aを介して接続されるトランス33bと、このトランス33bの出力側に接続される交流用トランス33cと、この交流用トランス33cの出力側に接続される整流器33dと、で構成される。トランス33bは、例えばスライダックトランスを用いることができる。トランス33b及び交流用トランス33cに代えて、二次側に多数の電圧タップを設けた交流用トランスでもよい。また、出力電圧及び整流器33dは、図示したように全波整流回路でも半波整流回路でもよい。
【0019】
放電用スイッチ32は、充放電用コンデンサー31と一方の電極21との間に接続されるスイッチ素子32aと、このスイッチ素子32aにトリガーを印加するトリガー回路32bとでなり、トリガー回路32bに第2スイッチ32cを介在させて、AC100Vなどの交流電源(図示せず)に接続される。この放電用スイッチ32としては、サイラトロン等の電子管やサイリスタなどの半導体スイッチング素子を用いることができる。
【0020】
本発明のセラミックス接合方法においては、充放電用コンデンサー31は、電源回路33で充電されるが、被接合材41,41同士の接合に必要なエネルギー量を計算で求め、この求めたエネルギーを蓄えることができる容量を少なくとも有するコンデンサー素子で構成される。被接合材41,41同士の接合に必要なエネルギー量は、金属箔42の材質、形状及び寸法から求まり、後述する金属箔42を構成する素材の比熱及び液化及び気化に必要となる遷移熱と、実際に用いる金属箔42の形状、寸法から、金属箔42が液化するまでの温度上昇と液化から気化するまでの温度上昇にそれぞれ必要な熱量から算出される。被接合材41,41同士の接合に必要なエネルギーは、このような理論計算の他に、金属箔42の寸法を変化させて実験的にその最適値を算出してもよい。このようにして求めたエネルギー量は充放電用コンデンサー31に蓄えるが、その際、充放電用コンデンサー31を、充電電圧が数百V、例えば100〜400Vという低電圧の素子で構成することにより、低電圧の回路30とする。充放電用コンデンサー31は、必要に応じて素子を並列接続して構成してもよい。
【0021】
次に、充放電用コンデンサー31に蓄える電気的エネルギーについて説明する。
上記回路30において、一点鎖線で囲んだ部分35が、充放電用コンデンサー31と、放電用スイッチ32と、金属箔42を挟んだ状態からなる一対の被接合材41,41からなる充放電回路35となっている。
図3は、図1に示した充放電回路35を説明するために、放電スイッチ32をOFFにした際の等価回路図である。図3において、C0 は充放電用コンデンサー31の容量であり、Rfoilは金属箔42の抵抗である。そして、L0 及びR0 は、それぞれ、放電スイッチ32と接合台20との配線などにより生じる寄生インダクタンス及び寄生直列抵抗である。
【0022】
図3に示すように、コンデンサーCを電圧V0 へ充電したとき、スイッチSWを閉じることで、回路に流れる電流は、下式(1)の回路方程式に従って流れる。
【数1】

【0023】
foilは金属箔42の抵抗で、下式(2)から求められる。
【数2】

但し、ρは金属箔42の抵抗率、L,t,hはそれぞれ金属箔42の長さ、厚さ、幅である。
【0024】
このとき、金属箔42に注入されるエネルギーwfoil(t)は、下式(3)となる。
【数3】

【0025】
また、コンデンサーCに蓄えられるエネルギーW0 は、下式(4)となる。
【数4】

【0026】
金属箔42に注入される総和のエネルギーWfoilは、抵抗分圧で決まるので、放電後にコンデンサーCに電荷が残らない場合には、下式(5)となる。
【数5】

【0027】
本発明のセラミックス接合方法では、被接合材41,41を接合する場合、溶融させるだけでなく気化させる。したがって、金属箔42の抵抗Rfoilが、寄生直列抵抗R0 に比べて十分大きい場合には、式(5)より、充放電用コンデンサー31の静電エネルギーは、その大半が金属箔42に注入される。そのため、金属箔42の気化に必要なエネルギーを充放電用コンデンサー31に充電することで、一対の被接合材41,41を接合することができる。
ここで、上記回路条件としては、Rfoilに対して寄生直列抵抗R0 を十分に小さくして、かつ、L0 の影響により振動が生じない条件とすることが好ましい。寄生直列抵抗R0 が十分に小さくて、L0 の影響が無視できないときには、上記C0 、L0 、Rfoilで決まる臨界制動の条件である、Rfoil=2(L0 /C0 1/2 とすれば、一回の放電で、必要な電流及び電圧を金属箔42に印加することができる。本発明においては、後述するように、充放電用コンデンサー31に蓄えるエネルギーWo を金属箔42の気化の開始に必要なエネルギーから全て気化してしまうエネルギーの2倍までの範囲としている。
【0028】
金属箔42の温度は、式(3)に示す金属箔に注入されるエネルギーwfoilと、金属箔42の熱容量や比重を用いて、下式(6)となる。
【数6】

ここで、T0 は金属箔42の初期温度、cp 、ρ、Vfoil、Aは、それぞれ金属箔42の比熱、比重、体積、原子量である。
【0029】
また、式(6)は、金属箔の相変化、即ち、固体から液体、液体から気体に変わると、遷移熱を考慮して、下式(7)となる。
【数7】

ここで、Wmelt、Wboilは、それぞれ、液化に必要となる遷移熱、気化に必要となる遷移熱である。
【0030】
これにより、金属箔42の素材を決定すればその比熱、原子量が求まり、金属箔42の形状及び寸法から金属箔42の体積が求まるので、液化及び気化に必要となる遷移熱分を含めた、金属箔42が気化するまでに必要となるエネルギーの総和が求められる。
とくに、充放電用コンデンサー31に、金属箔42の気化を開始させるのに必要なエネルギー以上で金属箔42の全てを気化させるエネルギーの2倍以下の範囲のエネルギーを充電させることにより、一対の被接合材を接合した場合の接合強度を向上させることができる。金属箔に印加するエネルギーが大凡2倍以上では、セラミックスが破壊するので好ましくない。この一対の被接合材の接合に必要なエネルギーを、好ましくは、100〜400Vという低電圧で蓄えることができる容量を算出し、この算出した容量の素子で充放電用コンデンサー31を構成する。
【0031】
次に、本発明の接合装置10による被接合材41,41の接合方法について説明する。 前述のように、接合装置10の回路構成が決定されると、金属箔42を一対の被接合材41,41で挟んで、上下のゴム板25,25を介在させて、下側プレート22と上側プレート24の間にセットすると共に、各ロッド23に形成されたボルトをナット26で所定のトルクで締め付け、金属箔42の両端部を各電極21,21に電気的に接続して、被接合材41,41及び金属箔42のセッティングをする。
次に、電源回路33の第1スイッチ33aを入れて(ON)、充放電用コンデンサー31に接合に必要となるエネルギーを蓄積し、充電が済み次第、第1スイッチ33aを切る(OFF)。
次に、放電用スイッチ32の第2スイッチ32cを入れると、充放電用コンデンサー31が放電する。これにより、充放電用コンデンサー31に蓄えられた電荷が、金属箔42に流れ、金属箔42の抵抗成分によるジュール熱で熱エネルギーに変換され、金属箔42が気化し、その後固化することで、被接合材41,41が接合する。一対の電極21,21を介して充放電用コンデンサー31から金属箔42への通電時間は、例えば、200μ秒程度の短時間が好ましい。
【0032】
本発明のセラミックス接合方法においては、被接合材41,41であるセラミックスや金属板の表面を適度に粗くすることによりセラミックス接合の接合強度を増すことができる。被接合材41,41の表面粗さは、Raとして、0.5μm程度以上が好ましく、例えばアルミナの場合には1μmとすればよい。逆に、0.5μm以下では接合強度が落ち、好ましくない。上記現象は、被接合材の表面の各凹凸部に液化したり気化した金属が入り込んで、各凹凸部で再度固化することで、碇のように被接合材の表面の各凹凸部で引っ掛かるためと考えられる。このように、被接合材の表面を所定範囲の表面粗さにする処理を接合作業に先立って行うことで、接合材としての金属が液化や気化して再度固化しアンカーのように各凹凸部に引っ掛かるというアンカー効果により、被接合材の材質同士の相性などによらず、被接合材同士を接合することができる。特に、異種類セラミックス同士を接合するときには有効である。
【0033】
本発明のセラミックス接合方法によれば、被接合材同士を金属箔で挟み、予め金属箔を気化させるのに必要なエネルギーを低電圧の充放電用コンデンサーに蓄えておき、その後、当該充放電用コンデンサーと金属箔とを電気的に接続することで、金属箔に対してパルス的に電流が流れ込み、電気エネルギーが金属箔の抵抗成分でジュール熱として熱エネルギーに変換され、金属箔が気化し、再度固化することで、被接合材同士を接合できるセラミックス接合方法を提供することができる。
【0034】
本発明のセラミックス接合装置によれば、大気中で、短時間に、簡単かつ簡便に被接合材同士を接合することができるセラミックス接合装置を提供することができる。この接合装置では、充電電圧が低いコンデンサー素子を用いているので、回路構成が複雑とならず小型化でき、従来のようにkVオーダの高電圧を印加しないので、安全面にも寄与する。また、被接合材に予め拡散層を設ける必要がなく、被接合材の接合面に所定範囲の表面粗さとなるよう処理を行うという単純な行程で、被接合材同士を強度に接合させることができるので、異種のセラミックス材同士を容易に接合させることができる。
【実施例1】
【0035】
次に実施例を示しながら、さらに具体的に説明する。
実施例1として、被接合材41,41をアルミナとし、チタンからなる金属箔42を用いて接合を行なった。
具体的には、被接合材41として、縦20mm×横10mm×厚み2mmの一対のアルミナを用いた。チタン箔42のうち一対の被接合材41,41に挟まれる部分、すなわち接合部分の断面積が、5×10-4cm2 、2.5×10-3cm2 となるように、チタン箔42の接合部分の断面寸法を、厚さ50μm×幅1mm、厚さ20μm×幅2.5mm、厚さ100μm×幅2.5mm、厚さ50μm×幅5mmの4種類とした。
【0036】
各チタン箔42を一対の被接合材41,41で挟み、充放電用コンデンサー31に蓄えるエネルギーを変化させて、接合作業を行った。その際、チタン箔42に印加される電圧と流れる電流とを測定し、チタン箔42に注入されるエネルギーを積算した。
【0037】
図4は、実施例1の被接合材41,41の接合結果を示す図であり、チタン箔42の幅に対する注入エネルギーの関係を示す図である。図において、縦軸はチタン箔42に注入されるエネルギー(J)を示し、横軸はチタン箔42の幅(mm)である。●プロット、▲プロット、△プロット、□プロットは、それぞれ、金属箔42の接合部分の断面が、厚さ50μm×幅1mm、厚さ20μm×幅2.5mm、厚さ100μm×幅2.5mm、厚さ50μm×幅5mmの各場合で接合が成功したものを示す。また、×プロットは、被接合材41であるアルミナが破壊し接合が成功しなかったものを示す。
【0038】
図4から明らかなように、厚さ及び幅が同一のチタン箔では、注入エネルギーを増加させると、ある一定の注入エネルギー以上では、アルミナが破壊し、一対のアルミナを接合することができないことが分かる。また、△プロットで示すチタン箔42の断面積(2.5×10-32 )は、▲プロットで示すチタン箔42の断面積(5×10-42 )の5倍であるので、注入エネルギーを増加させても、アルミナが破壊しない。また、チタン箔42の幅を増加させることにより、同じ注入エネルギーでアルミナが破壊せず一対のアルミナを接合することができることが分かる。
【0039】
また、図4において、金属箔42の各幅における最大値を結ぶことで、接合の成否の境界を示す各直線が求められる。このようにして求めた各直線(図4の矢印A及びBで示す直線参照)より下側(図中で、下向き矢印の領域)が、金属箔42の各幅において、充放電用コンデンサー31に蓄えるべき必要なエネルギー量の1〜2倍程度に相当する。したがって、本発明のセラミックス接合方法において金属箔42の気化には、気化の開始に必要なエネルギーから全て気化してしまうエネルギーの2倍までの範囲とすることで接合を行なうことができる。したがって、チタン箔42の寸法(厚みと幅)を変化させることにより、一対のアルミナ41を接合させるのに必要なエネルギー量やその最適値を求めることができた。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、一対の被接合材41,41の接合面の表面粗さが所定の値より大きいことで、接合強度を増すことができることを示す。
実施例2では、充放電用コンデンサー31は、耐圧450V、容量2700μFの素子を10個並列接続して構成した。電流突入防止用抵抗としての抵抗34には、2kΩのセメント抵抗を用いた。被接合材41として、縦20mm×横10mm×厚み3mmの一対のアルミナを用いた。各アルミナの接合面の粗さは、約0.8μmであった。
【0041】
金属箔42の素材としてはSUS304のステンレス素材を選択した。図5は、実施例2で用いたステンレス箔の形状の一例を示す図である。ステンレス箔42は、図5に示すように、接合部分は長さ20mm、幅2.5mm、厚さ50μmである。この部分の抵抗値(Rfoil)は115mΩである。接合する際の上下のプレート板の押圧は0.6MPaであった。
【0042】
図6は、実施例2のセラミックス接合方法において、ステンレス箔42に印加する電圧と流れる電流と消費されるエネルギーとの関係を示す図である。図6において、横軸は放電用スイッチ32をONにした状態からの経過時間(μ秒)を示し、左縦軸はステンレス箔42に流れる電流(kA)を示し、右縦軸はステンレス箔42に印加される電圧(10×V)と、消費されるエネルギー(J)を示している。消費されるエネルギーは電流電圧の積から求めた。
【0043】
図6から明らかなように、放電用スイッチ32をONにすると、約20μ秒の間で約6kAの電流が流れ込み、その後、約25μ秒で1.3kAまで減少し、その後放電用スイッチ32をONにしてからの経過時間で160μ秒まで略一定で、その後減少して、電流が逆向きに流れた。この電流の値の変化に対応して、放電用スイッチ32をONにしてから約10μ秒の間で電圧が180Vまで増加し、その後緩やかに増加した。このときの消費されるエネルギーは、図6に示すように、放電用スイッチ32をONにした直後は、立ち上がりが遅く、放電用スイッチ32をONにしてから約25μs経過すると、直線的に増加した。
【0044】
図中、ステンレス箔42の体積(2.5cm3 )と比重(7.9g/cm3 )及び熱容量から液化開始までに必要なエネルギー量、気化開始までに必要なエネルギーを求めたところ、それぞれ、14.6J、34.5Jであった。図中に、液化開始点と気化開始点とを矢印で示している。この場合、ステンレス箔42全てが気化するのに要するエネルギーは約160Jである。実施例2において、ステンレス箔42へ注入されているエネルギーは65Jとなり、前述の接合に要するエネルギー条件を満たしている。
【0045】
このようにして、一対のセラミックス板41,41に挟んだステンレス箔42に大電流のパルス放電を行ない、ステンレス箔に生じたジュール熱でステンレスを気化し、セラミックス板同士を接合できた。
【0046】
次に比較例を示す。
比較例が実施例2と異なる点は、被接合材のアルミナの接合面の表面の粗さが、各アルミナ板とも、表面粗さが約0.5μmと細かい点である。その他の条件設定は実施例2と同じである。
【0047】
実施例2及び比較例で接合したセラミックス接合材における接合部の引っ張りせん断試験を行った。
表1は、実施例2及び比較例のセラミックス接合における接合強度を示す表である。実施例2の場合には、500kgで引っ張ってもせん断しなかった。これにより、接合強度は500kg以上であることが判明した。一方、比較例も実施例2と同様にして接合強度を測定したところ、それぞれ、379kg,345kgであった。
【表1】

【0048】
上記実施例2と比較例とを比較すると、ステンレス箔をジュール熱で気化させて、被接合材41のアルミナ材の接合面の表面が粗いもの同士を接合した方が、接合強度が増すことが判明した。
【実施例3】
【0049】
実施例3として、一対のアルミナを異なる金属箔42で接合した。具体的には、金属箔42の材質は、モリブデン、ニッケル、チタンの三種類とした。各金属箔42の接合部分の抵抗(Rfoil)は、モリブデンが8mΩ、ニッケルが10.9mΩ、チタンが67.2mΩであった。そして、金属箔42に注入するエネルギー量が異なるようにして、一対のアルミナを接合した。
【0050】
図7は、金属箔42の材質をパラメータとして、注入エネルギーに対する接合強度の依存性を示す図である。図7において、縦軸は接合強度(kg)を示し、横軸は金属箔42に注入したエネルギー(J)を示している。
図7から分かるように、金属箔42の種類によらず、注入エネルギーを増加させると、接合強度が増加した。また、三種類の材質のうち、金属箔42の材質として、チタンを用いた場合が接合強度が高く、次に、モリブデン、ニッケルの順に、接合強度が低下することが分かる。さらに、実施例2の結果と比較すると、金属箔42の材質としてステンレスを選定することで、接合強度を高めることができることが分かる。
【0051】
上記各実施例によれば、被接合材41,41をアルミナとし、金属箔42として、ステンレス、モリブデン、ニッケル、チタンを用いた場合には、金属箔42の気化に必要なエネルギー量の約2倍までの範囲とすることで、一対の被接合材41,41を接合した場合に接合強度を向上させることができた。上記各実施例では、被接合材が何れもセラミックスである場合を示したが、一方が高融点の金属である場合にも同様に適用することができる。
【0052】
本発明は、上記実施例に記載のセラミックスや金属箔に限定されるものではなく、セラミックス接合に使用されている材料の如何に係らず適用でき、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の接合装置の構成を示す回路図である。
【図2】図1の接合台の構造を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【図3】図3は、図1に示した充放電回路を説明するために、放電スイッチをOFFにした際の等価回路図である。
【図4】実施例1の被接合材の接合結果を示す図であり、チタン箔の幅に対する注入エネルギーの関係を示す図である。
【図5】実施例2で用いたステンレス箔の形状を示す図である。
【図6】実施例2のセラミックス接合方法において、ステンレス箔に印加する電圧と流れる電流と消費されるエネルギーとの関係を示す図である。
【図7】金属箔の材質をパラメータとして、注入エネルギーに対する接合強度の依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10:接合装置
20:接合台
21:電極
22:下側プレート
23:ロッド
24:上側プレート
25:ゴム板
26:ナット
30:回路
31:充放電用コンデンサー
32:放電用スイッチ
32a:スイッチ素子
32b:トリガー回路
32c:第2スイッチ
33:電源回路
33a:第1スイッチ
33b:スライダックトランス
33c:交流用トランス
33d:整流器
34:抵抗(電流突入防止用抵抗)
35:充放電回路
41:被接合材
42:金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材を含む一対の被接合材の間に金属箔を挟んで、被接合材同士を押圧しながら、充放電用コンデンサーに蓄えられたエネルギーを上記金属箔に注入して該金属箔に生じるジュール熱で被接合材同士を接合させる方法であって、
上記充放電用コンデンサーが、上記金属箔を気化させるのに必要なエネルギーを蓄積し、かつ、その充電電圧が数百Vオーダーとなるよう選定されることを特徴とする、セラミックス接合方法。
【請求項2】
前記充放電用コンデンサーに、前記金属箔の気化を開始させるのに必要なエネルギー以上で該金属箔全てを気化させるエネルギーの2倍以下の範囲のエネルギーを、100〜400Vの充電電圧で充電させることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックス接合方法。
【請求項3】
前記一対の被接合材の他方が、セラミックス又は金属であることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックス接合方法。
【請求項4】
前記セラミックス材又は金属の接合面には、表面を粗す処理が施されていることを特徴とする、請求項1又は3に記載のセラミックス接合方法。
【請求項5】
前記金属箔が、チタン、ステンレス、ニッケル、タングステン、モリブデンの何れかであることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックス接合方法。
【請求項6】
一対の被接合材を押圧すると共に該一対の被接合材の間に挟まれる金属箔に電流を流すための一対の電極を備えた接合台と、上記一対の電極間に上記金属箔を気化させるのに必要な電気エネルギーを供給する回路と、を備え、
上記回路が、上記一対の電極に並列接続され、かつ上記金属箔を気化させるのに必要なエネルギーを蓄える充電電圧が数百Vオーダの充放電用コンデンサーと、該充放電用コンデンサーと上記一対の電極との間に直列接続される放電用スイッチと、該充放電用コンデンサーを充電するための電源回路と、を備えたことを特徴とする、接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−119313(P2007−119313A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315439(P2005−315439)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月20日 社団法人電気学会主催の「パルスパワー研究会」において文書をもって発表
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(505404622)株式会社アロン岩手 (1)
【Fターム(参考)】