説明

セラミック多層回路基板用導電ペースト

【課題】セラミックグリーンシートと同時に焼成して導体回路を形成したときに、反りの発生をより一層有効に抑制することができるセラミック多層回路基板用導電ペーストを提供する。
【解決手段】本発明に係るセラミック多層回路基板用導電ペーストは、アトマイズ法により製造され、平均粒径が2〜9μmの範囲内であるとともに最大粒径が40μm以下であり、さらに薄片化されたアトマイズ銀薄片粉末を導電性粉末として含有するもので、アトマイズ銀薄片粉末は、導電性粉末の50重量%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック多層回路基板用導電ペーストに関し、さらに詳しくは、セラミックグリーンシートと同時に焼成しても、反りの発生を有効に抑制することができる多層回路基板を提供可能な導電ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック多層回路基板としては、アルミナ多層回路基板が主に用いられていた。アルミナ多層回路基板を製造するためには、アルミナの焼結を行うために1500℃以上の高温を必要とし、またその温度に耐えるための導体材料としてモリブデン−マンガン(Mo−Mn)やタングステン(W)系の高温焼結用材料が使用されていた。
【0003】
一方、最近ではアルミナよりも低温で焼成することのできる低温焼成基板が徐々に用いられ始めている。この低温焼成基板では、800〜1000℃の焼成温度で焼結が可能となり、そのため導体材料もMo−MnやWよりも低抵抗の銀(Ag)や銅(Cu)が使用できるようになり、高密度実装基板としてのCSP(チップサイズパッケージ)、あるいはMCM(マルチチップモジュール)に応用展開が図られつつある。
【0004】
低温焼成基板は、一般にガラスフリット成分とセラミック成分を混合したものであって、ガラスフリットの低融点を利用して低温度で焼結させて基板とするものである。
【0005】
このようなセラミック多層回路基板を製造する方法は、セラミックの基板となるグリーンシート(セラミックグリーンシート)上に導電ペーストを印刷し、またセラミック層間の電気的接続をとるためにセラミックグリーンシートのビアホールに導電ペーストを充填し、それらのセラミックグリーンシートを複数枚積層した後一括で焼成する方法である。セラミックグリーンシートは焼成によりセラミック基板となり、導電ペーストは焼成により配線電極層(いわゆる配線パターン)やビアホール電極層となる。
【0006】
ところで、このようにして製造するセラミック多層回路基板には、焼成後に基板に反りが発生するという課題が知られている。基板の反りは、焼成時の収縮率の異なる材料であるセラミックグリーンシートと導電ペーストを同時に焼成するために起こる現象であり、当該反りが発生した状態では基板として使用できない。この反りは、主に導電ペーストの収縮がセラミックグリーンシートの収縮よりも早く起こることに起因している。
【0007】
そこで、前記課題の解決を図るために、導電ペーストに含まれている銀粉末の粒径を調整する技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には多層配線回路基板およびその製造方法が開示されており、当該多層配線回路基板に用いられる導電性ペーストは、平均粒径5〜25μmの略球状の銀粉末と有機ビヒクルとからなる構成となっている。また、特許文献2にはセラミック多層回路基板用導電ペーストが開示されており、当該導電ペーストは、アトマイズ法により製造した平均粒径が3〜10μmであって且つ最大粒径が40μm以下である銀粉末を導電性粉末として含有する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−284896号公報
【特許文献2】特開平11−163487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年、積層型セラミック電子部品においては、さらなる高密度化が要求されているので、セラミック多層回路基板においても、高密度化を進めるべく収縮率のさらなる低減が要求されている。セラミックグリーンシートと導電ペーストとの間で、焼成時に収縮率に大きな違いがあると、反りの発生に加えて、配線パターン等がセラミック基板から剥離したり、配線パターン等が局部的に球状化して断線が生じたりするおそれも知られている。積層型セラミック電子部品の高密度化によって、従来では問題にならなかった程度の収縮率であっても、このような焼成による反り等の不具合が発生するおそれがある。
【0011】
一般に、導電ペーストに用いられる銀粉末は、化学的還元法により製造されるので、その平均粒径は、0.1〜2μmの範囲内となることが多い。この範囲の銀粉末をセラミック多層回路基板用導電ペーストに用いると、銀粉末の焼成がセラミックグリーンシートの焼成よりも格段に早く進むため、反りの発生を抑制することができない。
【0012】
また、特許文献1に開示の技術では、通常の化学的還元法により製造された銀粉末を仮焼することで、平均粒径を5〜25μmの範囲内に大きくしている。このような銀粉末(仮焼銀粉末)は、化学的還元法により得られた元々の銀粒子が寄り集まったような形態であるため、当該仮焼銀粉末の内部には多くの空洞が生じる。それゆえ、仮焼銀粉末は、同程度の粒径で空洞の無い銀粉末に比べて焼成が早く進行してしまう。したがって、特許文献1に開示の技術は、高密度化による反り等の不具合を有効に解消することができない。
【0013】
一方、特許文献2に開示の技術は、化学的還元法ではなくアトマイズ法により銀粉末を製造しているため、平均粒径が3〜10μmの範囲内に大きくなっており、かつ、銀粉末の最大粒径が40μm以下に抑えられている。それゆえ、セラミックグリーンシートと同時に焼成しても反りが非常に少ない導体回路を形成することが可能となっている。ただし、近年の高密度化に対応するためには、収縮率の違いをさらに低減することが要求される傾向にあり、当該要求を実現し得るセラミック多層回路基板用導電ペーストは従来知られていなかった。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、セラミックグリーンシートと同時に焼成して導体回路を形成したときに、回路基板の反りの発生をより一層有効に抑制することができるセラミック多層回路基板用導電ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るセラミック多層回路基板用導電ペーストは、前記の課題を解決するために、セラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することによってセラミック多層回路基板を製造するに際して、当該セラミックグリーンシートの導電層の形成に用いられる導電ペーストであって、導電性粉末として少なくとも銀粉末を含有し、当該銀粉末が、アトマイズ法により製造され、平均粒径が2〜9μmの範囲内であるとともに最大粒径が40μm以下であり、さらに薄片化されている構成である。
【0016】
前記構成においては、前記銀粉末は、前記導電性粉末の50重量%以上であることが好ましい。
【0017】
また、前記構成においては、前記導電性粉末の含有量は、95重量%以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記構成においては、前記銀粉末以外の導電性粉末として、パラジウム、白金、金、ニッケルおよび銅の群から選択される少なくとも1種の金属の粉末を併用してもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、本発明に係るセラミック多層回路基板用導電ペーストをセラミックグリーンシートと同時に焼成して導体回路を形成したときに、回路基板の反りの発生をより一層有効に抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の実施例で用いられた、薄片化した銀粉末の一例を示す電子顕微鏡写真であり、(b)は、アトマイズ法により製造された、薄片化する前の銀粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。本発明に係るセラミック多層回路基板用導電ペースト(以下、単に導電ペーストと略す。)は、セラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することによってセラミック多層回路基板を製造する際に、導電層の形成のために用いられるものであって、導電性粉末として、所定範囲の平均粒径を有する銀粉末を薄片化したものを含有するものである。
【0022】
[銀粉末の構成]
本発明に係る導電ペーストに含有される銀粉末は、アトマイズ法により製造されるもの(アトマイズ銀粉末と称する。)を薄片化(フレーク化)したアトマイズ銀薄片粉末である。本発明でいうアトマイズ法とは、銀(Ag)を高温度で溶融し、そのAg液体をノズルから高速度で噴霧することによって、球状微粉化する方法である。具体的な方法としては、Ag液体をノズルから高速度で噴霧する際の媒体としてガスを用いるガスアトマイズ法、または、前記媒体として水を用いる水アトマイズ法を挙げることができるが、本発明で用いられるアトマイズ銀粉末は、いずれの方法によっても製造することができる。
【0023】
前記アトマイズ銀粉末の平均粒径は、2〜9μmの範囲内であればよい。アトマイズ銀粉末の平均粒径が2μm未満であれば、得られる導電ペーストとセラミックグリーンシートとを同時に焼成したときに反りを十分に有効に軽減することができなくなる。また、平均粒径が9μmを超えれば、薄片化によって得られるアトマイズ銀薄片粉末の寸法が大きくなりすぎるため、セラミックグリーンシート上にパターン印刷するときに、当該アトマイズ銀薄片粉末がスクリーンの目詰まりを起こすおそれがある。
【0024】
なお、特許文献2に開示されるアトマイズ銀粉末の平均粒径は3〜10μmの範囲内であるが、本発明ではアトマイズ銀粉末を薄片化するため、薄片化による銀粉末の粒子形状の変化を考慮して、本発明における平均粒径の範囲は、特許文献2に開示される範囲よりも全体的に小さい側にシフトしている。
【0025】
前記アトマイズ銀粉末は、平均粒径が前記範囲内に入っていることに加え、その最大粒径は40μm以下となっている。アトマイズ銀粉末の最大粒径が40μmを超えると、導電ペーストを調製する際に、当該アトマイズ銀粉末が潰れることで、その粒径が相対的に大きな銀箔片が生じる。このような銀箔片は、前述したように、セラミックグリーンシート上にパターン印刷するときに、スクリーンの目詰まりを起こすおそれがある。
【0026】
前記アトマイズ銀粉末は、薄片化されることによってアトマイズ銀薄片粉末となり、本発明に係る導電ペーストの導電性粉末として配合される。前記薄片化の方法は特に限定されず、種々の公知の方法を用いることができる。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライターミル等を用いて粒子を潰す方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0027】
本発明で用いられるアトマイズ銀薄片粉末は、例えば、図1(a)に示すように、板状に広がりを有する形状であるのに対して、薄片化前のアトマイズ銀粉末は、例えば図1(b)に示すように、いずれも略球形である。このように、本発明でいうところの「薄片化された銀粉末」とは、厚み平均が1〜6μm、扁平部分長径平均が4〜20μmとして定義される。
【0028】
[導電ペーストの構成]
本発明に係る導電ペーストは、導電性粉末として、前述したアトマイズ銀薄片粉末を含有しているが、これ以外の公知の導電性粉末を含有してもよい。例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)の群から選択される少なくとも1種の金属の粉末を併用することができる。つまり、本発明に係る導電ペーストは、導電性粉末として、前記アトマイズ銀薄片粉末以外に、Pd粉末、Pt粉末、Au粉末、Ni粉末、またはCu粉末を含有してもよいし、Pd粉末、Pt粉末、Au粉末、Ni粉末およびCu粉末の中から選択される2種以上の粉末を含有してもよい。さらに本発明に係る導電ペーストにおいては、要求される特性等に応じて、前記群の金属の粉末以外に、他の金属の粉末を含んでもよい。
【0029】
本発明に係る導電ペーストは、前記導電性粉末に加えて有機ビヒクルを含有しており、当該有機ビヒクル中に前記導電性粉末を分散させた構成となっている。
【0030】
本発明で用いられる有機ビヒクルの具体的な構成は特に限定されず、導電ペーストの分野で公知の樹脂を好適に用いることができる。具体的には、例えば、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、イミド系樹脂、アミド系樹脂、ブチラール系樹脂、変性セルロース等が挙げられる。これら樹脂には公知の共重合体あるいは変性樹脂が含まれる。また、これら樹脂は1種類のみで用いられてもよいし、2種類以上が適宜選択されて用いられてもよい。
【0031】
本発明に係る導電ペーストは、前記導電性粉末および前記有機ビヒクル以外に公知の添加剤等が加えられてもよい。添加剤としては、具体的には、例えば、導電性粉末の分散性を向上させる分散剤、導電ペーストの粘度や流動性等を調節するための増粘剤または溶剤、導電ペーストのチキソ性を調節するためのチクソトロピック付与剤、導電ペーストを焼成した後の接着力を向上させるガラスフリット、有機金属化合物等が挙げられる。これら添加剤は、本発明に係る導電ペーストの特性(特に、焼成に伴う反りの発生の抑制)を低下させない範囲で、公知の量を添加することができる。
【0032】
本発明に係る導電ペーストに含有される前記導電性粉末の含有量は、少なくとも95重量%以下であれば好ましく、70〜95重量%の範囲内であればより好ましく、80〜92重量%の範囲内であるとさらに好ましい。また、有機ビヒクルの含有量は5〜30重量%の範囲内であれば好ましく、8〜20重量%の範囲内であるとより好ましい。導電性粉末が95重量%超または有機ビヒクルが5重量%未満であれば、ペースト状の組成物を得ることが困難となる場合がある。一方、導電性粉末が70重量%未満または有機ビヒクルが30重量%超であれば、焼成時の導電ペーストの乾燥性が低下するとともに、焼成時の導電ペーストの収縮率が大きくなる傾向にある。
【0033】
なお、前記含有量は、導電性粉末および有機ビヒクルの合計が100重量%となるときの組成であるが、これら以外の添加剤等を含んでいる場合には、導電性粉末、有機ビヒクルおよび添加剤の含有量は、当該添加剤の種類に応じて公知の範囲に適宜調整できることはいうまでもない。
【0034】
さらに、本発明に係る導電ペーストにおいては、アトマイズ銀薄片粉末は、前記導電性粉末の50重量%を超えていることが好ましい。つまり、本発明においては、アトマイズ銀薄片粉末は前記導電性粉末の主成分であればよく、併用可能なPd粉末、Pt粉末、Au粉末、Ni粉末、およびCu粉末(あるいは他の導電性粉末)を1種以上含有している場合には、これら他の金属の粉末は、50重量%以下であればよい。アトマイズ銀薄片粉末が前記導電性粉末の50重量%未満であれば、セラミックグリーンシートとともに焼成したときに、顕著な反りが発生する傾向にあるため好ましくない。ただし、導電ペーストに要求される物性等に応じて、導電性粉末中のアトマイズ銀薄片粉末の含有量を50重量%以下とすることも可能であることはいうまでもない。
【0035】
なお、本発明においては、アトマイズ銀薄片粉末が前記導電性粉末の主成分である限りにおいて、薄片化されていない銀粉末を併用することもできる。薄片化されていない銀粉末として、前記アトマイズ銀粉末であってもよいし、化学的還元法により製造された銀粉末であってもよい。含有量も特に限定されず、導電ペーストに要求される物性、使用条件等に応じて公知の範囲で含有させることができる。
【0036】
本発明に係る導電ペーストの製造方法は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。一般的には、アトマイズ銀薄片粉末を含む前記導電性粉末と、有機ビヒクルと、必要に応じて種々の添加剤を複数のロールを備える公知の混練装置にて混合および混練することによって製造することができる。また、本混練の前に公知の混練装置にて予備混練してもよい。なお、導電ペーストの組成、導電ペーストに要求される物性、または添加剤の種類等の条件によっては、各成分の混合または混練方法、添加方法等の種々の製造条件を公知の範囲内で変更することができ、あるいは、混合または混練以外の公知の工程を追加することができる。
【0037】
[導電ペーストの用途]
本発明に係る導電ペーストは、セラミックグリーンシートの導電層の形成に用いられる。当該セラミックグリーンシートは、これを複数枚積層して焼成することによって、セラミック多層回路基板が製造される。セラミックグリーンシートの導電層としては、回路基板上にパターン形成される配線電極層(いわゆる配線パターン)、上下の回路基板の導通を図るために、セラミックグリーンシートに形成されるビアホールに充填されるビアホール電極層が挙げられる。セラミック多層回路基板においては、配線電極層の大半とビアホール電極層とは各セラミック基板の間に形成されるので、これら電極層はセラミック多層回路基板の「内層」となる。また、セラミック多層回路基板の表面にも「表層」の配線電極層等が形成される。本発明に係る導電ペーストは、前記内層および表層のいずれの電極層の形成にも好適に用いることができる。
【0038】
本発明において、導電ペーストが塗布される対象であるセラミックグリーンシートは、セラミック多層回路基板で公知の構成のものであればよい。一例として、ガラスフリット成分および酸化アルミニウム成分等からなるセラミック成分を含有し、公知の方法でシート状に形成された構成のセラミックグリーンシート、800〜1000℃で焼成される焼成基板用ガラスセラミックグリーンシートを挙げることができる。
【0039】
また、セラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布する方法も特に限定されない。具体的には、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スピンコート、ディップコート、バーコート、インクジェット等の公知の塗布方法を挙げることができる。これらの中でも、配線電極層(配線パターン)を形成するためにはスクリーン印刷が好適に用いられる。
【0040】
導電ペーストを塗布した後のセラミックグリーンシートは公知の方法で積層され、公知の条件で焼成されることによって、セラミック多層回路基板が製造される。焼成によってセラミックグリーンシートはセラミック基板となり、導電ペーストは導電性粉末が融着することで導電層となる。ここで、本発明においては、導電ペーストが導電性粉末の主成分がアトマイズ銀薄片粉末であるので、焼成時のセラミックグリーンシートの収縮率と導電性粉末の収縮率とを概ね適合させることが可能となるので、反りの発生を抑制したセラミック多層回路基板を製造することができる。
【0041】
特に本発明においては、導電性粉末に含まれるアトマイズ銀薄片粉末が、従来の銀粉末とは異なり薄片状(フレーク状)であることから、銀粉末の形状の違いを導電ペーストの耐熱性の調整に利用することができる。それゆえ、導電ペーストの収縮率をセラミックグリーンシートの収縮率に近付けることが可能となり、収縮率のマッチングの幅を広げることが可能となる。
【0042】
したがって、本発明によれば、導電性粉末中のアトマイズ銀薄片粉末の含有量を調整したり、導電ペーストの組成そのものを調整したりすることで、収縮率を幅広く変化させることができるので、セラミックグリーンシートの収縮率に対応させた導電ペーストを得ることができる。その結果、導電ペーストおよびセラミックグリーンシートと同時に焼成しても、反りが非常に少ない導体回路を形成することが可能となり、特に、高密度化されたセラミック多層回路基板の製造に有効に用いることができる。
【実施例】
【0043】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例において、製造されたセラミック多層回路基板の反り量の測定は次に示す方法により行った。
【0044】
(反りの測定)
各実施例または各比較例において、得られたセラミック多層回路基板の全体の反り量を反りゲージ(デジマチック標準外側マイクロメータ、株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、当該全体の反り量から測定対象の基板の厚みを差し引いた値を、評価用の反り量とした。
【0045】
(銀粉末の製造)
公知のアトマイズ法または化学的還元法により、種々の平均粒径を有する球状の銀粉末を製造し、また、そのうちの一部のアトマイズ銀粉末を前述したボールミルにより潰す方法により薄片化し、フレーク状のアトマイズ銀薄片粉末を製造した。これにより、表1に示すように合計13種類の銀粉末の試料を得た。
【0046】
本実施例で用いられるアトマイズ銀薄片粉末の一例を図1(a)の電子顕微鏡写真に示し、薄片化する前のアトマイズ銀粉末の一例を図1(b)の電子顕微鏡写真に示す。また、アトマイズ銀粉末は、そのままのもの(Ag1〜Ag3)、薄片化する前のもの(Ag4〜Ag8、Ag13)、およびそれらの混合物(Ag11、Ag12)のいずれも最大粒径が40μm以下となっている。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例1)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す銀粉末Ag5(薄片化前の平均粒径2.0μm)を用いた。当該銀粉末Ag5および有機ビヒクル(樹脂成分:エチルセルロース、溶剤成分:ターピネオール)を表2に示す含有量で配合し、プラネタリーミキサーで予備混練した後に、3本ロールの混練装置(株式会社EME製UFO攪拌器)で混練することにより、本実施例の導電ペーストを調製した。
【0049】
また、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび酸化ホウ素を主成分とするガラスフリット50重量部と酸化アルミニウム50重量部とを混合したものをシート化して厚み200μmのセラミックグリーンシートを調製した。
【0050】
そして、セラミックグリーンシートの上に、本実施例の導電ペーストを10mm□の大きさでスクリーン印刷し、それらを5枚重ねて熱プレスした後に、最高温度900℃で1時間焼成することによってセラミック多層回路基板を製造し、その反りを前記の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0051】
(実施例2)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す銀粉末Ag6(薄片化前の平均粒径5.0μm)を用い、当該銀粉末Ag6および有機ビヒクルを表2に示す含有量で配合した以外は、前記実施例1と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0052】
(実施例3)
銀粉末Ag6および有機ビヒクルを表2に示す含有量で配合した以外は、前記実施例2と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0053】
(実施例4)
銀粉末Ag6および有機ビヒクルを表2に示す含有量で配合した以外は、前記実施例2と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0054】
(実施例5)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す銀粉末Ag7(薄片化前の平均粒径7.0μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0055】
(実施例6)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す銀粉末Ag8(薄片化前の平均粒径9μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0056】
(実施例7)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す混合銀粉末Ag11(平均粒径5.0μmの球状のアトマイズ粉末25重量%、アトマイズ薄片化前の平均粒径5μmの薄片粉末75重量%)を用いた以外は、前記実施例3と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
(比較例1)
アトマイズ銀薄片粉末の代わりに、表1に示す、薄片化していない球状のアトマイズ銀粉末のAg1(平均粒径2.7μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0059】
(比較例2)
表1に示すアトマイズ銀粉末のAg2(平均粒径5.0μm)を用いた以外は、前記比較例1と同様にして比較導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0060】
(比較例3)
表1に示すアトマイズ銀粉末のAg3(平均粒径7.6μm)を用いた以外は、前記比較例1と同様にして比較導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0061】
(比較例4)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示すAg4(薄片化前の平均粒径1.0μm)を用いた以外は、前記比較例1と同様にして比較導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0062】
(比較例5)
アトマイズ銀薄片粉末の代わりに、表1に示す、化学的還元法による球状の銀粉末のAg9(平均粒径5.5μm)を用い、当該銀粉末Ag9および有機ビヒクルを表3に示す含有量で配合した以外は、前記実施例1と同様にして比較導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0063】
(比較例6)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す混合銀粉末Ag12(平均粒径5.0μmの球状のアトマイズ粉末50重量%、アトマイズ薄片化前の平均粒径5μmの薄片粉末50重量%)を用いた以外は、前記実施例3と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0064】
(比較例7)
アトマイズ薄片粉末の代わりに、表1に示す、化学的還元法による球状の銀粉末をボールミルによる方法で薄片化した薄片粉末であるAg10を用いた以外は、前記実施例3と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表3に示す。
【0065】
(比較例8)
アトマイズ銀薄片粉末として表1に示す銀粉末Ag13(薄片化前の平均粒径10μm)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして導電ペーストを調製するとともに、セラミック多層回路基板を製造し、前記の方法で反りを測定した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表2および表3の結果から、本発明に係る導電ペーストを用いてセラミック多層回路基板を製造すれば、回路基板の反りの発生を有効に抑制できることがわかる。
【0068】
すなわち、(i)実施例1〜7および比較例1〜3、6の結果から、アトマイズ銀薄片粉末を用いた本発明に係る導電ペーストを用いれば、薄片化していないアトマイズ銀粉末を用いた比較導電ペーストを用いた場合よりも、回路基板の反り量を有効に低減できることがわかった。
【0069】
また、(ii)実施例1、5および6並びに比較例7の結果から、薄片化された銀粉末であっても、銀粉末が化学的還元法で製造されたものであれば、アトマイズ銀薄片粉末に比べて回路基板の反り量が大きくなることがわかった。
【0070】
また、(iii)実施例2〜4、7および比較例6の結果から、アトマイズ銀薄片粉末の含有量は50重量%を超えればよいが、含有量を高くしすぎると反り量が増大することがわかった。なお、実施例4の反り量は比較例6および8の反り量より大きいが、この反り量は、銀粉末および有機ビヒクルの組成に基づく相対的な大小を比較するための結果である。それゆえ、実施例4は、本願発明の権利範囲から外れる結果を示すものではない。
【0071】
また、(iv)比較例4および8、並びに、実施例1、5および6の結果から、薄片化前の平均粒径は2〜9μmの範囲内が好ましいことがわかった。
【0072】
また、(v)比較例5および7の結果から、化学的還元法により製造された銀粉末を用いた場合、薄片化されていても(比較例7)いなくても(比較例5)、アトマイズ銀薄片粉末を用いた場合(実施例1〜7、特に実施例3および7)だけでなく、薄片化されてないアトマイズ銀粉末を用いた場合(比較例1〜3)に比べても反り量が大きくなることがわかった。
【0073】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る導電ペーストは、セラミックグリーンシートを積層して製造されるセラミック多層回路基板の導電層の形成に好適に用いることができる。したがって、本発明は、セラミック多層回路基板の分野に広く好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することによってセラミック多層回路基板を製造するに際して、当該セラミックグリーンシートの導電層の形成に用いられる導電ペーストであって、
導電性粉末として少なくとも銀粉末を含有し、
当該銀粉末が、アトマイズ法により製造され、平均粒径が2〜9μmの範囲内であるとともに最大粒径が40μm以下であり、さらに薄片化されているものであることを特徴とする、セラミック多層回路基板用導電ペースト。
【請求項2】
前記銀粉末は、前記導電性粉末の50重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のセラミック多層回路基板用導電ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末の含有量は、95重量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のセラミック多層回路基板用導電ペースト。
【請求項4】
前記銀粉末以外の導電性粉末として、パラジウム、白金、金、ニッケルおよび銅の群から選択される少なくとも1種の金属の粉末を併用することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のセラミック多層回路基板用導電ペースト。



【図1】
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【公開番号】特開2012−151159(P2012−151159A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6698(P2011−6698)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(397059571)京都エレックス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】