説明

センサ付車輪用軸受

【課題】 荷重検出手段を滑りなく堅固に軸受に固定できて、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出できるセンサ付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 車輪用軸受は、複列の転走面3が内周に形成された外方部材1と、前記転走面3と対向する転走面4が外周に形成された内方部材2と、これら両部材の対向する転走面3、4間に介在した複列の転動体5とを備える。両部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった厚肉部1bを設け、車輪用軸受に作用する荷重を検出する荷重検出手段20を前記厚肉部1bの表面に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の固定輪である外輪のフランジ部外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、車輪用軸受の外輪に歪みゲージを貼り付け、歪みを検出するようにした車輪用軸受も提案されている(例えば特許文献2)。
【0003】
さらに、歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けた歪みセンサからなるセンサユニットを軸受の固定輪に取付け、前記歪み発生部材は、前記固定輪に対して少なくとも2箇所の接触固定部を有し、隣り合う接触固定部の間で少なくとも1箇所に切欠き部を有し、この切欠き部に前記歪みセンサを配置したセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献3)。
【0004】
特許文献3に開示のセンサ付車輪用軸受によると、車両走行に伴い回転輪に荷重が加わったとき、転動体を介して固定輪が変形するので、その変形がセンサユニットに歪みをもたらす。センサユニットに設けられた歪みセンサは、センサユニットの歪みを検出する。歪みと荷重の関係を予め実験やシミュレーションで求めておけば、歪みセンサの出力から車輪にかかる荷重等を検出することができる。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特表2003−530565号公報
【特許文献3】特開2007−57299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間に、静止摩擦力を超える力が作用した場合に滑りが伴うため、繰返し荷重を印加すると、出力信号にヒステリシスが発生するといった問題がある。
例えば、車輪用軸受に対してある方向の荷重が大きくなる場合、固定輪フランジ面とナックル面の間は、最初は荷重よりも静止摩擦力の方が大きいため滑らないが、ある大きさを超えると静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で荷重を小さくしていくと、やはり最初は静止摩擦力により滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この変形が生じる部分で荷重を推定しようとすると、出力信号に図11のようなヒステリシスが生じる。ヒステリシスが生じると、検出分解能が低下する。
特許文献2のように外輪に歪みゲージを貼り付けるのでは、組立性に問題がある。
また、特許文献3に開示のセンサ付車輪用軸受では、センサユニットが取付けられる軸受固定輪の外径面と内周の転走面の間の肉厚が薄く、しかも固定輪の外径面には焼入れ部があるため、センサユニットを堅固に固定できない。このため、センサユニットと軸受の固定輪外径面との間に滑りが生じ、その滑りに起因するヒステリシスがセンサユニットの出力信号に生じて、荷重を精度良く検出できない。
【0006】
この発明の目的は、荷重検出手段を滑りなく堅固に軸受に固定できて、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった厚肉部を設け、車輪用軸受に作用する荷重を検出する荷重検出手段を前記厚肉部の表面に固定したことを特徴とする。
この構成によると、固定側部材の厚肉部の表面に荷重検出手段を固定するので、その固定が堅固なものとなり、荷重検出手段と固定側部材との間での滑りを抑えることができ、荷重検出手段の出力信号に現れる前記滑りによるヒステリシスを小さくすることができる。その結果、車輪用軸受に作用する荷重を正確に検出できる。
【0008】
この発明において、前記厚肉部は、固定側部材の円周方向の一部を、円周方向の他の部分よりも厚肉としたものであっても良い。
【0009】
この発明において、前記固定側部材の厚肉部における前記荷重検出手段の設置面を平坦面としても良い。この構成の場合、荷重検出手段を安定良く厚肉部の表面に固定できる。
【0010】
この発明において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材の厚肉部表面に接触して固定される2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有するセンサユニットからなり、前記各接触固定部は、前記固定側部材の厚肉部表面に対して、軸方向に同寸法となるように設けても良い。
この構成の場合、センサユニットにおける歪み発生部材の2つ以上の接触固定部が固定側部材に接触固定されているので、固定側部材の歪みが歪み発生部材に拡大して伝達され、その歪みがセンサで感度良く検出され、その出力信号から荷重を検出できる。
また、固定側部材の厚肉部の表面に固定されるセンサユニットの各接触固定部の軸方向寸法が異なると、固定側部材から接触固定部を介して歪み発生部材に伝達される歪みも異なる。この構成の場合、センサユニットの各接触固定部を、固定側部材の厚肉部表面に対して軸方向に同寸法となるように設けているので、歪み発生部材に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。
【0011】
この発明において、前記歪み発生部材は、平面概形が均一幅の帯状、または平面概形が帯状で側辺部に切欠き部を有する薄板材からなるものであっても良い。
歪み発生部材が薄板材であると、固定側部材の歪みが歪み発生部材に拡大して伝達されやすく、その歪みがセンサで感度良く検出され、その出力信号に生じるヒステリシスも小さくなり、荷重を精度良く検出できる。また、歪み発生部材の形状が簡単なものとなり、量産性に優れたものとなる。その歪み発生部材を、平面概形が均一幅の帯状とした場合、さらに形状が簡単なものとなり、量産性が向上する。また、その歪み発生部材を、平面概形が帯状で側辺部に切欠き部を有するものとすると、固定側部材の歪みがさらに拡大されて歪み発生部材に伝達されるので、さらに精度良く荷重を検出できる。
【0012】
この発明において、前記固定側部材の厚肉部表面における前記センサユニットの隣り合う接触固定部の固定位置の間に溝を設けても良い。この構成の場合、接触固定部と厚肉部との間にスペーサを介在させることなく、歪み発生部材の隣り合う接触固定部の中間部位を厚肉部の表面から離して、検出感度を向上させることができ、センサユニットの取付け構造も簡単なものとなる。
【0013】
この発明において、前記固定側部材の厚肉部、または厚肉部および前記溝を鍛造により形成しても良い。この構成の場合、固定側部材の鍛造工程において厚肉部や溝を形成できるので、製造工程を増やすことなく厚肉部や溝を容易に形成できる。
【0014】
この発明において、前記センサユニットを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に配置しても良い。この構成の場合、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、軸方向荷重Fy 、および駆動力や制動力による荷重Fx を精度良く検出できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった厚肉部を設け、車輪用軸受に作用する荷重を検出する荷重検出手段を前記厚肉部の表面に固定したため、荷重検出手段を滑りなく堅固に軸受に固定できて、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0017】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0018】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには円周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0019】
図2は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0020】
固定側部材である外方部材1の外径面には、車輪用軸受に作用する荷重を検出する荷重検出手段として、2つのセンサユニット20が設けられている。これら2つのセンサユニット20は、外方部材1の外径面の円周方向における180度の位相差をなす位置に配置される。ここでは、2つのセンサユニット20を、タイヤ接地面に対して上下位置となる外方部材1の外径面における上面部および下面部の2箇所に設けることで、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重(垂直方向荷重)Fz を検出するようにしている。具体的には、図2のように、外方部材1の外径面における上面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に1つのセンサユニット20が配置され、外方部材1の外径面における下面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に他の1つのセンサユニット20が配置されている。
上記外方部材1の円周方向の一部である前記各センサユニット20が設置される上部および下部は、円周方向の他の部分よりも外径面が外径側に張り出して厚肉となった厚肉部1bとされている。これらの各厚肉部1bの表面に、前記各センサユニット20が固定されている。前記厚肉部1bは、外方部材1の鍛造形成において形成される。これにより、製造工程を増やすことなく厚肉部1bを容易に形成できる。
【0021】
これらのセンサユニット20は、図3および図4に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材21の歪みを検出するセンサ22とでなる。歪み発生部材21は、鋼材等の弾性変形可能な金属製の3mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり一定幅の帯状で中央の両側辺部に切欠き部21bを有する。なお、歪み発生部材21の平面概形は、前記切欠き部21bの無い単調な帯状としても良い。また、歪み発生部材21は、スペーサ23を介して外方部材1の前記厚肉部1bの表面に接触固定される2つの接触固定部21aを両端部に有する。なお、歪み発生部材21の形状によっては、接触固定部21aを2つ以上有するものとしても良い。センサ22は、歪み発生部材21における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、歪み発生部材21の外面側で両側辺部の切欠き部21bで挟まれる中央部位が選ばれている。なお、歪み発生部材21は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット20に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。
【0022】
前記センサユニット20は、その歪み発生部材21の2つの接触固定部21aが、外方部材1の軸方向に同寸法の位置で、かつ互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部21aがそれぞれスペーサ23を介してボルト24により外方部材1の厚肉部1bの表面に固定される。前記各ボルト24は、それぞれ接触固定部21aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔25からスペーサ23のボルト挿通孔26に挿通し、外方部材1の厚肉部1bに設けられたボルト孔27に螺合させる。このように、スペーサ23を介して外方部材1の厚肉部1bの表面に接触固定部21aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材21における切欠き部21bを有する中央部位が厚肉部1bの表面から離れた状態となり、切欠き部21bの周辺の歪み変形が容易となる。接触固定部21aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。外方部材1の厚肉部1b表面へセンサユニット20を安定良く固定する上で、厚肉部1bの表面は平坦面とするのが望ましい。
【0023】
センサ22としては、種々のものを使用することができる。例えば、センサ22を金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材21に対しては接着による固定が行なわれる。また、センサ22を歪み発生部材21上に厚膜抵抗体にて形成することもできる。
【0024】
センサユニット20のセンサ22は推定手段30に接続される。推定手段30は、センサ22の出力信号により、車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定する手段であり、信号処理回路や補正回路などが含まれる。この推定手段30は、前記作用力とセンサ22の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて作用力の値を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0025】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。センサユニット20における歪み発生部材21の2つの接触固定部21aが外方部材1に接触固定されているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され、その歪みがセンサ22で感度良く検出され、その出力信号から荷重を推定できる。とくに、荷重検出手段であるセンサユニット20を、固定側部材である外方部材1の外径面である厚肉部1bの表面に固定しているので、外方部材1の外径面へセンサユニット20を堅固に固定して、センサユニット20と外方部材1の外径面との間での滑りを抑えることができ、前記センサ22の出力信号に現れる前記滑りによるヒステリシスを小さくすることができる。その結果、荷重を精度良く推定できる。
【0026】
固定側部材である外方部材1の外径面(厚肉部1bの表面)に固定されるセンサユニット20の各接触固定部21aの軸方向寸法が異なると、外方部材1の外径面から接触固定部21aを介して歪み発生部材21に伝達される歪みも異なる。この実施形態では、センサユニット20の各接触固定部21aを、外方部材の厚肉部1bの表面に対して軸方向に同寸法となるように設けているので、歪み発生部材21に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。
【0027】
また、歪み発生部材21が薄板材からなるので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され易く、その歪みがセンサ22で感度良く検出され、その出力信号に生じるヒステリシスも小さくなり、荷重を精度良く推定できる。また、歪み発生部材21の形状が簡単なものとなり、量産性に優れたものとなる。歪み発生部材21を、平面概形が単調な帯状とした場合、さらに形状が簡単なものとなり、量産性が向上する。また、歪み発生部材21を、図3のように平面概形が帯状で側辺部に切欠き部21bを有するものとすると、外方部材1の歪みがさらに拡大されて歪み発生部材21に伝達されるので、さらに精度良く荷重を推定できる。
【0028】
上記説明では車輪のタイヤと路面間の作用力を検出する場合を示したが、車輪のタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば予圧量)を検出するものとしても良い。
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0029】
また、垂直方向荷重Fz に対しては、固定側部材である外方部材1は上面部と下面部で変形するが、この実施形態では、2つのセンサユニット20を、タイヤ接地面に対して上下位置となる外方部材1の外径面の上面部と下面部とに配置しているので、それらのセンサ22の出力信号から軸方向荷重Fy と垂直方向荷重Fz とを精度良く推定できる。
【0030】
なお、センサユニット20の他の設置例として、4つのセンサユニット20を、図5のように、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材1の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に配置しても良い。この場合、外方部材1の外径面の右面部および左面部にも、上面部および下面部の厚肉部1bと同様の厚肉部1bを設け、それらの厚肉部1bの表面に各センサユニット20を固定する。駆動力や制動力による荷重Fx に対しては、固定側部材である外方部材1の右面部と左面部が変形するので、この場合には、それらのセンサ22の出力信号から、駆動力や制動力による荷重Fx とを精度良く推定できる。つまり、外方部材1の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部にセンサユニット20を配置した場合には、垂直方向荷重Fz 、軸方向荷重Fy 、および駆動力や制動力による荷重Fx を精度良く推定できる。
【0031】
図6および図7は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図4に示す実施形態のセンサ付車輪用軸受において、図7に拡大断面図で示すように、外方部材1の外径面(厚肉部1bの表面)における歪み発生部材21の2つの接触固定部21aが固定される2箇所の中間部に溝1cを設けることで、前記スペーサ23を省略し、歪み発生部材21における切欠き部21bが位置する2つの接触固定部21aの中間部位を外方部材1の厚肉部1bの表面から離すようにしている。この場合の前記厚肉部1bおよびその表面の溝1cは、外方部材1の鍛造形成において形成される。これにより、製造工程を増やすことなく厚肉部1bおよび溝1cを容易に形成できる。その他の構成は図1〜図4の実施形態の場合と同様である。
【0032】
このように、厚肉部1bの表面における2つの接触固定部21aが固定される2箇所の中間部に溝1cを設けると、スペーサ23を省略して歪み発生部材21の中間部位を厚肉部1bの表面から離すことができるので、厚肉部1bへのセンサユニット20の取付け構造が簡単なものとなる。
【0033】
図8ないし図10は、この発明のさらに他の実施形態を示す。このセンサ付車輪用軸受では、図1〜図4に示す実施形態において、センサユニット20を以下のように構成している。この場合も、センサユニット20は、図10に拡大断面図で示すように、歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材21の歪みを検出するセンサ22とでなる。歪み発生部材21は、外方部材1の外径面に対向する内面側に張り出した2つの接触固定部21aを両端部に有し、これら接触固定部21aで外方部材1の外径面に接触して固定される。図9のように、外方部材1にはその外径面の一部が外径側に張出した厚肉部1bが設けられ、その厚肉部1bの表面に2つの接触固定部21aが固定されることは図1〜図4の実施形態と同じである。なお、図8は、図9のVIII− VIII 矢視断面図を示す。2つの接触固定部21aのうち、1つの接触固定部21aは、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に配置され、この位置よりもアウトボード側の位置にもう1つの接触固定部21aが配置され、かつこれら両接触固定部21aは互いに外方部材1の円周方向における同位相の位置に配置される。つまり、センサユニット20は、その歪み発生部材21の2つの接触固定部21aが、固定側部材である外方部材1の同一周方向位置でかつ軸方向に互いに離れた位置となるように、外方部材1の厚肉部1b表面に配置される。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。この場合も、外方部材1の厚肉部1b表面へセンサユニット20を安定良く固定する上で、厚肉部1bの表面を平坦面に形成するのが望ましい。
また、歪み発生部材21の中央部には内面側に開口する1つの切欠き部21bが形成されている。歪みセンサ22は、歪み発生部材21における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、前記切欠き部21bの周辺、具体的には歪み発生部材21の外面側で切欠き部21bの背面側となる位置が選ばれており、歪みセンサ22は切欠き部21bの周辺の歪みを検出する。
【0034】
歪み発生部材21の2つの接触固定部21aは、それぞれボルト47により外方部材1の厚肉部1bの表面へ締結することで固定される。具体的には、これらボルト47は、それぞれ接触固定部21aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔48に挿通し、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔49に螺合させる。なお、接触固定部21aの固定方法としては、ボルト47による締結のほか、接着剤などを用いても良い。歪み発生部材21の接触固定部21a以外の箇所では、外方部材1の外径面との間に隙間が生じている。
【0035】
この実施形態では、前記センサニット20のほかに、図8に示すように、内方部材2の回転を検出する回転検出器40が設けられる。この回転検出器40は、インボード側のシール8のスリンガに共用される磁気エンコーダ51と、この磁気エンコーダ51に対して軸方向に対面する磁気センサ52とでなるアキシアル型の回転検出器である。
【0036】
センサユニット20のセンサ22と回転検出器40の磁気センサ52とは平均化処理手段29に接続される。平均化処理手段29は、センサ22の出力信号を平均化する手段である。
センサユニット20は、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に設けられるので、センサ22の出力信号は転動体5の影響を受ける。すなわち、転動体5がセンサユニット20におけるセンサ22に最も近い位置を通過するとき、センサ22の出力信号の振幅はピーク値となり、転動体5がその位置から遠ざかるにつれて低下する。転動体5は所定の配列ピッチで前記センサユニット20の設置部の近傍を順次通過するので、センサ22の出力信号は、その振幅が転動体の配列ピッチを周期とする波形となる。そこで、前記平均化処理手段29は、転動体5が配列ピッチ分公転する期間での前記出力信号の振幅を平均化して、転動体5の影響を解消する。この平均化処理手段29の次段に推定手段30が設けられる。推定手段30は、前記平均化処理手段29で求められた前記センサ22の出力信号の平均値から、車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定する。その他の構成は、図1〜図4の実施形態の場合と同様である。
【0037】
なお、以上の各実施形態では、外方部材1が固定側部材である場合につき説明したが、この発明は、内方部材が固定側部材である車輪用軸受にも適用することができ、その場合、センサユニット20は内方部材の内周となる周面に設ける。
また、前記各実施形態では第3世代型の車輪用軸受に適用した場合につき説明したが、この発明は、軸受部分とハブとが互いに独立した部品となる第1または第2世代型の車輪用軸受や、内方部材の一部が等速ジョイントの外輪で構成される第4世代型の車輪用軸受にも適用することができる。また、このセンサ付車輪用軸受は、従動輪用の車輪用軸受にも適用でき、さらに各世代形式のテーパころタイプの車輪用軸受にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。
【図3】同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの拡大平面図である。
【図4】図3におけるIV−IV矢視断面図である。
【図5】センサユニットの他の設置例を示す外方部材の正面図である。
【図6】この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。
【図7】同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの拡大断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図9】同センサ付車輪用軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。
【図10】同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの拡大断面図である。
【図11】従来例での出力信号におけるヒステリシスの説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…外方部材
1b…厚肉部
1c…溝
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
20…センサユニット(荷重検出手段)
21…歪み発生部材
21a…接触固定部
21b…切欠き部
22…センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の一部に、部分的に厚肉となった厚肉部を設け、車輪用軸受に作用する荷重を検出する荷重検出手段を前記厚肉部の表面に固定したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記厚肉部は、固定側部材の円周方向の一部を、円周方向の他の部分よりも厚肉としたものであるセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記固定側部材の厚肉部における前記荷重検出手段の設置面を平坦面としたセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記荷重検出手段は、前記固定側部材の厚肉部表面に接触して固定される2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有するセンサユニットからなり、前記各接触固定部は、前記固定側部材の厚肉部表面に対して、軸方向に同寸法となるように設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項4において、前記歪み発生部材は、平面概形が均一幅の帯状、または平面概形が帯状で側辺部に切欠き部を有する薄板材からなるセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、前記固定側部材の厚肉部表面における前記センサユニットの隣り合う接触固定部の固定位置の間に溝を設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記固定側部材の厚肉部、または厚肉部および前記溝を鍛造により形成したセンサ付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項4ないし請求項7のいずれか1項において、前記センサユニットを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に配置したセンサ付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−192390(P2009−192390A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33921(P2008−33921)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】