説明

タイヤの製造方法、及び、タイヤ成形用金型

【課題】リム組み時のエア保持性を充分に確保するとともに、タイヤ成形時でのビードコアの位置ずれを抑制しつつビード部の強度を高めたタイヤの製造方法、及び、タイヤ成形用金型を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明では、キャビティS内で進退動する補助ジグ22を備えてタイヤ骨格部材を成形する金型を用いる。キャビティS内に進出させた補助ジグ22でビードコア11を保持した状態で、溶融樹脂をキャビティS内に注入する。そして、キャビティS内で固化した溶融樹脂でビードコア11を保持可能となった後、補助ジグ22をビードコア11から後退させて補助ジグ22が当接していたビードコア部分11Pを露出させ、溶融樹脂をキャビティ内に注入することでビードコア部分11Pを樹脂で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料を注入してタイヤ骨格部材を成形するタイヤの製造方法、及び、タイヤ成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム、有機繊維材料、及びスチール部材で形成されているタイヤが知られている。近年、軽量化やリサイクルのし易さの観点から、樹脂材料をタイヤに用いることが求められている。ここで記載する樹脂材料とは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含む概念であり、熱や電子線によって架橋が生じる樹脂や、熱転位によって硬化する樹脂も含む概念である。
このような樹脂を用いた例として、例えば特許文献1には、熱可塑性エラストマー(TPE)でビードコアを覆ってタイヤ骨格部材を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−116504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、リム組み時にリムフィットさせる面に、ビードコアにまで到達する孔がタイヤに形成されてしまうので、リム組み時のエア保持性が不充分である場合が考えられる。更に、支持片が鋼線により構成されているものの、ビードコア保持のための案内部により湾曲しているため、釜抜き時にビードコア周辺のエラストマーが破壊してしまうことも考えられる。
【0005】
案内部に上記湾曲を形成しないことや、更に剛性の低い線材を用いることにより、釜抜き時のエラストマーの破壊を防止する対策が考えられるが、この場合、熱可塑性エラストマーの注入時にビードコアの位置がずれて、ビードコアを保護するエラストマー部の厚みが部分的に不充分となってしまうという問題が生じることが考えられる。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、リム組み時のエア保持性を充分に確保するとともに、タイヤ成形時でのビードコアの位置ずれを抑制しつつビード部の強度を高めたタイヤの製造方法、及び、タイヤ成形用金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、キャビティ内で進退動するビードコア保持用のジグを備えてタイヤ骨格部材を成形する金型を用い、前記キャビティ内に進出させた前記ジグでビードコアを保持し、溶融した樹脂材料を前記キャビティ内に注入し、前記キャビティ内の樹脂材料で前記ビードコアを保持可能となった後、前記ジグを前記ビードコアから後退させて前記ジグが当接していたビードコア部分を露出させるとともに、溶融した樹脂材料を前記キャビティ内に注入することで露出した該ビードコア部分を樹脂材料で覆う。
【0008】
タイヤ骨格部材は、通常、トロイダル状である。
請求項1に記載の発明では、ビードコアをジグに当接させてキャビティ内に固定した状態で、溶融した樹脂材料をキャビティ内に注入する。
そして、注入した樹脂材料が完全ではなくともある程度に固化することでジグがなくてもビードコアを保持可能な状態になった後、ジグをビードコアから後退させてビードコアに非当接とする。この結果、ジグが当接していたビードコア部分がキャビティ内に露出する。また、溶融した樹脂材料をキャビティ内に注入して、この露出したビードコア部分を樹脂材料で覆う。
これにより、ビードコアが露出している部分が形成されないタイヤ骨格部材が形成される。従って、リム組み時のエア保持性が充分に確保され易く、しかも、タイヤ成形時でのビードコアの位置ずれを抑制しつつビード部の強度を高めたタイヤを製造することができる。
【0009】
なお、ジグをビードコアに非当接とした後、ビード部を意図した形状にする金型部分をジグに代えて配置することが好ましい。この場合、金型内でそのような金型部分がジグと入れ替えで配置される構造にしてもよいし、ジグが複数部材で構成され、ジグの一部がそのような金型部分を構成する構造にしてもよい。
このような金型を配置することでビード部が意図した形状に成形されるので、ビード部の強度を充分に上げることができる。
【0010】
溶融した樹脂材料(熱可塑性材料や熱硬化性材料など)の注入は射出成形をするための高圧の注入であってもよい。また、タイヤ骨格部材をチューブ状に形成して、タイヤ骨格部材内に空気を充填できる構造にしてもよい。
樹脂材料としては、ゴム様の弾性を有する熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)や熱硬化性樹脂等を用いることができるが、走行時の弾性と製造時の成形性とを考慮すると熱可塑性エラストマーを注入することが好ましい。
【0011】
請求項2に記載の発明は、樹脂材料として熱可塑性材料を用いる。これにより、溶融した熱可塑性材料をキャビティ内に注入し、キャビティ内壁から熱を奪うことにより熱可塑性材料を固化させることができるので、タイヤの製造が容易である。また、再利用が容易であることから、資源の有効利用が可能である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、樹脂材料で前記ビードコアを保持可能となった後、前記ジグを前記ビードコアから後退させながら樹脂材料を前記キャビティ内に注入する。
これにより、ジグを後退させた後に樹脂材料を注入する場合に比べ、既に注入した樹脂材料が固化し過ぎる前に樹脂材料を注入することができる。従って、ジグの後退により形成される隙間に、周囲の樹脂材料を押圧変形させて入れ込み易い。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記ジグを前記ビードコアから後退させるタイミングを、前記キャビティの寸法と、前記キャビティ内に注入する樹脂材料の温度と、樹脂材料の注入流量と、に基づいて決定する。
これにより、注入した樹脂材料の固化状態などを検出しなくても、請求項1に記載の発明の効果を奏することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記ビードコアを磁性体で形成し、前記ジグに磁気を帯びさせる。
ジグに磁気を帯びさせるには、ジグを磁石で形成してもよいし、ジグ外部から磁石等で磁力線をジグに及ぼしてもよい。
請求項5に記載の発明により、ビードコアをジグで保持し易い。また、ジグを後退させる際にも容易に可動させることができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記キャビティの周方向に沿って前記ジグを複数配置する。
これにより、ビードコアの位置精度をより向上させることができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、前記ビードコアのうちタイヤ内側となる部位に前記ジグを当接させ、溶融した樹脂材料をビード部となる側から注入する。
請求項7に記載の発明では、溶融した樹脂材料を注入すると、ジグが当接しているビードコア部分では、溶融した樹脂材料がビードコアのタイヤ外側のキャビティ部分を通過する。このため、ビードコアがタイヤ外側からタイヤ内側に向けて押圧される。従って、注入時にビードコアが受ける移動力をジグで充分に支えることができる。また、ジグが当接していたビードコア部分は、ジグが後退することで露出するとともに樹脂材で覆われるが、このビードコア部分を覆う樹脂材部分にリムフランジが当接することはない。従って、この樹脂材部分の形状を厳密な設定形状としなくても、リム組時のエア保持性に問題はない。
【0017】
請求項8に記載の発明は、前記タイヤ骨格部材として、ビード部からタイヤセンターまでの骨格部分を形成する。
請求項8に記載の発明では、タイヤ半部を構成するタイヤ骨格部材を形成することになる。従って、2つのタイヤ骨格部材をタイヤセンターで接合することにより、タイヤ全体用のビードコア付きの骨格部材を形成することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、溶融した樹脂材料を注入することでタイヤ骨格部材を成形するキャビティと、キャビティ内で進退動するビードコア保持用のジグと、を備えている。
請求項9に記載の発明では、キャビティ内にジグを進出させ、ジグでビードコアを保持させた状態で樹脂材料を注入する。
【0019】
そして、注入した溶融樹脂がある程度に固化することでジグがなくてもビードコアを保持可能な状態となった後、ジグをビードコアから後退させてビードコアに非当接とする。この結果、ジグが当接していたビードコア部分がキャビティ内に露出する。また、溶融した樹脂材料をキャビティ内に注入して、この露出したビードコア部分を樹脂材料で覆う。
これにより、ビードコアが露出している部分が形成されないタイヤ骨格部材が形成される。従って、リム組み時のエア保持性を充分に確保し、しかも、タイヤ成形時でのビードコアの位置ずれを抑制しつつビード部の強度を高めたタイヤを製造するタイヤ成形用金型が実現される。
【0020】
ここで、ジグをビードコアに非当接とした後、ビード部を意図した形状にする金型部分がジグに代えて配置される構造にしておくことが好ましい。この場合、金型内でそのような金型部分がジグと入れ替えて配置される構造にしてもよいし、ジグが複数部材で構成され、ジグの一部がそのような金型部分を構成する構造にしてもよい。
これにより、ビード部の強度を充分に上げることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リム組み時のエア保持性を充分に確保するとともに、タイヤ成形時でのビードコアの位置ずれを抑制しつつビード部の強度を高めたタイヤの製造方法、及び、タイヤ成形用金型とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態で用いるタイヤ成形用金型で、ビードコア内側に当接するジグが設けられた位置での平面断面図、及び、ビードコア外側に当接する補助ジグが設けられた位置での部分拡大断面図である。
【図2】図2(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態で、補助ジグがビードコアに当接した状態、及び、補助ジグがビードコアから離れた状態を示す部分拡大断面図である。
【図3】図3(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態で、キャビティ内に熱可塑性材料が放射状に注入されることを説明する斜視図、及び、図3(A)でビードコアを描かない部分拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態で用いるタイヤ成形用金型で、ジグに代えてビードコア形成用金型部分が配置された位置での平面断面図である。
【図5】本発明の一実施形態で、ビードコアが露出していた部分を熱可塑性材料で覆うことを説明する斜視図である。
【図6】タイヤ全体のタイヤ骨格部材を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、樹脂材料として熱可塑性材料を用いる実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。本発明の一実施形態では、図1に示すような金型(タイヤ成形用金型)10を用いる。この金型10は、ビード部B(図5、図6参照)からタイヤセンターCL(図6参照)までを構成するタイヤ骨格部材20(図6参照)を成形することができるように、タイヤ外面側を成形する外金型12と、タイヤ内面側を成形する内金型14とを有する。内金型14にはビードコア固定用の主ジグ16が設けられている。外金型12と内金型14との間には、タイヤ骨格部材形状のキャビティS(空間)が形成されている。
【0024】
本実施形態では、主ジグ16は、ビードコア収容位置に沿って均等間隔で12個配置されている。この主ジグ16は、キャビティS内への進退方向位置の設定が可変とされており、後述のビードコア形成用金型部分26と入れ替えられ得る構成にされている。この入れ替えを行うことが可能なように、内金型14には、主ジグ16の後退方向側に移動スペース19が形成されている。
【0025】
この主ジグ16には、ビードコア11の外形に応じた凹部17が形成されており、ビードコア11が金型10内に配置されたときにはビードコア11の一部がこの凹部17に入って保持された状態となる。この結果、ビードコア11は、タイヤ内側方向への移動が規制されるとともに上下方向(タイヤ径方向)の移動も規制された状態となる。
【0026】
この主ジグ16は、設定位置に進退動可能に設けられており、図1に示すように、主ジグ16が進出した位置が、ビードコア11の一部が凹部17に入る位置、すなわちビードコア11をタイヤ内側から支えることができる位置である。
【0027】
そして、金型10には、ビードコア11の位置ずれを更に防止すべく、キャビティS内への進退方向位置の設定が可変な補助ジグ22が設けられており、この補助ジグ22をビードコア11にタイヤ外側から僅かな領域で当接させた状態にして、熱可塑性の溶融樹脂Fをキャビティ内へ放射状に注入することが可能になっている。補助ジグ22も複数配置されている。
【0028】
図2に示すように、補助ジグ22の先端面(ビードコア11への当接面)22Tは、補助ジグ22が退避した位置で周囲のキャビティ内壁と面一となり、ビード部Bを意図した形状に成形する成形面となっている。この退避が可能なように、外金型12には、補助ジグ22の後退方向側に移動スペース23が形成されている(図1、図4参照)。
【0029】
更に、図4に示すように、金型10には、主ジグ16の後退時に、主ジグ16に代えて配置されるビードコア形成用金型部分26が設けられている。ビードコア形成用金型部分26は、ビードコア11の外形に沿った湾曲凹状のキャビティ内壁面28を有している。そして、ビードコア形成用金型部分26が主ジグ16に代えて配置された状態で熱可塑性の溶融樹脂Fが注入されることにより、タイヤ骨格部材20のビード部B(図5、図6参照)を意図した形状に成形できるようになっている。
【0030】
また、金型10のゲート(樹脂注入路)18は、ビードコア11が凹部17に入った状態でビードコア11のタイヤ外側を溶融状態の熱可塑性高分子材料が通過するように、形成されている。熱可塑性高分子材料は、例えば熱可塑性エラストマー(TPE)や熱可塑性樹脂である。
【0031】
ゲート18はリング状に開口したディスクゲートであり、キャビティSはリング状のゲート18に連通して中空円盤状に広がるように形成されている。なお、ゲート18はピンゲートであってもよいが、成形性の観点で、このようにディスクゲートのほうが好ましい。
【0032】
本実施形態では、この金型10内にビードコア11を所定位置に配置し、熱可塑性樹脂などの熱可塑性高分子材料を注入して、タイヤ一方側半部を構成するタイヤ骨格部材20(図6参照)を成形する。
そして、図6に示すように、タイヤ一方側半部とタイヤ他方側半部とをタイヤセンターCLで接合して、タイヤ全体用のタイヤ骨格部材Zを形成する。
【0033】
更に、クラウン部の補強としてスチールコードKをタイヤ周方向に螺旋巻きに巻き付け、周方向の剛性を上げる。更には、スチールコードKはタイヤ骨格部材Zに埋設されていてもよい。また、ホイール(リムフランジ)に嵌合する部位にゴム材G1を貼り付けて、リムへのフィット性を向上させる。また、路面に接する部位にゴム材(トレッドゴムG2)を貼り付けて、耐摩耗性、耐破壊性を向上させる。
【0034】
以下、熱可塑性樹脂を用い、この金型10で、タイヤ骨格部材20を成形することの作用、効果について説明する。
まず、金型10を開き、ビードコア11のタイヤ内側部を主ジグ16の凹部17に入れてビードコア11を主ジグ16で保持し、金型10を閉じて、補助ジグ22でビードコア11のタイヤ外側を支える。
【0035】
なお、ビードコア11は、金属単体や樹脂単体で構成されていてもよいし、金属のフィラメントに樹脂を被覆したものを重ねながらビードコア11の形状にしてもよい。この場合、フィラメントに被覆する樹脂としては、タイヤ骨格部材20を形成する熱可塑性樹脂に比べ、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。また、フィラメントを被覆する樹脂のヤング率がタイヤ骨格部材20を形成する熱可塑性樹脂の0.1〜2倍の範囲であってもリム組み性に問題はない。
【0036】
そして、ゲート18から熱可塑性の溶融樹脂Fを金型10内に注入して射出成形して、タイヤ骨格部材20を形成する。
この注入の際、主ジグ16が当接しているビードコア部分では、溶融樹脂Fは、ゲート18からビードコア11と外金型12との間のキャビティ部分を経由するように注入されるので、ビードコア11がタイヤ外側からタイヤ内側に向けて押圧される。従って、ビードコア11が受ける移動力を主ジグ16で充分に支えることができる。
【0037】
本実施形態では、注入した熱可塑性の溶融樹脂Fがある程度に固化することでビードコア11を支持可能となった後、まず、補助ジグ22をビードコア11から後退させる。補助ジグ22をビードコア11から後退させるタイミングについては、キャビティSの寸法と、キャビティS内に注入する熱可塑性の溶融樹脂Fの温度と、溶融樹脂Fの注入流量と、に基づいて予め決定しておく。このタイミングは、補助ジグ22がビードコア11から離れても半固化状態の樹脂と主ジグ16とによってビードコア11を保持でき、しかも、熱可塑性の溶融樹脂Fを注入することで、補助ジグ22の後退によって露出したビードコア部分11Pを樹脂で覆うことができるタイミングである。
【0038】
補助ジグ22が後退することで、補助ジグ22が当接していたビードコア部分11PがキャビティS内で露出する(図2参照)。この後退をさせつつ、熱可塑性の溶融樹脂FをキャビティS内に注入し続ける。この結果、補助ジグ22の周囲に位置する既に注入された半固化状態の樹脂が、注入された溶融樹脂に押圧されて変形し、補助ジグ22が後退した空間V(図2(B)参照)を順次埋めていく。従って、ビードコア部分11Pは溶融樹脂で覆われ、ビード部11のタイヤ外側は意図した形状に成形される。
【0039】
更に、主ジグ16をビードコア11から後退させる。本実施形態では、主ジグ16をビードコア11から後退させるタイミングについては、補助ジグ22の場合と同様、キャビティSの寸法と、キャビティS内に注入する熱可塑性の溶融樹脂の温度と、溶融樹脂の注入流量と、に基づいて予め決定しておく。このタイミングは、主ジグ16がビードコア11から離れても固化した樹脂によってビードコア11を支持できるタイミングである。
【0040】
主ジグ16が後退した結果、主ジグ16が当接していたビードコア部分11QがキャビティS内で露出する(図3参照)。
また、ビードコア形成用金型部分26を金型10内で移動させて、内金型14の所定位置にまで到達させる(図4参照)。この所定位置とは、ビードコア形成用金型部分26のキャビティ内壁面28が、周囲の金型内壁面とでビード部Bを意図した形状に成形することができる位置のことである。
そして、熱可塑性の溶融樹脂をキャビティS内に注入することで、露出しているビードコア部分11Qを溶融樹脂で覆って熱可塑性材(固化した樹脂)を形成する(図5参照)。従って、ビードコア部分11Qは樹脂で覆われ、ビード部Bのタイヤ内側は意図した形状に成形される。
【0041】
このようにして形成されたタイヤ骨格部材20では、ビード部Bは全周にわたって樹脂で覆われている。従って、このタイヤ骨格部材20を用いた空気入りタイヤでは、リム組み時のエア保持性が充分に確保され易い。しかも、ビード部Bが全周にわたって張力を負担することができ、ビード部Bの強度が充分に高い。
【0042】
また、補助ジグ22を後退させつつ、溶融樹脂を注入し続けている。従って、補助ジグ22を後退させた後に溶融樹脂を注入する場合に比べ、既に注入した溶融樹脂が固化し過ぎる前に溶融樹脂を注入することができる。よって、補助ジグ22の後退により形成される隙間に、周囲の半固化状態の樹脂を押圧変形させて入れ込んで埋めることが容易である。
【0043】
また、本実施形態では、補助ジグ22や主ジグ16をビードコア11から後退させるタイミングについては、キャビティSの寸法と、キャビティS内に注入する熱可塑性の溶融樹脂の温度と、に基づいてそれぞれ予め決定している。従って、注入した溶融樹脂の固化状態などを検出する必要がない。
そして、熱可塑性の溶融樹脂を注入する際、射出成形をするために高圧で注入しても、このような効果が得られる。
【0044】
また、ビードコア収容位置に沿って複数位置に補助ジグ22及び主ジグ16を配置している。これにより、ビードコア11の位置精度をより向上させることができる。
また、主ジグ16をマグネット材(磁石)で形成し、ビードコア11を、磁力で吸着されるように磁性体で形成されたものを用いてもよい。これにより、主ジグ16でビードコア11を保持し易く、また、補助ジグ22の後退の際、ビードコア11を保持する樹脂が半固化状態で保持力が弱くても、補助ジグ22を容易に可動させることができる。この場合、磁力をビードコア11の方向以外に逃がさないようにする遮蔽部材で覆った主ジグを用いてもよい。
【0045】
また、溶融樹脂Fを注入する際、主ジグ16が当接しているビードコア部分では、溶融樹脂Fは、ビードコア11と外金型12との間のキャビティ部分を経由するように注入される。このため、注入時にビードコア11がタイヤ外側からタイヤ内側に向けて押圧されるので、ビードコア11が受ける移動力を主ジグ16で充分に支えることができる。
【0046】
また、タイヤ骨格部材20として、ビード部BからタイヤセンターCLまでの骨格部分を形成している。すなわち、タイヤ半部を構成するタイヤ骨格部材20を形成することになる。従って、2つのタイヤ骨格部材をタイヤセンターCLで接合することにより、タイヤ全体用のビードコア付きの骨格部材を形成することができる。タイヤセンターCLで接合する接合部材21は、タイヤ骨格部材20と同じ種類の樹脂で形成されてもよいし、タイヤ骨格部材20とは異なる種類の樹脂で形成されてもよい。
【0047】
なお、本実施形態では、タイヤ半部を構成するタイヤ骨格部材20を形成することで説明したが、本発明はこれに限られず、チューブ状のタイヤ骨格部材を形成して、このタイヤ骨格部材内に空気を充填できる構造にしてもよい。また、トロイダル状のタイヤ骨格部材を形成してもよい。
【0048】
また、複数の補助ジグ22や主ジグ16をビードコア11から後退させて離す際、後退させる時刻を順次ずらして、いわゆる時間遅れが生じたように後退させることにより、ビード部Bを更に意図した形状とすることも可能である。
【0049】
また、本実施形態では、補助ジグ22や主ジグ16をビードコア11から離すタイミングを、キャビティSの寸法と、キャビティS内に注入する熱可塑性の溶融樹脂の温度と、溶融樹脂の注入流量と、に基づいてそれぞれ予め決定しておくことで説明したが、センサ(例えば、樹脂温度を測定する温度センサ)を金型10に配置し、センサで計測された温度等に基づいて、補助ジグ22や主ジグ16をビードコア11から離すタイミングを設定してもよい。
【0050】
また、主ジグ16でビードコア11を保持することで、溶融樹脂の注入時でのビードコア11の位置ずれを充分に防止することができる場合には、補助ジグ22を用いないで溶融樹脂を注入してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、主ジグ16をビードコア形成用金型部分26と入れ替えて、露出したビードコア部分11Qに樹脂を成形することで説明したが、主ジグ16をビードコア11から後退させつつ熱可塑性の溶融樹脂Fを注入することでビードコア部分11Qを樹脂で覆うことも可能である。
【0052】
また、本実施形態では、熱可塑性材料として熱可塑性の溶融樹脂をキャビティ内に注入することで説明したが、熱可塑性エラストマー(TPE)を注入してもよい。
【0053】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、熱可塑性合成樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0054】
更にこれらの熱可塑性材料としては、例えば、ISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)が75℃以上、JIS K7113に規定される引張降伏強さが10MPa以上、同じくJIS K7113に規定される引張降伏点伸びが10%以上、同じくJIS K7113に規定される引張破壊伸びが50%以上、JIS K7206に規定されるビカット軟化温度(A法)が130℃以上であるものを用いることができる。
【0055】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、上記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。例えば、樹脂材料として熱可塑性材料を用いることで説明したが、ユリヤ樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてタイヤを製造してもよく、本発明では用いる樹脂材料は熱可塑性材料には限られない。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
10 金型(金型、タイヤ成形用金型)
11 ビードコア
11P、Q ビードコア部分
16 主ジグ(ジグ)
20 タイヤ骨格部材
22 補助ジグ(ジグ)
B ビード部
CL タイヤセンター
S キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ内で進退動するビードコア保持用のジグを備えてタイヤ骨格部材を成形する金型を用い、
前記キャビティ内に進出させた前記ジグでビードコアを保持し、
溶融した樹脂材料を前記キャビティ内に注入し、
前記キャビティ内の樹脂材料で前記ビードコアを保持可能となった後、前記ジグを前記ビードコアから後退させて前記ジグが当接していたビードコア部分を露出させるとともに、溶融した樹脂材料を前記キャビティ内に注入することで露出した該ビードコア部分を樹脂材料で覆う、タイヤの製造方法。
【請求項2】
樹脂材料として熱可塑性材料を用いる、請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
樹脂材料で前記ビードコアを保持可能となった後、前記ジグを前記ビードコアから後退させながら樹脂材料を前記キャビティ内に注入する、請求項1または請求項2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記ジグを前記ビードコアから後退させるタイミングを、前記キャビティの寸法と、前記キャビティ内に注入する樹脂材料の温度と、樹脂材料の注入流量と、に基づいて決定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ビードコアを磁性体で形成し、前記ジグに磁気を帯びさせる、請求項1〜4のうち何れか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記キャビティの周方向に沿って前記ジグを複数配置する、請求項1〜5のうち何れか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記ビードコアのうちタイヤ内側となる部位に前記ジグを当接させ、溶融した樹脂材料をビード部となる側から注入する、請求項1〜6のうち何れか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記タイヤ骨格部材として、ビード部からタイヤセンターまでの骨格部分を形成する、請求項1〜7のうち何れか1項に記載のタイヤの製造方法。
【請求項9】
溶融した樹脂材料を注入することでタイヤ骨格部材を成形するキャビティと、
キャビティ内で進退動するビードコア保持用のジグと、
を備えた、タイヤ成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207158(P2011−207158A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79123(P2010−79123)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】