説明

タイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法及びその装置

【課題】タイヤ加硫成形時間を短縮化し、タイヤを高精度に加硫成形出来るタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法及びその装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波加熱装置1は、ベースフレーム10上に剛性内型2の内径部2aと係合する固定リング部材11が設置され、固定リング部材11の中心部には、円筒導波管4bの先端部が固定されている。この円筒導波管4bの先端部には、ホーン状のアンテナ5を設けた円矩形状の導波管12と、これと直交する向きに一体的に組付けられた円筒状の支持部材とが旋回機構14及びシール機構15を介して旋回可能に嵌合されている。旋回機構14は、円筒状の前記支持部材に取付けられた歯車がベースフレーム10に立設された駆動歯車に着脱可能に噛合し、また駆動歯車は、駆動軸に設けたプーリとベースフレーム10に固定された駆動モータ19の駆動軸に設けた駆動プーリとに掛回された駆動ベルトにより回転駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法及びその装置に係わり、更に詳しくは剛性内型を使用してタイヤを加硫成形する際に、予め剛性内型及び剛性内型の外周面に形成された未加硫タイヤを所定温度に加熱しておき、加硫時間の短縮化と、タイヤを高精度に加硫成形出来るタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高性能な空気入りタイヤを効率良く製造する目的で、タイヤ成形開始時から加硫成形完了まで、タイヤ内部に環状に分割された剛性内型(または剛性中子)を配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、このような剛性内型を使用して加硫成形する場合、加硫成形時に剛性内型にスチーム等の熱源を導入することにより剛性内型を所定温度に加熱した状態で加硫する加硫成形方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、上記のように剛性内型を使用した空気入りタイヤの加硫装置では、加硫成形時に剛性内型にスチームを導入して剛性内型を所定温度(例えば、140℃〜200℃)に加熱する方法であるため、剛性内型がスチーム等の流通路等により複雑になると共に、加硫装置全体がスチーム配管等により複雑になり、コストアップになると共に、装置全体が大型化すると言う問題があった。
【0005】
また、タイヤ加硫成形時に剛性内型にスチームを導入して所定温度まで昇温させる必要があるため、加硫開始まで時間がかかり、従って加硫時間の短縮化を図ることが難しく、生産性の向上を図ることが難しいと言う問題があった。
【特許文献1】特開2003−311741号公報
【特許文献2】特開昭2003−340824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、かかる従来の問題点に着目して案出されたもので、タイヤ加硫成形時前の予備加熱工程で、未加硫タイヤを外周面に成形した剛性内型を短時間に所定温度まで昇温させるようにして、タイヤ加硫成形時間を短縮化し、タイヤを高精度に加硫成形出来るタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法及びその装置を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記目的を達成するため、タイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法は、予めタイヤ成形工程で剛性内型の外周面に未加硫タイヤを予備成形し、この剛性内型を、タイヤ加硫成形工程前の予備加熱工程において予めマイクロ波加熱装置により所定温度に加熱する剛性内型の予備加熱方法であって、
前記予備加熱工程のベースフレーム上に、ベース上から立設しているマイクロ波のアンテナに対して上部開口部を閉鎖し、かつセグメント内表面の全面または一箇所以上に発熱体を取付けた前記剛性内型を下部開口部から被嵌させて載置し、前記アンテナまたは剛性内型の少なくとも一方を旋回機構を介して所定の速度で旋回させながら、前記アンテナに導波管を介して接続されたマイクロ波発振器からマイクロ波を発振させて前記剛性内型の発熱体に照射させ、これにより発熱体を発熱させ、剛性内型の熱伝導により剛性内型全体を所定温度に加熱することを要旨とするものである。
【0008】
また、この発明のタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱装置は、周方向に複数に分割されたセグメント内表面の全面または一箇所以上に発熱体を取付けた中空筒状の剛性内型と、この剛性内型をベースフレーム上に位置決めした状態で載置する予備加熱工程と、マイクロ波を剛性内型の発熱体に照射させることにより発熱させて剛性内型全体を所定温度に予備加熱するマイクロ波加熱装置とで構成し、前記マイクロ波加熱装置は、前記予備加熱工程のベースフレームに取付けられる旋回可能なアンテナと、このアンテナに導波管を介して接続されたマイクロ波発振器とで構成したことを要旨とするものである。
【0009】
ここで、前記予備加熱工程のベースフレームと導波管との間に、アンテナまたは剛性内型の少なくとも一方を所定の速度で旋回させる旋回機構を設け、また前記剛性内型は、放射方向に拡縮可能に構成された少なくとも二種類以上のセグメントにより構成するものである。また前記発熱体としては、炭化ケイ素の焼結体、カーボン、またはカーボンとフェライトの混合物から選ばれた一つを使用する。
【0010】
また、この発明の予備加熱方法及びその装置の基本原理は、タイヤ成形工程開始時からタイヤ加硫成形終了時までの間に用いる剛性内型の内表面の全面、または一部に発熱体を構成する所定の厚さの炭化ケイ素の焼結体を配置する。そして、この発熱体を構成する炭化ケイ素の焼結体を、予備加熱工程においてマイクロ波(マイクロ波加熱)により発熱させ、この発熱した熱エネルギーを発熱体を介してアルミニユウムやアルミ合金等で構成される剛性内型のセグメントに伝熱させて短時間に所定温度まで加熱し、そして、この剛性内型の外周面に成形された未加硫タイヤを、加硫装置において短時間に加硫成形しようとするものである。
【0011】
即ち、マイクロ波加熱(2,450MHz:電波法により規定されている) は、マイクロ波を金属材料に照射すると反射するが、一定の組成を有する炭化ケイ素の焼結体は、所定の周波数のマイクロ波が照射されると炭化ケイ素の分子の振動による摩擦エネルギーにより発熱する。この発熱した熱エネルギーを利用して、金属材料から成る剛性内型に伝熱させて加硫に必要な温度に短時間に昇温させるようにしたものである。また、カーボン、またはカーボンとフェライトの混合物についても同様な機能により昇温させることが出来るものと推測される。
【0012】
これにより、従来加硫装置において加熱していた剛性内型を、予備加熱工程で所定温度まで予備加熱することで、加硫装置で加熱するために要していた時間を短縮化でき、タイヤ構成材料の物性を変化させることなく、短時間に高性能なタイヤを加硫成形するこきが出来るものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明は上記のように構成したので、以下のような優れた効果を奏するものである。(a).予備加熱工程で外周面に未加硫タイヤを成形した剛性内型を所定温度まで加熱した状態でタイヤ加硫装置に投入するので、タイヤ加硫装置では短時間で所定温度まで昇温させることが出来、従ってタイヤの成形時間とタイヤ加硫成形時間との短縮化を図ることが出来る。
(b).タイヤ加硫成形時間の短縮化を図ることが出来る結果、生産性の向上を図ることが出来る。
(c).発熱体を備えた剛性内型は、マイクロ波により短時間に加熱でき、従って構成が簡単になり、コストダウンを図ることが出来る。
(d).未加硫タイヤを加熱することにより、加硫装置において型締め時に未加硫タイヤのゴムがフローし易くなり加硫成形時間の短縮化を図ることが出来る。
(e).高性能、高精度の空気入りタイヤを製造することが出来る。
(f) 剛性内型は、簡単な構成であるので安価に製造出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に基づきこの発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、この発明の剛性内型の予備加熱方法を実施するための予備加熱工程の概略構成図を示し、1はマイクロ波加熱装置、2はマイクロ波加熱装置1により所定温度に予備加熱する剛性内型を示し、この剛性内型2の外周面には、タイヤ成形工程で予備成形された未加硫タイヤWが形成されている。3は図示しないアイソレータを内蔵したマイクロ波発振器、4a,4bはマイクロ波加熱装置1のホーン状(角度αが60°前後)のアンテナ5を備えたマイクロ波加熱装置1とマイクロ波発振器3とを接続する矩形状の導波管と円筒導波管、6はマイクロ波加熱装置1の近傍に立設された剛性内型2及び未加硫タイヤWを載置する載置テーブルを示している。
【0016】
前記矩形状の導波管4aの途中には、パワーモニター7,複数の整合器8,赤外線センサー9がそれぞれ設けられている。
【0017】
前記マイクロ波加熱装置1は、図2〜図4に示すように、ベースフレーム10上に剛性内型2の内径部2aと係合する固定リング部材11が設置され、固定リング部材11の中心部には、前記円筒導波管4bの先端部4xが固定されている。この円筒導波管4bの先端部4xには、先端に前記ホーン状のアンテナ5を設けた円矩形状の導波管12と、これと直交する向きに一体的に組付けられた円筒状の支持部材13とが旋回機構14及びシール機構15を介して旋回可能に嵌合されている。
【0018】
前記旋回機構14は、円筒状の前記支持部材13に取付けられた歯車16が前記ベースフレーム10に立設された駆動歯車17に着脱可能に噛合し、また駆動歯車17は、駆動軸17aに設けたプーリ18とベースフレーム10に固定された駆動モータ19の駆動軸19aに設けた駆動プーリ20とに掛回された駆動ベルト21により回転駆動されるように構成されている。なお,21aは回転ベアリングを示している。
【0019】
また、前記シール機構15は、マイクロ波Gの反射が円筒導波管4bと前記導波管12と一体的に組付けられた支持部材13との接続部から外部に漏れないように板状の突起を嵌合させた公知のチョーク構造22に形してあり、また支持部材13の端面には摺動板23が設けてある。なお、前記駆動モータ19の周りには、マイクロ波の漏洩防止カバー24を設けることが望ましい。
【0020】
また前記剛性内型2は、図5に示すように、アルミニユウムやアルミ合金等を素材として中空円筒状に形成され、この剛性内型2は、周方向に複数(例えば、8〜12分割)に分割された拡縮可能な2種類以上のセグメント2xが交互に配設され、この各セグメント2x内表面の全面または一箇所以上には、マイクロ波Gにより発熱する発熱体25が取付けてある。
【0021】
前記発熱体25としては、この実施形態では、マイクロ波Gにより発熱する一定の組成を有する所定の厚さ及び大きさの炭化ケイ素の焼結体や、カーボン、またはカーボンとフェライトの混合物を使用しているが、マイクロ波Gにより発熱して、熱伝導率の良い材料であれば特に限定されるものではない。なお、26は剛性内型2の上部カバーを示している。
【0022】
次に、剛性内型の予備加熱方法を、図7(a)〜(d)を参照しながら説明する。
この発明は、予め、図示しないタイヤ成形工程で剛性内型2の外周面に未加硫タイヤWを予備成形し、この下部固定リング27と上部カバー26とを装着した剛性内型2を、成形機から外してタイヤ加硫成形工程前の予備加熱工程に搬送し、この予備加熱工程おいて予めマイクロ波加熱装置1により所定温度に加熱する予備加熱方法である。
【0023】
この発明の実施形態では、成形機から外した未加硫タイヤWを外周面に形成した剛性内型2を、図示しないクレーン等の搬送装置により前記予備加熱工程の図7(a)に示す載置テーブル6上に載置する。そして、この載置テーブル6上において、図7(b)に示すように剛性内型2から下部固定リング27を取外し、図示しないクレーン等の搬送装置により未加硫タイヤWを外周面に形成した剛性内型2を持ち上げてマイクロ波加熱装置1の位置まで移動させる。
【0024】
そして、マイクロ波加熱装置1の位置において、図7(c)に示すように、ベースフレーム10上から立設しているマイクロ波のアンテナ5に対して上部開口部を閉鎖した前記剛性内型2を、その下部開口部から被嵌させて載置すると共に、剛性内型2の内径部2aを固定リング部材11に係合させる。
【0025】
その後、剛性内型2及び未加硫タイヤWの外周をマイクロ波の漏洩防止カバー28により覆い、前記アンテナ5または剛性内型2の少なくとも一方、この実施形態ではアンテナ5を旋回機構14を介して所定の速度で旋回させながら、図7(d)に示すように、前記アンテナ5に矩形状の導波管4aと円筒導波管4bを介して接続されたマイクロ波発振器3からマイクロ波Gを発振させて前記剛性内型2の発熱体25に照射させて発熱させる。
【0026】
前記発熱体25にマイクロ波Gが照射されると、短時間(温度にもよるが、150°C〜200°Cでは、数分前後)で加熱されて発熱し、発熱体25を取付けた剛性内型2の熱伝導により剛性内型2全体を所定温度に加熱することが出来る。
【0027】
そして、剛性内型2が所定温度に加熱されたことを確認したら、漏洩防止カバー28を取外し、更に剛性内型2及び未加硫タイヤWをマイクロ波加熱装置1の固定リング部材11から取外して、図示しないクレーン等の搬送装置により持ち上げて、図示しないタイヤ加硫装置に搬送して加硫成形を行うものである。
【0028】
以上のように、予備加熱工程で外周面に未加硫タイヤWを成形した剛性内型2を所定温度まで加熱した状態でタイヤ加硫装置に投入するので、タイヤ加硫装置では短時間で所定温度まで昇温させることが出来、従ってタイヤの成形時間とタイヤ加硫成形時間との短縮化を図ることが出来る結果、生産性の向上を図ることが出来るものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の剛性内型の予備加熱方法を実施するための予備加熱工程の概略構成図である。
【図2】マイクロ波加熱装置の分解図である。
【図3】マイクロ波加熱装置の平面図である。
【図4】マイクロ波加熱装置の組立た縦断正面図である。
【図5】剛性内型及びマイクロ波加熱装置の縦断正面図である。
【図6】剛性内型の平面図である。
【図7】(a)〜(d)は、剛性内型の予備加熱方法の工程説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 マイクロ波加熱装置 2 剛性内型
2a 内径部
3 マイクロ波発振器 4a 矩形状の導波管
4b 円筒導波管 4x 円筒導波管の先端部
5 アンテナ 6 載置テーブル
7 パワーモニター 8 整合器
9 赤外線センサー 10 ベースフレーム
11 固定リング部材 12 導波管
13 支持部材 14 旋回機構
15 シール機構 16 歯車
17 駆動歯車 17a 駆動軸
18 プーリ 19 駆動モータ
19a 駆動軸 20 駆動プーリ
21 駆動ベルト 21a 回転ベアリング
22 チョーク構造 23 摺動板
24 漏洩防止カバー 25 発熱体
26 上部カバー 27 下部固定リング
28 漏洩防止カバー G マイクロ波
W 未加硫タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予めタイヤ成形工程で剛性内型の外周面に未加硫タイヤを予備成形し、この剛性内型を、タイヤ加硫成形工程前の予備加熱工程において予めマイクロ波加熱装置により所定温度に加熱する剛性内型の予備加熱方法であって、
前記予備加熱工程のベースフレーム上に、ベースフレーム上から立設しているマイクロ波のアンテナに対して上部開口部を閉鎖し、かつセグメント内表面の全面または一箇所以上に発熱体を取付けた前記剛性内型を下部開口部から被嵌させて載置し、前記アンテナまたは剛性内型の少なくとも一方を旋回機構を介して所定の速度で旋回させながら、前記アンテナに導波管を介して接続されたマイクロ波発振器からマイクロ波を発振させて前記剛性内型の発熱体に照射させ、これにより発熱体を発熱させ、剛性内型の熱伝導により剛性内型全体を所定温度に加熱することを特徴とするタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱方法。
【請求項2】
周方向に複数に分割されたセグメント内表面の全面または一箇所以上に発熱体を取付けた中空筒状の剛性内型と、この剛性内型をベースフレーム上に位置決めした状態で載置する予備加熱工程と、マイクロ波を剛性内型の発熱体に照射させることにより発熱させて剛性内型全体を所定温度に予備加熱するマイクロ波加熱装置とで構成し、前記マイクロ波加熱装置は、前記予備加熱工程のベースフレームに取付けられる旋回可能なアンテナと、このアンテナに導波管を介して接続されたマイクロ波発振器とで構成したことを特徴とするタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱装置。
【請求項3】
前記予備加熱工程のベースフレームと導波管との間に、アンテナまたは剛性内型の少なくとも一方を所定の速度で旋回させる旋回機構を設けた請求項2に記載のタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱装置。
【請求項4】
前記剛性内型は、放射方向に拡縮可能に構成された少なくとも二種類以上のセグメントにより構成した請求項2または3に記載のタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱装置。
【請求項5】
前記発熱体が、炭化ケイ素の焼結体、カーボン、カーボンとフェライトの混合物から選ばれた一つを使用する請求項2,3または4に記載のタイヤ加硫成形用の剛性内型の予備加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−22010(P2007−22010A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210799(P2005−210799)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】