説明

タイヤ状態監視装置

【課題】装置本体の製造に要するコストを低減しつつ、車両の速度が高速になった場合においても適切にタイヤの状態を監視すること。
【解決手段】車両2が有する複数のタイヤ3FL〜3RRに装着されるトランスポンダ4FL〜4RRと、車両本体に設けられ、トランスポンダ4FL〜4RRに対してタイヤ状態を示すデータを取得するための呼び掛け電波を一定間隔で送信するECU5FL〜5RRとを備えるタイヤ状態監視装置1において、ECU5FL〜5RRは、トランスポンダ4FL〜4RRが通信可能な通信可能範囲に対して呼び掛け電波を送信できるように、所定の送信周期における前記呼び掛け電波の送信タイミングを予測し、予測した当該送信タイミングが所定の条件を満たすときは前記所定の送信周期を維持し、そうでないときは前記送信終期を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの状態を監視するタイヤ状態監視装置に関し、特に、自動車等に用いられるタイヤの空気圧などの状態を監視することができるタイヤ状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両における走行時の安全性を高めるため、車両が有するタイヤ毎に空気圧などの状態を監視するタイヤ状態監視装置が開発されている。例えば、車両が有する4つのタイヤにトランスポンダを設けると共に、各トランスポンダに対応する4つのアンテナとこれらのアンテナに接続された1つの送受信機とを車両側に設け、車両の速度に応じて送受信機から各トランスポンダへの呼び掛け電波を発信する回数を増減させたタイヤ状態監視装置が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されるタイヤ状態監視装置においては、送受信機のアンテナとトランスポンダとの間で確実に送受信することができる角度が限定されており、タイヤの中心から送受信機のアンテナに向かって左右45°ずつの計90°であるので、この角度内に送受信が行われるようにトランスポンダへの呼び掛け電波を発信する回数を増減するものである。かかるタイヤ状態監視装置によれば、車両の速度に関係なくタイヤの状態を確実に監視することが可能となる。
【特許文献1】特開2004−314893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示される従来のタイヤ状態監視装置においては、基本的な技術思想として、上記送受信が可能な角度から車両の速度に応じた送受信可能な時間を求め、その時間をタイヤが1回転する時間で除して、タイヤが1回転する間に無線送信する回数を求めている。回数が整数でない場合は繰り上げて整数として求めている。ところが、このような従来技術においては、車両の速度によっては求めた回数が繰り上げ無しで整数となることがある。この場合には、求めた回数に応じた送信のインターバル時間が上記の送受信可能な時間と一致することになる。そしてこの場合には、稀ではあるが、上記の送受信可能な角度の境界と送信のタイミングが同期してしまう。送受信可能な角度の決定基準にもよるが、送信回数をできるだけ少なくしようと考えるとこの角度は装置の通信感度の実力に対して広めになり、その場合は角度の境界部分は比較的送受信が不安定となるので、前記した同期現象は安定した送受信を妨げることになる。また、送受信を確実にするために装置の実力に対して角度を狭く設定すれば、送信回数は多くなって装置の通信能力を上げる必要が生じる。通信回数が整数とならない場合でも、整数に近い通信回数の場合は、程度の差はあれ同様の現象が発生する。また、上記従来技術においては、タイヤ1回転における送信回数を増減しているので、車両の速度が高速になると送信インターバルが装置の通信能力を上回って短くなるため、車両の速度が100km/hを越す場合には、別方式を採用している。
【0004】
上述のように、従来のタイヤ状態監視装置においては、車両の速度によっては送受信可能な角度と送信インターバルが同期する現象が発生するという問題点があり、また、車両の速度が高速になるに連れて呼び掛け電波を発信する時間間隔を短くすることによりタイヤが1回転する間の発信回数を増加させることから、最大の呼び掛け電波の回数に応じた高速処理に対応可能な処理装置を組み込まねばならず、結果として装置本体の製造に要するコストが高価になるという問題がある。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記の同期現象を防止し、また、装置本体の製造に要するコストを低減しつつ、車両の速度が高速になった場合においても適切にタイヤの状態を監視することができるタイヤ状態監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車体側のコントローラからトランスポンダに呼び掛け電波を繰り返し送信するタイヤ状態監視装置において、送信周期(送信インターバル)が大きい場合であっても、タイヤ1回転ごとに同角度ずつ移動する送信タイミングがあることに着目し、この角度(移動角と称する)が通信可能角度範囲の角度に比べて適正であれば、複数回の回転のうちには送信タイミングが通信可能範囲に入るということに着目して成された。そして、車速に応じた送信タイミングを予測し、送信タイミングが所定の条件、つまり、上記移動角が通信可能角度範囲の角度に比べて適正か否かを判断するための条件に合致するか否かを検討し、送信タイミングが所定の条件を満たすときは特に送信周期を調整せず、そうでなければ送信タイミングをずらして移動角が上記適正な範囲に入るように送信周期を調整するものである。
【0007】
送信タイミングの予測と調整については多岐な実施の形態があるが、基本的に規定の条件が満たされる場合は送信周期を変えず、そうでない場合には送信周期を変更調整するということが本願発明の基本的な考え方である。
【0008】
本発明は、従来技術のように、タイヤの1回転の間に必ず送信タイミングが通信可能範囲に入ることを意図しているものではない。本発明によって、タイヤの1回転の間に送信タイミングが通信可能範囲に入る可能性は飛躍的に多くはなるが、意図するところはタイヤの複数回転中に少なくとも1度送信タイミングが通信可能範囲に入ることを意図しているものである。
【0009】
このタイヤ状態監視装置によれば、コントローラが、所定の送信周期で呼び掛け電波を送信し、車速に応じて送信タイミングを予測し、該送信タイミングが所定の条件を満たさないときにのみ当該呼び掛け電波の送信周期を調整することから、従来のタイヤ状態監視装置のように、車速に応じて一律に呼び掛け電波の送信回数が大幅に増加するという事態を回避でき、高速処理に対応可能な処理装置の搭載が不要となる。この結果、装置本体の製造に要するコストを低減しつつ、車両の速度が高速になった場合においても適切にタイヤの状態を監視することが可能となる。
【0010】
上記タイヤ状態監視装置において、前記所定の条件を、送信周期の起点からタイヤが1回転する直前または直後の送信タイミングである標的送信タイミングが規定の基準角度範囲に位置することとしている。つまり、送信周期の起点と標的送信タイミングが成す角度(評価角と称する)が規定の基準角度範囲に位置することを所定の条件としている。この条件を満たすと、評価角が移動角となるか、あるいは送信タイミング間の角度つまり送信周期と移動角の関係が適正となり、タイヤが複数回転するうちには必ず1回は送信タイミングが通信可能角度範囲に位置することが可能となる。従ってこの場合は所定の送信周期で呼び掛け電波を送信すれば通信が成立する。
【0011】
例えば、上記タイヤ状態監視装置において、前記規定の基準角度は通信可能角度範囲の略1/2の角度位置の基準位置を挟む通信可能角度範囲より狭い角度位置に設定される。従って、移動角が通信可能角度範囲の両端を除く中央に設定されるので、複数回のタイヤの回転により送信タイミングが通信可能角度範囲に入る可能性が高まる。
【0012】
また、上記タイヤ状態監視装置において、前記コントローラは、前記した送信タイミングの予測の結果、標的送信タイミングが規定の条件を満たさない場合は、標的送信タイミングが前記した基準位置に移動するように送信周期を調整する。従って、調整後の送信周期で呼び掛け電波が送信され、そのときの移動角は送信周期の起点と基準位置の間の角度、つまり通信可能角度範囲の略1/2の角度となるので、タイヤが複数回回転する中で送信タイミングが通信可能角度範囲に入る可能性が最も高くなる。
【0013】
なお、上記タイヤ状態監視装置において、前記標的送信タイミングがタイヤの1回転を越した最初の送信タイミングであって、かつ前記基準位置が前記送信周期の起点より+方向に位置させることが好ましく、またこのとき、標的送信タイミングが前記基準角度範囲に到らないときは標的送信タイミングが基準位置に移動するように送信周期を調整し、標的送信タイミングが基準角度範囲を超すときは標的送信タイミングの前の送信タイミングが基準位置に移動するように送信周期を調整することが好ましい。この構成によれば、調整後の送信周期が前記した所定の送信周期より大きくなるので、所定の送信周期より小さくなることにより高速処理に対応可能な処理装置の搭載を必要としない。
【0014】
また、上記タイヤ状態監視装置において、前記送信タイミングがタイヤ1回転を越す直前の送信タイミングであって、かつ前記基準位置が前記送信周期の起点より−方向に移動させることも可能である。この場合は、標的送信タイミングの予測位置が異なるが、上記と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、装置本体の製造に要するコストを低減しつつ、車両の速度が高速になった場合においても適切にタイヤの状態を監視することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置の全体構成を説明するための模式図である。なお、図1においては、同図に示す上方を車両の前方側とし、同図に示す下方を車両の後方側とする。図2は、図1に示す本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1の詳細な構成を説明する機能ブロック図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1は、自動車等の車両2の前後左右の車輪(左前輪:FL、右前輪:FR、左後輪:RL、右後輪:RR)を構成するタイヤ3FL〜3RRにそれぞれ装着されたトランスポンダ4FL〜4RRと、これらのトランスポンダ4FL〜4RRにそれぞれ対応付けて車両2側に設けられた電子式制御装置(ECU:Electronic Control Unit)5FL〜5RRと、これらのECU5FL〜5RRとバス8を介して接続されたマスターECU6とを備えている。各ECU5FL〜5RRは、それぞれ対応するトランスポンダ4FL〜4RRとの通信に使用するアンテナ7FL〜7RRを備えている。なお、ECU5FL〜5RRがコントローラとして機能する。
【0019】
図1に示すように、各トランスポンダ4FL〜4RRは、対応するタイヤ3FL〜3RRの状態(以下、適宜「タイヤ状態」という)、具体的には、対応するタイヤ3FL〜3RRの空気圧を測定し、測定結果として得られる空気圧データを含むタイヤ状態データをそれぞれ対応するECU5FL〜5RRに無線送信するように構成されている。図2に示すように、各トランスポンダ4FL〜4RRは、後述するECU5FL〜5RRからの呼び掛け電波に基づき、誘起電力を発生し、その電力を用いてタイヤ状態データを測定し、ECU5FL〜5RRに対して無線送信する。
【0020】
例えば、各トランスポンダ4FL〜4RRは、それぞれタイヤ3FL〜3RRの空気圧を測定する圧力センサと、この圧力センサが測定する空気圧に応じて共振周波数が変化する共振器と含む。ECU5FL〜5RRからの呼び掛け電波に応じて、共振器が現在の空気圧に応じた共振周波数で共振すると、この共振周波数の信号がタイヤ状態データとしてECU5FL〜5RRのうち対応するひとつに対して無線送信されるように構成されている。
【0021】
なお、本実施の形態においては、各トランスポンダ4FL〜4RRが、タイヤ状態として、対応するタイヤ3FL〜3RRの空気圧を測定する場合について説明するが、タイヤ状態として測定される対象については、これに限定されるものでなく、適宜変更が可能である。例えば、タイヤの温度などを測定するようにしても良い。
【0022】
図2に示すように、各ECU5FL〜5RRは、シリアル通信が可能なバス8を介してマスターECU6に接続されている。マスターECU6は、同じくシリアル通信が可能なバス9を介して車両2内の各種情報を検出する検出装置に接続されている。本実施の形態においては、後述するように、駆動信号に車速データを含ませるため、車両2の走行速度を検出する速度検出器10に接続された場合について示している。
【0023】
バス8は、例えば、LIN(Local Interconnect Network)を用いて構築され、バス9は、例えば、CAN(Controller Area Network)を用いて構築される。このように各ECU5FL〜5RRとマスターECU6との間のネットワークをLINで構築する一方、マスターECU6と速度検出器10との間のネットワークをCANで構築することにより、マスターECU6と各ECU5FL〜5RRとの間の安価な接続を可能とする一方、マスターECU6と速度検出器10との間で高いリアルタイム処理を可能としている。
【0024】
マスターECU6は、例えば、マスターECU6の全体の制御を行うCPU31、並びに、このCPU31に接続されたROM32及びRAM33を備えて構成される。ROM32には、CPU31が読み込んでマスターECU6の制御を行うための制御プログラムが記録されている。RAM33は、CPU31がROM32内の制御プログラムを実行する際のワークエリアとして使用される。例えば、ROM32には、各ECU5FL〜5RRが呼び掛け電波を送信するタイミングの基準となる駆動信号を送信する制御プログラムが記録されている。
【0025】
本実施の形態において、マスターECU6は、駆動信号に、速度検出器10により検出される車両2の車速データを含ませている。このように駆動信号に車速データを含ませることにより、各ECU5FL〜5RRにおいて、車速データに応じて呼び掛け電波の送信タイミングを調整することが可能となっている。マスターECU6は、各ECU5FL〜5RRに対して駆動信号を送信する一方、タイヤ状態データに基づいて各ECU5FL〜5RRで算出されるタイヤ3FL〜3RRの空気圧などの情報を取得する。
【0026】
図2においては、ECU5FLについての機能ブロックのみを示すが、その他のECU5FR〜5RRの機能ブロックについても、ECU5FLの機能ブロックと同様である。
【0027】
ECU5FLは、ECU5FLの全体の制御を行う制御部21、アンテナ7FLを介してトランスポンダ4FLと無線通信を行うRF回路22、並びに、制御部21からの指示に応じてRF回路22を制御すると共に、RF回路22からの信号を解析するRF通信部23を含む。
【0028】
制御部21は、例えば、ECU5FLの全体の制御を行うCPU24、並びに、このCPU24に接続されたROM25及びRAM26を備えて構成される。ROM25には、CPU24が読み込んでECU5FLの制御を行うための制御プログラムが記録されている。RAM26は、CPU24がROM25内の制御プログラムを実行する際のワークエリアとして使用される。
【0029】
特に、ROM25には、マスターECU6からの駆動信号に応じてトランスポンダ4FLに呼び掛け電波を送信する制御プログラムが書き込まれている。かかる制御プログラムにおいては、マスターECU6からの駆動信号を受信した時点から、一定の待機時間の経過を待って呼び掛け電波を送信するように設定されている。
【0030】
ここで、呼び掛け電波を送信するまでの待機時間は、各ECU5FL〜5RRによって異なる待機時間が設定されている。具体的にいうと、ECU5FLには0msの待機時間が設定され、ECU5FRには5msの待機時間が設定され、ECU5RLには10msの待機時間が設定され、ECU5RRには15msの待機時間が設定されている。このように各ECU5FL〜5RRによって異なる待機時間を設定するのは、トランスポンダ4FL〜4RRから無線送信されるタイヤ状態データが互いに干渉する事態を回避するためである。
【0031】
また、ROM25には、後述するように、駆動信号に含まれる車両2の速度(車速)を示すデータ(以下、「車速データ」という)に応じてトランスポンダ4FLに対して呼び掛け電波を送信する周期を調整する制御プログラムが書き込まれている。具体的には、車速データに応じてトランスポンダ4FLの通信可能範囲に呼び掛け電波を送信できるように呼び掛け電波の送信周期を調整する制御プログラムが書き込まれている。なお、この呼び掛け電波の送信周期を調整する制御については後述する。
【0032】
RF通信部23は、制御部21から受け渡される制御パラメータを受け取り、当該制御パラメータの内容に応じてRF回路22を制御するRF制御部27、並びに、RF回路22にて復調された信号(復調信号)の内容を解析し、周波数データ(共振周波数データ)を制御部21に出力する解析部28を備えている。
【0033】
RF回路22は、搬送波を生成する搬送波発振器G1と、搬送波の変調に使用する変調波(変調信号)を生成する変調波発振器G2と、変調波で搬送波を変調する変調器29と、トランスポンダ4FLからの変調信号を復調する復調器30とを含んで構成される。変調波発振器G2は、トランスポンダ4FLが有する共振器の共振周波数の周辺の周波数の変調波を生成する。かかる変調波により変調された搬送波がアンテナ7FLを介してトランスポンダ4FLに送信されるように構成されている。
【0034】
ここで、アンテナ7FLは、同軸ケーブルを介してRF回路22に接続される。本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1においては、従来のタイヤ状態監視装置と異なり、ECU5FLがタイヤ3FLの近傍に配設されているため、比較的短い同軸ケーブルを用いてRF回路22にアンテナ7FLが接続されている。このため、従来のタイヤ状態監視装置と比べ、同軸ケーブルに要するコストの低減が可能となっている。
【0035】
このようなECU5FLにおいて、タイヤ3FLのタイヤ状態を監視する場合、RF制御部27の制御の下、RF回路22から、変調波発振器G2からの変調波により変調された搬送波がトランスポンダ4FLに所定期間送信された後、無変調の搬送波がトランスポンダ4FLに所定期間送信される。なお、このように変調波により変調された搬送波及び無変調の搬送波の連続したものが呼び掛け電波として機能する。
【0036】
変調された搬送波に応じてトランスポンダ4FLが有する共振器が共振すると、RF回路22は、無変調の搬送波の送信期間にトランスポンダ4FLから共振周波数で変調された信号(再変調信号)を受信する。この再変調信号が復調器30で復調された後、解析部28に出力される。そして、解析部28により、かかる復調信号の内容が解析された後、周波数データ(共振周波数データ)として制御部21に出力される。
【0037】
制御部21は、この周波数データを受け取ると、当該周波数データからトランスポンダ4FLが有する共振器の共振周波数を判断し、この共振周波数に基づいてタイヤ3FLの空気圧を把握する。そして、このタイヤの空気圧を示すデータをマスターECU6に出力する。なお、制御部21において、タイヤ3FLの空気圧を把握する際には、共振周波数とタイヤ3の空気圧とが対応付けられたテーブルを参照してタイヤ3FLの空気圧を把握することが好ましい。
【0038】
次に、本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1において、各タイヤ3FL〜3RRのタイヤ状態を監視する場合の動作について図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1において、各タイヤ3FL〜3RRのタイヤ状態を監視する場合の動作について説明するためのシーケンス図である。なお、図3においては、イグニッションスイッチにより車両2の電源がオン状態とされた時点から各タイヤ3FL〜3RRのタイヤ状態を監視する場合の動作について示している。
【0039】
図3に示すように、時点t1において、イグニッションスイッチにより車両2の電源がオン状態とされると、マスターECU6から各ECU5FL〜5RRに対して最初の駆動信号が出力される。駆動信号を受信すると、各ECU5FL〜5RRは、自身に割り当てられた待機時間を経た後に、対応するトランスポンダ4FL〜RRに対して呼び掛け電波を送信する。イグニッションスイッチのONで出力される最初の駆動信号には車速データを含む場合と含まない場合が考えられるが、以降の説明については車速データを含まないとして説明する。イグニッションスイッチがONした直後は、通常車が停止状態なので車速は0km/hであり、車速の影響がないからである。勿論、マスターECU6が車速データを得てから車速データを含む駆動信号を出力することも可能であり、その場合は以下のプロセスを若干変更すれば良い。
【0040】
ECU5FLは、最初の駆動信号を受信すると、0msの待機時間を経た後、つまり、待機時間を経ることなく呼び掛け電波を送信する。ECU5FRは、駆動信号を受信した後、5msの待機時間を経た後に呼び掛け電波を送信する。同様に、ECU5RL、5RRは、駆動信号を受信した後、それぞれ10ms、15msの待機時間を経た後に呼び掛け電波を送信する。図3に示すように、各ECU5FL〜5RRが呼び掛け電波を送信する時間は、5msである。従って、ECU5FLが呼び掛け電波の送信を開始した時点から、ECU5RRが呼び掛け電波の送信を終了する時点までの時間は20msである。
【0041】
最初の駆動信号を受信した後においては、各ECU5FL〜5RRは、改めて駆動信号を受信した場合を除き、前回に呼び掛け電波を送信した時点から基準送信周期である20ms経過後に再度、呼び掛け電波を送信する。例えば、ECU5FLは、マスターECU6から改めて駆動信号を受信していない場合、時点t1から20ms経過した時点である時点t2において再度呼び掛け電波を送信する。他のECU5FR〜5RRについても同様である。20msの基準送信周期は、請求項の所定の送信周期として機能している。基準送信周期は、装置に過分の負担をかけない範囲でより短い周期として決定されているが、装置の性能向上によっては更に短い周期が選ばれることも可能であり、車の使用される環境によってはより長い周期でも良い。
【0042】
一方、マスターECU6から改めて駆動信号を受信した場合には、その時点から20ms経過後、各ECU5FL〜5RRは、自身に割り当てられた待機時間を経た後に、対応するトランスポンダ4FL〜RRに対して呼び掛け電波を送信する。例えば、時点t3において、マスターECU6から改めて駆動信号を受信した場合には、各ECU5FL〜5RRは、時点t3から20ms経過した時点である時点t4から自身に割り当てられた待機時間を経た後に、対応するトランスポンダ4FL〜RRに対して呼び掛け電波を送信する。そして各ECU5FL〜5RRは、その次からの呼びかけ電波の送信を、後述する調整制御によって調整された送信周期によって繰り返して行う。
【0043】
なお、マスターECU6から改めて駆動信号を受信した時点で、いずれかのECU5FL〜5RRが呼び掛け電波を送信している場合においては、最後に呼び掛け電波を送信するECU5RRが送信処理を終えるまで処理が継続され、各ECU5FL〜5RRにおける呼び掛け電波の送信処理が中断されることはない。
【0044】
また、上記においては、マスターECU6から改めて駆動信号を受信した時点から最初のECU5FLが呼びかけ電波を送信するまでの時間を基準送信周期である20msにしたが、装置の処理性能が十分であれば、この時間から調整送信周期を適用しても良い。この場合はより早い段階から車速に応じた通信が可能となる。
【0045】
本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1おいては、上記のように、ECU5FL〜RRによる呼び掛け電波の送信周期(以下、単に「送信周期」という場合がある)を、マスターECU6からの駆動信号に含まれる車速データに応じて調整する。具体的には、ECU5FL〜RRが、マスターECU6からの駆動信号に含まれる車速データに応じて呼び掛け電波の送信周期を調整する制御を行う。
【0046】
ここで、ECU5における呼び掛け電波の送信周期を調整する制御について説明する。図4は本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1のタイヤ3に搭載されたトランスポンダ4とコントローラ5のアンテナ7との位置関係を示す図であり、図5及び図6は、本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1の送信周期の調整の制御を説明する模式図である。
【0047】
本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1において、タイヤ3に装着されたトランスポンダ4は、有効にECU5と無線通信を行うことが可能な通信可能角度範囲を有している。ECU5とトランスポンダ4との通信が微弱な電波によって行われるために、ECU5とトランスポンダ4との距離が大きくなると通信が不安定となったり通信が不可能になるためである。図4に示すように、本実施の形態においては、通信可能角度範囲は、アンテナ7とタイヤ3の回転中心を結ぶ法線の両側30°、計60°の範囲に設定されている。タイヤ3の回転に伴ってトランスポンダ4がこの範囲に入ると、アンテナ7とトランスポンダ4が接近するので、アンテナ7から送信された呼び掛け電波がトランスポンダ4によって受信されかつ通信が可能となる。なお、通信可能性は連続的に変化するのであって、ある角度を境に通信ができたり、できなかったりするというものではないが、本発明の説明においては、便宜上、通信可能角度範囲が通信可能な範囲とするものの、両端つまり−30°位置と30°位置は通信が不安定なポイントとして説明する。通信可能範囲に関連する上記の数値は、装置の性能及び装置が置かれた環境により変更することが可能である。ただし、変更がされた場合でも、その数値の如何にかかわらず、本発明の送信周期の調整の制御の主旨を適用することが可能である。
【0048】
本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1においては、タイヤ3が回転し、トランスポンダ4がこの通信可能範囲に位置した時に呼び掛け電波を送信できるように送信周期を調整して当該呼び掛け電波の送信タイミング(以下、単に「送信タイミング」と称する場合がある)を調整するものである。
【0049】
図5においては、ある一定速度でタイヤ3が回転した場合における呼び掛け電波の送信タイミングを示している。特に、図5においては、送信周期の起点から所定の送信周期で呼び掛け電波の送信がされた場合の送信タイミングが示されている。数字は送信タイミングが何回目かを示している。送信周期の起点は送信周期の制御を開始する点であり、送信をするタイミングではないが、この点を送信タイミングとすることも可能である。なお、以下の説明では、送信周期の起点は実際の送信制御のポイントではなく、送信タイミングを予測する上での計算上のポイントであり、送信タイミングも架空の送信周期の起点を基準とする計算上のポイントである。タイヤ3が1回転する前の最後の送信タイミングをn回目の送信タイミングと称し、1回転した後の最初の送信タイミングを(n+1)回目の送信タイミングと称する。図において、反時計回り方向が角度の+方向である。
【0050】
図5において、ある一定速度で回転するタイヤ3における回転周期(T)は、車速のv[km/h]、タイヤ3の直径をd[m]とすると、以下の[式1]により求められる。

【0051】
本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1においては、ECU5がトランスポンダ4に対して呼び掛け電波を基準の送信周期20msで送信している。この20msの間にタイヤ3が進む角度(θ)は、以下の[式2]により求められる。また、この場合における角速度(ω)は、以下の[式3]により求められる。

【0052】
送信周期が20ms、タイヤの直径が60cmの場合、タイヤ3が1回転し切る前の最後に呼び掛け電波を送信する回数がn回目であるとすると、当該回数(n)は、以下の式により求められる。

【0053】
そして、n回目の送信タイミングの送信周期の起点からの角度(θ)、並びに、(n+1)回目の送信タイミングの送信周期の起点からの角度(θn+1)については、以下の[式5]により求められる。

【0054】
θn+1を第1の評価角、θnを第2の評価角と称する。第1の評価角と第2の評価角のうちの小さい方の評価角について、タイヤの回転に伴って順次この評価角分離れた位置に送信タイミングが現れるという特徴がある。見かけ上、タイヤの回転に伴ってこの移動角分の間隔で送信タイミングが移動することになる。この場合の評価角が移動角となる。
【0055】
図5は又、60cmのタイヤ径の車両において基準送信周期20msで送信を行う場合の車速v=168.6km/hのときの送信タイミングを示している。この場合では、θ=179°、第1の評価角(θn+1)=177°、第2の評価角(θn)=2°となる。そして、タイヤの回転に伴い、見かけ上、第2の評価角分つまり2°ずつ送信タイミングが移動する。この場合、第2の評価角が移動角に該当する。その移動角が極めて小さいために、例えば、通信可能角度範囲が送信周期の起点の+方向の直近に位置する場合には、送信タイミングがなかなか通信可能角度範囲に入らないことになる。本発明はこのような不具合を以下の調整制御により解消するものである。
【0056】
本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1の調整制御の説明に先立ち、調整制御に用いられる各種の設定値について説明する。 図6は、上記の基準角度範囲と後述の基準角度及び関連する事項を説明する図である。送信周期の起点を0°として、+方向、−方向の対象位置に、+側基準角度、−側基準角度が設定され、それぞれの基準角度を挟むように+側基準角度範囲と−側基準角度範囲が設定されている。基準角度範囲外は、図のように、A領域、B領域、C領域、D領域に区分されている。図では、基準角度の絶対値を30°に、基準角度範囲の境界の絶対値を15°と45°に設定している。
【0057】
これらの値は、送信タイミングを評価し送信周期を調整するために使用されるものである。図での値は、通信可能角度範囲が60°であることを前提にしている。通信可能範囲が60°の場合に、移動角が0°、または60°であると、通信可能角度範囲の境界部と送信周期が同期してしまうこと、及び0°、60°に近い移動角では、同期はしないものの送信タイミングが通信可能角度範囲に入るまでに相当のタイヤ回転を余儀なくされるので、確実な通信を確保するために、基準角度範囲は通信可能角度範囲に比較して狭い角度範囲に設定されている。また、上述のように、通信可能角度範囲の端部は通信性能が不安定なこと、及び本発明は車速データが更新されるまでは車速は一定として調整制御するが、実際には車速が常に変化することも基準可能範囲が狭くなっている理由である。
【0058】
移動角がこの基準角度範囲に入っていれば、環境条件のばらつき例えば車速の微変動があったときも確実に通信可能範囲に送信タイミングが入ることが期待できるからである。移動角が15°から45°の範囲であれば、タイヤの1回転ごとに送信タイミングがこの移動角分ずれていく。移動角が15°であれば、24回の回転で送信タイミングが1周分移動することになり、送信周期の起点がどこにあっても、24回のうちには少なくとも1回送信タイミングが通信可能角度範囲に入ることになり。移動角が45°であれば、8回転の間には少なくとも1回送信タイミングが通信可能角度範囲に入る。もちろん、これらの数値は送信タイミングが通信可能範囲に入るまでの回転数が最も多くなる場合の回転数であり、多くの場合はもっと少ない回転で通信することができる。これらの設定値は、装置の能力や、実験による臨界値の把握によって、あるいは要求される性能によって変更される。
【0059】
本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1の調整制御においては、まず、基準送信周期における送信タイミングを予測し、送信タイミングが所定の条件を満たすか否かを判定し、満たす場合には送信周期を調整せず、満たさない場合は送信周期を調整する。以下、順を追って説明する。
【0060】
〔判定〕
特定回数つまりタイヤの1回転目直前(n回目)の呼び掛け電波の送信タイミング、或いは、タイヤの1回転目直後((n+1)回目)の呼び掛け電波の送信タイミングを試算し、その送信タイミングが規定の基準角度範囲に入るか否かを判定する。換言すると、その送信タイミングが送信周期の起点と成す角度である第1の評価角(θn+1)あるいは第2の評価角(θn)を求め、その評価角の少なくとも1つが規定の基準角度範囲に入るか否かを判定する。n回目の送信タイミングには−の基準角度範囲が対応し、(n+1)回目の送信タイミングには+の基準角度範囲が対応する。そして、評価角が対応する基準範囲に入るときは所定の送信周期を維持し、入らないときは送信周期を調整する。
【0061】
n回目の送信タイミングと(n+1)回目の送信タイミングの一方が対応する規定の基準角度範囲に入っていれば良いとする理由は、以下のようになる。図6で説明すると、一方の送信タイミングが対応する基準角度範囲に入った場合に他方の送信タイミングが対応する基準角度範囲に入らない場合と言うのは、他の送信タイミングがA領域またはD領域にある場合か、B領域またはC領域にある場合が考えられる。前者の場合は、一方の送信タイミングが入った方の評価角(これは15°から45°の角度となる)が移動角になってタイヤの1回転毎に送信タイミングが移動することにより、複数回転のうちには移動角でタイヤの1周分をカバーすることとなるため、少なくとも1回は送信タイミングが通信可能角度範囲に入る。後者の場合は、評価角θn+1と評価角θnの和、つまり送信タイミング間の角度が45°を超えるものの通信可能角度範囲の60°より小さいためにタイヤの1周の間に送信タイミングが通信可能範囲に入るか、あるいは、送信タイミング間の角度が60°に近くなるものの、移動角が15°に近い角度となり、タイヤの1回転毎に送信タイミングがこの移動角で移動することにより、複数回転のうちにはタイヤの1周分をカバーすることとなるため、少なくとも1回は送信タイミングが通信可能角度範囲に入る。他方の送信タイミングがB領域及びC領域にある場合は、やや不安定ではあるが実用的には支障が無いレベルである。
【0062】
n回目の送信タイミングと(n+1)回目の送信タイミングのうち、一方の送信タイミングについてのみ判定を行うことが可能である。例えば、(n+1)回目の送信タイミングが+の基準角度範囲に入るか否かのみを判定する場合は、前記した判定方法に比べて、n回目の送信タイミングが−の基準角度範囲にある場合でも所定の条件を満たすとは判断されない。従って所定の送信周期を維持することなく次の調整の工程に入ることになり、調整の工程は多くなるものの判定の工程は簡略となる。装置の能力、目的などにより、選択使用すれば良い。
【0063】
〔調整〕
(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングが基準角度範囲に入らない場合に調整の工程に移行する。まず、(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングのいずれかを標的送信タイミングとして選択し、標的送信タイミングが上記の対応する基準角度範囲の+側にあるか−側にあるかを判断する。標的送信タイミングの選択は、〔式5〕で求められる第1の評価角θn+1と第2の評価角θnを比較し、小さいほうの送信タイミングを選択することがより良いが、どちらかを一義的に決定しても良い。
【0064】
ケース1:標的送信タイミングを評価角が小さい方を選択した場合、基準角度範囲の−側に位置する場合は標的送信タイミングを被調整送信タイミングとし、+側にあるときにはn回目の送信タイミングを被調整送信タイミングとする。ケース2:一義的に(n+1)回目の送信タイミングを標的送信タイミングとした場合は、+側基準角度範囲の−側にあるときは標的送信タイミング(=(n+1)回目の送信タイミング)を被調整送信タイミングとする。ケース3:一義的にn回目の送信タイミングを標的送信タイミングとして場合には、標的送信タイミング(=n回目の送信タイミング)を被調整送信タイミングとする。
【0065】
次に、被調整送信タイミングと+側または−側の基準角度との間の角度(調整角)から調整時間を求め、基準送信周期に加えて調整送信周期を求める。あるいは、被調整送信タイミングが近い方の基準角度との角度(調整角)から調整時間を求め、基準送信周期に加えて調整送信周期を求める。この場合、基準角度が移動角となる。
【0066】
上記のように、本実施の携帯に係るタイヤ状態監視装置1の調整制御は、標的送信タイミングとして(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングを選択することができるが、以下は(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングのうち、移動角が小さい方を選択した、第1の実施形態について説明する。基準の送信周期、タイヤの径、通信可能角度範囲は上述の数値を適用している。
【0067】
〔実施の形態1〕
図7は、本発明の実施の形態1に係るタイヤ状態監視装置1において、呼び掛け電波の送信周期を調整する場合の動作について説明するためのフロー図である。なお、以下においては、説明の便宜上、ECU5FLが呼び掛け電波の送信周期を調製する場合について説明する。これらの処理は、他のECU5FR、5RL及び5RRについても同様に行われる。
【0068】
図7に示すように、実施の形態1に係るタイヤ状態監視装置1において、呼び掛け電波の送信周期を調整する際には、速度検出器10から車両2の車速データを受け取ったマスターECU6が、当該車速データを含めた駆動信号をECU5FLに送信する。
【0069】
ECU5FLにおいては、マスターECU6からの車速データ(駆動信号)の受信を常に監視している(ステップ(以下、「ST」と略す1)。ここで、マスターECU6から車速データを受信した場合、ECU5FLは、上述の要領によって(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングを予想し、第1の評価角(θn+1)及び第2の評価角(θn)を算出する(ST2)。一方、車速データを受信しない場合には、当該車速データの監視動作を継続する。
【0070】
第1の評価角(θn+1)及び第2の評価角(θn)を算出したならば、ECU5FLは、(n+1)回目の送信タイミングが+側基準角度範囲に入っているか、つまり、15°≦θn+1≦45°であるか、及び(θn)回目の送信タイミングが−側基準角度範囲に入っているか、つまり、15°≦θn≦45°であるかを判定する(ST3)。ここで、ST3の条件を満たし、いずれかの送信タイミングが基準角度範囲に入っている場合、ECU5FLは、呼び掛け電波の送信周期を調整することなく、つまり現在の基準送信周期を維持して呼び掛け電波を繰り返し送信する(ST4)。その後、処理を終了し、車速データの受信に備える。
【0071】
これに対し、15°≦θn+1≦45°及び15°≦θn≦45°でない場合つまり(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングのいずれも基準角度範囲に入らない場合には、ECU5FLは、呼び掛け電波の送信タイミングを調整するステップに移行する。まず、第1の評価角(θn+1)と第2の評価角(θn)の大きさを比較し、角度が小さい方の送信タイミングを標的送信タイミングと決定する(ST5)。その結果、第1の評価角(θn+1)の方が小さい場合には(n+1)回目の送信タイミングを標的送信タイミングとし、標的送信タイミングが+側基準角度範囲のどちら側にあるかを第1の評価角(θn+1)により検討する(ST6)。その結果、第1の評価角(θn+1)が15°未満であり、標的送信タイミングが図6のC領域にあれば、被調整送信タイミングを標的送信タイミングつまり(n+1)回目の送信タイミングとし、〔式6〕により調整時間△tを求める(ST7)。

【0072】
ST6において、第1の評価角(θn+1)が15°未満でない場合つまり第1の評価角(θn+1)が45°を越す場合は、標的送信タイミングは図6のD領域にあり、この場合は被調整送信タイミングをn回目の送信タイミングとし、〔式7〕により調整時間△tを求める(ST8)。

【0073】
ST7、又はST8でもとめた調整時間△tを基準送信周期に加えた調整送信周期で呼びかけ電波の送信を繰り返し(ST9)、次の車速データの受信の準備をする。ST7、又はST8で調整時間を算出したならば、当該調整時間を呼び掛け電波の送信周期に反映して呼び掛け電波を送信する(ST9)。具体的には、算出した調整時間を基準送信周期の20msに付加した調整送信周期で呼び掛け電波を送信する。その後、処理を終了し、これ以降、マスターECU6から駆動信号を受信するまでは、ECU5FLから、調整送信周期で呼び掛け電波が送信されるようになる。
【0074】
ST5において、第2の評価角(θ)の方が小さい場合にはn回目の送信タイミングを標的送信タイミングとし、標的送信タイミングが−側基準角度範囲のどちら側にあるかを第2の評価角(θ)により検討する(ST10)。その結果、第2の評価角(θ)が15°未満であり、標的送信タイミングが図6のB領域にあれば、被調整送信タイミングを(n+1)回目の送信タイミングとし、上記の〔式7〕により調整時間△tを求める(ST11)。
【0075】
ST10において、第2の評価角(θ)が15°未満でない、つまり、45°を越し、標的送信タイミングが図6のA領域にあれば、被調整送信タイミングを標的送信タイミングとし、〔式8〕により調整時間△tを求める(ST12)。

ST11又はST12で調整時間を算出した後は、前述のST9に移行する。
【0076】
実施の形態1の特徴は、基準角度範囲を+、−の二つを採用していることにより、後述の実施の形態に比べ、基準送信周期を調整しなくとも良い範囲が広くなるという利点がある。また、標的送信タイミングの基準範囲に対する位置を判定することにより被調整送信タイミングと基準角度を決定しているので調整時間は全てプラスの値となり、従って調整送信周期は必ず基準送信周期より大きくなるので、装置の送信能力をより高度にする必要がない。n回目の送信タイミングと(n+1)回目の送信タイミングのうち、評価角の小さい方を標的送信タイミングとして調整制御の対象としているので、調整時間をより小さくすることができる。また、基準角度を+、−の二つを採用し、被調整送信タイミングを適宜選択しているので、調整時間をプラスの値に維持しながら、調整時間の値をより小さくすることを可能としている。
【0077】
上述の図5に示された具体的なケースに実施の形態1を当てはめると以下のようになる。車速vが168.6km/hであるとの車速データを受領する(ST1)と、第1の評価角(θn+1)と第2の評価角(θn)とを算出し、その結果、θn+1=177°、θn=2°を得る(ST2)。ST3で二つの評価角が基準角度範囲に入らないことが確認されるので、ST5に移行する。ST5でふたつの評価角を比較すると第2の評価角(θn)の方が小さいのでST10に移行する。ST10において第2の評価角(θn)が15°より小さいので、ST11に移行し、〔式7〕により調整時間△t=0.00179sec、つまり1.79msを得る。基準送信周期20msに調整時間△t=1.79msを加え、調整送信周期を21.79msとして呼び掛け電波の送信を開始し(ST9)、次の車速データを受信するまで繰り返す。
【0078】
上記の具体例における呼び掛け電波の送信タイミングについて図10により説明する。
【0079】
図10(a)は、調整前の呼び掛け電波の送信タイミングを示し、図10(b)は、調整後の呼び掛け電波の送信タイミングを示している。図10(a)においては、送信タイミングはタイヤの角度で示してあり、送信周期の起点(0°)を通信可能角度範囲(0°から60°)の開始位置に一致させている。このような条件のときに通信が可能となる送信タイミングが最も遅れて出現するからである。図10(b)においても、説明の便宜上、同じように設定している。
【0080】
図10(a)に示すように、呼び掛け電波の送信周期を調整する前においては、1回目の呼び掛け電波の送信タイミング(θ)が約179°であり、2回目の呼び掛け電波の送信タイミング(θ)が約358°である。そして、3回目以降の呼び掛け電波の送信タイミングにおいても、通信可能角度範囲に呼び掛け電波を送信することができていない。
【0081】
これに対し、図10(b)に示すように、呼び掛け電波の送信周期を調整送信周期21.79msで呼び掛け電波を送信する場合には、2回目(n回目)の呼び掛け電波の送信タイミングで(θ)が330°に調整されている。その結果、これ以降、見かけ上、調整角である30°分ずつ移動した送信タイミングが現れる。その結果、タイヤが12回転する間に、30°間隔でタイヤ一周分をカバーする範囲で送信タイミングが現れ、従って60°の範囲を有する通信可能角度範囲がどの位置にあろうとも、タイヤの12回転の間には通信が成立する。実際には、(θ)を先頭に調整角分移動する送信タイミングも並存しているので、もっと早い段階に通信が成立し得る。
【0082】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係るタイヤ状態監視装置1について説明する。図8は、本発明の実施の形態2における呼び掛け電波の送信周期を調整する場合の動作について説明するためのフロー図である。
【0083】
実施の形態2は、前述した実施の形態1における工程を一部簡略化したものである。そして、その簡略化は、標的送信タイミングを予め(n+1)回目の送信タイミングに決めておくことによって行われる。即ち、図7に示した前述した実施の形態1のフローチャートと対比すると、ST2´(ST2に相当)では第1の評価角(θn+1)のみを求め、ST3´(ST3に相当)では第1の評価角(θn+1)を評価し、(n+1)回目の送信タイミングが基準角度範囲に入るかのみを評価している。このことにより、送信周期を調整しなくとも良い範囲が実施の形態1に比べて狭くなるという欠点もあるが、判定の処理が簡単になるという利点もある。ST6以降の工程は実施の形態1と同じであり、被調整送信タイミングは(n+1)回目の送信タイミングとn回目の送信タイミングが選択されるので、調整時間はプラスの値となる他、特殊な条件下を除いて実施の形態1とほぼ同じ効果を得ることができる。ちなみに、上述した図5に示した具体的な例をこの第2の実施の形態に当てはめると、結果は実施の形態1と同じ結果が得られる。
【0084】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係るタイヤ状態監視装置1について説明する。図9は、本発明の実施の形態3における呼び掛け電波の送信周期を調整する場合の動作について説明するためのフロー図である。
【0085】
実施の形態3は、前述した実施の形態2と同様に工程の一部簡略化を目的に、実施の形態2とは逆に、標的送信タイミングを予めn回目の送信タイミングに決めたものである。即ち、図7に示した前述した実施の形態1のフローチャートと対比すると、ST2´´(ST2に相当)では第2の評価角(θn)のみを求め、ST3´´(ST3に相当)では第2の評価角θnのみを評価し、n回目の送信タイミングが基準角度範囲に入るかのみを評価している。また、被調整送信タイミングをn回目の送信タイミングに固定してある点が、前述の実施の形態1、実施の形態2と異なる。つまり、ST6に相当する工程がなく、n回目の送信タイミングつまり標的送信タイミングが基準角度範囲に入らない場合は、標準送信タイミングを基準角度に合わせるように調整時間を求める(ST7‘’)。この結果、調整時間はマイナスの値となることがある。ただし、このようなケースは、標的送信タイミングつまりn回目の送信タイミングが0°から−15°の間にあるときだけであり、頻度としては大きくない。また、装置の能力が高い場合には十分許容可能な処理なので、採用することは可能である。
【0086】
このように本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1によれば、ECU5FL〜5RRが、トランスポンダ4FL〜4RRの通信可能範囲に対して呼び掛け電波を送信できるように、当該呼び掛け電波の送信周期を調整するようにしたことから、従来のタイヤ状態監視装置のように、車速に応じて呼び掛け電波の送信回数が大幅に増加するという事態を回避でき、高速処理に対応可能な処理装置の搭載が不要となる。この結果、装置本体の製造に要するコストを低減しつつ、車両の速度が高速になった場合においても適切にタイヤの状態を監視することが可能となる。特に、本実施の形態に係るタイヤ状態監視装置1によれば、車速に応じて呼び掛け電波の送信タイミングが調整されるので、車速に柔軟に対応しつつ、適切にタイヤの状態を監視することが可能となる。
【0087】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態に係るタイヤ状態監視装置の全体構成を説明するための模式図である。
【図2】上記実施の形態に係るタイヤ状態監視装置が有するECUの構成について説明するための機能ブロック図である。
【図3】上記実施の形態に係るタイヤ状態監視装置において、各タイヤのタイヤ状態を監視する場合の動作について説明するためのシーケンス図である。
【図4】上記実施の形態に係るタイヤ状態監視装置のタイヤに搭載されたトランスポンダとコントローラのアンテナ7の位置関係を示す図である。
【図5】上記実施の形態に係るタイヤ状態監視装置の送信周期の調整の制御を説明する模式図である。
【図6】上記実施の形態に係るタイヤ状態監視装置の送信周期の調整の制御を説明する模式図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係るタイヤ状態監視装置において、呼び掛け電波の送信周期を調整する場合の動作について説明するためのフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態2における呼び掛け電波の送信周期を調整する場合の動作について説明するためのフロー図である。
【図9】本発明の実施の形態3における呼び掛け電波の送信周期を調整する場合の動作について説明するためのフロー図である。
【図10】上記実施の形態に係るタイヤ状態監視装置における、調整前及び調整後の呼び掛け電波の送信タイミングを示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 タイヤ状態監視装置
2 車両
3FL、3FR、3RL、3RR タイヤ
4FL、4FR、4RL、4RR トランスポンダ
5FL、5FR、5RL、5RR ECU(電子式制御装置)
6 マスターECU
7FL、7FR、7RL、7RR アンテナ
8、9 バス
10 速度検出器
21 制御部
22 RF回路
23 RF通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が有するタイヤに装着されるトランスポンダと、車両本体に設けられ、前記トランスポンダに対してタイヤ状態を示すデータを取得するための呼び掛け電波を繰り返し送信するコントローラとを備えるタイヤ状態監視装置であって、前記コントローラは、前記トランスポンダに所定の送信周期で前記呼び掛け電波を送信し、車速に応じて前記所定の送信周期における前記呼び掛け電波の送信タイミングを予測し、予測した前記送信タイミングが所定の条件を満足するときは前記所定の送信周期を維持し、前記送信タイミングが所定の条件を満たさないときは前記所定の送信周期を調整することを特徴とするタイヤ状態監視装置。
【請求項2】
前記送信タイミングは送信周期の起点を基準として算出し、前記所定の条件は、算出した送信タイミングのうちのタイヤの1回転の直前あるいは直後の送信タイミングである標的送信タイミングが規定の基準角度範囲に位置することであることを特徴とする請求項1記載のタイヤ状態監視装置。
【請求項3】
前記コントローラから前記トランスポンダへの前記呼び掛け電波の送受信が可能な通信可能角度範囲が存在し、前記規定の基準角度範囲が前記送信周期の起点から前記通信可能角度範囲の略半分の角度を隔てた角度に位置する基準位置を挟む範囲でありかつ前記通信可能角度範囲角度より狭いことを特徴とする請求項2記載のタイヤ状態監視装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記標的送信タイミングが前記所定の条件が満たされない場合に、前記標的送信タイミングを前記規準位置に移動するように前記所定の送信周期を調整することを特徴とする請求項2記載のタイヤ状態監視装置。
【請求項5】
前記標的送信タイミングがタイヤの1回転を越した最初の送信タイミングであり、前記基準位置が前記送信の起点より+方向に位置することを特徴とする請求項4記載のタイヤ状態監視装置。
【請求項6】
前記標的送信タイミングがタイヤの1回転を越す直前の送信タイミングであり、前記基準位置が前記送信周期の起点より−方向に位置することを特徴とする請求項4記載のタイヤ状況監視装置。
【請求項7】
前記標的送信タイミングがタイヤの1回転を越した最初の送信タイミングであり、該標的送信タイミングが前記送信の起点より+方向に位置する前記基準角度範囲に到らないときには前記標的送信タイミングが前記基準位置に移動するように前記所定の送信周期を調整し、前記標的送信タイミングが前記基準角度範囲を超す場合には前記標的送信タイミングの前の送信タイミングが前記基準位置に移動するように前記所定の送信周期を調整することを特徴とする請求項4記載のタイヤ状況監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−105571(P2008−105571A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290680(P2006−290680)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】