説明

タンク及びタンクの製造方法

【課題】高圧ガスタンクの十分な強度を確保する。
【解決手段】径の同じ筒状の胴部2aと、当該胴部2aの両端に接続され当該胴部2aから離れるにつれて縮径するドーム部2bとを有する高圧ガスタンク2において、樹脂ライナ20の表面には、フィラメントワイディング法によるフープ巻きとヘリカル巻きにより、FRP層21が形成される。FRP層21の表面には、保護層22が形成される。保護層22は、FRP層21の最薄部Kを含むドーム部2bの胴部2a側の領域Rから胴部2aに亘り形成されている。保護層22は、ドーム部2bの胴部2a側の領域Rに折り返し部が位置するヘリカル巻きにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク及びタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として高圧ガスタンクが用いられている。一般的に高圧ガスタンクは、略楕円体状であり、径の同じ筒状の胴部と、当該胴部の両端に接続され当該胴部から離れるにつれて縮径するドーム部を有している。両側のドーム部の先端には、口金が形成されている。
【0003】
また、高圧ガスタンクは、内圧等に対する強度を上げるため、ライナの表面に補強層が形成されている。この補強層は、フィラメントワイディング(FW)法を用いて、ライナの外周面の口金を除く全面に補強繊維を巻き付けることによって形成されている。一般的に補強層は、補強繊維がフープ巻きにより胴部に巻き付けられ、その後補強繊維がヘリカル巻きによりドーム部と胴部に巻き付けられて形成される。なお、フープ巻きは、補強繊維をタンク軸周りのタンクの周方向に巻く巻き方であり、ヘリカル巻きは、補強繊維を両側のドーム部の口金付近で折り返してタンク軸に対して斜めに巻く巻き方である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−101397号公報
【特許文献2】特開2002−122297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の方法により補強層を形成した場合、ヘリカル巻きの際に補強繊維が口金近辺で口金周りに折り返されるため、ドーム部の厚みにバラツキができる。つまりドーム部の口金付近の厚みが厚くなり、ドーム部の胴部側の領域の厚みが薄くなる。この場合、厚みの薄い部分が厚い部分に比べて例えば外部からの衝撃に弱くなることが懸念される。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高圧ガスタンクなどのタンクの十分な強度を確保することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、径の同じ筒状の胴部と、当該胴部の両端に接続され当該胴部から離れるにつれて縮径するドーム部とを有するタンクであって、ライナの表面には、フィラメントワイディング法によるフープ巻きとヘリカル巻きにより、補強層が形成され、前記補強層の表面には、保護層が形成され、前記保護層は、前記補強層の最薄部を含む前記ドーム部の前記胴部側の領域から前記胴部に亘り形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、補強層の最薄部を含むドーム部の胴部側の領域に保護層が形成されるので、ドーム部の厚みの薄い部分が補強され、外部衝撃等に対するタンク全体の十分な強度を確保できる。また、厚みが厚いドーム部の中心側(胴部側の反対側)には、保護層が形成されない部分ができるので、全体に保護層を形成する場合に比べてタンクの重さを軽減できる。
【0009】
前記保護層は、前記ドーム部の前記胴部側の前記領域に折り返し部が位置するヘリカル巻きにより形成されていてもよい。かかる場合、保護層を所定の位置に適正に形成できる。
【0010】
前記保護層は、前記補強層の形成時のヘリカル巻きよりもタンク軸に対して高角のヘリカル巻きによって形成されていてもよい。かかる場合、ヘリカル巻きの折り返し部の位置を前記ドーム部の胴部側の領域に適正に調整できる。
【0011】
前記保護層は、前記補強層よりも耐衝撃性の高い材質により形成されていてもよい。これにより、保護層の外部衝撃に対する強度を確保できる。
【0012】
前記補強層は、炭素繊維強化樹脂により形成され、前記保護層は、ガラス繊維樹脂、又はアラミド繊維樹脂により形成されていてもよい。
【0013】
別の観点による本発明は、径の同じ胴部と、当該胴部の両端に接続され当該胴部から離れるにつれて縮径するドーム部とを有するタンクの製造方法であって、フィラメントワイディング法によるフープ巻きとヘリカル巻きにより、ライナの表面に補強層を形成する工程と、前記補強層の最薄部を含む前記ドーム部の前記胴部側の領域に折り返し部が位置するヘリカル巻きにより、補強層の表面に保護層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐衝撃性に優れたタンクを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
燃料電池自動車1には、例えば3つの高圧ガスタンク2が車体のリア部に搭載されている。高圧ガスタンク2は、燃料電池システム3の一部を構成し、ガス供給ライン4を通じて各高圧ガスタンク2から燃料電池5に燃料ガスが供給可能になっている。高圧ガスタンク2に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば水素ガスである。なお、高圧ガスタンク2は、燃料電池自動車1のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0016】
図2は、高圧ガスタンク2の構成の概略を示す縦断面図である。高圧ガスタンク2は、例えば略楕円体状に形成され、径の同じ円筒状の胴部2aと、当該胴部2aの両端に接続され当該胴部2aから離れるにつれて縮径する略半球体状のドーム部2bを有している。両ドーム部2bの中央部、つまり高圧ガスタンク2の両端部には、口金10が設けられている。
【0017】
高圧ガスタンク2は、内側に略楕円体状の樹脂ライナ20を有している。樹脂ライナ20は、例えばナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド系樹脂、及び、ポリエチレン系樹脂により成形されている。なお、本実施の形態では、高圧ガスタンク2のライナは、樹脂製であるが、アルミ製であってもよい。樹脂ライナ20の外周面のほぼ全面(口金10を除いた部分)には、補強層としてのFRP(Fiber Reinforced Plastics)層21が形成されている。FRP層21は、FW法によるフープ巻きとヘリカル巻きを用いて、樹脂繊維を樹脂ライナ20の外周面に巻き付けることにより形成されている。FRP層21の樹脂として、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂などが用いられている。また、繊維としては、例えば炭素繊維が用いられている。これにより、FRP層21は、炭素繊維強化樹脂により形成されている。
【0018】
FRP層21の外周面には、保護層22が形成されている。保護層22は、FRP層21が厚くなるドーム部2bの口金10側の部分を除いた領域、つまりFRP層21の最薄部を含むドーム部2bの胴部2a側の領域Rから胴部2aに亘り形成されている。保護層22は、後述する折り返し部Pをドーム部2bの胴部2a側の領域Rに位置させたFW法によるヘリカル巻きにより形成されている。保護層22は、例えば炭素繊維強化樹脂よりも耐衝撃性の高いガラス繊維樹脂又はアラミド繊維樹脂によって形成されている。
【0019】
次に、以上のように構成される高圧ガスタンク2の製造方法について説明する。
【0020】
先ず、樹脂ライナ20の外周面にFRP層21が形成される。FRP層21は、FW法により形成される。FW法は、例えば図3に示すよう繊維巻き付け装置50において、樹脂ライナ20が回転シャフト51により回転され、当該樹脂ライナ20に、繊維ガイド部52から送られる樹脂繊維Fが巻き付けられることにより行われる。
【0021】
FRP層21の形成工程では、まず胴部2aに樹脂繊維Fがフープ巻きにより巻き付けられる。このフープ巻きは、例えば回転する樹脂ライナ20の胴部2aに対し繊維ガイド部52を正対させ、当該繊維ガイド部52から胴部2aに樹脂繊維Fを供給しつつ、繊維ガイド部52を樹脂ライナ20の回転軸方向に低速で移動させることによって行われる。こうして図4に示すように胴部2aの全体に樹脂繊維Fが巻き付けられる。
【0022】
その後、図5(a)に示すようにドーム部2bに樹脂繊維Fがヘリカル巻きにより巻き付けられる。このヘリカル巻きは、例えば回転する樹脂ライナ20に対し、繊維ガイド部52から樹脂繊維Fを供給しながら、繊維ガイド部52を両ドーム部2b間で往復させることによって行われる。このとき、樹脂繊維Fは、一方のドーム部2bから他方のドーム部2bに向けてタンク軸に対して斜めに巻き付けられ、図5(b)に示すように各ドーム部2bの口金10付近で口金10周りに折り返される。つまり、ヘリカル巻きの折り返し部Pが、ドーム部2bの口金10近辺に位置している。こうして、樹脂ライナ20の外周面のほぼ全面にFRP層21が形成される。なお、このヘリカル巻きにより、ドーム部2bの口金10付近のFRP層21がドーム部2bの胴部2a側のFRP層21よりも厚くなり、当該ドーム部2bの胴部2a側にFRP層21の最薄部K(図2に示す)ができる。
【0023】
次に、FRP層21の外周面に保護層22が形成される。保護層22は、図6(a)に示すようにFW法によるヘリカル巻きにより形成される。このとき、図6(b)に示すようにヘリカル巻きの折り返し部Pの位置が、FRP層21の最薄部Kを少なくとも含むドーム部2bの胴部2a側の領域Rに調整される。このときのヘリカル巻きは、FRP層21の形成時のヘリカル巻きよりもタンク軸に対して高角(図6(a)中のθ)で行われる。こうして、保護層22は、ドーム部2bの胴部2a側の領域Rから胴部2aに亘り形成される。
【0024】
以上の実施の形態によれば、FRP層21の最薄部Kを含むドーム部2bの胴部2a側の領域Rに折り返し部Pを位置させるヘリカル巻きにより保護層22が形成されるので、ドーム部2bの厚みの薄い部分が補強され、外部衝撃等に対するタンク全体の十分な強度を確保できる。また、厚みが厚いドーム部2bの口金10付近には、保護層22が形成されない部分ができるので、全体に保護層を形成する場合に比べて高圧ガスタンク2の重さを軽減できる。また、外部衝撃に対する強度を補強するためにドーム部2bにプロテクターを付ける方法も考えられるが、本実施の形態によればその場合に比べて高圧ガスタンク2を軽量化できる。
【0025】
保護層22は、FRP層21よりも耐衝撃性が高い材質で形成されているので、保護層22の外部衝撃に対する強度を十分に確保できる。
【0026】
FRP層21は、炭素繊維強化樹脂により形成され、保護層22は、ガラス繊維樹脂、又はアラミド繊維樹脂により形成されているので、内側は内圧に対する強度を確保しつつ、外部衝撃に対する強度を適正に確保できる。
【0027】
保護層22は、FRP層21の形成時のヘリカル巻きよりもタンク軸に対して高角のヘリカル巻きによって形成されているので、ヘリカル巻きの折り返し部Pの位置を、ドーム部2bの胴部2a側の領域Rに適正に調整できる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】高圧ガスタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【図2】高圧ガスタンクの構成の概略を示す縦断面図である。
【図3】繊維巻き付け装置の構成の概略を示す模式図である。
【図4】胴部に樹脂繊維が巻き付けられた樹脂ライナを示す説明図である。
【図5】(a)は、樹脂ライナのドーム部にヘリカル巻きにより樹脂繊維が巻き付けられる様子を示すタンクの説明図であり、(b)は、その際のタンクの側面図である。
【図6】(a)は、FRP層の外周面にヘリカル巻きにより樹脂繊維が巻き付けられる様子を示すタンクの説明図であり、(b)は、その際のタンクの側面図である。
【符号の説明】
【0030】
2 高圧ガスタンク
2a 胴部
2b ドーム部
10 口金
20 樹脂ライナ
21 FRP層
22 保護層
R ドーム部の胴部側の領域
K 最薄部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径の同じ筒状の胴部と、当該胴部の両端に接続され当該胴部から離れるにつれて縮径するドーム部とを有するタンクであって、
ライナの表面には、フィラメントワイディング法によるフープ巻きとヘリカル巻きにより、補強層が形成され、
前記補強層の表面には、保護層が形成され、
前記保護層は、前記補強層の最薄部を含む前記ドーム部の前記胴部側の領域から前記胴部に亘り形成されていることを特徴とする、タンク。
【請求項2】
前記保護層は、前記ドーム部の前記胴部側の前記領域に折り返し部が位置するヘリカル巻きにより形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のタンク。
【請求項3】
前記保護層は、前記補強層の形成時のヘリカル巻きよりもタンク軸に対して高角のヘリカル巻きによって形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のタンク。
【請求項4】
前記保護層は、前記補強層よりも耐衝撃性が高い材質により形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のタンク。
【請求項5】
前記補強層は、炭素繊維強化樹脂により形成され、前記保護層は、ガラス繊維樹脂、又はアラミド繊維樹脂により形成されていることを特徴とする、請求項4に記載のタンク。
【請求項6】
径の同じ胴部と、当該胴部の両端に接続され当該胴部から離れるにつれて縮径するドーム部とを有するタンクの製造方法であって、
フィラメントワイディング法によるフープ巻きとヘリカル巻きにより、ライナの表面に補強層を形成する工程と、
前記補強層の最薄部を含む前記ドーム部の前記胴部側の領域に折り返し部が位置するヘリカル巻きにより、補強層の表面に保護層を形成する工程と、を有することを特徴とする、タンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90938(P2010−90938A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259559(P2008−259559)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】