説明

タービン保護装置

【課題】排気ブレーキ作動時に排気脈動がタービンのノズルベーンに強く作用しないようにしてターボチャージャの必要強度を軽減し、該ターボチャージャにかかるコストの削減化を図る。
【解決手段】排気ブレーキ11より上流の排気管9と排気マニホールド7との間にターボチャージャ2のタービン2bを迂回するバイパス流路12を設けると共に、該バイパス流路12の途中に開閉可能な第一のバルブ13を装備し、この第一のバルブ13を常時閉として排気ブレーキ11の作動時に開作動し得るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ブレーキを備えた車両用エンジンに適用するためのタービン保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、タービン側のノズル部に多数の角度調整可能なノズルベーンを環状に備えてノズル開度を任意に変更し得るようにした可変ノズル式のターボチャージャが知られており、このような可変ノズル式のターボチャージャを採用すれば、エンジン回転数や走行状況等に応じて理想的な過給効果を得ることができるが、近年においては、単に過給効果だけを目的とするのではなく、高いNOx低減率を実現するための一要素としての重要性が高まってきている。
【0003】
即ち、燃料の筒内燃焼でのNOx発生を低減するべく排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)を実行するにあたり、ターボチャージャ付きのエンジンでは、吸気側が過給されているために排気側との圧力差が少なくなってしまい、多量の排気ガスを吸気側へ再循環させることが難しいという事情があるが、ターボチャージャとして可変ノズル式のものを採用し、タービン側で適宜に排気ガスを絞り込んで排気側の圧力を高めるようにすれば、排気側と吸気側との圧力差を確実に確保することができる。
【0004】
尚、この種の可変ノズル式のターボチャージャを用いた排気ガス再循環の技術に関連する先行技術文献情報としては、例えば、本発明と同じ出願人による下記の特許文献1等がある。
【特許文献1】特開2002−33287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ターボチャージャのタービンに接続された排気管の途中に、制動時に排気流路を閉じて排気抵抗を高めることで排気行程でもピストン圧縮を行わしめてエンジンブレーキの効果を高めるようにした排気ブレーキが装備されている場合、該排気ブレーキの作動時に排気ガスが堰き止められることで高圧化した排気脈動がノズルベーンに強く作用し、該各ノズルベーンに損傷を与える虞れがあったため、このような排気ブレーキ作動時の排気脈動にも耐え得る高価な可変ノズル式のターボチャージャを採用しなければならず、これによりコストの大幅な高騰を招いてしまっていた。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、排気ブレーキ作動時に排気脈動がタービンのノズルベーンに強く作用しないようにしてターボチャージャの必要強度を軽減し、該ターボチャージャにかかるコストの削減化を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、排気ブレーキより上流の排気管と排気マニホールドとの間にターボチャージャのタービンを迂回するバイパス流路を設けると共に、該バイパス流路の途中に開閉可能な第一のバルブを装備し、この第一のバルブを常時閉として排気ブレーキの作動時に開作動し得るように構成したことを特徴とするタービン保護装置、に係るものである。
【0008】
而して、このようにすれば、排気ブレーキの作動時に第一のバルブが開作動してバイパス流路が開通し、排気脈動がタービン内を通過しなくなって各ノズルベーンに対し殆ど作用しなくなり、ターボチャージャの必要強度が従来よりも軽減されることになる。
【0009】
また、本発明においては、第一のバルブを排気温度の低い運転領域にも開作動し得るように構成することが好ましく、このようにすれば、始動時等における排気温度の低い運転状態にあっても、排気ガスをタービンを迂回させて流すことで排気温度の上昇を図ることが可能となる。
【0010】
即ち、排気温度の低い運転領域で第一のバルブが開作動してバイパス流路が開通すると、排気ガスがターボチャージャのタービンを迂回して高い圧力のまま送り出されることになるので、タービンでの仕事を行わずに導かれた排気ガスの圧力が結果的に通常より高められて排気温度の昇温が図られることになる。
【0011】
そして、このように始動時等における排気温度の低い運転状態でも排気温度の昇温を図ることができれば、排気管の途中に所定の活性温度域を持つ排気浄化用後処理装置を装備しているような場合に、その性能向上を図るための有効な昇温手段として活用することが可能となる。
【0012】
更に、本発明においては、タービンの出口部に開閉可能な第二のバルブを装備し、この第二のバルブを常時開として第一のバルブの開作動と連動して閉作動し得るように構成することが好ましい。
【0013】
而して、このようにすれば、第一のバルブが開いたバイパス流路の開通時に第二のバルブを閉じてタービンの出口を塞ぐことが可能となり、バイパス流路の開通時におけるタービンへの排気ガスの出入りをより一層確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明のタービン保護装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0015】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、排気ブレーキの作動時にバイパス流路を開通させて排気脈動がタービンのノズルベーンに強く作用することを未然に防止することができ、これによりターボチャージャの必要強度を従来より著しく軽減することができるので、該ターボチャージャにかかるコストの大幅な削減化を図ることができる。
【0016】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、始動時等における排気温度の低い運転状態にあっても、エンジンからの排気ガスをバイパス流路を介しタービンを迂回させて流すことにより排気温度の昇温を図ることができる。
【0017】
(III)本発明の請求項3に記載の発明によれば、バイパス流路の開通時におけるタービンへの排気ガスの出入りをより一層確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1及び図2は本発明のタービン保護装置を実施する形態の一例を示すもので、図1中における符号の1は可変ノズル式のターボチャージャ2を搭載したエンジンを示しており、エアクリーナ3から導いた吸気4を吸気管5を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ導いて加圧し、その加圧された吸気4をインタークーラ6を介しエンジン1の各気筒に分配して導入するようにしてある。
【0020】
また、このエンジン1の各気筒から排気マニホールド7を介し排出された排気ガス8を排気管9を通して前記ターボチャージャ2のタービン2bへ送り、該タービン2bを駆動した排気ガス8をパティキュレートフィルタや各種触媒等の後処理装置10を通し浄化した上で車外へ排出するようにしてある。
【0021】
そして、本形態例においては、ターボチャージャ2のタービン2bに接続された排気管9の途中に排気ブレーキ11が装備されており、該排気ブレーキ11より上流の排気管9と排気マニホールド7との間に、ターボチャージャ2のタービン2bを迂回するバイパス流路12が設けられ、該バイパス流路12の途中に開閉可能なバルブ13(第一のバルブ)が装備されていると共に、タービン2bの出口部にも別のバルブ14(第二のバルブ)が装備されている。
【0022】
ここで、各バルブ13,14は、エンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置15からの指令信号13s,14sを受けたアクチュエータ16,17の作動により開閉操作されるようになっており、前記バイパス流路12のバルブ13は、常時閉にされて排気ブレーキ11の作動時と排気温度が低い運転領域で開作動され、前記タービン2bの出口部のバルブ14は、常時開にされて前記バルブ13の開作動と連動して閉作動されるようになっている。
【0023】
即ち、前記制御装置15においては、運転室に装備された排気ブレーキ11のスイッチ18からのオン信号18sと、エンジン1の回転数を検出する回転センサ19からの回転数信号19sと、図示しない運転席のアクセルの開度をエンジン1の負荷として検出するアクセルセンサ20(負荷センサ)からのアクセル開度信号20sとが夫々入力されるようになっており、これらの各種信号に基づいて排気ブレーキ11のスイッチ18がオンで所定回転数以上のアクセルオフ状態にあると判断された時に、排気ブレーキ11を閉じる指令信号11sと、バルブ13を開ける指令信号13sと、バルブ14を閉じる指令信号14sとが出力されるようにしてある。
【0024】
また、特に本形態例においては、回転数信号19sとアクセル開度信号20sにより判断される現在のエンジン1の回転数と負荷とに基づき制御マップ(回転数と負荷とによる二次元マップ)で運転状態が推定され、排気温度が低い運転領域にあると推定された場合においても、バルブ13を開ける指令信号13sと、バルブ14を閉じる指令信号14sとが出力されるようになっている。
【0025】
更に、図2は図1のターボチャージャ2のタービン2bにおけるノズルベーンの角度調整機構の一例を示すもので、タービン2bのノズルベーン21は、タービン翼車22周囲のノズルリングプレート23にピン24を介し傾動自在に取り付けられており、これら各ノズルベーン21の角度が前記ノズルリングプレート23に対するリンクプレート25の円周方向への相対変位により連動して変更されるようになっていて、このリンクプレート25が電動機26によるレバー27の傾動操作でリンク28を介し回動操作されるようになっている。
【0026】
尚、斯かる可変ノズル式のターボチャージャ2に関し、排気ブレーキ11の作動時における排気脈動にも耐え得る強度を持たせようとすれば、ノズルベーン21のピン24の両端部を強固に支持した構造を採用する必要があるが、そのような構造の採用はコストの大幅な高騰を招いてしまうことになるため、本形態例にあっては、ノズルベーン21のピン24の一方の端部のみを支持した片持ち式の簡易な構造を採用したものとしている。
【0027】
而して、このようにタービン保護装置を構成すれば、排気ブレーキ11の作動時に制御装置15からの指令信号13sによりバルブ13が開作動してバイパス流路12が開通すると共に、制御装置15からの指令信号14sによりバルブ14が閉作動してタービン2bの出口部が塞がれることになるので、排気脈動がタービン2b内を通過しなくなって各ノズルベーン21(図2参照)に対し殆ど作用しなくなり、ターボチャージャ2の必要強度が従来よりも軽減されることになる。
【0028】
また、特に本形態例においては、現在のエンジン1が排気温度の低い運転領域にあると推定された場合にも、制御装置15によりバルブ13が開き且つバルブ14が閉じるようにしてあるので、エンジン1からの排気ガス8をタービン2bを迂回させて流すことで排気温度の上昇が図られることになる。
【0029】
即ち、排気温度の低い運転領域でバルブ13が開作動してバイパス流路12が開通すると、排気ガス8がターボチャージャ2のタービン2bを迂回して高い圧力のまま送り出されることになるので、タービン2bでの仕事を行わずに導かれた排気ガス8の圧力が結果的に通常より高められて排気温度の昇温が図られる。
【0030】
従って、上記形態例によれば、排気ブレーキ11の作動時にバイパス流路12を開通させ且つタービン2bの出口部を塞いで、排気脈動がタービン2bのノズルベーンに強く作用することを未然に防止することができ、これによりターボチャージャ2の必要強度を従来より著しく軽減することができるので、例えば、ターボチャージャ2に対しノズルベーン21のピン24の一方の端部のみを支持した片持ち式の簡易な構造を採用して、ターボチャージャ2にかかるコストの大幅な削減化を図ることができる。
【0031】
更に、始動時等における排気温度の低い運転状態にあっても、エンジン1からの排気ガス8をバイパス流路12を介しタービン2bを迂回させて流すことにより排気温度の昇温を図ることができるので、排気管9の途中に装備されている後処理装置10の排気温度が低い運転領域における性能向上を図ることができる。
【0032】
尚、本発明のタービン保護装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、可変ノズル式のターボチャージャにおけるタービンのノズルベーンを角度調整する機構は必ずしも図示例に限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1のタービンのノズルベーンについての詳細図である。
【符号の説明】
【0034】
1 エンジン
2 ターボチャージャ
2b タービン
7 排気マニホールド
8 排気ガス
9 排気管
10 後処理装置
11 排気ブレーキ
12 バイパス流路
13 バルブ(第一のバルブ)
14 バルブ(第二のバルブ)
15 制御装置
21 ノズルベーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ブレーキより上流の排気管と排気マニホールドとの間にターボチャージャのタービンを迂回するバイパス流路を設けると共に、該バイパス流路の途中に開閉可能な第一のバルブを装備し、この第一のバルブを常時閉として排気ブレーキの作動時に開作動し得るように構成したことを特徴とするタービン保護装置。
【請求項2】
第一のバルブを排気温度の低い運転領域にも開作動し得るように構成したことを特徴とする請求項1に記載のタービン保護装置。
【請求項3】
タービンの出口部に開閉可能な第二のバルブを装備し、この第二のバルブを常時開として第一のバルブの開作動と連動して閉作動し得るように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のタービン保護装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−40175(P2007−40175A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225149(P2005−225149)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】