説明

ターボ型真空ポンプ、及び該ターボ型真空ポンプを備えた半導体製造装置

【課題】小型化、軽量化が可能で、簡単な構成で分離して構成された動翼を取付ける第1の回転軸とモータのロータ等を取付ける第2の回転軸が締結でき、高速回転及び比較的ロータを高温で稼動させるのに適したターボ型真空ポンプを提供すること。
【解決手段】ポンプ部Pの軸方向片側に動翼を回転支持する軸受及びモータ部Mを配置したターボ型真空ポンプにおいて、動翼を取り付ける第1の回転軸25と、モータロータ41を取り付ける第2の回転軸44と、第1の回転軸25と第2の回転軸44を締結する締結部材29とを具備し、第1の回転軸25は高耐食性の材料で、第2の回転軸44は強磁性の材料で構成され、第1の回転軸25の線膨張係数が第2の回転軸の線膨張係数に比べて小さく、第1の回転軸25は中空構造であり、締結部材29は第1の回転軸25の中空部を貫通し第1の回転軸25と第2の回転軸44を締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体を排気する運動量移送式のターボ型真空ポンプに係り、特に腐食性プロセスガスを排気する用途や、反応生成物を含むガスを排気する用途に適したターボ型真空ポンプ、及び係るターボ型真空ポンプを備えた半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のターボ型真空ポンプの一例として、例えば特許文献1に記載されたターボ型真空ポンプがある。図1は特許文献1に記載されたターボ型真空ポンプの断面図である。このターボ型真空ポンプは、吸気口111A及び排気口111Bを有するケーシング111と、このケーシング111内に軸受116を介して回転自在に支持された回転軸112と、吸気口111A側から排気口111B側に至る間のケーシング111内に順次配設された遠心圧縮ポンプ段113及び円周流圧縮ポンプ段114とを備えている。遠心圧縮ポンプ段113は、回転軸112に取り付けられたオープン羽根車113Aと、固定円板113Bとを交互に並列に配置して構成されている。円周流圧縮ポンプ段114は、回転軸112に取付けられた羽根車114Aと、固定円板114Bとを交互に並列に配置して構成されている。回転軸112は、回転軸112に連結されたモータ115により回転駆動されるようになっている。
【0003】
上記従来のターボ型真空ポンプにて腐食性ガスを排気する場合には、ケーシング111、回転軸112、及び遠心圧縮ポンプ段113、円周流圧縮ポンプ段114に耐腐食性が要求される。また、反応生成物を含むガスを排気する場合には、遠心圧縮ポンプ段113、円周流圧縮ポンプ段114にて反応生成物の析出を防止するために、排気流路を高温にすることが必要である。そのため、ケーシング111及び遠心圧縮ポンプ段113、円周流圧縮ポンプ段114は、耐腐食性を有し、且つ温度変化に対して寸法変化の少ない低熱膨張係数を有する材料で構成することが望ましい。また、回転軸112は、高強度・高ヤング率の材料で構成すると、排気性能を高めるための高速回転化が容易となる。更に、回転軸112は、モータ115の出力特性向上のため、強磁性材料で構成することが望ましい。
【0004】
しかしながら、耐腐食性、低熱膨張係数、高強度・高ヤング率、強磁性の特性を併せ持つ材料は極めてすくないため、回転軸112は、用途に応じて、もしくはいずれかの特性を犠牲にして材料を選定せざるを得なかった。例えば、しばしば用いられる材料として、ニレジスト鋳鉄などのFe−Ni系合金がある。このFe−Ni系合金は、耐腐食性、低熱膨張係数、強磁性の特性を有するが、ヤング率は130Gpa程度で一般の鉄鋼材料の206Gpaと比して低い。従って、ロータの危険速度は低くなるので高速回転化が困難であり、それゆえに、回転速度を低くしてポンプの排気性能を犠牲にしていた。もしくは軸径を大きくして高速回転化を図っていたため、ポンプの小型化や軽量化を犠牲にしていた。
【0005】
上記問題を解決したターボ型真空ポンプとして、特許文献2に記載されたターボ型真空ポンプがある。図2は特許文献2に記載されているターボ型真空ポンプの全体構成を示す断面図である。このターボ型真空ポンプは、回転軸を第1の回転軸121と第2の回転軸122に分離し、第1の回転軸121に遠心ドラッグ翼123を固着して排気流路を形成し、第1の回転軸121をオーバーハング(片持ち)として、第1の回転軸に121の軸端に設けた軸締結フランジ124により第2の回転軸122と軸締結を行い、第2の回転軸122にモータ125のロータ125a及び磁気軸受126〜128のロータ126aを配置してロータを構成している。
【0006】
第1の回転軸121には、排気流路に設置される回転軸として求められる特性、即ち、耐腐食性や耐熱性、低密度の特性を有する材料を選定し、第2の回転軸122には、高強度・高ヤング率で強磁性を有する材料を選定している。即ち、第1の回転軸121と第2の回転軸122とに求められる異なった特性を考慮して、第1の回転軸121と第2の回転軸122の材料を選定している。例えば、第1の回転軸121には、線膨張係数が5×10-6-1以下のインバー、ニレジスト鋳鉄等のFe−Ni系合金やセラミックスなどを用い、第2の回転軸122には、ヤング率が206Gpa程度であるマルテンサイト系ステンレス鋼を使用している。
【0007】
また、固定ボルト129には、各遠心ドラッグ翼123と、第1の回転軸121及びリング状部材130の軸方向接触面にて回転トルクに応じて摩擦力が得られるように締付トルクが付与される。なお、ポンプ運転中の温度変化により固定ボルト129の締付力が変化しないようにするため、第1の回転軸121の線膨張係数と、各遠心ドラッグ翼123と各リング状部材130及び翼押さえ131からなる積層ユニットとの線膨張係数を略同一にする。なお、図2において132は固定翼、133は吸気口133Aと排気口133Bを有するケーシングである。
【特許文献1】特開平3−115797号公報
【特許文献2】特開2005−69066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に記載のターボ型真空ポンプにおいて、例えば第1の回転軸121の特性をもつ材料としてはセラミックスが考えられる。この第1の回転軸121に固定ボルト129を捩じ込むためのネジ溝を有するネジ穴を形成が必要となる。セラミックスは脆性材料であるためネジ形状の形成には不向きである。もし仮に形成したとしても鋭角になるネジ溝部からの破損の可能性が考えられる。
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、小型化、軽量化が可能で、簡単な構成で分離して構成された動翼を取付ける第1の回転軸とモータのロータ等を取付ける第2の回転軸が締結でき、高速回転及び比較的ロータを高温で稼動させるのに適したターボ型真空ポンプ、及び該真空ポンプを用いた半導体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、吸気口が設けられたケーシング内に、動翼と静翼からなるポンプ部が設けられ、前記ポンプ部の軸方向片側に前記動翼を回転支持する軸受及びモータを配置したターボ型真空ポンプにおいて、前記動翼を取り付ける第1の回転軸と、少なくとも前記モータのロータを取り付ける第2の回転軸と、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸を締結する締結部材とを具備し、前記第1の回転軸は高耐食性の材料で、前記第2の回転軸は強磁性の材料でそれぞれ構成され、前記第1の回転軸の線膨張係数が前記第2の回転軸の線膨張係数に比べて小さく、前記第1の回転軸は中空構造であり、前記締結部材は前記第1の回転軸の中空部を貫通し該第1の回転軸と前記第2の回転軸を締結することを特徴とする。
【0011】
上記ターボ型真空ポンプにおいて、例えば第1の回転軸に適した材料としてセラミック(Si34)(線膨張係数3×10-6-1、ヤング率300Gpa)を使用し、第2の回転軸としてSUS合金であるSUS420(磁性材料)(線膨張係数10.3×10-6-1、ヤング率200Gpa)を使用する。このような構成を採用することにより、第1の回転軸に脆性材料であるセラミックスを採用しても、第1の回転部材にネジ形状を形成することがないから、ロータ全体の機械的信頼性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明は上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記締結部材の線膨張係数は、前記第1の回転軸の線膨張係数と同等以下であること特徴とする。ターボ型真空ポンプにおいて、ロータを回転させると、常温に対して温度上昇する。その温度上昇量は、ポンプへの負荷、周囲温度、冷却条件により影響される。第1の回転軸と第2の回転軸を締結する締結部材の線膨張係数が、第1の回転軸の線膨張係数より大きいと、締結部材の方が、第1の回転軸よりも伸びてしまい、緩みが発生し、回転異常を発生するおそれがある。それに対して締結部材の線膨張係数を第1の回転軸の線膨張係数と同等以下とすると、締結部材には第1の回転軸の熱膨張による力が軸方向に作用し、緩みは発生しない。よって、ロータ高温時でも安定した高速回転を維持することができる。
【0013】
また、本発明は、上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記第1の回転軸に取り付けられた前記動翼の軸方向の移動を阻止する動翼押え部材と前記第1の回転軸の間に弾性材からなる弾性部材を介在させたことを特徴とする。第1の回転軸に翼要素を多段に挿入、締結する構造を想定した場合、多段の翼要素と第1の回転軸の同時締結が必要である。しかし、2つの端面を同時に押さえることはできないので、その際に生じる軸方向の隙間に弾性部材を介在させて締結する方式を採用した。この弾性材料としては、ゴム、樹脂等が上げられる。また、同じ効果を得るため、バネ鋼等を用いてもよい。また、バネ座金等、形状により軸方向に作用する弾性部材を用いても同様の効果が得られる。
【0014】
また、本発明は、上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記第1の回転軸に取り付けられた前記動翼の軸方向の移動を阻止する動翼押さえ鍔部を該第1の回転軸と一体形成したことを特徴とする。このように、動翼の軸方向の移動を阻止する動翼押え鍔部を第1の回転軸と一体形成したことにより、第1の回転軸に多段に挿入された翼要素を介して第1の回転軸を軸方向に締結保持できる。
【0015】
また、本発明は、上記ターボ型真空ポンプと、真空チャンバとを備え、
真空チャンバ近傍にターボ型真空ポンプを配置し、ターボ型真空ポンプの排気口とバックポンプとを配管により接続した排気系を有することを特徴とする半導体製造装置にある。
【0016】
また、本発明は、上記半導体製造装置において、ターボ型真空ポンプの回転速度を変化させることにより、真空チャンバの圧力を所定の値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、動翼を取り付ける第1の回転軸と、少なくともモータのロータを取り付ける第2の回転軸と、第1の回転軸と第2の回転軸を締結する締結部材とを具備し、第1の回転軸は高耐食性の材料で、第2の回転軸は強磁性の材料でそれぞれ構成され、第1の回転軸の線膨張係数が第2の回転軸の線膨張係数に比べて小さく、第1の回転軸は中空構造であり、締結部材は第1の回転軸の中空部を貫通し第1の回転軸と第2の回転軸を締結するので、第1の回転軸にセラミック(Si34)等の脆性材料を採用しても、第1の回転部材にネジ形状を形成する必要がないから、ロータ全体の機械的信頼性を向上させることができ、高速回転及び比較的ロータを高温にて稼動させるのに適したターボ型真空ポンプを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本願発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。図3は本発明に係るターボ型真空ポンプの全体構成を示す断面図である。図3に示すように、本発明に係るターボ型真空ポンプは、ポンプ部Pと該ポンプ部Pを駆動するモータ部Mから構成される。ポンプ部Pは、吸気口11a、排気口11bを有するポンプケーシング11を備えている。該ポンプケーシング11内には上段遠心圧縮ポンプ12と下段遠心圧縮ポンプ13を配設した構成である。モータ部Mは、モータケーシング39を備え、該モータケーシング39内にモータステータ(固定子)40が嵌合固定され、モータケーシング39内に回転自在に支持されたモータロータ(回転子)41が配設された構成である。モータロータ41が固定されるモータ回転軸は第2の回転軸44となっている。ポンプケーシング11とモータケーシング39は図示しないボルトナット等により一体的に結合されている。
【0019】
上段遠心圧縮ポンプ12は動翼である複数枚(図では5枚)の遠心ドラッグ翼12−1と、静翼である複数枚(図では5枚)の固定翼12−2を有している。また、下段遠心圧縮ポンプ13は動翼である複数枚(図では10枚)の遠心ドラッグ翼13−1と、静翼である複数枚(図では10枚)の固定翼13−2を有している。複数枚の遠心ドラッグ翼12−1と、複数枚の遠心ドラッグ翼13−1は後述するように、第1の回転軸25に嵌合固定されてポンプロータを構成している。第1の回転軸25とモータ回転軸である第2の回転軸44は第1の回転軸25を貫通する締結部材29により連結されている。
【0020】
図4は上段遠心圧縮ポンプ12の遠心ドラッグ翼12−1を示す図で、図4(a)は正面図、図4(b)は側断面図である。遠心ドラッグ翼12−1は、図示するように回転方向(矢印A方向に)に対して後ろ向きにスパイラル状に延びる複数の渦巻状羽根14と、該渦巻状羽根14が固定される円板状の基部15とを有している。図4(a)の矢印Aに示すように、遠心ドラッグ翼12−1の回転方向が時計回りの方向の場合、渦巻状羽根14は遠心ドラッグ翼12−1の内径側から外径側に向かって反時計回りの方向にスパイラル状に延びる。遠心ドラッグ翼12−1の中央部には第1の回転軸25が嵌合する孔16が形成されている。
【0021】
図5は上段遠心圧縮ポンプ12の固定翼12−2を示す図で、図5(a)は正面図、図5(b)は側断面図である。図示するように固定翼12−2は遠心ドラッグ翼12−1の回転方向(矢印A方向に)に対して後ろ向きにスパイラル状に延びる渦巻状ガイド17が片側に設けられた円板状の基部18を有している。図5(a)に示すように、遠心ドラッグ翼12−1の回転方向が矢印Aに示すように時計回りの方向である場合、渦巻状ガイド17は固定翼12−2の内径側から外径側に向かって反時計方向に向かってスパイラル状に延びる。固定翼12−2の中央部には孔19が形成されている。
【0022】
図6は下段遠心圧縮ポンプ13の遠心ドラッグ翼13−1を示す図で、図6(a)は正面図、図6(b)は側断面図、図6(c)は遠心ドラッグ翼の渦巻状溝の拡大断面図である。遠心ドラッグ翼13−1は、図示するように回転方向(矢印A方向に)に対して後ろ向きにスパイラル状に延びる複数本(図では16本)の渦巻状溝20が形成された円板状の基部21を有している。図6(a)の矢印Aに示すように、遠心ドラッグ翼13−1の回転方向が時計回りの方向の場合、渦巻状溝20は遠心ドラッグ翼13−1の内径側から外径側に向かって反時計回りの方向にスパイラル状に延びる。遠心ドラッグ翼13−1の中央部には第1の回転軸25が嵌合する孔22が形成されている。また、渦巻状溝20はその幅寸法Lに対して深さ寸法dが小さく(L>d)なっている。
【0023】
図7は下段遠心圧縮ポンプ13の固定翼13−2を示す図で、図7(a)は正面図、図7(b)は側断面図である。図示するように固定翼13−2は表面が平坦な円板状の基部23を有している。固定翼13−2の中央部には孔24が形成されている。
【0024】
第1の回転軸25の下端部には段部25aが形成され、該段部25aの外周には複数枚の遠心ドラッグ翼12−1や複数枚の遠心ドラッグ翼13−1を第1の回転軸25に固定するための円板状の動翼押え部材26がインロウや焼嵌め等で固定されている。該動翼押え部材26の上に第1の回転軸25を孔22に貫通させた複数枚の遠心ドラッグ翼13−1が間にリング状のスペーサ27を介在させて積層された積層体と、該積層体の上に第1の回転軸25を孔16に貫通させた複数枚の遠心ドラッグ翼12−1を積層した積層体が配置されている。そして遠心ドラッグ翼13−1と遠心ドラッグ翼13−1の間に位置するように固定翼13−2が間にリング状のスペーサ28を介在させてポンプケーシング11内に積層固定され、更に遠心ドラッグ翼12−1と遠心ドラッグ翼12−1の間に位置するように固定翼12−2がポンプケーシング11内に積層固定されている。
【0025】
締結部材29の下端から所定位置までネジ溝29aが形成されており、動翼押え部材26にはこのネジ溝29aが螺合するネジ溝26aが形成されている。上記のように第1の回転軸25に積層された遠心ドラッグ翼12−1及び遠心ドラッグ翼13−1を動翼押え部材30を介在させて締結部材29でそのネジ溝29aを動翼押え部材26のネジ溝26aに螺合させ締め付けることにより、遠心ドラッグ翼12−1及び遠心ドラッグ翼13−1を第1の回転軸25の外周に固定している。また、固定翼12−2の積層体の上部には複数個のリング状のスペーサ31が介在して、固定翼13−2の積層体と固定翼12−2の積層体をポンプケーシング11内に固定している。
【0026】
モータケーシング39内のモータステータ(固定子)40の上下両側には上ラジアル磁気軸受ステータ(固定子)42、下ラジアル磁気軸受ステータ(固定子)43が嵌合固定され、モータ回転軸である第2の回転軸44には上ラジアル磁気軸受ステータ42に対向して上ラジアル磁気軸受ロータ(回転子)45、下ラジアル磁気軸受ステータ43に対向して下ラジアル磁気軸受ロータ46が固定されている。また、モータケーシング39下端部内にはアキシャル磁気軸受ステータ(固定子)47が嵌合固定され、第2の回転軸44の下端にはアキシャル磁気軸受ステータ47に対向してアキシャル磁気軸受ロータ(ディスク)48が固定されている。
【0027】
モータケーシング39の下端には軸受ブラケット49がボルト50で取付けられ、該軸受ブラケット49にはアキシャル磁気軸受ロータ48の間に位置するようにタッチダウンベアリング(非常用軸受)51が取付けられている。また、モータケーシング39の上端内にも動翼押え部材26の間に位置するようにタッチダウンベアリング52が取付けられている。また、モータケーシング39の外周部には、冷却ジャケット38が設けられ、冷媒入口36から冷却ジャケット38に流入した冷媒は、モータ部Mを冷却し、冷媒出口37から排出される。また、モータケーシング39の下端には端部カバー53がボルト54で取付けられている。
【0028】
渦巻状羽根14が形成された遠心ドラッグ翼12−1の表面は、固定翼12−2の表面に対して数十〜数百μmの間隔を形成して対向している。また、渦巻状溝20が形成された遠心ドラッグ翼13−1は、固定翼13−2の表面に対して数十〜数百μmの間隔を形成して対向している。そして遠心ドラッグ翼12−1及び遠心ドラッグ翼13−1が回転することによって、固定翼12−2及び固定翼13−2との相互作用、即ち、気体に対する遠心作用と気体の粘性によるドラッグ作用とにより、遠心ドラッグ翼12−1及び遠心ドラッグ翼13−1の内径側から外径側へ気体の圧縮・排気が行われる。遠心ドラッグ翼12−1の外側へ圧縮された気体は、次に固定翼12−2の渦巻状ガイド17が設けられた空間に流れ込み、渦巻状ガイド17が形成された固定翼12−2の表面との遠心ドラッグ翼12−1の基部15の表面と気体の粘性のドラッグ作用によって外径側から内径側へ気体の圧縮・排気が行われる。渦巻状溝20が形成された遠心ドラッグ翼13−1と平坦面の固定翼13−2の間でも同様な作用により圧縮・排気が行われる。
【0029】
上記作用を上段遠心圧縮ポンプ12の多段化した遠心ドラッグ翼12−1及び固定翼12−2、下段遠心圧縮ポンプ13の多段化した遠心ドラッグ翼13−1及び固定翼13−2にて順次繰り返して行うことにより、気体の圧縮排気性能を高く設定することができる。なお、動翼及び静翼の構成例は、本実施形態例に限定されるものではなく、要求される排気性能や翼寸法等を考慮して、最適な翼形式(例えば、タービン、遠心ドラッグ、渦流等)を適宜組合わせて用いても良い。
【0030】
ここで、第1の回転軸25は、上段遠心圧縮ポンプ12の遠心ドラッグ翼12−1及び固定翼12−2、下段遠心圧縮ポンプ13の遠心ドラッグ翼13−1及び固定翼13−2にて形成される排気流路と同一の空間に配置されるため、ポンプ部Pで排気されるガスに対して影響を受けない材料で構成することが望ましい。例えば、腐食性ガスを排気する場合には、その腐食性ガスに対して耐腐食性を有する材料にて構成される必要がある。また、反応生成物を含むガスを排気する場合には、一般にポンプ内部で反応生成物が析出することを防止するために加熱を行うので、その加熱温度に対して耐熱性を有することが必要である。
【0031】
更に、上段遠心圧縮ポンプ12及び下段遠心圧縮ポンプ13の排気性能確保のため、遠心ドラッグ翼12−1と固定翼12−2、遠心ドラッグ翼13−1と固定翼13−2との隙間を前述のように数十〜数百μmと狭いクリアランスにて運転する必要があるので、反応生成物析出防止のために排気流路を加熱した際は、温度変化に対する寸法変化が極力少ない方が望ましい。即ち、寸法変化を抑制することによって、可及的に前記クリアランスを狭くできてポンプ性能を向上でき、且つ温度変化に拘わらず安定した排気性能を発揮できることが望ましい。
【0032】
他方、第2の回転軸44には、モータロータ41、上ラジアル磁気軸受ロータ45、下ラジアル磁気軸受ロータ46及びアキシャル磁気軸受ロータ48等が固定されており、第2の回転軸44はロータの軸振動特性を支配するため、高強度、高ヤング率材料で構成することが望ましい。また、モータや磁気軸受の出力特性向上のため、第2の回転軸44は強磁性体で構成すると、より好適である。
【0033】
上述の通り、排気流路内に設置される第1の回転軸と25と、モータロータ41や上下ラジアル磁気軸受ロータ45、46及びアキシャル磁気軸受ロータ48等が固定され、全体の支承及び回転駆動する第2の回転軸44では、求められる特性が異なっている。そこで、第1の回転軸25は高耐食性の材料で構成し、第2の回転軸44は強磁性の材料で構成し、該第1の回転軸25と第2の回転軸44を締結部材29を介して締結するように構成した。この締結部材29は円柱状でその下端から所定位置まで、ネジ溝29aが形成されている。この締結部材29を第1の回転軸25の中心部に設けた貫通孔を貫通させ、そのネジ溝29aを第2の回転軸44に形成されたネジ孔44aに捩じ込むことにより、第1の回転軸25と第2の回転軸44を締結している。
【0034】
例えば、第1の回転軸25にセラミック(Si34)を、第2の回転軸44にSUS合金であるSUS420(磁性体)をそれぞれ使用する。セラミック(Si34)の線膨張係数は3×10-6(℃-1)、ヤング率は300(Gpa)であり、SUS420の線膨張係数は10.3×10-6(℃-1)、ヤング率は200(Gpa)である。第1の回転軸25に脆性材料であるセラミックスを採用しても、第1の回転軸25に図2に示すように、ネジ溝を有するネジ穴を形成することがないから、ロータ全体の機械的信頼性を向上させることができる。ここで、第1の回転軸25に使用する材料の線膨張係数は5×10-6(℃-1)以下のものを選定し、第2の回転軸44に使用する材料のヤング率は200(Gpa)以上のものを選定することが好ましい。
【0035】
締結部材29に使用する材料の線膨張係数は、第1の回転軸25に使用する材料の線膨張係数と同等以下とする。ターボ型真空ポンプにおいて、ロータを回転させると、常温に対して温度上昇する。その温度上昇量は、ポンプへの負荷、周囲温度、冷却条件により影響される。第1の回転軸25と第2の回転軸44を締結する締結部材29の線膨張係数が、第1の回転軸25の材料の線膨張係数より大きいと、締結部材29の方が、第1の回転軸25よりも伸びてしまい、緩みが発生し、回転異常を発生するおそれがある。そこで、締結部材29の材料の線膨張係数を第1の回転軸25の材料の線膨張係数と同等以下とすることにより、締結部材29には第1の回転軸25の熱膨張による力が軸方向に作用し、緩みは発生しないことになり、ロータ高温時でも安定した高速回転を維持することができる。
【0036】
図8は本発明に係る他のターボ型真空ポンプのポンプ部Pの構成を示す断面図である。本ターボ型真空ポンプにおいては、第1の回転軸25に取り付けられた動翼である複数枚の遠心ドラッグ翼12−1と複数枚の遠心ドラッグ翼13−1の軸方向の移動を阻止する動翼押え部材30と第1の回転軸25の間に弾性材からなるリング状の弾性部材60を介在させている。第1の回転軸25に上段遠心圧縮ポンプ12を構成する多段の遠心ドラッグ翼12−1や下段遠心圧縮ポンプ13を構成する多段の遠心ドラッグ翼13−1(翼要素)を挿入、締結する構造を想定した場合、この多段の翼要素と第1の回転軸25の同時締結が必要である。しかし、2つの端面を同時に押さえることはできないので、その際に生じる軸方向の隙間に弾性部材60を介在させて締結する方式を採用した。
【0037】
上記弾性部材60を構成する弾性材料としては、ゴム、樹脂等が上げられる。また、同じ効果を得るため、バネ鋼等を用いてもよい。また、バネ座金等、形状により軸方向に作用する弾性部材を用いても同様の効果が得られる。また、図9に示すように、第1の回転軸25の上端全面と動翼押え部材30の間に円板状の弾性部材61を介在させてもよい。
【0038】
また、図8及び図9では、弾性部材60、61を設ける位置を、動翼押え部材30と第1の回転軸25の間としたが、図10に示すように第1の回転軸25と第2の回転軸44の間(ここでは動翼押え部材26と第1の回転軸25の間)に弾性部材63を設けても同様の効果が得られる。
【0039】
また、上記例では、第1の回転軸25に動翼である複数枚の遠心ドラッグ翼12−1と複数枚の遠心ドラッグ翼13−1を軸方向に、第1の回転軸25とは別部品の動翼押え部材26を設けたが、図11に示すように、第1の回転軸25の下端部に遠心ドラッグ翼12−1や遠心ドラッグ翼13−1の軸方向の移動を阻止する動翼押え鍔部64を第1の回転軸25と一体形成してもよい。このように、遠心ドラッグ翼12−1や遠心ドラッグ翼13−1の動翼の軸方向の移動を阻止する動翼押え鍔部64を第1の回転軸25と一体形成したことにより、第1の回転軸25に多段に挿入された遠心ドラッグ翼12−1や遠心ドラッグ翼13−1の翼要素を介して第1の回転軸25を軸方向に締結保持できる。
【0040】
図12は本発明に係るターボ型真空ポンプのポンプ部の他の構成例を示す図である。本ターボ型真空ポンプは、図3に示す構成のターボ型真空ポンプにおいて、動翼押え部材30に替え、外周に複数個(図では5個)の排気翼(動翼)81が軸方向に等ピッチで一体に形成された動翼付押さえ部材80を用いている。この動翼付押さえ部材80で上段遠心圧縮ポンプ12を構成する複数の遠心ドラッグ翼12−1の積層体及び下段遠心圧縮ポンプ13を構成する複数の遠心ドラッグ翼13−1の積層体を押圧固定している。そして排気翼81と排気翼81の間に固定翼(静翼)82が位置するようにスペーサ83を介在させて該固定翼82をポンプケーシング11の内周に固定した構成である。
【0041】
上記のように動翼付押さえ部材80を用いることにより、更に翼要素の多段化を図ることができ、より高い真空度を得ることが可能となる。真空度の高い吸気側に位置する動翼付押さえ部材80に一体形成する排気翼81及び固定翼82としては遠心ドラッグ翼や、更に高真空領域にて排気効率の高いタービン翼が適している。
【0042】
図13は本発明に係るターボ型真空ポンプ71を半導体製造装置72に備えられた真空チャンバ73近傍に取付けて、ターボ型真空ポンプ71の排気口とバックポンプ74との間を配管75で接続した模式図である。ターボ型真空ポンプ71は、ロータの振動特性を支配する第2の回転軸44を高強度・高ヤング率材料で構成しており、また軸受には磁気軸受を用いていることから高速回転が容易である。このため遠心ドラッグ翼12−1や遠心ドラッグ翼13−1の動翼を含む排気流路の小型化ができるから、小型・軽量・低振動・コンタミフリー化した(汚染のない)真空ポンプを構成できる。このため、真空チャンバ73へ振動やコンタミ等の悪影響を与えることなく、設置スペースもコンパクトにできるので、半導体製造装置72内の真空チャンバ73近傍に本発明に係るターボ型真空ポンプ71を容易に設置することができる。さらに、製造プロセスからの必要条件により真空チャンバ73を高温保持する場合であっても、排気流路部を高温に加熱・保持できる本発明に係るターボ型真空ポンプ71は、真空チャンバ73の近傍への設置が容易である。
【0043】
これにより、本発明に係るターボ型真空ポンプ71を用いて真空チャンバ73近傍にて直ちに排気するガスを圧縮することにより、配管75はコンダクタンスの影響を受け難くなるので、配管径を小さくできる。また、配管75を長くしてよいため、バックポンプ74の設置場所に自由度が増える。また、バックポンプ74は、大きな排気速度を必要としていないため、小型化が図れる。これは製造プロセスでのガス流量が多い場合、真空チャンバ73の内圧が低い場合に、特に有効である。
【0044】
また、本発明に係るターボ型真空ポンプ71は、回転速度制御装置76からモータ駆動力を得ている。回転速度制御装置76は、入力信号として真空チャンバ73に設置された圧力計77より圧力値を取り込んでいる。そして、前記圧力値が所定の値となるように、適切なモータ駆動電力(調整された周波数および電圧を有する電力)を回転速度制御装置76に供給して、ターボ型真空ポンプ71の回転速度を調整する。
【0045】
上記構成により、真空チャンバ73の圧力は種々の圧力値に設定できるようになり、各種製造プロセスを同一の装置にて行うことが可能となる。特に、本発明に係るターボ型真空ポンプ71は、小型化によりロータの慣性モーメントを低く設定できるので、ロータの回転速度変更に対応する応答性を速くすることが可能である。よって、回転速度の可変を迅速に実施できるため、真空チャンバ73の圧力調整が容易に行える。なお、図12では、真空排気系を用いた装置として半導体製造装置を一例として示したが、真空排気する装置の対象はどのような装置でもよい。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来のターボ型真空ポンプの構成例を示す断面図である。
【図2】従来のターボ型真空ポンプの構成例を示す断面図である。
【図3】本発明に係るターボ型真空ポンプの構成例を示す断面図である。
【図4】本発明に係るターボ型真空ポンプの上段遠心圧縮ポンプの遠心ドラッグ翼(動翼)の構成例を示す図である。
【図5】本発明に係るターボ型真空ポンプの上段遠心圧縮ポンプの固定翼(静翼)の構成例を示す図である。
【図6】本発明に係るターボ型真空ポンプの下段遠心圧縮ポンプの遠心ドラッグ翼(動翼)の構成例を示す図である。
【図7】本発明に係るターボ型真空ポンプの下段遠心圧縮ポンプの固定翼(静翼)の構成例を示す図である。
【図8】本発明に係るターボ型真空ポンプのポンプ部の構成例を示す図である。
【図9】本発明に係るターボ型真空ポンプのポンプ部の構成例を示す図である。
【図10】本発明に係るターボ型真空ポンプの構成例を示す断面図である。
【図11】本発明に係るターボ型真空ポンプのポンプ部の構成例を示す図である。
【図12】本発明に係るターボ型真空ポンプのポンプ部の構成例を示す図である。
【図13】本発明に係るターボ型真空ポンプを備えた半導体製造装置の模式図である。
【符号の説明】
【0048】
11 ポンプケーシング
12 上段遠心圧縮ポンプ
12−1 遠心ドラッグ翼(動翼)
12−2 固定翼(静翼)
13 下段遠心圧縮ポンプ
13−1 遠心ドラック翼(動翼)
13−2 固定翼(静翼)
14 渦巻状羽根
15 基部
16 孔
17 渦巻状ガイド
18 基部
19 孔
20 渦巻状溝
21 基部
22 孔
23 基部
24 孔
25 第1の回転軸
26 動翼押え部材
27 スペーサ
28 スペーサ
29 締結部材
30 動翼押え部材
31 スペーサ
36 冷媒入口
37 冷媒出口
38 冷却ジャケット
39 モータケーシング
40 モータステータ(固定子)
41 モータロータ(回転子)
42 上ラジアル磁気軸受ステータ(固定子)
43 下ラジアル磁気軸受ステータ(固定子)
44 第2の回転軸
45 上ラジアル磁気軸受ロータ(回転子)
46 下ラジアル磁気軸受ロータ(回転子)
47 アキシャル磁気軸受ステータ(固定子)
48 アキシャル磁気軸受ロータ(ディスク)
49 軸受ブラケット
50 ボルト
51 タッチダウンベアリング(非常用軸受)
52 タッチダウンベアリング(非常用軸受)
53 端部カバー
54 ボルト
60 弾性部材
61 弾性部材
63 弾性部材
64 動翼押え鍔部
71 ターボ型真空ポンプ
72 半導体製造装置
73 真空チャンバ
74 バックポンプ
75 配管
76 回転速度制御装置
77 圧力計
80 動翼付押さえ部材
81 排気翼(動翼)
82 固定翼(静翼)
83 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口が設けられたケーシング内に、動翼と静翼からなるポンプ部が設けられ、前記ポンプ部の軸方向片側に前記動翼を回転支持する軸受及びモータを配置したターボ型真空ポンプにおいて、
前記動翼を取り付ける第1の回転軸と、少なくとも前記モータのロータを取り付ける第2の回転軸と、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸を締結する締結部材とを具備し、
前記第1の回転軸は高耐食性の材料で、前記第2の回転軸は強磁性の材料でそれぞれ構成され、
前記第1の回転軸の線膨張係数が前記第2の回転軸の線膨張係数に比べて小さく、
前記第1の回転軸は中空構造であり、前記締結部材は前記第1の回転軸の中空部を貫通し該第1の回転軸と前記第2の回転軸を締結することを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ型真空ポンプにおいて、
前記締結部材の線膨張係数は、前記第1の回転軸の線膨張係数と同等以下であること特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のターボ型真空ポンプにおいて、
前記第1の回転軸に取り付けられた前記動翼の軸方向の移動を阻止する動翼押さえ部材と前記第1の回転軸の間に弾性材からなる弾性部材を介在させたことを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のターボ型真空ポンプにおいて、
前記第1の回転軸に取り付けられた前記動翼の軸方向の移動を阻止する動翼押え鍔部を該第1の回転軸と一体形成したことを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のターボ型真空ポンプと、真空チャンバとを備え、
前記真空チャンバ近傍に前記ターボ型真空ポンプを配置し、前記ターボ型真空ポンプの排気口とバックポンプとを配管により接続した排気系を有することを特徴とする半導体製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体製造装置において、
前記ターボ型真空ポンプの回転速度を変化させることにより、前記真空チャンバの圧力を所定の値に設定することを特徴とする半導体製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−286179(P2008−286179A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134576(P2007−134576)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】