説明

ダイオード内蔵トランジスタ

【課題】
Iebリークを抑えながら十分な高速スイッチングが可能なダイオード内蔵トランジスタを提供する。
【解決手段】
ダイオード内蔵トランジスタのNPN-Tr5のベースコンタクトには、寄生PNP-Tr5とスピードアップダイオード(SUD)22とが接続される。寄生PNP-Tr5のベース幅9は、NPN-Tr5のIebリークが大きくならない程度の幅に設定される。寄生PNP-Tr5とスピードアップダイオード(SUD)22とにより、スイッチング速度の高速化が実現され、寄生PNP-Tr5のベース幅9を小さくしすぎないことによりIebリークが大きくなることを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高速スイッチング動作を行うためのダイオードを内蔵するダイオード内蔵トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のダイオード内蔵トランジスタの構造例を図1に示す。図1において、シリコン基板のN+層1上にエピタキシャル成長又は拡散によりN−層2が形成されている。N−層2には、ベース領域となる第1のP層3が選択的に拡散形成され、さらに第1のP層3には、エミッタ領域となるN+層4が選択的に拡散形成されている。トランジスタ(NPN-Tr)5は、コレクタ領域となるN−層2と、ベース領域となる第1のP層3と、エミッタ領域となるN+層4とで構成される。
【0003】
N−層2の前記P層3に接近した位置には、第2のP層6が形成されている。したがって、第2のP層6とその下側に位置するN−層2とでPN領域7を形成し、この部分でダイオードが形成される。このダイオードのP領域である第2のP層6と、トランジスタのベース領域である第1のP層3と、それらの間に位置するN−層2とは、寄生PNPトランジスタ(寄生PNP-Tr)8を構成する。すなわち、第2のP層6と第1のP層3との間が寄生PNP-Tr8のベース幅9となる。
【0004】
なお、エピタキシャル成長又は拡散により上記の各領域を形成した後、電極10を適切に設けることにより、ベースコンタクト11、エミッタコンタクト12を形成する。コレクタコンタクト13はN+層1に形成される。
【0005】
図2は、上記のようにして構成したダイオード内蔵トランジスタの等価回路図である。
【0006】
図1、及び図2に示すダイオード内蔵トランジスタでは、NPN-Tr5がターンオフするときに、ベース領域に蓄積された少数キャリアが、寄生PNP-Tr8のエミッタ−コレクタ間を通過して抜かれる。これにより、NPN-Tr5の高速スイッチング化を実現できる。
【0007】
また、特許文献1に示されるダーリントントランジタ回路にも、ダイオード(スピードアップダイオード)を設けることにより、トランジスタの高速化を図ることが開示されている。
【特許文献1】特開平05−090510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図1、図2に示される従来のトランジスタでは、寄生PNP-Tr8のベース幅を小さくするとスイッチングが速くなるが、反対に寄生PNP-Tr8の影響が大きくなりすぎて、NPN-Tr5のエミッタ−ベース間漏洩電流(Iebリーク)が大きくなる問題がある。すなわち、高速化とIebリークとはトレードオフの関係となり、十分な特性を得ることが出来ない問題がある。また、特許文献1に示されるトランジスタは、スピードアップダイオード1つだけであるため、十分な高速化を図ることが困難である。
【0009】
この発明の目的は、寄生PNP-Tr8にスピードアップダイオードを加えて、Iebリークを抑えながら十分な高速スイッチングが可能なダイオード内蔵トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、トランジスタに接近して第1のPN領域を形成することにより、該PN領域とトランジスタのベース領域とで寄生トランジスタを形成したダイオード内蔵トランジスタにおいて、
前記トランジスタのベースコンタクト部に第2のPN領域を形成し、この部分でトランジスタターンオフ時のベース電流の引き抜きを速くすることを特徴とする。
【0011】
寄生トランジスタを設けることにより、トランジスタのターンオフ時のベース電流を引き抜くことができ、トランジスタの高速化が可能である。また、トランジスタのベースコンタクト部に設けられた第2のPN領域でベース接続のダイオードが形成されるが、このダイオードでも、トランジスタのターンオフ時のベース電流を引き抜くことができるから、さらなる高速化が可能である。この発明では、寄生トランジスタのベース幅はIebリークが問題となる程度に小さくする必要がなく、Iebリークが許容値以下となる程度のベース幅であれば良い。そのように構成しても、第2のPN領域のダイオードで高速化されるため、全体として十分な高速化を実現できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、寄生トランジスタのベース幅をIebリークが問題となる程度に小さくしなくても、寄生トランジスタによる高速化と第2のPN領域で形成されるダイオードによる高速化の重畳作用により、特性を悪化させずにトランジスタの高速スイッチングを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図3は、この発明の実施形態であるダイオード内蔵トランジスタの構造図である。
【0014】
構成において、図1と相違する部分は、NPN-Tr5のベースコンタクト部11の部分に第2のPN領域20を形成した点である。第2のPN領域20は、NPN-Tr5のベース領域である第2のP層3に、N+層21を拡散して形成される。このN+層21は、NPN-Tr5のエミッタ領域であるN+層4と同時に形成される。図3に示す半導体断面においてN+層21の間隔(径)を適当に設定することで、ベースコンタクト部11の部分に抵抗(R)を形成する。第2のPN領域20は、スピードアップダイオード(SUD)22を構成する。このSUD22に抵抗(R)が並列接続される。
【0015】
寄生PNP-Tr8のベース幅9は、NPN-Tr5のIebリークが一定値以上とならない程度に広くされる。後述のように、本例では、このベース幅9は、略20μmである。
【0016】
以上のように構成することにより、寄生PNP-Tr8とSUD22は、NPN-Tr5のベースコンタクトにそれぞれ接続されることになり、それにより、寄生PNP-Tr8とSUD22とは、NPN-Tr5のターンオフ時にベース電流を別々に引き抜くように挙動する。したがって、NPN-Tr5のスイッチング動作の高速化を実現できる。
【0017】
また、寄生PNP-Tr8のベース幅9は、Iebリークが一定値以上とならない程度に広くされているため、特性が悪くなることはない。
【0018】
図4は、上記ダイオード内蔵トランジスタの等価回路図である。
【0019】
なお、第2のPN領域20は、NPN-Tr5と同時に形成されるため、製造工程が複雑化することはない。具体的には、第2のPN領域20のN+層21は、N+層4と同時に拡散形成される。
【0020】
図5は、図1に示す従来のダイオード内蔵トランジスタと本実施形態のダイオード内蔵トランジスタとの特性比較図である。
【0021】
従来のトランジスタ(従来タイプ)で、高速化のために寄生PNP-Tr8のベース幅を20μm→15μm→10μmと小さくしていくと、スイッチング時間tsは5.9μs→5.8μs(2%改善)→5.5μs(7%改善)と改善していく。しかしながら、寄生PNP-Trのベース幅が10μmになるとIebリークが大きくなりすぎてしまう。そのため、事実上、ベース幅は15μm(スイッチング時間tsは5.8μs)が限界である。
【0022】
一方、本実施形態のダイオード内蔵トランジスタ(SUDタイプ)は、寄生PNP-Tr8のベース幅を20μmにしても、SUD22の存在のため、スイッチング時間tsは3.9μs(34%)に改善される。
【0023】
すなわち、高速化の点では、SUDタイプが従来タイプに比して、5.8μs/3.9μs=148%だけ高速である。また、寄生PNP-Tr8のベース幅は20μmに設定しているために、Iebリークが大きくなりすぎてしまうことはない。
【0024】
なお、上記SUDタイプでは、SUD22を追加することにより、Vceが大きくなる。
【0025】
本実施形態のダイオード内蔵トランジスタでは、図5に示すように、寄生トランジスタによる高速化とSUD22による高速化の重畳作用により、全体として従来タイプのダイオード内蔵トランジスタに対してスイッチング時間を34%も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来のダイオード内蔵トランジスタの構造図
【図2】上記トランジスタの等価回路図
【図3】この発明の実施形態のダイオード内蔵トランジスタの構造図
【図4】上記トランジスタの等価回路図
【図5】従来タイプとSUDタイプの特性比較図
【符号の説明】
【0027】
5−NPN-Tr
8−寄生PNP-Tr
9−寄生PNP-Trのベース幅
22−スピードアップダイオード(SUD)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタに接近して第1のPN領域を形成することにより、該PN領域とトランジスタのベース領域とで寄生トランジスタを形成したダイオード内蔵トランジスタにおいて、
前記トランジスタのベースコンタクト部に第2のPN領域を形成し、この部分でトランジスタターンオフ時のベース電流の引き抜きを速くすることを特徴とするダイオード内蔵トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−171939(P2008−171939A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2463(P2007−2463)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】