説明

ダイシング用基体フイルム及びダイシングフイルム

【課題】本発明は、半導体ウエハのダイシング工程における切削屑(ダイシング後にフイルムから発生する糸状又はヒゲ状の屑)の発生がほとんどなく、かつ、エキスパンド性が優れるダイシングフイルムを提供することを目的とする。また、該ダイシングフイルムに用いられるダイシング用基体フイルムを提供することも目的とする。
【解決手段】A層/B層/C層の順に積層されてなるダイシング用基体フイルムであって、A層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含む樹脂組成物からなり、B層は、ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含む樹脂組成物からなり、C層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含む樹脂組成物からなる、ダイシング用基体フイルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等をチップ状にダイシングする際に、半導体ウエハ等を固定するためのダイシングフイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハは、予め大面積で作られた後、チップ状にダイシング(切断分離)されてエキスパンド工程に移される。そのダイシングに際して、半導体ウエハを固定するために用いられるのがダイシングフイルムである。
【0003】
ダイシングフイルムは、基本的には半導体ウエハを固定する粘着剤層とダイシングブレードの切り込みを受ける樹脂層(ダイシング用基体フイルム)とから構成されている。ダイシングフイルムに固定された半導体ウエハは、チップ状にダイシングされ、各チップ同士を分離するためにエキスパンドリング上で面方向に一様にエキスパンドされた後、ピックアップされる。
【0004】
半導体ウエハのダイシング工程では、ウエハとともに粘着剤層又はダイシング用基体フイルムの一部も切断されるため、樹脂の摩擦熱により溶融状態となり樹脂由来の切削屑(ダイシング屑)が発生する。この切削屑は、ウエハを汚染しチップの歩留まりを低下させるため、極力低減させる必要がある。
【0005】
例えば、ダイシング工程における切削屑をなくすことを主な目的として、次のようなダイシングフイルムが報告されている。
【0006】
特許文献1には、基材フイルムとして、電子線又はγ線を1〜80Mrad照射したポリエチレン等のポリオレフィン系フイルムが記載されている。しかし、このフイルムは、架橋性樹脂全体を電子線等で架橋するものであるため硬くなり充分なエキスパンド性が得られない。
【0007】
特許文献2には、基材フイルムとして、エチレン・メチルメタアクリレート共重合体フイルムが記載されている。しかし、このフイルムは、ある程度の切削屑を低減できるが、必ずしも充分ではない。
【0008】
特許文献3には、主に、エチレン、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルの3元共重合体を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂を主成分とする樹脂層Bと粘着剤層Aとが積層された半導体ウエハ固定用粘着テープが記載されている。しかし、このフイルムは、金属イオンを含むためウエハの汚染が問題となる。
【0009】
特許文献4には、粘着剤被塗布層と、熱可塑性エラストマー層と樹脂層とがこの順に積層され、前記熱可塑性エラストマー層が、水素添加したスチレン−ブタジエン共重合体を70質量%以上含む樹脂組成物からなり、層厚が基材肉厚に対して30%以上である粘着テープ用基材が記載されている。しかし、このフイルムは、切削屑の低減効果は必ずしも充分ではない。
【0010】
特許文献5には、少なくとも2層からなる基材フイルムにおいて、粘着剤層側の層の樹脂としてポリプロピレンが、粘着剤層側の樹脂層以外の層としてスチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物を用いることが記載されている。
【0011】
特許文献6には、オレフィン系熱可塑性エラストマーを含有してなる基材フイルム上の少なくとも片面に粘着剤層が設けられてなるダイシング用粘着シートが開示されている。該基材フイルムを多層フイルムとすることについては開示されているものの、その層構成については十分に検討がなされていないものである。従って、このような特許文献6のフイルムは、切削屑の低減効果は必ずしも充分ではない。
【0012】
特許文献7、8には、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体水素添加物とポリプロピレン系樹脂からなる樹脂組成物からなる層を含む多層ダイシング用基体フイルムが開示されている。特許文献7、8は、形状復元性を有するダイシングフイルムを提供することを目的とするものであり、切削屑の低減については十分な検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−211234号公報
【特許文献2】特開平5−156214号公報
【特許文献3】特開平9−8111号公報
【特許文献4】特開2005−272724号公報
【特許文献5】特開2005−174963号公報
【特許文献6】特開2003−7654号公報
【特許文献7】特開2009−94417号公報
【特許文献8】特開2009−105235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、半導体ウエハのダイシング工程における切削屑(ダイシング後にフイルムから発生する糸状又はヒゲ状の屑)の発生がほとんどなく、かつ、エキスパンド性が優れるダイシングフイルムを提供することを目的とする。また、該ダイシングフイルムに用いられるダイシング用基体フイルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の樹脂組成を有する層が積層されてなるダイシング用基体フイルムとすることで、上記の課題を全て解決できることを見出した。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は下記のダイシング用基体フイルム及びダイシングフイルムを提供する。
項1.A層/B層/C層の順に積層されてなるダイシング用基体フイルムであって、
A層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含む樹脂組成物からなり、
B層は、ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含む樹脂組成物からなり、
C層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含む樹脂組成物からなる、
ダイシング用基体フイルム。
項2.前記ダイシング用基体フイルムの全厚さが50〜300μmであり、ダイシング用基体フイルムの全厚さに対し、A層の厚さが5〜40%であり、B層の厚さが20〜90%である上記項1に記載のダイシング用基体フイルム。
項3.上記項1又は2に記載のダイシング用基体フイルムのA層上にさらに粘着剤層を有するダイシングフイルム。
項4.A層/B層/C層の順に積層されてなるダイシング用基体フイルムの製造方法であって、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含むA層用樹脂組成物、
ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含むB層用樹脂組成物、及び
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含むC層用樹脂組成物を、
A層/B層/C層の順に共押出成形することを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体ウエハのダイシング工程における切削屑の発生がほとんどなく、かつ、エキスパンド性が優れるダイシングフイルムを提供することができる。本発明のダイシングフイルムは、ダイシング工程における切削屑の発生がほとんどないためウエハの汚染やIC(集積回路)の破壊といった心配がない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ダイシング用基体フイルム
本発明のダイシング用基体フイルムは、A層/B層/C層の順に積層されてなるダイシング用基体フイルムであって、
A層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含む樹脂組成物からなり、
B層は、ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含む樹脂組成物からなり、
C層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含む樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0019】
以下、各層毎に説明する。
【0020】
1.1 A層
A層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含む樹脂組成物からなる研削層である。
【0021】
(1)ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物
ビニル芳香族炭化水素とは、少なくとも1つのビニル基を有する芳香族炭化水素のことであり、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、等を挙げることができる。これらは一種単独又は二種以上を混合して使用することができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0022】
共役ジエン炭化水素とは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等を挙げることができる。これらは一種単独又は二種以上を混合して使用することができる。これらの中でも、ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0023】
A層用樹脂組成物には、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又は該共重合体の水素添加物のいずれも用いることができるが、A層用樹脂組成物に含まれるポリプロピレン樹脂との相溶性の点から水素添加物が好ましい。
【0024】
ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体水素添加物は、上記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素の共重合体を水素添加することにより得られる。
【0025】
水添反応は、一般的に0〜200℃、より好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施される。水添反応に使用される水素の圧力は0.1〜15MPa、好ましくは0.2〜10MPa、更に好ましくは0.3〜7MPaが推奨される。また、水添反応時間は通常3分〜10時間、好ましくは10分〜5時間である。水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、或いはそれらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
【0026】
ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体の水素添加物の水添率は、共重合体中の共役ジエン炭化水素に由来する二重結合の85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。この水添率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0027】
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水素添加物におけるビニル芳香族炭化水素単位の含有量は、通常5〜40重量%であり、好ましくは5〜15重量%である。また、共役ジエン炭化水素単位の含有量は、通常60〜95重量%であり、好ましくは85〜95重量%である。スチレン系単量体単位の含有量は、紫外分光光度計又は核磁気共鳴装置(NMR)を用いて、ジエン系単量体単位の含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0028】
ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体又はその水素添加物の硬度(JISK6253 デュロメータータイプA)は、通常40〜90程度であり、好ましくは、55〜85程度である。
【0029】
また、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体又はその水素添加物の比重(ASTMD297)は、通常0.85〜1.0程度であり、MFR(ASTM D1238:230℃、21.2N)は、通常2〜6g/10分程度である。
【0030】
ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体又はその水素添加物の重量平均分子量(Mw)は、例えば、通常10万〜50万程度であり、好ましくは15万〜30万程度であればよい。重量平均分子量は、市販の標準ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0031】
該ビニル芳香族炭化水素−共役ジエン炭化水素共重合体水素添加物としては、例えば、クレイトンポリマージャパン(株)製「MD6945」、(株)クラレ製「ハイブラー7311」等を挙げることができる。
【0032】
(2)ポリプロピレン系樹脂
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂(PP)としては、結晶性のものが好ましい。結晶性プロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体あるいはプロピレンと少量のα−オレフィン及び/又はエチレンとのランダム又はブロック共重合体が挙げられる。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂が共重合体である場合には、α−オレフィン及び/又はエチレンの共重合割合は以下に示す割合であることが好ましい。
【0034】
ランダム共重合体の場合、該共重合体中に、プロピレン以外のα−オレフィン及び/又はエチレンが、一般に合計で10重量%以下であり、好ましくは0.5〜7重量%である。また、ブロック共重合体の場合、該共重合体中に、プロピレン以外のα−オレフィン及び/又はエチレンが、一般に合計で40重量%以下であり、好ましくは1〜40重量%であり、より好ましくは1〜25重量%、さらに好ましくは2〜20重量%、特に好ましくは3〜15重量%である。
【0035】
これらのポリプロピレン系重合体は、2種以上の重合体を混合したものであってもよい。
【0036】
ポリプロピレンの結晶性の指標としては、例えば、融点、結晶融解熱量等が用いられ、融点は120〜176℃、結晶融解熱量は60〜120J/gであることが好ましい。
【0037】
該ポリプロピレン系樹脂は、気相重合法、バルク重合法、溶媒重合法及び任意にそれらを組み合わせて多段重合を採用することができ、また、重合体の数平均分子量についても特に制限はないが、好ましくは10,000〜1,000,000に調整される。
【0038】
この結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、JIS K7210に準拠して、温度230℃で、荷重21.18Nで測定したときのMFR(メルトフローレート)が、一般に0.5〜20g/10分であり、好ましくは0.5〜10g/10分である。
【0039】
(3)A層用樹脂組成物
本発明のダイシングフイルムに用いるA層用樹脂組成物は、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及び前記ポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含み、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物50〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂20〜50重量%を含むことが好ましく、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物60〜75重量%及びポリプロピレン系樹脂25〜40重量%を含むことがより好ましい。A層用樹脂組成物の組成が前記範囲内であることにより、半導体ウエハのダイシング工程において切削屑の発生を抑制することができるため好ましい。
【0040】
また、前記A層用樹脂組成物には、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又は前記ポリプロピレン系樹脂以外にも酸化防止剤、耐候性剤等の公知の添加剤を含むことができる。その添加範囲としては、特に限定されるものではないが、A層用樹脂組成物全固形分中10重量%以下であることが好ましく、1〜5重量%の範囲を挙げることができる。
【0041】
1.2 B層
B層は、ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含む樹脂組成物からなる中間層である。
【0042】
(1)ポリプロピレン系樹脂
B層で用いられるポリプロピレン系樹脂は、前記A層で用いることができるものと同じものを挙げることができる。
【0043】
(2)オレフィン系熱可塑性エラストマー
本発明で用いるオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ポリプロピレン系樹脂成分と、プロピレンとエチレンとの共重合体ゴム成分を含有するものが好ましく、ポリプロピレン系樹脂(マトリックス相)中に、プロピレンとエチレンとの共重合体ゴムが微分散している海−島構造を有するエラストマーであることがより好ましい。
【0044】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン系樹脂成分が10〜40重量%であることが好ましく、20〜30重量%であることがより好ましい。また、プロピレンとエチレンとの共重合体ゴム成分は、60〜90重量%であることが好ましく、70〜80重量%であることがより好ましい。
【0045】
(i)ポリプロピレン系樹脂成分
ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチックインデックスが90%以上のプロピレン単独重合体が好ましく、95%以上であるプロピレン単独重合体であることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックインデックスが90%未満では、オレフィン系熱可塑性エラストマーの耐熱性が劣る傾向にある。
【0046】
(ii)プロピレンとエチレンとの共重合体ゴム成分
プロピレンとエチレンの共重合割合は、特に限定されるものではなく、適宜決定することができる。一例としては、例えば、プロピレン/エチレン=10〜90/90〜10(重量%)等を挙げることできる。
【0047】
共重合体ゴムには、プロピレンとエチレン以外にも共重合成分を含んでもよい。共重合成分としては、例えば、1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン等の非共役ジエンを挙げることができる。これらの添加量は特に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0048】
本発明で用いるオレフィン系熱可塑性エラストマーは、o−ジクロロベンゼンを溶媒として用いた、温度0〜140℃の間の温度上昇溶離分別における0℃での溶出量が全溶出量に対して60〜80重量%であることが好ましい。0℃での溶出量がこの範囲であると反りを効果的に抑制できるため好ましい。
【0049】
ここで、温度上昇溶離分別(Temperature Rising Elution Fractionation;TREF)は、公知の分析法である。具体的な測定方法としては、例えば、特開2003−7654号公報に開示されている方法等を挙げることができる。
【0050】
(iii)オレフィン系熱可塑性エラストマーの製造方法
本発明で用いるオレフィン系熱可塑性エラストマーの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法であってもよいが、下記に製造方法の一例を示す。
【0051】
第一段階で、反応容器にプロピレンを供給して、触媒の存在下に温度50〜150℃(好ましくは、50〜100℃)、プロピレン分圧0.5〜4.5MPa(好ましくは、1.0〜3.5MPa)の条件で、プロピレン単独重合体の重合を実施する。
【0052】
引き続いて、第二段階で、プロピレンとエチレンを供給して、触媒の存在下に温度50〜150℃(好ましくは50〜100℃)、プロピレン及びエチレン分圧各0.3〜4.5MPa(好ましくは0.5〜3.5MPa)の条件で、プロピレン−エチレン共重合体の重合を実施して製造する。
【0053】
(3)B層用樹脂組成物
本発明のダイシングフイルムに用いるB層用樹脂組成物は、前記ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及び前記オレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含み、前記ポリプロピレン系樹脂0〜10重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー90〜100重量%を含むことが好ましく、前記ポリプロピレン系樹脂0〜5重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー95〜100重量%を含むことがより好ましい。B層用樹脂組成物の組成が前記範囲内であることにより、半導体ウエハのダイシング工程において切削屑の発生を抑制することができるため好ましい。
【0054】
1.3 C層
C層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含む樹脂組成物からなるブロッキング防止層である。
【0055】
C層で用いられるビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物、ポリプロピレン系樹脂としては、前記A層で用いることができるものと同じものを挙げることができる。
【0056】
本発明のダイシングフイルムに用いるC層用樹脂組成物は、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及び前記ポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含み、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜30重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜100重量%を含むことが好ましく、前記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物10〜20重量%及びポリプロピレン系樹脂80〜90重量%を含むことがより好ましい。C層用樹脂組成物の組成が前記範囲内であることにより、ブロッキングが抑制されるため好ましい。
【0057】
C層には、必要に応じさらに帯電防止剤を含んでいてもよい。C層で用いられる帯電防止剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の公知の界面活性剤を選択できるが、とりわけ持続性、耐久性の点から、ポリエーテルエステルアミド樹脂、親水性ポリオレフィン樹脂等のノニオン系界面活性剤が好適である。
【0058】
さらに、C層には、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、さらにアンチブロッキング剤等を加えてもよい。アンチブロッキング剤を添加することにより、ダイシング用基体フイルムをロール状に巻き取った場合等のブロッキングが抑えられ好ましい。アンチブロッキング剤としては、無機系または有機系の微粒子を例示することができる。
【0059】
1.4 各層の厚さ
ダイシング用基体フイルムの厚さは、ダイシングブレードの切り込み深さよりも厚くし、且つ容易にロ−ル状に巻くことができる程度であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば50〜300μmが好ましく、60〜250μmがより好ましく、70〜200μmがさらに好ましい。
【0060】
また、ダイシング用基体フイルム全厚さに対し、A層の厚さの割合は5〜40%が好ましく、5〜30%がより好ましく、B層の厚さの割合は20〜90%が好ましく、40〜90%がより好ましく、C層の厚さの割合は通常5〜40%が好ましく、5〜30%がより好ましい。
【0061】
ダイシング用基体フイルムの具体例としては、ダイシング用基体フイルムの全厚さが120〜180μmの場合、A層の厚さは、6〜72μm、好ましくは6〜54μmである。B層の厚さは、24〜162μm、好ましくは48〜162μmである。C層の厚さは、6〜72μm、好ましくは6〜54μmである。
【0062】
A層及びB層の合計厚さはダイシングブレードの切り込みの最深部の深さよりも厚くし、ダイシングブレードの切込みがC層にまで達しない厚さとすることが必要である。このような厚さのA層及びB層を設けることにより基材フイルムとしての切削屑はほとんど発生しない。
【0063】
2.ダイシング用基体フイルムの製造方法
本発明の3層構成のダイシング用基体フイルムは、A層、B層及びC層用樹脂組成物を多層共押出成形して製造する。具体的には、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含むA層用樹脂組成物、ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含むB層用樹脂組成物、及びビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含むC層用樹脂組成物を、A層/B層/C層の順に共押出成形して製造する。
【0064】
A層、B層及びC層用樹脂組成物は、それぞれ所定割合樹脂をドライブレンド又は溶融混練し調製することができる。A層、B層及びC層用樹脂組成物は、前述した組成物を使用することができる。
【0065】
また、本発明においては、A層用樹脂組成物とC層用樹脂組成物を同じ組成とすることができる。
【0066】
上記した各層用樹脂をそれぞれこの順でスクリュー式押出機に供給し、180〜225℃で多層Tダイからフイルム状に押出し、これを50〜70℃の冷却ロールに通しながら冷却して実質的に無延伸で引き取る。或いは、各層用樹脂を一旦ペレットとして取得した後、上記の様に押出成形してもよい。
【0067】
なお、引き取りの際に実質的に無延伸とするのは、ダイシング後に行うフイルムの拡張を有効に行うためである。この実質的に無延伸とは、無延伸、或いは、ダイシングフイルムの拡張に悪影響を与えない程度の僅少の延伸を含むものである。通常、フイルム引き取りの際に、たるみの生じない程度の引っ張りであればよい。
【0068】
3.ダイシングフイルム
上記により得られるダイシング用基体フイルムは、そのフイルム上に公知のアクリル系粘着剤等をコートして粘着剤層が形成され、さらに必要に応じ該アクリル系粘着剤層(粘着剤層)上に離型フイルムが設けられて、ダイシングフイルムが製造される。つまり、ダイシング用基体フイルムのA層上に、アクリル系粘着剤層及び離型フイルムが形成される。
【0069】
アクリル系粘着剤層で用いられる粘着剤成分としては、公知のものが用いられ、例えば、特開平5−211234号公報等に記載された粘着剤成分を用いることができる。なお、離型フイルムも公知のものが用いられる。
【0070】
アクリル系粘着剤の具体的例としては、(メタ)アクリル酸エステルを主たる構成単量体単位とする単独重合体および共重合体から選ばれたアクリル系重合体、その他の官能性単量体との共重合体、およびこれら重合体の混合物が用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどが好ましく使用できる。アクリル系重合体の分子量は、1.0×10〜10.0×10であり、好ましくは、4.0×10〜8.0×10である。
【0071】
また、上記のような粘着剤層中に放射線重合性化合物を含ませることによって、ウエハを切断分離した後、該粘着剤層に放射線を照射することによって、粘着力を低下させることができる。このような放射線重合性化合物としては、たとえば、光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる(例えば、特開昭60−196956号公報、特開昭60−223139号公報等)。
【0072】
具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレートなどが用いられる。
【0073】
さらに、放射線重合性化合物として、上記のようなアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有するアクリレートあるいはメタクリレートを反応させて得られる。このウレタンアクリレート系オリゴマーは、炭素−炭素二重結合を少なくとも1個以上有する放射線重合性化合物である。
【0074】
さらに、粘着剤層中には、上記のような粘着剤と放射線重合性化合物とに加えて、必要に応じ、放射線照射により着色する化合物(ロイコ染料等)、光散乱性無機化合物粉末、砥粒(粒径0.5〜100μm程度)、イソシアネート系硬化剤、UV開始剤等を含有させることもできる。
【0075】
ダイシングフイルムは、通常テープ状にカットされたロール巻き状態で取得される。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明を、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0077】
実施例1〜9、比較例1〜6
(樹脂組成物の製造)
表1に示すそれぞれの原料を表1に示す配合割合でドライブレンドし、樹脂組成物とした。なお、表1中に記載された原料は、次の通りである。
【0078】
<ポリプロピレン系樹脂>
サンアロマーPC412A(プロピレン単独重合体、MFR:2.3g/10分(230℃)、融点:160℃、サンアロマー(株)製)。
【0079】
<ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体の水添物>
SEBS(スチレン−ブタジエン共重合体水素添加物、MD6945(商品名)、MFR:3.0g/10分(230℃)、クレイトンポリマージャパン(株)製)
SEPS(スチレン−イソプレン共重合体水素添加物、ハイブラー7311(商品名)、比重:0.89、MFR:2.0g/10分(230℃)、(株)クラレ製)
【0080】
<オレフィン系熱可塑性エラストマー>
ゼラスZT813 (ポリプロピレン系樹脂成分に、プロピレンとエチレンとの共重合体ゴムが微分散している海−島構造を有する熱可塑性エラストマー、三菱化学(株)製)。
ゼラス7023 (ポリプロピレン系樹脂成分に、プロピレンとエチレンとの共重合体ゴムが微分散している海−島構造を有する熱可塑性エラストマー、三菱化学(株)製)。
【0081】
(グラインド用基体フイルムの製造)
A層用樹脂組成物、B層用樹脂組成物及びC用樹脂組成物をこの順でバレル温度180〜220℃の多層押出機に供給した。230℃のTダイスから押出し、設定温度40℃の引き取りロールにて冷却固化して、無延伸の状態で巻き取った。得られたフイルムのそれぞれの層の厚みは、表1に示す通りである。
【0082】
実施例1〜9及び比較例1〜6で得られたフイルムについて、下記評価方法で評価を行った。その結果を表1に示す。
【0083】
評価方法
(各層の膜厚測定)
上記実施例1〜9及び比較例1〜6で得られた多層フイルムの任意の箇所において、幅方向に5箇所から、5つの測定サンプルをとった。各測定サンプルについて、マイクロメータを用いて、フイルムの総厚みを測定した。
【0084】
その後、各測定サンプルをミクロトームでカットし、フイルムの断面観察ができるようにした。フイルム断面を偏光顕微鏡にて観察し、A層〜C層の厚み比率を測定した。それぞれ測定サンプルの総厚みと各層の厚み比率より、A層〜C層のそれぞれの厚みを算出した。5つの測定サンプルから測定された各層の厚みについて、平均値を求めた。
【0085】
(切削屑の評価方法)
上記実施例1〜9及び比較例1〜6で得られた多層フイルムの一部を直径180mmの大きさの円形にカットして測定用試料とし、研削装置((株)ディスコ製 AUTOMATIC DICING SAW DAD-2H/6)にセットし、以下の条件で基体フイルムへの切削を行った。
切削条件;
回転数:30,000rpm
速度:80mm/sec
カットモード:10mm□のフルオートダイシング
カット深さ:100μm
ブレード:(株)ディスコ製 B1A801 SDC 400N50M51(外径56mm×厚み0.2mm×内径40mm)
水量:1.2L/min
【0086】
次に試料を研削装置から取り外し、クリーンブース内で24時間常温乾燥させた後、デジタルマイクロスコープ(VHX−100、(株)キーエンス製)を用いて、倍率150倍で切削屑の有無の評価を行った。評価は、試料の表面を任意に10箇所観察し、以下の評価基準により評価した。
○:切削屑が全くない。
×:切削屑がわずかでもあると認められる。
【0087】
(エキスパンド性の評価方法)
得られたダイシングシート用基体フイルムを300mm×300mmの大きさにカットし試料片とする。次に、試料片の全面に10mm×10mmの格子状に線を入れる。中央部に直径200mmの穴の空いた2枚の枠を用意し、穴の位置が丁度重なるように、前記試験片を間に挟んで、試験片が動かないように固定する。その後、この枠を水平に固定する。この枠の下側、穴の中央部に外径150mm、内径140mmの円筒をセットする。次にこの円筒を200cm/分の速度で40mm押し上げることにより、該試料を拡張する。そして、この押し上げた状態で中央に位置している格子の縦方向と横方向の長さを測定し、原試料に対する各々の伸度(%)を求め、その伸度の比率を算出し、以下の評価基準により評価した。
○:比率が1.3以下(拡張性が優れる)。
×:比率が1.3を超える(拡張性なし)。
【0088】
(ブロッキングの評価方法)
得られたダイシングシート基体フイルムの任意の場所から、たて100mm×よこ30mm(フイルムの流れ方向をたて方向、幅方向をよこ方向としてサンプルを切り出した)の大きさに測定用サンプルを2枚切り出した。2枚の測定用サンプルを、同一面(冷却ロールと接する面)同士がたて40mm×よこ30mmの面積で重なり合うようにし、この重なり合った測定用サンプルを2枚のガラス板で挟み、その上から、サンプルが重なり合っている部分に600gの重りをのせた。これを40℃の恒温槽の中に入れ、7日間放置した。7日後、恒温槽より取り出したサンプルを、新東科学(株)製剥離試験器(Peeling TESTER HEIDON−17)にセットし、引張り速度200mm/分で、180度せん断剥離強度を測定した。測定値が、4.9N/10mm以下であれば、ブロッキングなしとした。
【0089】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層/B層/C層の順に積層されてなるダイシング用基体フイルムであって、
A層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含む樹脂組成物からなり、
B層は、ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含む樹脂組成物からなり、
C層は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含む樹脂組成物からなる、
ダイシング用基体フイルム。
【請求項2】
前記ダイシング用基体フイルムの全厚さが50〜300μmであり、ダイシング用基体フイルムの全厚さに対し、A層の厚さが5〜40%であり、B層の厚さが20〜90%である請求項1に記載のダイシング用基体フイルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイシング用基体フイルムのA層上にさらに粘着剤層を有するダイシングフイルム。
【請求項4】
A層/B層/C層の順に積層されてなるダイシング用基体フイルムの製造方法であって、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物30〜80重量%及びポリプロピレン系樹脂70〜20重量%を含むA層用樹脂組成物、
ポリプロピレン系樹脂0〜20重量%及びオレフィン系熱可塑性エラストマー100〜80重量%を含むB層用樹脂組成物、及び
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体又はその水添物0〜40重量%及びポリプロピレン系樹脂100〜60重量%を含むC層用樹脂組成物を、
A層/B層/C層の順に共押出成形することを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2011−23632(P2011−23632A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168701(P2009−168701)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】