説明

テトラチアフルバレン誘導体

【課題】テトラチアフルバレン誘導体よりイオン化ポテンシャルが深い特定構造のテトラチアフルバレン誘導体、有機電子デバイスの提供。
【解決手段】一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテトラチアフルバレン誘導体に関するものであり、また、この新規テトラチアフルバレン誘導体を用いた有機電子デバイス、例えば有機TFT、エレクトロクロミックディスプレイ、ELディスプレイ、有機半導体材料、電荷輸送材料用素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テトラチアフルバレン(TTF)とその誘導体は強い電子供与性を有する分子であり、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)のような電子受容体分子と電荷移動錯体を形成し、金属的な導電性を示す。また、この電荷移動錯体は他にも多くの応用が期待されており、有機超伝導体、有機磁性体、有機エレクトロクロミック材料、有機エレクトロルミネッセンス材料等が挙げられる。
また近年、有機半導体を用いた薄膜トランジスタが注目されている。従来のシリコンを用いた薄膜トランジスタの製造プロセスは、真空や蒸着などの工程が必要であり、非常に高い製造設備が必要となる欠点があった。しかし、有機半導体を用いたトランジスタの製造プロセスは、有機半導体材料を溶媒に溶解することでインク化し、印刷プロセスによるオンデマンドなトランジスタの作製により、低コスト化が可能となる。さらに、有機半導体を用いた印刷プロセスにより電子回路の大面積化やフレキシブルデバイスなどの製造が可能となる。
従来報告されているTTF誘導体を用いた薄膜トランジスタは、有機半導体の中でも高い電界効果移動度が確認されている。非特許文献1から2のように、溶媒に溶解させたTTF誘導体から結晶を作製し、ソース−ドレイン電極間にこの結晶を置くことにより有機半導体層を作製し、トランジスタ特性を測定している。この有機半導体層としてDB−TTFを用いた薄膜トランジスタは高い移動度が確認されている。しかしながら、薄膜トランジスタの有機半導体層に単結晶を置くことにより、素子を作製するプロセスは、産業上の利便性を考慮したプロセスにおいて現実的ではない。さらに、一般的なTTF誘導体はイオン化ポテンシャルが浅く、大気安定性に乏しい。
非特許文献3及び特許文献1ではDB−TTF及びDN−TTFのイオン化ポテンシャル改善のために、窒素原子を含有した分子構造が提案されている。窒素原子を含有する前のDB−TTF及びDN−TTFと比較すると、イオン化ポテンシャルの値は改善されているが、移動度の値は大きく低下している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みて、高移動度を保持しながら従来のテトラチアフルバレン誘導体よりイオン化ポテンシャルが深い特定構造のテトラチアフルバレン誘導体を提供し、また、これを用いた有機電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の構造を有するテトラチアフルバレン誘導体を有機電子デバイスとして用いることが上記目的に対して有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、下記の(1)〜(3)によって解決される。
(1)「一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体
【0005】
【化1】

(式中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜Rは水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていてもよい。Y及びYは下記一般式(II)から(III)で表わされる構造であり同一でも異なっていてもよい。)
【0006】
【化2】

【0007】
【化3】

(式中、R〜R18は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていてもよい。nは1から3までの整数を表わす。ただし、nが2または3においてR17及びR18はそれぞれ独立しており同一でも異なっていてもよい。)」、
(2)「少なくとも前記第(1)項に記載のテトラチアフルバレン誘導体を含有する有機膜」、
(3)「少なくとも前記第(1)項に記載のテトラチアフルバレン誘導体を含有する有機トランジスタ」。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機電子デバイスに有用なテトラチアフルバレン誘導体、及びこれを用いた有機電子デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の有機薄膜トランジスタの概略図である。
【図2】ビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンのIRスペクトルを示す。
【図3】ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンのIRスペクトルを示す。
【図4】ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンの蒸着膜の面外X線パターンを示す。
【図5】ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンの蒸着膜の面内X線パターンを示す。
【図6】ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンを用いた薄膜トランジスタの伝達特性を示す。
【図7】ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンを用いた薄膜トランジスタの出力特性を示す。
【図8】ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンを用いた薄膜トランジスタのチャネル領域のSEM画像である。
【図9】ビス{6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノアントラ)[2,3−d]}テトラチアフルバレンのIRスペクトルを示す。
【図10】ビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレンのIRスペクトルを示す。
【図11】ビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレンを用いた薄膜トランジスタの伝達特性を示す。
【図12】ビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレンを用いた薄膜トランジスタの出力特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴の一つは、一般式(I)で表わされるテトラチアフルバレン誘導体である。
テトラチアフルバレン構造は、ヘテロ環部位のπ電子が7πであり、1個の電子を放出してヒュッケル則を満たす6πになりやすい、つまりテトラチアフルバレン構造は良好なドナー性を示す。このドナー性により、ラジカルカチオンになりやすく、さらにそのラジカルカチオンの状態で安定であり、P型半導体材料として好適である。しかしながら、このドナー性によりイオン化ポテンシャルの値が低く、酸素に対する耐久性に乏しい。一般式(I)で記載される材料は従来のテトラチアフルバレン誘導体と比較して、分子の共役系を拡張した分子構造になっている。共役系を拡張することにより、テトラチアフルバレンのドナー性を弱める可能性が示唆される。つまり、イオン化ポテンシャルが高くなり、劣化の要因となる酸素に対して従来のテトラチアフルバレン誘導体と比較して安定性が上がる。さらに、分子の共役系を拡張することは、電子移動のパスの面積が広くなり良好な電子及びホール輸送が期待される。
【0011】
本発明の新規テトラチアフルバレン誘導体の具体例を以下に示す。
前記一般式(I)中の、R〜R26としては、以下のものを挙げることができる。
【0012】
水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基またはアルコシキ基もしくはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていてもよい。
置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素数が1以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、これらのアルキル基は更にハロゲン原子(たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、シアノ基、フェニル基又は直鎖乃至分岐のアルキル基で置換されたフェニル基を含有してもよい。
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはチオアルコキシ基である場合は、上記アルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0013】
さらに、詳細な本発明の誘導体を示す。
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
【化9】

【0020】
【化10】

【0021】
【化11】

【0022】
【化12】

【0023】
【化13】

【0024】
[テトラチアフルバレン誘導体の合成]
上記(1)から(11)テトラチアフルバレン誘導体は下記の(合成経路1)によって製造できる。
【0025】
【化14】

上記第3段階記載の「DDQ」は2,3−dichloro−5,6−dicyano−1,4−benzoquinoneの略。
【0026】
第1段階から第3段階の反応は文献J. Org. Chem. 1994, 59, 6519-6527, 文献Chem. Commun. 1998, 361-362, 文献Chem. Commun. 1998, 2197-2198, 文献Tetrahedron Letters 2000, 41, 2091-2095に記載された方法を参考にした。
【0027】
第4段階の反応において合成される(1−A)は、ジエノフィルである(1−4)と、一般式(III)に表わした分子構造に対応したジエンによるDiels−Alder反応によって得られる。このDiels−Alder反応はジエノフィルのLUMOとジエンのHOMOのエネルギー差が反応性に関わってくる。そのエネルギー差が小さければ反応性は高く、エネルギー差が大きいほど反応性は低くなる。ジエノフィルのLUMOとジエンのHOMOのエネルギー差が大きい場合は、反応性の向上のためルイス酸を触媒として加えることが望ましい。ルイス酸がジエノフィルである(1−4)のカルボニル酸素に配位し、LUMOの準位を下げDiels−alder反応を促進させる。
【0028】
本反応に用いられるルイス酸としては三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化第一スズ、塩化第二スズ、四塩化チタン、塩化亜鉛、またはN−(トリメチルシリル)ビス(トリフルオロメタンサルフォニル)イミド等が用いられる。
【0029】
第5段階の反応はカルボニルを金属水素化物により還元しアルコールに変換する。
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化シアノホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、ボラン錯体、トリエチルシラン、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化ホウ素亜鉛、または、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム等を用いることができる。
【0030】
第6段階の反応は分子内脱水により、(1−C)を得た。
第7及び8段階の反応は文献J.Org.Chem.,2000,65,5794−5805に記載のように、チオン体(1−D)経て、カップリング反応により(1−E)を製造した。
また、一般式(II)であらわされるテトラチアフルバレン誘導体は第9段階目の反応のように(1−E)を熱処理し、逆Diels−Alder反応により製造することができる。
【0031】
上記(12)から(22)テトラチアフルバレン誘導体は下記の(合成経路2)によって製造できる。
【0032】
【化15】

【0033】
(合成経路2)のようにビス(テトラ−n−ブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛コンプレックス(2−1)を出発原料とし、文献SYNTHSIS 1995 215−235を参考にし、(2−2)を得た。(2−2)とp−ベンゾキノンをDiels−Alder反応により付加環化し、DDQにより脱水素を行ない(2−3)を得た。(2−3)以降の反応は(合成経路1)の(1−4)からの反応と同様の手順により(13)から(24)のテトラチアフルバレン誘導体は合成される。
【0034】
上記(23)から(33)テトラチアフルバレン誘導体は下記の(合成経路3)によって製造できる。
【0035】
【化16】

「THF」は、tetrahyrdofranの略。
【0036】
(合成経路3)のようにジクロロ体(3−1)を、水硫化カリウム溶液を用いてジチオール体(3−2)に変換し、トリホスゲンを用いてチオン体とした。チオン体(3−3)以降の反応は(合成経路1)の(1−D)からの反応と同様の手順により(23)から(33)のテトラチアフルバレン誘導体は合成される。
【0037】
上記(34)から(55)テトラチアフルバレン誘導体は下記の(合成経路4)によって製造できる。
【0038】
【化17】

【0039】
ジクロロ体(4−1)から(合成経路3)と同様の手順により(34)から(55)のテトラチアフルバレン誘導体を得た。
【0040】
「トランジスタ構造」
図1の(A)〜(D)は本発明に係わる有機薄膜トランジスタの概略構造である。本発明に係わる有機薄膜トランジスタの有機半導体層(1)は、一般式で示したテトラチアフルバレン誘導体を主成分とする。本発明の有機薄膜トランジスタには、空間的に分離されたソース電極(2)、ドレイン電極(3)およびゲート電極(4)が設けられており、ゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間には絶縁膜(5)が設けられていてもよい。有機薄膜トランジスタはゲート電極(4)への電圧の印加により、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の間の有機半導体層(1)内を流れる電流がコントロールされる。
本発明の有機薄膜トランジスタは、支持体上に設けることができ、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用できる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらにはゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできるが、本発明の有機薄膜トランジスタが応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
【0041】
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルム等が挙げられる。
【0042】
「有機半導体層」
本発明に係わる有機半導体材料は、蒸着法によって薄膜を形成することができる。有機半導体材料を真空中にて加熱することにより蒸気とし、それを所望の領域に堆積させ、薄膜を形成する。また、本発明に係わる有機半導体材料は、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、ジクロロベンゼン及びキシレン等の溶剤に溶解して、支持体上に塗布することによって薄膜を形成することができる。
【0043】
これら有機半導体薄膜の作製方法としては、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられ、材料に応じて、適した上記製膜方法と、上記溶媒から適切な溶媒が選択される。
【0044】
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。
有機半導体薄膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
【0045】
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、上記テトラチアフルバレン誘導体を主成分として形成される有機半導体層は、ソース電極、ドレイン電極及び絶縁膜に接して形成される。
【0046】
「絶縁膜」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0047】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。
【0048】
さらに、上記絶縁材料を2種以上あわせて用いてもよい。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0049】
上記材料を用いた絶縁膜層の作製方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0050】
「HMDS等 有機半導体/絶縁膜界面修飾」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜と有機半導体層の接着性を向上、ゲート電圧の低減、リーク電流低減等の目的で、これら層間に有機薄膜を設けてもよい。有機薄膜は有機半導体層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
【0051】
有機分子膜としては、オクタデシルトリクロロシラン(ODTCS)やヘキサメチレンジシラザン(HMDS)等を具体的な例としたカップリング剤が挙げられる。また、高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していてもよい。
【0052】
「電極」
本発明の有機薄膜トランジスタに用いられるゲート電極、ソース電極、ゲート電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が挙げられる。
【0053】
ソース電極及びドレイン電極は、上述の導電性の中でも半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものが好ましい。また、本発明に記載されているテトラチアフルバレン誘導体を半導体層に用いた場合、電気的接点となる電極がテトラチアフルバレン誘導体とTCNQなどのアクセプター分子による電荷移動錯体から形成されることにより、効率的なキャリアの注入を得ることができる。
【0054】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0055】
「引き出し電極、保護層」
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けることができる。
【0056】
本発明の有機トランジスタは、水分、大気及びガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0057】
「応用デバイス」
本発明の有機薄膜トランジスタは、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための素子として利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0059】
〈ビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(3)の合成〉
化合物(3)の合成ルートを以下に示す。
【0060】
【化18】

【0061】
合成手順〈1〉
〈4,5−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−ジチオール−2−チオン:1−2の合成〉
水素化ホウ素ナトリウム(10.22g)に、塩化リチウム(1.00g)を溶解させたメタノール(100ml)を滴下した。その後にTHF(50ml)を入れた。−10℃に冷却後、THF(100ml)に溶解させた1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジカルボン酸ジメチル:1−1(10.0g)を滴下した。滴下終了後、氷浴で3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を氷水(1l)に注いだ。酢酸エチルで抽出を行い、飽和食塩水で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、酢酸エチルで再結晶を行い、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−ジチオール−2−チオン:1−2を収率88%で得た。NMRにより同定を行った。1H−NMR(DMSO,TMS)σ:4.45(d,2H,J=5.5Hz),5.88(t,1H,J=5.5Hz)
【0062】
合成手順〈2〉
〈4,5−ビス(ブロモメチル)−1,3−ジチオール−2−チオン:1−3の合成〉
4,5−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−ジチオール−2−チオン:1−2(5.20g)とクロロホルム(60ml)及びテトラヒドロフラン(60ml)を入れ、氷浴により冷却した。クロロホルム(60ml)に溶解した臭化リン(3.04ml)を滴下した。5℃以下で3時間攪拌し、その後、酢酸エチルにより抽出を行った。水、飽和食塩水で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、酢酸エチルで再結晶を行ない、4,5−ビス(ブロモメチル)−1,3−ジチオール−2−チオン:1−3を収率85%で得た。NMRにより同定を行なった。1H−NMR(CDCl,TMS)σ:4.33(s,4H)
【0063】
合成手順〈3〉
〈2−チオキソナフト[2,3−d][1,3]ジチオール−5,8−ジオン:1−4の合成〉
4,5−ビス(ブロモメチル)−1,3−ジチオール−2−チオン:1−3(1.10g)とヨウ化テトラエチルアンモニウム(0.38g)及びp−ベンゾキノン(2.77g)及びアセトニトリル(60ml)を入れ、1時間還流した。その後、ジクロロジシアノベンゾキノン(1.62g)を入れ、7時間還流を行なった。還流終了後、溶媒を留去し、メタノールを入れ沈殿物を濾過により回収した。メタノール、蒸留水、エーテルの順に洗浄を行い、得られた残渣をクロロホルムに溶解後、ろ過を行った。得られたろ液から再結晶を行ない、2−チオキソナフト[2,3−d][1,3]ジチオール−5,8−ジオン:1−4を収率78%で得た。NMRにより同定を行なった。1H−NMR(CDCl,TMS)σ:7.04(s,2H),8.15(s,2H)
【0064】
合成手順〈4〉
〈6,9−ジヒドロ−6,9−エタノ−2−チオキソアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−5,10−ジオン:1−5の合成〉
トルエン(300ml)に、2−チオキソナフト[2,3−d][1,3]ジチオール−5,8−ジオン:1−4(0.50g)を入れ、−78℃に冷却した。冷却後、N−(トリメチルシリル)ビス(トリフルオロメタンサルフォニル)イミド(1.34g)を加え、その後に1,3−シクロヘキサジエン(0.84g)を入れた。反応終了後、1MNaHCO水溶液を入れた。有機層を分液後、飽和食塩水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、トルエンを用いて再結晶を行い6,9−ジヒドロ−6,9−エタノ−2−チオキソアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−5,10−ジオン:1−5を収率77%で得た。
NMRにより同定を行った。1H−NMR(CDCl,TMS)σ:1.40−1.43(m,2H),1.78−1.81(m,2H),3.24−3.25(m,2H),3.32−3.35(m,2H),6.16(dd,2H,J=3.2Hz,J=4.6Hz),8.08(s,2H)
【0065】
合成手順〈5〉
〈5,10−ジヒドロキシ−5,10−ジヒドロ−6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−チオン:1−6の合成〉
メタノール(60ml)及び、THF(160ml)に、6,9−ジヒドロ−6,9−エタノ−2−チオキソアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−5,10−ジオン:1−5(0.12g)を入れ氷浴により0℃に冷却した。冷却後に水素化ホウ素ナトリウム(0.026g)を溶解させ、4時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を氷水に注ぎ沈殿物を濾別した。水で洗浄後、真空乾燥をし、5,10−ジヒドロキシ−5,10−ジヒドロ−6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−チオン:1−6を収率98%で得た。NMRにより同定を行った。1H−NMR(DMSO,TMS)σ:1.00(d,2H,J=7.3Hz),1.42(d,2H,J=7.3Hz),2.57(s,2H),2.75(s,2H),4.74(s,2H),5.16(s,2H),5.6(s,2H),7.58(s,2H)
【0066】
合成手順〈6〉
〈6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−チオン:1−7の合成〉
ピリジン(30ml)に5,10−ジヒドロキシ−5,10−ジヒドロ−6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−チオン:1−6(1.03g)を溶解させ、氷浴により0℃に冷却した。冷却後、塩化ホスホニル(0.81ml)を入れ、2時間攪拌した。反応終了後、氷水に注ぎ得られた沈殿物を濾別した。
水で洗浄後、クロロホルムに溶解した。硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィにより、6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−チオン:1−7を収率92%で単離した。1H−NMR(CDCl,TMS)σ:1.55−1.57(m,2H),1.66−1.69(m,2H),4.04−4.06(m,2H),6.56−6.57(dd,2H,J=3.1Hz,J=4.6Hz),7.54(s,2H),7.85(s,2H)
【0067】
合成手順〈7〉
〈6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−オン:1−8の合成〉
クロロホルム(90ml)に6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−チオン:1−7(0.92g)を溶解させ、酢酸に溶解した酢酸水銀を滴下した。室温で4時間攪拌した。反応終了後、セライト濾過を行い、クロロメチルで洗浄した。濾液をNaHCO水溶液、蒸留水で洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾別後、溶媒を留去し、6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−オン:1−8を収率76%で得た。
1H−NMR(CDCl,TMS)σ:1.54−1.56(m,2H),1.66−1.69(m,2H),4.03−4.06(m,2H),6.56−6.57(dd,2H,J=3.1Hz,J=4.6Hz),7.51(s,2H),7.86(s,2H)
IR(KBr)で赤外スペクトルを分析したところC=Oに由来する1718cm−1の吸収を確認した。
【0068】
合成手順〈8〉
〈ビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(3)の合成〉
6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−2−オン:1−8(0.20g)を、ホスホン酸トリエチル(2.00ml)と混合し、140℃で9時間攪拌した。反応溶液を放冷後、濾別し、メタノールで洗浄した。その後、クロロホルムで洗浄し、ビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(3)を収率67%で得た。質量分析:GC−MSm/z=281[M2+],元素分析値:C,72.21;H,3.84(実測値)C,72.82;H,4.31(計算値),IR(KBr)の測定を行い、結果を図2に示す。
【実施例2】
【0069】
実施例1で合成したビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(3)を用いて、以下の手順で、有機膜を作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板を濃硫酸に24時間浸漬させ洗浄した。洗浄済みのシリコン基板をシランカップリング剤(オクチルトリクロロシラン)のトルエン溶液(1mM)に浸漬させ、5分間超音波処理を行ない、シリコン酸化膜表面に単分子膜を形成させた。
上記で作製した基板に対して、実施例1で得られたビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(3)を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート0.1Å/s、半導体膜厚:50nm)することにより、平滑で均質な有機膜が得られた。
得られた有機膜を光電子分光装置:AC−2(理研計器社製,標準試料:金蒸着膜、照射光量5.0nW)を用いてイオン化ポテンシャルの測定を行った。測定結果よりビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(3)のイオン化ポテンシャルは4.9eVであった。
【実施例3】
【0070】
〈ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)の合成〉
化合物(1)の合成ルートを以下に示す。
【0071】
【化19】

【0072】
合成手順〈9〉
〈ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)の合成〉
ビス(6,9−ジヒドロ−6,9−エタノアントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(3)(0.20g)を、窒素通気させた三角フラスコ内に入れ、280℃に設定したホットプレートに置いた。黄色の粉末であった(3)は数分後に赤い粉末に変化しビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(1)を収率99%で得た。
元素分析値:C,71.15;H,2.77(実測値)C,71.39;H,3.20(計算値),IR(KBr)の測定を行い、結果を図3に示す。
【実施例4】
【0073】
実施例3で合成したビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)を用いて、以下の手順で、有機膜を作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板を濃硫酸に24時間浸漬させ洗浄した。洗浄済みのシリコン基板をシランカップリング剤(オクチルトリクロロシラン)のトルエン溶液(1mM)に浸漬させ、5分間超音波処理を行ない、シリコン酸化膜表面に単分子膜を形成させた。
上記で作製した基板に対して、実施例1で得られたビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート0.1Å/s、半導体膜厚:50nm)することにより、平滑で均質な有機膜が得られた。
得られた有機膜を光電子分光装置:AC−2(理研計器社製,標準試料:金蒸着膜、照射光量5nW)を用いてイオン化ポテンシャルの測定を行った。測定結果よりビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)のイオン化ポテンシャルは4.9eVであった。
上記有機膜の面外X線パターンを図4に面内X線パターンを図5に示す。
【実施例5】
【0074】
実施例3で合成したビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)を用いて、以下の手順で、図1−(D)の構造の電界効果型トランジスタを作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板を濃硫酸に24時間浸漬させ洗浄した。洗浄済みのシリコン基板をシランカップリング剤(フェニルトリクロロシラン)のトルエン溶液(1mM)に浸漬させ、5分間超音波処理を行ない、シリコン酸化膜表面に単分子膜を形成させた。
上記で作製した基板に対して、実施例1で得られたビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:上記[化4]の(1)を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート0.1Å/s、半導体膜厚:50nm)することにより、有機半導体層を形成した。
この有機半導体層上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm、チャネル幅2mm)。電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。この部分を用いて、ゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの伝達特性を図6に、出力特性を図7に示す。伝達特性の飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度(μ)算出には、以下の式を用いた。
【0075】
【数1】

(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
作製した有機薄膜トランジスタの電界効果移動度は、0.96cm/Vsであった。
作成した電界効果型トランジスタのチャネル領域のSEM画像を図8に示す。
【実施例6】
【0076】
〈ビス{6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノアントラ)[2,3−d]}テトラチアフルバレン:上記[化4]の(4)の合成〉
化合物(4)の合成は実施例1の(1−4)化合物を用いて合成を行なった。
化合物(4)の合成ルートを以下に示す。
【0077】
【化20】

【0078】
〈6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノ)−2−チオキソアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−5,10−ジオン:8−5の合成〉
トルエン(1000ml)に2−チオキソナフト[2,3−d][1,3]ジチオール−5,8−ジオン:1−4(1.87g)を入れ、−78度に冷却した。冷却後、N−(トリメチルシリル)ビス(トリフルオロメタンサルフォニル)イミド(3.06g)を加え、その後に5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサジエン(5.0g)を入れた。反応終了後、1MNaHCO水溶液を入れた。有機層を分液後、飽和食塩水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾別し、トルエンを用いて再結晶を行い6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノ)−2−チオキソアントラ[2,3−d][1,3]ジチオール−5,10−ジオン:8−5を収率70%で得た。
NMRにより同定を行った。1H−NMR(CDCl,TMS)σ:0.89(s,H),1.19(s,H),2.97−2.99(m,1H),3.22(d,2H,J=7.4Hz),3.53−3.56(m,1H),6.06(t,1H,J=6.6Hz,),6.23(t,1H,J=6.6Hz),8.08(s,2H)
得られた化合物8−5を用いて実施例1の合成手順〈5〉から〈8〉と同様な操作を行い。ビス{6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノアントラ)[2,3−d]}テトラチアフルバレン:上記[化4]の(4)を得た。NMRにより同定を行った。
1H−NMR(CDCl,TMS)σ:0.66(s,3H),1.08(s,3H),1.33(d,1H,J=6.3Hz),1.49(d,2H,J=6.3Hz),3.41−3.42(m,1H),3.86−3.87(m,1H),7.37(s,2H),7.61(s,2H)元素分析地:C,73.88;H,4.77(実測値)C,71.98;,5.23(計算値),IR(KBr)の測定を行ない、結果を図9に示す。
【実施例7】
【0079】
実施例6で合成したビス{6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノアントラ)[2,3−d]}テトラチアフルバレン:上記[化4]の(4)を用いて、実施例2と同様の手順で、有機膜を作製した。
得られた有機膜を光電子分光装置:AC−2(理研計器社製,標準試料:金蒸着膜、照射光量25nw)を用いてイオン化ポテンシャルの測定を行った。測定結果よりビス{6,9−ジヒドロ−6,9−(11,11−ジメチルエタノアントラ)[2,3−d]}テトラチアフルバレン:上記[化4]の(4)のイオン化ポテンシャルは5.0eVであった。
【実施例8】
【0080】
〈ビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレン:上記[化8]の(23)の合成〉
化合物(23)の合成ルートを以下に示す。
【0081】
【化21】

【0082】
合成手順〈10〉
〈ベンゾ[g]キノキサリン−2,3−ジチオール:3−2の合成〉
テトラヒドロフラン(100ml)に2,3−ジクロロベンゾ[g]キノキサリン:3−1(0.43g)を加え、さらに水硫化カリウム溶液:10−20%T(2.83g)を加えた。溶液を室温下で16時間撹拌した。反応溶液を蒸留水(400ml)に注ぎ、塩酸により酸性にした。析出物を蒸留水で洗浄後、クロロホルムで洗浄し、ベンゾ[g]キノキサリン−2,3−ジチオール:3−2を収率98%で得た。
NMR及びMSにより同定を行った。1H−NMR(DMSO,TMS)σ:7.48(dd,2H,J1=6.3,J2=3.2Hz),7.84(s,2H),7.91(dd,2H,J1=6.3,J2=3.5Hz)GC−MSm/z=244
【0083】
合成手順〈11〉
〈ベンゾ[g][1,3]ジチオロ[4,5−b]キノキサリン−2−オン:3−3の合成〉
テトラヒドロフラン(200ml)にベンゾ[g]キノキサリン−2,3−ジチオール:3−2(0.29g)を加え、さらにトリホスゲン(0.60)を加えた。溶液を室温下で18時間撹拌した。反応溶液を蒸留水(400ml)に注ぎ、析出物をろ過した。
その後、ろ別した析出物を蒸留水、メタノールで順次洗浄後、クロロホルムに溶解させ、カラムクロマトグラフィ(展開溶媒:クロロホルム)によりベンゾ[g][1,3]ジチオロ[4,5−b]キノキサリン−2−オン:3−3を分取した。収率は40%であった。
NMR、MS及びIRにより同定を行った。1H−NMR(DMSO,TMS)σ:7.64(dd,2H,J1=6.5,J2=3.2Hz),8.12(dd,2H,J1=6.5,J2=3.2Hz),8.59(s,2H)GC−MSm/z=270IR(KBr)で赤外スペクトルを分析したところC=Oに由来する1728cm−1の吸収を確認した。
【0084】
合成手順〈12〉
〈ビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレン:上記[化8]の(23)の合成〉
ベンゾ[g][1,3]ジチオロ[4,5−b]キノキサリン−2−オン:3−3(0.21g)を、ホスホン酸トリエチル(6.00ml)と混合し、140℃で9時間攪拌した。反応溶液を放冷後、濾別し、メタノールで洗浄した。その後、クロロホルムで洗浄し、ビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレン:上記[化8]の(23)を収率91%で得た。質量分析:GC−MSm/z=508,IR(KBr)の測定を行い、結果を図10に示す。
【実施例9】
【0085】
実施例8で合成したビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレン:上記[化8]の(23)を用いて、実施例2と同様の手順で、有機膜を作製した。
得られた有機膜を光電子分光装置:AC−2(理研計器社製,標準試料:金蒸着膜、照射光量50nw)を用いてイオン化ポテンシャルの測定を行った。測定結果よりビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレン:(23)のイオン化ポテンシャルは5.5eVであった。
【実施例10】
【0086】
実施例8で合成したビス(ベンゾ[g]キノキサリン)テトラチアフルバレン:上記[化8]の(23)を用いて、実施例5と同様の手順で、図1−(D)の構造の電界効果型トランジスタを作製した。得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの伝達特性を図11に、出力特性を図12に示す。伝達特性の飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
作製した有機薄膜トランジスタの電界効果移動度は、0.50cm/Vsであった。
【0087】
[比較例1]
【0088】
【化22】

【0089】
[化22]に記載のビスナフトテトラチアフルバレンを用いて、実施例2と同様の手順で、有機膜を作製した。
得られた有機膜を光電子分光装置:AC−2(理研計器社製,標準試料:金蒸着膜、照射光量5.0nW)を用いてイオン化ポテンシャルの測定を行った。測定結果よりビスナフトテトラチアフルバレンのイオン化ポテンシャルは4.7eVであった。
【符号の説明】
【0090】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0091】
【特許文献1】特開2007−42717号公報
【非特許文献】
【0092】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 984-985
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 2005, 86 012110
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 10142-10143

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体。
【化1】

(式中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜Rは水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていてもよい。Y及びY2は下記一般式(II)から(III)で表わされる構造であり同一でも異なっていてもよい。)
【化2】

【化3】

(式中、R〜R18は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていてもよい。nは1から3までの整数を表わす。ただし、nが2または3においてR17及びR18はそれぞれ独立しており同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
少なくとも請求項1に記載のテトラチアフルバレン誘導体を含有する有機膜。
【請求項3】
少なくとも請求項1に記載のテトラチアフルバレン誘導体を含有する有機トランジスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−248167(P2010−248167A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−319(P2010−319)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】