説明

テラヘルツ波発生器及びその調整方法

【課題】テラヘルツ波の発生効率を最大にするテラヘルツ波発生器の調整方法。
【解決手段】アレイ型光導波路11からの光学ビームを受光するアレイ型フォトダイオードPD1〜PD4と、アレイ型フォトダイオードのアレイ両端それぞれに設置された2個の調整用フォトダイオードmPD1,mPD2と、2個の調整用フォトダイオードそれぞれの調整用光学ビームmBeam1,mBeam2それぞれに連結された2個の調整用光導波路m11,m12とを備えたテラヘルツ波発生器を用いて、一方のmPD1の出力が最大となるようにアレイ型フォトダイオードに対して水平及び垂直方向にアレイ型光導波路11を移動し、mPD1の最大出力を維持しつつ、他方のmPD2の出力が一方の調整用フォトダイオードの出力と同等になるように、一方のmPD1を軸としてアレイ型光導波路若しくはアレイ型フォトダイオードのアレイを回転させて調整する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整機能付きアレイ型フォトダイオードを備えたテラヘルツ波発生器及びその調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波帯(0.1〜10THz)は、イメージング、センシング、セキュリティ、通信など多くの分野でその応用性が期待されている(非特許文献1)。テラヘルツ波は光の直進性を有するとともにプラスチック、紙、ゴム、木材、セラミックなど物質への透過性があり、安全な非破壊検査としての応用が期待されている。テラヘルツ波の発生・検出技術の飛躍的な進歩によって、その分光法であるテラヘルツ分光にも脚光が集まってきており、新しい化学センシング法としてその可能性が探求されている。また、ギガヘルツ(GHz)帯の電波に比べ高い周波数分解能があることから、イメージングの空間分解能や無線通信の通信速度を向上させることが可能となる。アプリケーションとしてIT応用(無線通信など)、農業・食品応用、セキュリティ応用(隠匿物検査、郵便物非破壊検査など)、バイオ・メディカル応用、環境計測応用、宇宙計測応用、工業応用(LSI不良解析、新材料開発など)の分野が挙げられている。
【0003】
テラヘルツ波の発生源として特に通信分野においては、大別して電子デバイスとフォトニックデバイスがある。フォトニックデバイスは広周波数帯域、同調性、安定性という利点があり(非特許文献1)、さらに、光ファイバーケーブルとの連結が容易な点に利点がある。その代表的なデバイスとして近赤外(1.3〜1.55μm)で作動し、ミリ波帯からテラヘルツ波帯をカバーするフォトダイオードがある。マイクロ波に比べ高い周波数では、デバイスのキャパシタンス(電気容量)が増加するため、高周波では発生効率が低下する。高出力化のためにキャパシタンスを小さくするには、フォトダイオードのデバイスサイズを小さくする必要がある。ところが、フォトダイオードのサイズが小さくなると光ファイバーとの連結が難しくなる。別の方法として動作電流を大きくすればある程度の高出力化が可能だが、熱によりフォトダイオードのデバイス劣化が起こる可能性が高い。
【0004】
このような問題点を考慮して、テラヘルツ波の高出力化の手法として、ミリ波帯で用いられているようなアレイ型デバイスから出力される複数の信号源をコンバイナー(合成器)により電力合成させることが考えられている(非特許文献2,3)。
【0005】
図4、図5に従来のコンバイナを利用したテラヘルツ波発生器100の例を示す。プレナー光波回路(PLC)やファイバーのような、光学ビームを導く光導波路101、光学ビームの焦点を合わせたり光学ビームの方向を制御したりするのに用いる1つ又は複数のレンズLens−1,Lens−2、アレイ型フォトダイオードPD1,PD2,PD3,PD4、電力合成回路102、フォトダイオードPD1,PD2,PD3,PD4と電力合成回路102との間にあるインピーダンス整合回路網103、そしてDCバイアスのフォトダイオード用のその他のコンポーネント、例えバイパスキャパシタ106などから構成されている。
【0006】
このような従来のテラヘルツ波発生器100では、2N個のテラヘルツフォトダイオードPD1〜PD2Nからの出力を結合させることで、出力を最大2N倍に上げることができる。すなわち、16個のフォトダイオードPD1〜PD16なら出力を16倍にできるということである。フォトダイオードPDi、電力合成回路102、そしてフォトダイオードPDiと電力合成回路102との間にあるインピーダンス整合回路網103を単一のチップ105に統合することによって、テラヘルツ波光導波路101やインピーダンス整合回路網103、電力合成回路102における経路損失を最小限に抑えることができ、また、フォトダイオード間の距離を等しく定義することも可能になるため、結果的に電力結合効率を最大にすることができる。
【0007】
しかしながら、この構成において、光導波路101(アレイ型光ファイバーあるいはプレナー型光波回路PLD)とアレイ型フォトダイオードPD1〜PD4との間の光学ビームを整列する過程で問題がある。つまり、フォトダイオードの1つの電極が、DCにおいて短絡を形成するテラヘルツ波電力合成回路102と電気的に結びついていることである。電力合成回路102の出力によって、全てのフォトダイオードPD1〜PD4から出力される光電流の総量のみを把握することができる。ミリ波に比べ、アレイ型デバイスが数十マイクロメートルと小さなテラヘルツ波デバイスの場合、いずれのデバイスも適正な照射の下で連結されているのかどうか、またどのデバイスが照射されていないのかを推定するのには不充分である。例えば、図4の4つの光学ビームBeam1〜Beam4のうち光学ビームBeam4が1個のフォトダイオードPD4とカップリングした場合でも、その他の何個のフォトダイオードが充分な照射下にあるのかということを特定できない。全てのフォトダイオードPD1〜PD4のバイアス網を分割すれば、各デバイスの光電流をチェックすることができる。しかしながら、その場合には、ワイヤーボンディング用のパッドが2N個(図4の例の場合には8個)必要となり、それらはフォトダイオードの数よりはるかに多いため、アレイ型フォトダイオードの全体の大きさが増大し、フォトダイオードアレイIC105の空間的効率が著しく低下する。
【0008】
そこで、従来、テラヘルツ波発生器としてアレイ型フォトダイオードPD1〜PD4を用いる場合、ミリ波帯に比べ個々のフォトダイオードデバイスが小さいため、光導波路101(アレイ型光ファイバーあるいはプレナー型光波回路PLC)と確実に連結されているか否かを正確に確認する手法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「テラヘルツ波新産業」、斗内政吉監修、シーエムシー出版、2011年、P238−245、「11章テラヘルツ波の情報通信利用」。
【非特許文献2】IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS、VOL.46、NO.4、P541−545、2010年。
【非特許文献3】JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、VOL.28、NO.6、P965−971、3月15日、2010年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の課題に鑑みてなされたもので、アレイ型フォトダイオードと光導波路との連結が確実に行われているか否かを確認することができ、テラヘルツ波の発生効率を最大にすることができるテラヘルツ波発生器及びその調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの特徴は、光学ビームを導くアレイ型光導波路と、前記アレイ型光導波路からの前記光学ビームを受光するアレイ型フォトダイオードと、前記アレイ型フォトダイオードのアレイ両端それぞれに設置された2個の調整用フォトダイオードと、前記2個の調整用フォトダイオードの調整用光学ビームそれぞれに連結された2個の調整用光導波路とを備え、前記2個の調整用光導波路それぞれに、前記アレイ型光導波路とは別に前記2個の調整用フォトダイオードそれぞれに調整用光学ビームを導き、前記調整用フォトダイオードの光電流と電圧をモニタリングすることで、アレイ型フォトダイオードの連結が確実に行われているか否かを確認するようにしたテラヘルツ波発生器である。
【0012】
また、本発明の別の特徴は、光学ビームを導くアレイ型光導波路と、前記アレイ型光導波路からの前記光学ビームを受光するアレイ型フォトダイオードと、前記アレイ型フォトダイオードのアレイ両端それぞれに設置された2個の調整用フォトダイオードと、前記2個の調整用フォトダイオードの調整用光学ビームそれぞれに連結された2個の調整用光導波路とを備えたテラヘルツ波発生器の調整方法であって、前記2個の調整用フォトダイオードの一方の出力が最大となるように前記アレイ型フォトダイオードに対して水平方向及び垂直方向に前記アレイ型光導波路を移動する工程と、前記一方の調整用フォトダイオードの出力を維持しつつ、前記2個の調整用フォトダイオードの他方の出力が前記一方の調整用フォトダイオードの出力と同等になるように、前記一方の調整用フォトダイオードを軸として前記アレイ型光導波路を回転させる工程とを有するテラヘルツ波発生器の調整方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のテラヘルツ波発生器によれば、2個の調整用フォトダイオードの一方の出力が最大となるようにアレイ型フォトダイオードに対して水平方向及び垂直方向にアレイ型光導波路を移動する工程と、一方の調整用フォトダイオードの出力を維持しつつ、2個の調整用フォトダイオードの他方の出力が一方の調整用フォトダイオードの出力と同等になるように、一方の調整用フォトダイオードを軸としてアレイ型光導波路を回転させる工程とにより、アレイ型フォトダイオードと光導波路との連結が確実に行われているか否かを確認することかできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の1つの実施の形態のテラヘルツ波発生器の素子レイアウト図。
【図2】上記実施の形態のテラヘルツ波発生器の調整方法の説明図。
【図3】上記実施の形態のテラヘルツ波発生器の調整方法によるステップ1〜ステップ3の各ステップでの2個の調整用フォトダイオードの出力の測定グラフ。
【図4】従来のテラヘル波発生器の素子レイアウト図。
【図5】従来のテラヘルツ波発生器の素子レイアウトの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。図1は本発明の1つの実施の形態の調整機能付きアレイ型フォトダイオードを有するテラヘルツ波発生器10を示す。この実施の形態のテラヘルツ波発生器10は、プレナー光波回路(PLC)や光ファイバーのような、光学ビームを導くアレイ型光導波路11、光学ビームの焦点を合わせたり光学ビームの方向を制御したりするのに用いる1つ又は複数のレンズLens−1,Lens−2、アレイ型フォトダイオードPD1,PD2,PD3,PD4、電力合成回路12、アレイ型フォトダイオードPD1,PD2,PD3,PD4と電力合成回路12との間にあるインピーダンス整合回路網13、そしてDCバイアスのフォトダイオード用のその他のコンポーネント、例えバイパスキャパシタ14から構成されている。
【0016】
そして本実施の形態の特徴として、アレイ型フォトダイオードPD1〜PD4の両端にさらに2個の調整用フォトダイオードmPD1,mPD2を追加し、これらの追加された調整用フォトダイオードmPD1,mPD2の調整用光学ビームmBeam1,mBeam2にも調整用光導波路m11,m12を連結している。追加された調整用光導波路m11,m12は、配列の過程において、他の光導波路11とは別に光信号を導く設定にしている。
【0017】
本実施の形態の場合、一般に2N個のフォトダイオードPD1〜PD2Nの一次元的なアレイ配列である場合、必要なのはフォトダイオードmPD1,mPD2の2個と追加された光導波路m11,m12の2本のみである。さらに、アレイ型フォトダイオードPD1〜PD4の光電流を測定せずとも、調整用フォトダイオードmPD1,mPD2の光電流Im1,Im2と電圧Vm1,Vm2をモニタリングすることで、アレイ型フォトダイオードPD1〜PD4の連結が確実に行われているかを確認することができ、テラヘルツ波の発生効率を最大にすることが可能である。
【0018】
次に、上記実施の形態のテラヘルツ波発生器10の調整方法について説明する。図2に示すように一次元的なアレイ型フォトダイオードPD1〜PD4を調整する場合を説明する。フォトダイオードPD1〜PD4、調整用フォトダイオードmPD1,mPD2は、64ミクロン間隔に6個配置してある。この配列のアレイ型フォトダイオードは、InPプロセスを用いて作成したものである。使用したレーザーは波長1.5ミクロン(サンテック社製)でカプラーを使ってプレナー型の光導波路(出力のレーザービームの間隔は127ミクロン)の両端のみから放射されている。
【0019】
図2のステップ1のように、調整用フォトダイオードmPD1の光導波路m11が給光し、光導波路ホルダーやレンズのセットを制御して、mPD1からの光電流Im1が最大に達するようにする。この段階では、光学ビームは水平X方向と垂直Y方向のみに制御される。尚、図2において、軸AX1は、アレイ型フォトダイオードPD1〜PD4のアレイ軸であり、軸AX2は光学ビームのアレイ軸である。
【0020】
次に図2のステップ2のように、もう一方の調整用フォトダイオードmPD2の光導波路m12も給光させ、レンズの倍率や光学ビームの角度を制御して、mPD1の光電流Im1を常に最大に保持しながら、mPD2の光電流Im2も最大に達するように、アレイ軸AX2方向(m)に微調整するとともに、一方の調整用フォトダイオードmPD1を軸にした回転角φを調整する。光学ビームの角度φを制御する際には、mPD1を軸に光導波路11のホルダーを回転させてもよい。
【0021】
結果を図3に示す。調整用フォトダイオードmPD1とmPD2の光電流Im1,Im2のバランス度合いを観察することが重要であり、最良の調整を実現するためには2つの光電流Im1,Im2が同等であることが理想である。図3のグラフにおいて、タイミングtAは調整用フォトダイオードmPD1に対して光電流が最大に達し、調整用フォトダイオードmPD2に対して微調整を開始したタイミングを示す。そしてタイミングtBは、調整用フォトダイオードmPD1の光電流Im1を常に最大に保持しながら、他方の調整用フォトダイオードmPD2の光電流Im2も最大に達するように微調整したタイミングを示す。
【0022】
この調整により、図2のステップ3のように、全ての光学ビームは、各フォトダイオードの最適枠内に完全に一致するか、ほぼ一致すると想定される。したがって、この段階においては、フォトダイオード配列の光電流の総量I(m1+m2)及びmPD1とmPD2の光電流Im1,Im2のバランスを観察しながら、光学ビームが正確に同調される(図3のステップ3)。
【0023】
以上のテラヘルツ発生器10に対する調整方法により、アレイ型フォトダイオードPD1〜PD4とアレイ型光導波路11との連結が確実に行われているか否かを確認することかできる。
【符号の説明】
【0024】
10 テラヘルツ波発生器
11 アレイ型光導波路
12 電力合成回路
13 インピーダンス整合回路網13
14 バイパスキャパシタ14から構成されている。
【0025】
15 アレイ型フォトダイオードIC
PD1〜PD4 アレイ型フォトダイオード
mPD1,mPD2 調整用フォトダイオード
mBeam1,mBeam2 調整用光学ビーム
m11,m12 調整用光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ビームを導くアレイ型光導波路と、
前記アレイ型光導波路からの前記光学ビームを受光するアレイ型フォトダイオードと、
前記アレイ型フォトダイオードのアレイ両端それぞれに設置された2個の調整用フォトダイオードと、
前記2個の調整用フォトダイオードの調整用光学ビームそれぞれに連結された2個の調整用光導波路とを備え、
前記2個の調整用光導波路それぞれから、前記アレイ型光導波路とは別に前記2個の調整用フォトダイオードそれぞれに調整用光学ビームを導き、
前記2個の調整用フォトダイオードの光電流と電圧をモニタリングすることで、アレイ型フォトダイオードの連結が確実に行われているか否かを確認するようにした調整機能付きアレイ型フォトダイオード。
【請求項2】
光学ビームを導くアレイ型光導波路と、前記アレイ型光導波路からの前記光学ビームを受光するアレイ型フォトダイオードと、前記アレイ型フォトダイオードのアレイ両端それぞれに設置された2個の調整用フォトダイオードと、前記2個の調整用フォトダイオードの調整用光学ビームそれぞれに連結された2個の調整用光導波路とを備えた調整機能付きアレイ型フォトダイオードの調整方法であって、
前記2個の調整用フォトダイオードの一方の出力が最大となるように前記アレイ型フォトダイオードに対して水平方向及び垂直方向に前記アレイ型光導波路を移動する工程と、
前記一方の調整用フォトダイオードの最大出力を維持しつつ、前記2個の調整用フォトダイオードの他方の出力が前記一方の調整用フォトダイオードの出力と同等になるように、前記一方の調整用フォトダイオードを軸として前記アレイ型光導波路を回転させる工程とを有する調整機能付きアレイ型フォトダイオードの調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15678(P2013−15678A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148391(P2011−148391)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】