説明

テラヘルツ電磁波発生・検出装置

【課題】 時間幅が0.1ピコ秒以下の光パルスの照射によって発生する電荷の寿命を1ピコ秒以下とすることができる電磁波放射用アンテナを提供すること。
【解決手段】 この電磁波放射用アンテナ28は、半絶縁性基板と、半絶縁性基板に形成された光伝導薄膜と、コプラナー伝送線路とを有し、コプラナー伝送線路は、一対の伝送線路電極本体と、各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極とを有し、一対の伝送線路本体は平行に配置されており、突起電極は互いに向かい合っており、向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている電流通過領域の周囲に不純物が含まれており、電流通過領域の幅は2μm以上15μm以下である。この電磁波放射用アンテナ28は、テラヘルツ電磁波発生・検出装置に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は強度の大きいテラヘルツ(THz)電磁波を発生させることができ、高速大容量での無線通信へ応用することのできるテラヘルツ電磁波発生装置に関し、あるいは半導体、誘電体等の材料評価に利用し、特にテラヘルツ帯で使用する素子を構成する材料の複素屈折率などを測定するテラヘルツ帯複素誘電率測定装置としても応用が可能である。
【背景技術】
【0002】
従来、テラヘルツ帯のような産業応用が進んでおらず、未開拓ともいえる周波数領域に対する電磁波源としては、後進波管や分子レーザーなどが用いられてきた。一方で、検出にはInSb等、固体中の電子ガスの電磁波吸収による抵抗変化を測定するホットエレクトロンボロメタが多用される。
【0003】
しかし、これらの電磁波源は周波数が離散的、或いは可変であっても周波数範囲が狭し、得られる電磁波強度も数マイクロワット(μW)程度と弱いいため、テラヘルツ帯の電磁波を1mから10mの範囲で送受信することは難しかった。
【0004】
これらの課題を解決するため、パルスレーザー励起の光伝導素子を用いた分光法が1985年頃開発された。
【0005】
この光伝導素子を用いた分光法では、光伝導素子をサブピコ秒の超短光パルスで照射すれば光キャリアの生成により瞬間的に導電性となって電流が過渡的に流れることを利用して電磁波放射を行っている。また、光パルスの照射により瞬間的に導電性となることを利用することにより放射電磁波の検出も行われている。
【0006】
光パルスを用いた例では、1THz近傍の高周波電磁波に対する試料の応答を測定するための装置として、TDS(Time Domain Spectroscopy)と呼ばれる装置(特許文献1を参照)がある。
【0007】
図4は従来のTDSの概略構成図である。この図に示すように、TDSでは、モードロックTi:Sappireレーザーなどからなる光源からの超短パルス光23をビームスプリッタ24で分割し、一方の超短パルス光25(超短パルス光を厳密に区別するため、この超短パルス光25を「第1の超短パルス光」という場合がある)を平板状の光伝導素子からなる電磁波放射用アンテナ28に照射する。この電磁波放射用アンテナ28として用いられる平板状の光伝導素子の表裏面には、電源30から電圧が印加される。パルス光25が電磁波放射用アンテナ28に照射されると、電磁波放射用アンテナ28には瞬間的に電流が流れるため、パルス電磁波32を放射する。このパルス電磁波32を第1放物面鏡31で平行化して試料34を透過させ、第2放物面鏡36により電磁波検出用アンテナ29の表面に集める。
【0008】
電磁波検出用アンテナ29の裏面はビームスプリッタ24で分割されたもう一方の超短パルス光26(超短パルス光を厳密に区別するため、この超短パルス光26を「第2の超短パルス光」という場合がある)で照射され、その瞬間(すなわち、超短パルス光26が照射した瞬間)だけ導電性となる。そのため試料34を透過して電磁波検出用アンテナ29に到達してきた電磁波35の電場を電流として検出することができる。ビームスプリッタ24から電磁波検出用光伝導素子29に到達するまでの時間を複数枚のミラーからなる光学遅延ステージ41・42(光学遅延系)で変えることにより、試料34を透過して来た電磁波35の時間波形を得ることができる。すなわち、試料34を透過して来た電磁波35と、光学遅延ステージ41・42を経由した超短パルス光26との相互相関信号を電流として検出する。
【0009】
なお、図4中、27はレンズ、30は電源、34は試料、37はカレントアンプ、38はロックインアンプ、39はオプティカルチョッパ、40は平面鏡、41はリトロリフレクタ、42は移動式光学遅延ステージ、43はコンピュータを示す。
【0010】
このTDSでは、用いられる電磁波が短パルスであるため、試料34を透過してきた電磁波波形と試料34を挿入しない場合の電磁波波形とを比較することにより、広い周波数にわたる電磁波の透過率・位相遅れを計算することができる。
【0011】
ところで、検出用光伝導素子は光パルス照射の間のパルス電磁場電場による電流を検出するが、光パルスの時間幅はパルス電磁波の時間幅よりも数十分の一程度とかなり短い。例えば光パルスは時間幅が0.1ピコ秒程度であり、パルス電磁波の時間幅はアンテナ効率が入るため数ピコ秒程度である。
【0012】
したがって、光パルスもパルス電磁波も光速で検出用光伝導素子に繰り返し入射するが、各回においてパルス電磁波の最初の部分から最後の部分までが到達する時間に比較して光パルスの照射時間は短い。そのため、光パルスが照射している間の検出用光伝導素子に流れる電流はパルス電磁波の電場のごく短い部分によるものであり、さらに光パルスとパルス電磁波とが検出用光伝導素子に到達するタイミングは時間遅延により固定されている。
【0013】
光パルスの繰り返し周波数が例えば約100MHzの場合、光パルスとパルス電磁波とが毎秒約108回検出用光伝導素子に入射してくるが、パルス電磁波の電場のごく短い部分は毎回パルス電磁波波形のうち時間遅延によって決められた部分であり、全く同じ電流が毎秒約108回流れることになる。実際の電流計はこのような速い電流の変化に追随できないため、毎秒約108回のパルス電流の平均値が測定される。したがって、パルス電磁波波形のうち時間遅延によって決められた部分が電流として測定され、さらに時間遅延をずらしていくことによりパルス電磁波波形の他の部分も測定できる。このようなテラヘルツ電磁波発生・検出装置は、今日ではその出力特性、広帯域特性ともに最も優れたテラヘルツ電磁波発生・検出手法の一つとなっている。
【特許文献1】特開2001−21503号公報
【特許文献2】特開昭62−281477号公報
【特許文献3】特開昭62−196876号公報
【特許文献4】特開昭63−012120号公報
【非特許文献1】Physical Review Letters vol.55(1985),pp.2152-2155
【非特許文献2】InfraredPhysics vol.26(1986),pp.23-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前述のTDS法はテラヘルツ帯電磁波の発生および検出を司っている光伝導素子の高周波応答に対して課題を有している。検出用光伝導素子は光パルス照射の間のパルス電磁場電場による電流を検出するが、光パルスの時間幅はパルス電磁波の時間幅よりも数十分の一程度とかなり短い。例えば光パルスは時間幅が0.1ピコ秒程度であり、パルス電磁波の時間幅はアンテナ効率が入るため数ピコ秒程度である。
【0015】
このように、用いている光パルスの時間幅が0.1ピコ秒程度と非常に高速であるにもかかわらず、実際に得られる検出パルス電磁波の時間幅はもとの光パルス時間幅の数十倍程度(すなわち、2〜5ピコ秒)まで広がってしまっていることになる。
【0016】
たとえば光伝導素子材料に低温成長GaAs(LT−GaAs)を用いた場合、時間幅が0.1ピコ秒程度の光パルスの照射によって発生する電荷の寿命は2〜5ピコ秒であることから、検出パルス電磁波の時間幅はもとの光パルス時間幅(0.1ピコ秒)の数十倍程度(2〜5ピコ秒)まで広がってしまうということはその装置の持つポテンシャルを十分に生かし切れていないことでもある。
【0017】
そこで、この発明は上記の課題にかんがみて、光伝導素子材料の有する高速応答性を十分に引き出しうるような素子構造を提案し、高出力かつ高感度であるとともに高効率なテラヘルツ帯電磁波発生・検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため、光伝導素子の電極構成において、照射される光パルスによって生じる電荷が電極間の最短距離を移動するように電流阻止領域を設け、光伝導素子材料の有する高速応答性を十分に引き出すことを可能とする。
【0019】
具体的には、第1の本発明はテラヘルツ電磁波発生・検出装置であって、
このテラヘルツ電磁波発生・検出装置は、
超短パルス光を放射する光源23と、ビームスプリッタ24と、電磁波放射用アンテナ28と、電磁波検出用アンテナ29と、光学遅延系41・42を備え、
前記光源23から放射した超短パルス光は前記ビームスプリッタ24により、第1の超短パルス光25と第2の超短パルス光26とに分割され、
前記第1の超短パルス光25が、平板状の光伝導素子からなる電磁波放射用アンテナ28に照射されることにより、前記電磁波放射用アンテナ28からパルス電磁波32が放射され、
前記電磁波放射用アンテナ28から放射されたパルス電磁波32は試料34を透過して電磁波検出用アンテナ29の表面に到達し、
前記第2の超短パルス光26は、前記光学遅延系41・42を介して電磁波検出用アンテナ29の裏面に到達し、
前記電磁波検出用アンテナ29の表面に到達した前記パルス電磁波32と前記電磁波検出用アンテナ29の裏面に到達した第2の超短パルス光26との相互相関信号を電流として検出するテラヘルツ電磁波発生・検出装置であって、
前記電磁波放射用アンテナ28は、半絶縁性基板と、前記半絶縁性基板に形成された光伝導薄膜と、コプラナー伝送線路とを有し、
前記コプラナー伝送線路は、一対の伝送線路電極本体と、前記各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極とを有し、
前記一対の伝送線路本体は平行に配置されており、
前記突起電極は互いに向かい合っており、
向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている電流通過領域の周囲に不純物が含まれており、
前記電流通過領域の幅は2μm以上15μm以下である。
【0020】
第2の本発明はこのようなテラヘルツ電磁波発生・検出装置を用いた試料の誘電率の測定方法であって、
前記試料34を前記電磁波放射用アンテナ28と前記電磁波検出用アンテナ29との間にセットする試料セット工程、および
前記試料34に向けて前記電磁波放射用アンテナ28からパルス電磁波32を放射させることにより、前記試料34を透過したパルス電磁波35を前記電磁波検出用アンテナ29の表面に到達させ、前記電磁波検出用アンテナ29の表面に到達した前記パルス電磁波35と前記電磁波検出用アンテナ29の裏面に到達した第2の超短パルス光26との相互相関信号を電流として検出するパルス電磁波放射工程、
を包含する。
【0021】
なお、上記テラヘルツ電磁波発生・検出装置およびそれを用いた試料の誘電率の測定方法において用いられる電磁波放射用アンテナ28もまた、本発明の趣旨に含まれる。
【0022】
すなわち、第3の本発明は、平板状の光伝導素子からなり、第1の超短パルス光25が照射されることにより、パルス電磁波32が放射される電磁波放射用アンテナであって、前記電磁波放射用アンテナは、半絶縁性基板と、前記半絶縁性基板に形成された光伝導薄膜と、コプラナー伝送線路とを有し、前記コプラナー伝送線路は、一対の伝送線路電極本体と、前記各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極とを有し、前記一対の伝送線路本体は平行に配置されており、前記突起電極は互いに向かい合っており、向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている電流通過領域の周囲に不純物が含まれており、前記電流通過領域の幅は2μm以上15μm以下である電磁波放射用アンテナである。
【0023】
前記第1の超短パルス光の具体的なパルス時間幅は、一例として0.1ピコ秒以下であり、前記パルス電磁波の具体的なパルス時間幅は、一例として1ピコ秒μm以下である。
【0024】
また、本発明は、以下のようにも表現され得る。
【0025】
本発明に係るテラヘルツ帯電磁波発生・検出装置は、
ビームスプリッタによって2光束に分割したパルス光と、
この分割した一方のパルス光を電圧印加した放射用光伝導素子に照射して電磁波を放射する電磁波放射手段と、
分割した他方のパルス光に時間遅延を与える遅延化処理手段と、
上記放射した電磁波を、透過又は反射してきた検出すべき電磁波と上記時間遅延した他方のパルス光とが電磁波検出用光伝導素子に同時に入射して生じる相互相関信号を、検出用の上記他方のパルス光と検出すべき電磁波との相互相関信号によって検出するテラヘルツ帯電磁波発生・検出装置において使用される光伝導素子において、
照射される光パルスによって生じる電荷が電極間の最短距離を移動するように電流阻止領域を設けていることを特徴とする。
【0026】
電極間の最小間隔を3〜10μmとし、中央位置が電極の最小間隔位置にあり、幅2〜15μmの電流通過領域を確保するように電流阻止領域が設けてられている。
【0027】
電流阻止領域は、イオン注入によって形成され得る。
【0028】
使用される材料が基板温度350℃から450℃程度の低温にてMBE法で成長される半絶縁性GaAs基板上のLT−GaAsまたはLT−InGa1−xAs0<x<0.3、半絶縁性のInP基板上のLT−In0.53Ga0.47AsまたはBeが故意に添加されているLT−In0.53Ga0.47As;Beのうちのいずれかであり得る。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電磁波放射用アンテナによれば、時間幅が0.1ピコ秒以下の光パルスの照射によって発生する電荷の寿命(すなわち、パルス電磁波の寿命)を1ピコ秒以下とすることができる。このような電磁波放射用アンテナを用いることにより、高出力かつ高感度であるとともに高効率なテラヘルツ帯電磁波発生・検出装置およびこの装置を用いた試料の誘電率の測定方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
実施の形態1
図1にLT−GaAsを用いた場合の光伝導素子を示す。この光伝導素子は、図4において参照符号28により示される電磁波放射用アンテナとして本発明のテラヘルツ電磁波発生・検出装置に組み込まれる。
【0031】
この光伝導素子は平板状であって、半絶縁性GaAs基板上にMBE法によって350℃から450℃程度の低温においてGaAs膜を1〜5μmの膜厚でエピタキシャル成長して光伝導薄膜を形成し、その後、AuGe/Ni/Au電極からなるコプラナー伝送線路を設けた構成となっている。このコプラナー伝送線路は、一対の伝送線路電極本体と、各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極とを有している。一対の伝送線路電極本体は平行になるように配置され、一対の伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極は、互いに向かい合うように形成されている。これら2つの向かい合う突起電極が、微小ダイポールアンテナを形成している。
【0032】
なお、LT−InGa1−xAs0<x<0.3、LT−In0.53Ga0.47As、LT−In0.53Ga0.47As;Beを材料として用いる場合も成長条件は同じであるが、LT−In0.53Ga0.47As、LT−In0.53Ga0.47As;Beを用いる場合には基板は半絶縁性のInP基板を用いる。
【0033】
図1にはダイポール型の電極構成を示しているがこのほかに図2に示すようなボウタイ型の電極構成もまた、よく用いられる。この図2においては、突起電極の形状が異なる。図1では突起電極は長方形であり、向かい合う2つの突起電極の間隔は一定であるが、図2では突起電極は三角形であり、向かい合う2つの突起電極の間隔は一定ではない。
【0034】
いずれの電極構成においても向かい合う2つの突起電極の最小間隔は5μmであり、ビームスプリッタ24図4参照からの超短光パルスは、向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている部分以下、この部分を「電流通過領域」というに向けて照射される。
【0035】
ここで、電流通過領域からそれた位置で発生した電荷は電極間を最短距離で走行することができないために、低速の成分が増えてしまう。
【0036】
このことを前述の検出方法によって得られるスペクトル成分に置き換えて説明すると、様々な帯域の成分を含んだスペクトル分布が低周波領域で強度が大きくなってしまい、高周波領域の強度が小さくなってしまうことになり、高周波領域での信号対雑音比が悪くなってしまう。
【0037】
そこで、図2に示すように、電流通過領域の周囲にエネルギー100〜300keV,ドーズ量1×1014〜1×1015cm−2の条件で酸素イオンを注入して、突起電極の両側に絶縁性の電流阻止領域を設ける。このときの電流通過領域はその中央位置が2つの向かい合う突起電極の最小間隔位置図1のようなダイポール型のような平行型電極の場合はその中央位置に一致する位置にあり、幅2μm以上15μm以下の領域を確保するように構成しておくことが好ましい。
【0038】
すなわち、この電流通過領域と突起電極の構成されている領域を除いた領域に、電流阻止領域を設ければよい。
【0039】
イオン打ち込み時のエネルギーは100keV以下であるとエネルギーが低すぎるため、注入ができない一方で、300keVを超すような高エネルギーでは結晶に多大な損傷を与えるため、上記範囲内のエネルギーで打ち込むことが好ましい。
【0040】
また、電流通過領域の幅が2μm未満であると、打ち込みイオンをそれ以下の幅に制御することは不可能であるため電流通過領域を意図した形状に確保することができない。一方、電流通過領域の幅を15μmを超える幅にしてしまうと、発生した電荷が散乱してしまい、突起電極間を最短距離で走行することが難しくなってしまうので好ましくない。このため電流通過領域の幅は上記範囲内であることが好ましい。なお、「電流通過領域の幅」は、図1および図2に示すように、伝送線路電極本体の長手方向(図1および図2において、図面左右方向)と同じ方向である。
【0041】
このときのイオン注入に用いる元素は酸素イオン以外にプロトン、ほう素イオンを注入することによって、絶縁化することができる。
【0042】
なお、LT−InGa1−xAs0<x<0.3、LT−In0.53Ga0.47As、LT−In0.53Ga0.47As;Beを材料として用いる場合も注入条件は同じであるが、LT−In0.53Ga0.47As、LT−In0.53Ga0.47As;Beを用いる場合に限ってはFeイオンの注入によっても同様な効果が得られる。
【0043】
このような光伝導素子の電流通過領域に超短光パルスを照射すると、従来例とは異なり、時間幅が0.1ピコ秒以下の光パルスの照射によって発生する電荷の寿命(すなわち、パルス電磁波の寿命)を1ピコ秒以下とすることができる。このような電磁波放射用アンテナを用いることにより、高出力かつ高感度であるとともに高効率なテラヘルツ帯電磁波発生・検出装置およびこの装置を用いた試料の誘電率の測定方法を提供することができる。
【0044】
(実施例)
実施の形態に従って、実際にイオン注入した光伝導素子を用いた場合の実験結果を示す。光伝導素子材料にはLT−GaAsを用いた。このLT−GaAs光伝導素子は、半絶縁性GaAs基板上にMBE法によって350℃から450℃程度の低温においてGaAs膜を3μmの膜厚でエピタキシャル成長して光伝導薄膜を形成し、次いでその表面にAuGe/Ni/Au電極からなるコプラナー伝送線路を設けた構成となっている。なお、この電極構造としては、図2に示すボウタイ型を採用した。
【0045】
また、電流阻止領域の構成にはエネルギー150keV,ドーズ量5×1014cm-2の条件で酸素イオンを注入し、電流通過領域はその中央位置が向かい合う2つの突起電極の最小間隔位置にあり、幅10μmの領域を確保するように構成した。
【0046】
図3に実験結果を示す。図3aはLT−GaAs光伝導素子を用いた場合の実験結果である。縦軸に強度を、横軸に時間軸をとった場合に得られる結果は図3に示したようなスペクトル形状であり、電流阻止領域を設けることによって時間軸上のスペクトル線幅が細くなっていることがわかる。このことは周波数表示に変換した場合に高周波領域の強度が大きくなっていることを意味している。
【0047】
図3aで得られた結果をフーリエ変換することによって発生している電磁波のスペクトル分布表示縦軸:強度、横軸:周波数に変換することができ、図3bに示したようなスペクトル分布が得られる。すなわち、電流阻止領域がない場合には、周波数が約0.1THzのところにパルス電磁波の強度のピークが生じるのに対して、電流阻止領域がある場合には、周波数が約0.5THzのところにパルス電磁波の強度のピークが生じる。
【0048】
図3bに示したように電流阻止領域を設けることにより高周波領域本明細書において、高周波領域とは、1THz以上の周波数領域をいうのスペクトル成分が増え、高出力かつ高効率なテラヘルツ帯電磁波の発生および検出が実現した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、高出力かつ高効率なテラヘルツ帯電磁波の発生・検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】テラヘルツ帯電磁波発生・検出装置に係るダイポール型光伝導素子を示した図
【図2】本発明のテラヘルツ帯電磁波発生・検出装置に係る実施の形態の概略構成図で、光伝導素子のボウタイ型電極構造に対する電流阻止領域を示した図
【図3】aこの発明に係る遅延時間に対する電流信号を示すグラフbaのデータから計算されたスペクトル分布を示すグラフ
【図4】従来のTDSの概略構成図
【符号の説明】
【0051】
24 ビームスプリッタ
27 レンズ
28 電磁波放射用光伝導素子
29 電磁波検出用光伝導素子
30 電源
31,36 放物面鏡
34 試料
38 ロックイン増幅器
39 光チョッパ
40 平面鏡
41 リトロリフレクタ
42 移動ステージ
43 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短パルス光を放射する光源と、ビームスプリッタと、電磁波放射用アンテナと、電磁波検出用アンテナと、光学遅延系を備え、
前記光源から放射した超短パルス光は前記ビームスプリッタにより、第1の超短パルス光と第2の超短パルス光とに分割され、
前記第1の超短パルス光が、平板状の光伝導素子からなる電磁波放射用アンテナに照射されることにより、前記電磁波放射用アンテナからパルス電磁波が放射され、
前記電磁波放射用アンテナから放射されたパルス電磁波は試料を透過して電磁波検出用アンテナの表面に到達し、
前記第2の超短パルス光は、前記光学遅延系を介して電磁波検出用アンテナの裏面に到達し、
前記電磁波検出用アンテナの表面に到達した前記パルス電磁波と前記電磁波検出用アンテナの裏面に到達した第2の超短パルス光との相互相関信号を電流として検出するテラヘルツ電磁波発生・検出装置であって、
前記電磁波放射用アンテナは、半絶縁性基板と、前記半絶縁性基板に形成された光伝導薄膜と、コプラナー伝送線路とを有し、
前記コプラナー伝送線路は、一対の伝送線路電極本体と、前記各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極とを有し、
前記一対の伝送線路本体は平行に配置されており、
前記突起電極は互いに向かい合っており、
向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている電流通過領域の周囲に不純物が含まれており、
前記電流通過領域の幅は2μm以上15μm以下である、
テラヘルツ電磁波発生・検出装置。
【請求項2】
前記第1の超短パルス光のパルス時間幅は0.1ピコ秒以下であり、前記パルス電磁波のパルス時間幅は1ピコ秒μm以下である、請求項1に記載のテラヘルツ電磁波発生・検出装置。
【請求項3】
テラヘルツ電磁波発生・検出装置を用いた試料の誘電率の測定方法であって、
前記テラヘルツ電磁波発生・検出装置は、
超短パルス光を放射する光源と、ビームスプリッタと、電磁波放射用アンテナと、電磁波検出用アンテナと、光学遅延系を備え、
前記光源から放射した超短パルス光は前記ビームスプリッタにより、第1の超短パルス光と第2の超短パルス光とに分割され、
前記第1の超短パルス光が、平板状の光伝導素子からなる電磁波放射用アンテナに照射されることにより、前記電磁波放射用アンテナからパルス電磁波が放射され、
前記電磁波放射用アンテナから放射されたパルス電磁波は電磁波検出用アンテナの表面に到達し、
前記第2の超短パルス光は、前記光学遅延系を介して電磁波検出用アンテナの裏面に到達し、
前記電磁波放射用アンテナは、半絶縁性基板と、前記半絶縁性基板に形成された光伝導薄膜と、コプラナー伝送線路とを有し、
前記コプラナー伝送線路は、一対の伝送線路電極本体と、前記各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極とを有し、
前記一対の伝送線路本体は平行に配置されており、
前記突起電極は互いに向かい合っており、
向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている電流通過領域の周囲に不純物が含まれており、
前記電流通過領域の幅は2μm以上15μm以下であって、
前記測定方法は、
前記試料を前記電磁波放射用アンテナと前記電磁波検出用アンテナとの間にセットする試料セット工程、および
前記試料に向けて前記電磁波放射用アンテナからパルス電磁波を放射させることにより、前記試料を透過したパルス電磁波を前記電磁波検出用アンテナの表面に到達させ、前記電磁波検出用アンテナの表面に到達した前記パルス電磁波と前記電磁波検出用アンテナの裏面に到達した第2の超短パルス光との相互相関信号を電流として検出するパルス電磁波放射工程、
を包含する。
【請求項4】
前記第1の超短パルス光のパルス時間幅は0.1ピコ秒以下であり、前記パルス電磁波のパルス時間幅は1ピコ秒μm以下である、請求項3に記載のテラヘルツ電磁波発生・検出装置を用いた試料の誘電率の測定方法。
【請求項5】
平板状の光伝導素子からなり、第1の超短パルス光が照射されることにより、パルス電磁波が放射される電磁波放射用アンテナであって、
前記電磁波放射用アンテナは、
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板に形成された光伝導薄膜と、
コプラナー伝送線路と
を有し、
前記コプラナー伝送線路は、
一対の伝送線路電極本体と、
前記各伝送線路電極本体からそれぞれ突出する突起電極と
を有し、
前記一対の伝送線路本体は平行に配置されており、
前記突起電極は互いに向かい合っており、
向かい合う2つの突起電極の間隔が最小となっている電流通過領域の周囲に不純物が含まれており、
前記電流通過領域の幅は2μm以上15μm以下である、
電磁波放射用アンテナ。
【請求項6】
前記第1の超短パルス光のパルス時間幅は0.1ピコ秒以下であり、
前記パルス電磁波のパルス時間幅は1ピコ秒μm以下である、請求項5に記載の電磁波放射用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−10319(P2006−10319A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183270(P2004−183270)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】